著者
佐藤 圭悟 金子 弘昌
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.187-193, 2019 (Released:2020-01-28)
参考文献数
20

定量的構造活性相関や定量的構造物性相関では,それぞれ化合物の活性・物性 y と化学構造の特徴を数値した分子記述子 x との間の関係を定量的にモデル化する.回帰モデルの予測性能を向上させるため,アンサンブル学習では複数のサブモデルを構築し,サブモデルからの y の予測値を統合して最終的な y の予測値を計算する.各サブモデルの適用範囲 (applicability domain, AD) を考慮することで,AD 内のサブモデルのみ用いてアンサンブル学習における予測性能が向上することは確認されているが,x が異なるサブデータセット間で AD の比較はできず,新しいサンプルごとにサブモデルを選択したり重み付けしたりして y の値を予測することはできなかった.そこで本研究では AD の指標の 1 つである similarity-weighted root-mean-square distance (wRMSD) に着目し,wRMSD に基づいてサブモデルの重み付けを行う wRMSD-based AD considering ensemble learning (WEL) を開発した.wRMSD は y のスケールであるため x の異なるサブモデル間で AD の比較ができ,wRMSD に基づいて各サブモデルからの y の予測値に重み付けすることで,予測値の信頼性の高いサブモデルほど重みを大きくして予測することが可能となる.水溶解度・毒性・薬理活性それぞれが測定された 3 つの化合物データセットを用いた解析をしたところ,WEL を用いることで従来のアンサンブル学習法と比較して AD が広がり予測性能が向上することを確認した.WEL の Python コードは https://github.com/hkaneko1985/wel から利用可能である.
著者
満野 仁美 奥脇 弘次 伊藤 雅仁 望月 祐志
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.126-128, 2019 (Released:2019-10-30)
参考文献数
8
被引用文献数
2

We have been developing a Scratch-based educational program for machine learning in the chemistry context. This system has an interface with the DeepChem library set of Python. The solubility prediction of several molecules with SMILES notation was demonstrated as a preliminary application.
著者
Amih SAGAN 長嶋 雲兵 寺前 裕之 長岡 伸一
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.75-77, 2011 (Released:2011-09-05)
参考文献数
8
被引用文献数
3 1

初心者向けの量子化学の教科書には異核2原子分子の例としてLiHが取り上げられ,その分子軌道エネルギー準位図が示されている.その図ではLiHの2σ軌道のエネルギーがH原子の1s軌道よりも低い軌道エネルギーを持つことが示されているが,非経験的ハートリーフォック法を用いるとそれが再現できない.本ノートでは非経験的ハートリーフォック法で描かれるLiHの軌道エネルギー準位図を示す.用いた基底関数は6-311++G**である.非経験的ハートリーフォック計算から得られる図では,2σ軌道の軌道エネルギー(-8.18749 eV)はLiの2s (-5.3392 eV)より低く,安定化しているが,Hの1s (-13.60 eV)より高く,不安定化している.2σ軌道はおもにHの1s軌道で構成されており,Hの形式電荷は約-0.4であり,H周辺にLiの2s電子が過剰にあるため,Hの1s軌道から見ると相対的に電子間反発で不安定化する.
著者
藤芳 明生 坂本 雅志
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.199-201, 2018 (Released:2019-02-16)
参考文献数
2

This paper proposes a substructure search method for finding an element of a set of chemical structures represented by a SMILES string with regular expression extension. It is known that substructure search is an NP-hard problem in general. However, by taking advantage of a graph-theoretical characterization of chemical compounds, the proposed method runs fast enough. Software for substructure search using the proposed method was implemented and released.
著者
梅田 宏明 塙 敏博 庄司 光男 朴 泰祐 重田 育照
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.69-70, 2015 (Released:2015-09-25)
参考文献数
6
被引用文献数
5

GPU acceleration of four-center (4C) inter-fragment Coulomb interaction term (IFC) for OpenFMO, a fragment molecular orbital calculation program, has been implemented and its performance was examined. FMO calculation has two time-consuming steps: Fock matrix construction and IFC calculation, and in our previous letter, it was reported that the former is successfully accelerated with our GPU-enable code. The 4C-IFC calculation is the core part of the latter and its code is similar to that of Fock matrix construction. In this letter, we briefly describe the GPU-accelerated 4C-IFC calculation routine, and report a performance benchmark for GPU-accelerated FMO calculation. The GPU-accelerated program shows 3.3× speedups from CPU only FMO-HF/6-31G (d) calculation for 642 atomic protein on 8 nodes of HA-PACS base cluster.
著者
福田 朋子 松本 高利 田辺 和俊 長嶋 雲兵 青山 智夫
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.1-8, 2002 (Released:2003-04-08)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

