著者
加藤 元嗣 浅香 正博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.10, pp.2614-2620, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1

Helicobacter pylori(H. pylori)は生涯に渡って胃粘膜に感染して胃炎を惹起する.慢性胃炎を背景として胃・十二指腸潰瘍,胃癌などの様々な上部消化管疾患が起きる.胃癌は組織型を問わずH. pylori感染粘膜から発生することがほとんどである.高度の萎縮,腸上皮化生,体部胃炎では分化型胃癌が,非萎縮や全体胃炎では未分化型癌の発生が高く,背景粘膜の炎症や萎縮の程度によって,胃癌リスクが異なる.動物実験ではH. pylori除菌が胃癌発生を抑制することが認められ,除菌を早期に行う方が胃癌予防の効果は強い.中国でのH. pylori除菌による無作為二重盲検比較試験では,除菌は胃癌発症を抑制しないとの結果であった.しかし,胃癌の内視鏡的切除後の異時性多発癌をエンドポイントとした無作為化試験がわが国で行われ,H. pylori除菌によって有意に異時癌の発症が抑制された.H. pylori除菌は胃癌の発育進展を抑制すると推測できる.胃癌撲滅のために,H. pylori除菌を基本に据えた施策を早急に計画するべき時期に入ったといえる.
著者
平田 一郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.44-53, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
22

IBD(UC,CD)と鑑別を要する主な炎症性腸疾患(広義)について,それら疾患の概要とIBDとの形態学的鑑別診断について述べた.UCとの鑑別を要する疾患として主にキャンピロバクター腸炎,アメーバ性大腸炎,出血性大腸炎,サルモネラ腸炎,NSAID腸炎(大腸炎型)などが挙げられる.CDとの鑑別を要する疾患として主に腸結核,腸管Behçet病,虚血性大腸炎,エルシニア腸炎,NSAID腸炎(潰瘍型)などが挙げられる.UCおよびCD両者との鑑別を要する疾患はCMV腸炎,アメーバ性大腸炎,腸管出血性大腸菌腸炎などである.
著者
後藤 久貴 宮副 誠司 江崎 宏典 松本 武浩 八橋 弘 井上 長三 古賀 満明 矢野 右人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.701-703, 1999-04-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
6

症例は32歳,女性.発熱,両側季肋部痛を呈し来院,炎症所見以外に腹部エコー, CT等の画像検査では腹痛の原因を確認できなかったが,腹腔鏡検査にて肝周囲に典型的なviolin-string状の線維性癒着を認め,腹痛は,既往歴と併せ,クラミジア肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)によるものと診断した.癒着の切離にて腹痛は消失,診断,治療に腹腔鏡が有効であった.クラミジア感染症の増加に伴い,腹痛の原因疾患としての本症に対する認織は重要となると考え報告した.
著者
小松 則夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.440-449, 2014-02-10 (Released:2015-02-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

JAK2チロシンキナーゼ(以下JAK2)はエリスロポエチンやトロンボポエチンなどのサイトカインと受容体との結合によって活性化され,細胞内シグナル伝達に中心的役割を担う重要な分子である.2005年に真性赤血球増加症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症の3疾患に共通してみられるJAK2遺伝子変異が発見された.これが恒常活性型のJAK2V617F変異である.その後もJAK2 exon12変異やc-MPL変異が次々と発見され,これらの3疾患が腫瘍性であることが再認識されるに至り,2008年に発表されたWHO分類第4版では骨髄増殖性疾患から骨髄増殖性腫瘍に名称が変更された.JAK2阻害薬がすでに開発され,骨髄線維症に対する効果として脾腫の縮小や全身症状・QOLの改善,さらには生存期間の延長や骨髄線維化の改善を認めている.本邦においても現在臨床試験が進行中である.DNAやヒストンの修飾に関与する分子の遺伝子変異も数多く報告され,メチル化阻害薬やヒストンアセチル化阻害薬なども臨床試験が行われ,欧米ではすでにJAK2阻害薬との併用も検討されている.

