著者
大沢 知隼 橋本 塁 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.300-312, 2018-12-30 (Released:2018-12-27)
参考文献数
42
被引用文献数
4 4

本研究の目的は,集団ソーシャルスキルトレーニング(集団SST)の効果を左右する個人差として報酬への感受性に着目し,スキルの遂行に随伴する報酬のひとつである笑顔刺激に対する注意バイアス修正訓練によって,ソーシャルスキルの維持と般化が促進されるかどうか検討することであった。小中学生を,標準的な集団SSTを行う標準群と,集団SSTに加えて注意バイアス修正訓練を行う注意訓練群に振り分けた。ターゲットスキルの獲得がなされなかった可能性のある者を除外し,報酬への感受性の高低群に分けて分析を行った結果,小中学生ともにすべての条件において,獲得されたターゲットスキルが介入1か月後まで維持および刺激般化されることが示された。また反応般化については,攻撃行動は小学生のすべての条件で低減した一方で,向社会的スキルは小中学生ともに注意訓練群においてのみ増加が見られた。このことから,たとえターゲットスキルが維持および刺激般化されたとしても,スキルの種類によっては反応般化が起こりにくいこと,そして反応般化が起こりにくいスキルであっても,注意バイアス修正訓練を併用することで相応の反応般化が促される可能性があることが示唆された。
著者
渡辺 弥生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.126-141, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
82
被引用文献数
4 4

ソーシャル・スキル・トレーニングやソーシャル・エモーショナル・ラーニングは,もはや,子ども達の社会性や感情の側面のみの成長を視野にいれ,子ども達だけに働きかける単なるアプローチではなくなりつつある。むしろ,学校における問題や想定されるあらゆる危機を予防するユニヴァーサルな支援である。子ども達や学校に関わるすべての人たちの支援だけでなく,安心し楽しく伸びやかに過ごせる学校風土を創成することがめざされているからである。したがって,このユニヴァーサルなアプローチは,比喩的に言えば,学校危機が生じても予防できる回復力や免疫力を持てるように導入されつつある。近年,こうした背景を受けて,向社会性をめざした「より良い(prosocial)」や道徳教育に焦点を当てた「より善く(moral)」だけでなく,学校スタッフすべての至福(Well-being)を掲げる「より健康に(healthy)」をめざすようになっている。学校予防教育は,今後ますます健全な学校風土に必要不可欠である学習環境を確立し保持していくために,包括的な教育実践に発展していくであろう。
著者
岡田 涼 解良 優基
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.376-388, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
62

本研究では,「学級の目標構造の知覚は児童・生徒にどの程度共有されているか」という問いについて,級内相関係数に対するメタ分析によって検討した。系統的な文献検索によって,34論文から38研究を収集した(N=44,807)。得られた級内相関係数は120個(熟達目標構造89個,遂行目標構造31個)であった。メタ分析によって推定された級内相関係数の値は,熟達目標構造の知覚が.14,遂行目標構造の知覚が.09であった。それぞれの目標構造の下位側面については,熟達目標構造が.13―.20,遂行目標構造が.05―.14であった。調整変数として,評定の対象(学級,教師)と平均クラスサイズの効果を検討したが,効果はみられなかった。本研究で推定された級内相関係数の値について,マルチレベル分析の適用,他の学級風土研究での級内相関,個人の目標志向性の級内相関,の3点から検討し,最後に目標構造の知覚から教育実践に対する示唆について論じた。
著者
長南 浩人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.112-122, 2018-03-30 (Released:2018-09-14)
参考文献数
58
被引用文献数
2 2

本稿は,2016年7月から2017年6月末までの1年間で発表された特別支援教育における教育心理学に関する研究の動向を概観したものである。発表論文について数的な分析を行った結果,近年の発表件数に減少傾向が見られた。また聴覚障害児教育に焦点を当て研究動向を分析した。その結果,音声言語の習得に関する指導法については,バイリンガルろう教育や人工内耳装用児の育ちの実態から,発達早期の段階から音声を利用して指導する方法やキュードスピーチが再び評価されていることが示唆された。また,認知発達や家族心理についても概観し,これらを踏まえて今後の展望を述べた。
著者
加藤 弘通 大久保 智生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.34-44, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
8 4

