著者
亀田 貴雄 桑迫 拓哉 白川 龍生
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.199-222, 2023-07-15 (Released:2023-09-04)
参考文献数
35

冬期の平均的な積雪深を表す指標として年平均積雪深を新たに導入し,従来から用いられている年最大積雪深による結果と比較した.その結果,北海道,東北,北陸で気象庁が観測する 48 地点での過去60年間の年平均積雪深のトレンドは北海道日本海側3地点,北海道オホーツク海側1地点,北陸6地点で減少を示し,北海道太平洋側4地点,東北太平洋側1地点で増加を示した.年平均積雪深を用いることで従来の年最大積雪深では検知されなかったトレンドを新たに6地点で検出することができた.年最大積雪深のトレンドは年平均積雪深の1.6~3.4倍となり,年最大積雪深を用いて平均的な積雪深を評価すると変動傾向は過大評価となることがわかった.一方,48地点を冬期気象に基づき6つの地域に分類し,地域ごとの年平均積雪深と年最大積雪深の経年変化を調べた.その結果,年平均積雪深では北海道太平洋側は増加,北陸は減少のトレンドが検出できた.年最大積雪深では北海道日本海側と北陸で減少のトレンドを検出できた.48地点の積雪深と気象指標(冬期平均気温,北極振動)との関係,積雪期間,積雪初日,積雪終日の変動,顕著な積雪深減少が続いている北陸での減少理由を議論した.
著者
亀田 貴雄 本山 秀明 藤田 秀二 高橋 修平
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.151-158, 2008-06-30
被引用文献数
1

1995年1月25日に南極ドームふじに36本雪尺(20m間隔で100m×100m)が第36次南極地域観測隊により設置され,それ以来雪尺の高さが継続的に測定されてきた.ドームふじ基地で越冬観測を実施した4年間(1995年1月から1997年12月及び2003年1月から2004年1月)は月2回測定し,それ以外は年1回の測定(1月上旬が多い)を実施した.この結果,1995年から2006年までのドームふじの年平均表面質量収支は,27.3±1.5kgm^<-2>a^<-1> であることが推定できた.これは,ドームふじ浅層コアから推定された西暦1260年から1993年までの平均値(26.4kgm^<-2>a^<-1>)と近い値であった.また,ドームふじでは1年後に雪尺の高さが等しいかもしくは高くなっている「負の年間表面質量収支」が8.6%の確率で起こっていることがわかった.南極内陸に位置するボストーク,南極点,ドームCでの同様な観測結果と比較することにより,負の年間表面質量収支は年平均表面質量収支の増加とともに減少し,190kgm^<-2>a^<-1> 以上の地点ではで負の年間表面質量収支は95%の信頼水準で起こらず,正の年平均表面質量収支が期待できることがわかった.190kgm^<-2>a^<-1> 以上の年平均表面質量収支は地域により異なるが,現在の南極氷床ではおおよそ標高1500-2500mに相当するので,この標高域では毎年の積雪が氷床に記録されている地点が多いことが推定できた.一方,ボストークでのピット観測結果を参考にして,現在及び氷期のドームふじコアでの年層欠損確率をそれぞれ9.4%,11.4% と見積もった.この他に,ドームふじで1本の雪尺を1年間観測した時に得られる年平均表面質量収支の誤差,10年後の再測定で得られる年平均表面質量収支の誤差などを論じた.
著者
白岩 孝行 西尾 文彦 亀田 貴雄 高橋 昭好 戸山 陽子 MURAVYEV Yaroslav D. OVSYANNIKOV Alexander A.
出版者
日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.25-40, 1999-01-15
被引用文献数
1 5

カムチャツカ半島ウシュコフスキー氷冠において雪氷コア掘削ならびに現場解析を実施した.標高3,901m,氷厚240mを有するK2地点に総計2.4トンの物資をヘリコプター輸送し,1998年6月20日から30日にかけて雪氷コアを掘削した.総掘削回数307回,総掘削時間103時間で全長211.7mの雪氷コアを採取した.掘削終了後,20m毎に掘削孔壁の温度を測定した.深度10mは-15.7℃,底部211.7mは-4.2℃であり,表面からほぼ直線的に漸増する温度垂直分布が得られた.掘削と並行して,層序観察,バルク密度測定,ECM(固体電気伝導度)測定,デジタルビデオによるコアの撮影を行った.現場解析ができた表面から深度141mまでのコアによれば,55m付近の氷化深度以浅では,コアは融解・再凍結氷と融解を経験していないフィルンからなり,氷化深度以深では融解・再凍結氷と圧密氷との互層から構成されていた.深度141mまでのコア中には目視できる火山灰だけでも183層が確認され,そのうち2層が火山灰の特徴から噴出年代が特定された.ECMとビデオ撮影したコアのモザイク画像とを比較した結果,ECMシグナルは火山灰層で低下,融解・再凍結氷層で上昇する傾向が見られた.一方,高所における掘削オペレーションであったため,人員の健康面での各種データを採取し,高所順応の個人差を考察した.
著者
亀田 貴雄 高橋 修平 渡邉 興亜 平沢 尚彦 佐藤 秀昭 浜田 始
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.541-554, 2018 (Released:2023-03-01)
参考文献数
27

