著者
春日 秀朗 宇都宮 博 サトウ タツヤ
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.121-132, 2014

本研究は,親から感じた期待が子どものどのような感情や行動を引き出し,それらが大学生の現在の自己抑制型行動特性と生活満足感にどのような影響を与えるのか検討することを目的とした。対象は大学生367名であった。質問紙調査により大学入学以前に親から感じた期待と期待に対して抱いた感情,行った行動を尋ね,自己抑制型行動特性及び生活満足感への影響を検討した。その結果,期待の認知形態により反応様式や生活満足感に差異が生じることが明らかになった。「人間性」・「進路」・「よい子期待」のいずれの期待も高く認知していた期待高群の大学生は,いずれの期待も感じなかった,もしくは人間性期待のみを感じていた大学生よりも負担感が高かったが,進路・よい子期待のみを感じていた大学生よりも期待に対して肯定的な反応をとっており,生活満足感も高かった。また自己抑制型行動特性から生活満足感への影響に関して,期待高群においては正の影響がみられた。これらのことから,期待が子どもに対しネガティブな影響を与えるのは,期待内容や程度とともに,子どもが期待をどのように認知しているのかが重要であることが明らかになった。期待高群において自己抑制型行動特性が生活満足感へ正の影響を与えていたことから,自らが望んで期待に応えた場合,自己抑制的な自身の性格を肯定的にとらえていることが示唆された。
著者
渡邉 照美 岡本 祐子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.247-256, 2005-12-20 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
3

死別経験による人格的発達が起こり得るのかを明らかにするために, 死別経験のあるもの424名と死別経験のないもの40名を対象に, 質問紙調査を行った。その結果, 死別経験による人格的発達得点において, 死別経験あり群が死別経験なし群よりも高い得点を示したことから, 死別経験による人格的発達が起こることが明らかとなった。そこで, 死別経験のあるもののみ424名を対象とし, 死別経験による人格的発達の具体的な構造と, 死別経験による人格的発達と関連のある要因を明らかにするための検討を行った。その際, ケア体験との関連を取り上げた。死別経験による人格的発達の構造として, 「自己感覚の拡大」, 「死への恐怖の克服」, 「死への関心・死の意味」が見出された。また, 死別経験による人格的発達に関連する要因として「性別」, 「年齢」, 「続柄」, 「死別経験時の対象者の年齢」, 「死別納得感」, 「ケアの頻度」, 「ケア満足感」が認められた。死別経験による人格的発達と実際にどのようなケアを行ったかというケア体験との関連においては, ケア体験得点の高い群は, 得点の低い群よりも, 死別経験による人格的発達得点が有意に高かったことから, その関連が認められた。以上より, 死別経験による人格的発達とケアとの関連が示唆された。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.279-287, 2015 (Released:2017-12-20)
参考文献数
70
被引用文献数
5

本稿では,夫婦の親密性をコミットメントと愛情という側面からとらえた。さらに,夫婦関係における親密性の揺らぎを,子育て,離婚,個人化・個別化,定年退職の4つの事象から論じ,そこにおける妻と夫の意識のずれを明らかにした。日本の夫婦では,家族や家庭を維持していくために夫婦の親密性を諦める場合があり,また,結婚が親密性からのみ成り立つわけではなく,機能性,さらに社会的関係から維持されており,恋愛関係と異なる親密性のあり方が論じられた。発達研究としての今後の課題から,以下の三点が指摘された。第一に,夫婦としてある期間は長期にわたるため,結婚満足度以外では同一指標による比較は困難である。そのため,どのライフステージかを明確にさせながら,時期を重ねて変化をみるという方法が可能である。第二に,ライフイベント前後での短期縦断研究がさらに望まれる。第三に,夫婦関係には,その社会の制度・価値観,性別分業のあり方など文化の違いが色濃く反映するので,それらを十分考慮して研究する必要があることが指摘された。
著者
汀 逸鶴 小塩 真司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.91-97, 2020 (Released:2022-06-20)
参考文献数
26