新規フロン代替物質探査のために、フロン類に特有なC-Fの強い吸収が観測される1500-500cm-1付近の含フッ素化合物44分子の赤外吸収強度とそれらの分子の8種類(C=C, C-C, C=O, C-O, C-H, C-F, C-Cl, O-H)分子内結合数との相関を3層のパーセプトロンタイプニューラルネットワークに学習させ、8種類の分子内結合数の赤外吸収強度への影響を3層パーセプトロン型ニューラルネットワークの入力パラメータの感度解析(パラメータスキャン)[2]と偏微分係数解析[3, 4]を用いて解析した。ニューラルネットワークは、Leave-one-outテストで誤差が10%以下の予測を行うよう学習を行った。感度解析の結果、C=C, C-C, C=O, C-O, C-H, C-F, C-Cl, O-Hの8種類の分子内結合のうち C=O, O-Hが多いと赤外吸収強度が大きくなることが判った。C-Fもその結合数が多い場合は赤外吸収強度が大きくなるが、相対的に少ない場合はむしろ吸収強度を小さくする。C-Oは全く吸収強度に影響を与えない。偏微分係数解析では、C-C, C=O, C-Cl, O-Hの数が大きな吸収強度に寄与することが判った。C-OとC-Fの影響は小さいことが示唆された。両者の結果は不飽和炭素アルコール系より飽和炭素エーテル系のフロンの方が赤外吸収強度の小さな代替フロンができる可能性の大きいことを示唆している。
著者
吉村 忠与志 八木 徹 千田 範夫
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
pp.2016-0046, (Released:2017-04-14)
参考文献数
5
被引用文献数
1

分子モデリングソフトウェアには3Dプリンタ用STLファイルを創出するものが開発されていない.そのため,いろいろな機能を付加した研究が進む中で,Winmostarで作成できるVRML形式ファイルをBlenderでSTLファイルに変換して分子軌道モデルを3Dプリンタで作成することができた.これによって,分子軌道の3Dモデルを簡単に作成できることから,この方面でのますますの利用を期待できる.
著者
八木 徹 神部 順子 長嶋 雲兵 青山 智夫
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.227-228, 2017 (Released:2017-02-04)
参考文献数
6

A smartphone application for observating atmospheric state and visualizing suspended particle matter (SPM) was developed. By using the ratio of B/R, G/R and B/G, it was confirmed that the nonlinearity in the developed image can be canceled and the distribution of scattered light in the atmosphere can be observed.
著者
末永 敦 梅津 倫 安藤 格士 山登 一郎 村田 武士 泰地 真弘人
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.103-116, 2008-09-15 (Released:2008-09-18)
参考文献数
36
被引用文献数
1 2

ATP 合成酵素であるF 型ATPase は, ほとんどの生物に存在する膜貫通型タンパク質であり, ATPの加水分解反応に共役した分子の回転が観察されている. ATPase活性を持つ最小単位はα3β3γ複合体であり, 触媒部位である3つのβサブユニットはATP結合型(βTP), ADP結合型(βDP),空の構造(βE)の3つの異なる構造が解明されている. それらβサブユニットの3つの構造は異なる基質親和性を持つとされ,実験的に基質親和性の測定がされてきた. しかし, ADPの親和性に関しては未知であり, γサブユニットの回転をもたらすβサブユニットの構造変化も解明されていない. そこで, 分子動力学法/自由エネルギー計算により触媒部位の基質ATPとADPを相互変換したときの自由エネルギー差を見積もり,さらにその基質変化に伴うβ サブユニットの構造変化を観察した. その結果, βDP の構造が最もADP との結合親和性が高いことが解った. この算出値は一分子観察の結果から推測された加水分解反応モデルを熱力学的知見から裏付けるものであった. さらに, βサブユニットの構造変化とγサブユニットの回転を共役する役目を持つと考えられているDELSEED配列(Asp394∼Asp400)付近の構造を観察したところ, 基質変換に伴い構造変化が確認された. すなわち, DELSEED配列近傍のPhe418∼Gly426 は, 触媒反応と構造変化, 回転を共役するのに重要な残基であることが示唆された. 以上の結果から, ATP加水分解・Piの放出に伴い, DELSEED 配列付近の構造が変化し, それがγサブユニットの回転をもたらすという分子機構の様子が明らかになった.
著者
戸澤 理詞 玉井 良則
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
pp.2015-0021, (Released:2016-11-25)
参考文献数
16
被引用文献数
6