本研究は, 学級の荒れと学級の雰囲気の関係を検討することを目的として行われた。公立中学校8校の37学級の中学生1~3年生 (男子544名, 女子587名, 計1, 131名) を対象に,(1) 向学校感情,(2) 問題行動の経験,(3) 学級の荒れ,(4) 不良少年のイメージをたずねる質問紙を実施した。(2) の問題行動の経験尺度から, 生徒を問題生徒, 一般生徒に分け,(3) の学級の荒れ尺度から, 学級を通常学級と困難学級に分けた。そして, 一般学級と困難学級において, 生徒がもつ問題行動や学校生活に対する意識=学級の雰囲気にどのような違いがあるのかを検討した。その結果, 全体として, 通常学級に比べ困難学級の生徒のほうが, 不良少年がやっていることをより肯定的に評価し, 彼らに対する否定感情および関係を回避する傾向が低く, 学校生活にもより否定的な感情を抱いていた。この結果から, 学級が荒れることには, 問題生徒だけでなく, 一般生徒の不良少年や学校生活に対する意識の違いが関係していると考えられた。したがって, 問題行動の防止・解決には, 問題行動をする生徒だけでなく, 問題行動をしない一般生徒に対しても関わる必要性があることが示唆された。
著者
小山 義徳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.28-42, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
59
被引用文献数
1

本稿は,この数年の間に発表された,日本教育心理学会における教授・学習・認知領域における研究を概観し,この分野における成果を紹介した。本稿の対象としたのは2018年7月から2019年6月末までに『教育心理学研究』に掲載された論文及び,2019年9月に日本大学で開催された日本教育心理学会第61回総会で発表された内容である。本稿では,『教育心理学研究』に掲載された研究と,総会で発表された研究を分けて紹介し,学会誌におけるトレンドと学会発表のトレンドが明らかになるように構成した。また,「探究的な学習」に関する理論やエビデンスとしてどのような研究があるかを検討した。その結果,「探究的な学習」に関する研究があまり多く行われていないことが明らかになった。そのため,最終節では,特に「疑問生成」にフォーカスして,教育心理学の「探究的な学習」への展開可能性について述べた。
著者
三和 秀平 解良 優基 松本(朝倉) 理惠 濵野 裕希
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.260-275, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
33

子どもが教科に対して認知する利用価値や興味の変化および分化を検討するために,学習塾に通う小学校4年生から中学校3年生を対象に調査を行った。その結果,実践的利用価値では,英語のみ中学校1年生で高くなるが,他の教科では学年が上がるにつれて低下する傾向がみられた。制度的利用価値では,英語では学年が上がると増加する傾向が,理科と社会では学年が上がると低下する傾向がみられた。興味では数学と英語を除き学年が上がるにつれて低下する傾向がみられた。このように,利用価値の認知や興味の変化は,教科や価値・興味の側面ごとに異なることが示された。また,教科間の相関関係を見ていくと,数学-理科のような距離の近い科目の興味は学年が上がっても,一定の相関係数を維持していた。一方で,数学-国語のような距離の遠い科目の興味は学年が上がるにつれて相関が弱くなり,中学校3年次には相関がみられなくなっていた。このことより,学年が上がるにつれて距離の遠い科目の興味が分化することが示唆された。一方で,利用価値では相関係数は低下する傾向にはあるものの,一定の値を保っていた。また,英語に関しては他の教科とは異なった傾向を示していた。
著者
石本 啓一郎 石黒 広昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.333-345, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
30
被引用文献数
2 3

文字獲得はこれまで主に文字形態に焦点をあててきたが, 本研究では思考の媒介手段としての文字の機能に焦点をあてる。子どもが産出する物理的な線を総称して「インスクリプション」と呼び, それが想起の媒介手段として機能する発達過程を明らかにすることが本研究の目的である。ヴィゴツキーの「二重刺激の機能的方法」に基づき, 呈示文を後で思い出せるようにインスクリプションの産出を促すメモかき課題を3歳から7歳の80人に実施した。子どもが産出したインスクリプションの形態と, それによる想起成績の関係を検討したところ, インスクリプションは年齢と共に図像, 文字へと順次移行し, 想起手段として役立つようになっていった。さらに, 想起手段として文字を産出した者とそれ以外の者の課題遂行過程を比較検討したところ, 図像利用者は呈示文の意味を記すのに対して, 文字利用者は呈示文の音韻を記そうとしていた。インスクリプションはその形態変化を伴いながら, 媒介手段にほとんどならない多様な線画の状態から, 図像, そして文字に媒介された行為を形成する段階へと順次移行していく。
著者
神谷 哲司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.160-173, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
59
被引用文献数
2 3

