著者
西村 甲 前嶋 啓孝 荒浪 暁彦 渡邉 賀子 福澤 素子 石井 弘一 秋葉 哲生 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.867-870, 2007-09-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
6

背景 : 2002年以降, メディア, 出版, インターネットなどを通して様々な活動を行ってきたが, その効果あるいは外来患者の特徴について検討することがなかった。目的と方法 : 当漢方クリニック受診患者の特徴とこれまでの広報活動の効果を調査し, 将来のクリニックのあり方について検討した。平成16年11月から1年間に当クリニックを初診した患者791例 (男229, 女562) を対象に受診に至る紹介・情報源, 年齢性構成, 疾患領域について調査した。結果 : 紹介・情報源に関しては, インターネットによるものが最も多く, 他施設からの紹介が極めて低かった。女性は男性の3倍前後を占めた。患者数は女性では30歳代が最も多く, 男性では全年齢で同様であった。16歳未満と70歳以上の患者数に男女差がみられなかった。疾患領域では, 内科, 産婦人科, 皮膚科疾患が66.9%を占めた。結論 : インターネット・ホームページによる漢方診療に関する情報提供が, 患者数増加に有用であることが示唆された。紹介率が極めて低いことから, 内科, 皮膚科, 産婦人科を中心に病診連携機能を高めていく必要がある。
著者
中田 真司 南澤 潔
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.316-320, 2015 (Released:2016-02-09)
参考文献数
32

橘皮枳実生姜湯は金匱要略に胸痺に対する方剤として記載されている。今回,我々は咳嗽に対して本方を投与し奏効した7例を経験した。これらの症例は,咽喉の掻痒感,切れにくい喀痰,喉に乾燥感がない,肌は色白で瑞々しいなどが共通して認められた。橘皮枳実生姜湯は咽喉の掻痒感を伴う咳嗽に対して有用な方剤の1つである可能性が考えられた。
著者
假野 隆司 土方 康世 清水 正彦 河田 佳代子 日笠 久美 後山 尚久
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.699-705, 2008 (Released:2009-04-30)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

妊娠12週以内の初期流産を3回以上繰り返した,ANA,抗カルジオリピン抗体(ACA IgG, IgM)陽性習慣流産87例に柴苓湯療法を行い,抗体価(量)の推移を検討した。この結果,妊娠例(49例)の流産阻止率は63.3%,ANA陽性例(32例)の流産阻止率は65.6%,ACA IgG, IgM(fetal calf serum使用ELISA法)陽性(29例)は65.5%,両抗体陽性例(12例)は75.0%であった。ANAに対しては有意な低下作用は認められなかったが,ACA IgMに対しては有意な低下作用が認められた。文献的に柴苓湯の有効作用はTh1/Th2サイトカインバランス調整作用による液性免疫の抑制作用によると推察された。しかし,ACAが低下しなかった二生児獲得例が存在する事実から,構成生薬の人参,茯苓による低用量アスピリン療法と同様な血小板凝集抑制作用,さらに茯苓,蒼朮,沢瀉,猪苓による利水作用なども流産を阻止に関与していると推察された。
著者
大野 泰一郎 永田 豊 長坂 和彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.8-17, 2019 (Released:2019-08-26)
参考文献数
19

煎じ薬を保管中に生じる生薬の色調変化は,服薬コンプライアンスを妨げる要因の一つとなる。滑石を含む煎じ薬に五苓散料を合方した後に,滑石が鮮やかな青色(鮮青色)を呈した例を経験し,気密容器を用いた原因生薬検討とTLC による成分分析を実施した。その結果,桂皮と白朮共存下,滑石は数時間で鮮青色を呈し,この呈色には,桂皮・白朮・滑石の3生薬に由来するcinnamaldehyde とatractylon,ケイ酸アルミニウムが関与していた。今回確認された桂皮と白朮共存下における滑石の鮮青色への呈色は,発色が顕著で数時間で生じる鋭敏な反応であり,服薬コンプライアンス維持の観点から,桂皮・白朮・滑石を含む煎じ薬投薬時には,滑石の呈色について患者に十分に説明し,呈色を避けるには滑石を別包とし他生薬と隔離保管,煎じる際に混合する方法が有効と考えられた。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.15-18, 2010 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
3 4

2種類のブシ末製剤を単独で服用した場合の酸化ストレス度と抗酸化力を測定し,経時変化について検討した。健常人34例を2群に分けて2種類のブシ末製剤(TJ‐3022,TJ‐3023)3g/日を3日間服用し,服用直前,服用90分後,服用72時間後に酸化ストレス度(d‐ROMsテスト)と抗酸化力(OXY吸着テスト)を測定した。TJ‐3022群では酸化ストレス度と抗酸化力の有意な経時的変化はみられなかった。TJ‐3023群でも酸化ストレス度と抗酸化力の有意な経時的変化はみられなかった。附子服用量3g/日では酸化ストレスに影響を及ぼさないことが示唆された。
著者
斉藤 晶 竹越 哲男
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.336-339, 2012
被引用文献数
3

