著者
木村 亜矢子 堀 匠 佐藤 啓子 佐藤 智美 先崎 章
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.421-427, 2017-12-31 (Released:2019-01-02)
参考文献数
4

記憶障害と発動性低下のため日常生活の遂行が難しい患者 1 例に対し, SNS (social networking service) を用いた支援を行った。症例は 40 代, 男性の運転手で前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症した。身体, 言語機能はほぼ問題ないが, 重度記憶障害, 発動性の低下を中心とした高次脳機能障害を認めた。入院当初メモリーノートや, アラーム機能による行動指示を試みたが, 活用は困難であった。 本人が使い慣れていた SNS (LINE のトーク機能) を使用し, 多職種チームが連携して支援を行った結果, 病棟生活では標準意欲評価法 (CAS) による評価が改善し, 退院後もLINE を用いて屋外での単独行動が安全に可能となった。家族にとっても行動を遠隔に確認し見守ることができ, 退院後の安心や省力化につながった。SNS (LINE) による行動指示や記憶を補完する支援は, 患者が自立した生活を送るために有効であった。
著者
松元 瑞枝 市川 勝
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.330-338, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
参考文献数
19

失語症のある人 (Persons With Aphasia, 以下 PWA) がインフォームド・コンセント (Informed consent, 以下 IC) について抱いている思いを明らかにし, 必要と考えられる支援について検討した。在宅生活を送っているPWA 21 名に半構造化面接を行って逐語録を作成し, 質的に分析した。その結果, 言語障害や退院などに関する不安, 変化する言語症状についての自覚, リハビリテーション (以下リハ) 内容について理解困難, IC の説明不十分又は覚えていない, コミュニケーション支援に関するニーズ, 不 十分な同意の確認などの 12 のカテゴリーが生成された。従って, 医療関係者は PWA への IC の説明や同意の確認の際には, コミュニケーション支援を提供する必要があると考えられた。例えばリハ開始の説明の際写真や絵を用いるなどが考えられた。そして ICは必要に応じて繰り返すことが求められており, また, 言語聴覚士は適切なコミュニケーション支援について医療従事者に伝える役割を担う必要があると考えられた。
著者
蜂須賀 研二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.184-192, 2014-06-30 (Released:2015-07-02)
参考文献数
40
被引用文献数
1

Marin はアパシーを意識障害,認知障害,感情障害によらない動機付けの減弱と定義し,Levy & Dubois は1)情動感情処理障害によるもの,2)認知処理障害によるもの,3)自己賦活障害によるものの3 タイプに分類した。アパシーは臨床症状にもとづき診断され,やる気スコア,Neuropsychiatric Inventory,必要に応じて標準意欲評価法を用いて評価されるが,MRI や脳受容体シンチグラフィーで客観的に責任病巣を確認する必要がある。薬物療法としてドパミン系薬剤,ノルアドレナリン系薬剤,アセチルコリン系薬剤が用いられる。非薬物療法としては,促し,チェックリスト,面接と外的代償,行動の構造化,音楽療法等の報告はあるが十分なエビデンスはない。今後,原因疾患,責任病巣とアパシーのタイプ,重症度とその経過に配慮して,訓練方法の研究が必要である。
著者
出田 和泉 種村 純 岸本 寿男
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.404-415, 2008-12-31 (Released:2010-01-05)
参考文献数
11

アマチュア尺八奏者でピアノの訓練経験もあったKM は,五線譜および尺八譜の読み書きが可能な二楽譜使用者であった。くも膜下出血後尺八譜の読み書き障害は軽度だったが,五線譜の読み書き能力は顕著に障害され,既知のメロディーを聴いて書譜する課題や音読課題では,五線譜と尺八譜の成績が乖離した。楽曲を正確に記譜する五線譜に対し,尺八譜は楽器の操作法を仮名文字で表記する奏法譜である。西洋音楽と異なり邦楽には,演奏する前にリズムを付けて音名を唱える「唱譜」という口伝の習得様式が存在するため,楽譜は唱譜によって暗記した演奏法を記憶から再生するための補助手段として用いられる。既知のメロディーの書譜,音読課題で尺八譜が五線譜よりも成績が良かったのは,唱譜で覚えた記憶から正答を引きだした可能性が考えられた。このような尺八譜の特異性が楽譜の読み書き課題において成績の乖離に関与したと考えられた。
著者
小浜 尚也 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.411-420, 2020-12-31 (Released:2022-01-04)
参考文献数
23

