- 著者
-
水野 資子
- 出版者
- 一般社団法人 日本心身医学会
- 雑誌
- 心身医学 (ISSN:03850307)
- 巻号頁・発行日
- vol.45, no.7, pp.503, 2005-07-01 (Released:2017-08-01)
目的:セロトニントランスポーター(5-HTT)の蛋白発現量と機能は5-HTT遺伝子の転写調節領域(SLC6A4)の遺伝多型によって調節される. 扁桃体を介した恐怖条件づけや日常生活におけるストレスに対する感受性に, この遺伝子多型が関与するという報告がある. 脳機能イメージングを用いた恐怖および怒りの表情認知課題において, 右扁桃体の賦活がSLC6A4遺伝子の"l/l"型に比し"s"アリルをもつ個体において強いことが報告された. 扁桃体と腹内側前頭前野(vmPFC)との間に存在する豊富な神経投射は情動の表出に関連するとされ, 大うつ病患者ではこの回路の過活動が報告されている. また, 前頭前野から扁桃体への伝達にセロトニン神経系が関与することが知られている. よって, セロトニン神経の伝達を調節するとされるトランスポーターの遺伝子多型が扁桃体-vmPFCの情報伝達を調節すると考えられる. 著者らは, トランスポーターの機能が低く, 気分障害や自殺企図との関連が報告される"s"アリル保持者で扁桃体とvmPFC間に強い連絡があると仮説づけ, これを検証した. 方法:対象は29名の健常男性である. 全員に5-HTT遺伝子の多型分析を行った. 課題には情動刺激として快, 不快の情動を想起させる写真を用いた, また, コントロールとしてneutralな写真を用いた. 課題遂行中の脳血流変化(BOLD)をfunctional MRIを用いて測定し, 遺伝子多型との関連性を検討した. 脳画像解析にはSPMを用いた. 結果:遺伝子解析の結果, s/s型9例, s/l型11例, l/l型9例であった. Friskらの報告と同様に, 不快または快刺激の提示時に扁桃体の活動がみられた. また, 不快刺激提示時にのみ右扁桃体と"s"アリルの相関がみられた. 一方, 快刺激提示時の扁桃体の賦活と遺伝子多型の相関はみられなかった. また, 扁桃体とvmPFCの局所血流量上昇の共変性が観測された. この共変性と遺伝子多型に相互作用がみられ, 左扁桃体と左vmPFCの共変性が"l/l"型の個体に比し"s"アリル保持者において強いことが明らかとなった. 考察:本研究は扁桃体-vmPFCの連合強度の5-HTT遺伝多型による差を証明した最初の報告である. 今回の結果は5-HTTの機能が負の感情形成に関与するという先行研究を支持した. また, "s"アリル保持者における不快刺激に対する高い過敏性を示唆した.