著者
越智 敏夫
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 = NUIS Journal of International Studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-12, 2022-04-01

政治社会における公共性はどのように発生し、維持されるのか。市民の多数派の投票をもとに構成された政治権力(与党)によって形成された政府の主張のみが公共性を意味するのであれば、公共性とは単に多数派の意見のことを意味することになり、少数者の意見は公共とは無縁のものとなってしまう。また公共性が国家単位のみで議論されるのであれば、国家内の地域や各種集団のもつ公共性が否定されることになる。本稿では公共性のありかたを多層的な視点からとらえ、そのあるべき姿を論じる。そのための中心的事例として問題対象としたのは新潟県全域を送信対象としていた民間FM 放送局の停波、閉局という事象である。
著者
越智 敏夫
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.75-88, 2016-04-28

第一次世界大戦から第二次世界大戦にいたる時期、いわゆる「大戦間期」において日本の政治学は特異な発展を遂げたといえる。それは大正デモクラシーから始まり、天皇制ファシズムと超国家主義の勃興へといたる時期である。この現実政治と政治学的認識の同時的展開はどのように呼応していたのか。戦後政治学はこうした経験に対する「悔恨共同体」として始まったと丸山眞男は述べ、政治理論の有意性と科学性に関する論文によって戦後日本の民主化に深く関わった。その丸山の論考に対する高畠通敏の批判と継承の両面について検討する。その作業によって政治理論の現実政治に対する有効性の観念について考察し、戦後民主主義の理念的特性に関する議論を展開した。
著者
越智 敏夫
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 = NUIS journal of intenational studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
no.1, pp.75-88, 2016-04

第一次世界大戦から第二次世界大戦にいたる時期、いわゆる「大戦間期」において日本の政治学は特異な発展を遂げたといえる。それは大正デモクラシーから始まり、天皇制ファシズムと超国家主義の勃興へといたる時期である。この現実政治と政治学的認識の同時的展開はどのように呼応していたのか。戦後政治学はこうした経験に対する「悔恨共同体」として始まったと丸山眞男は述べ、政治理論の有意性と科学性に関する論文によって戦後日本の民主化に深く関わった。その丸山の論考に対する高畠通敏の批判と継承の両面について検討する。その作業によって政治理論の現実政治に対する有効性の観念について考察し、戦後民主主義の理念的特性に関する議論を展開した。
著者
向山 恭一
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 = NUIS Journal of International Studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.91-102, 2019-04-01

本稿の目的は、移民の時代における政治哲学の問題状況を、成員資格の観点から浮かび上がらせることである。第1節では、ジョン・ロールズとマイケル・ウォルツァーの正義論において、なぜ移民は語られないのかを検討し、境界線によって画定された共同体のもつ政治的な意味と限界を考察する。第2節では、ロジャース・ブルーベイカーとクリスチャン・ヨプケのシティズンシップをめぐる社会学的分析に目を転じ、近代国家における政治的成員資格(国籍)の包摂と排除の機制を明らかにするとともに、その現代における変容のプロセスについて考察する。第3節では、ジョセフ・カレンズの移民の倫理学を参照しながら、かならずしもシティズンシップの取得を必要とはしない、移民の時代にふさわしい成員資格のあり方を検討し、それが政治哲学にどのような問いを投げかけているのかを考察する。
著者
向山 恭一
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
no.6, pp.27-42, 2021-04-01

移民社会の到来とともに増大する多様性に、福祉国家を支える国民的連帯は応答することができるのか。政治学者のキース・バンティングとウィル・キムリッカは編著書『コミットメントが課す試練』(オックスフォード大学出版局、2017 年)の「序論:多様な社会における連帯の政治的源泉」のなかで、正しい社会において連帯が必要とされる倫理的理由、多様性と連帯(移民と市民)が敵対関係に置かれる言説的付置状況、そして増大する多様性のもとで包摂的連帯を実現するための政治的視座を規範的=経験的に論じることで、この問いに肯定的に答えている。新自由主義とポピュリズムに挟撃された福祉国家を守るためには、なによりも連帯の共同体であるネーションを再帰的に想像しなおさなければならない。本稿の目的は、こうしたバンティングとキムリッカの議論を手がかりに、現代の移民/多文化社会において包摂的連帯にもとづく福祉国家を構想するための倫理的=政治的な見取り図を提示することである。
著者
石田 淳
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 = NUIS Journal of International Studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.101-107, 2020-04-01

