著者
加納 正 丹羽 靱負 山口 希
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.1353-1360, 1975
被引用文献数
1 1

IgA単独欠損症は健康人にみられることがあるが,多くの場合各種の疾患に随伴する.しかし,それらの疾患との関係は不明であり,今日広く採用されているWHO分類でもIgA単独欠損症は原発性免疫不全症の一病型として取扱われている.今回著者らの示した3症例,すなわち(1) 1947年生女性, SLE慢性甲状腺炎, (2) 1913年生男性,結節性動脈周囲炎(疑), (3) 1952年生男性,髄膜腫による症候性癲癇・Recklinghausen病などでは,いずれもIgA単独欠損症が経過中に発現したことを確認し得たものである.現在までに,同様の症例は2例知られているが,単なる事実の確認に終り,免疫学的検索がなされていないし,その成因についても考察されていない.著者らの3症例はIgA単独欠損症の獲得型が明らかに存在することを示す貴重な症例である.また少なくとも症例3ではIgA欠損が可逆的であることも示された. IgA単独欠損症のすべてが原発性もしくは先天性であるとする見解は否定された.獲得型の成因にかんしては, (1)抗IgA抗体による自己免疫機序(続発性獲得性), (2)薬剤(この場合抗癲癇剤)の直接関与もしくは自己免疫機序を介しての関与(続発性獲得性), (3)原因不明(原発性獲得性)などが考えられた.
著者
平山 哲
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.682-689, 2017-04-10 (Released:2018-04-10)
参考文献数
12

増加する脂質異常症の診断には,血清脂質を正確に測定する臨床検査の存在が不可欠である.特に,LDL(low density lipoprotein)コレステロール測定における正確性と標準化に関する国内独自の検討もなされてきた.正確な病態評価のためには,リポ蛋白分画や脂質亜分画などの関連検査も重要になる.動脈硬化性疾患の抑制のためには,脂質に関連する臨床検査の意義と注意点を十分に理解して診療することが重要である.
著者
森野 杏子 小林 誠一 赤羽 武弘 玉渕 智昭 矢内 勝
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.7, pp.1282-1286, 2016-07-10 (Released:2017-07-10)
参考文献数
9

82歳,男性.I型呼吸不全を認め,当科入院となった.肝硬変,肝細胞癌の既往があることから,慢性肝疾患に伴う肺内シャントの存在を疑った.肺血流シンチグラフィー,100%酸素吸入法によるシャント率測定,コントラスト心エコーにより肺内シャントの存在が証明された.呼吸不全の原因を肝肺症候群と診断し,在宅酸素療法を導入した.慢性肝疾患患者における呼吸不全の原因として,肝肺症候群を念頭に置く必要がある.
著者
赤松 直樹 辻 貞俊
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.8, pp.1395-1399, 2016-08-10 (Released:2017-08-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

高齢者はてんかんの好発年齢である.老年人口の急激な増加に伴い,高齢初発てんかん患者が増加している.高齢初発てんかんは痙攣を来たさない意識減損発作の複雑部分発作も多く,てんかんの診断が容易でない場合がある.他疾患との鑑別診断が重要である.高齢者では,てんかん発作が患者に与える身体的・精神的影響が大きい.一方,適切に診断・治療を行えば,抗てんかん薬による発作抑制が可能であることが多く,患者のQOL(quality of life)向上に寄与する.
著者
内科系学会の男女共同参画に関する連絡協議会 橋本 悦子 瀧原 圭子 鈴木 眞理 成瀬 桂子 内田 啓子 金子 猛 三谷 絹子 村田 美穂 相良 博典 駒瀬 裕子 名越 澄子 村島 温子 吉田 正樹 安藤 富士子 梶波 康二 西川 典子 檜山 桂子 別役 智子 正木 崇生 山内 高弘 白鳥 敬子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.5, pp.894-899, 2018
被引用文献数
4

<p> 2012年度及び2016年度に行われた日本内科学会と内科系13学会における男女共同参画の実態調査結果を比較した.女性理事のいる学会が5学会から9学会に増加し,女性評議員数も全学会で増加,男女共同参画推進組織のある学会は10学会から13学会となった.評議員,委員会委員,司会・座長の女性の比率がいずれも会員比と同等の学会は2016年度で1学会のみであったのに対し,専門医の女性比率は13学会で会員比とほぼ同等であった.</p>

1 0 0 0 OA 1.自己抗体

著者
藤井 隆夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.10, pp.2395-2400, 2014-10-10 (Released:2015-10-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

