著者
三輪 和久 寺井 仁 松室 美紀 前東 晃礼
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.156-167, 2012 (Released:2015-03-27)
参考文献数
60
被引用文献数
1 1

近年の知的学習支援システムは, 高度なインタラクティブ性を有し, その支援は多岐にわたる。そのような学習支援において, 学習効果を最大化するために, どこまで支援を提供し, どこから支援を保留にすればよいのかという, 支援バランスに関わるジレンマ(Assistance Dilemma)が生まれることが指摘されている。このジレンマの発生は, 学習志向活動と解決志向活動という学習時に生じる認知活動の二重性に起因する。学習者は, 限られた作業記憶の容量を, 問題解決を遂行しつつ(解決志向活動), 同時にスキーマ生成のための資源に割り当てなければならない(学習志向活動)という困難な課題に直面し, そこに支援ジレンマの問題の核心が存在する。本論文では, この問題を, 主に教育心理学において長年議論されてきた達成目標理論と, 認知科学や学習科学において展開されてきた認知負荷理論という2つの理論に基づき再解釈すると同時に, ジレンマ解消という観点から, この2つの理論の概要をレビューする。
著者
安達 未来
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.351-359, 2020-12-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
30
被引用文献数
5

これまでの研究で,他者を軽視する傾向が強いほど援助要請を回避しやすいことが示されているが,教師への学業的援助要請については十分な検討はなされていない。本研究では,仮想的有能感の高い生徒の特徴が教師への学業的援助要請にどのような影響を与えているのかを,拒絶感受性と孤独感の調整効果をふまえ,明らかにした。高校生173名を対象に,調査を実施した。仮想的有能感を他者軽視傾向で測定し,さらに自律的援助要請,依存的援助要請の2因子から構成される学業的援助要請を測定した。加えて,対人感受性尺度,対人疎外感尺度を用いてそれぞれ拒絶感受性と孤独感を測定した。その結果,仮想的有能感は,拒絶感受性が低い場合において,自律的援助要請に正の影響を与えていることがわかった。これは,仮想的有能感の高い生徒の拒絶に対する敏感さが自律的援助要請を回避させることを示唆する。また,仮想的有能感は,孤独感の高い場合において,自律的援助要請に正の影響を与えていた。孤独を感じることが対人的なコミュニケーションの一つとして,教師への自律的援助要請に結び付いた可能性がある。
著者
田中 志帆
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.74-91, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
85
被引用文献数
1

本稿では,2018年6月から2019年6月まで(一部2017年を含む)に発刊された,臨床心理学領域の論文を概観した。まず,初の国家資格者である「公認心理師」が誕生した年であるため,臨床心理学の各学派と職域で,心の健康についての共通認識を持つことが重要な課題であることを論じた。次に日本教育心理学会第61回総会の研究報告とシンポジウムについて述べ,続いて臨床心理学分野の主要5領域ごとに,7つの学会誌に掲載された65本の学術論文の内容と意義について論じた。選定にあたり,国民の心の健康の保持増進に役立つもの,社会的に周知する意義のあるものを基準とした。そして,臨床心理学の研究において,心の健康の理解と探索のためには,「獲得と受容」「個と集団の相互作用の健全化」「心身の安全と主体性の保障」の3つの観点が重要であることを述べた。
著者
西村 多久磨 村上 達也 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.453-466, 2015-12-30 (Released:2016-01-28)
参考文献数
35
被引用文献数
3 3

本研究では, 共感性を高めるプログラムを開発し, そのプログラムの効果を検討した。また, プログラムを通して, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動が高まるかについても検討した。介護福祉系専門学校に通う学生を対象に実験群17名(男性6名, 女性11名 ; 平均年齢20.71歳), 統制群33名(男性15名, 女性18名 ; 平均年齢19.58歳)を設けた。プログラムを実施した結果, 共感性の構成要素とされる視点取得, ポジティブな感情への好感・共有, ネガティブな感情の共有については, プログラムの効果が確認された。具体的には, 事前よりも事後とフォローアップで得点が高いことが示された。さらに, これらの共感性の構成要素については, フォローアップにおいて, 実験群の方が統制群よりも得点が高いことが明らかにされた。しかしながら, 他者の感情に対する敏感性については期待される変化が確認されず, さらには, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動への効果も確認されなかった。以上の結果を踏まえ, 今後のプログラムの改善に向けて議論がなされた。
著者
森永 康子 坂田 桐子 古川 善也 福留 広大
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.375-387, 2017
被引用文献数
11

