著者
河田 東海夫
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.32-35, 2015 (Released:2020-02-19)
参考文献数
7

欧州では自然放射線による国民の年間線量が日本人の倍以上になる国がいくつもある。欧州全体では,年間7mSvを超える住民の総人口は2,000万人を超え,13mSvを超える総人口は約600万人と見積もられる。そうした環境下でも,欧州では高度に文化的な生活が連綿として営まれてきたという事実は,原発事故の避難住民が「1mSvの呪縛」を克服し,どの程度の被ばくなら受忍可能かを考えるうえで,重要な示唆を与える。
著者
芳賀 繁
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.708-712, 2021 (Released:2021-10-10)
参考文献数
8

レジリエンスエンジニアリングに基づく安全マネジメントとして,はじめにレジリエンスの基本的4能力とされる対処,監視,学習,予見を高めるための施策を解説する。次に,安全マネジメントの現状がマニュアル主義に陥り,ヒューマンエラー対策の悪循環を生んでいることを指摘した上で,システムのレジリエンスを高めるためにはセーフティIIを目指す安全マネジメントが必要であることを説明する。その実践例として,「うまくいっていることから学ぶ」取り組み,チームで対処する力を高める取り組み,現場第一線が自律的に動く能力を高める研修などを紹介する。
著者
浜井 富生
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.334-339, 2014 (Released:2019-10-31)
参考文献数
1

海外ウラン資源開発株式会社は日本の原子力発電へのウラン燃料の安定供給を目的として,1970年に設立された。1978年に生産を開始したアフリカ・ニジェール共和国のアクータ鉱山,1999年から生産を開始したカナダ・マクリーンレイク鉱山からのウラン精鉱引取分の全量を日本の電力会社に販売して来た。2011年の福島第一原発事故前は,日本で必要なウラン燃料の10〜15%を安定して供給していた。今回,当社のウラン鉱山開発について紹介するとともに,最近の探鉱・開発案件のいくつかについて紹介する。
著者
坪井 裕 神田 啓治
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.67-82, 2001-01-30 (Released:2009-04-21)
参考文献数
12

Non-Nuclear-Weapon-States (NNWS) must accept IAEA Safeguards to their all nuclear material in accordance with the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT) but Nuclear-Weapon-States (NWS) do not have such obligation. From this point of view, the unbalance or discrepancy of NPT has been pointed out. Nuclear-Weapon-States conclude safeguards agreement on voluntary basis but inspections are implemented to very limited facilities. United Kingdom and France accept EURATOM safeguards to all civil nuclear material. Recently safeguards to excess nuclear material from dismantling of nuclear weapons and safeguards as verification system of Fissile Material Cut-off Treaty (FMCT) are under consideration. International system to keep nuclear material out of the use for nuclear weapons and other explosive devices is permanently necessary and it should have universality to be accepted by all states. This paper analyzes the present situation of safeguards in NWS and proposes the measures to realize universality of safeguards which dissolves unbalance and discrepancy between NNWS and NWS.
著者
古谷 正裕 稲田 文夫
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.141-150, 2004-06-25 (Released:2010-03-08)
参考文献数
13

Experiments were conducted to investigete two-phase flow stability of a natural circulation BWR due to flashing at low pressure. The facility used in the experiment was designed to have non-dimensional values which are nearly equal to those of typical natural circulation BWR. The observed instability is suggested to be the flashing induced density wave oscillations, since the oscillation period was nearly one and a half to two times the passing time in the chimney section, and correlated well with a single line regardless of system pressure, heat flux, and inlet subcooling. Stability maps were obtained in reference to the core inlet subcooling and the heat flux at the system pressures of 0.1, 0.2, 0.35, and 0.5MPa. The flow became stable below a certain heat flux regardless of the channel inlet subcooling. The stable region enlarged with increasing system pressure. According to the stability map, the stability margin becomes larger in a startup process of a reactor by pressurizing the reactor sufficiently before withdrawing control rods.
著者
岩井 敏 熊澤 蕃 仙波 毅 石田 健二 高木 俊治
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.751-755, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10

疫学とは地域や集団を調査し,健康影響原因と考えられる要因と健康影響発生との関連性の強弱を統計的に調査・解析する学問であり,「コホート」とは,疫学調査の対象として一定期間にわたって追跡調査される人の集団のことである。本稿では,低線量および中線量の慢性被ばくであるテチャ川流域住民疫学コホート(TRC)の固形がんと白血病の罹患率と死亡率の疫学調査結果の最新データに基づいて解説し,原爆被ばくコホートおよび高自然放射線地域のコホートデータとの比較についても解説する。
著者
坂東 昌子 真鍋 勇一郎 澤田 哲生
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.252-258, 2015 (Released:2020-02-19)
参考文献数
1
被引用文献数
1

2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故。引き続き事故の余波は,福島県浜通りなどから今なお避難を強いられている12万人の皆さんに止まらない。福島に住み続けること選択した多くの人々をも心配させている。事故後4年を経ても「いつまで続くのかも分からない事故の影響」のことが多くの人の心にひっかかっているという状況である。そんななか,それまで放射線被ばくの生体影響というテーマに取り組んだことのなかった物理学者が,“なにかしなければいけない”との思いで学の境界線を気に留めず,乗り込んで来た。学術の越境が知の統合を生み,ここに新たな叡智が生まれようとしている。80年以上続いて来た放射線防護の基本概念が覆される可能性を秘めた研究成果である。
著者
森田 貴己
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.408-412, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10