国際政治学分野に教科書は数多あれどもリーディングスは滅多に見かけない。なぜなら、そもそも論争らしき論争がないからである。そしてこの論争の不在は、専門領域ごとの研究者の棲み分けに由来する。この状況は研究の持続的発展を触発するものではない。とは言え、論争がなかった訳ではない。ただし、その意味が正確に理解されなければ、学知の蓄積はない。その論争とは、冷戦期日本の防衛姿勢の「意図せざる結果」をめぐる議論である。高坂正堯の「現実主義者の平和論」は、坂本義和の「中立日本の防衛構想」を、西太平洋におけるアメリカを基軸としたハブ・アンド・スポークスの同盟構造に起因する《同盟のディレンマ》を直視するものではないため、所期の安全保障効果をもたないと評価した。しかし坂本は、同時代のシェリングのコミットメント論を意識しつつ、《安全保障のディレンマ》を直視しない防衛構想は、所期の安全保障効果をもたないと論じていたのである。
著者
岡野 八代
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 = NUIS Journal of International Studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.89-100, 2020-04-01

本稿では、政治学教育において定着しつつあるフェミニズム理論が、逆に定着することによって、既存の政治学の特徴である公私二元論へと取り込まれてしまっているのではないかという問題提起を行なう。そのうえで、フェミニズム理論が政治学になんらかの貢献をなすには、どのような批判的視座が必要となるのかについて、ケアの倫理による公私二元論批判を経由して、ジョアン・トロントの民主主義論を例示しながら検討する。
著者
酒井 直樹
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
pp.1-28, 2015-07-01

新潟国際情報大学開学20周年記念情報文化学部情報文化学科学術シンポジウム特集
著者
藤瀬 武彦
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 = NUIS Journal of International Studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.97-105, 2021-04-01

In the third report the author presents part of a collection of Olympic memorabiliarelating to the 1924 Paris Olympic Games. The report includes the All Japan AthleticsOlympic Qualifying program, the Olympic official report of the Japanese team, fifteen ParisOlympic official programs brought back from Paris by Shiso Kanakuri, a passport issued toYoshio Sarumaru, a track and field athlete who had withdrawn due to injurty after beingselected for the Japanese team, to enable him to travel to France to watch the Paris Olympics,and the boxing gold medal official diploma of Danish boxer Hans Nielsen along with theoriginal photograph of the Danish Boxing Team. Although the Great Kanto Earthquakestruck in September 1923 causing tremendous damage, the Japanese team, which had toovercome many difficulties in the aftermath of the earthquake in order to participate in theOlympics, achieved impressive results which prepared the way for the following Olympictournament.
著者
高橋 正樹
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.1, no.創刊号, pp.117-133, 2016-04-28

西欧植民地主義勢力は周辺国の植民地化がコスト高だと判断した場合、その主権国家化を支援した。ただし、そのような国家形成は、植民地化された国と同様にその周辺国の国家と社会との亀裂を内在化させた。タイの国家形成史はまさにこのケースに当てはまる。タイは、19世紀中期から20世紀初頭まで、英仏がバンコク王朝の宗主権を侵食しつつビルマ、マレー、インドシナを植民地化し、他方でバンコク王朝はその結果、領域主権国家としての境界を画定していった。その結果、タイ国家はとくにイギリスの支援を受けながら主権国家としての国家機構を構築した。この過程で他の政治勢力に対して圧倒的な力をもつ国家エリートがバンコクを中心に構築される一方で、地方エリート勢力は解体され、また地方エリートと民衆の関係が解体していった。さらに、1930年代から40年代にかけて、新興の国家官僚層は、英仏植民地主義体制が不安定化すると、南進政策をとる日本に接近し、領域主権国家としての強化を試みた。
著者
唐 利国
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
pp.43-47, 2015-07-01

1978 年に「改革開放」の政策に転じる以来、中国経済は高成長を続けてきていた同時に、貧富の差が拡大しつつ、格差社会が顕著となっている。その要因として、「都市と農村の格差」・「地域の格差」・「産業の格差」・「腐敗問題」の四つがある。2013 年、中国中央政府の政権交代以来、習近平主席も格差社会を是正するために、さまざまな政策を講じている。収入分配制度の改革と都市化の推進は、今の中国政府の重要な施策だ。そして、より根本的な政策として、今の中国政府は政治改革をさらに推進する必要がある。より健全な市場体制を構築する以外、格差を解決する方法がない。
著者
神長 英輔
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 = NUIS Journal of International Studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.53-65, 2022-04-01

