著者
塙 研司
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.85, no.8, pp.1223-1228, 1994-08-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

近年, 患者のQOL (quality of life) の向上をめざし, 勃起力を温存する神経保存術が行われてきた. しかし神経保存術として温存される神経の走行は未だ不明な点が多い. そこで本術式が神経保存術として適格か否かを検討し, さらに尿生殖隔膜部より遠位の陰茎海綿体神経の走行を観察した. 方法は解剖実習体を用い臨床に即した神経保存術を施行し, 陰茎海綿体神経を観察した. その結果, 骨盤神経叢より起こる前立腺神経叢の陰茎海綿体神経は精嚢側面に接し, 前立腺側方では, その筋膜と被膜の間を走行していた. さらに尿生殖隔膜部では尿道縁から約8mm離れて5時および7時方向で通過したのち陰茎海綿体に分布することが判明した.したがって神経保存術を行う場合に, 精嚢を露出する剥離, 前立腺被膜と筋膜の間での剥離および尿生殖隔膜部において尿道を充分に確認しながらの切断が必要である.
著者
北村 雅哉 西村 憲二 三浦 秀信 小森 和彦 古賀 実 藤岡 秀樹 竹山 政美 松宮 清美 奥山 明彦
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.91, no.7-8, pp.589-594, 2000-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
18

(目的) TESE-ICSIは非閉塞性無精子症に対して広く用いられてきたが, その適応については今だ議論の残るところである. 今回われわれは精子回収の可否, ICSIの結果などについてそれを予見する術前のパラメータがないか, 後向き検討を行った.(対象と方法) 1997年7月から1999年9月まで大阪大学医学部泌尿器科およびその関連施設でTESE-ICSIを施行した非閉塞性無精子症の症例, 44例においてその臨床的パラメーターとTESE, ICSIの結果との相関を調査した.(結果) 1) 44例中32例 (72.7%) で精子の回収に成功し, うち29例でICSIを施行, 15例 (46.9%) で妊娠が成立した. 10例は Sertoli-cell-only の組織型が確認されていたが, うち3例 (30%) で不動精子が回収された. 2) 精巣容量, JSC, FSHが精子回収の可否を有意に予測するパラメーターであったが, 閉塞性の要因の関与も考えられるJSC8以上の症例を除外するとその有意差は無くなった. 染色体異常の有無は精子回収の可否を予測するパラメーターとはならなかった. 3) 妻の年齢, 精子運動性の有無, 精巣容量は受精の可否を予測するパラメーターとなった. 染色体異常は受精の可否を予測するパラメーターとはならなかった.(結論) 非閉塞性無精子症で精子の回収を予測する絶対的なパラメーターはなかった. 非閉塞性無精子症のすべての症例がTESE-ICSIの適応となり, またTESE-ICSIなしでは絶対不妊の診断は下せないものと思われた.
著者
加藤 秀一 堀田 裕 峯田 昌之 三宅 正文
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.536-539, 2013-05-20 (Released:2014-06-16)
参考文献数
9

症例は56歳,女性.多発性嚢胞腎,慢性腎臓病にて内科通院中に発熱と左背部痛を認めた.CTにて左水腎症,左尿管結石を認め,急性複雑性腎盂腎炎と診断し,左尿管ステント留置および抗菌化学療法を施行した.発熱が持続するため感染性腎嚢胞を疑いMRIを施行したところ,拡散強調画像にて左腎下極の嚢胞の1つが高信号を呈し,感染源と考えられた.同部位にCTガイド下経皮的嚢胞穿刺術を施行し,膿汁のドレナージに成功し治癒に至った.超音波検査やCTでは感染性腎嚢胞を同定するのは困難であるが,本症例のようにMRI拡散強調画像は感染性嚢胞を特定するのに有効であると考える.
著者
岩動 孝一郎
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.85, no.8, pp.1189-1212, 1994-08-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
132
被引用文献数
1

男性仮性半陰陽は性腺として精巣が分化していながら内外性器系の男性化が障害される先天異常で, 極めて多彩な発生病理に基づく性分化異常症の一型である. 従来, 本症の分類は主として外性器の形態, 女性内性器の分化の有無, および思春期における二次性徴の性差を中心に行われてきた. しかし発生機序に関する要因は殆ど不明であり, 分類法での配慮は殆どなされていなかった. 近年, 性分化の機構に関する研究が大幅に進展し, Y染色体上に座位のある精巣決定因子TDFもSRY遺伝子として同定された. また胎生期精巣の分泌するミューラー管抑制ホルモン (AMH) に関する研究も進み, 内性器分化とその異常に関する知見も一新された. Androgen Receptor (AR) についても遺伝子のクローニングの結果, ARと genomic DNA との相互作用についても重要な情報が蓄積されつつある. 現在では, 古来の臨床的な分類に加えて, MPHを発生機序の面から捉えた分類法を確立し, 当面の患者に対しより適切な社会的な適応を目的とした性の決定を可能とし, その後の治療をも容易ならしめる基準を普及させる必要がある. 最近の傾向では, MPHをSRYおよび性決定に関連する一定の遺伝子の異常を含めた機序に起因する性腺分化の障害; 胎生期精巣より分泌される androgen およびAMHなどの性器分化誘導物質生成の障害; そして androgen receptor (AR) の異常に伴う感受性障害 androgen insensitivity の3つの要因に大別して扱う報告が多い. このほか性腺腫瘍, 腎腫瘍 (Wilms' tumor) あるいは腎障害の合併などを示す症例の存在も注目され, その発生機序の解明は出生前診断, 予防法さらには治療法の開発にもつながる重要な研究分野であると考えられる.
著者
石井 玄一 田中 祝江 原 啓 石井 延久 松本 英亜
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.98, no.6, pp.757-763, 2007-09-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
40
被引用文献数
1 1