本研究では,世界的に自立した消費者であることが求められるようになっている中,ファイナンス効力感尺度の開発を目的とした。インターネット調査によって収集された20代から60代の男女689名を分析対象とした。因子分析の結果,ファイナンス理解,日常的計画性,適切なローン・クレジットの取引,ライフプラン設計,金融商品・高額商品の検討の5次元から構成される29項目が抽出され,各次元の内的整合性,ファイナンスに関する知識,満足感,行動ならびに,特性的自己効力感およびLocus of Controlによる併存的妥当性,再検査法による信頼性の検討で十分な値が得られた。ただし,再調査時のデータによる探索的因子分析結果では,5因子に収束せず,3因子が示された。また,年代,性別,婚姻状況による検討では,すべての尺度で年長世代の方がより得点が高いこと,また,ファイナンス理解,日常的計画性,金融商品・高額商品の検討で性差が見られ,適切なローン・クレジットの取引,ライフプラン設計,金融商品・高額商品の検討については非婚者よりも既婚者の方が高いことが示された。以上より,因子構造の安定性に課題は残るものの,一定程度の妥当性と信頼性が確認された。
著者
古池 若葉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.367-377, 1997-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

The purpose of this study was to clarify the kinds of strategies utilized to depict emotions in drawings and their developmental processes. Children aged 5, 6, 7, 9 and 11 (N=187), were asked to create a series of drawings depicting emotions (happy, sad, angry) in trees, and to report on their strategies. Drawings and reports were analyzed in relation to how children operated their knowledge when drawing. Two major findings were as follows.(1) Five kinds of strategies were identified from the reports: facial expressions (e. g., crying face for sad), gestures (e. g., drooping for sad), image scheme (e. g., a small tree for sad), emotion-evoking situations (e. g., a tree injured by a woodcutter for sad), and symbols (e. g., a tree in the rain for sad). These suggested that children utilized their knowledge toward emotions when drawing.(2) Drawings were scored in terms of the reported strategies and combination of the strategies. The results showed that as children grew they added more and more strategies to their repertoire, and depicted emotions while using more and more strategies.
著者
堀野 緑
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.148-154, 1987-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
21 13

The present article focuses on the conce pt of achievement motive which currently presents certain difficulties to investigators due to a lack of consensus on its meaning. Two investigations were undertaken with 447 undergraduate students (237 male, 210 female): (1) to develop a scale for measuring achievement motive in terms of Social Need Achievement (SA) and Personal Need Achievement (PA) and (2) to clarify the relationships between personal traits related to achievement motive. Results indicated that: (1) Challenge Success Need (CSN) should be incorporated into the co ncept of achievement motive: (2) SA has little relation to personal traits while PA is related to self-actualization, and CSN being possibly related to toughness and vitality ; and (3) there are differences between males and females concerning achievement motive. The results, in general, proved the need for a multi-faced definition of achievement motive.
著者
小山 義徳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.73-85, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
29
被引用文献数
6 1

英語を外国語として学ぶ日本人学習者を対象に, 英単語の学習方略が英語の文法・語法上のエラー生起に与える影響を検討した。研究1では, 半構造化面接を行って収集した項目をもとに高校生182名・大学生84名を対象に調査を行い英単語学習方略尺度を作成した。研究2では, 学習者が英語のエラーを犯す頻度を測定するために, 高校生157名を対象に調査を行い英語の文法・語法エラーテストを作成した。研究3においては, 研究1, 2で作成した尺度を用いて高校生123名と大学生301名を対象に, 英単語学習方略がエラー生起に与える影響を検討した。その結果, 英語と日本語の意味を対にして覚える対連合方略の使用が英語の文法・語法エラーの生起と関連があることが明らかになった。