東京電力福島第一原子力発電所の事故により,大量の放射性物質が海洋に流出した。このため,日本の水産業は甚大な被害を被り,その被害は現在も継続している。事故後しばらくは水産物から比較的高い濃度の放射性セシウムが検出されていたが,2015年度の福島県のモニタリング検査において国の出荷制限基準である100 Bq/kg-wetを超過した海産物は1検体もない。本報告では,福島県海域での水産物汚染の現状を紹介するとともに,その汚染が減少した仕組みや汚染が比較的長期化した一部の魚種についてその理由を解説する。また,報告例の少ない水産物中のストロンチウム-90についても述べる。
著者
西 正孝 山西 敏彦 林 巧
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.115-120, 2004 (Released:2019-01-31)
参考文献数
36

核融合炉開発は進展し, 国際熱核融合実験炉ITERの工学設計が完成して建設活動を始めるべく準備が進められている。現在, 開発を進めている核融合炉は重水素とトリチウムを燃料とするが, トリチウムは放射性気体であり, また, 天然には稀少であるため, 核融合炉内で消費量に見合う量の生産を行う。このため, トリチウムの有効利用とその取り扱いに係る安全を確保するトリチウム・システムの開発は核融合炉の実現に必要不可欠である。本稿では, 核融合炉のトリチウム・システムについて, ITERのトリチウム・システムの設計とその技術基盤を中心に紹介するとともに, 今後の課題について述べる。
著者
本多 牧生 乙坂 重嘉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.225-228, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10

福島第一原子力発電所(FDNPP)事故由来の粒状態放射性セシウムの海洋内での輸送状況を把握するため,2011年7月にFDNPP南東沖大陸斜面に沈降粒子捕集装置を設置し,その後3年間に捕集された粒状物質の放射性セシウムを測定した。その結果,2014年初夏になってもFDNPP事故由来の放射性セシウムが検出され,毎年秋季になると増加する傾向があること等が観測された。捕集粒子の主成分が鉱物粒子であること,海水中の溶存放射性セシウム濃度から推定される粒状態放射性セシウムフラックスより捕集されたフラックスがはるかに大きいことからFDNPP事故由来の放射性セシウムが沈着したFDNPP沖海底堆積物が再懸濁し,大陸斜面に水平方向に輸送されている様子が窺えた。また秋季に見られた放射性セシウム濃度とフラックスの増加は台風が接近・通過することで,より浅い水深の海底堆積物が再懸濁し水平輸送されたと推定された。
著者
八木 絵香
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.29-34, 2013 (Released:2019-10-31)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

エネルギー・環境戦略に関する「国民的議論」において,世界初の試みとなった政府主催の「討論型世論調査」。これらの結果に接した人々,特に筆者が出会う原子力分野の人々に少なくない感想は,「あれは『特殊な』人達の声で,サイレントマジョリティの考え方は違う」というものである。本当に討論型世論調査で示された国民の声は「特殊な」人々の声なのだろうか。その結果はどう読み解かれるべきだったのか。このような観点から,2012年夏のエネルギー・環境戦略に関する国民的議論を振り返り,今後のエネルギー政策の具現化に向けて,改めて原子力専門家が問われる役割について解説する。
著者
上野 陽里
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.97-101, 1983-02-28 (Released:2009-04-21)
参考文献数
5
著者
堀 啓一郎 山路 斉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.593-597, 2017 (Released:2020-02-19)
参考文献数
30

東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きて半年後に開催された2011年9月のIAEA総会において「原子力安全に関するIAEA行動計画」が承認された。これに基づいて実施されてきたIAEAの福島第一原子力発電所の事故に関する活動は2015年の最終報告書の完成をもって終了した。現在はフォローアップとして福島の経験を踏まえた安全確保,安全規制に関する考え方を取り入れるためのワークショップ等が適宜開催されている。
著者
岸田 一隆
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.416-420, 2020 (Released:2021-02-01)

2019年12月に開催された「再処理・リサイクル部会セミナー」における岸田の基調講演の内容を,その時の講演のスタイルとともにまとめた。コミュニケーションの基本構造から解き明かし,伝え方や心構えについて注意を払うことを解説した。大切なのは,コミュニケーションを担う双方の間に共同体意識を生むことであり,共に未来を作り出してゆくという意識を持つことである。そのためには,自らも変わる準備がなくてはならない。
著者
石野 栞 関村 直人 鈴木 雅秀 浅野 恭一 永川 城正 柴原 格
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.396-404, 1994-05-30 (Released:2010-01-08)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

原子力機器の高信頼性,長寿命化への要求がさらに高まるのに伴い,照射環境における材料挙動を機構論的理解の上に立って評価することに関心が持たれるようになっている。異なった照射条件下の材料挙動を関連づけてゆく場合のスケーリング則を「照射相関」と呼ぶが,圧力容器鋼の照射脆化予測も機構の理解の上に立ち,照射相関の考えに基づいて行うことが精度の向上につながると考えられる。本稿では,照射脆化機構研究についての現状を解説する。
著者
北村 俊郎
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.338-341, 2013 (Released:2019-10-31)
参考文献数
4

福島第一原発事故から2年が経過し,電力会社は防潮堤建設や非常用電源の増強などの対策を進めているが,それは主に直接的原因に対応するものである。国会事故調の委員長がいみじくも「メイドインジャパン型の災害」と評したが,今回の事故の背景には,日本社会に根ざす問題が多々存在する。事故は,この国の原子力開発の歴史の集大成であり,その過程でのさまざまな誤りの帰結と言ってよい。