著者
南 雅文
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.877-884, 2009-08-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
8

痛みは,侵害刺激が加わった場所とその強さの認知にかかわる感覚的成分と侵害刺激受容に伴う不安,嫌悪,恐怖などの負の情動(以下,不快情動)の生起にかかわる情動的成分からなる.痛みによる不快情動生成における扁桃体の役割を検討したところ,体性痛に関する情報は基底外側核(BLA)を経て中心核(CeA)に入った後,一方,内臓痛に関する情報はBLAを介さずCeAに入った後,不快情動を生成する可能性が示された.この体性痛による不快情動生成には,BLA内グルタミン酸神経情報伝達が重要であること,モルヒネがこの情報伝達を抑制的に調節することも明らかにした.さらに,"extended amygdala"を構成する脳領域である分界条床核において,痛み刺激によりノルアドレナリン遊離が促進され,このノルアドレナリンによるβ受容体を介した神経情報伝達亢進もまた痛みによる不快情動生成に重要であることを明らかにした.
著者
松澤 大輔
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.333-339, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
19

遺伝子DNAが出生後もエピジェネティックな修飾を受けて発現調節されることが注目されている. DNAメチル化はその一つであり, 脳内神経組織のDNAメチル化もさまざまな外部刺激により後天的に変化がもたらされることが知られてきた. 近年では精神疾患においてもその影響を示唆する研究が相次いでいるが, 不安や恐怖の記憶が症状にかかわる不安症関連精神疾患ではエピジェネティックな現象の関与について現在でも知見は多くない. 本稿では, 不安関連精神疾患で発症脆弱性や治療抵抗性を示す背景へのDNAメチル化の関与を, 筆者の教室で得られた結果を紹介しながら論じたい. 精神疾患におけるエピジェネティックな機構は, ストレス応答の変化など獲得した行動の次世代への継承にも役割を果たしている可能性もあり, 今後の研究結果の蓄積が待たれている.
著者
鈴木 (堀田) 眞理
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.1006-1012, 2016

<p>栄養学の知識は摂食障害の病態の理解と治療に必須である. 治療抵抗性の肥満やメタボリック症候群では過食性障害や夜食症候群の存在を疑うべきである. 1940年代に行われた健康人の半飢餓臨床試験では, 神経性やせ症に似た行動異常と精神的合併症と反動の過食が認められた. 飢餓が二次的な心理・行動変化をもたらすことは周知すべきである. 神経性やせ症患者では三大栄養素だけでなく, ビタミンや微量元素などほとんどの栄養素が不足する. 本症患者の体重1kgあたりの1日の必要エネルギーは健康人より多いので体重は増加しにくい. 成長期に発症した神経性やせ症では, 低身長は後遺症になりうる. 日本の神経性やせ症患者の約80%がビタミンD不足・欠乏で, 二次性副甲状腺機能亢進症を伴い, 骨粗鬆症や骨軟化症を合併する. 長期間の低栄養状態から摂食量が増加するときには反応性低血糖やrefeeding症候群に留意すべきである.</p>
著者
深尾 篤嗣 高松 順太 花房 俊昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.1197-1207, 2015-11-01 (Released:2017-08-01)

背景:内分泌疾患における症状精神病の病態は,従来ホルモンの過不足を主因とするbiomedical modelの立場から考えられてきた.本稿では,甲状腺疾患,クッシング症候群を例にして,biopsychosocial medical modelからみたその実際について述べる.結果:近年の研究によって,バセドウ病,橋本病ともに合併する精神障害で多いのは抑うつ状態や不安障害であり,治療で甲状腺機能が正常化した後も残る例が多いことがわかってきた.また,筆者らはバセドウ病患者において,甲状腺機能正常化後に残る精神障害は心理的ストレスとの関連が強く,難治化要因になることを見い出した.一方,クッシング症候群ではうつ病との鑑別が問題となる.さらにSoninoらは,クッシング病の発症には心理的ストレスが関連していること,大うつ病像が術後再発の危険因子となることを報告している,本稿では筆者らが経験したうつ病との鑑別に苦慮したクッシング病の一例を提示する.結論:内分泌疾患における症状精神病はbiopsychosocial medical modelでとらえ直す必要がある.
著者
渡辺 徹也 戸田 常紀 梶 龍児 木村 淳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.611-616, 1996
参考文献数
20

