著者
佐藤 祐造 曽根 博仁 小林 正 河盛 隆造 渥美 義仁 押田 芳治 田中 史朗 鈴木 進 牧田 茂 大澤 功 田村 好史 渡邉 智之 糖尿病運動療法・運動処方確立のための学術調査研究委員会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.850-859, 2015-11-30 (Released:2015-11-30)
参考文献数
21

わが国における糖尿病運動療法の現状を把握することを目的に,糖尿病運動療法の実施状況に関して,患者側に質問紙調査を行った.全国各地の専門医に通院中の糖尿病外来患者5,100名に質問紙調査を行い,同意が得られた4,176名(81.9 %)を解析対象とした.診察時に運動指導を受けている患者は食事療法とほぼ同率であったが,運動指導を「受けたことがない」が30 %存在し,食事療法の10 %より高率であった.医師から運動指導を受けている患者が52 %と,コメディカル(理学療法士,健康運動指導士等)による指導は少なかった.一方,食事療法では,64 %の患者が管理栄養士に指導を受けていた.運動療法を実施している患者は約半数であった.医師側(第1報),患者側いずれの調査でも,糖尿病運動療法の指導体制は不十分であり,食事療法と比較して,「較差」が認められた.日本糖尿病学会編集による「糖尿病運動療法ガイドライン」作成を要望する.
著者
鈴木 進 岡 芳知 門脇 孝 金塚 東 葛谷 健 小林 正 三家 登喜夫 清野 裕 南條 輝志男
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.481-487, 2004-06-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10
被引用文献数
7

糖尿病のサブタイプとして, ミトコンドリアDNA (mtDNA) 3243A-G変異による糖尿病が明らかにされた. 我が国における3243A-G変異糖尿病の臨床像の解明を目的に, 遺伝子異常による糖尿病調歪研究委員会はアンケート法で実態調査を実施した. 3243A-G変異糖尿病患者115例の解析から, 臨床像として, 低身長, やせの体型, 糖尿病診断時年齢は比較的若年であり, 糖尿病の母系遺伝を59.1%に認めた. 診断後平均3年でインスリン治療へ移行するが, GAD抗体は全例陰性であった. 感音性難聴 (92.2%), 心筋症 (30.4%), 心刺激伝導障害 (27.8%), MELAS (14.8%), pigment retinal dystrophy (13.4%) など, ミトコンドリア関連合併症を高頻度に認めた. 末梢神経障害を49.6%に認め, 有痛性末梢神経障害は18.3%と比較的高かった. 26.1%に多彩な自律神経障害を認めた. 網膜症を56.596に, 腎症を49.696に認めた. 罹病期間 (平均12.9年) の割に慢性合併症に進行例が多かった. 本研究により, 日本人3243A-G変異糖尿病患者の特徴的な臨床像が明らかになった.
著者
山本 壽一 石井 均 古家 美幸 岡崎 研太郎 辻井 悟
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.293-299, 2000-04-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10
被引用文献数
1

糖尿病教育後の食事療法に対する妨害要因と逸脱・再発の推移, およびHbA1cの経過について検討した. 2週間の教育入院後の128名に対して面接調査を実施した. 食事療法が守れなかった (逸脱), 治療前状態に戻った (再発) と定義し, Marlattの再発モデルを利用して高危険度状況 (HRS) を分析した.1) 危険状況は個人内因子36.0%, 環境因子37.9%, 対人関係因子24.796でHRSは環境因子であった, 2) 冠婚葬祭時は普段より有意に逸脱率が高かった (83.6%vs54.7%).3) 退院2カ月目に逸脱が3カ月目に再発が有意な増加をした, 4) HbA1Cは教育前9.296, 退院後3カ月目に最低値6.496, その後微増した. 退院後2カ月目のHbA1Cが改善する時期にHRSへの対処が出来ず, 翌月に有意な再発の増力口が見られることから, 退院後1, 2カ月目にHRSへの対処法の訓練が必要であると示唆された.
著者
小沼 富男
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.25, 2005 (Released:2006-03-24)

