著者
松尾 直博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.165-182, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
51

日本の道徳教育は大きな転換点を迎えようとしている。小中学校において, 今まで領域とされていた道徳の授業が, 「特別の教科 道徳」として教科として位置付けられ小学校では平成30年度(2018年度), 中学校では平成31年度(2019年度)から実施されることとなった。道徳教育, 道徳科の授業の目標が明確化され, 効果的な授業についてもより開発の必要性が高まっている。近年日本で行われた道徳性や道徳教育に関わる研究を概観しつつ, その知見が道徳教育にどのように貢献できるかについて考察を行った。その結果, 道徳的判断, 子どもの道徳性の経年比較, 感情が道徳的認知に及ぼす影響, 共感, 海外の道徳教育, 道徳の授業実践に関する研究などが行われており, そのような研究の道徳教育への応用可能性について考察した。今後の展望として, さらなる基礎, 授業に関する実践研究などの必要性が述べられた。
著者
長谷川 真里
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.13-23, 2014 (Released:2014-07-16)
参考文献数
21
被引用文献数
7 1

本研究の目的は, いわゆる「仲間はずれ」とよばれる, 異質な他者を集団から排除することについての判断の発達を検討することであった。研究1では, 小学生, 中学生, 大学生を対象に, 私的集団(遊び仲間集団)と公的集団(班)のそれぞれにおいて, 社会的領域理論の3領域(道徳, 慣習, 個人)に対応した行動の特徴を持つ他者に対する排除判断(集団から排除することを認めるか), その理由, 変容判断(その他者の特徴は変わるべきか)を求めた。その結果, 年齢とともに, 排除自体の不公平性に注目し排除される他者の特徴を区別しない判断から, 集団機能に注目し他者の特徴を細かく区別する判断へ変化した。小学生は2つの集団を区別して判断する一方で, 他者は変わるべきであると考える傾向が見られた。研究2では, 小学生と中学生を対象に, 友人への志向性の差と排除判断の関係を検討した。閉鎖的, 固定的な集団への志向性および友人への同調欲求が高いと, 集団排除を認めることが示唆された。最後に, 本研究の限界と今後の課題が議論された。
著者
高橋 和子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.147-155, 2005-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
17

基本的な意思疎通に問題がないとされている高機能広汎性発達障害の子どもたちは, 学校などの健常児集団の会話の中では, 健常児が共通理解できる言外の話題の前提や文脈が分からず, 周囲から奇妙だと思われる発言をしたり, うまく会話に参加できなかったりするといった語用障害をもっている。そのため, 彼らには健常児集団内での会話支援を行う一方で, 高機能自閉症児の集団内でコミュニケーション・ソーシャルスキルの支援を行うことが効果的であると考えられる。しかし, 国内では, まだ彼ら仲間集団内で相互交渉を通してコミュニケーションを系統立てて支援した報告はほとんどない。また, 支援の結果, どのようなプロセスで子どもたちはコミュニケーションの破綻を修正し, 他者の心情を確かめたり, 自己の心情を伝えるようになるのかについても, 明らかにはされていない。本稿では, 小学5年生から中学1年生を中心にした10人の高機能広汎性発達障害児集団で集団活動に取り組み, そこでINREALによるコミュニケーション・ソーシャルスキル支援を行った。その取り組みに対し, 援助の内容と, 子どもたちが自分の気持ちを伝えたり相手の気持ちを推し量り情動調整を行うプロセスに検討を加えた。
著者
黒田 祐二 桜井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.86-95, 2003-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
12 6

本研究は, 友人関係場面における目標志向性と抑うつとの関係に介在するメカニズムを明らかにすることを目的として行われた。両者に介在するメカニズムとしては, Dykman (1998) により提唱されたディストレス生成モデル (目標志向性が対人行動を通してネガティブな出来事を促進 (ないし抑制) し, その結果抑うつが促進 (ないし抑制) される) に加えて, 新たにユーストレス生成モデル (目標志向性が対人行動を通してポジティブな出来事を促進 (ないし抑制) し, その結果抑うっが抑制 (ないし促進) される) を提唱し, この2つのモデルを検討した。重回帰分析による結果から, 3つの目標と抑うつとの関係はいずれもユーストレス生成モデルで説明できることが示された。すなわち,(1) 「経験・成長目標→関係構築・維持行動及び向社会的行動→ポジティブな出来事の発生→非抑うつ」,(2)「評価一接近目標→関係構築・維持行動→ポジティブな出来事の発生→非抑うつ」,(3)「評価一回避目標→関係構築・維持行動の不足→ポジティブな出来事の非発生→ 抑うつ」,という結果が示された。本研究の関連する既存の研究領域及び教育的介入に対する示唆が論じられた。
著者
深谷 達史 戸部 栄子 立見 康彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.414-428, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
30
被引用文献数
3