1 0 0 0 川崎病

著者
川崎 富作
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.838-840, 2002-03-10
参考文献数
11
被引用文献数
1
著者
大津留 晶 緑川 早苗 坂井 晃 志村 浩己 鈴木 悟
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.593-599, 2015
被引用文献数
1

甲状腺は放射線に対して発がん感受性が高い臓器の1つと捉えられている.甲状腺がんの放射線発がんリスクは,被曝時年齢が若いほど高くなる.放射線は発がん因子の1つとしても,二次発がんという観点でも重要である.原爆被曝者の調査では,外部被曝による甲状腺がんリスク増加が示された.チェルノブイリ原発事故は,放射性ヨウ素の内部被曝が発がんの原因となった.いずれも100 mSv(ミリシーベルト)以上から徐々に有意となり,線量が高いほど罹患率が上昇する,線量依存性が見られている.東京電力福島第一原発事故後,小児甲状腺がんに対する不安が増大し,福島では大規模なスクリーニング調査が開始されている.本稿では,放射線と甲状腺がんについて,これまでの疫学調査と病理報告を概説し,放射線誘発甲状腺がんの分子機構の最前線に触れ,最後に小児甲状腺がんスクリーニングについての考え方についてまとめた.
著者
鈴木 康夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.61-67, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
18
被引用文献数
1

血球成分吸着除去療法(CAP)は,活動期潰瘍性大腸炎における新たな治療法としてステロイド抵抗症例の寛解導入を可能にすると同時にステロイドの減量も可能にすることが示されている.さらには,ステロイド投与を行わずCAP単独でも寛解導入を可能にすることが示され,副作用発現の危険性が高いステロイド投与を回避する治療法も可能になってきた.CAPの実施に際して症例の適応基準や運用方法を工夫することによって,有効性を一層向上させることが可能と思われた.
著者
横山 彰仁
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.12, pp.2539-2546, 2015-12-10 (Released:2016-12-10)
参考文献数
5
被引用文献数
3 5

2017年から開始予定の新専門医制度は,内科領域に大きな影響を与え,認定内科医や総合内科専門医の新たな認定が廃止されるなど大きな改編が行われる.新専門医は第三者機関である日本専門医機構(以下,「機構」)によって認定されたプログラムに従って複数施設で研修を行い,学会ではなく機構によって認定される.新制度は医師ではなく国民のためのものであり,国民目線で作成され,実現可能性を勘案し定められたものであることを理解しておく必要がある.
著者
谷澤 雅彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.5, pp.878-887, 2018-05-10 (Released:2019-05-10)
参考文献数
31

B型肝炎治療薬の核酸アナログや抗HIV(human immunodeficiency virus)治療薬による腎障害は少なくない.腎障害は,必ずしも血清Cr値上昇のみで表わされるわけではなく,特に尿細管障害は血清Cr値上昇によらない所見(尿細管性蛋白尿,低リン血症,代謝性アシドーシス,尿糖,低尿酸血症等)を呈することが多いため,これらの所見が早期発見の手掛かりとなる.抗ウイルス薬による尿細管障害の患者の多くは,既存の腎機能障害を有している場合も多いため,腎臓専門医へのコンサルトを要する.
著者
高安 正夫 菅原 努 矢野 昭 山崎 茂郎 西村 昭正
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.77-82, 1955

The usual leads employed for electrocardiogram and vectorcardiogram have been introduced not for clearcut relationship between the leads and the electromotive forces of the heart, but rather for their clinical easiness or for their so-called unipolarity. Hence the relationship obtained is so complex that there arose many different interpretations about it. Even vectorcardiogram, as Dr. Johnston and Dr. Prof. Maekawa pointed out, is not the true expression of the electromotive vector of the heart but is merely the vectorical representation of the obtained leads.<br>We employed the theory of lead field and lead vector and devised a new method to obtain the curves of the time-course of each of three components perpendicular to each other of the composite electromotive vector in the whole heart. We named it &ldquo;the vectorical lead&rdquo;. The method is as following: We lead between the nape and both feet with small electrodes, between the front and the back, and the right and the left of the chest with the large plate electrodes which cover the whole projections of the heart to each direction. The lead-fields between these electrodes are approximately homogeneous and parallel through the whole heart and hence each of the three spacial components are obtained correctly.<br>Comparing the curves by this method with that of the usual leads, we concluded that a VF lead was the head-to-feet component of the electromotive force of the heart, and that the right-angled isosceles triangle schema by Dr. Prof. Maekawa is more proper to the actual conditions than the equilateral triangle schema by Einthoven. The clinical applications of this method will be discussed in the future papers.
著者
鈴宮 淳司
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.7, pp.1720-1727, 2013-07-10 (Released:2014-07-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

