著者
谷口 佳菜子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.63-79, 2018

本研究は、本学の3学科の卒業生に対し実施した卒業生データをもとに、卒業生の在学時の教育プログラムへの評価、卒業後10年までの初期キャリアにおけるコンピテンシーの獲得水準と現在の仕事での必要度、本学への満足度について分析した。調査の結果から、国際観光学科の卒業生は、「海外研修・留学のための機会や指導」の充実度に対し熱心度は有意に低かった。また、「専門の授業(講義や演習)」や「卒業論文、卒業制作、卒業発表」は充実度に対し熱心に取り組んだと評価している。コンピテンシーでは、現職において、卒業生は「基礎的・社会的な技能」の「取引先や顧客などに対するコミュニケーション能力」の不足感を感じていることがわかった。社会福祉学科では、「海外研修・留学のための機会や指導」、「外国語を修得するための授業」、「高校までの基礎学力を学び直す授業や指導」、「知識を広げ教養を身に付ける授業」、「研究室・ゼミでの授業や活動」の充実度に対し、熱心度が有意に低かった。さらに、コンピテンシーの「専門的な知識」、「専門的な技能」、「基礎的・社会的な技能」、「総合的な学習知識と創造的思考力」の項目で獲得度よりも必要度が有意に低かった。健康栄養学科では、「海外研修・留学のための機会や指導」と「卒業論文・卒業制作・卒業発表」が充実度に対し、熱心度が有意に低かった。コンピテンシーについてみると、健康栄養学科の卒業生は、現職において「基礎的・社会的な技能」を中心に不足感を感じていることが明らかになった。総合的に振り返っての本学に対する満足度には卒業生は高い満足度を示した。This research is based on analysing the graduate data that was conducted for students who graduated from three undergraduate departments at Nagasaki International University. The graduates were asked to evaluate the educational program at the time of their enrolment and their enthusiasm for studying. They were also asked to measure their ability to demonstrate a competency level for the first career within 10 years after their graduation and the current job to show the needed requirements. Finally, they were asked about their satisfaction towards the university. The result of surveying the graduates of the International Tourism department shows a significantly low amount of enthusiasm towards the university overseas training program and the study abroad program. However, they showed their enthusiasm to study other courses that related to their major and the graduation thesis. In the competency, the feeling of insufficiency was clear in their current job towards the lack of basic and social skills and the ability to communicate with business partners and customers. On the other hand, the graduates of the Social Work department showed a significantly low amount of enthusiasm towards the university overseas training program and the study abroad program, classes of foreign languages, remedial academic skills, lectures to enrich knowledge and education, and the activities in the seminars. In addition, in the competency, a significantly low amount of enthusiasm was clearly shown towards the lack of specialized knowledge, specialized skills, basic and social skills, and comprehensive knowledge and creative thinking. Finally, the result of surveying the graduates of the Health and Nutrition department shows a significantly low amount of enthusiasm towards the university overseas training program and the studying abroad program. In the competency, the feeling of insufficiency was clear in their current job towards the lack of basic and social skills.
著者
武 秀忠 正山 征洋 Xiuzhong WU Yukihiro SHOYAMA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.139-146, 2021-03

COVID-19 が中国で確認され全世界へと蔓延し現在に至っている。中国では傷寒雑病論に収載される小柴胡湯、大青竜湯、五苓散を組み合わせ、21種の生薬を配合した新処方、“清肺排毒湯”が創出された。本処方は214名の患者に対して、90%以上の総有効率が見られ、そのうち60%以上の患者は臨床症状と画像診断で著しく改善され、30%の患者の症状は安定し重症化には至らなかった。清肺排毒湯を解析すると発熱・咳・インフルエンザ等に有効な麻黄、桂皮、杏仁、甘草を配合する麻黄湯が浮かび上がった。そこで麻黄湯の論文調査を行った結果、麻黄湯の有効性が明らかとなり、特に縮合型タンニンの抗ウイルス作用が強いことが判明した。アユルベーダで用いられてきた穿心蓮も麻黄湯同様な作用が認められ、広範囲の疾病に使われてきた。論文調査を行った結果、臨床的に抗ウイルス作用が明らかとなり、その活性成分はアンドログラフォリド類であった。これらの結果から麻黄湯加穿心蓮が COVID-19 に有効であろうとの結論に至った。
著者
中村 美穂 Miho NAKAMURA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
no.21, pp.17-27, 2021-03

