著者
森田 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.127-131, 2005-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
5

近年産業の現場でメンタルヘルスが重要視され, その専門家の関わりが望まれ, その結果, 心身医学関係者はより強く産業医学と関わりをもつであろう. 産業衛生の「作業関連疾患」という概念は, 作業が発症, 再発, 増悪因子になっている疾患で, 作業要因として心理社会的な要因が含まれ, 心身症と類似した概念である. 疾病予防や健康増進に重点を置き, 組織集団を対象としてきた産業医学に対し, 個人を対象としてきた心身医学の経験や治療技法などはメンタルヘルスケアだけでなく, 生活習慣病の予防や改善に役立てることができよう. また, 心療内科医が産業医として活動した場合, 労働者の仕事内容や職場環境を理解しやすく, より効果的な治療を行える可能性もあろう.
著者
廣瀬 俊司 吉川 悟
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.867-876, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

本研究の目的は,歯科診療室でブラキシズム患者のストレス状態を客観的指標で表す質問紙の作成を試みることと,医療面接と質問紙法の結果からブラキシズムとストレスの関係を明らかにすることで,ブラキシズムの新しい治療法を考案することである.ブラキシズムは,顎口腔系に破壊的に作用して,補綴処置やインプラント治療で多くの問題を起こす原因になっている.ブラキシズムにはいくつかの関連因子の報告があり,多因子説が主流である.しかしながら,原因は解明されていない点が存在しており,その関連因子の中のストレスに注目した.ストレスはきわめて多義的で,多変量であり,ストレス状態を正しく測定することは難しい.そこで,患者の抱えるストレスの把握には,医療面接に加えて心理テスト(特に質問紙)が有用であると考えた.本研究では,当院受診患者で同意の得られた358名に医療面接および口腔内診査にて,ブラキシズムの診断と質問紙法によるストレス・チェック(Stress Self Evaluation Check List)を行った.ストレス・チェックの質問項目は13問をもとにして,ストレスの構成概念として「心身の疲労」,「怒りの気分」,「抑うつの気分」,という3つの構成概念を検討した後,ストレスと構成概念との関係を明らかにして,ブラキシズムの有無によりストレス度に有意な差が確認できるか検証すると同時に,今後のブラキシズム治療の可能性について述べる.
著者
渡辺 徹也 戸田 常紀 梶 龍児 木村 淳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.611-616, 1996-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
20

今回我々は, 阪神大震災被災による心的外傷から, 重度の脱水, 高Na血症を来したPTSDの1例を経験した。本例はclomipramine hydrochlorideの点滴静注とbromazepam投与を行ったところ著しい改善を認めたので, 若干の考察を加えて報告する。
著者
武井 美智子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.911-918, 2004
参考文献数
24
被引用文献数
1

摂食障害(ED)の遷延化要因として, 以下の2点について検討した. (1)Egna Minnenav Barndoms Uoofostran(EMBU)を用いて, 摂食障害患者群(67例)と対照群(82例)に, 15歳時を回顧して養育体験を調査し, 比較検討した. ED群で両親とも, 「拒絶」は有意に高く, 「情緒的温かみ」は有意に低かった. また父親は「過保護」が「成績重視」, 「過干渉」ともに有意に低く, 母親は「ひいき」が有意に高かった. このことは, 親子間の情緒交流が不適切になり, 子どもが情緒抑圧的となって, 発病後の心理, 行動, 社会的発達が阻害され, 遷延化する可能性を示唆していた. (2)当科を受診した131例中, 病歴10年以上の遷延例は31例であった. 31例のサブタイプ別のBMI平均値はAN-R12.7, AN-BP13.4と低く, この2群では持続的に, またBN-P群では嘔吐などにより間歓的に, 半飢餓状態が惹起されていると考えられた. これら3群が遷延例の80%以上を占めており, これは, 半飢餓状態が神経内分泌との交互作用を介して, 遷延化因子の1つであることを示唆している.

1 0 0 0 OA 慢性骨盤痛

著者
森村 美奈 野口 愛
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.856-861, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
著者
澤原 光彦 村上 伸治 青木 省三
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.51-58, 2017

<p>本稿では, 成人の心身症を含む精神医学的諸問題とその背景にある発達障害的特性について, いくつかの代表的な症状を呈した症例の素描を提示し, 筆者の見解を述べた. 発達障害を背景に生じうる状態像として, ①統合失調症類似の状態, ②うつ病・抑うつ状態, ③双極性障害・双極Ⅱ型障害, ④心身症, ⑤心気症的こだわり, ⑥強迫性障害, ⑦摂食障害, ⑧境界性パーソナリティ障害, を挙げた. これら精神医学的な各症状においては, 症状の表層にのみ関心を奪われ, 背景の発達障害的問題に配慮した支援を行わなければ, 難治化・遷延化の危険がある. 診断においては, 常に成育史に関心を払い, 患者の症状がその疾患の典型病像とどのように異なっているかを細心の注意をもって吟味する必要がある.</p>
著者
福田 真也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.199-205, 2000-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

大学生の"引きこもり"について, 大学の保健管理センターで関わった12例をもとに報告した.1)性別では男性に圧倒的に多い.2)引きこもり先は自宅の自室とアパートなどに独居している者が同数.3)大学入学以前に不登校の既往のある者よりもない者の方が多い.4)程度では軽度と思われるアパシーや, まったく社会とコミュニケーションの取れない重い症例もいたが, 中間の症例が最も多い.5)アトピー性皮膚炎や気管支喘息などの心身症を合併する症例が多い.6)その後2/3の者は退学した.彼らは精神分裂病による自閉や躁うつ病のうつ病相で"引きこもり"になったわけではないが, なんらかの神経症的症状, 強迫的傾向や対人恐怖症状をもち, 高い自尊心と低い自己評価の間の葛藤に悩むことが多かった.対応・治療では一部の症例は行動や身体面からのアプローチが有効であったが, 多くの症例ではその対人関係上の問題から良好な治療者・患者関係が築けず対応が困難であった.相談件数も増加しており, 大学生のみならず青年期のメンタルヘルス上重大で, 心身医学からのアプローチも今後重要と思われる.
著者
近藤 直司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.285-291, 2010-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
7

