著者
保坂 亨
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.157-169, 2002-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
74
被引用文献数
1 2

本論文では, 不登校をめぐる歴史・現状・課題を, 不登校に関わる用語の変遷を含めたその定義の問題とこれまでの不登校研究の問題点というふたつの面から展望した。1 研究上の用語としての「学校恐怖症」「登校拒否」「不登校」を歴史的経緯に沿って整理し, 長期欠席調査の中に位置づけられる文部省調査の「学校ぎらい」の定義との違いを指摘した。現在ではより包括的な「不登校」がよく使われているが, その背景として, 典型的な類型 (たとえば神経症的登校拒否や怠学) がはっきりしないという臨床像 (実際の子どもたち姿) の変化が考えられる。2 不登校研究の問題点として,(1) 基本統計と実態の乖離,(2) 追跡調査の欠如,(3) 学校環境に関する実証的研究の不足,(4) 学校の事例研究がないことの4点を取り上げて概観した。そのうえでとりわけ不登校と学校環境の関連を複合的にとらえていく学校の事例研究を行っていくことが今後の課題であることを指摘した。
著者
溝川 藍
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.410-420, 2021-12-30 (Released:2021-12-28)
参考文献数
40
被引用文献数
4

子育てや保育・教育の現場では,子どもにとっての失敗経験に対して,大人が肯定的な言葉かけを行うことがある。先行研究からは,他者の心に関する理解が未発達な子どもほど,失敗場面でのほめ言葉を肯定的に受け入れることが示されているものの,児童期以降の発達的変化に関しては未解明である。本研究では,児童を対象に質問紙調査を実施し(N=455,6―12歳),失敗したにもかかわらず教師からほめられた際の反応について,二次の誤信念理解とエンゲージメント(学習への取り組みの指標)との関連から検討した。その結果,失敗場面でのほめ言葉に対する反応は,年齢が高いほど,また感情的エンゲージメントが低いほどネガティブであることが示された。さらに,ほめ方と二次の誤信念理解と行動的エンゲージメントの二次の交互作用が認められ,失敗場面で「よくできたね」と結果についてほめられた際に,行動的エンゲージメント高群においては,二次の誤信念理解ができない児童ほど,怒り感情を経験しやすいことが示された。これらの結果から,ほめ方やほめる状況だけでなく,心の理解の発達や学習への取り組みの個人差を考慮して言葉かけを行う必要性が示唆された。

2 0 0 0 OA 依存性の研究

著者
江口 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.45-58, 1966-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
113
被引用文献数
1
著者
遠藤 由美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.157-163, 1992-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
4 4

Traditionally, discrepancies between positive ideal-self and real-self have been associated with low self-esteem. The basic idea of general positiveness of real-self is considered an index of self-esteem. But Rosenberg (1965) emphasized two different meanings, that is, ‘good enough’ and ‘very good’ being involved in self-esteem. His self-esteem scale favored the former. In the present study, it was hypothesized that not a general positiveness, but a personalized positiveness together with a non-negativeness were correlated with self-esteem (Rosenberg). Personalized standard were defined as high rating scores of positive and negative ideal selves. The results of the present study supported the hypothesis, especially in a negative ideal-self. It was suggested that self-esteem was more a function of distance how far I am from the person who I won't to be.
著者
外山 美樹 湯 立
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.295-310, 2020-09-30 (Released:2021-02-18)
参考文献数
45
被引用文献数
4

本研究の目的は,小学4―6年生646名を対象に1カ月間の短期縦断研究を行い,いじめ加害行動の抑制に関連する個人要因としていじめ観ならびに罪悪感の予期を,学級要因として学級の質を取りあげて検討することであった。本研究の結果より,いじめを根本的に否定する考え方を有している小学生は,いじめ加害行動の抑制につながりやすいことが示された。一方で,罪悪感の予期は,いじめ加害行動の抑制につながらなかった。さらに,友達関係雰囲気,学級雰囲気,承認雰囲気,いじめ否定雰囲気といった子どもが所属している学級集団の質の要因が,いじめ加害行動の抑制につながることが示された。最後に,Time 1の加害行動とTime 2の加害行動の関連の強さが学級集団の質によって調整されることが明らかとなり,学級集団の雰囲気が良い学級においていじめ加害行動が多くみられる児童は,その傾向が長期化しやすいことが示された。いじめの問題を取りあげる際には,教室環境の要因を加味し,個人要因と教室環境の要因のダイナミクスを検討する必要性が示唆された。
著者
道田 泰司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.193-205, 2011-06-30 (Released:2011-10-21)
参考文献数
30
被引用文献数
4 1

