著者
松本 毅 形井 秀一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.399-407, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

日本では,灸治療で使用する透熱灸などの直接灸用のモグサは精製度が高く,独自の製法で製造されてきた。中国などでは,棒灸など間接灸が主流のため,簡易な製法で,低精製モグサが製造されてきた。近年,中国でも,高精製モグサが製造され,日本産モグサとの違いが分かりにくくなってきた。そこで,日本の臨床家に,製造国が分からないようにし,中国産と日本産の高精製モグサを提示し,違いをどの様に感じるかを評価用紙に記述してもらい比較検討した。有効回答数は,265名中164名(61.9%)。2種類のモグサの違いについて,54.9%の人が総合的に見て「少し違う」と回答したが,「使い勝手がよい」,「使いたい」が多かったのは日本産だった。施灸した119名中「心地よかった」を選択したのは,日本産が85名(71.4%)であった。日本の臨床家は,日本式の製造技術で精製したモグサが日本の治療法に適していると感じていた。
著者
入江 康仁 中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.272-283, 2020 (Released:2021-09-28)
参考文献数
56
被引用文献数
1 3

世界的な流行を呈している新型コロナウイルスに対して,世界中でその対策が進められている。人工呼吸器や体外式膜型人工肺の導入が行われ,また抗ウイルス薬の投与なども試みられている。しかし,現在のような情勢の中で,エビデンスのある有効な治療を待つわけにもいかず,日々対応していかなくてはならないのもまた事実である。 抗ウイルス薬はもちろん,抗菌薬や人工呼吸器などの医療器具のなかったスペインかぜ流行当時,本邦の先人たちがどのような診療をしたのかを顧みることは大変参考になる。本稿はスペインかぜに対して漢方薬を駆使して患者を治療した事実と,現在明らかとなったスペインかぜの高病原性,抗ウイルス薬の作用機序と臨床エビデンスを示しながら,ウイルス感染症のパンデミックに対する対策の一つとして臨床上も比較的安全であり,副作用も少なく,自己免疫賦活作用による抗ウイルス作用を期待できる漢方薬の役割を提言するものである。
著者
沢井 かおり 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.311-315, 2015 (Released:2016-02-09)
参考文献数
11

発熱と易疲労感は感染症や悪性腫瘍,膠原病で生じるが,原因不明のことも多い。今回発熱と易疲労感が長期間続く女性に対し,消化器症状に注目して半夏瀉心湯を用いたところ,著明に改善した症例を経験したので報告する。 症例は47歳女性で,3年前月経不順や不正出血とともに発熱と易疲労感が出現した。夕方から38°C弱の発熱があり,朝から倦怠感が強く就業不能のこともあった。血液検査で肝機能,腎機能,炎症反応などに異常はなく,腹部CT 検査は子宮筋腫を認めるのみであった。漢方医学的診断はやや虚証,寒熱錯雑証,気滞・瘀血で,軟便・下痢傾向という消化器症状と心下痞鞕に注目して半夏瀉心湯を投与したところ,1ヵ月で発熱は37°C前後に低下し,身体が楽になって就業不能の日が減った。5ヵ月後には体温が36°C台となり,易疲労感は消失した。半夏瀉心湯は,消化器症状があり心下痞鞕を呈する症例の様々な症状に有効である可能性が示唆された。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.471-476, 2009 (Released:2010-01-13)
参考文献数
26
被引用文献数
4 5

芍薬甘草湯は筋弛緩目的に使用される漢方薬である。今回,破傷風の全身痙攣の緩和目的に芍薬甘草湯を併用した1例を経験した。患者は32歳の男性で,飼い犬に咬まれた咬傷から破傷風を発症した。全身痙攣に対してプロポフォールを投与し,芍薬甘草湯も併用したところ,プロポフォールを漸減することができた。持続勃起症,腹痛,振戦,不眠などが一過性にみられたが,芍薬甘草湯の服用を継続することで消失した。患者は後遺症なく第14病日に退院した。これまでに破傷風に芍薬甘草湯を使用した報告はないが,筋痙攣の制御や自律神経系過緊張の緩和を目標に使用できると思われた。
著者
福嶋 裕造 藤田 良介 能美 晶子 宮本 信宏 山本 了 實松 宏已 田頭 秀悟
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.43-47, 2021 (Released:2022-05-17)
参考文献数
10