左半球損傷者 (LHD) 10 名, 右半球損傷者 (RHD) 10 名, 健常者 10 名を対象に, 左右半球損傷者の情動喚起効果の違いによる表情の特徴を検討した。情動喚起効果が低い刺激として静止画, 高い刺激として情動的話題による会話を行った。静止画は International Affective Picture Systems (IAPS) を使用し, 各刺激に対する好悪判断を行った。表情評価は顔面解剖学に基づいた客観的評価システムである Facial Action Coding System (FACS) を用いた。IAPS 条件において 3 群間で好悪判断の分布に有意差はなかった。表情表出の総数は, IAPS 条件では RHD 群は LHD 群および健常群に比べ少ないが, 会話条件は 3 群間で有意な差はなかった。RHD の表情表出は刺激の情動喚起効果に影響を受けることが考えられ, FACS によって損傷半球別の表情特徴を初めて明らかにした。
著者
成田 渉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.171-180, 2020-06-30 (Released:2021-07-01)
参考文献数
28

認知症性疾患として最多を占めるアルツハイマー病には記憶障害を主症状としない一群が存在する。 このうち, logopenic progressive aphasia (LPA) は左半球の機能低下を反映し, 喚語困難に加え, 句や文の復唱障害として表現される言語性短期記憶の障害を特徴とする。Posterior cortical atrophy (PCA) は後頭葉から頭頂葉および後頭葉から側頭葉の機能低下によって視空間認知障害, 対象認知の障害などを生じる。  片側の障害が多い脳血管障害と比較して, 左右差があっても基本的に両側性障害である神経変性疾患では両側の大脳半球損傷でみられる症状を認めやすい。視空間認知機能の側性化は言語機能に比べて弱く, 同時失認のように両側性の障害で顕在化する症状は, 神経変性疾患では比較的生じやすくなる。脳血管障害では検討の場面が限られていた認知機能の側性化について, 神経変性疾患の症状は新たな検討の機会を与えるものになると考えられる。
著者
太田 信子 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.339-346, 2013-09-30 (Released:2014-10-02)
参考文献数
10
被引用文献数
3

The Cambridge Prospective Memory Test (CAMPROMPT)原版を原著者らの許可を得て翻訳して,日本版を作成し,健常者242 名および脳損傷者57 名に実施した。その結果から,検査法の信頼性を検査者間信頼性,平行検査信頼性,内的整合性から検討した。検査者間信頼性について,1 名の評価者と4 名の採点者との一致率 (98.2%) および相関 (1 名はSpearmanʼs ρ=0.986,3 名はそれぞれSpearmanʼs ρ=1.000) から,採点方法の信頼性が高いことが示された。平行検査信頼性について,バージョン間の相関(Spearmanʼs ρ=0.537)から,成績はバージョンの影響を受けないことが示された。内的整合性について Cronbachʼs α は脳損傷群 0.849 と健常群 0.817 から,対象によらず一貫して展望記憶機能を評価することが示された。4 つの年齢別に標準値の作成により,標準化を行った。信頼性の検討を通じて,CAMPROMPT 日本版は,十分な信頼性を有する評価法であることが確認された。
著者
板倉 徹 西林 宏起 中尾 直之
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.156-162, 2008-06-30 (Released:2009-07-01)
参考文献数
6

言語関連野と頭頂葉連合野に病変を患者19 例に対して,術中覚醒下に大脳皮質を刺激してその反応を観察した。男性15 例女性4 例で年齢は18 歳から72 歳。腫瘍はグリオーマが14 例,転移性脳腫瘍が4 例,その他1 例であった。覚醒手術はプロポフォール麻酔下に皮膚切開と開頭を行い,その後覚醒下に皮質刺激を行った。言語関連野の術中刺激による反応は症例によるばらつきが著しかった。ただBroca 野やWernicke 野の刺激では言語停止が多くみられ,それぞれの近傍では言語の保続が観察されることが多かった。頭頂葉の術中刺激では右側では半側空間無視などは観察されなかった。左頭頂葉の刺激では肢節運動失行,手指失認,構成障害,口腔顔面失行や観念運動失行が皮質刺激で一過性に観察された。
著者
安達 侑夏 笠井 明美 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.255-259, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
8

