著者
平井 利明 黒岩 義之
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.93-108, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
49
被引用文献数
3

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン関連神経免疫異常症候群は概日リズム・エネルギー代謝障害,4大症候(自律神経,情動,感覚,運動),接種から3.5–4年でADLが最悪となる自然史を特徴とする.ピルビン酸高値,LDH低値,尿酸高値,25水酸化ビタミンD低値,髄液NSE高値から免疫抑制,解糖系代謝障害,ビタミンD欠乏が示唆された.筋CTでサルコペニア,筋エコーで輝度異常,骨塩定量で骨粗鬆症,血管内皮機能検査で反応性充血指数低下,脈波伝播速度で平均血管抵抗増加を認めた.インスリン負荷試験の異常,コルチゾール低値と日内変動消失は視床下部障害を証拠付けた.髄液産生マーカーは正常であった.CVRRや起立試験から副交感神経系・交感神経系の異常が,αリズム異常から視床障害が,前部帯状回の脳血流低下から辺縁系障害が示唆された.人工的ウイルス様粒子が異物・免疫反応,血管内皮障害のトリガーとなり,視床下部症候群を引き起こすと考えた.
著者
黒岩 義之 平井 利明 横田 俊平 鈴木 可奈子 中村 郁朗 西岡 久寿樹
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.185-202, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
50

脳室周囲器官と視床下部は恒常性維持器官であり,自律神経,概日リズム,神経内分泌(ストレス反応),情動・記憶・認知,感覚閾値・疼痛抑制,歩行・運動,神経代謝・神経免疫(熱エネルギー代謝,老廃物排出,自然免疫・腫瘍免疫)を制御する.血液脳関門を欠く有窓性毛細血管が密集する感覚性脳室周囲器官が感知した信号(光,匂い,音,電磁波,レプチン,グレリン)は視索前野,背内側視床下部を経て,休息型視床下部(摂食行動抑制中枢)と活動型視床下部(摂食行動促進中枢)に伝達される.心理ストレス情報は扁桃体から,概日リズム情報は視交叉上核から視床下部に入り,視床下部からオレキシン,バゾプレシン,オキシトシンが分泌される.視床下部症候群(脳室周囲器官制御破綻症候群)の背景疾患として,ヒトパピローマウィルスワクチン接種関連神経免疫症候群,慢性疲労症候群,脳脊髄液減少症,メトロニダゾール脳症,化学物質過敏症,電磁過敏症などがある.
著者
黒岩 義之 平井 利明 水越 厚史 中里 直美 鈴木 高弘 横田 俊平 北條 祥子
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.72-81, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
34

環境ストレスには物理的感覚ストレス,化学的感覚ストレス,免疫・凝固系ストレス,心理社会的ストレス,内部環境ストレスがある.環境ストレスに対して生体が過敏症(ストレス感覚入力系の過敏状態)や不耐症(ストレス反応出力系の不全状態)を呈する病態を環境ストレス過敏症(不耐症)と定義した.その病像は視床下部性ストレス不耐・疲労症候群(脳室周囲器官制御破綻症候群)であり,自律神経・内分泌・免疫症状,筋痛,疲労,記憶障害等の多彩な症状が重層的に起こる.基礎疾患が明らかでない特発性タイプと,筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群,脳脊髄液漏出症,HPVワクチン後遺症,COVID-19後遺症,シックハウス症候群,ネオニコチノイド暴露など,基礎疾患が明らかな症候性タイプがある.3ステージ仮説(遺伝的要因,発症要因,トリガー要因)に基づき,その病態や予防について論じた.分子病態仮説としてプリン作動性神経伝達障害を考えた.
著者
平井 利明 黒岩 義之
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.60-71, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
43

HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)では環境過敏が特徴である.初回接種から8.5年間という世界に類を見ない追跡調査を行った.HANSのADLは3.5~4年で最も悪化し,29%の例が光過敏でサングラスをかけた.ADL重症群では副交感神経機能と血管内皮機能の機能低下を認めた.重度の環境過敏を伴うHANSでは発作的異常運動・頻脈・散瞳,血糖調節障害が著明で,脳脊髄液漏出症に対する治療や免疫治療で症状が一時的に改善した.テロメアG-tailは10例全てで短縮し,micro RNA検査で子宮頸癌及び乳癌の高リスクが8例中に4例に認められ,HANS患者は染色体レベルでの異常を起こしていることが世界で初めて示された.HANSはウイルス様粒子による血管内皮障害,染色体やmicro RNA異常を伴う視床下部性ストレス不耐・疲労症候群と言える.同病態を呈する他疾患のスペクトラムについても考察した.
著者
中里 直美 北條 祥子 菅野 洋 鈴木 高弘 平井 利明 横田 俊平 黒岩 義之
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.132-143, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
50