整形外科の疼痛性疾患が天気によって症状が悪化する場合があり,これを気象痛という。今回,交通事故後の大後頭神経痛(GON:great occipital neuralgia)の2症例で天気による症状の悪化に対して五苓散が有効であったので報告する。症例1は41歳女性で,交通事故にて受傷し頚部痛と腰痛を訴えた。2ヵ月後より不定期に後頭部痛が発症した。3ヵ月目に大規模な台風がありその日の朝より激しい後頭部痛があり,その後も天気の悪化で後頭部痛が生じたため当院を受診した。気象痛の GON と診断し五苓散を投与して軽快した。症例2は31歳女性で,交通事故にて受傷し頚部痛を訴えた。受傷後3ヵ月後より天候の悪化により後頭部痛が悪化することが分かり,気象痛のGON と診断し五苓散を投与して軽快した。頚椎捻挫が原因である気象痛の GON に対して五苓散が著効した。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.199-201, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
11
被引用文献数
2

心身一如は漢方医学の基本的理念であり,現代の科学的医学とは異なっている。歴史的に見ると,科学は心と身を分離することを基盤に出発しているので,疾病の理解において,心身二元論が臨床的に用いられる結果になっている。しかしながら人間は心身一如のものとして存在している。筆者はこの心身一如という用語が鎌倉時代に道元により著された『正法眼蔵』を起源としていること,さらに,現代において,この用語を初めて用いたのは日本の心療内科の権威・池見酉次郎であることを明らかにした。
著者
福嶋 裕造 福嶋 寛子 藤田 良介 宮川 秀文 橋本 篤徳
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.219-223, 2020 (Released:2021-09-28)
参考文献数
14

手指の指節間関節症にはヘバーデン結節およびブシャール結節が含まれる。ヘバーデン結節は手指の遠位指節間関節の変形性関節症であり,ブシャール結節は手指の近位指節間関節の変形性関節症である。今回,手指関節症に対して疎経活血湯を投与して急激な改善を認めた3症例を経験した。症例は全例女性である。症例1は58歳で主訴は左中指 DIP 関節痛でヘバーデン結節と診断した。症例2は60歳で主訴は左環指 DIP 関節痛でヘバーデン結節と診断した。症例3は37歳で主訴は右環指 PIP 関節痛でブシャール結節と診断した。全例に疎経活血湯エキスを投与し関節痛が改善した。疎経活血湯は軽症から中等度の骨関節脊椎の疼痛に対して,NSAIDs と同様に有用な可能性があると考えられた。
著者
関根 麻理子 牧野 利明 田中 耕一郎 嶋田 沙織 四日 順子 古屋 英治 地野 充時 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.182-203, 2021 (Released:2022-07-29)
参考文献数
25

医療安全委員会では,安全に漢方方剤を使用するための啓発活動を行っており,前回,日本医療機能評価機構の薬局から登録されたヒヤリ・ハット事例を分析した。今回は,同機構の医療機関から登録された医療事故とヒヤリ・ハット事例を分析した。漢方製剤が関係する事例は626件であった。医療事故には,薬剤性肝障害事例があった。 ヒヤリ・ハット事例に関しては,処方時では漢方エキス製剤の1包の内容量の勘違いによる用法用量の誤り,調剤時では製剤番号・外観の類似や漢方処方名の類似による調剤の誤り,投薬時では漢方処方名まで確認せずに,漢字表記やメーカー名だけで判断することによる投薬の誤りがあった。ヒヤリ・ハット事例は当事者本人や同職種者に限らず,他職種者や患者本人から発見される事例も多かったことから,ヒヤリ・ハット事例は同職種者間での共有に留まらず,他職種者とも共有することが,医療安全の推進につながると考えられた。
著者
吉永 亮 前田 ひろみ 土倉 潤一郎 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 木村 豪雄 山方 勇次 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.383-389, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2