本研究では、長崎国際大学の学生にとって有益な相談環境の整備を目指し、学生相談室を利用しようとする学生の情報ニーズを把握した。学生は、安心かつ信頼して相談できる環境を求め、カウンセラーの人となりや相談室内外の環境、学生相談の利用状況などを確認したいということが明らかになった。また、情報提供の仕方については、学生がアクセスしやすい Web 上のホームページをはじめ、学生の目に入りやすい媒体で行う必要があることが示された。さらに、学生にとっての相談相手として友人、家族、教員、学生相談カウンセラーそれぞれのイメージや相談することに対する抵抗感や不安を把握した。その結果、学生は、自分の問題や状況などに応じて相談相手を選択し、相談することによる良好な予後を期待していることが推察された。つまり、学生相談カウンセラーは、学生の問題や状況などに合う学内外の援助資源の情報を提供し、必要に応じて学生相談カウンセラー自ら学生と支援者との橋渡しをする必要もあると考えられた。
著者
細田 亜津子 Atsuko HOSODA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.83-95, 2005-01

トラジャ社会は農村社会である。就労者の約80%が農業に従事しており、その他の就労者も兼業が多い。しかし、水田面積は全面積の約10%であり、二期作と棚田での収穫という厳しい現実である。水田形態は、Uma Mana、Uma Tongkonan と呼ぶ一族の共有田と個人所有とがある。共有田の収穫物は儀式など公的儀礼のために使用される。儀式での恩恵は一般大衆にも及び社会的役割を持つ水田である。また、地主と小作の関係は、先祖代々からの関係が多い。土地を所有しない小作は、他地域への出稼ぎを行う。伝統的な収穫物の分配は地主と小作は50%―50%が多く、第二期作は30%―70%になる。この地主―小作の元で働く農夫は、Ikat という稲束の単位により、稲刈りの労働に比例して報酬をうけとる。田植えについては、同じ報酬を受け取る。このように平等性と競争性を取り入れた社会である。一方、農村社会の諸規則は、儀礼との関連が強く、分配や遺産相続に影響する事もトラジャの特色である。
著者
圷 洋一 Yoichi AKUTSU
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.127-137, 2002-03

社会福祉にかぎらずどの制度領域にも学問領域にも「対象」はある。社会福祉における「対象」の理解と把握(対象論)そして対応には特徴的な身振りや構えがみられる。本稿ではそこに「本質化」ないし「本質主義」をみとめ、これを批判的に検討する。社会福祉の対象論・対象化にみられる本質主義・本質化を反省していくための思考の枠組や立場として、本稿では「批判的福祉対象論」を設定する。そして社会福祉を「必要充足空間」としてとらえかえしその透明化をはかる。ここでの考察は、社会福祉のさまざまな局面や文脈における本質主義・本質化に理論的な反省を加えていくための準備作業でもある。
著者
松本 知子 Tomoko MATSUMOTO
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.63-73, 2017-03

英語のコミュニケーション能力向上のための指導法についてはこれまで多く議論されてきたが、文法指導とコミュニカティブな学習とを統合する指導法についてはあまり議論されていない。これはコミュニケーション能力が文法の基礎力なしで向上することを暗示していると捉えられるかもしれない。また、このような見方で学習をする学習者は、文法学習を機械的な暗記による活動として捉えかねない。本研究は、「情報や考えを理解し、適切に伝えるコミュニケーション能力」の向上を目的とし、効果的なコミュニカティブ文法指導法について考察する。さらに、学習者にとって文脈の理解が助けとなる映画を利用した指導法について述べる。具体的には、過去形の「コア」である距離感に焦点をあて、助動詞 will と would や wonder を使った構文と wondered や was wondering を使った構文の丁寧さの度合いを理解できる方法について言及する。最後に、過去形のコアを活用して仮定法過去の指導法についても述べる。
著者
宮本 彩 Aya MIYAMOTO
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.59-69, 2019