(目的) クローン病患者における尿路合併症は比較的少ないが, その診断や治療に難渋することがある. 現在, それに対する治療指針はいまだ確立されていない. 今回, 我々はクローン病患者における尿路合併症の頻度, 診断, 治療について報告する.(対象と症例) 1994年1月から2002年5月の間, 社会保険中央総合病院にクローン病で通院中の1,551人を retrospective に検討した.(結果) 1,551例中75例 (4.8%) に尿路合併症を認めた. 内訳は尿路結石60例, 消化管膀胱瘻14例, 尿膜管膿瘍1例であった. 尿路合併症の診断を受けた患者のうち実際に泌尿器科を受診したのは41例 (55%) である. 内訳は尿路結石26例 (43%), 消化管膀胱瘻14例 (100%), 尿膜管膿瘍1例 (100%) であった. 尿路結石に対しては20例に保存的治療, 4例にESWL, 2例にTULを行い, 全ての症例で良好な結果を得た. 消化管膀胱瘻は12例 (86%) の症例で, 保存的治療で腸管の炎症をコントロール後に瘻孔, 炎症腸管の切除を行った. 尿膜管膿瘍は尿膜管, 責任腸管切除と膀胱部分切除を行った.(結論) 尿管結石の治療は非クローン病患者と同様の治療方法を行うべきと思われた. 消化管膀胱瘻は成分栄養等の保存的治療を先行させた後に外科的治療を行うことでQOLが早期に改善され, 腸管切除も回避できる可能性が示唆された.
著者
金子 智之 西松 寛明 小串 哲生 杉本 雅幸 朝蔭 裕之 北村 唯一
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.35-38, 2008-01-20 (Released:2011-01-04)
参考文献数
9
被引用文献数
1 5

症例は56歳, 男性. 陰茎腹側の硬結を主訴に来院した. 1歳時と2歳時に尿道下裂に対して尿道形成術を施行された既往があった. 5年前と2年前に尿道結石に対して尿道切石術を施行されていた. 尿道結石再発と診断し, 尿道切石術を施行した. 結石には尿道から発生した多数の毛が含まれており, 形成尿道からの発毛が結石形成の原因と考えられた. 結石再発の予防目的に除毛剤の尿道内注入を行ったが除毛効果がみられなかったため, 半導体レーザーを用いて経尿道的レーザー脱毛を行った. 術後5ヵ月で再発毛を1本認めるのみであり, ほぼ完全な脱毛が得られている. 尿道発毛は皮膚弁を用いた尿道形成術後にみられる晩期合併症であり, 結石形成や尿路感染の原因となる. 経尿道的レーザー脱毛は, 尿道発毛に対して有用な低侵襲治療と考えられた.
著者
松木 雅裕 國島 康晴 鰐渕 敦 井上 隆太 武居 史泰 久滝 俊博
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp.149-154, 2016-07-20 (Released:2017-07-21)
参考文献数
17

(目的) 限局性腎腫瘍症例のうち無治療経過観察の方針となった患者の臨床経過を検討した. (対象と方法) 限局性腎細胞癌と臨床診断され,無治療経過観察の方針となった観察可能な15例と即時手術治療を施行した68例を対象とし,後ろ向きに検討した. (結果) 無治療経過観察群の年齢は即時手術治療群と比較し有意に高齢であった(中央値,81対65歳,P<0.01).Charlson Comorbidity Indexは無治療経過観察群で有意に高く(中央値,5対2,P<0.01),経過観察の一因となった合併症を有した症例は10例(67%)であった.無治療経過観察群の原発腫瘍径中央値は2.5cm(1.5~10.1cm)で,両群間に統計学的差はなかった.無治療経過観察群の観察期間中央値は19カ月(6~55)であり,腫瘍増大速度中央値は0.29cm/年(-0.19~0.65)であった.CTによる無治療経過観察後に手術をうけた症例は4例であり,全例淡明細胞癌であった.無治療経過観察群の最終転帰は他因死2例,転移症例1例で,癌死症例はいなかった. (結論) 本検討では1例で転移を認めており,無治療経過観察を選択する場合はその妥当性についてよく検討する必要があると思われた.一方で,無治療経過観察群2例に他因死を認めており,高齢もしくは合併症症例に対して,無治療経過観察は許容できる選択肢の一つと考えられた.