この論文は近世後期の蝦夷地におけるコンブ業を概観するものである。具体的には、近世後期のコンブ輸出の拡大、蝦夷地におけるコンブ生産の拡大、アイヌや和人の労働者の移住、彼らが働く労働環境の変化を関係づける試みである。 江戸幕府は1698(元禄11)年に海産物の乾物(俵物と諸色)を中国向けの貿易品として指定し、海産物の貿易体制が公式に成立した。これ以降、コンブは重要な輸出商品になり、主産地である蝦夷地においてコンブ漁業の漁場が拡大した。蝦夷地におけるコンブの産地は、18世紀の末に現在の釧路地方に達し、19世紀前半には現在の根室地方に達した。 コンブ漁業の拡大は労働者としての和人やアイヌの移住を伴った。アイヌの移住は和人の漁場経営者(場所請負商人ら)の強制によるものもあった。コンブ貿易の拡大が蝦夷地におけるコンブ漁業の拡大をもたらし、それが各地のアイヌの生活に深刻な影響を及ぼしたのである。
著者
唐 利国
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 = NUIS journal of intenational studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
pp.43-47, 2015-07

1978年に「改革開放」の政策に転じる以来、中国経済は高成長を続けてきていた同時に、貧富の差が拡大しつつ、格差社会が顕著となっている。その要因として、「都市と農村の格差」・「地域の格差」・「産業の格差」・「腐敗問題」の四つがある。2013 年、中国中央政府の政権交代以来、習近平主席も格差社会を是正するために、さまざまな政策を講じている。収入分配制度の改革と都市化の推進は、今の中国政府の重要な施策だ。そして、より根本的な政策として、今の中国政府は政治改革をさらに推進する必要がある。より健全な市場体制を構築する以外、格差を解決する方法がない。
著者
向山 恭一
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.27-42, 2021-04-01

移民社会の到来とともに増大する多様性に、福祉国家を支える国民的連帯は応答することができるのか。政治学者のキース・バンティングとウィル・キムリッカは編著書『コミットメントが課す試練』(オックスフォード大学出版局、2017 年)の「序論:多様な社会における連帯の政治的源泉」のなかで、正しい社会において連帯が必要とされる倫理的理由、多様性と連帯(移民と市民)が敵対関係に置かれる言説的付置状況、そして増大する多様性のもとで包摂的連帯を実現するための政治的視座を規範的=経験的に論じることで、この問いに肯定的に答えている。新自由主義とポピュリズムに挟撃された福祉国家を守るためには、なによりも連帯の共同体であるネーションを再帰的に想像しなおさなければならない。本稿の目的は、こうしたバンティングとキムリッカの議論を手がかりに、現代の移民/多文化社会において包摂的連帯にもとづく福祉国家を構想するための倫理的=政治的な見取り図を提示することである。
著者
中原 澪佳
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 = NUIS Journal of International Studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-14, 2020-04-01

本論の目的は、パウロ・フレイレ(Paulo Freire)の目指した対話的な実践とはなにかを考察し、そのうえで、フレイレの思想をもとにしたワークショップの実践をおこない、その有効性を示すことである。はじめに、これまでの対話型の授業の課題とそれを乗りこえようとした多田孝志の理論と実践について明らかにする。つぎに、同様に真に対話的な教育を目指してきたパウロ・フレイレの思想から真に対話的な実践とはどのようなものなのかを読み解く。フレイレの思想のなかでも、とくに重要な一節である「世界を命名する1」ということばに着目し、フレイレの対話の概念を改めて明らかにする。最後に、フレイレの対話の考えをもとにした実践例を紹介し、その実践の意義を考察する。それをつうじて、フレイレの思想を現代の日本で実践化することにどのような意義があるのかを提示したい。
著者
石田 淳
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 = NUIS journal of intenational studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
no.5, pp.101-107, 2020-04