1991年から現在まで,北海道足寄郡陸別町では雪氷分野での実験・観測として,陸別の寒さに関する観測,深層掘削機開発実験,雪上滑走路造成実験,降雪量比較観測,が実施されてきた.これらの大規模な観測・実験を実施するためには,実験を計画する研究者側の熱意とともにそれを受けとめる地域の協力が極めて重要である.陸別での観測・実験では両者が有機的につながったため,これらの実験・観測を実施することができた.この報告ではこれらの観測・実験の最初の一歩の説明から始まり,それぞれの観測・実験の実施状況,さらに主要な成果を説明する.
著者
高橋 修平 亀田 貴雄 本山 秀明 Shuhei Takahashi Takao Kameda Hideaki Motoyama
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.52, no.特集号, pp.117-150, 2008-06-30

本報告は,1991年から2007年(第32次南極地域観測隊から第48次隊)に東南極氷床の内陸域に位置するドームふじ基地を中心として実施された「ドームふじ観測計画」で得られた雪氷・気象観測の主要な成果を取りまとめたものである.現地での雪氷・気象観測は,「基本観測」及び「研究観測」として実施された.前者は,ドームふじ観測計画として立案したものであり,後者は南極地域観測隊に参加した研究者が立案したものである.2001年から2007年(第42次隊から第48次隊)まで実施された第二期ドームふじ観測計画期間での基本観測については,観測方法及び現地での観測実施状況を詳しく述べた.なお,ドームふじ観測計画により得られた雪氷・気象観測結果を報告する論文・報告は現在までに157編,学会等での口頭・ポスター発表は243件であった.
著者
藤田 秀二 上田 豊 東 久美子 榎本 浩之 亀田 貴雄 高橋 修平 古川 晶雄 松岡 健一
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.415-425, 2002-07-15 (Released:2009-08-07)

近年のデータ通信環境の進歩に伴い,南極雪氷観測データの取り扱いに関しても,その保存・公開方法の見直しが急務となっている.南極研究プロジェクトの努力の結晶であるデータが,将来にわたり価値を保ちつつ研究に活用され,散逸の危険なく安全な保存がなされ,且つ,アクセス権・版権・公開方針が一定のルールのもとで取り扱われる必要がある.こうしたマネジメントの善し悪しが,研究コミュニティーの将来の知的生産性に決定的に影響するため,問題提起と要点の整理を目的として本稿を提出する.各国の事例を参考に,マネジメントに求められる諸機能を分析した.重要な点は,長期に安全に維持運営される必要があること,国家事業として実施されてきた南極観測を対象としたマネジメントであること,それに,研究コミュニティーがこれを実質的に構築し且つ利用者となることである.このため,(1)南極研究機構のなかでデータマネジメント機構を作る体制が望ましい.(2)情報管理の専門性と手間を考慮した場合,専門情報技術者を配置した維持管理が不可欠である.さらに,(3)仕組みが機能するには,研究コミュニティーからのサポートが不可欠である.
著者
高橋 修平 佐々木 正史 大橋 鉄也 川村 彰 榎本 浩之 鈴木 聡一郎 高橋 清 亀田 貴雄 菅原 宣義 堀 彰 舘山 一孝 中山 恵介
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

研究課題について次のような成果を得た。(1)知床半島は海氷の流れに対して「せき止め効果」を持ち、北海道で最も長く海氷が接岸する。(2)知床峠の山間部では吹き払いによる無雪区間と5m以上の吹きだまり区間と地形に依存する積雪特性が得られた。(3)知床半島で陸生動物も入った栄養塩循環が確認された。(4)送電線がいしに海塩汚損と着氷による電力障害を観測し、低温実験室内でも再現できた。(5)雪氷環境と人間社会に関する様々な課題が研究された。
著者
亀田 貴雄 川村 彰 高橋 修平 本山 秀明 古川 晶雄
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

南極氷床の沿岸域から内陸 1000kmに位置するドームふじ基地までの雪面の起伏状況を雪上車および橇に搭載した3次元加速度計を用いて定量化し,その分布の特徴を明らかにした。ドームふじ基地では雪尺を用いた積雪堆積量観測を継続し, 2008年以,年間積雪堆積量は 1995~2006年と比べると変動が大きくなったことを見いだした。また, 2003年 11月 14日未明にドームふじ基地で起こった皆既日食中の気象観測データの解析を進め,急変する日射量の変動による気温と雪温の変化の状況を明らかにした。
著者
佐藤 和秀 亀田 貴雄 石井 吉之 的場 澄人 高橋 一義 石坂 雅昭 竹内 由香 横山 宏太郎 小南 靖弘 川田 邦夫 渡辺 幸 飯田 俊彰 五十嵐 誠 竹内 望
出版者
長岡工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

北海道から本州の山形県,新潟県,富山県にいたる冬期の降積雪試料を採取し,主に酸性雪に関する化学特性の解析を行い,その実態の調査研究を実施した。報告例が少ない降積雪の過酸化水素濃度に関する多くの知見が得られた。より明確な因果関係の把握にはさらなる観測調査が必要であるが,大気汚染物質あるいは積雪の主要イオン濃度,過酸化水素濃度,pH,黄砂,雪氷藻類などの間にはいくつかの相関関係が見られ,融雪水のイオンの選択的溶出も観測された。