知的好奇心は知的活動を動機づけ,生涯にわたって心身の健康に関わる特性であることがこれまでの研究により示されている。本研究は,日本人成人を対象とした横断的調査から,知的好奇心の年齢に伴う変化を検討した。分析に際して,情報探索の方向性によって定められた知的好奇心の下位概念である,拡散的好奇心と特殊的好奇心のそれぞれについて検討を行った。オンライン調査に参加した4376名(男性2896名,女性1480名,平均年齢51.8歳)のデータを分析の対象とした。階層的重回帰分析の結果,拡散的好奇心は年齢に伴って曲線的に上昇する傾向が,特殊的好奇心は年齢に伴って直線的に上昇する傾向が認められた。また,拡散的好奇心については男性の方が女性よりも平均値が高い傾向もみられた。これらの結果は,最終学校段階や世帯年収を統制しても同様であった。本研究で得られた結果と先行研究の知見から,日本人の成人期における知的好奇心の役割について議論された。
著者
北川 恵
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.439-448, 2013

本稿では,アタッチメント理論に基づく親子関係支援の基礎と臨床の橋渡しについて,欧米の先行研究を概観したうえで,日本での今後の課題を考察した。親の内的作業モデル,敏感性,内省機能といった特徴が子どものアタッチメントの質に影響するという基礎研究知見に基づいて,それらを改善することを目的とした介入プログラムが開発された。介入効果が実証されているものとして,敏感性のみに焦点づけた短期間の介入(VIPP),内省機能に焦点づけた長期間で密度の高い介入(MTB),敏感性と内的作業モデルに焦点づけた比較的短期間の介入(COS)について概観した。介入とその効果についての報告が蓄積されたことから,有効な介入の特徴(焦点,頻度,期間)や,介入の要素(安心の基地,心理教育,ビデオ振り返り)についての議論が起こり,また,臨床群の評価に適切な測定方法開発の必要性が高まった。日本での今後の課題として,欧米の知見を日本に応用する際に,アタッチメントの普遍性と文化についての検討が必要であること,支援の場に安心の基地を実現する臨床的工夫を行いながら,アタッチメントの変化に関わる要因について実践に基づく仮説を生成することが必要であると論じた。
著者
赤澤 淳子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.288-299, 2015 (Released:2017-12-20)
参考文献数
91
被引用文献数
4

本論文は,男女交際のダークサイドであるデートDVに焦点をあて,親密な二者関係の様々な側面と暴力との関係をいくつかの理論から考察し,さらにデートDVにまつわる神話を検証した上で,今後の研究課題を提示するものである。親密性に関するいくつかの理論は,暴力は二者の関係への過剰な集中と発達期における親との関係を端緒とし,それらの特性は葛藤方略として暴力を使用する可能性を高めることを示している。「男性が加害者で女性が被害者」,「愛と暴力は対極にあるもの」,「身体的暴力がもっとも悲惨」というデートDVの神話はいずれも誤謬であり,暴力は双方向的であり,愛は暴力を引き起こす要因になることがあり,精神的な暴力は身体的暴力より長期化し,被害を大きくする傾向があることが,これまでの研究から確認された。これらの議論から,葛藤方略の予防教育によるデートDV抑止効果の研究や,生涯発達的な視点と社会文化的な視点からのデートDV研究が必要であるといえる。
著者
長谷川 真里
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.304-315, 2003-12-05 (Released:2017-07-24)