症例は 80 歳, 女性, 右利き。左前頭葉の脳内出血発症 60 日で当施設転入居。四肢に粗大な運動麻痺なし。自発話は乏しく, 話し掛けられると単語~短文レベルで発話がみられることがある程度。問いかけへの肯定 / 否定の意思表示は曖昧だが, 表情や行動, 態度から非言語的な状況理解は基本的に悪くないと思われた。施設内での生活場面で, 窓の鍵やドアが見えると開けようとするといった使用行動がみられた。さらに, 複数の職員がテーブルを囲んでミーティングをしていると, 近づいてきて職員の隣の椅子に座り, ミーティングの参加者のようにうなずきながら話を聞いたり, 机上の資料を手に取ったりする, など, 施設に勤務する職員であるかのように行動する場面が散発した。これは施設の環境が刺激となって出現した, Lhermitte の原著に忠実な環境依存症候群であると考えられた。
著者
福永 篤志 大平 貴之 加藤 元一郎 鹿島 晴雄 河瀬 斌
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.242-250, 2005 (Released:2007-03-01)
参考文献数
18
被引用文献数
3

後出し負けじゃんけんの「負けよう」とする認知的葛藤の脳基盤はいまだ明確ではない。今回われわれは, 右利き健常人9名に対し, 後出しじゃんけん (負けまたはあいこ) 負荷時に3テスラfMRIを撮像し, 安静時と比べて有意に検出されたBOLDシグナルの分布について検討した。結果は, 負け・あいこじゃんけんともに, 前頭葉, 後頭側頭野, 感覚運動野, 小脳半球, 補足運動野 (SMA) 等に有意なBOLDシグナルが検出された (corrected p<0.05)。また, 左手負けじゃんけんでは左SMAが, 左手あいこじゃんけんでは右SMAがそれぞれ強く賦活され, 右手負けじゃんけんでも左SMAの反応が強かった。以上の結果から, 左SMAがステレオタイプな動作を抑制する機能や葛藤条件の監視に関与していることが示唆された。
著者
山口 修平
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.222-230, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
25
被引用文献数
2

エピソード記憶の記銘と想起,意味記憶の想起,そして作業記憶における前頭葉の役割を神経機能画像研究の成果を中心に概説した。エピソード記憶の記銘の際には左の前頭前野が関与し,想起に際しては両側の前頭前野が関与している。記憶内容の言語化の程度も半球差に影響している。新奇な刺激の自動的な記銘には後方連合野の関与が強いが,前頭葉の情動(前頭眼窩面)や注意のネットワーク(前帯状回)も関与している。意味記憶そのものは側頭葉を主体とするネットワークに存在するが,その随意的な想起には左腹外側前頭前野の役割が重要である。作業記憶は前頭葉の実行機能の中で中心的な役割を果たしており,その際に主に活動する前頭葉内部位は中および下前頭回であり,頭頂葉とのネットワークが重要である。
著者
小森 憲治郎 池田 学 中川 賀嗣 田辺 敬貴
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.107-118, 2003 (Released:2006-04-21)
参考文献数
21
被引用文献数
6 3

側頭葉の限局性萎縮により生じる意味痴呆と呼ばれる病態では,言語・相貌・物品など広範な対象についての意味理解が選択的に障害される。意味痴呆における葉性萎縮のパターンには,通常左右差が認められるが,萎縮の優位側に特異的な認知機能障害については,いまだ十分な合意的見解が得られていない。そこでまずわれわれは,左優位の萎縮例と右優位例の神経心理学的比較検討から,左右側頭葉の役割分化に関する手がかりを得ようと試みた。その結果,典型的な語義失語像を呈した左優位例では,呼称,語産生と,理解に関する項目で右優位例を下回り,知能検査についても言語性検査の成績低下が著明であった。一方右優位例では,総じて語義失語の程度はやや軽度で,代わって熟知相貌の認知障害,物品の認知ならびに使用障害を呈したが,言語の諸機能はまんがの理解を除き左優位例に比べ成績低下が軽度であった。また知能検査では言語性,動作性ともに低下し,何らかの視覚性知能の障害も併存している可能性が示唆された。さらに諺と物品という,それぞれ言語性・視覚性と異なる表象の保存状態を調べる補完課題を用いた比較では,どの意味痴呆患者も何らかの補完課題の障害を認めたが,諺の補完課題での成績低下が著明で物品の補完は比較的保たれる左優位例に対し,おもに物品の補完課題に著しい困難を呈し,諺では補完が比較的保たれる右優位例,という二重乖離が認められた。これらの結果は,左側頭葉前方部が言語性の,また右側頭葉前方部は視覚性の表象を司る神経基盤として重要であることを示唆している。
著者
山田 裕子 前島 伸一郎 片田 真紀 阿部 泰昌 爲季 周平
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.244-250, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

