著者
大西 みさ 足立 はるゑ 中村 小百合
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1_83-1_89, 2004-04-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
50

本研究の目的は,糖尿病患者の指尖のSMBG穿刺痛を軽減する為に考案した氷冷法について,血糖自己測定法(SMBG)としての有効性と妥当性を検討することである。氷冷法とは,冷蔵庫で保管した2℃氷水に指を15又は20秒間浸して穿刺する指尖採血法である。対象は,A病院の糖尿病患者50名と健常人(医療スタッフ)20名であり,従来法と氷冷法を比較し,以下の結果を得た。1)氷冷法は冷却作用から痛覚が消失し従来法よりも糖尿病患者(p<0.01),健常人(p<0.001)共に痛み閾値が上昇した。2)氷冷法は一定の血液量が確保でき,従来法と同様に血糖値の誤差がほとんどなく,SMBGの妥当性に問題はなかった。このことから,氷冷法は指尖の穿刺痛が軽減できる新しいSMBG方法であり,穿刺痛による負担を軽減できることから糖尿病患者のQOL向上に貢献できる可能性が示唆された。
著者
岩﨑 みすず 水野 恵理子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.4_101-4_109, 2009-09-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
25

統合失調症患者の地域生活において家族の支援は重要であり,今後,高齢化する親に代わってきょうだいの存在が注目される。本研究では,統合失調症患者のきょうだいの体験を明らかにすることと,支援の方向性への示唆を得ることを目的として,きょうだいへの半構成的面接を思いと対応に注目して分析した。 長い経過を経ても,病気と患者の受け入れに対する葛藤を抱えてアンビバレントな心的態度が認められ,患者のきょうだいであることを不名誉に感じることが,他者に配慮する姿勢につながっていると考えられた。しかし,患者を抱えた負担感を持ちながらも,患者のニーズとともに,自身のニーズの充足に対処しており,体験をとおして自分の存在や生き方に新たな価値観を見出していた。きょうだいが抱えるアンビバレンスの理解と,きょうだいのニーズを的確に把握して,医療や社会資源とのつながりが保てるように支援していく必要性が示唆された。
著者
茅原 路代 國方 弘子 岡本 亜紀 渡邉 久美 折山 早苗
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_91-1_97, 2009-04-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
31

本研究は,デイケアに通所し地域で生活する統合失調症患者83名を対象に,居場所感とQOLの2変数の関連を明らかにすることを目的とした横断研究である。調査項目は,日本語版WHOQOL-26,精神障害者の居場所感尺度(3下位尺度からなる2次因子モデル),個人特性で構成した。想定した居場所感とQOLの因果関係モデルを共分散構造分析を用いて検討した結果,適合度指標は統計学的な許容水準を満たし,モデルはデータに適合した。居場所感が大きいことは,より良いQOLであることが明らかになり,その寄与率は44%であった。このことから,在宅生活をする統合失調症患者がより良いQOLを獲得するためには,彼らの居場所感を高める支援が有効であることが示唆された。
著者
菅原 阿部 裕美 森 千鶴
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:02859262)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.11-22, 2011-09-20
参考文献数
41

本研究は,統合失調症者の病識のレベルを高める看護介入をするために,統合失調症者の病識に影響を与える関連要因を明らかにすることを目的とした。<br> 統合失調症者を対象者として病識評価尺度(SAI-J),服薬態度,HLC,病気・服薬に対する知識,病気・服薬に対する体験,精神症状,治療内容,主治医からのインフォームド・コンセント,自己効力感について調査した。このほかに半構造化面接を実施し,分析の結果,病気の認識,服薬経験,感情,受け止めなどが抽出された。各尺度の合計点とカテゴリについて共分散構造分析を行い,病識のパスモデルを作成した。「病的体験の客観視」がSAI-J,服薬体験に影響を与えており,服薬に関する感情が生じて服薬態度尺度の合計点に影響を与えていた。<br> このことから,病的体験を客観視できるようにかかわり,服薬体験の表出を促すことが病識のレベルを高める看護であると考えられた。
著者
後藤 千佳 木村 紀美 米内山 千賀子 近藤 久美子 福島 松郎
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1_95-1_100, 1985-04-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
8

