著者
高橋 昭
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.133-142, 1977-12-01

近年,日本産Neope属は2種の独立種に分離されたが,この両者に対して用いられるべき学名については未検討のままである.筆者は,これら日本産Neope 2種に関するすべての原記載と,British Museum (Natural History)所蔵のButlerが記載したN. niphonica, N. japonicaのダイプ標本を検討し,サトキマダラヒカゲにはN. goschkevitschiiの学名を,ヤマキマダラヒカゲにはN. niphonicaの学名を用いるのが正しいと結論した.N. goschkevitschiiの原記載には,タイプ標本をGoschkevitschが採集したことが記されているので,彼の足跡を歴史的に検討すると,1854年12月4日に下田港に到着し,12月23,24日の両日におきた安政地震と津波でDiana号が大破したため,1855年7月14日まで伊豆半島(主として下田,戸田(へだ))に滞在したことが明らかとなった.Menetriesの原著には図版が添付されており,この図から,N. goschkevitschiiは明らかにサトキマダラヒカゲ春型♂と判断され,本種のタイプ標本は1855年の春に伊豆半島(下田,戸田またはその近傍)で採集されたものと思われる.
著者
Inoue Hiroshi
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.159-171, 1980-01-20

Pelosia angusta(STAUDINGER)ネズミホソバ(チビホソバ) 北海道東部で多数とれている本種と同種ではあるが,小型でやや黒っぼい♂が隠岐でとれており,これが,長いあいだ正体不明となっていたIlema okiensis MIYAKEの記載と一致するので,本文で異名とした.樺太のP. sachalinensis MATSUMURAは,北海道やアムールの本種とまったく同じである.私はまだ♀を検していない. Tigrioides immaculata (BUTLER)ナガサキムジホソバ 私(1961)はDANIEL (1954)の同定を信じて,本邦南西部の買Tigrioidesをkobayashiiという新種としたが,台湾から記載されたBUTLERの夕イプ標本(♀)の交尾器を検したところ,kobayashliiは異名であることがわかった.伊豆半島以南に産し,屋久島にまで分布している.Tigrioides pallens INOUE リュウキュウムジホソバ(新称) 前種より翅が少し細く,前翅の脈相も異る.交尾器にも大きなちがいがある.沖縄,石垣島,西表島に多産し,前種と分布が重っていない.Miltochrista sauteri STRAND タイワンスジべニコケガ 岸田,1978,月刊むし 90:27, fig. 15,によって図示され,表記の和名が与えられたが,M. orientalis DANIELは異名となる.M. sauteri ab. fuscozonata MATSUMURAは,次の新種で,上に引用した岸田のFigs. 15a-15cがこれに当る.Miltochrista fuscozonata INOUE ソトグロスジべニコケガ(新称) M. striata (BREMER & GREY)スジべニコケガや前種ほど濃厚な赤色でなく,前翅横線が太く,外横線より外にある脈上の暗色線が太く,しばしばゆう合して全体に暗くなっている.本種も前種も台湾にごく普通だが,日本に多いスジべニコケガは台湾から未発見.miltochrista aberrans okinawana MATSUMURA ハガ夕べニコケガ(オキナワべニコケガ) 奄美大島,徳之島,沖縄産は,小型で,鋸歯状の外横線が消えやすいし,前翅中央部が黄色くない.石垣島と西表島のものは,むしろ横線が太く強い傾向がある.琉球の亜種については,更に多くの標本によって調べる必要がある.私(1965)がM. convexa WILEMANアミメべニコケガとして琉球から記録したのは,同定の間違いであった.Neasura melanopyga(HAMPSON) ムモンウスキコケガ 私(1965)がN. hypophaeola HAMPSONとして記録したのは間違い.台湾から記載された本種は,南西諸島に広く分布している.Chamaita ranruna (MATSUMURA)スカシコケガ(ラソルンヒメホソバ) 私(1961)が本州と四国の標本で記載したCh. diaphana INOUEは,台湾の本種とまったく同じである.そのご茨城県鹿島(目下わかっている北限),奄美大島,西表島でとれている.山本, 959,原色昆虫大図鑑 1:101, pl. 60:23,のSchistophleps bipuncta HAMPSONウスバフタスジコケガのうちbは本種の間違い.Hemipsilia coavestis(HAMPSON) キイロコケガ(改称)(フンキホソバ) Nudaria punkikonis MATSUMURAを本文で異名として整理した.台湾の中部山地に多い. Palaeopsis suffusa (HAMPSON) シラキコケガ(改称)(シラキホソバ) Nudaria shirakii MATSUMURAを本文で異名として整理した.本種も台湾の中部山地に多い. Palaeopsis unifascia INOUE ウスバチビコケガ(新称) 日本で発見されたコケガのなかで最も小型.翅は白く半透明で,前翅に褐色の内外横線があり,後者は強く外方に湾曲している.福岡県でとれた1♂は,やや大きく,前翅中央部と後翅の基半を除き,淡黒褐色をしている.そのほか屋久島と口永良部島でとれた少数の個体しか知られていない.Metaemene hampsoni WILEMANアトジロコヤガ(改称)(カレンコウアトジロコケガ) ヒトリガ科コケガ亜科のParasiccia karenkonis MATSUMURAは,ヤガ科コヤガ亜科のもとに同じ台湾から記載された表記の種と同種である.私(1965)はこれを西表島から記録したが,そのご沖縄のも入手した.琉球産は台湾のものより小型だが,検した標本が2つしかないので,亜種の問題は保留したい.本種の前翅にはMetaemeneのような小室がないので,分類上の位置については,更に検討を要する.
著者
上原 二郎 吉田 豊和
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.251-254, 1995-01-20
被引用文献数
2