説明行為に関する知識である説明スキーマは, 説明的な文章の読解と表現に共通して働く知識である。例えば, 説明的な文章が主に「問い-説明-答え」の要素からなるという知識に基づき, 説明的文章の内容を整理して読んだり, 書いたりできると想定される。本研究では, 小学4年生の1学級を対象に, 説明スキーマに基づく方略使用を促し, 論理的な読み書き能力を育成することをねらいとする, 2つの説明的文章の単元の実践を行った。2つの実践では, 単元の前半に説明スキーマを明示的に教授し, 問いの文を同定した上で, 説明と問いへの答えをまとめるなど, 説明スキーマを活用して教科書の教材を読み取らせた。単元の後半では, 問い-説明-答えの要素に基づき, 授業時間外に読んだ関連図書の内容を説明する文章を作成した。また, 実践においては, ペアやグループで読んだことや書こうとしていることを説明, 質問しあう言語活動を行い, 内容の精緻化を図った。質問紙やテストによる調査結果から, 実践後には説明スキーマを活用する態度やスキルを表す得点が高くなったことが示された。今後, 他教科や探究的な学習においても説明スキーマに基づく指導を展開していくことが期待される。
著者
山森 光陽 萩原 康仁
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.555-568, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
32
被引用文献数
2 3

クラスサイズパズルと呼ばれる, 学級規模が児童生徒に及ぼす影響を検討する研究群で一貫した結果が得られない現象が見られる背景には, 学級規模と学級規模以外の要因との交互作用の存在が考えられる。学級編制基準は学級規模のみならず, 学年学級数の多少も決定するため, 本研究では学級規模の大小, 学年学級数の多少及びこれらの組合せによって過去の学力と後続の学力との関係に違いが見られるかを検討した。そのために, 小学校第4, 6学年4月に実施された国語の学力調査得点についての67校分の2時点のパネルデータに, 対象児童が第4, 5学年時に在籍した学年の学級数及び学級の児童数を組合せ, 階層的線型モデルを適用した分析を行った。この結果, 過去の学力調査得点が低かった児童について見れば, 学級数の多い学年で小規模な学級に在籍した児童の方が, 学級数の少ない学年で小規模な学級に在籍した児童と比べて後続の学力が高いといった学力の底上げが見られた。この背景について, 学級規模と学年学級数によって異なる学級の質, 学年学級数によって異なる教師同士の協同による教材研究等の頻度の点から考察した。
著者
藤村 宣之 太田 慶司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.33-42, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
7 2

本研究では, 算数の授業における他者との相互作用を通じて児童の問題解決方略がどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。小学校5年生2クラスを対象に「単位量あたりの大きさ」の導入授業が, 児童の倍数関係の理解に依拠した指導法と従来の三段階指導法のいずれかを用いて同一教師により実施された。授業の前後に実施した速度や濃度などの内包量の比較課題と, 授業時のビデオ記録とワークシートの分析から, 以下の3点が明らかになった。1) 倍数関係の理解に依拠した指導法は従来の指導法に比べて, 授業時と同一領域の課題解決の点で有効性がみられた。2) 授業過程において他者が示した方法を意味理解したうえで自己の方略に利用した者には, 他者の方法を形式的に適用した者に比べて, 洗練された方略である単位あたり方略への変化が授業後に多くみられた。3) 授業時の解法の発表・検討場面における非発言者も, 発言者とほぼ同様に授業を通じて方略を変化させた。それらの結果をふまえて, 教授・学習研究の新しい方向性や方略変化の一般的特質などについて考察した。
著者
下村 英雄
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.145-155, 1996-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
1

The present study was intended to examine strategies of information search used in vocational decision making. Third and fourth-year undergraduate students were selected as subjects. Regarding the amount of information search, high and low group of vocational readiness were found to be different among third-year students who did not have any job hunting experience whereas no difference was observed between the two groups among fourth-year students who had a job hunting experience. With regards to strategies of information search, third-year students tended to use strategies-search within alternatives across attributes in first part of vocational decision making process and search within attributes across alternatives in a second part of the process. On the other hand, fourth-year students tended to search within attributes across alternatives in the first part and search within alternatives across attributes in the second part. Fourth-year students used information search strategies which were more rational and analogous to decision making in other areas of daily life.
著者
堤 亜美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.323-337, 2015-06-30 (Released:2015-11-03)
参考文献数
26
被引用文献数
5 6