本研究の目的は, 大学での半期の授業の中でさまざまな形で質問に触れる経験をすることが, 質問に対する態度や質問を考える力に効果を及ぼすかどうかを検討することであった。授業では毎回, グループで質問を作ること, 個人で質問書を書くことに加え, 半期に1回グループで発表させることで, 質問することが必要となる場面を作った。授業初回と学期の最後に, 質問に対する態度の自己評定と, 文章を読んで質問を出す課題を行った。2年度に渡る実践の両方において, 学期末の調査で質問に対する態度が全般的に向上しており, 質問量も増加していた。質問量の増加は, 事実を問う質問や意図不明の質問によるものではなく, 高次の質問の増加である可能性が示唆された。その変化がどのように生じたのかを知るために, 質問量と質問態度それぞれについて, 事前テストでの成績によって学生を4群に分けて事後テスト結果を検討した。その結果, 事前テスト上位群以外の学生の質問量および質問態度が向上していることが示された。以上の結果より, さまざまな形で質問に触れる経験をさせた本実践の効果が示された。
著者
髙橋 高人 松原 耕平 中野 聡之 佐藤 正二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.81-94, 2018
被引用文献数
7

<p> 本研究の目的は,中学生における認知行動的な抑うつ予防プログラムの効果を標準群との比較,さらに2年間のフォローアップ測定から検討することであった。介入群を構成した51名の中学1年生が,プログラムに参加した。標準群は,中学生1,817名から構成した。介入内容は,全6回の認知行動的プログラムから構成した。プログラムの効果を測定するために,子ども用抑うつ自己評定尺度,社会的スキル尺度,自動思考尺度が,介入前,介入後,フォローアップ測定1(1年後),2(2年後)で実施された。結果から,抑うつについて介入前と標準群1年生の比較では差が見られなかったのに対して,介入群のフォローアップ測定1と標準群2年生の比較では,有意に介入群の抑うつが低いことが示された。また,社会的スキルの中のやさしい言葉かけとあたたかい断り方,ポジティブな自動思考に関して,介入前よりも介入後,フォローアップ測定において向上することが示された。ユニバーサルレベルの抑うつ予防プログラムが,中学生に対して効果的な技法であることが示唆された。</p>
著者
倉掛 正弘 山崎 勝之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.384-394, 2006-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
36
被引用文献数
11 3

うつ病予防の重要性が指摘され, 欧米では早くから心理学を基盤とする児童期, 青年期を対象としたうつ病予防介入が実施され, 大きな成果を上げてきた。日本においては, うつ病の低年齢化が指摘されているにもかかわらず, 現在, 児童を対象としたうつ病予防介入は全く行われていない。このような現状をふまえ, 本研究では, 心理学的理論にもとつく教育現場で実施可能な小学校クラス集団を対象とするうつ病予防教育プログラムの構築, 実践, その教育効果及び効果の持続性の検討を行うことを目的とした。プログラムは, うつ病の構成要因とされる認知・感情・行動の3つの要因に対し, 総合的に介入を行い, 抑うつ傾向を改善することで, うつ病予防を目指している。さらにこのプログラムを実際の小学校教育現場において実践し, その教育効果と効果の持続性について検討を行った。その結果, 教育効果とその効果の持続性が部分的に確認され, 本プログラムが, うつ病予防総合プログラムとして有効であることが示唆される結果が得られた。
著者
進藤 聡彦 麻柄 啓一 伏見 陽児
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.162-173, 2006-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