インスリン療法中の糖尿病患者で、明らかな理由もなく血糖レベルが大きく変動し、血糖値が極端に不安定なパターンを示すものは、通常「不安定型(Brittle)」糖尿病患者といわれる。しばしば日常生活に支障をきたすような著しい血糖変動、すなわちケトアシドーシスや低血糖を経験する。血糖変動が全く不規則であり、食事や運動の変化に対して予想不可能な反応を示す。原因は多種多様である。1)インスリンの薬物動態の異常として、インスリン抗体、インスリン受容体障害、腎不全、肝硬変、皮下投与インスリンに対する抵抗性など、2)低血糖に対する調節反応の異常として、Somogyi効果、暁現象、無自覚低血糖など、3)消化管障害として、糖尿病性胃無力症、吸収不良症候群など、4)内分泌疾患として、先端巨大症、クッシング症候群、褐色細胞種、甲状腺機能亢進または低下症、下垂体不全、成長ホルモン単独欠損症、副腎不全など、5)慢性の感染症または炎症、6)心理障害として、詐病、偽装的インスリン注射、摂食障害、認識障害、うつ病、アルコールまたは薬物乱用など、のそれぞれが原因となる。 管理としては、まず血糖不安定性が不適切なインスリン治療法によるものか、また治療法が適切でも患者が指示どおりにしていないためか、について明らかにする必要がある。また食事の誤りの有無についても注意深く確認する。明らかな理由が見出せない場合には入院の上で、夜間低血糖や暁現象がないかを確かめる。入院中は食事、運動、そしてインスリン注射に関して再教育をし、さらに入院中のインスリン注射は看護婦が行う。入院しても血糖が安定しない場合には、前述したそれぞれの原因の残りについて検索を行う。 原因が明らかになれば、それを改善する手段を取り、それに応じて食事、運動、インスリン療法に変更を加える。強化インスリン療法を行うが、速効型または超速効型インスリン主体の頻回注射療法が中心となる。さらにCSIIが必要な場合もある。なお精神的に問題のある患者には行動療法や心理療法も有用である。
著者
関 洋介 笠間 和典 中神 朋子 岩本 安彦 清水 英治 吉川 絵梨 中里 哲也 園田 和子 根岸 由香 梅澤 昭子 黒川 良望
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.282-287, 2011 (Released:2011-05-11)
参考文献数
18

症例は41歳,男性.体重132 kg, BMI 52.2 kg/m2. 2型糖尿病,脂質異常症,高血圧,高尿酸血症,睡眠時無呼吸症候群を有し,肥満に対し数回の入院を含め18年にわたる内科的治療を行うも奏効しなかった.糖尿病細小血管症の進行,肥満随伴疾患の増悪を認めたため外科的治療目的で当院初診し,腹腔鏡下スリーブバイパス術を施行された.術後より経口血糖降下剤を中止したが,HbA1cは低下,5%台(以下HbA1cはJDS値で表記(糖尿病53: 450, 2010))で経過.術後6ヶ月目に施行した75 g経口ブドウ糖負荷試験では正常型を示した.術前認められた尿蛋白は術後6ヶ月目以降陰性化し,術後1年目には単純網膜症のグレードが低下,肥満随伴疾患も改善,術後14ヶ月目の体重は63.5 kg, BMI 25.8 kg/m2である.内科治療抵抗性高度肥満2型糖尿病において外科治療による減量や代謝異常改善の短期的効果は極めて良好であった.今後,外科治療の長期的効果や安全性を注意深く観察する予定である.
著者
鈴木 厚 傍島 裕司 早川 哲夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.183-187, 2005 (Released:2008-04-11)
参考文献数
15

