著者
山口 悟 西村 浩一 納口 恭明 佐藤 篤司 和泉 薫 村上 茂樹 山野井 克己 竹内 由香里 LEHNING Micheal
出版者
日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.51-57, 2004-01-15
被引用文献数
6 4

2003年1月5日に長野県南安曇郡安曇村の上高地乗鞍スーパー林道で起こった複数の雪崩は,死者こそ出なかったが車20台以上を巻き込む大災害となった.雪崩の種類は面発生乾雪表層雪崩であった.今回の雪崩の特徴は,従来雪崩があまり発生しないと考えられている森林内から発生したことである.現地における断面観測より,今回の雪崩は表層から約30cm下層に形成された"こしもざらめ層"が弱層となり発生した事がわかった.積雪変質モデル並びに現場近くの気象データを用いた数値実験でも,同様の"こしもざらめ層"の形成を再現することができた.弱層になった"こしもざらめ層"は,1月1日の晩から1月2日の朝に積もった雪が,3日早朝の低温,弱風という気象条件下で変質して形成されたと推定される.今回の研究結果により,雪崩予測における積雪変質モデルの適応の可能性が明らかになった.また,考えられている森林の雪崩抑制効果に関してより詳細に検討する必要性があることも示された.
著者
丸山 久一
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.150-156, 1977
被引用文献数
2
著者
樋口 敬二
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.195-207, 1968-11-30 (Released:2009-07-23)
参考文献数
25
被引用文献数
1 4

最近, 国際水文学十年計画 (IHD) の一環として, 地上および地下に存在する多年性氷雪の世界的規模における調査がおこなわれる計画があるが, 日本では, 万年雪, 雪渓が多年性氷雪であるので, これを機会に, 現在までにおこなわれた雪渓調査の記録をまとめた.もっとも古いのは, 1916年, 大関久五郎による月山の万年雪の調査であり, 以後, 月山のほか, 北アルプスの劔岳, 鹿島槍ケ岳, 雄山, 穂高岳, 大雪山などにおける万年雪, 雪渓の調査がおこなわれている.これらの報告をできるだけ多く, かつ, 一部は原文を引用して, 日本における多年性の氷雪の分布に関する資料とした.
著者
石田 邦光 大島 慶一郎
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.249-262, 2007

衛星リモートセンシングデータの中で,多くのデータ蓄積があるにもかかわらず,利用されずにいるデータの一つがMOSデータである.3つの異なったセンサによる同時観測という優れた特性を有しながら,取得されたデータが広く研究に利用されることはなかった.しかしながら,雪氷研究においては,観測対象域が極域に多くあることから,少ないながらも利用されてきたといえる.特に,南極域においては,昭和基地において精力的に受信されたことから,貴重なデータを数多く得ることができた.MOSの一つのセンサであるMESSRによって観測された範囲は昭和基地沖周辺に限られるが,これらの画像からは,南極季節海氷域のさまざまな特徴を知ることができる.a)定着氷から氷縁に向かって氷野内の海氷分布構造がいくつかの特徴的な領域に分類できること.b)沿岸ポリニヤの定常的な出現やポリニヤ内における海氷移動の特徴を知ること.c)氷縁だけでなく氷縁内部まで形成されるアイス・バンド構造を理解できることなどである.ここでは,これらの研究成果を紹介することで,MOS MESSRデータの海氷観測における有効性を示した.
著者
松下 拓樹 権頭 芳浩
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.355-365, 2000-07-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
38
被引用文献数
2