本研究では, 一般の中学・高校生を対象とした, 認知行動療法的アプローチに基づく抑うつ予防心理教育プログラムの実践を行い, その効果を検討した。プログラムは全4セッション(1セッション50分)からなり, 主な介入要素は1)心理教育, 2)感情と思考の関連, 3)認知の再構成, 4)対反芻, であった。中学3年生および高校2・3年生を対象に本プログラムを実施したところ, 分散分析の結果, 中学生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に有意に抑うつの程度と反芻の程度が低減したこと, 高校生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に反芻の程度が有意に低減し, 抑うつの程度が有意に低減した傾向が示された。また, 中学生では実施6ヶ月後, 高校生では実施3ヶ月後の時点において, プログラム実施後の抑うつ・反芻の程度を維持していることも示された。そして感想データの分析の結果, 自分自身や周囲の人たちの抑うつ予防に対する積極性の獲得など, 一次予防や二次予防につながる様々な変化が見出された。これらのことから, 本プログラムは抑うつ予防に対し継続的な有効性を保持するものであることが示唆された。
著者
湯澤 正通 湯澤 美紀 関口 道彦 李 思嫻
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.60-69, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

本研究では, 日本人幼児, 中国人幼児, 国際幼稚園の日本人幼児による英語非単語反復を比較し, 日本人幼児における英語音韻習得の制約を検討した。非単語反復とは, ある言語の典型的な音韻から構成された非単語を子どもに聴覚提示し, 即時反復させるものであり, その言語の音韻習得能力の指標と見なされている。2~5音節の英語非単語が反復刺激として, 日本人幼児46名, 中国人幼児63名, 国際幼稚園の日本人幼児29名に与えられた。その結果, 中国人幼児では, 非単語の音節数が増加するとともに, 完全正答数が減少し, 逆に, 音節再生数が増加した。一方, 日本人幼児では, 非単語の音節数の増加に伴う完全正答数の減少や音節再生数の増加は, 3音節で天井または床効果を示した。また, 国際幼稚園の日本人幼児では, 完全正答数や音節再生数は, 多かったが, 音節再生数の増加は, 一般の日本人と同様, 3音節で天井効果を示した。これらの結果から, 日本人幼児が, 英語の非単語の反復に, より多くの負荷をかけるような処理を行っていること, また, このような制約が早期の英語経験によって変化しにくいことが示唆された。
著者
村山 航 及川 恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.273-286, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
83
被引用文献数
7 10

臨床・教育心理学の分野で,“回避方略”は, ストレス状況の解決や不快情動の緩和, 学業達成などを阻害するものとして, 非適応的な方略だと主張されてきた。しかし, 気晴らし, 援助要請行動の回避, セルフハンディキャッピングといった回避方略を取り上げて実際の先行研究を概観する限り, 結果は一貫しておらず, この命題が確実に支持されているとは言い難い。そこで本稿では, 上記の命題を批判的に検討した上で, 回避方略の非適応性を捉えるための視点を提出することを目的とした。具体的には, 同じ“回避方略”であっても,“目標・意図レベルの回避”と“行動レベルの回避”を分けて考える必要性を示唆した。その上で, 従来の研究の非一貫性を説明するため,“たとえ行動レベルで回避的な方略であっても, 目標レベルで回避的でなければ非適応的にならない”という仮説を提出した。この仮説を検証するため, 先行研究を改めて概観し, いくつかの支持的な証拠を得た。また, 著者らが直接実施した調査データからも, この仮説が支持された。最後に, 臨床・教育実践の観点から, 本稿の意義が検討された。
著者
鈴木 宏昭 杉谷 祐美子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.154-166, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
73

本論文では大学生のレポートライティングにおける問題設定に注目して, その援助の可能性を探究した。問題設定は気づき, 洗練, 定式化の3つのプロセスからなり, この各々のプロセスで支援の可能性が存在する。気づきについては文献の批判的読みと直感的判断が重要である。これらを援助することでよりよいレポートが作成される可能性が高まる。洗練の段階では図的にあるいは言語的に自らのアイディアを外化することでレポートの質が向上することを示した。問題の定式化の段階では, 明確化, 普遍化, 相対化の3つが必要となる。協調学習環境下の長期にわたるライティング実践の結果, 明確化と相対化は普遍化に比べて学習されやすいことが明らかになった。
著者
村上 宣寛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.183-191, 1980-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
1 2