症例は59歳, 男性. 多発性膵管内乳頭腫瘍で膵全摘術を施行され, 術後血糖管理の目的で当院に転院した. 膵内分泌機能は完全に欠落し, 超速効型インスリン毎食前6単位のBolus法で高血糖が持続した. 就寝前に中間型インスリン (NPHヒトインスリン) を6単位追加し, Bolus-Basalの4回法に変更した後, 深夜から早朝にかけて低血糖を頻回に起こした. NPHインスリンを2単位まで減量したところ, 夜間の低血糖は消失したが, 今度は夕食前から急速に血糖が上昇した. 基礎インスリン分泌補充をNPHインスリンから持効型ヒトインスリンアナログのグラルギンに変更すると, 就寝前2単位投与で血糖値は安定した. 膵全摘後の糖尿病は, 深夜のインスリン必要量が極端に少なく, 従来のインスリン治療では生理的な基礎分泌の補充が困難であったが, 持効型インスリンにより安定した血糖を保つことが可能になったことで, 低栄養や合併症抑制による予後の改善が期待された.
著者
牧 千里 澤田 瑞穂 丹羽 有紗 池田 賢司 川村 光信 宮崎 滋
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.31-36, 2013 (Released:2013-02-07)
参考文献数
13

症例は56歳女性.15年前に2型糖尿病と診断され,内服治療を行うも血糖コントロールは不良であった.1997年~2009年まで6回の入院歴があるが,この間インスリン分泌は保たれ,抗GAD抗体は常に陰性であった.2010年1月第7回入院時,抗GAD抗体4.6 U/mlと低値陽性となり,インスリン分泌を保持するため持効型インスリンを少量導入した.10ヶ月後の第8回入院時,HbA1c 9.7 %,尿中CPR 18.5 μg/day,血中CPR食前0.7 ng/ml,食後2時間2.1 ng/mlとインスリン分泌は低下し,グルカゴン刺激試験でのCPR Δ6分値1.0 ng/mlと低値,抗GAD抗体は1.2 U/mlと正常範囲に低下していた.本症例では抗体価は低値で,陽性の期間も短期間であったが,抗GAD抗体の存在から内因性インスリン分泌低下に自己免疫機序が関与している可能性を考えた.
著者
手納 信一 馬場園 哲也 勝盛 弘三 岩崎 直子 川島 員 岩本 安彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.387-391, 2000-05-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
25
被引用文献数
2

色素性痒疹は著しい瘋痒を伴う紅色丘疹が発作性に多発し, 後に粗大網目状の色素沈着を残す皮膚疾患である. その発症にケトーシスの関与も示唆され, 糖尿病領域でも注目されている. われわれは, 過去6年間に糖尿病に合併した色素性痒疹を3例経験したので, 文献的考察を含め報告する. 症例は20歳, 15歳および41歳の男性, いずれも糖尿病の発症時にケトーシスと癌痒を伴う紅色丘疹が出現し, インスリン治療開始後, 網状の色素沈着を残し軽快した. 糖尿病と色素痒疹の合併例の報告は本邦で11例と少なく, 偶然合併した可能性も否定できない. しかし, 両疾患においてHLAの交差が存在するので自己免疫機能が発症に関与している可能性も考えられる, 色素性痒疹の発症機序や, ケトーシスとの関連の解明のため, 今後さらなる症例の蓄積が必要である.
著者
林 令子 梶本 忠史 澤村 眞美 平尾 利恵子 大屋 健 桑原 遥 岸本 有紀 木村 佳代 川上 圭子 永吉 直美 植村 由加里 中井 敦子 野田 侑希 田井中 幸子 陰山 麻美子 大幸 聡子 佐川 秋雄 香川 邦彦 篠原 圭子 幸原 晴彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.874-880, 2015-12-30 (Released:2015-12-30)
参考文献数
13