雨氷発生の気候学的な地域特性を調べるため, 長野県を解析対象地域として, 雨氷発生日の特定を行い, その年平均日数の地域分布を求めた.雨氷は, 過冷却の雨滴が地物などにあたり氷になる着氷現象の一種で, 上空暖気層 (気温0℃以上) で雪片が融解して雨滴となり, それが地表付近の寒気層で冷されて過冷却の雨滴 (気温0℃以下の降水) となり発生する (melting ice process).その他, 大気全層の気温が0℃以下の場合 (supercooled warm rain process) でも発生することがあるが, ここではmelting ice processのみを対象とした.高層資料から上空暖気層の有無を, AMeDAS資料から地表付近の寒気層と降水の有無を調べ, 二つの気象条件を満たす日を雨氷発生日と定義した.過去20冬季 (1979年11月~1999年4月) について調べた結果, 雨氷の発生は3月に最も多く, 次いで12月に多いことがわかった.また, 最近6年間は雨氷発生日数が少ない傾向にある.次に, 地形因子値を用いた重回帰分析から, 年平均雨氷発生日数のメッシュマップを得た.その結果, 年平均雨氷発生日数は長野県中部と東部で多いことがわかった.特に標高との関係が強く, 山岳地域や高原地域で多くなる傾向が得られた.一方, 北部と南部の低標高地域では少ない傾向にある.
著者
牛尾 収輝 若林 裕之 西尾 文彦
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.299-305, 2006-07-15 (Released:2010-02-05)
参考文献数
19
被引用文献数
2 4

1990年代後半から2005年までの間,南極リュツォ・ホルム湾では沿岸定着氷の崩壊・流出が頻繁に観測されている.南極沿岸海氷の変動特性を把握するために,同湾で生じる海氷流出の履歴に着目して衛星画像を解析した.その結果,流出発生の有無,つまり海氷の安定/不安定は数年間ずつ続いていること,それらの発現時期は海氷上積雪深や地上気温・風系の年々変化の傾向と符合していることが見出された.また,同湾南端に流れ込む白瀬氷河の浮氷舌の動態を加えて,過去50年間の沿岸定着氷の変動を推定したところ,1980年代初期以降の約25年間は不安定で,それ以前に長期間続いた安定な氷状と顕著に異なることがわかった.南極リュツォ・ホルム湾の沿岸定着氷の変動を解析した結果,以下のことがわかった.
著者
井上 聡 横山 宏太郎
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.367-378, 1998-09-15
被引用文献数
18 11

地球環境変化は,日本の冬季の気候や降積雪状況に対して大きな影響を与えることが予想される.そこで,大循環モデルの数値実験結果である地球環境変化シナリオを元にして,日本での降積雪状況の変動予測を行った.その手法は,月平均気温と月降水量を入力とし,経験的モデルによって月降雪深を予測し,得られた降雪深と気温から統計的に最深積雪と雪質を予測するものである.この手法を用い,時系列的に現在から100年後までの降積雪状況の変動を推定したところ,地域的な特徴が明らかになった.北海道と本州山岳地域では,最深積雪が減少した以外は降積雪状況の変動はあまりなかった.山岳地域を除く東北地方では,降雪深と最深積雪が減少し,乾き雪から湿り雪に変化するという大きな変動が生じた.北陸地方以南の日本海側平野部では,気温上昇によって降雪しなくなり,積雪も生じなくなった.これらの特徴は50年後以降に特に顕著となった.また,3つの他の地球環境変化シナリオからも同じ降積雪状況への移行が予測された.降雪深の年々変動は,東北地方北部と北海道で51~75年後に変動幅が大きくなると予測された.
著者
長谷美 達雄 馬場 邦彦
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.119-126, 1994-06-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

関東地方では,南岸低気圧の通過の際に低気圧による暖かな東寄りの気流とこれとは相対的に冷たい北西部からの気流との間に局地前線が形成される.発達した低気圧の場合には東寄りの気流が強く内陸深くまでおよび,はじめ房総半島に見られた局地前線は内陸に進行する.一方,地上付近の北西風は関東西部の山地と前線との間に収束される.前線の西側で湿雪が降り,送電線着雪の発達条件となる.過去の大きな着雪事故はこの地域内で発生している.この地域性は関東の地形に起因し,また低気圧による局地的な前線と関連が深いと考えられるので,局地的な前線の成因と着雪発生との関わりについて考察した.
著者
福嶋 祐介 木本 二郎 原 正栄 小林 敏夫 酒井 隆市 石丸 民之永 八戸 剛志
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.399-403, 2003-07-15
被引用文献数
2