本稿は、日本におけるアンプティサッカーの競技普及ならびに競技力向上に向けた取り組みの変遷をまとめるとともに、世界の動向を概説するものである。日本におけるアンプティサッカーの変遷は、各関係機関のホームページや過去に発行されたパンフレット、新聞等の掲載記事の情報を基に、①特定非営利活動法人日本アンプティサッカー協会、②国内のアンプティサッカー大会、③アンプティサッカー日本代表のワールドカップに向けた取り組みについてまとめた。世界の動向については、各関係機関のホームページ、書籍および学術論文を基に、①アンプティサッカーの歴史、②最近の競技発展の動き、③学術研究についてまとめた。アンプティサッカーは、高価な専用器具を用いないため、気軽に楽しめるスポーツとして人気が高まっており、今後も世界的な競技普及が進むと推察される。
著者
安徳 勝憲
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.21-31, 2020-03

松下電器産業(現パナソニック)創業者松下幸之助(以下幸之助)は、戦後復興途上の昭和26年に市場調査のため訪米した。滞在中に多くの工場を視察した幸之助は、自社も含めた日本の製造業の遅れを痛感せざるを得なかった。3か月後、幸之助は日本の素晴らしい景観を生かしたインバウンド観光の振興こそが戦後復興の鍵ではないかとの考えを携えて帰国した。そして『文藝春秋』昭和29年(1954)5月号に発表した「観光立国の辨」において、①観光省を新設し、観光大臣を任命して、この大臣を総理、副総理に次ぐ重要ポストに置く、②国民に観光に対する強い自覚を促す、③各国に観光大使を送って、大いに宣伝啓蒙する、そして④いくつかの国立大学を観光大学に改編して観光ガイドを養成するといった具体的なインバウンド観光振興策を提言したのである。同年の外国人入国者数がわずか5万人足らずであったことを勘案すれば、幸之助の先見の明に驚かされる。その後も、工場立地による瀬戸内海景観の棄損に警鐘を鳴らすなど、幸之助は松下電器産業経営の傍ら、国内観光資源の維持の大事さを訴え続けた。本稿は、幸之助が「観光立国の辨」を発表するに至った軌跡をたどるとともに、「経営の神様」という呼び名にふさわしい厳密なソロバン勘定と緻密な論理の組み立て方を紹介するものである。没後平成24年(2012)、日本の観光振興へ多大な貢献をしたとして、幸之助は観光庁長官表彰を受賞している。

1 0 0 0 OA 大麻研究

著者
正山 征洋 Yukihiro SHOYAMA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.265-274, 2008-03

マリファナはアサから生産され、世界各国地域により色々な名称で呼ばれる。マリファナは特異のカンナビノイドと称するアルキールフェノールを含有する。それらの中で最も強い幻覚活性を持つのが THC である。THCA 生合成酵素を新鮮なアサから精製・単離し、その性状を明らかにした。THCA 生合成酵素は CBGA から環を形成して THCA を生成する過程を触媒する。また、THCA 生合成酵素はいかなる補酵素も要求しないので内在性の FAD 等の補酵素を持つことが予想される。そこで THCA 生合成酵素をクローニングし、昆虫細胞系で大量発現し結晶化に成功した。X-線結晶解析により全構造を明らかにした。これにより FAD がヒスチジン、システインと結合しポケット付近に位置すること、チロシンが環形成に必須であることを明らかにした。THCA 生合成酵素はアサの腺毛で生合成されそこで大麻成分を生合成することが明らかとなった。
著者
立平 進 Susumu TATEHIRA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.13-22, 2008-03

本稿は、平戸藩の窯業が、いつ頃から産業として定着したのかを考察するのが目的である。今日まで、あまり知られていなかった『平戸焼沿革一覧』を読み解きながら検証を行った。さらに『平戸焼沿革一覧』と『平戸藩御用窯総合調査報告書』の発掘事例とを突き合わせて検討することにより、歴史資料(文献)と考古学的な知見を関連付けた。結果は、松浦鎮信(天祥公)の時代に三川内焼が安定した産業となったことを論じたものである。
著者
嶋内 麻佐子 Masako SHIMAUCHI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.131-141, 2001-03