当院では2005年より糖尿病患者の罹病期間,生活歴,血液検査結果,合併症,治療法等を1枚に集約した糖尿病サマリーシートの開発を行ってきた.1)基礎データ表の作成,2)電子カルテへのテンプレート機能を用いた入力,3)コメディカルとの作業分担,4)糖尿病連携手帳1形式出力の4つのステップを経て実用運用可能となった.医師事務補助作業者を含むコメディカルとの作業分担や自動入力プログラムを用いることで糖尿病サマリーシート入力の高速化が実現し,外来診察時に約1分で記入することが可能となった.外来診察時間は短縮し,より多くの患者の評価が可能となると同時に糖尿病診療の地域連携の発展に貢献するものと思われる.
著者
宇都 祐子 宇都 健太 手納 信一 磯野 一雄 大森 安恵
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.689-693, 2002-09-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
7
被引用文献数
1

糖尿病性ケトアシドーシス (DKA) から心停止をきたし, 救命し得たいわゆる劇症1型糖尿病の症例を経験した. 36歳の女性, 叔父が2型糖尿病. 生来健康で健診でも異常はなかった. 2000年7月16日口渇, 全身倦怠感が出現. 18日夕方近医で上気道炎と診断されたが, 19日午前5時頃呼吸困難が出現. 救急車で当院初診. 意識障害と心室頻拍を認め, その後心停止に至るも心肺蘇生を行い救命. 血糖2, 06gmgdl, 総ケトン体11, 070μmoll, pH6.8, HCO3 3.8mmoll, K7.0mmEqlからDKAと診断. HbA1c 6.6%, 抗GAD抗体およびICAは陰性. グルカゴン負荷試験, 尿中CPRからインスリン分泌は枯渇しており, 総インスリン量42U日でコントロールし得た劇症1型糖尿病と考えられた.感冒様症状で来院した患者でも, 劇症1型糖尿病に対する注意が必要であると考えられた.
著者
武田 浩
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-8, 1992-01-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
20

糖尿病患者では, 血管内皮細胞 (以下EC) が高血糖により直接影響を受けるばかりでなく, 細胞外マトリックス (以下ECM) の糖化により生育環境が損なわれ, 血管障害発症に関与することも考えられる. 本研究ではin vitroにおけるECの生育環境を, 短期間に高濃度D-グルコース (以下HG) との接触と長期間におけるType IVコラーゲン (以下C) の糖化による影響とに分け, それぞれの機能変化の面から検討した. その結果HG培養のECにおいて有意に細胞増殖障害とPGI2産生の抑制を認め, 糖化Cの添加によりさらに強い抑制を認めた. アミノグアニジン (以下AG) 添加による架橋C抑制に伴い, ECの細胞増殖障害抑制を認めた. 以上の成績から長期間持続するHG環境により, ECMのCに架橋がおこりEC形質変化をもたらすことが示唆された。長期間持続するHG環境によりECM, 特にCの糖化に伴いECの抗血栓性が失われ, 糖尿病特有の細小血管障害をもたらす引き金になると考えられ, 糖尿病合併症の発症, 治療を考える上で興味深い知見を得た.
著者
脇 昌子 洪 秀樹 南部 征喜
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.91-96, 1989-02-28 (Released:2011-08-10)
参考文献数
11

インスリン非依存性糖尿病 (NIDDM) 79例の早朝空腹時血清3, 5, 3'-triiodothyronine値 (T3) を, 糖質200~300g/日の入院食摂取下に測定, 諸因子との関係を検討した. さらに65例では, T3と食事療法の効果との関係をretrospectiveに検討した. その結果T3は, 罹病歴 (年), 空腹時血糖, HbA1cとは有意な負の相関を, 肥満度 (BMI), NEFA, T4, 1日尿Cペプチド量とは有意な正の相関を認めた. 一方, 食事療法のみで良好な血糖コントロールを得た29例 (D群) のうち26例 (90%) にT3 110ng/dl以上であり, またコントロールに薬物の併用を要した36例 (D+M群) の内23例 (64%) はT3 110ng/dl未満で, 両群の食事療法開始前のT3分布に有意な差を認めた (χ2=17.0, p<0.001).すなわち, T3はNIDDMの病態を包括的に反映しており, その測定により食事療法の有効性と限界の予測が可能と考えられた.
著者
亀谷 富夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.683-686, 2001-08-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