長岡市よりの委託を受けて,新しい地下水節水型の消雪パイプの有効性を確認し実用化を図るために,長岡市道にて消雪パイプの実証試験を行なった.このプロジェクトは産・官・学の協力の下でおこなわれ,現場実験は実質的に平成15年1月15日に始まった.消雪パイプは極めて有効な除排雪システムではあるが,地下水を用いることで地盤低下,地下水位減少に伴うくみ上げの困難,歩行者に対する散水など,さらに消雪パイプを普及させるためには困難も多い.本実証試験は,降雪強度計を用いて降雪量を測るとともに,インバータで揚水ポンプを制御して,必要最小限の散水を行なおうとする新型の消雪パイプである.この消雪パイプの有効性を確認するため,流量計,水位計,圧力計などを取り付け,これらからの出力をADSLを介してサーバーにデータを蓄積し,いつでもデータを利用可能なシステムとした.また,現地にはデジタルカメラを3台取り付け,画像データもインターネットを介して閲覧可能にした.このことで,1月15日から3月31日まで1分間隔(画像データは10分間隔)で保存するようにした.それ以外にADSLを介して制御パラメータの変更もできる.データはまだ十分な解析を行なっていないが,ここに2003年冬季分の成果を示すことにした.
著者
菊地 勝弘
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.659-662, 2007-11-15
被引用文献数
1

北海道倶知安町の「風土館」に2005年12月から常設展示されているニセコ着氷観測所で実験に使用されたと思われるゼロ式艦上戦闘機(通称:ゼロ戦)の右主翼の発見に端を発した観測所の全容や,実験機の真偽については既に紹介してきた.また,実際に行われた主翼の摺動式防氷装置の実験結果や,中谷宇吉郎が主導したニセコ着氷観測所と孫野長治が主導した手稲山頂の北海道大学雲物理観測所についても考察されている.しかし,U.N.Limitedや中谷宇吉郎雪の科学館に保存されているアルバム,またその他の資料を見比べて,ニセコ観測所での転進台からの九六式の落下事故や,それに関連した九六式の左右の主翼の欠落は何を意味しているのかといった,これまで報告されてこなかった実験機のその後の疑問について検討してみた.
著者
大野 宏之 横山 宏太郎 小南 靖弘 井上 聡 高見 晋一 WIESINGER Thomas
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.225-231, 1998-05-15
被引用文献数
17 13

気象庁で使用されているRT-1, RT-3, RT-4型の転倒桝降水量計について,固体降水に対する捕捉率を新潟県上越市において2寒候期にわたり観測した.捕捉率の計算に必要な真の降水量は,WMO「固体降水の比較観測に関する国際組織委員会」が定めた方法に準じて推定した.観測の結果,固体降水の捕捉率はいずれの降水量計でも風速が強いほど減少し,風速4mにおいては無風時の60%程度であった.減少の程度は,RT-3, RT-1, RT-4の順で大きかった.準器に着雪が発生するなど,国際組織委員会が定めた方法は,北陸地方の降雪の特性には必ずしも良く対応していない点があることが観察された.
著者
福嶋 祐介 大澤 範一
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.357-369, 2007-05-15
被引用文献数
1

本州日本海側の豪雪地帯ではその雪の量にも係わらず比較的温暖である.このため,2月から3月にかけては,全層雪崩が多発し,人家に被害を及ぼしたり,道路の閉塞を伴う災害が発生する.このような全層雪崩についてはこれまで多くのモデルが開発されている.しかし,これらのモデルは実際に起こる雪崩をかなり簡略化したり,雪玉の運動に置き換えたりするモデルである.本研究では流体力学の基礎方程式を元にこれを斜面に対して直交方向と流れ方向に積分して,全層雪崩の基礎方程式を求めた.さらに,構成関係式を加えて,雪崩のシミュレーションを可能にするモデルを構築した.この中で,雪の取り込み係数と離脱係数の評価が重要であることを示した.
著者
杉森 正義 川本 義海 本多 義明
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.179-189, 2005-03-15