国際政治学分野に教科書は数多あれどもリーディングスは滅多に見かけない。なぜなら、そもそも論争らしき論争がないからである。そしてこの論争の不在は、専門領域ごとの研究者の棲み分けに由来する。この状況は研究の持続的発展を触発するものではない。とは言え、論争がなかった訳ではない。ただし、その意味が正確に理解されなければ、学知の蓄積はない。その論争とは、冷戦期日本の防衛姿勢の「意図せざる結果」をめぐる議論である。高坂正堯の「現実主義者の平和論」は、坂本義和の「中立日本の防衛構想」を、西太平洋におけるアメリカを基軸としたハブ・アンド・スポークスの同盟構造に起因する《同盟のディレンマ》を直視するものではないため、所期の安全保障効果をもたないと評価した。しかし坂本は、同時代のシェリングのコミットメント論を意識しつつ、《安全保障のディレンマ》を直視しない防衛構想は、所期の安全保障効果をもたないと論じていたのである。
著者
岡野 八代
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 = NUIS Journal of International Studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
no.5, pp.89-100, 2020-04-01

本稿では、政治学教育において定着しつつあるフェミニズム理論が、逆に定着することによって、既存の政治学の特徴である公私二元論へと取り込まれてしまっているのではないかという問題提起を行なう。そのうえで、フェミニズム理論が政治学になんらかの貢献をなすには、どのような批判的視座が必要となるのかについて、ケアの倫理による公私二元論批判を経由して、ジョアン・トロントの民主主義論を例示しながら検討する。
著者
藤瀬 武彦
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 = NUIS journal of intenational studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
no.4, pp.145-157, 2019-04

The author has presented part of a collection of Olympic memorabilia which he started in around 1984, about 35 years ago. The initial report includes a photograph collection from the fifth modern Olympic Games held in Stockholm in 1912, which were also the first Olympics in which Japan participated, and a ticket for the marathon featuring Shiso Kanakuri; the bidding album for the twelfth Summer Olympics which were due to be held in Tokyo in 1940 but were cancelled because of the Sino-Japanese war; the album (from the 1949 National Amateur Athletic Union Swimming Championship) was sent to Masaji Tabata (at that time head of the Japanese Swimming Federation) by Fred Isamu Wada, who did the bidding activities at his own expense for the eighteenth Tokyo Summer Olympics, the first Olympics held in Asia in 1964; autographed paper from the Japanese Athletics Team celebrating Kokichi Tsuburaya's winning of the bronze medal in the marathon; identity cards of players and officials, etc. These memorabilia should be collected, preserved and displayed in a sports museum as sports cultural assets.
著者
田中 敦
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 = NUIS journal of intenational studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
no.4, pp.131-143, 2019-04

本論では、案内表示に用いられるピクトグラムを記号と捉え、その解釈を認知という動的なプロセスの中で分析することを試みる。 まず、ピクトグラムが、約定性とともに類像性によって対象を指示する記号原理を有することを明らかにし、そのことが原理的に多義的な解釈を許容することを確認する。ただし、案内表示は情報伝達を機能として有するものであり、本来、解釈の多義性は許容されない。 そこで本論では、認知という観点を導入し、認知領域とコンテクストの関与によって、多義性が限定されるプロセスを分析する。具体的には、「空間ドメイン」と「行為ドメイン」という認知領域の区別により、同一のピクトグラムから異なる解釈が導かれることを確認したうえで、案内表示が設置される環境がコンテクストとなり、認知領域の設定を促すことを指摘する。
著者
瀬戸 裕之
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 = NUIS journal of intenational studies (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
no.4, pp.21-42, 2019-04

本論文は,フイ・ポンセーナー博士のライフヒストリーをもとに,ラオス司法省元高官の経験からラオスの現代史について考察する。フイは,青年期にフランスに留学し,ラオス王国政府軍人としての経歴を積み,1975 年以降には再教育キャンプで生活する苦難を経験した。しかし,現体制が刷新政策を開始すると,司法省官房長に任命され,国際機関や西側諸国から法整備に関する支援を誘致し,プロジェクト管理を担当するなど現体制での国家建設にも貢献した。フイの経験から,1975 年以前のラオスの国家形成におけるフランスの影響力の大きさ,革命以前のラオス王国政府軍人が抱えていた困難,現体制の成立後の旧ラオス王国政府元軍人・元役人の不遇,並びに旧ラオス王国政府の元軍人・元職員が1980 年末以降にラオスが西側諸国との交流を深める過程で国家建設に貢献した可能性を示し,現体制下で旧ラオス王国政府の元職員たちが果たした役割について,再評価が必要であることを指摘する。