耐糖能異常, 肥満, 高トリグリセリド血症は独立した高血圧の危険因子かどうかを検討した. 1990年より1999年まで当院検診センターを受診し初診時に高血圧を認めず経過観察できた6305名を対象とし高血圧発症頻度を検討した. 肥満, 耐糖能異常, 高TG血症の高血圧発症ハザード比はそれぞれ1.414 (9596信頼区間1. 248-1.600), 1.570 (1.131-2.179), 1.245 (1.085-1.430) であった. 年齢空腹時血糖値BMI値はそれぞれ補正を行っても高血圧発症ハザード比はそれぞれ1.044 (1.038-1.050), 1.005 (1.001-1.008), 1.059 (1.038-1.080) と有意であった. しかし血清TG値は有意ではなかった. 年齢, 耐糖能異常, 肥満は独立した高血圧の危険因子と考えられたが, 高トリグリセリド血症は独立した高血圧の危険因子ではなく肥満による二次的な因子と考えられた.
著者
奥平 真紀 内潟 安子 岡田 泰助 岩本 安彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.781-785, 2003-10-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
9
被引用文献数
6

2型糖尿病患者の合併症予後に検診と治療中断が及ぼす影響を検討した.対象は1998年11月から1999年1月までに東京女子医科大学糖尿病センターを初診した2型糖尿病患者133名である.検診で糖尿病を発見された『検診発見群』76名は『検診以外発見群』57名と比べ, 治療中断の頻度及び合併症重症度に差異はみられなかった.1年以上の治療中断歴をもつ『中断あり群』48名は『中断なし群』85名と比べ, 有意に合併症は重症化しており (p<0.0005), 更に中断年数が長くなるほど合併症は重症化していた (p<0.0001).一方, 検診を受けていても治療中断をすると, 合併症は重症化していた (p<0.01).糖尿病合併症の発症には検診で発見されたかどうかは関係がなく, 治療中断が大きな影響を与えていることが明らかになった
著者
岡田 由紀子 押谷 創 杉山 豊 三村 哲史 浅野 靖之 辻田 誠 渡部 啓子 成瀬 友彦 佐々木 洋光 渡邊 有三
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.249-253, 2009-03-30 (Released:2010-03-01)
参考文献数
12
被引用文献数
4

症例は58歳,女性.47歳より糖尿病を指摘され,52歳からインスリン(ペンフィル30R®)を使用していた.53歳で血液透析を導入し,57歳で右下肢切断術を行った際,血糖コントロール不良でインスリン抗体68.8%, HbA1c 13.3%であった.インスリンリスプロに変更し,血糖コントロールは改善した.今回,急性腹症で来院し穿孔性腹膜炎の診断で緊急入院手術となったが,術後遷延性低血糖と高血糖を呈した.インスリン製剤の変更,ステロイドの併用,二重膜濾過(DFPP), pioglitazoneの併用などを試みたが血糖コントロールは改善せず.インスリンとは異なる機序の血糖降下作用をもつIGF-1製剤メカセルミン(ソマゾン®)を使用し,コントロールを得た症例を経験したので報告する.
著者
植田 由香 若林 茂 松岡 瑛
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.9, pp.715-723, 1993-09-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
14
被引用文献数
2