Euthalia byakko sp. n.♂.前翅長51-52mm.翅形:前翅,前縁は滑らかに湾曲する;外縁は第4脈付近でやや抉れ,各翅脈端で突出し鋸歯状を呈する;後縁は直線状.後翅,前翅同様外縁は各翅脈端で突出し鋸歯状を呈し,とりわけ第4脈端が顕著に突出する.表面:前翅,地色は暗緑褐色;基部付近の本属特有の環状斑群は明瞭;外中央白紋列はよく発達し,とりわけ第5室紋は長く特異;各白色紋は黒色に縁どられる;前縁には白色鱗が侵入しない;亜翅端部の白色紋は明瞭で外中央白紋列に接近する;第7室に白色鱗が僅かに侵入する;亜外縁部第2室から6室まで黒色のくさび型紋列があり,第1b室に黒色の2つのだ円形紋がある;縁毛は白色で翅脈端は黒色.後翅,地色は暗緑色で前縁部はやや青味がかる;中室端の2本の黒条はよく目立つ;外中央白紋列は弧を描きながら内縁に向かい,徐々に狭まる;各白色紋は矢尻型で黒色に縁どられる;外中央白紋列の外側には淡青色帯がある;亜外縁部には第1b室から4室にかけて半円形,第5室から7室にかけて円形の黒色紋列を有す;外縁は黒色;縁毛は前翅同様白色で翅脈端は黒色.裏面:前後翅の地色は淡緑青色,外半分は黄土色条が各翅脈上に現われる;外中央白紋列は表面と同様だが後翅第1b室にも小斑が現われる;亜外縁部にはくさび型の黒色紋列が有る;後翅,基部の不正形環状斑は明瞭.翅脈:後翅中室端は弱く閉じる.触角:表面は黒色;裏面黒褐色;先端に黄褐色部はない.♂ゲニタリア:uncusは中間部が太くなり先細る;valvaは細長く,先端部分は刺があり外方向に巻いてよじれる.♀.未知 分布.ラオス北部. 完模式標本. ♂,Oudomxay, Laos, 27. IV.1994(上原二郎採集),上原二郎所蔵.副模式標本.1♂, Oudomxay, Laos, 27. IV.1994(吉田豊和採集),吉田豊和所蔵.近似種との区別.本種は前翅表面外中央部の縦に伸びる白帯が前縁に近づく程広がるという,きわめて特異な斑紋パターンを有しており,本属のいかなる種とも一見して区別しうる.また,交尾器の形態から本属の中では,Euthalia durga(Moore,[1858])に近縁と考えられるが,本種は次の諸点で区別出来る.1)前翅表面亜翅端部の白色紋列と外中央白紋列が接近する,2)前翅表面前縁に白色鱗が侵入しない,3)前翅表面第7室には白色鱗が侵入する,4)外縁が著しく鋸歯状になる,5)後翅表面外中央白帯は弧を描きながら内縁に向かう,6)valvaの先端は腹方に垂下した形の突起物はなく,外方向に巻いてよじれる.種名byakkoは白虎の意.謝辞.本記載をするにあたり,御指導いただいた猪又敏男,植村好延,長田志朗,増井暁夫の各氏に御礼申し上げます.
著者
高橋 真弓
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.107-110, 1976-10-01