1945年(昭和20)の地方新聞の記事から,同年寒候期の雪および雪と社会との関わりを調べた.年最大積雪深は161cmで,当時では既往5位,現在では7位である.歴史的には,太平洋戦争の末期で,社会状況は現在からみると異常なものであった.収録の対象は,雪に関係する記事すべてとし,145件あった.記事の特性を調べるため,地域,雪との関係(雪の記事とした根拠),内容,記事のヒーロー,および記事の動機の5個の軸項目で整理し,さらに軸項目間のクロス集計をとった.雪との関係の割合は,雪害発生(6.2%),雪害予防(4.8%),雪対策(35.2%),で,他は雪が介在または背景の記事であった.内容分類では,鉄道,居住地および道路,農業,林業の順で多かった.記事の中で注目を集める誰かをヒーローとすると,地域住民,行政,児童生徒の順であった.記事の動機は,勤労奉仕,事実の報道,職務精励の順であった.以上から,鉄道や農業などの雪対策において,地域住民や児童生徒の勤労奉仕が賞賛されているパターンのものが多く,雪の記事は当時の社会状況を強く反映していることがわかった.また,本報告の解析方法により今の雪問題の議論との接点ができた.
著者
白樫 正高
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.159-167, 1994
被引用文献数
9

雪を水と混合してポンプ・管路系により輸送する技術を除雪に応用することは昭和47年ごろから研究されているが,現在まで実用に供された例の報告は,昭和58年に敷設された当時の国鉄福井駅の線路除雪設備があるのみであり,未だ技術開発の途上にある.雪は水より密度が小さく,互いに付着して塊を作りやすいことから,雪水混合体の流れの挙動は石炭や鉱石の水力輸送に見られる通常の固液二相流とは異なる.それゆえ,圧力損失の予測や固体の分率の計測・制御に対する既存の方法がそのままでは適用し難い.本稿では,筆者らのこれまでの研究により得られた,雪水二相流の流動特性についての理解と計測・制御技術を概説する.
著者
生頼 孝博 山本 英夫 岡本 純 伊豆田 久雄
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.189-197, 1984
被引用文献数
6 1

早強ポルトランド・セメントを土に混合することによる凍上及び解凍沈下抑制効果を調べるために, 開式の室内凍上・解凍沈下実験を行った.供試体は藤の森青粘土に種々の割合でセメントを混合し, 3種類の荷重で圧密しつつ一週間養生して作製した.拘束応力が小さい場合には吊り下げ式凍結装置を用い, 拘束応力が地下数10mに相当する場合には開式凍結・解凍試験装置を用いた.<BR>凍上量は, セメント混合比<I>W<SUB>cs</SUB></I> (炉乾土に対する重量比) で10%程度セメントを加えることにより急激に減少し試料土のみの場合の1/8~1/4になるが, それ以上<I>W<SUB>cs</SUB></I>を大きくしても若干の凍上は残るという結果を得た.未凍結土の動水抵抗増加による凍上抑制効果について, 実測した透水係数を用いて検討を行ったがその効果は小さく, セメント混合による吸水能力の低下が凍上抑制の主因であると推察された.<BR>一方, 解凍沈下は試料土のみでは2%程度凍結前よりも沈下するが, セメント結合に起因する土粒子同志の結合力の増加により, <I>W<SUB>cs</SUB></I>=8%程度で沈下は無くなりそれよりも大きい<I>W<SUB>cs</SUB></I>では若干の浮上となった.<BR>以上のことから, 藤の森青粘土のような土の場合, <I>W<SUB>cs</SUB></I>=10%程度のセメント混合は凍上及び解凍沈下抑制において有効な方法であることが, 室内実験において確認された.
著者
田澤 博
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.1-3, 1949