「女子は数学ができない」というステレオタイプに基づきながら, 好意的に聞こえる好意的性差別発言「女の子なのにすごいね(BS条件)」(vs.「すごいね(統制条件)」)が女子生徒の数学に対する意欲を低下させることを実証的に検討した。中学2, 3年生(研究1), 高校1年生(研究2)の女子生徒を対象に, シナリオ法を用いて, 数学で良い成績あるいは悪い成績をとった時に, 教師の好意的性差別発言を聞く場面を設定し, 感情や意欲, 差別の知覚を尋ねた。高成績のシナリオの場合, BS条件は統制条件に比べて数学に対する意欲が低かったが, 低成績のシナリオでは意欲の差異は見られなかった。数学に対する意欲の低下プロセスについて, 感情と差別の知覚を用いて検討したところ, 高成績の場合, 低いポジティブ感情と「恥ずかしい」といった自己に向けられたネガティブ感情の喚起が意欲を低めていること, 怒りなどの外に向けられたネガティブ感情はBS条件の発言を差別と知覚することで喚起されるが, 数学に対する意欲には関連しないことが示された。
著者
西林 克彦 宮崎 清孝 工藤 与志文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.202-213, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
33

本論文は2011年から2014年に実施した教育心理学会の研究委員会企画シンポジウムである「教科教育に心理学はどこまで迫れるか」の企画者による教育心理学研究の現状に対する問題提起である。現在の心理学的な教科教育研究では「どう教えるか」という方法のみが焦点化され, 「何を教えるのか」, つまり扱われる知識とその質の問題は教科教育学の扱うべきもので心理学的研究とは無関係とされる。しかし扱われる知識の質を抜きにした心理学的研究は, 実践的な有効性を欠くのみならず, 理論的にも不十分なものになるだろう。扱う知識内容と教える方法は相互作用をするため内容別に方法を考えなければならない, というだけのことではない。授業に臨む個々の教師が, 個々の教材についてその時々に持っている知識の質のあり方を, 教授学習過程の研究に取り込んでいかなければならない。このためには, 特定の授業者が特定の知識内容についておこなう特定の教授学習過程から出発する「ボトムアップ的実践研究」が必要になるだろう。ボトムアップ的アプローチでも科学としての普遍性を求める研究は可能であり, それは教授学習過程について新しい知見を生み出していく可能性を持っている。
著者
猪原 敬介 上田 紋佳 塩谷 京子 小山内 秀和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.254-266, 2015 (Released:2015-11-03)
参考文献数
25
被引用文献数
10 4

海外の先行研究により, 読書量, 語彙力, 文章理解力には緊密な相互関係が存在することが明らかになっている。しかし, 我が国の小学校児童に対する調査はこれまでほとんど行われてこなかった。この現状に対し, 本研究では, これまで調査がなされていなかった1・2年生を含めた小学校1~6年生児童992名に対して調査を実施した。また, 読書量推定指標間の関係についても検討した。その際, 海外では使用例がない小学校の図書貸出数と, 新たに作成したタイトル再認テストの日本語版を含め, 6つの読書量推定指標を同時に測定した。結果として, 全体的にはいずれの読書量指標も語彙力および文章理解力指標と正の相関を持つこと, 読書量推定指標間には正の相関があるもののそれほど高い相関係数は得られなかったこと, の2点が示された。本研究の結果は, 日本人小学生児童における読書と言語力の関係についての基盤的データになると同時に, 未だ標準的方法が定まらない読書量推定指標を発展させるための方法論的貢献によって意義づけられた。
著者
北村 英哉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.403-412, 1998-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1