利休歿後、利休の弟子七人衆の一人である古田織部により、その茶が継承された。織部は武将の茶としての展開を遂げ、茶室・茶の形態・露地・懐石・点前に至るまで、武家相応の茶の湯に置き換えることにより、利休の身分平等性を主とする作法やその技法、精神性からの脱皮を計ることに成功したと言える。 しかし、その事で草庵における茶の形態だけは、守られたと思われる。そのことは、町人的作法から生まれた利休の茶を改良し、かつての貴族時代に生まれた文化と、武家故実に基づく文化を合流させた慶長年間の武家相応の茶の湯が、織部によって出来上がったと言えるのではないだろうか。
著者
友池 敏雄 Toshio TOMOIKE
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.173-183, 2013-03

2011年の東日本大震災は、地震や津波および原子力発電所爆発事故まで引き起こしたため、この被災地からでる“ガレキ”は、放射能汚染と結びついて受けとめられた2)。国からの広域処理の要請で、受け入れの検討が行われた長崎市においては、同市内の被爆者団体は意見が分かれることもあった4)が、受入反対の意思表示を行なった3)5)。そこで、部分的ではあるが市民の意向を一定の範囲で把握すべく、一部長崎市民を対象に調査したところ、統計学的に有意差を見出せなかったが、“震災ガレキ”を長崎で受け入れるべきだとする人は78.49%存在していた。その中で、特に50~69歳代者には、積極的な受け入れ姿勢がみられた。40歳代や70歳代者も受け入れ姿勢は高く見られたものの、難色や拒否する人は他の年代者よりも2~3倍存在していた。これは、自らの子や孫への放射能による影響不安があったがためと考えられた。70歳代者は受け入れ拒否は低かったが、積極的でもなく中位だった。放射能からの影響不安では80歳代者も高かったため、高齢になるほど変化や不安から遠ざかり安泰な生活を望む傾向から来ていると推察された。しかし、もう一つの視点である、被爆者と一般市民との“ガレキ”受け入れ意識の差は見られなかった。尚、2012年7月26日、長崎市長は、“ガレキ”の受け入れの検討作業を中止すると発表した6)。
著者
VAN DEUSEN Brendan OWATARI-DORGAN John Patrick RAWSON Thom Brendan VAN・DEUSEN John・Patrick Owatari-DORGAN Thom RAWSON
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-11, 2016

本稿では、日本の大学において、外国語としての英語を学ぶクラスのためのアクティブラーニングのビデオプロジェクトについて考察する。このリサーチプロジェクトの目的は、次の問いを調査することである : 1)学生の英語力にこのプロジェクトはどのような効果があるのか、 2)英語力以外のどのようなスキルを学生は身につけるのか。これらの問いに答えを出すために、このプロジェクト実施の前後に、学生が認識している効果と困難さに関する意見を把握するためのアンケート調査を実施した。これらの結果と教員の観察、及び最終成果物に基づき、このプロジェクトは、学生の英語コミュニケーションスキル、協力するスキル、プロジェクトのプランニングスキル、そしてメディア制作のスキルの向上に寄与したと言える。また、テクノロジーの役割は有益であることが見て取れたが、時に、プラスの面とマイナスの面の両方が見られる場合もあった。さらに、統合カリキュラム内でプロジェクトを実施することの含意についても論じている。This paper discusses the implementation of an active learning video project for an English as a foreign language class at a university in Japan. The goal of this research project was to investigate the following questions: 1) How did the project benefit students'English? 2) What non-English skills did the students acquire ? A questionnaire was administered before and after the project to gage students' opinions about the perceived benefits and difficulties of the project. Based on these results, teacher observation and an analysis of the end product, this project helped students improve skills for English communication, collaboration, project planning and media production. The role of technology was observed to be positive, though it both enables and hindered students at times. Implications for implementing projects within an integrated curriculum are discussed.
著者
宮良 俊行 Toshiyuki MIYARA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.51-58, 2014-03

