- 著者
-
斉藤 博
- 出版者
- 一般社団法人 日本泌尿器科学会
- 雑誌
- 日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
- 巻号頁・発行日
- vol.97, no.3, pp.551-560, 2006-03-20 (Released:2010-07-23)
- 参考文献数
- 26
(目的)『ヒポクラテス全集』の治療に関する記述を研究した.(方法)『ヒポクラテス全集』(ラーブ版, 大槻版, 今版) の治療の記述を計量言語学的に検討し, コス学派とクニドス学派とで治療の優先度を比較した.(結果) 治療の記述は2,687節で, 内科治療2,319 (86%), 外科治療は368箇所 (14%) であった. 2,687中, コス学派の記述は1,023 (38%), クニドス学派1,261 (47%), 学派不明は403 (15%) であった. 内科治療は薬剤, 食餌法, 入浴, 燻蒸, 運動, 走行, 散歩, 罨法が多かった. 外科治療は骨折と脱臼に対する伸展, 整復, 切開, 焼灼, 瀉血であった. 食餌法, 運動, 走行, 散歩, 伸展, 整復, 瀉血はコス学派がクニドス学派より高頻度, 薬剤, 入浴, 婦人科疾患に対する燻蒸, 切開はクニドス学派が高頻度であった (X2検定でp<0.01). 尿路結石に対する治療としては, 薬剤, 食餌法, 入浴, 温罨法, 腎結石患者に対する切開術であったが, 膀胱切石術の記述はなかった. ヒポクラテスは薬で治らない病気はナイフで治すと“宣誓”で述べていた. また, 彼は戦場での傷の外科を習得する者は, 軍隊に加わらなければならないと強調していた.(結論)『ヒポクラテス全集』では, 多数の内科治療が記述されていたが, 外科治療も重視されていた. ヒポクラテスは“宣誓”で初心医師の入門時の戒めとして, 尿路結石に対して, 経験のない治療を禁じたのであって, 外科治療を禁じたのではない.