南米コロンビアのサンタ・マルタ山群において採集されたジャノメチョウ科のPronophilini 2種の記録を報告する.Sabatoga nevada (Kruger)は,この山群西北部のセロ・ケマードの高地帯のダケの1種やィネ科草木をまじえる灌木原で,Lymanopoda caeruleata Godman & Salvinは,同山群西北部のサン・ロレンソおよび東南部のドナチュイ川流域の雲霧林周辺の陽地で採集された.これらの2種はいずれもサンタ・マルタ山群の固有種である.
著者
白水 隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.23-29, 1961-10-20

1961年6〜7月の台湾旅行の際に,埔里の木生(モクセイ)昆虫採集所の余清金氏の蒐集品中に台湾より未記録の美麗なアゲハチョウ科の1種を見出し,幸にこれを譲り受けて研究することが出来た.調査の結果,本種は支那大陸より知られるIphiclides alebion (GRAY,1852)の顕著な1新亜種と認むペきものであることを知ったので,次に新名を付して記載したい.また和名は余清金氏の功績を記念するため,同氏の経営になる木生昆虫採集所に因んでモクセイアゲハと呼ぶことにしたい.
著者
岡本 央 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.15-26, 2002-01-10

ホソヒゲマガリガ科(改称)Prodoxidaeは全北区,特に新北区を中心に分布することが知られている.日本では本科に含まれる種としてヘリモンマガリガGreya marginimaculata 1種のみが知られていたが,筆者らは本科に含まれる2属4種を日本から新たに確認した.Lampronia Stephens,1829マダラマガリガ属(新称)L.altaica Zagulajev,1992アルタイマガリガ(新称)開張9-10mm.前翅は暗い黄褐色で金色の弱い光沢を帯び,特徴的な白斑をもつ.雄交尾器のvalvaは中央で著しくくびれ,腹面側には刺毛が櫛歯状に並ぶ.雌交尾器のcorpus bursaeに一対の放射状のsignaをもつ.1998年7月に杉島一広氏によって北海道の大雪山で採集された.L.corticella(Linnaeus,1758)キマダラマガリガ(新称)開張10-11mm.前翅は暗い灰褐色で,淡黄色の細かいまだら状の斑紋をもつ.雌交尾器の産卵管の先端は平たく,corpus bursaeに一対の放射状のsignaをもつ.北海道の糠平で採集された雌のみを確認した.L.flavimitrella(Hubner,1817)フタオビマガリガ(新称)開張11-12.5mm.前翅は暗褐色で赤褐色の弱い光沢を帯び,2本の白い帯紋をもつ.雄交尾器のvalvaは中央で著しくくびれ,先端には鋭く尖った硬化部をもつ.雌交尾器のcorpus bursaeに一対の放射状のsignaをもつ.北海道および長野県で採集されている.Greya Busck,1903モンマガリガ属(新称)G.marginimaculata(Issiki,1957)ヘリモンマガリガ開張12.5-14.5mm前翅は黄褐色で金色の光沢を帯び,縁に白い斑紋をもつ.本種はIssiki(1957)によってLamproniaの種として記載されたが,Kozlov(1996)が本種をGreya属に移した.雄交尾器のvalvaは太く,腹面側に1-2個のpollexをもつ.長野県および石川県の白山で採集されている.G.variabilis Davis and Pellmyr,1992アラスカマガリガ(新称)開張16mm.前翅は黄褐色で金色の光沢を帯び,縁に白い斑紋をもつ.斑紋は非常に多くの変異をもつ(Davis et al.,1992).雌交尾器のcorpus bursaeにはsignaをもたない.本種はこれまでアラスカを中心とした北米ならびにシベリア東部(チュクチ半島)に分布することが知られていたが,平野長男氏が1986年9月に長野県の安房峠で採集した雌一個体を確認した.
著者
村山 修一 吉阪 道雄
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, 1959

Aus Formosa war bisher Erynnis montanus BREMER noch nicht gefunden. Diesmal haben wir 2♂♂ in Sammel materialien, die von M. WATANABE in Sakai uns gegeben wurden, entdeckt. Weil diese Exemplars sich in folgenden Punkte von typischer Form unterscheiden, schlagen wir neuen subspezifischen Name vor.
著者
飯島 一雄
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, 1959-07-30
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.103-108, 2005-03-20