本研究の目的は,なぜ年少者は言論の自出をあまり支持しないのかということを検討することであった。研究1において,小学4年生,6年生,中学2年生,高校2年生,大学生(合計176人)は,言論の自由に対する法による制限の正当性を判断した。加齢と共に,推論の様式は,言論内容のみに注目するものから,言論内容と自由を比較考量する様式へ,あるいは聞き手の自由に注目する様式へと変化し,そのような推論の様式の差が自由を支持する程度と関係した。研究2(小学4年生,6年生,中学2年生,高校生,合計127人)では,加齢に伴い,言論の白山を社会的価値としてとらえ,聴衆への影響を低く見積もり,スピーチの中の行為をそれほど悪くないど考える傾向が示された。そして,このような評価が,自出を支持する程度に関係することが示唆された。そして,スピーチ内容の領域によって,それらは異なって関係していた。
著者
溝上 慎一 中間 玲子 畑野 快
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.148-157, 2016 (Released:2018-06-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2

本研究は,青年期のアイデンティティ形成を,自己の主体的・個性的な形成に焦点を当てた自己形成の観点から検討したものである。個別的水準の自己形成活動が,抽象的・一般的水準にある時間的展望(目標指向性・職業キャリア自律性)を媒介して,アイデンティティ形成(EPSI統合・EPSI混乱)に影響を及ぼすという仮説モデルを検討した。予備調査を経て作成された自己形成活動尺度は,本調査における因子分析の結果,4つの因子(興味関心の拡がり・関係性の拡がり・将来の目標達成・将来への焦り)に分かれることが明らかとなった。これらの自己形成活動を用いて仮説モデルを検討したところ,個別的水準にある自己形成活動は直接アイデンティティ形成に影響を及ぼすのではなく,抽象的・一般的水準にある時間的展望を媒介して,アイデンティティ形成に影響を及ぼしていた。自己形成活動からアイデンティティ形成への直接効果は見られたが,小さな値であり,総じて仮説モデルは検証されたと考えられた。
著者
大原 天青 楡木 満生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.353-363, 2008-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
3

本研究の目的は,児童自立支援施設入所児童の情緒と行動の特徴と虐待の有無や種類との関係を明らかにすることであった。全国の児童自立支援施設4ヵ所,78名の児童の担当職員(29名)と統制群として一般中高生88名のクラス担任(22名)にChild Behavior Checklist/4-18(子どもの行動チェックリスト,以下CBCLと示す)を中心とした質問紙に記入を依頼した。その結果,(1)施設群は「引きこもり」や「不安・抑うつ」・「非行的行動」・「攻撃的行動」など,「身体的訴え」を除くすべてのCBCL尺度で統制群よりも高得点を示した。施設群の各特徴としては(2)中学生全体として外向尺度に大きな問題を抱えていた。虐待の有無による分析では,(3)虐待のない男子群で被虐待群・統制群より「非行的行動」,「攻撃的行動」,外向尺度で高く,「思考の問題」も抱えていることが明らかになった。虐待種別では(4)身体的虐待の特徴に「不安・抑うつ」が見られた。しかし,自立支援施設入所児童のように問題行動の高い場合には虐待群間の特徴が鮮明にはならず,その特徴が背後に隠れてしまう可能性が指摘された。従って,その点を十分考慮した生活場面での支援と心理的援助の必要性が指摘される結果となった。
著者
河本 愛子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.453-465, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
26
被引用文献数
2

学校行事は授業と同様,すべての者が経験する教育活動であるにもかかわらず,どのような発達的意義を有するのかについては検討されてこなかった。そこで本研究では,中学・高校における学校行事体験に対する大学生の回顧的意味づけに着目して検討を行った。大学生670名を対象に質問紙調査を行い,中学・高校の学校行事体験を想起してもらった結果,6つの意味づけが見出された。それらは「集団への肯定的感情」,「他者意識の高まり」,「集団活動に対する消耗感」,「問題解決への積極性」,「他者統率の熟達」,「学校活動への更なる傾倒」であった。これらの意味づけにつながる参加の仕方を検討した結果,傾倒のみがすべての意味づけに関連していた。次に,傾倒に関連する活動の質を検討した結果,目標志向的に行動することが最も大きな関連を示していた。最後に,個人のパーソナリティ特性の調整効果を検討した結果,調和性の程度によって,活動の質と傾倒との関連の大きさが異なることが示された。以上より,中学・高校における学校行事体験がライフイベントとして個人の発達上,重要な意味を有することが示唆された。今後は,縦断研究を用いて,個人特性の違いを考慮した上で活動の発達的機能と影響過程を検討する必要があるだろう。
著者
浦上 萌 杉村 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.175-185, 2015 (Released:2017-09-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