慢性リンパ性白血病(CLL)はB細胞性のインドレントな白血病であり,日本ではまれである.診断は通常の強制乾燥による末梢血塗抹標本だけでなく,自然乾燥標本の観察が推奨され,それに加えて細胞免疫形質(CD5,CD23陽性,CD20弱陽性など)を総合的に判断する.治療方針の決定は患者の状態により標準治療が実施可能かどうかを判断することが重要で,それに病期および予後不良の染色体異常(17p欠失)などのリスク因子を勘案して決定する.

1 0 0 0 OA 7.新型コレラ

著者
相楽 裕子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.86, no.11, pp.2052-2057, 1997-11-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

コレラはコレラ毒素(CT)産生性O1コレラ菌による下痢症である. 1992年インドで突然発生した非O1コレラ菌(O 139ベンガル型コレラ菌)によるコレラ様疾患は短期間に近隣諸国へ広がった.菌はCTを産生し,臨床症状も従来のコレラと区別できない. O1型コレラ菌に対する免疫では防御できない.途上国からの帰国者,国内の集団下痢症あるいは典型的なコレラ症状を呈している患者に対する注意が必要である.
著者
長嶋 一昭 稲垣 暢也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.737-741, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

経口インスリン分泌促進薬には,SU薬,グリニド薬に加え,DPP-IV阻害薬がある.SU薬およびグリニド薬は,膵β細胞KATPチャネルのSUR1サブユニットに結合しインスリン分泌を惹起するという点では共通であるが,半減期やKATPチャネルへの親和性などの特性は異なり,糖尿病の病態に応じて使い分ける必要がある.また,これまでインスリン療法が常識とされてきた新生児糖尿病の発症原因として,KATPチャネル遺伝子異常による症例が多く存在し,多くの場合SU薬による治療が有効であることが示された.
著者
日野原 重明
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.745-749, 1972-07-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
6
被引用文献数
8 1
著者
古市 賢吾 和田 隆志
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.5, pp.841-847, 2018-05-10 (Released:2019-05-10)
参考文献数
15

糖尿病性腎症は,腎不全の主要な原疾患であり,腎臓への保護作用が期待できる薬剤の開発が求められる.これまでレニン・アンジオテンシン系阻害薬やスタチン系薬剤が腎保護作用を有することが示されてきた.近年,DPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬,インクレチン作動薬あるいはSGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬が腎障害進展を軽減するうえでも有用であることが注目されてきている.
著者
増田 大作
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.702-710, 2017-04-10 (Released:2018-04-10)
参考文献数
10

トリグリセライドの空腹時高値のみならず,食後高値も心血管イベントとよい相関を有する.食後高脂血症の病態では小腸由来カイロミクロンの代謝異常により,食後にカイロミクロンレムナントが増加し,動脈硬化惹起性が上昇する.その定量的評価系であるアポリポ蛋白B-48濃度は頸動脈中膜肥厚や冠動脈狭窄罹患率と相関する.食後高脂血症の治療としては,食事療法,スタチン,フィブラート,エゼチミブ,インクレチン関連薬が有効である.
著者
山田 英雄
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.581-587, 1990-05-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
7

鉄欠乏性貧血は貧血の臨床においてもつとも頻度が高く,その正しい認識と対処のしかたがきわめて重要な疾患である.最近トランスフェリンやフェリチンに関する研究の進展によって鉄代謝の生化学的解明が進み,鉄欠乏性貧血や鉄欠乏症の病態生理も一段の進展を見た.本稿ではこれらの進展を踏まえ明らかとなってきた鉄欠乏性貧血および鉄欠乏症の実態ならびにその治療法の実際について解説を加えた.