膠原病において臨床的意義を有する自己抗体は多く報告されてきた.多発性筋炎/皮膚筋炎では自己抗体により予後推定が可能で,しばしば致命的となる急性~亜急性間質性肺炎と抗MDA5抗体,癌合併皮膚筋炎と抗TIF1-γ抗体との関連が明確に示され,治療方針に強く影響を与えるマーカーとなっている.また,中枢神経ループスでは脳脊髄液中の自己抗体(抗NR2抗体,抗U1RNP抗体)が重要であり,病因的意義が示唆されている.
著者
桑原 聡
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.8, pp.2275-2281, 2011 (Released:2013-04-10)
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

Crow-Fukase(POEMS)症候群は形質細胞の単クローン性増殖に伴い,多発ニューロパチー,浮腫・胸腹水,臓器腫大,内分泌障害,皮膚症状(色素沈着,血管腫),M蛋白血症などを呈する全身性疾患である.患者血清中には血管内皮増殖因子(VEGF)の著明高値がみられ,VEGFが有する強力な血管透過性亢進,血管新生作用により多彩な臓器病変をきたすことが想定されている.症状の多彩さから初診は循環器,呼吸器,消化器,腎臓,内分泌,神経,血液の内科系の各診療科の多岐にわたるが,この疾患の認知度は未だ高いとは言えず,早期診断に至らない患者が多数存在する.致死率の高い重篤な疾患であるが,従来型の副腎皮質ステロイドによる治療から,2000年以後に自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法,サリドマイド療法などの新規治療が導入されて以来,機能予後,生命予後は飛躍的に改善している.本症候群は治療可能な疾患であり,一般内科および各内科サブスペシャリティーにおいて見逃してはならない疾患として認識されるべきである.
著者
柏木 征三郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.811-816, 2007

トリインフルエンザA(H5N1)の感染はアジアからヨーロッパまで拡がり,2007年1月には宮崎県にまで達している.このようなトリインフルエンザの拡がりは,ヒトからヒトへと感染するウイルスへと変化する機会が多くなると考えられる.現在のA(H5N1)のヒトに対する死亡率がパンデミックの際にも同様と考えるときわめて大きな被害となるものと考えられる.これに対しては,抗ウイルス薬の備蓄,パンデミックへの進展の阻止,ワクチン技術の開発など種々の対策が必要であろう.新型ウイルスが登場した場合は,1918年のスペインかぜの事例から学ぶことも多い.幸い,1918年のウイルスの感染実験もなされるようになり,その成績が待たれる.<br>
著者
菊池 由莉恵 戎井 理 大野 敬三 徳永 仁夫 明坂 和幸 上田 晃久 西原 永潤 窪田 純久 宮内 昭
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.2425-2431, 2017-11-10 (Released:2018-11-10)
参考文献数
7

31歳,女性.Basedow病の診断で抗甲状腺薬を投与されていたが,甲状腺機能正常化せず,当院受診.syndrome of inappropriate secretion of thyroid stimulating hormone(SITSH)の状態で,TR(thyroid hormone receptor)β1遺伝子解析の結果,甲状腺ホルモン不応症と診断し,抗甲状腺薬を中止した.甲状腺ホルモン不応症の約3分の1の症例がBasedow病と間違えられ,適切でない治療を受けておりSITSH所見を診た際は,甲状腺ホルモン不応症を念頭に置く必要がある.
著者
根木 茂雄 重松 隆
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.942-949, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
9

腎性骨異栄養症(ROD)は腎性骨症,透析骨症とも呼称され,当初は骨の病変に限定されていたが,最近になり全身症状や生命予後に対する効果が重視されるようになり大きく概念が転換した.即ちRODは,慢性腎臓病に伴う血管石灰化に代表される軟部組織異所性石灰化を含む骨ミネラル代謝異常(chronic kidney disease-mineral and bone disorder: CKD-MBD)の一部分症で,全身性疾患としてとらえるべきであると変わってきた.したがってRODの治療においては生命予後を最も重視して予防・治療する必要がある.
著者
中野 貴司
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.289-296, 2019

<p>主に海外渡航者を対象として接種されるワクチンは,トラベラーズワクチンとも呼ばれる.渡航時の感染症予防は,接種者の健康を守ると同時に,病原体を遠隔地へ伝播しないという観点からも大切である.渡航の形態や渡航者の背景が多様化した昨今は,渡航先でのライフスタイルや宿主要件を考慮し,ワクチンの接種計画を検討することが必要である.本稿では,各種トラベラーズワクチンについて解説すると共に,解決すべき課題を考察した.基本的な考え方として,「海外渡航をするからワクチン接種が必要」というよりは,日頃から感染症予防を心掛けることを重視したい.麻疹・風疹や破傷風をはじめ,成人世代に接種が必要なワクチンについて具体的な推奨が明示されていないこと,海外標準製剤であっても,国内未承認のワクチンが多いこと等については,早急な解決が望まれる.</p>
著者
中川 武正
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.82, no.10, pp.1609-1613, 1993-10-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