心的数直線の形成は,数量概念の発達において非常に重要であると考えられている。その過程は大別して2つの立場から捉えられてきた。一つは,対数型から直線型へという質的変化を重視する移行の立場で,もう一つは,数量を見積る方略や基準点に着目する比率判断の立場である。本研究では,これらの立場では捉えきれなかった,関数に適合する以前の数表象の実態を検討するとともに,心的数直線の質的変化と基準点の使用との関連や見積る際の方略を検討した。分析対象者は,0–20の数直線課題が4–6歳児58名,0–10の数直線課題が4–6歳児27名であった。分析の結果,関数に適合する以前の数表象として,大小型などの5つの型が見出された。また,移行と比率判断との関連や方略を検討することにより,直線型であっても数直線の両端と中点を基準点として使用し,比率的に見積っているとは限らないことなどが明らかになった。これらの知見を踏まえて,幼児期における心的数直線の形成過程を考察した。
著者
乾 彰夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.335-345, 2016

<p>本論は,若者の移行研究の立場からの,発達心理学研究への若干の問題提起と問いを意図している。欧米でも日本でも,若者の大人への移行の期間は近年,安定した就労,離家,結婚など主要な指標に照らして長期化した。こうした変化に応ずる形で,欧米においては,例えばアーネットの主張するemerging adulthoodのように,この延長された期間をとらえるための新たな理論が提起され,またそれらの是非をめぐる激しい論争が展開されている。とくに重要な争点は,emerging adulthoodが先進国における新たな普遍的発達段階といえるか否かということである。アーネットはその普遍性を主張するが,他の研究者からは,これはもっぱら大学進学が可能なミドルクラスの若者にのみあてはまるもので,低階層の若者たちの経験が無視されているとの批判を受けている。日本の発達心理学には青年期を対象とした研究は少なからずあるとはいえ,移行の長期化に注目した研究は未だそれほど多くない。さらに,青年期研究のほとんどが高等教育機関に在籍する学生やその卒業生を対象としていることも,重大な問題であるように思われる。大学等に進学しないような若者たちは日本の発達心理学には存在しないのだろうか。</p>
著者
菅沼 慎一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.23-34, 2015 (Released:2017-03-20)
参考文献数
26

「諦める」ことの精神的健康に対する機能に関しては相反する知見が存在する。これまで「諦める」ことの行動的側面が注目されてきたが,「諦める」ことをプロセスとして捉えることでその精神的健康に対する機能がより明確になる可能性がある。本研究では,青年期において「諦める」ことが体験されるプロセスとその精神的健康に対する機能を質的に検討することとした。後青年期(22~30歳)の男女15名を対象に,過去の諦め体験に関して半構造化面接を行い,29エピソードを得た。M-GTAを用いた分析の結果,24概念が生成された。予備的な分析を行った結果,【実現欲求低下】という概念を得,これが「諦める」ことの精神的健康に対する機能と関連する可能性が示唆された。この【実現欲求低下】を軸に「諦める」プロセスを分析した上で,未練型,割り切り型,再選択型の3つに分類し,各々の型の詳細なプロセスに関するモデルを生成した。諦めることの機能に関しては,【実現欲求低下】と【達成エネルギーの転換】が重要な役割を果たしており,割り切り型と再選択型という2つのプロセスにおいては諦めることが建設的に働き,未練型においては非建設的に働くことが示唆された。最後に本研究の限界と課題について論じた。
著者
岡田 努
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.346-356, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
45