寒地農業は未完成の農業であり, 幼稚な農業である。幼稚なメセに内地の大人の眞似をしだマセた農業である。自然環境の異る所で, 僅々50年, 俄造りに格構すけられた農業である。從て現在寒地農業が直画している問題は極めて多いが, 技術的に觀ただけでも非常に多い。元來農業は技術的に幼稚で差支えないもののように羅され勝であるが, 事實は全く異りているもので, 現在の農業は殆ど郷を除いては全くの經驗農業でしかない。沿革の淺い寒地農業が實績に於て暖地農業に著しい遜色を感するのは固より當然の事である。併し寒地農業は輓近科學の發達しつつある今日に於て其の改良を餘儀なくされているのと, 自然條件が不利と考えられているだけに痛切に, 科學の力が要望されて居り, 寧ろ此の點恵まれた實情にあることは事實である。私共が北海道に住んでいて北海道農業が内地農業を凌駕する時期の到來が案外早いのではないかと考えているのは此の爲である。北海道農業は物理學, 氣象學, 低温科學等の協力を相當歡迎しているが, 之を積極的忙導入する過程に入つたならば其の躍進は火を見るよりも瞭かである。科學導入の農業は恐らく北海道農業が内地農業よりも一足先に完成するであろう。農業は現在の段階に於て一鷹は完成の域に達していると考えられている。之は農學から観た見方である。今後の進歩は徐々で一應は行詰つたとも云える。而も農業にはなお著しい豊凶があり, 不時の災厄も兔れ難い。残され左改良進歩は他の科學によつて未知の世界を開拓する外にはあるまい。人爲的に天氣を變える事だつて全く不可能とは云い切れない今日, 農業の凶作を人工で防ぐことだつて決して不可能だとは思えない。堂々たる農業技術者が技術の權威を誇り乍多も自然的災厄に對しては極めて卑屈であり, 斷念的なのは斯の方面の知識に乏しく, 飴りにも自然の力を恐れ過ぎ敬遠し過ぎている事に基因していると思う。茲に學問の分科制度の缺陥が見られる。私は寒地農業の諸問題の解決には先す離れ過ぎている物理學, 氣象學, 工學, 化學等の農業えの接近を張く強調したいのである。農象以外の科學者は農業を知らないという理由の下に農業えの協力を喜ばない風があるが, 我々は一般の學者に農業を知つて貰わないでも協力を受けたや問題が澤山ある。夫々專門の學者の助言や應用に對する僅かの指示が如何に大きい効果を實際に齎すか想像以上で, 寒地農業の諸問題は實に之等諸學者の支援に期待する處の多いものである。以下殆ど項目に止まるかも知れないが, 記して各位の御批判と御認識を得たいものと考える。
著者
榎本 浩之 東 久美子 亀田 貴雄 藤田 秀二 本山 秀明
出版者
日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.405-414, 2002-07-15

日本雪氷学会の極地雪氷分科会の将来計画に関するワーキンググループにおいて,次期の南極観測計画について検討を行った.観測計画は2002年よりの観測開始にむけて準備が進んでいる.研究課題の概要について報告する.<BR>地球規模の環境変動の研究という視点から南極観測を見直し,優先して推進すべき研究課題の調査を行なった.その中から雪氷研究プロジェクトとして推進するのが望ましい課題の抽出,より良い観測体制などについて検討した.優先すべき研究課題として i)過去70~80万年間の気候変動及び氷床形成史に関する研究,ii)堆積環境,氷床変動に関する研究・過去数百年の環境変動の研究,iii)氷床への物質の堆積及び蓄積機構の研究,iv)氷床内部構造の研究,を推薦し,「氷床―気候系の変動機構の研究観測」として極地研究グループに提言した.