50年にわたり収集した標本を整理中に,ビーク・マークのついたヤガ科の標本が15種27例,ジャノメチョウ類2種2例見つかった.ヤガ科のうち7種14例はCatocala属の蛾で,残りはシタバ亜科の4属4種6例とクチバ亜科の4属4種7例であった.ヤガ科の場合,鳥の攻撃により出来る最も特徴的な傷は同じ側の前翅と後翅に一つずつ合計二つ見られ,翅の位置を静止時の形に戻すと前・後翅の傷が重なることから,静止時に攻撃を受けたことが分かる.また後翅だけに傷を受けている例も多く,このような傷は攻撃直前に蛾が翅を開いて後翅の斑紋を敵に見せて威嚇した結果,生じたものらしい.明らかに後翅の斑紋が,鳥の攻撃をそらし,生存率を高めていると考えられる.筆者はCatocalaが静止したまま後翅を示して敵を威嚇するかどうか未観察である.しかしアケビコノハやムクゲコノハは後翅を開いて後半身を持ち上げるような姿勢をとり威嚇することを観察している.おそらくキマエコノハの後翅の傷は威嚇中に後翅に攻撃を受けたものと思われる.今回ビーク・マークが見つかった蛾は,いずれも九州では個体数が少ない種である.そうでなければ翅が破損している蛾をわざわざ展翅することはない.それゆえ一部の種では,今まで出会った総個体数に対するビーク・マーク出現率を計算することが出来た.その結果,灯火に飛来する蛾のうち20%から40%は,鳥の攻撃から生還した経験を持っていると推定された.ジャノメチョウ類2種の傷は,左右の翅に生じた対称傷で,この場合も翅を背中で閉じている状態で鳥の攻撃を受けたことを示している.
著者
平田 将士 宮川 崇
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.256-260, 2004-09-30

Agrias aedonは南米北西部(コロンビア・ベネズエラ)から中米メキシコ南部まで分布する.原名亜種を含め2亜種に分類され,南米北西部に原名亜種,コスタリカからメキシコ南部にかけて亜種rodriguezi(模式産地は中米グアテマラ)が分布する.前者は大型(♂前翅長41.8mm),前翅赤紋はアーチ型に発達し,外縁に達する.前後翅ともに青紋の発達は良くない.後者はやや小型で(♂前翅長40.1mm),前翅赤紋は縮小しアーチ型とならず,発達した青紋によってその周囲を囲まれる.後翅の青紋は外縁部まで大きく発達する.南米北西部からは,コロンビアを中心にschultei,salvini,petitoensis,denheziといったいくつかの型が記載され,それらの中にはときに亜種として扱われるものもあるが,コスタリカ以北の個体群の斑紋は安定しているようで,rodrigueziの元に記載された型やrodrigueziに近縁として記載された亜種はなかった.筆者らは亜種rodorigueziの分布圏に近接するコスタリカ北西部より本種を得たが,その斑紋はrodrigueziとも原名亜種とも異なるので,新亜種Agrias aedon toyodaiとして記載した.本新亜種は亜種rodrigueziとほぼ同大.裏面も酷似しているが,前翅赤紋は原名亜種グループと同様にアーチ型に発達し,これに伴ってrodrigueziに見られる青紋は後角部に向けて幅狭くなる.後翅はrodriguezi同様に発達した青紋を有する.コスタリカにおいて本種は中央山脈のカリブ海側標高約600-1,200mに極めて局地的に亜種rodrigueziが産することが知られている.本新亜種の産地はそれらの既知産地とは異なり,太平洋側標高約300m地点である.なお,亜種名toyodaiは日本におけるコスタリカ名誉領事を勤められ,日本とコスタリカの友好関係に大きな貢献をされた豊田章一郎氏に献名されたものである.
著者
船越 進太郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.301-304, 2008-09-30
参考文献数
5

ライントランセクト法によりカノコガ Amata fortunei fortunei (Orza)の飛翔個体数を2年間にわたり調べた.成虫は曇天時に最も多く飛翔し続いて雨天時に多く飛翔していた.ただし強い雨の日は,ほとんど飛翔せず,よく飛んだのは小雨の時であった.晴れた日の飛翔個体数は,曇天時の半数ほどであった.1化の発生時期は,2年間で差がなかったが,2化の発生時期には差がみられた.発生総個体数は,2004年の1化では79個体,2化で209個体,2005年の1化では224個体,2化で176個体であった.気温と飛翔個体数の間には,24℃までは相関があり,22-24℃の間に,飛翔個体数のピークが見られた.湿度と飛翔個体数の間には,特に相関が認められなかった.以上のことから,東海地方でのカノコガ成虫の発生消長は,年2回,一ヶ月弱の期間であり,飛翔個体数には,大きな変動が見られるようである.また,晴天時より曇天・雨天時の活動が盛んであり,直射日光を好まず,強い光を避けて行動する蛾であると考えられた.
著者
中塚 久美子 広渡 俊哉 池内 健 長田 庸平 金沢 至
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.154-167, 2013-12-25