脳脊髄液減少症(脳脊髄液漏出症)は交通事故やスポーツ外傷のような外傷性の発症イベントに引きつづき,多彩な全身的体調不良がみられる後天的な慢性疾患であるが,発症イベント要因が不明なこともある.本症は脊髄神経根部での脳脊髄液の漏出(吸収過多)で起こるといわれているが,その病態に関しては不明な点が多い.4つの中核症状(自律神経症状,情動・認知症状,疼痛・感覚過敏症状,免疫過敏症状)が個々の患者で重層的に起こる.本症には性差があり,女性の方が男性よりも各症状の出現頻度や重症度が高い.本症は環境ストレスに対して生体が過敏症(ストレス感覚入力系の過敏状態)や不耐症(ストレス反応出力系の不全状態)を呈する.本症と筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群,子宮頚癌ワクチン副反応,COVID-19慢性後遺症との類似性が注目され,それらの病像は視床下部性ストレス不耐・疲労症候群(脳室周囲器官制御破綻症候群)といえる.
著者
平井 利明 木村 俊介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.159-163, 2004-12-25 (Released:2017-05-26)
参考文献数
22
被引用文献数
1

We conducted fecal analysis of the common bat, Pipistrellus abramus, foraging above rice fields in Kyotanabe City, Kyoto, Japan. Two classes and eight orders of arthropods were identified. Most of the prey arthropods were flying insects such as Diptera, Hemiptera, and Hymenoptera. The diet composition varied seasonally, and the principal prey taxon changed from Diptera in June to Hemiptera in September.
著者
黒岩 義之 平井 利明 横田 俊平 藤野 公裕 山﨑 敏正
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-9, 2021 (Released:2021-04-15)
参考文献数
38

自律神経科学はストレス反応の科学と言って過言でない.ストレスには外部環境ストレスと内部環境ストレスがある.生体の細胞膜には環境ストレスを感知するバイオ・センサーがある.ストレス中枢のセキュリテイ・ゲート(脳の窓)は視床下部と脳室周囲器官である.ストレス・シグナルの伝達経路には神経制御系,液性制御系,細胞シグナル伝達系がある.ストレスから生体を守る視床下部・辺縁系の攪乱によって不眠,内臓症状,慢性疲労,記憶学習障害,筋痛,感覚過敏など多彩な症状が起こる(視床下部症候群,脳室周囲器官制御破綻症候群).ストレス反応の制御はテロメア損傷,老化,発癌,フレイルの予防につながる.一方,慢性腎臓病などの内部環境ストレスはテロメアを攻撃して,寿命短縮や発癌を誘発する.ストレスに関して基礎と臨床の両面から総合的にアプローチできるのが自律神経科学である.自律神経科学元年の幕開けとルネッサンスの到来を期待する.
著者
平井 利明
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.103-106, 2007-05-25
被引用文献数
8

ダイズ害虫の天敵としてのニホンアマガエルの有用性を検討するため,ダイズ圃場で捕獲した個体の胃内容物分析を行った.ニホンアマガエル101個体の胃から収り出された1,545個体の餌動物を同定した結果,胃内容物は多様な節足動物から構成されていることが判明した.胃内容物中で優占していだのはアブラムシ類で,胃内容物総数の67.2%を占めていた.他には,ハムシ類やチョウ類幼虫などが多く含まれていた.これらの昆虫類を種レベルで正確に同定することは困難であったが,その多くは害虫種である可能性が高いと考えられた.このことから,ニホンアマガエルは様々な害虫種にとっての有力な天敵になっていると考えられた.ダイズ圃場でニホンアマガエルの個体数を増やして,害虫密度の抑制効果を高めるには,産卵後の成体や変態上陸後の幼体をダイズ圃場に誘引すべく,本種の繁殖場所となる水田に隣接させてダイズ圃場を配置すべきである.
著者
平井 利明
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.331-335, 2006 (Released:2007-02-06)
参考文献数
17
被引用文献数
2 5

It was investigated whether the Japanese tree frog, Hyla japonica, uses PVC pipes as refuges and whether the installment of PVC pipes in the banks of rice fields increases the abundance of H. japonica. Hyla japonica used the pipe as a refuge regardless of the internal diameter of the pipes tested and the distance from the water’s edge, and most frogs were concentrated near the pipe refuges. Few frogs were found on banks in which pipes were not installed. From these results, it is suggested that the loss of natural refuges by bank compacting would diminish the populations of this species in rice fields. This is the first report on the effects of bank compacting on frogs.
著者
木内 寛 古賀 実 平井 利明 難波 行臣 竹山 政美 西村 憲二 辻 村晃 松宮 清美 奥山 明彦
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.480-486, 2005-05-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

