著者
齊藤 卓弥
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.303-311, 2010-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

発達障害と気分障害の合併は,患者の全体的な機能(functioning)の低下を引き起こし,発達障害の患者の適応をより低いものにする.従来,発達障害患者の気分障害の合併に関してはさまざまな議論があったが,徐々に発達障害に気分障害が合併すること,また発達障害患者に気分障害の評価・診断を行う際にはさまざまな配慮が必要であることが明らかになってきている.発達障害の中で気分障害に注目することは,問題行動の予防をする点からも重要であると考えられるようになってきている.同時に,治療可能な合併する気分障害の治療を積極的に行うことは,発達障害患者のquality of lifeの向上と機能の至適化に重要である.ここでは,気分障害を合併する発達障害の診断・治療について,現在までの知見を概説するのと同時に,米国における発達障害への教育的なかかわりを通して成人の発達障害への支援について1つのモデルを提案する.
著者
川上 正憲 中村 敬 中山 和彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.359-366, 2015

アトピー性皮膚炎に身体醜形障害を併存する1例を報告した.神経質性格を基盤にしたアトピー性皮膚炎の患者が,皮膚症状に対する「とらわれの精神病理構造」を認める場合,外来森田療法は有用である.治療者は,彼女の語り,および彼女の実存を主体的,実存的に我がものとして引き受け,「生の欲望」の涵養を行った(実存的交わり:ヤスパース).また,本症例は皮膚科医師に「顔の皮膚症状は良くなっている」と言われているにもかかわらず,「自分としては良くなっているとは思えない.納得できない」という「皮膚科医師の客観的判断と,本人の主観的判断の不一致」を認めた.こうした認知様式は,身体醜形障害に由来するもので「妄想的心性」もしくは「外見の欠陥に対するとらわれ」と呼ばれる.こうした認知様式が彼女のドクターショッピング行動を引き起こしていたことを指摘した.
著者
浜崎 景 浜崎 智仁 稲寺 秀邦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.842-848, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

ω3系多価不飽和脂肪酸(以下,ω3)は,1970年頃から心筋梗塞などの動脈硬化症に対する予防効果を期待され,さまざまな疫学調査や臨床試験が行われてきた.それ以降ω3に関する論文数は右肩上がりに増加しており(Fig.1),1980年頃より精神疾患に関する疫学調査が報告され,2000年頃から精神疾患患者を対象とした臨床試験が多く行われるようになってきた.これまでのメタ解析の結果をみると,精神疾患の中でも特にうつ病に効果がみられることが示唆されている.現在では日本での気分障害の患者は100万人を超えていると推測されており,ω3が栄養学的な観点から治療の一助になる可能性もある.本稿ではわれわれが得た知見を紹介するとともに,この分野に関する海外からの疫学調査や臨床試験の報告を紹介する.
著者
荒井 弘和 中村 友浩 木内 敦詞 浦井 良太郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.865-871, 2005-11-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

本研究の目的は, 男子大学生を対象として, 身体活動・運動と不安・抑うつとの関係を検討することであった.大学1年生の男子1,159名を対象に, HADS日本語版, 身体活動評価表, および運動行動の変容段階尺度を使用して, 横断的調査を行った.その結果, 運動・スポーツや日常活動性は, 不安とは関連していなかったが, 抑うつとの間に有意な負の相関関係が確認された.また, 運動行動の変容段階が無関心期の者と, それ以外の変容段階の者との間において, 抑うつ得点に有意な差が認められた.しかし, 抑うつに関する結果は, 1,000名を超すサンプル数に影響されている可能性があり, 抑うつに関する結果の解釈には注意が必要である.
著者
河西 千秋
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.801-805, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
9

自殺未遂は最も強い自殺の危険因子であり, 未遂者の自殺再企図防止が自殺予防対策の主要課題とされ, その方略開発が長く国際的な課題であった. そのような中, わが国で実施された自殺対策のための戦略研究・ACTION-Jが, 世界的に初めて科学的根拠性をもってその方略を提示した. ACTION-Jは, 精神科と救命救急センターが連携する17病院群で実施され, 自殺企図で搬送された914名の未遂者を対象に, 試験介入群に構造化されたケース・マネージメント介入が実施された. その結果, 試験介入群では一定期間, 自殺再企図の発生割合が低減し, 介入の実効性に優れていることが示された. 戦略研究の成果活用の必要性はすでに自殺総合対策大綱に言及されており, ケース・マネージメントを実施する人材の養成研修が試行され, 厚生労働省の医療事業化へと進展している. 今後はこのACTION-J介入モデルの一般医療への普及が課題である.
著者
Samir Al Adawi 鄭 志誠 辻内 琢也 葉山 玲子 吉内 一浩 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.933-941, 2005-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22