Species diversity of dead-plant feeding moths in various forest ecosystems in Osaka Prefecture was investigated from March to November 2011. The study sites included a beech forest (Site A), an evergreen forest (Site B), a suburban forest park (Site C), a university campus (Site D) and an urban park (Site E). For the extraction of the larvae, two methods 1) hand-sorting, and 2) the Tullgren apparatus, were used. We also collected some flying adults and case-bearing larvae on the dead leaves in each site. A total of 27 species belonging to 10 families of dead-leaf feeding moths emerged: 15 species belonging to 8 families at Site A, 13 species belonging to 7 families at Site B, 10 species belonging to 9 families at Site C, 4 species belonging to 4 families at Site D, and 3 species belonging to 2 families at Site E. Dead-plant feeding habits were newly confirmed by rearing the larvae of Opogona thiadelpha, Hypsopygia kawabei, Endotricha minialis, E. consocia and Bradina angustalis pryeri. The results indicate that further assessments of the characteristics of each dead-leaf feeding moth enables us to apply them as an indicator for the assessment of various forest ecosystems.
著者
岩野 秀俊 山本 嘉彰 梅村 三千夫 畠山 吉則
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.327-334, 2006
参考文献数
24
被引用文献数
2

関東南部においてトチノキが分布しない地域でスギタニルリシジミの分布範囲が拡大しているが,それらの地域での本種の食樹を明らかにするため現地調査を実施した.神奈川県津久井町および箱根町から数種植物の花や花蕾,幼蕾を持ち帰り、幼虫の発見に努めた.津久井町ではスギタニルリシジミの食樹として,ミズキならびにヤマフジを利用しさらに相模湖町ではハリエンジュも食樹の一つである可能性が高いことが判明した.また箱根町では新たにキハダの幼蕾から多数の幼虫が見つかったため,食樹と認定した.県内のトチノキ非分布域では新食樹に寄主転換することで,分布勢力の拡大を計っていることを示唆した.
著者
杉 繁郎 大塚 勲
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.77-79, 1984-09-20

1983年4月,熊本県上益城郡矢部町目丸で採集された5♂の標本にもとづいて,新種Orthosia yoshizakii SUGI & OHTSUKAヒゴキリガ(新称)を記載した.本種は,日本産Orthosiaのうちでは,もっともO.lizetta(BUTLER)クロミミキリガに似るが,雄の触角が鋸歯状である点で,容易に区別される.その他の種とは,前翅の環状紋は暗色点で表され,環をもたないこと,腎状紋全体がほぼ一様に黒く染められることなどが区別点となる.雌は未知.上記の標本は著者のひとり大塚が,吉崎一章氏とともに採集したもので,同氏の多年にわたるご協力に対し厚く御礼申し上げる.種名は同氏に献名したものである.
著者
井上 武夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.63-64, 1997-06-15
参考文献数
3

ペルーでは,ミイロタテハ用トラップとして人糞,腐敗した牛血などを使用してきたため,雌が採集されることは極めて稀であり,Agrias beata beata f.beatifica Hewitsonの雌変異体は報告がない.著者はロレト州イキトス周辺での雌採集を目的に,1987年からバナナトラップの使用をひろめてきた.1996年10月14日に採集された雌A.b.beata f.beatificaは前翅長47mm,前翅表面基部と後翅中央に大きな青色斑が認められる(Figs 1,3).また,前後翅ともに緑色帯の内側には青色鱗粉が認められる.後翅の青色斑は1b室から3室および中室まで拡がり,緑色帯内側の青色とは連続していない.裏面後翅には基部から第3列黒色斑内側まで拡がる黄土色の斑紋が認められる(Fig.2).第4列からの黒色斑は痕跡として淡くなっており,A.b.beata f.beatificaの特徴を示している.後翅青色斑を伴う雌Agrias beataはペルー産として3変異体,ブラジル産として3変異体が報告されてる.ペルー産はともに山地性別亜種のもので,アマゾン低地のロレト州からは報告がない.本個体はマラニョン河下流のナウタ近郊ベサイダで採集された,初のA.b.beata f.beatifica雌変異体と考えられる.
著者
平田 将士 宮川 崇
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.187-201, 2006-06-30
参考文献数
10