文部科学省は2010年「スポーツ立国戦略―スポーツコミュニティ・ニッポン―」を策定した。そこでは、「スポーツ立国戦略の目指す姿」として、スポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、スポーツを支える(育てる)ことによって、「スポーツの持つ多様な意義や価値が社会全体に共有され、『新たなスポーツ文化』を確立することを目指す」ことがあげられている。「5つの重点戦略の目標と主な施策」の5つ目には、「社会全体でスポーツを支える基盤の整備」があげられ、「地域」におけるスポーツの位置付けがなされている。宮良、小島(2012)は、『現在「スポーツによるまちづくり」という言葉に表現されるような、いわゆる地域社会の機能回復すなわち「コミュニティ」の再生をスポーツに委ねることは、これまで政策の場面において様々な視角から特集され、研究についても長期に渡って議論されてきた。』と分析し、様々な課題を提示している。一方、日本の多くの地域では、過疎化が進んでいる。地方自治体においても高齢化に伴う医療費負担の問題が深刻さを増している。このような状況において「スポーツによるまちづくり」は本当に可能なのであろうか。本研究では、「スポーツによるまちづくり」に関する事例として熊本県南関町の取り組みを報告する。
著者
乙須 翼
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-13, 2018

本稿は、18世紀末フィラデルフィアの無償貧困児教育の特徴を、1790年に設立されたアメリカ初の日曜学校団体ファースト・デイ・ソサイエティ(FDS)の教育活動の分析を通して捉えるものである。公教育論者ベンジャミン・ラッシュがその設立に深く関わった FDS は、宗派を問わず全ての貧困児を対象に聖書による読み書き教育を行い、教師による日曜礼拝への参加促進と生徒の行動監視により、貧困児のモラルの改良と安息日の保護、そして社会の安寧を成し遂げようとしていた。しかし、公教育にも近い特異な理念を掲げた FDS は、教育活動を展開する中で、任意団体としての財政基盤の弱さや、貧困児や教師、寄付者や親、FDS の役員といったアクター同士の衝突や思惑のずれによって生じる様々な困難に直面し、初期教育理念を修正していった。FDS が直面した困難は、公教育理念に近い教育活動を18世紀末に実践することがいかに困難であったかを示している。This study aims to describe the features of free education for poor children in late eighteenth-century Philadelphia. It focuses on the education of the first Sunday school society in America,"The Society for the Institution and Support of First-day or Sunday Schools"(the FDS). This voluntary association was established in 1790 and was strongly backed by Benjamin Rush, one of the most famous advocators of public education during the nation's Founding Era. The educational policy of the FDS was unique. The FDS welcomed uneducated, poor children of all religious faiths and denominations and provided free instruction in reading and writing using the Bible. Professional teachers were responsible for, not only providing instruction to children but also inspiring them to attend their own religious Sunday worship either after or before school, and closely monitoring and disciplining the children. Adopting this educational policy, the FDS was aiming to reform the unruly behavior of the poor children and preserve the sanctity of the Sabbath and peace in society. However, the FDS faced a number of difficulties. These were caused by conflicts and interactions among actors such as poor children, teachers, financial contributors, parents, and the FDS members, as well as by financial difficulties brought about by being a voluntary association. The difficulties the FDS faced suggest that an educational policy that was similar to that of public education was not easy to practice in late eighteenth-century Philadelphia.
著者
石倉 健二 高島 恭子 原田 奈津子 山岸 利次 Kenji ISHIKURA Kyouko TAKASHIMA Natsuko HARADA Toshitsugu YAMAGISHI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.167-177, 2008-03

本論は、近年、高等教育学界において注目を集めている「初年次教育」がいかなるものであるかを、国内外の動向をレビューしつつ検討したものである。M・トロウが明らかにしたように、大学入学者数・率の上昇は、大学教育の変質を必然的に伴うものであり、日本やアメリカ等、トロウの言うマス段階からユニバーサル段階に達した高等教育においては、その質的変化に伴う新たな教育が要請されることになる。「初年次教育」とは、そのような新たな教育形態の一つであり、特に、新入生の大学への適応を支援していくためのプログラムである。その背景には、大学教育のユニバーサル化により、必ずしも大学が期待する学習文化を持たない学生が多数入学し、結果として大学にスムースに適応できない学生が多数存在するということがある。高等教育のユニバーサル化を早期に経験したアメリカにおいて、初年次教育の理論・実践には一定の蓄積があるが、日本においては、アメリカの事例を参照しつつ、各大学が試行錯誤を行っている段階であり、初年次教育が十分に深化されているとは言えない状況である。大学全入時代を迎える日本の高等教育において、初年次教育の必要性はますます高まるであろう。このような視角のもと、今後、具体的な初年次教育のあり方を構想することが求められるであろう。
著者
小林 徹 Tohru KOBAYASHI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.149-156, 2005-01