耳管開放症はまれな病気でなく,全人口の5%に存在している可能性がある。自声強聴や耳閉感がよく見られる症状である。薬物治療,手術を含め種々の治療が行われているが,満足した結果が得られていない。漢方医学的には,気虚または血虚と考えることができる。耳管開放症の漢方治療は加味帰脾湯が良く知られていた。今回,補中益気湯を10症例に投与した結果を報告した。4例が改善,1例がやや改善,4例が不変であった。作用機序は,耳管の緊張の亢進,耳管周囲の脂肪組織の増加,精神面への影響を考えた。補中益気湯が耳管開放症の選択肢の1つとなることが期待される。
著者
薗田 将樹 山本 昇伯 髙田 敦子 菊地 学 田宮 大介 遠藤 良二 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.155-160, 2018

<p>東洋医学的治療が有効であったうつ病の3症例を報告する。3症例とも同一職場(全17名)の職員。症例1は46 歳男性,勤続20年。主訴は抑うつ,不眠。症例2は28歳女性。勤続9年。主訴は嘔気,気分不良。症例3は41歳男性,勤続15年。主訴は焦燥感,不眠,抑うつ。3症例に対して抑肝散および抑肝散加陳皮半夏で加療し,症状の改善がみられた。今回,処方選択において3症例が同一の職場環境であることを考慮した。抑肝散には母子同服という服用法が伝えられている。また,精神神経分野にて情動伝染(Emotional Contagion)という情動の共有システムがHoffman(1984)により提唱されている。総合的に考えると母子同服は情動伝染を考慮した経験的治療法であり、同一職場のような同じコミュニティ内でも応用可能と考察した。本症例のように,同一職場内の情動伝染を考慮した職場内同服は有用である可能性がある。</p>
著者
佐藤 万代 山﨑 翼 矢野 忠 片山 憲史 今西 二郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.288-295, 2015 (Released:2016-02-09)
参考文献数
15

東洋医学では,顔面の皮膚色などから健康状態を評価する「顔面診」が用いられているが,その有用性についての基礎的な調査は少ない。そこで本研究では,顔面部および前腕部(尺膚)の皮膚色と,質問紙などで評価した健康状態との関連について調査を行い,顔面診の有用性を検討した。対象は22~55歳の健常成人30名(男13名,女17名)とし,顔面部,前腕部の皮膚色の測定と,健康状態に関する調査を行った。調査の結果,皮膚色と相関関係を認めた健康状態に関する調査項目は,総人数の解析では過去4週間の仕事パフォーマンス,陰虚スコア,男性のみの解析ではBMI,主観的健康感,過去4週間の仕事パフォーマンス,水滞スコア,女性のみの解析では年齢,過去1~2年間および過去4週間の仕事パフォーマンス,陰虚スコアであった。本結果より,皮膚色と健康状態の関連が上記の項目において示されたことから,顔面診の一部が有用である可能性が示唆された。
著者
渡辺 武 後藤 実
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學會誌 (ISSN:1884202X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.23-26, 1953-12-10 (Released:2010-10-21)

桂枝加芍薬湯, 弓帰湯, 苓桂朮甘湯, 平胃散等について精油の抽出を目標とした実験を綜合すると, 精油含有の生薬を配互する漢方剤の煎出法は, 再煎法, 煎出する水の量, 抽出時間, 配互する生薬等に, 相当量の精油分を煎剤中に保有するよう考慮されている. 然し坐切度が荒い場合などは残渣中に尚多量の未抽出の油分を残している. 煎剤を調製するに際して, 蓋を除き開放したときは, ほとんど大部分の精油分を揮散させてしまうから注意を要する.之等の漢方剤の製剤に当つて, エキスを調製する際, 精油分を逸散してしまい効果が期待出来ない. 新抽出法によれば, 抽出, 濃縮と同時に精油をほとんど定量的に捕集することが出来るので, 最も合理的でしかも能率がよい.終りに臨み, 本研究の機会を与えられた武田研究所長桑田智博士, 終始御助言, 御鞭撻を頂いた朝比奈泰彦先生, 実験材料の調製に助力を得た富樫誠, 松岡敏郎, 野口友昭の諸氏に深謝する.
著者
藤田 六朗
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學會誌 (ISSN:04682548)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.61-62, 1966