Atrophaneura nox (Swaison, 1823)は,インドネシアのジャワ島から原名亜種が記載された.マレー半島からボルネオ,スマトラ,ジャワとそれらの島々の近辺の島嶼に至る広範な分方域を持ち,地理的変異が著しいことから,現在11亜種に分類されている.筆者らはそれらの亜種の再検討を行い,更にバニャック諸島とシンケップ島の2地域に産する個体群を新たに2つの亜種として記載する.また,既に記載されている11の亜種について,下記3点の変更を提案する.1点目として,海南島から記載されたA. nox hainaneusis Gu, 1997は記載図から判断する限り,A. varuna astrorion (Westwood, 1842)のシノニムである.2点目として,中部スマトラから新種として記載されたA. tungensis Zin et Leow, 1982は,♂の形状がA. noxの北部スマトラ亜種A. nox henricus (Fruhstorfer, 1898),同南部スマトラ亜種A. nox solokanus (Fruhstorfer, 1902)と殆ど差がないこと,この両亜種と分方域が重ならないことから,独立種ではなく,A. noxの一亜種と思慮する(A. nox tungensis Zin et Leow, 1982, stat. nov.).3点目としては,北ボルネオに産する個体群を西部ボルネオ産,南部ボルネオ産と区別して,新たな亜種とすることを提唱する.「ザイツ」の中でJordan (1910)は北部ボルネオの中に2つの型が存在することを記しており,1つはA. nox noctis (Hewitson, 1859)であり,もう1つは♂をf. noctula (Westwood, 1872),♀をf. strix (Westwood, 1872)としている.筆者らが実見している標本では,西部ボルネオからもたらされるものがJordanの示しているnoctisに合致するものであり,北部ボルネオ産♂がf. nocturに,♀がf. strixに該当する.また,亜種のnoctisの正確な原記載産地が筆者らにとっては「ボルネオ」以上に詳細には判らないことから,当報文では西部ボルネオ産にnoctisを充てる.更にWestwood (1872)によって同時に提唱された2つの名称については,地理的な相異に言及していないものの,既にFruhstorfer (1898)がnoctulaを種名として使用しているため,筆者らは北部ボルネオ産にnoctulaを充てることを提唱する.これらの所見をふまえ,筆者らはA. noxをnoxグループ,smedleysグループ,erebusグループ,noctisグループの4グループに大別し,各々のグループの特徴を考察した.なお,新たな2亜種の特徴は後述の翅りである. Atrophaneura nox hirokoae Hirata et Miyagawa, ssp. nov. (Figs 19-22) バニャック諸島に産する.バニャック諸島は,北部スマトラ島の西側に位置し,北をシムルエ島,南をニアス島に扶まれた,小さな島嶼群である.今回記載する新亜種は,このバニャック諸島中のTuangku島より得られたもので,筆者の所有する5♂5♀に基づいたものである.♂♀ともに近接する北部スマトラ産,ニアス産の亜種よりも,マレー半島産のものに近似した特徴を持つ.すなわち,スマトラ産,ニアス産と比べ,♂では翅表により強い金属光沢を持つこと,♀では翅表により強い金属光沢を持ち,前翅翅脈に沿った白化が前翅端部にとどまること,また,後翅の白化は外緑部のみで翅脈に沿って全体的に白化しないことで容易に区別される.マレー半島座と比較すると,♂♀ともに翅表により強い金属光沢を持ち,色調が強く青緑色を帯びる.♀では,特に後翅の光沢部がより広く発達し,翅脈に沿った部分にとどまらず,後翅全体に拡がる.また,前翅裏面の翅脈に沿った白化が全体的に拡がらないことで区別される.バニャック諸島は,マレー半島からはスマトラ島を隔てているにも拘わらず,こうした特徴を持つことはとても興味深い.なお,この亜種名hirokoaeインドネシアと日本との友好関係の樹立に尽力された,トヨタ自動車(株)取締役名誉会長豊田章一郎氏の令夫人である豊田博子氏に献名されたものである. Atrophaneura nox miekoae Hirata et Miyagawa, ssp. nov. (Figs 49-52) シンケップ島に産する.シンケップ島は,中部スマトラ島の東,リンガ島のすぐ南に位置する.地理的な位置はボルネオ島よりスマトラ島に近いが,今回記載した亜種はスマトラに産するものよりも寧ろ♂ではマレー産に,♀では南部ボルネオ産に近い特徴を持つ.すなわち,♂においてはマレー半島のように金属光沢を持ち,♀においてはスマトラ産と比べると金属光沢は弱く,後翅翅脈に沿った白化傾向が無いことから容易に区別される.南部ボルネオ産との比較においては,♀の前翅端部の翅脈に沿った白化によって形成される白斑が小さいこと(当亜種は前翅端にとどまるが,南部ボルネオ産は前翅表半分程度拡大する),後翅外緑部に顕著な白化部分があることで区別される.なお,この亜種名miekoaeは,筆者の1人,平田の妻実江子に献名されたものである.本報文をまとめるにあたり,貴重な標本の写真撮影を許可して下さった塚田悦三氏,平岡正之氏,内容についてのひとかたならぬご指導をいただいた吉本浩氏,種々ご教示いただいた矢後勝也氏,上田恭一郎氏,勝山礼一郎氏,報文作成にご協力いただいた,佐藤葉子氏,中野規子氏に心からお礼申し上げます.また,標本人手にご尽力いただいた,故大谷卓也氏に心より感謝するとともにご冥福をお祈り致します.
著者
井上 武夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.103-105, 1985-06-20