近年,アレルギー憧疾患罹患患者数が著増している.その増加要因の一つとして,大気汚染や生活様式の変化にもとづく室内汚染などの環境因子の関与が示唆されており,自動車排気ガス等を中心に基礎的,臨床的研究が積み重ねられている.その実態が明らかになれば,アレルギー性疾患の病因として直接的あるいは間接的に作用する可能性を有するだけに,今後抜本的な対策を含めての検討が必要であろう.
著者
野村 隆司
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.88, no.11, pp.2189-2195, 1999-11-10

1999年4月1日から施行された感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律においては,これまでは全く異なった1類感染症, 2類感染症, 3類感染症, 4類感染症,指定感染症及び新感染症からなる感染症類型が設けられている.指定感染症は,旧法である伝染病予防法においても規定されていた事項であるが,感染症新法では,適応に当たっての手続保障の厳格化等を講じている.本稿では,指定感染症と新感染症の相違点を中心に感染症類型を概説する.
著者
本間 覚
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.3368-3378, 2012 (Released:2013-12-10)
参考文献数
3
被引用文献数
1

医学の急速な進歩と強力化は,医療における安全管理・危機管理・品質管理の導入を不可欠にした.各医療施設には医療の危険(リスク)に対する管理体制および教育体制を構築して実施することが求められている.その中で,インシデントやアクシデント(医療事故)報告は,医療安全を学ぶ教材であるばかりでなく,組織が迅速に危機管理するための情報源でもある.さらにインシデント等を品質の"はずれ値"と捉え,経験深い熟練者(管理者)によって医療品質の向上に活用させることが本質的に重要である.
著者
斉藤 公明 玉田 和彦 西村 芳高 山辺 裕 郡 義隆 稲留 哲也 藤原 卓夫 片山 和明 森川 肇
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.331-339, 1982

12才で初潮があつたが,以後無月経となり,多毛,低声,筋骨のたくましさ,陰核肥大などの男性化徴候が進行した16才の女子についてテストステロン産生腫瘍を疑い,これが卵巣の男化腫瘍の1例であつたので報告する.本症の報告は本邦ではこれまでに20例に満たず,その内分泌学的病像については不明な点が多いが,本例では術前に各種負荷試験を行ない.テストステロン生合成系,副腎皮質ホルモン分泌,下垂体ホルモン分泌予備能について検討し若干の知見をえた.術前の基礎値では,血中テストステロンの異常高値(7.00ng/ml)と日内リズムの消失, 17-KSの軽度上昇と分画中のアンドロステロン,エチオコラノロン, DHEAの高値,およびプレグナントリオールの高値などテストステロン生合成系の亢進を認めた.デキサメサゾン, HMG負荷ではテストステロン上昇に自律性がみられたが,その生合成系亢進はデキサメサゾンによる抑制がみられ完全な自律性を欠くことが示唆された. ACTH,メトピロン負荷では副腎皮質ホルモン分泌は良好で,テストステロン上昇による影響はみられなかつた.下垂体ホルモン分泌予備能はほぼ正常に保たれていたが, LH, FSHはStein-Leventhal症候群に特徴的な反応を示し注目された.術後,ホルモン基礎値は急速に正常化し, retrospectiveにも本腫瘍がテストステロンを産生していたことが臨床的に証明された.
著者
吉良 潤一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.1255-1259, 2006-07-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7

寄生虫感染症はわが国では著明に減少したため, 過去のものとみられがちである. しかし, 現在でも寄生虫感染症は散発しており, 近年では一部の食品媒介性寄生虫感染症はむしろ増加傾向を示している. 中枢神経系を侵す寄生虫性疾患のうち, 本稿では, そのトピックスとして, ブタ回虫性脊髄炎, イヌ回虫性脊髄炎について自験例を中心に紹介した. これらは, ブタ回虫, イヌ回虫の幼虫が諸臓器に迷入して障害を起こす (visceral larva migrans). 寄生虫性脊髄炎では, 全身症状を欠く場合や末梢血で好酸球増多を欠く場合があり, 非圧迫性ミエロパチーの鑑別診断上重要である. 血清, 髄液の抗寄生虫抗体の測定により容易に診断でき, Albendazoleなどの抗寄生虫薬投与により治癒することから, 現代日本でも忘れてはならない寄生虫性神経感染症といえる.