Electrical resistance of dissected-mass (skin, muscle membrane and muscle together) in rabbit was examined by using the electro-dermometer.<BR>According to the decrease of the body fluid, electrical resistance of tissues gradually increases for 24, 48 and 72 hours after the dissection, but its increasing value is slight contrary to my expectation.<BR>The skin, of course, electrical highest resistance. But when the electric positive pole puts on the skin side and the negative on the subctaneous, and the electric current sents, the electric dermal points can be proved within the skin. And inversely when the positive on the subcutaneous side and the negative on the skin, it can also be proved the electric dermal points.<BR>The electro-dermal points of the skin show low-resistance, but, in spite of the decrease of the resistance as the applied time of the electrode goes on, remain slight resistance as that of muscle membrane. The electrical resistance between two endings of a blood-vessel shows retarded electric reaction, accompanied with a roar, whose value of the micrometer reaches highest in time. The electro-dermal point like this is often seen clinically and is, similar to the so-called thunder-point after Dr. K. Nanajo.<BR>But if the electric current sents from an ending of a nerve trunk to that of another, the rapid electro-reaction without a sound appears : the same as electrodermal point, so-called silent-point after Dr. K. Nanajo.<BR>In the case of a nerve trunk and two blood-vesels running parallel to it, appears the rapid electric reaction with a roar.<BR>In clinical practice the thunder-point proved mainly on red papulae and silent-one on white.<BR>From the fact above mentioned, I presume that the thunder-point in living body may originate from the changes of vascular-papulae and the silent-point from that of nerve papulae.
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.331-339, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
10
被引用文献数
3 6

腹診における鼠径部の圧痛が当帰四逆加呉茱萸生姜湯証を指示することが知られている。この事実は1963年に大塚敬節により発見されたものである。そして彼はこれを足之厥陰肝経と関連する徴候と考えた。しかしこの徴候が発現する背景はいまだ明らかにされていない。最近,著者はこの鼠径部の徴候が痞根(ExB4)に置針することによって消失することを見いだした。この臨床的事実から,本方証が恒常性維持機構と関連するとの仮説を呈示した。すなわち,寒冷環境においては下肢からの放散熱を防ぐために総腸骨動脈に交感神経性促進信号がもたらされ,その結果,骨盤腔内臓器の血流が低下する。痞根に対する鍼施術の効果は腸腰肋筋の硬結と内腹斜筋の緊張を同時的に緩ませるものとのと推測される。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は骨盤腔内臓器と交感神経節との間に形成されている悪循環を遮断し,骨盤腔の虚血に関連するさまざまな症状を改善するのである。
著者
地野 充時 辻 正徳 隅越 誠 小林 亨 山本 昇伯 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.152-156, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
9

中建中湯は便秘に使用されることが多いと報告されている方剤である。今回,下痢,軟便に有効であった症例を経験した。有効5症例のうち,便秘を呈さなかった症例は4例であった。中建中湯は下痢・軟便症例にも有効であり,便秘に拘る必要はない。有効例においては,(1)腹鳴・腹満,(2)腹直筋攣急,(3)冷え,が多く認められ,これらの臨床症状が本方を処方する時の目標になりうると考えられた。
著者
溝井 令一 植田 真一郎 田中 耕一郎 千葉 浩輝 奈良 和彦 山元 敏正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-7, 2019 (Released:2019-08-26)
参考文献数
34

神経変性疾患の連続74例について気血水スコアを用い気虚,気鬱,気逆,血虚,瘀血,水滞の有無(証の病態6項目)を評価し,同年代のその他神経疾患の連続149例を比較対照として比較検討した。年齢,性別,重症度も共変量とした多変量解析の結果,神経変性疾患ではその他の神経疾患と比較して血虚,水滞,気鬱の順で関連性が高く,調整済みオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ3.02(1.43-6.48),2.37(1.13-5.11),2.33(1.01-5.44)だった。神経変性疾患と最も関連性が高い証は血虚であった。四物湯類(四物湯加減)の処方を考慮することは,患者の苦痛軽減に寄与できる可能性がある。自覚症状に加え脈候,舌候,腹候など東洋医学的な尺度を用いた治療効果の判定が必要である。
著者
新谷 壽久
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.61-66, 2015 (Released:2015-06-29)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

『皇漢医学』を著わした湯本求真の処方傾向を知る目的で湯本医院の診療録を調査した。『皇漢医学』を著わす少し前と思われる時期の199症例を対象とした。柴胡剤(大柴胡湯,小柴胡湯,柴胡桂枝乾姜湯)は54%に用いられていた。当帰芍薬散,桃仁承気湯,大黄牡丹皮湯,桂枝茯苓丸を駆瘀血剤とすると,駆瘀血剤は76%に用いられていた。更に併用方剤として黄解丸が43%に用いられていた。2剤~4剤の合方が多く,その特徴は柴胡剤と駆瘀血剤と黄解丸との組合せであった。代表的組合せは1)大柴胡湯 + 桃仁承気湯21例,1)小柴胡湯 + 当帰芍薬散(平均2倍量)21例,3)大柴胡湯 + 当帰芍薬散(平均2倍量)11例,4)柴胡桂枝乾姜湯+当帰芍薬散(平均2倍量)9例,5)大柴胡湯+桃仁承気湯 + 大黄牡丹皮湯5例であった。改めて柴胡剤と駆瘀血剤との組合せで多数症例の根本治療を試みていたことを確認した。
著者
石川 慎太郎 久保 哲也 砂川 正隆 俵積田 ゆかり 佐藤 孝雄 石野 尚吾 久光 正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.337-346, 2011 (Released:2011-09-15)
参考文献数
49
被引用文献数
11 9