ペルー産のミイロタテハ属の雌は雄に比べ極めて数が少ない.他方,ブラジルでは雌雄ほぼ同数が採集されている.両者の相異は使用するトラップが異なるためと言われているが,それを実証した者はいない.著者は1984年9月24日から10月2日までブラジルでバナナトラップを用いて5♂,3♀のミイロタテハを採集し,同じ方法でイキトス,ティンゴマリアにて,A. sardanapalusとA.beataの雌を各1頭採集した.このような著者の経験から,ペルーにおいても従来いわれてきたような雌雄の著しい不均等は必ずしもないと考えられる.
著者
柴谷 篤弘
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.23-34, 1992-03-30

日本各地のミドリシジミ類については,各種について特異的な領域占有性活動時期が明らかにされている.そのいちじるしい特徴は,同時同所では通常一つの属のなかで2種またはそれ以上が活動することが見られないということである.例外はハヤシミドリシジミがウラジロミドリその他と共に活動することであるが,これらの2種では,領域占有性は弱いようである.日本海の対岸にも, Favoniusを主とするミドリシジミが多く分布し,日本に産しないものも近年記載されている(F. korshunovi Dubatolov & Sergeev, 1982 ; F. macrocercus Wakabayashi & Fukuda, 1985 ; F. aquamarines Korshunov & Sergeev,1987). 私は1988年夏沿海州の昆虫調査に参加して,いくつかの地点でFavoniusの活動を観察することができた.その一部は直接の採集によって同定することができたが,他は高い木の梢をめぐる飛翔のため,確認・同定ができなかつた.しかし飛翔の特徴,大きさのほか,時おりの卍飛翔によって,それらがミドリシジミ♂の活動であることは確実と思われる.この報告では同定した種についての観察結果を表2に示し,またそれに部分的にしか含まれていない観察を,図2-6に示した.後者は,ウスリースク北方20kmのGornotayozhnaya山地林業試験場附近(標高約170m)で2日間にわたっておこなった定点観察計数の結果である.その場所の写真は図1と図7に示される.ここでは大部分のFavoniusらしいチョウの計数は,直接採集によって確認したものでなく,理論的枠組みのなかでの解釈の可能性を与えるにとどまるものである.この結果を通じて,沿海州でのFavonius♂の日周活動は,日本での観察結果とほぼ一致することがわかった.とくに日本に産しないF. korshunoviと思われる種類で,日本のエゾミドリシジミF. jezoensis (Matsumara,1915)と同様,16時(日本時間)前後に活動することがわかった.この点で午前に活動するといわれるF. macrocercusとは別種であるようにおもわれる.ほかに, Gornotayozhnayaで早朝9時-11時(夏時間;同経度の日本時間にして7時-9時)に活動する未同定のミドリシジミがいるらしいことを見た.ほかにオオミドリ,ジョウザンミドリ,ハヤミミドリ,ウラジロミドリについては,日本の活動時間とほぼ一致するが,ジョウザンミドリは日本のものよりすこし遅れるようである.いずれにしても2種のFavoniusが同時同所で領域占有飛翔をするという積極的な証拠は見られなかった.Gornotayozhnayaの観察では, Favoniusのほかにすべてのチョウの定点での活動を記録し,図2-6にその結果を示した.この場所は尾根のモンゴリナラ林に沿った切りひらきで,特にチョウの多いところではないが,ここに示した結果で見ると,日本における選ばれた径路でおこなった最近の観察例よりも,明らかにチョウの数が多いことが示された.観察地点を離れた,流れに沿った平地では,チョウの数ははるかに多く,ソ連邦での観察例(Belyaevほか,1989)と比較しても,沿海州のチョウの個体数・多様性は,日本の標高の低い都市付近の緑地で一般に見られるよりは,ずっと高いと考えられる.この報告は,日本で知られていることを,立ちいって書きこんでいるが,これはもちろん海外の研究者に対して,同様な観察をよびかけるためのものである.日本で蓄積してきたこのような観察が,アジア各地はもとより欧米各地の報告にも見られないことは,「観察」が,理論負荷的であること,つまり結果を先どりする理論によって観察が生まれること,そしてこの理論は,うたがいもなく今西錦司によってはじめられた「棲みわけ」理論が,チョウの「飛びわけ」概念に拡張されたためであることを示唆する.これを今西理論が日本の生態学に正の寄与をしなかったのではないかとする,最近の論調のなかでどう評価していくかは,今後の発展次第であろう.
著者
広渡 俊哉 亀谷 計泰
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.85-92, 1999-03-30
参考文献数
13