術後に発症する円形脱毛症,頭部の褥瘡(alopecia)については,全身麻酔後に認められる小合併症のひとつとして,1950年頃から注目され始めた。今回,術後のalopeciaの原因のひとつであろうと推察されている手術中の圧迫状態を,頭部の体圧の面から検討するため,それを測定した。その結果,次のような結論を得た。1. 5種類の枕のうち,後頭部の体圧を最も低下させたのは,弘大式麻酔枕で平均27.6mmHgとなった。2. 心・大血管手術群のうち5例に術後膨張がみられ,麻酔時間,人工心肺使用時間が長く,中枢温と末梢温の較差が大で,後頭部皮膚温も低かった。3. 理想的な枕のない現在,30分から2時間おきに,頭の位置を変えることが適当な処置と思われる。
著者
濱田 真由美
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.5_749-5_761, 2022-01-20 (Released:2022-01-20)
参考文献数
33

目的:日本国内全国紙版の看護系学術誌に発表された論文から「母乳育児」を構築している言説を探求する。方法:92文献について言説分析を行った。結果:主要な言説として規範性と不確実性が示された。規範性には,母乳育児が社会にとっても母子にとっても優れた栄養法であるとする【良いもの】,母乳育児と「良い母親」を結合する【母親の規範】,母乳育児推進を医療者の義務とする【専門家の規範】が含まれた。一方,不確実性には,母乳育児が母親を破綻させかねない【リスク】,母乳育児の成否や支援方法を裏付ける根拠の【曖昧さ】が含まれた。なかでも,【母親の規範】【専門家の規範】【リスク】は5割以上の頻度で出現した。結論:医療者は母乳育児に付随する母親への偏った見方がないか内省するとともに,母乳育児の不確実性と対峙し,「母乳か人工乳か」の単純な二項対立を乗り越えて授乳支援の知を開発していく必要があると考えられた。
著者
大江 勤子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.5_791-5_799, 2022-01-20 (Released:2022-01-20)
参考文献数
25

目的:専門学校生の終末期看護実習における感情労働および支援の実態と,専門学校生の共感性やストレス対処能力(Sence of Coherence:以下SOC)と感情労働との関連を明らかにし,終末期看護実習指導の示唆を得る。方法:終末期看護実習終了直後の看護専門学校3年生に,質問紙調査を実施した。結果:感情労働総点は96.2±12.7(n=81),感情労働と共感性の関連では,感情労働の「総点」「ケアの表現」「探索的理解」には多次元共感の「視点取得」が選定され,感情労働の「深層適応」「探索的理解」には,多次元共感の「個人的苦悩」が選定された。感情労働とSOCの関連では,感情労働の「総点」「表出抑制」は,SOCの「把握可能感」が負の要因と選定され,「表層適応」はSOCの「処理可能感」が負の要因と選定された。結論:終末期看護実習で専門学校生は多くの感情労働を行っており,感情労働と共感性は正の関連,SOCとは負の関連が認められた。
著者
加藤 まり 門間 晶子 山口 知香枝
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.2_163-2_175, 2020-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
34

本研究は,知的障害を伴わないASDがある母親が経験している子育てを,母親の視点から明らかにすることを目的とし,研究協力者6名に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果,母親の子育ては,ASDとの診断を受けておらず子どもが乳幼児の頃は【“世間並み”との隔たりにもがき,我が子より自分のことで精一杯】であった。しかし,【自らの診断を揺れながら受け入れ,折り合うことを獲得する】ことで,〈我が子と自分のありのままを尊ぶ〉子育てへと転換した。そして,我が子やASDの人々が世の中に受け入れられるよう【ASDと付き合いながら親子で自分らしく生き,社会に発信しようとする】に至っていた。ASDの母親への子育て支援は,母親のペースや子育ての具体的な見通しを大切にし,自らのユニークさや自分らしい子どもとの関係の結び方に気づけるような関わり方が求められている。
著者
辻 守栄
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20210512137, (Released:2022-01-12)
参考文献数
34

