著者
高橋 清久
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.169-178, 1998-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1

近年の時間生物学研究の進展により生物時計機構の解明が進み、この時計機構の異常が疾患を引き起こしている可能性が示唆されている。この異常による障害は生体リズム障害とよばれるが, その代表的なものは睡眠覚醒リズム障害と季節性感情障害である。これらに共通した特徴は, 高照度光照射が効果をもつことである。また, 睡眠覚醒リズム障害にはビタミンB12およびメラトニンが奏効する例がある。最近行われた季節性感情障害の長期経過研究により, この障害には(1)秋冬のみにエピソードを繰り返す季節性, (2)過眠・過食・炭水化物渇望などの非定型症状, (3)光療法奏効, という3つの特徴を兼ね備えた中核群が存在することが明らかにされた。
著者
石津 宏 下地 紀靖 與古田 孝夫 宇良 俊二 与那嶺 尚子 下地 敏洋 柳田 信彦 仲本 政雄 比嘉 盛吉 秋坂 真史 名嘉 幸一 吉田 延
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.347-355, 2000-06-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
25

ICUに入室した患者でも, ICU症候群を発症する者としない者である.ICUに3日以上在室し, 安静I度を強いられた患者のうち, せん妄, 不穏, 失見当, 幻覚, 独語などのICU症候群をきたした患者30名(男性22名, 女性8名)とICU症候群をきたさなかった患者30名(男性21名, 女性9名)の両群について, ICU症候群の発症に関わると思われる諸要因について比較検討した.その結果, 原疾患, 既往歴, 職業, 喫煙, 飲酒歴, 入室状況, 栄養状態などでは, 両群に有意な差はみられなかったが, ICU症候群では, 睡眠状態の不良(p<0.01), 6本以上の接続ライン(p<0.01), 家庭における同居数が多い患者(p<0.001)において有意差がみられた.これらを説明変数とし, ICU症候群発症者を目的変数として重回帰分析を行ったところ, 「同居家族数」「睡眠状態」の2項目に有意な関連がみられた.精研式INVでは, Z因子に有意な関連がみられ(p<0.05), エゴグラムでは, 有意ではないがM型にやや多い傾向がみられた(p<0.10).虚血性心疾患とタイプAとの関連は従来述べられているが, ICU症候群発症者とINVとZ因子との関連も注目すべきである.また同居家族の多い者は孤独になった時のコーピング能力になんらかの弱さがあるのではないかと推測され, 前もって家族の面会を多くするなど孤独を防ぐ対策は, 発症予防に役立つことが示唆される.
著者
和気 裕之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1093-1100, 2009-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14

歯科患者の一部は,歯科医師および医師による心身医学・精神医学的な対応を要するが,その認知度は比較的低い.はじめに,歯科心身医療の現状を把握するため『日本歯科心身医学会雑誌』の11年間の論文を総覧した.その結果,主な対象疾患は舌痛症,顎関節症,口臭症(口臭恐怖症)であり,また,それらの"いわゆる歯科心身症"は,主に大学病院や総合病院の口腔外科で対応されており歯科の心療科は少数であった.現在,歯科心身症は明確な定義が示されておらず,臨床では広義の心身症の概念が用いられていると考えられた.今回,心身医学・精神医学を専門としない医療者にも応用可能な患者の分類と対応法を提示し,また,医療連携のあり方を述べた.
著者
岡本 百合 吉原 正治
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.367-373, 2003
参考文献数
17
被引用文献数
1

攻撃的な父親イメージをもつbulimia nervosa患者の臨床像について検討した.攻撃的な父親イメージをもつbulimia nervosa (purging type)10例と,攻撃的な父親イメージをもたないbulimia nervosa (pursing type)10例について,臨床像,摂良態度,感情状態,ストレス対処行動,自尊感情について,EAT,POMS,CISS,ローゼンバーグの自尊感情尺度を用いて比較検討した.攻撃的な父親イメージをもつ群では,CISSの課題優先対処の得点が低い傾向にあり,ストレスに対して客観的,計画的な行動をとりにくい傾向にあることがうかがわれた.また,攻撃的な父親イメージをもつ群では,自尊感情の得点が有意に低かった.また,摂食障害以外の精神医学的診断のついた攻撃的な父親イメージをもつ10例を対照群として,虐待体験や母親イメージを比較したところ,bulimia nervosa (purging type)のみに性的虐待体験を認め,母親イメージは弱いと回答した者が多かった.
著者
長田 尚夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.30-37, 1980-02-01 (Released:2017-08-01)