これまで学習者の誤概念を修正するために, 反証例を用いる方法と用いない方法の2つのタイプの教授法が提案されてきた。しかし, これらの方法はそれぞれに短所を持つ。本研究ではこれら2つの教授法を組み合わせた新しい方法を提案した。それは以下の方法であった。まず, 誤概念を適用した場合には正しい解決ができない問題を提示する。続いて誤概念を持っていても解決可能な類似の問題を提示する。その問題での正しい解決に基づいて, 学習者に正しいルールを把握させ, さらにそのルールを一連の類似問題に対して適用できるようにするというものである。この方法と従来の2つの方法が誤概念の修正に及ぼす効果を検討した。76名の大学生が3群のいずれかに割り当てられた。被験者の多くは, 真空は物を吸い寄せるという誤概念を持っていた。実験の結果, 今回提案した方法は他の2つの方法より次の3点で優れていることが明らかとなった。まず, 学習者の誤概念を最も効果的に修正できた。また, 自分の知識が変化したという意識を学習者に持たせやすかった。さらに学習者の興味を喚起した。今回提案した方法は誤概念の修正に効果的であることが明らかとなった。この方法は「融合法」と名づけられた。
著者
津留 宏
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.12-20,61, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)

小学校五年生を通してみた603世帯, 約3500名の家族相互の称呼において, 比較的多数を占めた呼び方は次の通りである。夫→妻1. 名前の呼び捨て (45%) 2. 「お母ちやん」「お母さん」 (合せて29%)妻→夫1. 「お父さん」「お父ちやん」 (合せて73%)子→父1. 「お父ちやん」 (67%) 2. 「お父さん」 (27%)子→母1. 「お母ちやん」 (78%) 2. 「お母さん」 (18%)父→子1. 名前の呼び捨て (83%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (13%)母→子1. 名前の呼び捨て (67%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (27%)父→祖父「おじいさん」「おじいちやん」 (合せて70%)母→祖父「おじいさん」「おじいちやん」 (合せて80%)父→祖母「おばあさん」「おばあちやん」 (合せて70%)母→祖母「おばあさん」「おばあちやん」 (合せて80%)祖父→父1. 名前の呼び捨て (60%) 2. 「お父さん」「お父ちやん」 (合せて25%)祖母→父1. 名前の呼び捨て (44%) 2. 「お父さん」「お父ちやん」 (合せて40%)祖父→母1. 名前の呼び捨て (80%) 2. 「お母さん」「お母ちやん」 (合せて24%)祖母→母1. 名前の呼び捨て (63%) 2. 「お母さん」「お母ちやん」 (合せて10%)兄→弟1. 名前の呼び捨て (71%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (23%)姉→弟1. 名前の呼び捨て (60%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (32%)兄→妹1. 名前の呼び捨て (66%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (32%)姉→妹1. 名前の呼び捨て (55%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (43%)弟→兄1. 「兄ちやん」「お兄ちやん」またはこれの付くもの (合せて62%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (17%)妹→兄1. 「兄ちやん」「お兄ちやん」またはこれの付くもの (合せて59%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (22%)弟→姉1. 「姉ちやん」「お姉ちやん」またはこれの付くもの (合せて63%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (17%)妹→姉1. 「姉ちやん」「お姉ちやん」またはこれの付くもの (合せて68%) 2. 名前または略名に「ちやん」付け (20%)尚, 調査結果全般を通し次のような傾向が看取される。1夫婦間の称呼は一般に甚だ不明確であり, 特に妻→夫の場合は瞹眛である。多くは子が父を呼ぶ呼び方を借りている。2一般標準語とされる子→父母の「お父さん」「お母さん」, 弟妹→兄姉の「兄さん」「姉さん」は意外に少い。一般に家族間は「さん」よりは「ちやん」付けが多い。但し「おじいさん」「おばあさん」はこの限りでない。3夫婦間及び子, 祖母の父に対する称呼よりみて, 尚母よりは父に対して敬意が強い。4きようだい間の呼び方は, よく家庭の教育的配慮の如何を反映している。5農村には全く不当な称呼がかなりみられる。住宅地にはこれがない。一般に敬称の点では農村, 工業地がより乱れている。6家族称呼は一般に子供本位の呼び方になろうとする。日本の家庭の子供本位的性格を表わしている。7家族称呼にも明らかに過渡期的様相がみられる。即ち従来の標準的な家族称呼が崩れて新しい称呼が生じつつある。旧い称呼の権威的, 序列的, 形式的なものが, より平等的, 人間的, 親愛的な呼び方にとつて代わられようとしている。恐らくこれは家族制度の変化と共に, 封建的家族意識の減退, 個人意識の昂揚等によるものであろう。8尤も農村と住宅地の一部では標準的な称呼に尚, 関心が強いようにみえる。これは次のように解せられる。即ち日本の家族称呼の標準語はやや保守的なものであるが, 農村はその家族制度の保守性からこれを残し, 住宅地の知識階級では保守的というのではなくむしろ教育的配慮から標準語に依ろうとしているのであろう。従つて両方の性格を欠く商工地では最も称呼の乱れがみられるのである。
著者
水野 君平 日高 茂暢
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-11, 2019-03-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
41
被引用文献数
7 7