蜂刺症とムカデ咬症に対して,受傷直後から黄連解毒湯エキスと茵蔯五苓散エキスを中心とした漢方治療を併用し,翌日には著明に改善した5例を報告する。症例1は70歳男性,30分前に左手背をスズメバチに刺されて受診した。症例2は43歳男性,20分前に左顔面をスズメバチに刺され受診した。症例3は55歳男性,10分前に左下腿をスズメバチに刺され受診した。症例4は39歳男性,60分前に右大腿をスズメバチに刺され受診した。症例5は35歳男性,20分前に右第1趾をムカデに咬まれて受診した。5例とも受診後直ちに漢方治療を開始し,以後,数時間おきに間隔を詰めて治療を継続したところ,翌日には疼痛と皮膚の紅斑と腫脹が改善した。蜂刺症,ムカデ咬症に対して漢方治療を行うことで速やかな治癒に貢献できる。
著者
木村 容子 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.627-633, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
9
被引用文献数
4 2

頭痛は日常診療で訴えの多い症状の一つであり,漢方治療では頭痛以外の随伴症状などによって,様々な漢方薬を使い分ける。今回,当帰芍薬散が有効な頭痛の症例を報告した。症例1-4は更年期障害,症例5は月経困難症が背景にみられた。症例3では頭痛のほか,めまい,むくみ,手先のしびれなど様々な症状が当帰芍薬散で改善した。また,症例4は呉茱萸湯が無効であり,一方,症例5は呉茱萸湯である程度頭痛は軽快したが,残存した排卵期または月経前と前半の頭痛に対して,当帰芍薬散を併用して症状が改善した。当帰芍薬散を用いた頭痛の11症例をまとめて検討したところ,頭痛は片頭痛が多く,月経や冷えで増悪傾向であった。当帰芍薬散は五苓散や半夏白朮天麻湯と鑑別が必要となることもあるが,当帰芍薬散では月経周期や更年期症状などいわゆる「血証」と関わりのある頭痛で,頭重感またはめまいを訴える比較的虚証の人に有効であると考えられた。
著者
川島 春佳 木村 容子 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.359-365, 2018 (Released:2019-08-01)
参考文献数
21

アレルギー性鼻炎は,鼻粘膜のアレルギー性疾患であるが,様々な要因が増悪因子となる。今回,随証治療により用いた当帰芍薬散が奏功したアレルギー性鼻炎の4症例について報告する。症例1は31歳女性。冷え・月経不順に対して当帰芍薬散の内服を開始したところ,元々あった鼻炎症状が改善し,休薬により鼻炎症状が再燃した。症例2は40歳女性。子宮筋腫に対して内服していた桂枝茯苓丸加薏苡仁から当帰芍薬散に転方して,毎年認めていた花粉症状が軽快した。症例3は49歳女性。多種類の漢方薬を内服しても改善しなかった鼻炎症状が,当帰芍薬散に転方して速やかに消失した。症例4は65歳女性。葛根湯加川芎辛夷の内服後も残存した鼻炎症状に対し当帰芍薬散を併用して症状が改善した。古典では,当帰芍薬散の鼻炎に関する記載は見当たらないが,陰虚証で,水毒に加えて瘀血・血虚を認める鼻炎には,当帰芍薬散も鑑別処方の一つと考えられる。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.847-852, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
29
被引用文献数
12 10

治打撲一方を服用した場合の酸化ストレス度と抗酸化力を測定し,経時変化について検討した。健常人20例に治打撲一方7.5g/日を3日間服用させ,服用直前と服用72時間後に酸化ストレス度(d‐ROMsテスト)と抗酸化力(OXY吸着テスト)を測定した。酸化ストレス度について服用前後で有意な変化はみられなかった。一方,抗酸化力は服用直前と比べて服用後には有意に低下した(p=0.0290)。服用中に副作用のため,中断した症例はなく,肩こり・便通・打撲痛などの改善といった好反応は6例にみられた。特に好ましい反応がみられなかった14例については,服用後に治打撲一方は酸化ストレス度,抗酸化力ともに有意に低下させた(p=0.0279,p=0.0413)。治打撲一方は体内の抗酸化力を動員して病態改善に寄与する可能性が示唆された。
著者
森元 康夫 渡部 晋平 道原 成和 範本 文哲 中島 慶子 樋浦 基 大窪 敏樹
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.150-159, 2013 (Released:2013-11-18)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