近年,さまざまな精神医学的問題をもつ青年期ケースの中に発達障害を背景とするものが少なくないことが明らかになってきている.本稿では,ひきこもり問題の精神医学的背景,発達障害の関連,ひきこもりをきたしやすい広汎性発達障害ケースの特性と予防的早期支援の考え方について述べる.また,広汎性発達障害ケースの心理療法的アプローチと地域の関係機関によるネットワーク支援の実際についても触れた.
著者
松原 慎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.993-1000, 2016

<p>機能性消化管疾患 : 診療ガイドライン2014が上梓された. その中でも過敏性腸症候群 (IBS) の治療の第3段階においては, 催眠療法, 認知行動療法 (CBT), 弛緩法がエビデンスのある有効な治療として推奨された<sup>1) </sup>. これらは心身医学の専門医が積極的に適用すべき治療法である. しかし一方で, 第3段階の治療を複数はおろか一つでも縦横に使いこなせる心療内科医もまだ十分には育成されていないと思われる. 従来の常識とは異なり, 現代の催眠は, オーダーメイドが可能なことから自律訓練法 (AT) より支配性が少なく安全に用いることができる. しかし, エビデンスのある腸指向催眠療法 (GDH) は伝統的催眠の手法を用いている. またCBTも瞑想およびリラクセーションを取り入れ, 催眠もCBTも変性意識を扱うようである. 本稿では, 催眠療法およびその近縁であるATとCBTのエビデンスの紹介および実践上の注意点, 各治療法の長短について, 横断的に比較検討して概説した.</p>
著者
角田 博之 宮岡 等 永井 哲夫 上島 国利
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.273-277, 1998
参考文献数
10
被引用文献数
2

約15年間にわたって口腔領域のセネストパチー症状を訴え続けた後, 突然妄想状態を呈し精神分裂病と診断された症例を報告する.初診時28歳, 男性, 無職.主訴は口腔領域の異常感.15歳時より, 顔の筋肉が切れている感じや咬合がずれているような感じが持続し, 28歳時, 歯科医の勧めで精神科を受診した.セネストパチー症状は, 向精神薬の投与によっても改善が認められなかった.30歳時に著明な被害関係妄想を認めたため, 精神分裂病と診断された.したがって, 本症例にみられた口腔領域のセネストパチー症状は, 分裂病の前駆症状あるいは部分症状と考えられた.セネストパチーの治療では分裂病症状の出現に注意し, 彼らが歯科を受診した場合は必要に応じて精神科受診を勧める必要があろう.
著者
鈴鴨 よしみ 熊野 宏昭 山内 祐一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.417-424, 1997
参考文献数
14

この研究の目的は, タイプA行動パターン, 職場ストレス(Karasekのdemandcontro1-supportモデルにより定義), および生活習慣の歪みの間の関連を, 以下のような仮説に基づいて検討することであった。1)タイプA行動パターンと職場ストレスは, 運動不足, 飲酒, 喫煙, 食行動の異常といった健康に対して悪い影響を及ぼす行動的リスクファクターを助長する。2)タイプA者が高ストレイン状況下におかれるとより多くの生活習慣の歪みを呈する。2職場の649名の職員(男性442名, 女性207名)に質問紙(「JobContentQuestionnaire(JCQ)」, 「前田式A型傾向判別表」, その他生活習慣の歪みについて尋ねるもの)による調査を行った。そして, タイプA行動パターン, 職場ストレス, および生活習慣の歪みの間の相互連関を各性別ごとに分散分析により検討した。この研究はパス解析を用いて行った以前の研究を再解析したものである。再解析を行った理由は, パス解析ではタイプAと職場ストレスの相乗効果が検討できず, 上記の2番目の仮説の検証が十分にできなかったためである。さらに, 以前の研究では26項目から成るJCQを用いたが, JCQの信頼性と妥当性を検討した最近の研究の中で22項目4下位尺度版の利用が推奨されていたため, 今回は22項目に基づいて新たに算出し直した結果に基づいて解析した。その結果, 以下にあげるような関連がタイプAまたは職場ストレスと生活習慣の歪みとの間に見出され, 2,3の結果を除き, 第一の仮説はおおむね是認されたものと考えられた。1)男性のタイプA者には喫煙者が多く, 女性のタイプA者はアルコールをよく飲む。2)仕事の要求度の高い男性はアルコールをよく飲む。3)裁量の自由度の高い男性には喫煙者が多い。4)同僚のサポートが十分にある男性は間食が少ないが, アルコールをよく飲む。5)仕事の要求度と裁量の自由度がともに高い女性は間食が多い。6)裁量の自由度と同僚のサポートがともに低い男性は最も運動不足である。また, 第二の仮説は以下のような点で検証された。1)裁量の自由度の低い男性のタイプA者は最も運動が不足していた。2)仕事の要求度の高い女性のタイプA者と仕事の要求度の低いタイプB者の双方で喫煙者が多い傾向にあった。以上から, 今回の研究では, 全体的に仮説を支持する結果が得られたということができよう。今後は, より多くの職場を対象にして, 職種をより詳細に分類した研究, そして, タイプA行動パターンと職場ストレスの身体的および心理的リスクファクターに対する影響も検討できるような研究をさらに進めることが望ましい。