音象徴の研究には2つの流れがあり, 1つはSapir (1929) に始まる, 特定の母音と大きい-小さいの次元の関連性を追求する分析的なものであり, もう1つはTsuru & Fries (1933) に始まる, 未知の外国語の意味を音のみから推定させる総合的なものであった。本研究の目的は音象徴仮説の起源をプラトンのテアイテトス (201E-202C) にもとめ, 多変量解析を用いて日本語の擬音語・擬態語の音素成分を抽出し, それとSD法, 連想語法による意味の成分との関連を明らかにするもので, 上の2つの流れを統合するものであった。刺激語はTABLE1に示した65の擬音語・擬態語であり, それらの言葉から延べ300人の被験者によって, SD評定, 名詞の連想語, 動詞の連想語がもとめられた。成分の抽出には主因子法, ゼオマックス回転が用いられた。なお, 言葉×言葉の類似度行列作成にあたって, 分析Iでは言葉に含まれる音をもとにした一致度係数, 分析IIでは9つのSD尺度よりもとめた市街模型のdの線型変換したもの, 分析IIIでは6803語の名詞の反応語をもとにした一致度係数, 分析IVでは6245語の動詞の反応語をもとにした一致度係数を用いた。分析Vの目的は以上の4分析で抽出した成分の関係を調べるもので, Johnson (1967) のMax法が用いられた。分析1の結果はTABLE2に示した。成分I-1は/n/と/r/, I-2は/r/と/o/, I-3は/a/と/k/, I-4は促音, I-5は/o/, I-6は/a/, I-7は/i/, I-8は/p/, I-9は/u/, I-10は/b/, I-11は/k/, I-12は/t/に関連していた。分析IIの結果はTABLE3に示した。成分II-1はマイナスの評価, II-2, II-4はダイナミズム, II-3は疲労, に関連していた。分析IIIの結果はTABLE4に示した。成分III-1は音もしくは聴覚, III-2は歩行, III-3は水, III-4は表情, III-5は不安, III-6は液体, III-7は焦りに関連していた。分析IVの結果はTABLE5に示した。成分IV-1は活動性, IV-2は不安, IV-3は表情, IV-4は音もしくは運動, IV-5はマイナスの評価もしくは疲労, IV-6は液体, IV-7歩行, IV-8は落着きのなさに関連していた。分析Vの結果はTABLE6とFIG. 1に示した。音素成分と意味成分の関係として, I-5 (/o/) とIV-8 (落着きのなさ), I-7(/i/)とIII-7 (焦り), I-10 (/b/) とIII-6 (液体) が最も頑健なものであった。さらに, I-8 (/p/) とIII-2 (活動性), I-9 (/u/) とIII-5 (不安) 及びIII-6 (液体), I-12 (/t/) とIII-2 (歩行) 及びIV-8 (落着きのなさ) も有意な相関があった。日本語の擬音語・擬態語の限定のもとで, 音象徴の仮説が確かめられた。/o/が落着きのなさを, /i/が焦りを, /b/が液体を象徴するという発見は新しいものでありその他にも多くの関係があった。また, SD法によってもたらされた成分は狭い意味の領域しかもたらさず, 意味の多くの側面を調べるには不十分であり, 擬音語と擬態語の区別は見出されなかった。
著者
海津 亜希子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.241-255, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
55
被引用文献数
8

早期の段階での算数に焦点を当て通常の学級で実施するアセスメントを開発した。本研究では多層指導モデルMIM(海津, 2010; 海津・田沼・平木・伊藤・Vaughn, 2008)のプログレス・モニタリング(PM)としての機能を有するかについて検証した。対象は小学校1年生400名。MIM-PM算数版を年間通じて定期的に実施した。妥当性の検証では反復測定による分散分析の結果, 実施回における主効果が認められ, 回を経るごとに得点が高くなる傾向が示された。標準化された学力検査算数とも比較的高い相関があった。また, 既存のMIM-PM読み版とテスト・バッテリーを組み, 双方の得点傾向から3群(算数困難群, 高学力群, 低学力群)に分類し, 比較分析を行った。3群の学力検査算数の得点でも差異がみられた。算数困難群は全体の5.15%であった。実施回×学力特性群の2要因混合計画の分散分析を行った結果, 有意な交互作用, 2要因とも主効果が認められた。MIM-PM算数版の実施により把握できた算数困難群や低学力群は, 高学力群のような有意な得点上昇が一貫してみられなかったが, 当該学習に関する直接的な指導が実施されている期間では有意な伸びが確認された。MIM-PM算数版の活用でつまずきの早期把握の可能性が示唆された。