目的:三次救急医療施設における人工呼吸器を装着した意思の疎通が困難な患者へのICU看護師の関わりを明らかにすること。方法:ICU看護師6名に参与観察と半構成的面接を行い質的記述的に分析した。結果:ICU看護師の関わりとして【患者を非人間化しないよう患者が辿る経過や入院前の生活を想像し,人としての尊厳と日常を守りながら命を保証する】,【医療機器を患者の身体の一部と捉えトラブルがないよう管理し,医療処置の最中でも患者のメッセージを掴み取る】,【自らの身体感覚を通して重症患者のわずかな変化を読み取る】,【自分の身に置き換えて考え,患者にとって安心・安楽となるようケアをする】など7つのカテゴリーが抽出された。結論:ICU看護師は反応がない患者を非人間化することを危惧し,患者への関心を寄せ患者の辿る経過や入院前の生活を想像しケアすることが,人として尊重する関わりとなり看護の基盤になると考える。
著者
新田 真弓 安部 陽子 佐々木 美喜 千葉 邦子 髙田 由紀子 辻田 幸子 古谷 麻実子 鶴田 惠子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20210421133, (Released:2022-01-07)
参考文献数
36

目的:病院に勤務する女性看護職の妊娠継続を困難に感じた体験を明らかにする。方法: 平成27年〜29年度日本学術振興科学研究費補助金(基盤研究(C)15K11569)「病院看護職の個人および職場の特性と妊娠・出産に関する階層モデル」第1段階の面接調査で収集したデータの2次分析を行なった。結果:7名の語りから,【妊娠前と同じように働くことを自分に課してしまう】【業務の中で母児ともに危険にさらされる】【切迫早産の不安を抱えながら,子宮収縮抑制剤内服の副作用に耐えて働く】【妊娠による体調変化を相談しても,これまで通りの働き方が求められる】【上司の言動で,働き続けることがつらくなる】のテーマが抽出された。結論:看護職者は周囲に迷惑を考慮し妊娠前と同様に業務を遂行しようとしていた。一方で診療報酬による制限や人材不足により妊婦の負担軽減が難しい状況があることも示唆された。
著者
藤井 千里 赤間 明子 大竹 まり子 鈴木 育子 細谷 たき子 小林 淳子 佐藤 千史 叶谷 由佳
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1_117-1_130, 2011-04-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
42

本研究の目的は,訪問看護ステーションの収益と管理者の経営能力との関連を明らかにすることである。全国のステーション管理者を対象に質問紙調査を行い,有効回答数64ヶ所のデータを集計分析した。 その結果,次のことが明らかとなった。管理者が収支を予測したり,経営戦略の策定,経理・財務を理解している割合や他職種にステーションの過去の実績を示す,利用者獲得に向けた活動の評価について実施している割合が低かった。一方,従事者数や利用者数が中央値より多い,管理者が経営学を学んでいる,経営戦略や経営計画を策定し,採算性の評価をしている,必要な情報を収集・分析し,有効に活用しているステーションは,有意に収益が高かった。 以上より,ステーションの経営の安定化には,計画に基づいた事業の実施とその評価,利用者だけではなく,医師や介護支援専門員等の専門職を顧客と位置づけて営業活動を実施していくことの重要性が示唆された。
著者
山勢 博彰
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.2_95-2_102, 2006-06-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
25

本研究はCNS-FACE (Coping & Needs Scale for Family Assessment in Critical and Emergency care settings)を測定ツールとして用い,重症・救急患者家族のニードとコーピングの推移の特徴を明らかにし,その関係について因果構造をモデル化することを目的に行った。方法は,救命救急センター,ICU・CCUに入院した患者194名の家族211名を対象とし,日毎のニードとコーピングを測定した。その結果,情報,接近,保証のニードと問題志向的コーピングが経過に従って高くなる傾向が見られ,情緒的サポートと情動的コーピングは経過に従って低くなる傾向にあった。また,患者との相互関係上のニード,自己の安定性を維持するニード,情動的コーピング,問題志向的コーピングを潜在変数とする構造方程式モデリングを作成した。