立体規則性高分子の単結晶において,分子鎖間に「分子キャビティー」と呼ばれる空孔が生成する系があり,その構造を制御することにより,特定の分子を分離・回収する高性能な分離膜としての利用が期待されている.分子キャビティーの構造を解明するために様々な研究が行われているが,複雑なキャビティーの構造を立体的・直観的に把握することは困難である.そこで,本研究では,3Dプリンターを用いてキャビティーの立体モデルを作成することで,構造の理解を深めることを目的とする.分子キャビティーを持つシンジオタクチックポリスチレン(s-PS)のδe型,ε型及びS-I型を対象として,分子動力学(MD)シミュレーションを行い,分子キャビティーの構造を再現した.得られたデータを3Dプリンターで利用可能な構造データに変換し,分子キャビティーの立体造形モデルを作成した.δe型について,b軸方向及びac軸方向につながるチャネルを再現したところ,気体分子が拡散しやすいac軸方向につながるチャネルの方が太くて短い様子が十分に再現されていた.一方ε型とS-I型については,それぞれ,円筒型とジグザグ状のチャネルが得られた.さらに,これらのモデルに気体分子を挿入した系について解析を行い,気体分子が跳躍運動をしている瞬間を3Dモデル化することにより,結晶構造と気体の拡散様式の関係を直観的にとらえることに成功した.
著者
城石 英伸 鈴木 和久 瀬尾 美智子 時田 澄男 金子 正夫
出版者
Society of Computer Chemistry, Japan
雑誌
Journal of computer chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.37-46, 2002-03-15
参考文献数
14
被引用文献数
2

さまざまな消光剤濃度における減衰曲線を13種類のモデルで解析するため,減衰曲線の消光剤の濃度に対する関数を導出し,GAUSS-NEWTON法により解析するプログラム"Q-ChanG4(QuenCHingANalyzerG4)"を作成した。同時にStern-Volmer plotによる解析も行えるようにし,不均一系における消光機構の解析が容易にできるようにした。また、ポリエチレングリコール中でのRu(bpy)<SUB>3</SUB><SUP>2+</SUP>の発光のMV<SUP>2+</SUP>による消光反応を研究した結果、消光機構はModel 10によく一致し、ポアソン分布型の静的消光と、動的消光の複合型の消光機構であることが明らかとなった。また、この系においては二次消光速度定数が2×10<SUP>8</SUP>M<SUP>-1</SUP>s<SUP>-1</SUP>と水中と同程度に大きく、局部的な分子運動が水中と同程度おこっていることが明らかとなった。
著者
吉村 季織 高柳 正夫
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.149-158, 2012
被引用文献数
10

近年,化学データを数学的・統計的手法により解析する「ケモメトリクス」が頻繁に用いられるようになってきた.しかし,日本の大学の化学教育の場ではほとんど取り上げられていない.ケモメトリクスや数値計算の専用ソフトウェアを使うことなく,現在最も普及しているソフトウェアのひとつであるMicrosoft Excel(Excel)の基本機能を用いてケモメトリクス計算を行うことができれば,多くの教育・研究機関で役立つものと思われる.シリーズ5回目は,スペクトルなどの観測データの前処理として用いられる平滑化と数値微分を取り扱う.平滑化や数値微分の代表的手法として最小二乗法を基にしたSavitzky Golay法(SG法)が広く知られている.我々はSG法と同原理の平滑化・数値微分法をExcel上で実行する方法を開発したので報告する.まず,SG法の畳み込み係数に相当する係数を求めるワークシートを作成した.さらにGauss関数を例に平滑化・数値微分を実行するワークシートを作成した.平滑化および数値微分値が,Gauss関数及びその導関数とよく一致していることを確認した.本法の平滑化・数値微分係数と,SG法の畳み込み係数を比較し,両者が等しいことを示した.また,畳み込み係数表の誤りも見出すことができた.これらの結果によって,本方法が平滑化・数値微分法として有用であると示された.
著者
志賀 元紀 高橋 由雅
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.104-111, 2012

医薬品の候補となる化合物空間は極めて膨大であり,また,化合物関連データベースが大規模化しているため,少ない計算コストのデータ解析手法が望まれる.本研究では,高橋らの開発した特徴ベクトルであるトポロジカルフラグメントスペクトル(Topological Fragment Spectra, TFS)を圧縮するによって,計算コストを抑えるアプローチを検討した.まず,TFSが周期性のあるスペクトルであることを示した.そして,周期性信号の圧縮に用いられるフーリエ変換とウェーブレット変換に基づくアプローチを用いて圧縮する手法を検討した.各手法で圧縮した特徴ベクトルを用いた類似度構造検索および薬理活性予測の数値実験によって,ウェーブレット変換による圧縮がより効率的な圧縮法であることが示された.
著者
本間 善夫
出版者
Society of Computer Chemistry, Japan
雑誌
Journal of computer chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.21-26, 2008-03-15
被引用文献数
1 2

Javaアプレットで動作するフリーの分子ビューアJmolを利用し,ブラウザで3D構造を参照できる生体高分子のWeb教材集を作成して公開した.Protein Data Bank(PDB)に収録されている構造データを必要に応じて加工し,Jmolスクリプトを用いて各データに適した様々な表示変更が可能になるようにしたもので,生命科学の教育・学習に活用可能である.<BR>これまで本研究室では以前広くChimeを用いて公開してきた教材を順次変換しているもので,膜タンパク質,シトクロムP450, 糖タンパク質など,種類別にしてそれぞれ構造の特徴を強調可能にすることで使いやすくしている.