国際的にみて, 精神的外傷を引き起こすような死別に対し, 十分に対処がとられている社会は少ない.これにもかかわらず, 死別に対する反応を社会的特性という観点でとらえる人類学的研究はごくわずかであり, 死への悲嘆反応は, 心身医学的問題としてとらえられている傾向がある.本稿では, オマーンの伝統的な社会に存続する不慮の死における死者の生き返り(zombification), そして呪術や魔法に関する信仰(信念)を紹介する.これらの反応は社会的に容認されており, 死者の死の否定を基礎としている.さらに考察では, これらを説明モデルという概念を用いて分析し, 世界各地で観察される類似する悲嘆反応を欧米のタナトロジー(死亡学)研究におけるそれと比較し, 新たな視点で論じる.
著者
夏目 誠
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.101-108, 2009-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10

メンタルヘルス不調者が増加しているかどうかについて,1.マクロの視点,2.身近な視点から報告するとともに考察を加えた.結果:1.マクロの視点から1)2004年度の厚生労働省(厚生白書)の患者動向調査によれば,1984〜2002年度までの19年間に「うつ病」は4.5倍と,著明に増えている.次にうつ病と関連が深いとされている自殺者は,この9年間にわたり3万人台と高止まりが続いている.さらには抗うつ薬の販売額は増加している.2)職場の現状では2008年度の社会経済生産性本部の上場企業を中心にした調査によれば,「この3年で心の病が増加した」と答えた上場企業は56.1%にのぼり,年代では30歳代に多いと報告している.2.身近な視点1)筆者が精神科医として相談・診療に関与している企業4社では,いずれもメンタルヘルス不調者が増加している.2)2つの「うつ病やうつ状態をめぐる座談会」の参加者である,2名の精神科医や3名の心療内科医,産業医・心理学者のいずれもメンタルヘルス不調者が増加していると答えていた.以上の2視点からの結果より,増加しているといえる.
著者
大平 泰子 石川 浩二 芦原 睦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.236-244, 2011
参考文献数
18

本稿は,製造業事業所において実施してきたメンタルヘルス対策を,予防策としての効果と実践可能性の観点から検討する.本稿で報告するのは,2006年度に定期健康診断を受けた3,882名の従業員(男性3,464名,女性418名,正規社員3,402名,契約社員480名,平均年齢40.5±12.3歳)に実施されたプログラムである.メンタルヘルス不調の有無を調べるために,定期健診の際にメンタルヘルスに関する問診表および保健師問診を実施し,そのいずれかで抽出された従業員に対して産業カウンセラー面接と産業医診察を実施した.結果,新規に22名(0.6%)のメンタルヘルス不調者を把握した.メンタルヘルス不調ではないと判断された従業員に対しても,カウンセリング,環境調整などの予防的介入を行った.本対策を実施した2003年度と2006年度には他の年度よりも事業所内診療所メンタルヘルス部門の来談者が増加し,うち定期健診以外の来談経路による来談者が減少した.この結果は,本対策が二次予防(早期発見・早期治療)および一次予防(発症予防)として有効であることを示唆している.さらに,小人数の産業保健スタッフで効率的にメンタルヘルス対策を実践しえた.このような高い実践可能性は,メンタルヘルス対策の推進にとって重要である.
著者
傳田 健三
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.19-26, 2017

<p>自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder : ASD) は, 社会的コミュニケーションおよび対人相互性反応の障害, 興味の限局と常同的・反復的行動を主徴とし, 乳幼児期に発現する精神発達の障害である. DSM-Ⅳでは広汎性発達障害という上位概念のもとに, 自閉症, アスペルガー障害, 特定不能の広汎性発達障害などの下位分類が存在したが, DSM-5ではASDという概念で統一された. 近年, ASDへの関心と需要が高まっている一方で, 十分な診療が行われているとは言い難いのが現状である. 本稿では, 自閉スペクトラム症について, ①概念の変遷, ②診断と臨床像, ③治療, ④経過と予後, ⑤心身医学におけるASDの特性理解について述べてみたい.</p>

