著者
内藤 孝
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.145-150, 2006 (Released:2008-11-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1

症例は80歳,男性.空腹時血糖340 mg/dl, HbA1c 13.2%に及ぶコントロール不良の未治療2型糖尿病で,38°C台の発熱,咳,痰,体幹から四肢に広がる皮疹を主訴に入院したが入院直後に悪寒,チアノーゼ,頻呼吸が出現し不穏状態に陥り乳酸アシドーシス(pH 7.137, 血中乳酸値74 mg/dl)が明らかとなった.診断後速やかに厳格な血糖コントロール,脱水の補正,アルカリ化などの治療を行い代謝異常が順調に改善したにもかかわらず,腎不全増悪,肝機能障害,膵逸脱酵素上昇,心房細動など多臓器障害を引き起こした.乳酸アシドーシスから臓器障害を生じる例はこれまでにも多数報告されているが,これほど多彩な臓器障害の報告は見当たらない.また発症後早い時期から乳酸アシドーシスの経過を追うことができたという意味でも貴重な症例と考えられた.
著者
大谷 敏嘉 笠原 督 内潟 安子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.900-906, 2014-12-30 (Released:2015-01-14)
参考文献数
11

わが国の「リリーインスリン50年賞」は,2003年の第1回表彰開始以来2013年までに66名が受賞している.これら66名のうち東京女子医科大学糖尿病センターの受診患者は16名(24 %)(1型13名,2型2名,その他1名)であった.1型糖尿病患者13名の1983年から2013年のHbA1c平均値は8.4 %,高血圧の合併は10名(77 %),脂質異常症5名(38 %)であった.網膜症については網膜症なしが2名(15 %),過去に9名(69 %)に光凝固が施行されていたが,現在は増殖網膜症を一人も認めなかった.腎症は2期4名(31 %),3期2名(15 %)であったが,腎不全期の患者はいなかった.大血管症は4名(31 %)に脳血管障害,1名(8 %)に冠動脈疾患を認めた.極めて不十分なインスリン治療環境を乗り越え,糖尿病および糖尿病以外の多彩な疾患を有しながら,インスリン治療生活を送ってきたことが判明した.
著者
楠 宜樹 勝野 朋幸 中江 理絵 渡邉 佳穂里 角田 拓 越智 史浩 徳田 八大 赤神 隆文 美内 雅之 宮川 潤一郎 難波 光義
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.715-720, 2015-09-30 (Released:2015-09-30)
参考文献数
23
被引用文献数
2

血糖自己測定(SMBG)に加えて持続血糖モニター(CGM)が血糖変動の評価に使用されている.本試験ではProfessional CGM(Pro-CGM)とPersonal CGM(Per-CGM)によるグルコース値の測定精度を評価する.1型糖尿病患者8名にPro-CGMおよびPer-CGMを同時に装着してセンサーグルコース値(SG)を測定し,SMBGで得られた血糖値(BG)との相関について検討.Pro-CGMおよびPer-CGMで得られたSG値とBG値とはそれぞれ強い正の相関を示した.Pro-CGMのSG値とBG値での平均絶対偏差は12.3±13.8 %,Per-CGMのSGとBGでの平均絶対偏差は13.7±12.6 %と両CGMの精度は同程度であった.日本で使用可能なPro-CGMとPer-CGMともにBGと強い相関を示し,血糖変動の評価に有用である.
著者
金井 好克
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.628-631, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
6
著者
柴田 幸子 伊藤 裕之 山本 梓 行田 佳織 尾本 貴志 篠崎 正浩 西尾 真也 阿部 眞理子 当金 美智子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.885-892, 2014-12-30 (Released:2015-01-14)
参考文献数
31

分割食で栄養指導を行ったのちに持続血糖測定(CGM)を施行した妊娠糖尿病44例(32±4歳,妊娠週数:24±5週)を対象とし,血糖,ケトン尿に影響する因子を検討した.摂取熱量と栄養素はCGM時に行なった食事記録より算出した.指示熱量に対する摂取熱量比は88±17 %であった.摂取熱量中の糖質の比率は46±10 %で,60 %以上の糖質過剰摂取は13例(30 %)にみられた.蛋白質,脂質の摂取熱量比率は17±3 %と37±9 %であった.CGMで高血糖を示した例は14例(32 %)で,高血糖の無かった群に比し,糖質の過剰摂取例が有意に高頻度であった(64 % vs. 13 %).栄養指導後にケトン尿を呈した6例においては,指示に対する摂取熱量比(69±10 %)が,ケトン尿を示さなかった例(91±17 %)に比し有意に低値であった.妊娠糖尿病の栄養指導に際しては,摂取熱量のみならず糖質への配慮が重要と思われた.
著者
岸本 一郎 井垣 誠 小松 素明 隈部 綾子 恒成 徹
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.347-354, 2019-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
16