六君子湯は8生薬から構成され,食欲不振や胃もたれに用いられている。これらの症状は胃排出の低下に起因する場合が多い。シスプラチンは食欲不振や吐き気を引き起こす代表的な薬物であるが,やはり胃排出を低下させる。しかし,シスプラチンによる胃排出低下に対する六君子湯の作用はこれまで検討されていない。そこで今回,シスプラチンによるラット胃排出低下に対する六君子湯(白朮処方)の作用を検討した。その結果,六君子湯は胃排出を改善し,構成生薬では白朮,人参,茯苓,陳皮が同様に改善した。これら4生薬の組み合わせでは,白朮を含む場合に作用が強くなる傾向が認められた。一方,六君子湯から白朮を除くと作用は六君子湯よりも減弱した。なお,白朮由来成分のアトラクチレノリドⅢも六君子湯や白朮と同様に胃排出を改善した。以上の結果から,六君子湯はシスプラチンによる胃排出低下を抑制し,それには白朮が深く関与することが示唆された。
著者
森 瑛子 及川 哲郎 小田口 浩 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.121-126, 2020 (Released:2020-12-07)
参考文献数
15
被引用文献数
1

女神散は「血の道症」に対して使用される処方であるが,婦人科三大処方と呼ばれる当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸と比較すると使用頻度は低く,多数例における使用経験をまとめた報告は少ない。そこで今回女神散の臨床応用に役立つ使用目標を明らかにするため,当施設で過去5年間に女神散を処方された症例のカルテを後方視的に検討した。その結果,女神散が有効な患者は身体的・精神的ストレスを背景とする気の異常と瘀血を伴う一方,水滞の兆候は認めないことが多かった。これらの所見は,女神散の効果的運用に役立つと考えられた。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.809-812, 2008 (Released:2009-05-15)
参考文献数
12
被引用文献数
5 4

修治ブシ末単独投与による組織血流量増加および温熱作用について検討を行った。健常人14例に対して修治ブシ末を3g/日を3日間処方した。服用直前,服用90分後,服用72時間後の3回,示指の皮膚温,組織血流量を測定した。皮膚温に関して,直前と90分後の間には有意差を認めなかったが,72時間後との間には有意差を認めた(p=0.0736,p=0.0219)。また,90分後と72時間後との間にも有意差を認めた(p=0.0253)。組織血流量に関して,直前と90分後の間には有意差を認めなかったが,72時間後との間には有意差を認めた(p=0.0736,p=0.0219)。90分後と72時間後との間には有意差を認めなかった(p=0.4074)。皮膚温と組織血流量との間には有意の相関関係が認められた(p=0.0052)。ヒトにおいて附子が組織血流量増加作用と温熱作用を発揮する可能性が示唆された。
著者
鈴木 朋子 伊関 千書 佐橋 佳郎 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.130-135, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
19

『傷寒論』を原典とする白朮附子湯は意外に報告が少ない。今回我々は痛みで体動困難となった患者に対し白朮附子湯が著効した症例を経験したので報告する。症例は介護施設入所中の84歳女性。主訴は痛みによる体動困難。 X 年1月定期受診した際左側胸~側腹部の激しい体性痛を訴え即日入院となった。精査上器質的異常は認めず,問診にて冬期にもかかわらず脱水予防のため水道水を2—3L/日近く施設で摂取させられていたことが判明した。小便は自利だが数日便秘であった。NSAIDs などは効果なく,入院当日より白朮附子湯を開始した。内服後大量の軟便を排泄するとともに痛みは急速に改善し退院調整後第13病日退院した。会津地方の介護施設で冬場に水道水を多飲させられ水毒に陥り「風湿相搏」状態となったことが今回の痛みの一因と考えられた。風湿が原因の痛みに対しては桂枝附子湯,甘草附子湯とともに白朮附子湯も考慮すべき処方と考えられる。
著者
佐藤 浩子 佐藤 真人 平林 香 大山 良雄 紫野 正人 田村 遵一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.113-118, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
22