Social and psychologic problems were neglected in the treatment of sexual disturbance in the past. In this paper, we reported on our treatment for psychosomatic sexual disturbances which were caused by physical sexual disorders. (1) Disorders on sexual development. Patients with Klinefelter syndrome and male hermaphroditism were suffering from psychological sexual troubles in spite of successful hormonal therapy. When treated psychosomatically, however, good results were obtained. (2) Hypogonadism. Patients with eunuchism and eunuchoidism who had anxiety about marriage in spite of satisfactory hormonal therapy were treated psychosomatically. Consequently, they became able to lead a happy life with their spouse. (3) Impotence. Take honey-moon impotence, for instance. Favorable results were obtained when the couple restored their tender feelings and the wife became co-operative in the treatment. It is important to establish a good working relationship in a couple when we treat a patient with functional impotence. (4) Surgical stress and testosterone. Plasma and urinary testosterone levels tended to decrease under surgical stress. We would emphasize that the treatment of male sexual disturbance should be approached not only from the physical standpoint but also from the psychosocial standpoint.
著者
生野 照子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.277-283, 1989
被引用文献数
4

Children tend to show symptoms related to "eating." The causes for eating-related symptoms in children are often associated with the parent-child relationship. The author recently studied the parent-child relationship in connection with the eating behavior, taking intp consideration the current social background in Japan.The subjects of this study were 14 children (aged under then years) who visited our department with the chief complaint of one of various kinds of eating disorder. The psychological backgrounds of these children were analyzed. In a half of them, there had been troubles with food intake already in the early infantile period ; the addition of parent-child mental conflicts to these disturbances resulted in the onset of eating disorder. In the remaining half of the children, no eating-related symptoms had occurred in the early infantile period, but a crisis in the parent-child relationship had appeared at some occasion and eating disorder was induced as a reaction to that stress.Before the onset of eating disorder, all children had been more or less controlled by their parents (or the desires of the children had often been refused by their parents). After the onset of eating disorder, the children in turn controlled the behavior of their parents.In the familes of these children, the educational, physical and self-sufficient aspects of eating had been emphasized at the dining table, with little attention paid to the emotional exchange among family members at the dining table. Thus, the mental aspect of eating had been narrowed in these families.This state of dining table nehavior can distort the parent-child and familial relationships under the influence of the current social factors ; it makes the dining table a place where children feel heavy pressure, suffering, passive status and frustration.The questionnaire survery about anorexia nervosa also disclosed that an unsatisfactory emotional parent-child exchange is relfected in the dining table behavior. Such an ambivalent situation between parent and child produces an ambivalent parent-child relationship, resulting in ambivalent, morbid eating habits.
著者
松岡 紘史
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1145-1150, 2010-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本稿では,慢性疼痛に対する認知行動療法の効果および治療効果の媒介要因,調整要因を概観することを目的とした.過去に実施された複数のメタアナリシスによって,慢性疼痛に対する認知行動療法の効果は確認されているものの,効果サイズが小さい,効果がみられないアウトカムが存在する,などの問題も残されている.治療効果の調整要因および媒介要因を検討している過去の研究からは,認知的要因が媒介要因として重要であること,また,調整要因としてはMultidimensional Pain Inventory(MPI)を用いたサブグループと治療に対する期待が重要であることが明らかにされた.臨床実践への提言および今後の方向性が論じられた.
著者
野村 恭子 中尾 睦宏 竹内 武昭 藤沼 康樹
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.619-625, 2005
参考文献数
20
被引用文献数
1

うつ状態の26歳男性にparoxetine 10mgを4カ月間投薬後, 家庭的・経済的理由により三環系抗うつ薬へ変更した.Paroxetine中止3〜4日後より衝動性, 易刺激性, 激越などが出現したが, うつ状態のコントロール不良が前景に立っていたため, SSRI退薬症候群の診断が困難であつた.患者は突然の症状に動揺し, 診察予約を無断キャンセルするなどその後の治療経過に難渋した.海外の疫学研究では, 同症候群は早期に自己寛解する経過良好の疾患群で, 希死念慮や投薬量について因果関係は検討されていなかつた.SSRIの投薬を中断する場合には, たとえ最低量の中断においても, 患者に予期される症状を十分に説明することが, 円滑な治療の継続のため重要であると考えられた.
著者
林田 草太 岡 孝和 兒玉 直樹 橋本 朋子 辻 貞俊
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.907-913, 2006
参考文献数
10