瘀血の状態では,血液が鬱滞することから腫脹や疼痛などの障害が現れる。瘀血は循環障害と捉えられ,血管抵抗性と血液流動性の側面から研究されてきた。血液流動性の変動要因には血球および血漿成分があり,その変動に活性酸素が深く関わっていると考えられている。今回,ラットに漢方薬(当帰芍薬散,柴胡加竜骨牡蛎湯,桃核承気湯,桂枝茯苓丸,十全大補湯)を投与して活性酸素動態と血液流動性への影響を観察した。その結果,これらの漢方薬投与群では,抗酸化力が上昇し,血液流動性が亢進した。また,当帰芍薬散・桃核承気湯・桂枝茯苓丸は血小板凝集を減少させた。さらに赤血球浮遊液の流動性は,抗酸化力との間に負の相関を認め,漢方薬の抗酸化作用が赤血球の変形能あるいは粘着性に影響したと推察された。血栓症や塞栓症などの誘因である血液流動性の低下を予防する可能性が示唆された。
著者
町 泉寿郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.695-712, 2011-11-20
参考文献数
6

従来,大鳥蘭三郎らの研究によってシーボルトによる鍼灸に関する言及が,彼の門人の蘭訳文献に依拠するものであること,またその蘭訳の原著が石坂宗哲の鍼灸文献『知要一言』であることは知られていた。しかし,シーボルトが門人美馬順三にその蘭訳を依頼したのは『知要一言』刊行以前のことであり,先行研究では蘭訳の際の底本までは特定できていなかった。今回,著者の調査によって,ライデン大学図書館に所蔵される石坂宗哲の鍼灸書が,シーボルトの江戸参府の際に石坂宗哲が自ら書写して贈った自筆稿本であり,蘭訳の際の底本となった文献であることが分かった。また国立民族学博物館に所蔵されるシーボルト旧蔵にかかる「九鍼」と「微鍼」も,石坂宗哲から贈られたものである可能性が高いことを論じた。
著者
福田 佳弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.184-198, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
39

桂姜棗草黄辛附湯を桂枝去芍薬加附子湯に麻黄細辛が加味された処方と考え臨床に運用し,数々の治験を得た。 その有効例を礎に本方証を考察した。桂枝去芍薬加附子湯証は,桂枝去芍薬湯証に寒が加わったものである。則ち本方の病態は,その条文中の,“下之”により,胃陽は衰耗し,胃陰が上逆し,陰盛陽衰となり“胸滿”が現れる,さらに寒により病態が激化し,心陽は衰憊する。そのため麻黄,細辛の加味が必要となる。この病態に現れる証候を本方証と推考する。治効例の証候は,上焦と下焦の多岐に渉り各々異なる。しかし本方証の診断には,各症例に共通して認められる症候の一つ,胸骨末端の両側肋間部とTh12‐L1の両傍脊椎筋の按圧痛を確証とした。これは桂枝去芍薬湯条にみられる“胸滿”の他覚的症候である。胸滿は気分の条文には記載されていないが,本方の運用には必須の症候である。
著者
野上 達也 渡り 英俊 藤本 誠 金原 嘉之 北原 英幸 三澤 広貴 柴原 直利 嶋田 豊
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.178-183, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

症例は8歳の女児。末梢血にて汎血球減少を認め,日本小児血液学会の中央診断システムにて小児不応性血球減少症(refractory cytopenia of childhood ; RCC)と診断された。標準的な免疫抑制療法が行われたが無効であり,頻回の赤血球輸血および血小板輸血を必要とするため骨髄移植が予定された。当院小児科入院8ヵ月後に漢方治療が開始され,加味帰脾湯エキスと芎帰膠艾湯エキスの投与により徐々に汎血球減少症は改善し,2ヵ月後には赤血球輸血を中止し,3ヵ月後に血小板輸血も不要となった。その後も順調に汎血球減少は改善し,16か月後にはほぼ正常化し,骨髄移植は中止された。加味帰脾湯,芎帰膠艾湯のRCC に対する作用機序は明らかでなく,その有効性も未知である。しかし,漢方治療は低侵襲性で安価であり,副作用も少ないことから,標準治療への反応が悪いRCC に対して積極的に試みるべき治療法であると考える。