今回我々は, 阪神大震災被災による心的外傷から, 重度の脱水, 高Na血症を来したPTSDの1例を経験した。本例はclomipramine hydrochlorideの点滴静注とbromazepam投与を行ったところ著しい改善を認めたので, 若干の考察を加えて報告する。
著者
細谷 紀江 荒井 康晴 原 節子 村山 ヤスヨ 三木 治 村上 正人 桂 戴作
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.583-586, 1991

We reported a case of 35-year-old male motorman who was suffering from work-related IBS. His symptoms were eased by a psychosomatic approach we provided while he was away from work for a half-year. The specific therapies were as follows : 1. Antidepressant medication, anti-anxiety drugs, drugs for the bowel. 2. Counseling and autogenic training conducted not only fro self-evaluation and relaxation but also for understanding the correlation between body and mind. 3. SD in order to ease anxiety while operating a train. Regarding the process of SD, the patient told us about a fatal accident which he had witnessed previously. SD, intended to remove the anxiety caused by observing the fatal accident, rapidly eased the patient's physical symptoms, and he became able to return to his job.
著者
平林 直樹 秦 淳 須藤 信行 清原 裕 二宮 利治
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.718-723, 2017 (Released:2017-07-01)
参考文献数
4

近年の疫学研究により, 糖尿病はアルツハイマー病 (AD) 発症の危険因子として注目されている. さらに, 画像解析技術の進歩により頭部MRIを用いて脳の容積を部位別に定量的に計測することが可能となり, 糖尿病と脳の形態学的変化との関連を検討した疫学研究の報告が散見されるようになった. 福岡県久山町の疫学調査 (久山町研究) の過去約30年の成績によると, 認知症, 特にADの有病率は人口の高齢化を超えて急増し, また糖尿病など糖代謝異常の有病率も上昇している. 久山町研究ではこれまでに糖尿病がAD発症や剖検脳における老人斑形成と関係することを報告した. また, 2012年に65歳以上の久山町住民を対象に実施した頭部MRIデータを用いた脳画像研究では, 糖尿病者, 特に糖負荷後2時間血糖値が高い者は, 正常耐糖能者に比べ海馬容積が有意に小さいことを明らかにした. さらに, 糖尿病の罹病期間が長く診断時期が早期であるほど, 海馬萎縮がより顕著であった.
著者
錦織 壮
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.219-227, 1977
被引用文献数
2

Self-rating Depression Scale (SDS), which had been designed by Zung in 1965,was first translated into Japanese and fully studied by Fukuda in 1973. After statistical examination of the results, Fukuda concluded that SDS would be also useful for Japanese people.The author, translated SDS into Japanese by himself and has applied it, since 1970 at Toyosato Hospital to 54 out- and in-patients who were in neurotic and/or depressive state. As the result, it was found that the mean values of raw depressive score were almost identical to Fukuda's results in normal control subjects as well as in the patients mentioned above. Statistically no significant difference was found in the results between the author and Fukuda as far as the raw scores were concerned.The raw scores in the normal control group were significantly lower in both the author's and Fukuda's results as compared with those of Zung. A possible explanation of hte difference found in these normal subjects between U.S.A. and Japan, was made by the author exclusively from the transcultural viewpoint. He pointed out that the questions # 17 and # 20 in this scale were not adequate to the Japanese in detecting depressino and that these seemed to be a great difference between Japanese and Ameriacn with regard to their response to the wording such as "enjoy sex" and "suicide" due to their different backgrounds. Furth-ermore, after having madeseveral examinations of his results, the author considered that it was necessary to have a kind of reliability score in SDS such as was generally included in personality inventory.Thus the author concluded that, on the contrary to Fukuda's opinion, the current SDS seemed to be of little use for the Japanese and that a new Self-Rating Depressino Scale should be originated which was more fitting for the Japanese.
著者
関根 里恵
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.445-450, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
5