中咽頭癌術後,化学放射線療法後の嚥下困難に対し漢方治療が効果的であった症例を経験した。症例は61才女性。 中咽頭癌に対し左扁桃摘出,両側頚部郭清術,続いて化学放射線療法を施行された。治療後に自覚した嚥下困難と口腔乾燥に対し,漢方治療を試みた。半夏厚朴湯エキスを食直前に内服後,嚥下が容易となり摂食時間が短縮した。 麦門冬湯エキスを合方後,口腔乾燥が軽減した。体重が増加し,職場復帰の一助となり得た。近年,癌補助療法や緩和医療として漢方治療の併用が行われるようになった。中咽頭癌そのものによる,あるいは癌治療に伴う嚥下障害・口腔乾燥に対し,漢方治療は症状の軽減に役立ち,患者のQuality of Life を向上させる一助になりうると考えられた。
著者
山﨑 麻由子 木村 容子 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.273-277, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
14

強い気虚や不眠,抑うつを呈する患者に対して随証治療を進めて加味帰脾湯を投与したところ,月経前症候群(PMS)の精神症状だけでなく,月経痛も軽減した3症例を経験したので報告する。症例1は26歳女性で月経前のイライラ,乳房痛,月経痛を訴えていた。疲労感などの気虚が強く不眠も認めたため加味帰脾湯を処方したところ,不眠と倦怠感の改善とともにPMS 及び月経痛も軽快した。症例2は38歳女性で疲労倦怠感が強く,不眠,月経前のイライラを認めたため加味帰脾湯を処方した。倦怠感の改善に伴いPMS 及び月経痛も軽快した。症例3は31歳女性で膀胱炎を繰り返し,倦怠感が強く不眠や憂うつ感もみられた。加味帰脾湯を処方したところPMS や月経痛の軽快だけでなく膀胱炎も再発していない。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡・山梔子を加味した処方である。気虚が強い患者で不眠や抑うつ傾向があり,PMS や月経痛を訴える場合に有効であると考える。
著者
福嶋 裕造 藤田 良介 上野 力敏 山下 和彦 内海 康生 清水 知己 戸田 稔子 大森 あさみ
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.35-41, 2019 (Released:2019-08-26)
参考文献数
29
被引用文献数
3

当院では整形外科領域の炎症を伴った症例について霊仙除痛飲の方意で越婢加朮湯と大黄牡丹皮湯を併用して治療を行っている。代表症例を提示して原文による文献的考察を行った。また,整形外科疾患に於いて非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs : non-steroidal anti-inflammatory drugs) が使用しにくいまたは無効であった症例に対しても同処方は有効であり,文献的考察を加えて報告する。
著者
嶺井 聡 貝沼 茂三郎 坂元 秀行 玉城 直 友利 寛文 梁 哲成 仲原 靖夫 古庄 憲浩
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.141-145, 2019

<p>苓桂朮甘湯は茯苓,桂皮,朮,甘草の4つの生薬から構成され,陽証で気逆と水毒を伴う病態で,起立性調節障害などの自律神経の機能調節障害,特に副交感神経優位から交感神経優位な状態への調節が上手くいかない場合などに用いられる。今回,自律神経の調節障害と考えられた3症例に対し,苓桂朮甘湯が有効であったので報告する。 症例1は運動後や仕事終了前後に出現する頭痛,症例2は夕方から出現するふらつきや冷汗,症例3は仕事終了後や休日に出現する頭痛が主訴であったが,いずれの症例も交感神経優位の状態が長く続いた後に,副交感神経優位な状態に自律神経の調節障害が原因と考えられた。また3症例いずれも陰証や水毒を示唆する所見に乏しく,今回の検討から水毒の所見がなくても,陽証で気逆の所見に加え,交感神経優位から副交感神経優位な状態に自律神経の調節障害に苓桂朮甘湯が有効である可能性が考えられた。</p>