難消化性デキストリン (PF-C) の耐糖能改善効果を健常人において評価した.(1) PF-C (3, 6, 30g) 添加・非添加条件下, ショ糖30gを含む炭酸水100mlを成人男性6名に投与し, 耐糖能および負荷後2時間尿のC-ペプチド (U-CPR) 値を測定した. 負荷後30分の血糖値の平均変化率は前値を100%とすると, ショ糖単独154%に対してPF-C3および6g摂取時はいずれも141%と有意に低値であった (30g摂取時146%). U-CPR値はPF-C 6g摂取時に最も低下し, ショ糖単独 (4.62±0.72μg/2hr) の86%であった. 以上から, PF-Cの最有効添加量はショ糖30gに対し6gと推定した (2) ショ糖30gを含む水羊羮 (100g) を成人35名に投与したところ, PF-C6g摂取時のU-CPR値は非摂取時 (5.71±0.78μg/2hr) の78%に低下した. さらに, 試験前臨床検査において上半身肥満男性6例のBG, T-Cho, TG, γ-GTPは正常体型男性 (25例) に比べ有意に高値であり, PF-C 6g摂取によるU-CPRの低下効果はより顕著に認められた (非摂取時の61%).
著者
若林 貞男 麻生 好正 中野 智紀 山本 留理子 竹林 晃三 犬飼 敏彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.19-26, 2006 (Released:2008-07-24)
参考文献数
26

【目的】起立性低血圧(orthostatic hypotension; OH)を有する2型糖尿病患者において,24時間心拍変動パワースペクトル解析(PSA)を施行し,心自律神経機能との関連について検討した.【対象と方法】対象は91名の2型糖尿病患者とし,起立性低血圧の診断基準は,起立時に収縮期血圧が30mmHg以上の低下,あるいは20mmHg以上の低下,かつふらつき・めまいなどを有した場合とした.24時間ホルター心電図より得られた連続したR-R間隔を対象にPSAが施行された.高速フーリエ変換法により,low frequency(LF: 交感・副交感神経両方の活性),high frequency(HF: 副交感神経活性)が算出され,さらにLF/HF比を交感神経・副交感神経バランスの指標とした.【結果】OH群が14名,正常群(No OH群)が77名であった.OH群では,No OH群に比し,クレアチニン・クリアランス,正中神経伝導速度が有意に低下していた.LF/HF比は,24時間のいずれの時間帯においても,OH群はNo OH群に比し,有意に低下していた.一方,HF値については,いずれの時間帯において,両群間に有意な差を認めなかった.起立時の収縮期血圧低下度を目的変数とした多変量解析により,24時間平均LF/HF比がその独立寄与因子として明らかとなった.【結論】起立性低血圧患者では,心自律神経機能の中でも特に交感神経機能の低下が示唆された.また,糖尿病性自律神経障害の評価法として,24時間にわたるLF/HFの解析が有用であると考えられた.
著者
岩倉 敏夫 佐々木 翔 藤原 雄太 松岡 直樹 石原 隆
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.857-865, 2012 (Released:2012-12-12)
参考文献数
14
被引用文献数
1

2008年から3年間に糖尿病治療薬による重症低血糖で当院に救急搬送された2型糖尿病患者135人の解析を行った.74.0±10.0歳と高齢者が多く,血糖値は33.7±10.3 mg/dlで来院時の意識障害の重症度に逆相関した.6人に意識障害の後遺症を認め,後遺症は昏睡時間が強く関与し約8~12時間が境界線であった.原因薬剤はスルホニル尿素薬(SU薬)89人・インスリン38人・SU薬とDPP4阻害薬併用4人・SU薬とインスリン併用3人・グリニド1人で,SU薬が低血糖の遷延する頻度が高かった.SU薬群の特徴は高齢で低血糖の知識がなくHbA1c 6.07±0.82 %と低値例が多く,SU薬の不適切な使用と教育指導に問題があることが示唆された.インクレチンとSU薬の適正使用の注意勧告後も依然多くの重症低血糖患者を認めており,高齢者に対する糖尿病治療薬の安全な使用法について明確にし,啓発する必要があると考える.