茶道は平和を追求する作法であり、現代社会に受け継がれている。作法は無駄のない動作と静寂のなかにその価値がみいだされる。武士道は戦う武士が勝利のために規範とするものである。規範のなかに現代人が守り伝えるべき約束事は存在する。しかし武士が存在しない現代においては新しい規範をつくって精神的拠り所とする試みが必要である。
著者
大西 良 辻丸 秀策 池田 博章 Ryo ONISHI Shusaku TSUJIMARU Hiroaki IKEDA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.175-182, 2017-03

本研究の目的は、一般市民を対象に質問紙による調査を実施して、「子どもの貧困」に対するイメージや貧困が子どもの成長に与える影響(問題)等に関する認識の実態を把握することであった。調査の結果、市民の約8割が国民の生活水準の低下(貧困化)を感じ、また4人のうち3人が子どもの貧困問題を身近な問題として捉えていることが分かった。また「貧困」に対するイメージについては、「身近」で「怖いもの」という認識を抱いている者が多く、さらに「貧困」が子どもに与える影響(問題)については、「進路選択・進路実現の問題」、「心理(こころ)の問題」、「衣食住の問題」が上位に挙げられた。子どもがごく普通の生活をするために必要な物や事柄(必需品)では、「病気やケガをした際に病院へいく」、「遠足や修学旅行などの学校行事への参加」、「休日等で家族と一緒に過ごすこと」などがすべての子どもに絶対与えられるべきであるものとして上位にあがった。その一方、教育の機会や教育用品に関しては、経済的な理由で与えられなくても仕方がないという意見も多くみられた。このような結果を踏まえて、考察では、「関係性の貧困」と「機会の貧困」が子どもの成長や将来に負の影響を与えることについて述べ、相対的貧困がもたらす本質的な問題について論じた。
著者
西村 貴直 Takanao NISHIMURA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.185-194, 2005-01

1980年代以降、様々なかたちの社会変動プロセスが同時的に進行していくなかで、多くの社会的葛藤が生じてきている。なかでも、富める者と貧しい者との二極分化が「豊かな」先進諸国の内部でも深刻化しており、「新しい」貧困問題を形成しつつある。本稿では、わが国における「新しい」貧困問題の一端を構成する「フリーター」問題に関し、英米における「新しい」貧困問題に言及する“アンダークラス”の概念と対比させながら、特にその言説にともなういくつかの問題を浮き彫りにすることを目的としている。
著者
石倉 健二 高島 恭子 高橋 信幸 井手 睦美 Kenji ISHIKURA Kyouko TAKASHIMA Nobuyuki TAKAHASHI Mutsumi IDE
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.159-165, 2008-03

自閉症の大きな特徴の一つである「反復的で常同的な様式」は「同一性保持現象」とも呼ばれ、問題行動とみなされることも多い。本研究はこの「同一性保持現象」について、自閉症児の母親15名に質問紙調査を実施し、以下の結論を得た。一つ目は、「単純反復運動」で特徴づけられる「常同行動」と、「固執」「配列」「質問嗜好」「空想」で特徴づけられる「こだわり行動」はその出現の様相が異なることが示された。このことから、「常同行動」と「こだわり行動」は別々の機能的側面を有することが示唆された。二つ目は、「一週間後の予定の理解」のある者の方がその他の者よりも、「こだわり行動」が多いことが示された。「時間的見通し」が「こだわり行動」に影響を与える独自の要因であるのか、言語能力や「時間的なこだわり」を反映するものなのかは定かではなく、今後の更なる検討が求められる。