1 0 0 0 脚下照顧

著者
井出 雅弘
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, 2005
参考文献数
1

表題にからめて,不安について思うところを述べたいと思う.安永によれば,不安を恐怖という感情に対比させて論じている.切迫する現実的有危険や困難が,明確な形で直接に認知された場合,われわれは恐怖を感じるものである.その際,その対象に対抗意識をもって注意が集中し,緊張し,衝動的逃避,あるいは反撃の構えをとる.それに対して危険感が,明らかな形をとらずに襲いかかるとき,われわれは不安を感じる.それは,よりび漫性に精神に侵し込む「根本的心情性一であり,無力感や狼狽の状態に陥る.それはあまり外を志向せず,身体感覚とともに感じられる陸面的な混乱状態の感覚である.つまり,不安は莢象がはっきりしない内的な葛藤を含む感情で麦り,差し迫った危険に対して覚醒度を上げて,危険回避の対処行動をとらせるための信号と解釈てきる.誰しも不安を感じるものであるが,病的な不安になると自分では制御することが難しく,比較的長く持続したり,再現を繰り返したり,再現するのではないかという不安感を伴う.不安に関して印象に残った患者の言葉をここに紹介しよう.「いろいろなことに不安になるのは,もし不幸なことが生じたときに不安という心の準備をしていたので,そのときは不安が強くならないのです」と.これは不安について考えさせられる言葉であった.折りしもその後患者は乳癌に罹患したが,冷静に対応されていたのである.心の対処様式の一つであろう.対比的だが,ここで次のような有名な禅問答を思い出す.雪の降りしきる極寒の日,壁に向かい続ける達磨に一人の男が訪ねてきた.名を神光.四書五経の万巻を読み尽くしていた人物である.彼は膝まで積もった雪の中で達磨に問うた.「心が不安でたまらないのです.先生,この苦悩を取り去ってください」.達磨は答える.「その不安でたまらない心というものを,ここに出してみろ.安心せしめてやる」.神光は,「…出そうとしても出ません.心にはかたちがないのです」.達磨はすかさず,「それがわかれば安心したはずだ.かたちのないものに悩みがあるはずもない」と.神光は,その後達磨の弟子となり,第二代の祖となった.ここで「不安に不安となる」という言葉が浮上してくる.これは守ろうとする自己と,煩悩,執着,こだわりなどを捨てようという自己との葛藤に関連するものかもしれない.守りに入ると維持するのが苦しい.かといって捨ててしまうには,相当な心的エネルギーを要する.このように,われわれの心は絶えず揺れ動いている.心は身体と違ってひとつのところに置いておけないものであるから,それをありのまま認めるしかないのである.そこで「脚下照顧」という四字禅語が登場する.意訳すればあまり外のことばかりに気をとらわれず,むやみに動かず,自分の足もと,心の中を観ておきなさいということであろう.ごく当たり前の日常生活の中に自分の心を根付かせよということのようだ.具体的にいえば「飯を食うときは飯を食うことに徹し,糞をするときは糞をすることに徹しよ」ということであろう.そこには不安が介在する間がないのである.
著者
細谷 律子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.347-353, 2016

アトピー性皮膚炎の治療は, 薬剤による皮膚症状の治療, 悪化因子の検索とその除去, 保湿剤によるバリア機能の補完が基本となる. 悪化因子の一つである精神的ストレスは, かゆみを増加させ, 搔破に拍車をかける. 一方, 搔破がストレス対処行動になっていることもあり, 搔破行動が習慣化している場合, その離脱を図らないと本来の皮膚科治療の効果を十分発揮することができない. しかし難治化した患者の多くは, かゆみや搔破行動にとらわれており, やめようと意識するほどやめられないと訴える. そのような患者に「搔くな」と指導するより, 生き方や考え方の転換を目指し外来森田療法を行っている. 行動本位の生活を指導し, あるがままの生き方を体得させていく. 生き方の転換は, とらわれからの解放, ストレス状態の改善を促し, おのずと皮膚炎を軽快させることになる.
著者
橋本 久美 久村 正也 浜上 尚也 飯村 伸孝
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.1145-1154, 2015

大学生の学業怠惰傾向を測定する「なまけ傾向尺度」について,学業面・健康面・認知面との関連より尺度の有効性の検討を行った.大学生205名(男性109名・女性96名,平均年齢19.9±1.3歳)に,「なまけ傾向尺度」,GHQ28,POMS短縮版,「学業生活全般に関する調査」および「不合理な信念尺度」の質問紙調査を行った.Pearsonの相関分析では,「なまけ傾向尺度」3因子と取得単位率,GHQ28,POMSの多くの下位尺度との関連が認められた.取得単位率を従属変数とした重回帰分析では,「なまけ傾向尺度」の先延ばし因子と無気力因子が有意な独立変数となった.共分散構造分析の結果では,単位取得率には無気力因子および先延ばし因子からの直接効果が認められた.本研究では,「なまけ傾向尺度」が単位取得や精神的健康度および認知面と関連をもつことから内容的妥当性が確認され,さらに,なまけ傾向尺度の3因子が相互に関連しあい,単位取得行動を阻害する心理的構造が明らかになった.
著者
細谷 律子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.332-338, 2014

難治化したアトピー性皮膚炎患者の中には,掻破が習慣性になっているものが少なくない.無意識に,イライラして,衝動的に,あるいは不安から逃避的に皮膚を掻破していることが多く,心理的依存状態を形成している患者もいる.掻破行動やかゆみ,あるいはアトピー性皮膚炎そのものにとらわれている(精神交互作用が生じている).そのような患者に筆者は単に「掻くな」と指導するのでなく,生き方や考え方の転換を目指し,外来森田療法を行っている.日記を介在させたり,患者同士が経験を話し合える場を提供しながらあるがままの態度の実践を指導する.その結果患者に気づきと意識の転換が生まれると,とらわれからの解放,症状を受容する心が生じる.さらに人生の受容につながっていくことも多い.勇気をもって自己実現に挑むようになり,これらの結果掻破行動は減少し,皮膚のバリア機能の回復が促進し皮膚症状はめざましく改善していく.