本研究の目的は自己報告によって測定した友だちグループ間の学級内の地位と学校適応感の関連に関して,学級レベルの変数による調整効果を検討することであった。具体的に本研究が扱った学級レベルの変数は,自然な自己開示ができる学級風土と学級内の生徒間の不和を表す学級風土,さらにグループ間の地位におけるヒエラルキーの強さであった。公立中学校3校46学級の生徒1,417名を対象に質問紙調査をおこなった。分析の結果,学級風土はグループ間の地位と学校適応感の関連を調整しなかったが,ヒエラルキーの強さはグループ間の地位と学校適応感の「課題・目標の存在」との関連を調整した。単純傾斜検定の結果,ヒエラルキーが強い学級の場合,高地位グループの生徒ほど「課題・目標の存在」による充実感が高い傾向にあることがわかった。本研究の結果から,グループ間の地位と学校適応感との関連の学級間差やグループ間の地位におけるヒエラルキーの役割を考察した。
著者
佐々木 淳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.101-115, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
76
被引用文献数
1

本稿は, 本邦における臨床心理学の動向と課題, そして2014年7月から2015年6月末までの1年間での本邦の臨床心理学に関する研究の概観という2つの話題を扱っている。前半部では, 1997年以降の『教育心理学年報』の臨床部門の論文から, 臨床心理学のあるべき姿について確認した。そして, 臨床心理学の知見の意味理解の重要性を指摘し, エビデンス・リテラシーの教育と事例研究の必要性を論じた。また, 専門家を対象とした研究への期待を述べた。後半部では, 4つの学術雑誌から45の論文をレビューして紹介した。
著者
尹 成秀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.492-504, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
33
被引用文献数
4 3

本研究は在日コリアン青年の心理学的問題について, 対人関係における体験に焦点化し検討を行ったものである。在日コリアン青年14名に対してエピソード・インタビューを行い, 得られた語りをグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果, [日本人との関係における体験], [在日コリアン同士の関係における体験]についてのカテゴリー関連統合図が作成された。 考察では, 在日コリアン青年は日本人との間でも在日コリアン同士の間でも, 相手との差異を認識した際に相手が差異に対して否定的な態度であると想定し, 自身もその差異を望ましくないものとして意味づけている可能性が示唆された。そして, そのために彼らには相手からの評価や相手との関係が悪化する不安, 疎外感, 劣等感が生じる可能性が考えられた。しかし同時に, 在日コリアンであることを知ってもらいたいなどの相反する情緒も生じるために, 差異をめぐる状況で葛藤が生じることが示唆された。また, そうした状況で彼らは自身の認識や気持ちとは異なる相手に合わせた対応を行う場合もあることが見出された。この体験は彼らの対人関係のなかで反復されるものであり, 中核的な問題の1つであると考えられた。