コンオビヒゲナガ,Nemophora ahenea Stringerは,本州,四国,九州に分布し,成虫が7-9月に出現することが知られていたが,その生活史や配偶行動などについてはまったく不明であった.そこで,配偶行動を中心として飛翔活動の日周性・産卵寄主など,本種の生活史の一部を明らかにすることを目的として,兵庫県猪名川町の三草山,および和歌山県橋本市の玉川峡において調査を行った.三草山では,1997年7月11日,7月19日,7月23日の3回,玉川峡では,8月26日,8月30日の2回調査を行った.調査は原則として午後3時から日没まで,7月23日のみ日の出から日没まで行った.いずれの調査日においても,30分ごとに温度・照度を記録した.成虫,特にオスは日没前後,照度が500-8,000lxと薄暗くなってから活発に活動し,オスが群飛するのが確認された.玉川峡では,オスがイタドリ,ヌルデ,ヒメジョオンなどの花の約10-30cm上空で群飛するのが見られた.これまでヒゲナガガ科の配偶行動についての報告例は非常に少なかったが,三草山で7月19日と7月23日に本種の交尾に至る行動を観察することができた.今回観察されたのは,いずれの場合もオス1個体がヒメジョオンの約10cm上空でホバリングしているところにメスが直線的に飛んできて交尾が成立するというものであった.オスは,メスが約10cmのところまで接近すると,メスに飛びついて空中で絡まり,葉上に落下したときにはすで交尾に至っていた.コンオビヒゲナガでは飛翔中のオスが1個体でも交尾が成立したことから,本種にとって群飛をすることはオスとメスが出会うための必要条件ではないことが明らかになった.また,本種の寄主植物は知られていなかったが,玉川峡で8月30日にイタドリの花のつぼみに産卵行動をするメスが見られた.卵は確認できなかったが,イタドリは本種の寄主植物である可能性がある.Thornhill(1980)は,ケバエの一種にみられるオスの群飛は,メスが羽化してくる地面に近い場所を確保しようとするオス同士の闘争であると考えた.コンオビヒゲナガの場合,オスはイタドリやヒメジョオンなどの花をマーカーとしてメスとの出会いの場所として利用しており,群飛を形成するのはThornhill(1980)が観察したケバエの一種のようにその場所をめぐって争っている結果なのかもしれない.また,コンオビヒゲナガではオスの複眼がメスに比べて大きく発達しており,特に背面域の個眼が腹面域の個眼にくらべて大きかった.ホバリングするオスは地面に対して体軸をさまざまな角度に傾けており,地表から飛んでくるメスを発見するのにも背面域の発達した個眼を用いている可能性がある.また,コンオビヒゲナガのメスの複眼はオスに比べて小さいものの,群飛をしないとされるクロハネシロヒゲナガ(オスは単独で探雌飛翔をすると考えられている)のメスに比べて相対的に大きかった.コンオビヒゲナガのメスが,飛翔するオス,あるいはマーカーと考えられる植物のどちらに誘引されるかは不明だが,今回の観察からもメスはオスを視覚で発見していることが示唆された.