自己の長所, 短所が対人認知過程に対していかに影響するか2つの研究によって検討がなされた。自己評価維持モデルの観点から, 自己の長所が短所よりも対人認知においてよく用いられ, アクセシビリティが高いことが予測された。研究1では, 39名の回答者が好きな, 嫌いな友人・知人の性格にっいて 5-7個の記述を行った。1週間後, 自己の長所5つと短所5つを挙げ, Rosenberg (1965) の自尊心尺度に回答した。友人・知人の記述に現れた長所, 短所を逆のコンストラクトも含む次元の観点から頻度を数え, その結果, 長所次元が短所次元よりも多く用いられており, また, 自尊心の低い被験者は, 自尊心が中程度, あるいは高い被験者よりも短所をよく用いることが示された。研究2では, 研究1と同じ手続きで, 回答者は友人・知人の記述を行った後, その記述がどの程度自己にあてはまるか, どのくらい重要であるかを評定した。さらに, 各友人・知人とどのくらい親しいかの評定も行った。その結果, アクセシビリティの高いポジティブな性質はアクセシビリティの低い性質よりもより重要で, 自己にあてはまる (すなわち, セルフ・スキーマ的である) ことが示された。また, 自己評価維持モデルで予測されるように, 心理的に近い, 親密度の高い友人・知人の記述において, 自己の長所的性質をよく用い, 短所的性質を用いることを避けることが見出された。結論として, 対人認知過程において自尊心維持のため長所が短所よりもよく用いられることが示唆された。
著者
山口 利勝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.422-431, 1998-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22

本研究は, Schlesinger & Meadow (1972) に示唆を得て, 健聴者の世界との葛藤並びにデフ・アイデンティティが聴覚障害学生の心理社会的発達に与える影響について実証的な検討を行った。健聴者の世界との葛藤尺度 (山口, 1997), デフ・アイデンティティ尺度 (山口, 1997), エリクソン心理社会的段階目録検査 (中西・佐方, 1993) からなる質問紙を141名の聴覚障害学生に実施し, 健聴者の世界との葛藤が心理社会的発達に与える影響とデフ・アイデンティティが心理社会的発達に与える影響を重回帰分析により検討した。その結果, 対象全体では,(1) 健聴者の世界との葛藤が心理社会的発達に多様かつネガティブな影響を与えており, 障害の受容がアイデンティティ形成につながること,(2) デフ・アイデンティティが心理社会的発達に影響を与えており, 統合アイデンティティ'がアイデンティティ形成にポジティブな影響を与えていること, などが明らかになった。教育歴では,(1) ろう学校群においては, 健聴者の世界との葛藤が心理社会的発達に影響を与えていないが, デフ・アイデンティティが心理社会的発達に影響を与えていること,(2) 学校変遷群と普通学校群においては, デフ・アイデンティティが心理社会的発達に影響を与えていないが, 健聴者の世界との葛藤が心理社会的発達にネガティブな影響を与えていること, などが明らかになった。なお, 健聴者の世界との葛藤, デフ・アイデンティティ, 心理社会的発達の聴覚障害変数 (聴覚障害を被った時期, 聴力損失の程度, 教育歴, 発声の伝達度, 両親が聴覚障害者か否か) による差については, 健聴者の世界との葛藤とデフ・アイデンティティにおいては教育歴で, 心理社会的発達においては発声の伝達度で差がみられた。
著者
丹藤 進
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.29-37, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
28

The purpose of this study was to deter mine degrees of sibling resemblance from the results of longitudinal testing of intelligence and school achievement. Research data was obtained from ten elementary schools and one junior high school, all in remote areas. Yearly scores from longitudinal tests on the same children served as data for this study. Using the above data we were able to compare siblings of the same age bracket. The main results were as follows:1) Sibling resemblance in school achievement differed according to age;2) Intra-class rs between siblings tended to be higher for contiguous siblings than for noncontiguous siblings;3) Sibling resemblance tended to be greater in verbal IQ than in IQ Performance. These findings indicate that nonshared environmental factors lead to developmental differences between siblings.
著者
細田 絢 田嶌 誠一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.309-323, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
50
被引用文献数
15 5

本研究の目的は中学生の自己肯定感, 他者肯定感と周囲からのソーシャルサポートとの関連を検討することであった。ソーシャルサポート内容として, 直接的にストレスには焦点を当てないが結果的に援助的な効果をもたらす共行動的サポートに焦点を当て, サポート源は父親, 母親, 友人, 教師の4者とし, 中学生305名を対象に調査を行った。サポート源とサポート内容の2点から検討した結果 (1) 自他への肯定感の高い中学生の方が両親からのサポート得点が高いこと, (2) 友人からのサポートは自己肯定感に関連していること, (3) 教師からの道具的サポートにおいて, 男子と女子では自己肯定感の高さによってサポート量の知覚に差があること, が明らかになった。全体として両親からのサポートの重要性と, サポート関係の性差が確認された。また教師以外のサポート源において自他への肯定感の高い中学生の方が共行動的サポートの得点が高く, 親子間や友人間での共行動的サポートの有効性が示された。加えて新たに, 父親による間接的なサポートの効果が示唆された。