本研究は青年期の友人関係の現代的特徴について検討を行ったものである。研究1では,青年の友人関係に変遷が見られるかどうかについて,1989年から2010年にかけて実施された調査に基づいて検討した。各研究で共通する項目についての項目得点の平均値を比較した結果,明確な変容は確認されなかった。青年全体の特徴についで,研究2では,青年の現代的特質についての個人差について検討した。青年の対人的な敏感さを示す現象として注目される「ランチメイト症候群」傾向について,同じく現代的な対人不適応の型とされる「ふれ合い恐怖的心性」を取り上げ,これと友人関係,自己意識,および自己愛傾向との関連について比較を行った。その結果,ランチメイト症候群傾向が高い者ほど過敏性自己愛が高い傾向が見られた。またふれ合い恐怖的心性が高い者は友人関係から退却することで不安から逃れ安定する傾向が見られるのに対して,ランチメイト症候群傾向を示す者は他者の視線を気にすることで,不安定な状態にとどまることが示された。青年の全体像だけではなく,差異にも注目することが,発達心理学が青年期の時代的な姿を明らかにする上で有効であろう。それとともに,その発生のメカニズムについて明らかにすることが必要となるだろう。
著者
石川 茜恵
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.142-150, 2014

本研究は,青年における過去のとらえ方のタイプの違いによって目標意識がどのように異なるのかを明らかにすることを目的とした。青年期を対象とした従来の時間的展望研究は青年における未来の側面を重視し,検討してきた。従来の研究の問題点として,研究対象が未来に偏重しており,過去に関する研究が少ないという点があった。現在において過去をどのようにとらえるかによって未来への意識が異なる点が示唆されており,この点の検討により青年の時間的展望をより理解できると考えられた。そこで本研究では,現在において過去をどのようにとらえているのかというタイプに基づいて目標意識の差異を検討した。大学生314名を対象に過去のとらえ方と目標意識から構成される質問紙調査を実施した。まず,過去のとらえ方尺度の5下位尺度を元にクラスタ分析を行った結果,異なる過去のとらえ方の特徴を持った「過去軽視群」「葛藤群」「統合群」「とらわれ群」の4タイプが得られた。次に,得られた4タイプを独立変数,目標意識を従属変数とした一要因分散分析を行った。その結果,現在において過去を過去として受容し,過去を現在や未来とつながるものとしてとらえていた統合群は,過去にとらわれていたり軽視していたり,過去が現在や未来につながっていないと推測された他の群よりも,将来への希望が高く,将来目標を持っていた。得られた結果が示す青年像と今後の課題が示された。
著者
村山 恭朗 伊藤 大幸 浜田 恵 中島 俊思 野田 航 片桐 正敏 髙柳 伸哉 田中 善大 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.13-22, 2015 (Released:2017-03-20)
参考文献数
32
被引用文献数
6

これまでの研究において,我が国におけるいじめ加害・被害の経験率は報告されているものの,いじめに関わる生徒が示す内在化/外在化問題の重篤さはほとんど明らかにされていない。本研究は,内在化問題として抑うつ,自傷行為,欠席傾向を,外在化問題として攻撃性と非行性を取り上げ,いじめ加害および被害と内在化/外在化問題との関連性を調査することを目的とした。小学4年生から中学3年生の4,936名を対象とし,児童・生徒本人がいじめ加害・被害の経験,抑うつ,自傷行為,攻撃性,非行性を,担任教師が児童・生徒の多欠席を評定した。分析の結果,10%前後の生徒が週1回以上の頻度でいじめ加害もしくは被害を経験し,関係的いじめと言語的いじめが多い傾向にあった。さらに,いじめ加害・被害を経験していない生徒に比べて,いじめ被害を受けている児童・生徒では抑うつが強く,自傷を行うリスクが高かった。いじめ加害を行う児童・生徒では攻撃性が強く,いじめ加害および被害の両方を経験している児童・生徒は強い非行性を示した。
著者
長谷川 真里
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.345-355, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
16