目的:糖尿病性腎臓病の重症化予防のため地域における課題を抽出し特に介入すべき対象集団を検討する.方法:4年間の豊岡市国民健康保険特定健診データ(初年度n=5,169)に基づいて後方視的縦断コホート研究を行った.血清クレアチニン値の1.2倍化をエンドポイントとして生存時間分析を行い,腎機能低下と関連する因子を解析した.結果:腎機能低下のリスク因子として糖尿病と高血圧が有意に関連しており,それぞれの疾患がある場合は約2倍リスクが上昇した.糖尿病患者のみの解析では,HbA1c(高値)とHDLコレステロール(低値)が腎症増悪と関連していた.特に,治療を受けていないHbA1c 8 %以上の群で腎機能低下の進行を認めた.また,尿蛋白(-)の糖尿病患者を対象とした検討では,低HDLコレステロール血症群が高リスクであった.結論:地域における糖尿病性腎臓病進行の高危険群が明らかとなった.
著者
蘇原 慧美 宇治原 誠 小松 裕美子 寺内 康夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.353-359, 2016-05-30 (Released:2016-06-01)
参考文献数
21

近年生活習慣の欧米化や,2010年の妊娠糖尿病(GDM)の診断基準の変更によりGDMが増加している.当院におけるGDM症例において,インスリン治療の要否に関する因子について検討した.GDM 68例を対象として,診断時年齢,妊娠週数,Body Mass Index(BMI),75 g Oral glucose tolerance test(OGTT),HbA1cに関してインスリン治療を要した群40例と,食事療法のみ行いインスリン治療を要さなかった群28例に分け比較検討した.BMI,HbA1c,75 gOGTTの60分値と120分値,GDM診断基準の診断項目該当数がインスリン治療群で有意に高かった.また診断項目該当数が空腹時血糖値の1点のみである症例では,BMIが高値である症例を除いて食事療法で管理できる可能性が高いと考えられた.
著者
松下 由美 高田 康徳 松田 藍 川村 良一 大沼 裕 大澤 春彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.475-481, 2016-07-30 (Released:2016-07-30)
参考文献数
15

低血糖により自律神経系の活動と関連した不整脈や心血管イベントが増加することが報告されている.今回,インスリン依存状態の1型糖尿病症例において,continuous glucose monitoring(CGM)とホルター心電図を同時に施行し,夜間低血糖時における心電図と自律神経活動の変化を解析し得たので報告する.症例は77歳男性,病歴30年の緩徐進行1型糖尿病患者.入院中のCGMで,睡眠中に約4時間持続する低血糖を認めた.ホルター心電図の心拍変動解析では,同日の睡眠中の非低血糖時に比し,低血糖時に交感神経活性指標(LF/HF)の亢進,副交感神経活性指標(HF)の減少,同時に心室性期外収縮,QTc延長を認めた.CGMとホルター心電図の併用は,夜間低血糖の把握のみならず,低血糖時の自律神経系の変化およびそれと関連した不整脈を検出するのに有用と考えられる.
著者
鈴木 洋
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.433-441, 1974-09-30 (Released:2011-08-10)
参考文献数
32

甲状腺機能尤進症, 甲状腺機能低下症患者および正常対照者に0.59/kgの塩酸アルギニンを30分間にて点滴静注し, 経時的に採血し, インスリンおよび血糖値を測定した. 正常対照者はインスリン, 血糖共に30分に頂値を有し, その時のインスリン増加分 (IRI) は32.5±3.0μU/ml, 血糖増加分 (BS) は16.6±3.7mg/dlであり, 甲状腺機能尤進症患者では, インスリン, 血糖共に低ないし無反応であり, 30分IRIは2.6±1.9μU/mlであり, 30分BSは29±3.1mg/dlであった. 一方, 甲状腺機能低下症患者では, インスリン, 血糖共に高反応を示し, 30分IRIは87.6±19.9μU/ml, 30分BSは42.0±12.9mg/dlの頂値を示した. 血清サイロキシン, T3レジンスポンジ摂取率, 基礎代謝率, 甲状腺1明摂取率の各種甲状腺機能検査所見と15, 30, 45, 60分1RIとの間には有意 (p<0.01) の逆相関々係を認め, 特に15分でその関係は著しく, 以後漸減した. 各種甲状腺機能と15, 30分4BSとの間にも逆相関々係を認めたが, IRIほど著明ではなかった. 以上の成績からアルギニンによるインスリン分泌は甲状腺機能を良く反映していると思われたが, その機序に関しては今後更に詳細な検討が必要と思われる.
著者
平原 佐斗司
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.350-352, 2017-05-30 (Released:2017-05-30)
参考文献数
5
著者
尾崎 史郎 門田 悟 中川 昌一
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.10, pp.923-929, 1980-10-30 (Released:2011-08-10)
参考文献数
25

近年血中に存在し, インスリン抗体により抑制されないインスリン様物質 (NSILA-s) が血清中より精製され, その測定にはbioassayのかわりにradioreceptor assay (RRA) が開発されている.今回我々はNSILA-sの類似物質であるsomatomedin Cがヒト胎盤細胞膜のインスリンレセプターと結合し, インスリンと拮抗する性質を有することより, ヒト胎盤細胞膜より可溶化したインスリンレセプターを使用し, レセプターアッセイを行い, NSILA-sの測定法を開発した.ヒト血漿より粗精製したNSILA-sはラット副睾丸脂肪細胞を使用したbioassayではインスリン活性値は6.3~8.6mU/mg平均7.1mU/mgであり, 最終的に3550倍に精製された製品であった.又インスリンレセプターアッセイをもちいた測定では8.8mU/mgの活性を有し, 生物学的活性値とほぼ一致した.
著者
大塚 吉則 藪中 宗之 野呂 浩史 渡部 一郎 阿岸 祐幸
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.11, pp.827-832, 1994-11-30 (Released:2011-08-04)
参考文献数
16
被引用文献数
1