症例は35歳,女性.全身に紅斑・膨疹とかゆみが出現・消褪を繰り返すようになり,近医で蕁麻疹と診断されさまざまな抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬を処方されたが,症状は不変で,心因の関与が疑われ当科入院となった.負荷試験として鏡映描写試験と暗算負荷試験を行ったところ,試験直後より紅斑・膨疹を伴ったかゆみが出現し約2時間持続.このとき血漿ヒスタミン値は上昇した.職場や姑の話をした直後にも同様の蕁麻疹が生じた.支持的精神療法に加え,心身相関の気づきを促すためにかゆみの程度を記録,自律訓練法の指導,パモ酸ヒドロキシジンの内服により,増悪・寛解因子を理解し,症状が出現しない工夫ができるようになり,その結果蕁麻疹は改善し,鏡映描写試験後の血漿ヒスタミン値の上昇も軽度となった.慢性蕁麻疹のうち心理的要因により難治化しているものに対しては,心身医学的アプローチが有効であると考えられる.
著者
中山 秀紀
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1343-1352, 2015-12-01 (Released:2017-08-01)

近年インターネット機器の急速な普及に伴い,依存的な使用による重大な社会的・健康問題が話題になりつつある.2012年の調査では,中高生の約52万人にインターネット依存が疑われると推計されている.インターネット依存は世界的にも疾患ととらえる方向にある.インターネット依存にはうつ病や不安性障害,強迫性障害,睡眠障害などの精神疾患や注意欠陥多動障害などの発達障害を合併することが多い.治療は認知行動療法をはじめとした心理療法や,合併する精神疾患には薬物療法も用いられ,治療キャンプのようなリハビリテーションも行われる.依存性疾患は予防的対処が重要であり,家庭,医療,教育,行政機関がそれぞれ協力してインターネット依存に対処する必要がある.
著者
白倉 克之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.301-308, 1998-06-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
13

近年わが国のアルコール依存症者数の増加傾向が指摘され, 依存症者およびアルコール関連問題を有する患者数は, 全国で約230万ないし250万人に達すると推定されている.事実アルコール依存症者像についても, 30数年前の中年ブルーカラー男性という固定したイメージは払拭され, 産業メンタルヘルス領域で問題とされる「職場の3A」の一つとして, ホワイトカラー族はいうに及ばず, キッチン・ドリンカーという造語にみられるように家庭婦人やOLなどの女性患者, 最近では未成年者や高齢者にもその急増が指摘されるなど, アルコール依存症ないしアルコール関連問題を抱える患者層の多様化が顕著となっている.一方では近年の国民医療費の急増, 高齢化・少子化現象に基づく就労人口の激減などに直面している事実に鑑み, アルコール問題は早急に解決されなければならない焦眉の社会問題の一つといっても過言ではない.厚生省も従来の成人病という概念を修正して, 1996年より生活習慣病という概念を導入し, がん・脳血管障害・高血圧症・糖尿病などとともにアルコール症についてその対策や予防に全力を傾けている状況である.以上のような状況に鑑み, 本稿では前半でアルコール医療について簡単に解説するとともに, 後半ではストレス・コーピングの立場から飲酒行動について述べてみたい.
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.969-976, 2016 (Released:2016-10-01)
参考文献数
21

過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) は, 大多数が心身症の病態を示す心身医学の代表的疾患である. IBSの公刊論文数の推移をみると, IBSの領域は現在明らかに活性化している. かかる動向の中にあって, 日本消化器病学会の提唱により, IBS診療ガイドラインを2014年に和文, 2015年に英文にて公刊した. エビデンスに基づく診療は個々の患者の治療反応性を完全に予測できるところまでには現在至っていない. しかし, 多数の患者を集積すればエビデンスの確率密度関数から実現値を高い確率で推定することは可能である. 診療ガイドラインの中のIBSのストレス応答, 心理的異常, 脳機能画像, 診療担当医の患者への心身医学的配慮, 食事療法, 抗うつ薬, 認知行動療法に代表される心理療法, 運動療法などは心身医学の重要性を数学的に証明している. IBSの診療ガイドラインの有用性は高く, それが実用に供されることを期待する.