本研究は,信念の多様性についての子どもの理解を探るために,相対主義の理解,異論への寛容性,心の理論の3つの関連を調べた。研究1では,幼児,小1生,小2生,小3生,合計253名が実験に参加した。実験では,まず,「道徳」,「事実」,「曖昧な事実」,「好み」の4領域の意見について本人の考えを確認した。その後,本人の考えと同じ子ども(A),逆の考えの子ども(B)の2種を提示し,「どちらの考えが正しいか,両方の考えが正しいか(相対主義の理解)」,「A,Bそれぞれが実験参加児に遊ぼうと言ったらどう思うか(寛容性)」を尋ねた。幼児については誤信念課題もあわせて実施した。その結果,幼児においても課題によっては相対主義の理解がみられた。また,どの年齢群も,領域を考慮して判断していたが,寛容性判断において年齢とともに道徳領域が分化していった。「好み」に対する相対主義の理解がみられなかったのは,課題として提示されたアイスクリームのおいしさが,子どもにとって絶対的なものなのかもしれない。そこで,研究2では,子どもにとってあまり魅力的ではない食べ物(野菜)を材料にした補足実験を行った。その結果,「野菜」課題において相対主義理解の割合が増加した。また,心の理論と相対主義の理解に関係がみられた。最後に,本研究の結果をもとに,文化差について議論した。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.86-95, 2009-04-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究の目的は,不思議を感じとりそれを楽しむ心の発達について明らかにすることであった。研究1では,幼稚園年少児29名,年中児34名,年長児33名に3つの手品を見せ,そのときの幼児の顔の表情,探索行動,言語回答を観察し分析を行った。その結果,年少児では手品を見せられても顔の表情にあまり変化がなく,手品の不思議の原理を探ろうとする探索行動も全く見られなかったのに対して,年中児では軽く微笑んだり声をあげずに笑うなどの小さい喜び反応が増加し,探索行動も現れるようになり,さらに年長児では声をあげて笑ったりうれしそうに驚くなどの大きい喜び反応が増加し,探索行動も増加するといった一連の発達的変化が確認された。研究2では,研究1に参加した幼児86名に対して空想/現実の区別課題を行い,研究1の手品課題における反応との関連について検討した。その結果,空想/現実の区別を正しく認識している幼児ほど,手品を見たときに喜び反応をより多く示していたことがわかった。以上の結果から,不思議な出来事に遭遇したときに生じる,出来事の不思議に気づき,それを楽しみ,探究するといった心の動きが幼児期において発達すること,そしてその発達の背景には空想/現実の区別についての認識発達が存在することが示唆された。
著者
小川 絢子 子安 増生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.171-182, 2008-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
6

幼児が他者の誤った信念を理解するためには,実行機能の発達が必要不可欠であることが,最近の「心の理論」研究から明らかにされてきている(Carlson& Moses, 2001; Perner &Lang, 1999)。実行機能の中でも,ワーキングメモリと葛藤抑制の機能が「心の理論」と特に関連することが示されている。しかしながら,日本において実行機能と「心の理論」の関連を検討した研究はほとんどみられない。本研究の目的は,実行機能と「心の理論]が,日本の幼児において関連するのかどうかを検討し,関連があるのであれば,実行機能の下位機能のうち何が「心の理論」と関連するのかを,因子分析を用いて下位機能の因子間の関連性および独立性を考慮した上で検討することであった。3歳から6歳児70名を対象に,「心の理諭」2課題,実行機能6課題,および語彙理解テストを実施した。その結果、年齢と語彙理解テストの成績を統制しても,ワーキングメモリ課題の成績と「心の理論」課題の成績との間に有意な相関がみられた。加えて,ワーキングメモリと葛藤抑制の因子間相関は非常に高かった。 これらの結果から,幼児期においては,葛藤抑制の機能の多くはワーキングメモリによって説明される可能性があり,1つの課題状況に対して,自己視点を抑制し,他者視点を活性化するといった操作を可能にするワーキングメモリ容量が,誤った信念の理解に必要であることが示唆された。