環境温度のアルドースレダクターゼ (以下ARと略す) 活性値に与える影響を明らかにする目的で, 水温を変化させて健常人を浸漬し, 末梢血中の赤血球を用いて検討した. AR活性の基礎値は健常人で1.11±0.12 (mean±SEM, U/gHb, n=34), 糖尿病患者で2.07±0.14 (n=45) であった (p<0.0001). またAR活性はHbA1と有意の相関があったが (P<0.01), 空腹時血糖値とは相関しなかった.次に水温の影響を検討したところ, 42℃10分間の水浸でAR活性は37.6%増加し (p<0.01), 39℃, 25℃ではそれぞれ52.2%(p<0.01), 47.0%(p<0.05) 減少した.また, 赤血球ソルビトール濃度は42℃において36.0%の増加を示した (p<0.05). これらのことから, 環境温度により糖尿病性合併症は何らかの影響を受ける可能性のあることが示唆された.
著者
蘆立 恵子 川村 光信 石井 昌俊 長谷 和正 東田 寿子 安藤 矩子 宮崎 滋
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.449-454, 2000-06-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
11

症例は38歳男性. 30歳時に2型糖尿病と診断され一時当院通院するも血糖コントロールは不良であった. 1994年9月頃より口腔内の白苔, 味覚異常, 嚥下困難が出現し, 再度当院受診. 内視鏡検査で口腔・食道力ンジダ症と診断された. 抗真菌薬での治療に難治であり1998年3月血糖コントロールおよびカンジダ症の治療目的で入院となった. インスリン療法を開始し良好な血糖コントロールが得られるとともにカンジダ症は急速に治癒した. しかし退院後, 血糖の悪化に伴いカンジダ症が再発した.食道力ンジダ症は免疫低下状態でしばしばみられ, 糖尿病でも血糖コントロール不良例や自律神経障害の強い例での報告が散見される. 本例は明らかな免疫不全がないにもかかわらず再発を繰り返し, 抗真菌薬のみでの治療には難治であった. しかし, 血糖コントロールの改善により速やかに治癒した. このことから, 感染症の予防や治療には厳重な血糖コントロールが極めて重要であると考えられた.
著者
西村 一弘
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.724-726, 2011 (Released:2011-10-11)
参考文献数
5
被引用文献数
1

日本栄養士会災害対策本部は,日本プライマリーケア連合学会災害支援チーム(Primary Care All Team:以下PCATと略す)と協働して,平成23年3月11日に発生した「東日本大震災」における,被災地の栄養問題の把握とその解決に対し積極的に取り組んできた.その中で糖尿病患者に関連のある栄養問題を中心に検討すると,避難所の食事提供の不備や支援物資の配送における問題,ライフラインの崩壊が及ぼす食事提供の問題,特に今回は長期化する避難生活の中で発生した偏食による糖尿病をはじめとする慢性疾患(高血圧,脂質異常症など)や褥瘡の悪化,慢性的ストレスによる食欲低下の問題,炊き出しの調整の不備による食事提供の問題などが確認され,一つ一つの問題点に対して支援活動を展開してきた.その結果,大規模災害時には栄養士による介入として,災害直後から長期に渡る糖尿病患者をはじめとする慢性疾患患者への支援活動の必要性が示唆されたので報告する.
著者
松岡 幸代 佐野 喜子 津崎 こころ 同道 正行 岡崎 研太郎 佐藤 哲子 鮒子田 睦子 阿部 圭子 東 あかね 田嶋 佐和子 大石 まり子 坂根 直樹
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.327-331, 2007 (Released:2009-05-20)
参考文献数
15

耐糖能異常を伴う肥満者41名を同じ指示エネルギーの減量食群と,1日1食をフォーミュラ食(マイクロダイエット®; MD)に代替したMD群の2群に無作為に割り付けた.MD群では,減量食群に比べて早期(4週間)に減量効果がみられた(-1.3 kg vs. -3.0 kg; p=0.014). 空腹時血糖とHbA1c値は,MD群では介入12週間後に有意に低下したが,減量食群では有意な変化を認めなかった.収縮期血圧は両群で介入後に有意に低下したが,拡張期血圧と中性脂肪値はMD群でのみ有意に低下した.ビタミンB1, B2, B6, E, 鉄,カルシウムは,MD群で減量食群よりも有意に多く,減量時のビタミン,ミネラルの不足を回避できたが,減量食群では,蛋白質,鉄,B1, B2が有意に低下した.以上の成績は,フォーミュラ食を併用した減量プログラムが安全にかつ早期に減量効果が得られることを示している.