(目的) 精索静脈瘤を有する男性不妊症患者に対し, その根治術による精液所見の改善や, 妊孕率の上昇がこれまで報告されている. その有用な術前予測因子を検討した報告も多数見られるものの, これらは単変量解析にて議論されている. そこで我々は様々な因子を補正したロジスティック多変量解析を用いて, 術後精液所見改善の独立した予測因子を検討した.(対象および方法) 1995年2月から2000年3月までに不妊を主訴として当科外来を受診し, 触診または超音波ドップラーにて精索静脈瘤を認め, 内精静脈結紮術を行った152例のうち無精子症の13例を除いた139例を対象とした. 静脈瘤の grade, 患者の年齢, 精巣体積, 血清 luteinizing hormone (LH), follicle-stimulating hormone (FSH), テストステロン, 術前精子濃度, 運動率術後が精液所見改善の予測因子となりうるか検討した.(結果) 139例のうち71例 (51.0%) に精子濃度の改善が認められ, 59例 (42.4%) に精子運動率の改善が認められた. 全体で見ると, 精子濃度は中央値で10×106/mlから30×106/mlに有意に改善し, 運動率も同様に33%to45%に有意に改善した. 多変量回帰ゐ結果, 術後精子濃度改善の独立した予測因子は静脈瘤の grade (odds ratio [OR]=5.7; 95% confidential interval [CI]: 1.9~17) とFSH ([OR]=0.76; [CI]: 0.60~0.96), 術前運動率 ([OR]=1.03; [CI]: 1.0~1.1) であった. その他の年齢, 精巣体積, 血清LH, テストステロン, 術前精子濃度は濃度改善と相関は認めなかった.(考察) 手術により最も精子濃度の改善が期待できるのはFSHが低く, 術前運動率が高い, G3の患者であった.
著者
平井 利明 黒岩 義之
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.283-289, 2021 (Released:2021-12-27)
参考文献数
44

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は2019年12月に中国の武漢から原因不明の肺炎として同定され,ヒト宿主細胞への侵入は重症急性呼吸器症候群(SARS-COV)と同様にアンジオテンシン変換酵素(ACE)2を介する.本稿ではCOVID-19(以下,本症)におけるウイルス浸潤のメカニズム,呼吸不全を伴う本症のGWAS解析におけるACE2の重要性,さらに近年報告された嗅覚・味覚障害の頻度,頭部MRI所見,末梢神経障害,脳症についてレビューする.また,持続する本症の症状は脳脊髄液減少症や筋痛性脳脊髄炎に類似するが,この仮説はSARS-CoV-2の感染実験により,ACE2を発現する脈絡叢上皮細胞への障害と,血液-脳脊髄液関門の破壊に伴う免疫異常という所見により支持される.
著者
平井 利明
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.331-335, 2006-11-25
参考文献数
17
被引用文献数
1 5

ニホンアマガエルによる塩ビパイプ製の代替退避場所の利用様式と,その退避場所の設置による本種の生息密度の回復効果を調査した.その結果,ニホンアマガエルはパイプの内径やその設置場所に対して非選択的に代替退避場所を利用すること,および多数の個体がパイプを設置した畦畔に集中して分布することが判明した.パイプを設置していない畦畔にはごく少数の個体が分布しているにすぎなかったことから,畦畔の締め固めによる退避場所の消失が本種の水田産個体群を衰退させている可能性が示唆された.本研究は,カエル類に対する畦畔の締め固めの影響を指摘した初めての報告である.
著者
平井 利明
出版者
日経BP社
雑誌
日経メディカル (ISSN:03851699)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.144-146, 2007-05

スタッフのミスが重なり、2人の患者が入れ違ったまま手術が行われました。最高裁は、医師らの注意義務違反を認めつつも、病院のチェック体制が整備されていれば、医師の責任は問わないと判断する余地を残しました。事件の概要 1999年1月11日、2件の手術が公立大学病院で予定されていた。
著者
平井 利明 福田 隆浩 鈴木 正彦 横地 正之 河村 満 後藤 淳 織茂 智之 藤ヶ﨑 純子
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.201-208, 2012-02-01

症例提示 司会(鈴木) それでは,症例提示をお願いします。 主治医 (平井) この症例は,タイトルにあるように急性の精神病様症状で発症して,いろいろな鑑別を考えながら治療したのですが,完全に袋小路に入ってしまって,何がどうなって進んだのかもよくわからないまま亡くなられました。病理解剖の結果,まさかという結果が出てきまして,自分自身とても勉強になりました。
著者
平井 利明 宮川 晋治 松井 和隆 栗田 正
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.585-588, 2014-07-01 (Released:2014-08-02)
参考文献数
10
被引用文献数
2

症例は30歳の男性である.発熱後に2週間で顔面の灼熱痛,咀嚼困難をみとめ入院した.両側三叉神経の運動感覚障害,左顔面神経麻痺,感音性難聴,ぶどう膜炎,耳下腺腫脹をみとめた.両側肺門部リンパ節腫脹,血清ACE上昇,ツベルクリン反応陰性,口唇粘膜生検で非乾酪性類上皮性肉芽腫をみとめ,完全型Heerfordt症候群と診断した.下顎皮膚組織に対するPGP9.5抗体をもちいた免疫染色でsmall fiber neuropathy(SFN)をみとめた.顔面痛は難治性で,発症3年後に急性膵炎で死亡した.剖検ではサルコイド結節をみとめなかったことから,難治性顔面痛の原因としてSFNの関与が強くうたがわれ報告する.