- 著者
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福土 審
- 出版者
- 一般社団法人 日本心身医学会
- 雑誌
- 心身医学 (ISSN:03850307)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.11, pp.1034-1038, 2014-11-01 (Released:2017-08-01)
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)では,通常の一般臨床検査で把握される形態変化を欠くにもかかわらず,腹痛と便通異常に代表される下部消化管症状が慢性,再発性に持続する.IBSは頻度が高く,患者の生活の質を障害し,早期社会不適応の重大な原因となり,不安障害,うつ病性障害,身体表現性障害とのcomorbidityが高い.IBSの病態は,消化管生理学,微生物学,ゲノム科学,脳科学,心身医学を総動員して追求されており,いまだ完全ではないものの,次第に解明されつつある.その病態の中でも,脳腸相関の異常の重要性をわれわれは早い時期から提唱してきた.ComorbidityはIBSが重症化するにつれて病態への関与度が増す.コホート研究により,うつ病性障害と不安障害がIBS発症のリスク要因になることがわかつてきた.その逆に,IBSを含む機能性消化管障害であることがうつ病性障害と不安障害の発症リスクを高める.失感情症や人生早期の虐待などの重大なストレスはIBS発症のリスク要因になる.IBS患者では,大腸伸展刺激を加えたとき,中部帯状回,扁桃体,脳幹の過活動や背外側前頭前野の活性不全があり,腹痛を感じやすい.これらは,失感情症や被虐待歴をもつ個体でも部分的に生じている.IBS発症のリスク要因としては,感染症の種類も重要である.うつや身体化があると,感染症を契機としたIBS発症のリスクが高まるが,伝染性単核症が慢性疲労症候群の発症リスクを高めるのと対照的に,キャンピロバクター腸炎はIBSの罹患率を高め,病原体の臓器-疾患特異性がある.IBSとそのcomorbidityの背景には脳機能画像で検出可能な脳機能異常があり,脳腸相関を軸にしたその支配遺伝子,蛋白,関連微生物の同定が急務である.