脳梗塞による右大脳半球損傷で失語症を伴わない口腔顔面失行を呈した症例を報告した。症例は64 歳の右手利きの男性で,左手利きの家族性素因はなかった。神経学的には顔面を含む左片麻痺と左半身の感覚障害を認めた。神経心理学的には,口腔顔面失行,左半側空間無視,注意障害,構成障害を認めた。失語症や観念失行,観念運動失行はなかった。頭部MRI では右中大脳動脈領域の広汎な梗塞巣が認められた。本症例の言語機能は左半球優位に,口腔顔面の随意運動に関する機能は右半球優位に側性化されている可能性が示唆された。一般的に口腔顔面失行は失語症に伴うことが多く,発語に関する半球に密接に関連すると考えられているが,言語と口腔顔面の随意運動に関する神経機構は互いに独立して存在しうるものであると考えられた。また失行の中でも口腔顔面と上肢の行為の神経機構は異なる半球間に側性化されていると考えられた。
著者
津田 哲也 中村 光 吉畑 博代 渡辺 眞澄 坊岡 峰子 藤本 憲正
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.394-400, 2014-12-31 (Released:2016-01-04)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

項目間の意味的関連性を統制した非言語性意味判断課題を用いて, 失語症者の意味処理能力を検討した。対象は右利き失語症者 35 例 (平均 65.4 歳) および同年代の健常者 10 例 (統制群)。課題では提示された目標項目に対し, 対象者に 5 つの選択肢のなかから, 最も意味的関連性が強いと判断する 1 項目を指すよう求めた。選択肢は質的に異なる 2 つの意味的な関連性 (状況関連性と所属カテゴリー関連性) の有無を基準に設定した。例えば, 刺激項目が「犬」の場合, 状況と所属カテゴリーもどちらも関連する項目 SC (猫), 状況的関連のある項目 S (家), 所属カテゴリーが関連する項目 C (象), 生物・非生物のみ一致するが状況・カテゴリーの関連性はない項目 N1 (鯛), いずれも関連のない項目N2 (消しゴム) の線画を提示した。その結果, 統制群・失語群いずれも全反応中に占める比率は SC が最も多く, 次いで S または C の順で, N1・N2 は最も少ない反応であった。また, 失語重症度別・聴覚的理解力別での反応に有意な偏りを認め, 重度群・理解不良群は軽度群・理解良好群よりも全反応中の N1・N2 の比率が有意に高かった。失語症者において重症度・聴覚的理解力と非言語性意味処理には一定の関連があることが確認された。以上より, 多くの失語症者は非言語性意味判断において, 状況関連性やカテゴリー関連性という判断基準を利用できることが示された。
著者
池田 学 一美 奈緒子 橋本 衛
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.304-309, 2013-09-30 (Released:2014-10-02)
参考文献数
21
被引用文献数
2

進行性失語の概念と診断について,脳前方部に原発性の変性病変を有する認知症の枠組みの中で特徴的な進行性失語症を主症状とする臨床症候群を捉える流れと,Mesulam が当初は全般的認知症を伴わない緩徐進行性失語症(slowly progressive aphasia without generalized dementia)として報告し,その後も発展させてきた(脳血管性失語に対しての)変性性失語症という流れを辿り,概念の変遷と診断基準の特徴を紹介した。そして,各々の診断基準を実際に自験例に当てはめた場合,進行性失語の各サブタイプの診断がどのように変化するかを示すことにより,各々の診断基準の特徴と課題を検討した。
著者
森岡 悦子 金井 孝典 山田 真梨絵
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.328-336, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
20

左一側性病変により連合型視覚失認を生じ, 経過中に視覚失語に移行した例について検討した。症例は, 65 歳の右利き男性で, 頭部 MRI で, 脳梁膨大部を含む左後頭側頭葉内側部に病変を認めた。初回評価時, 触覚性呼称, 聴覚性呼称, 言語性定義による呼称は良好であったが, 視覚性呼称は不良であった。また, 形態知覚は保たれていたが意味に関する課題は不良であったことから, 連合型視覚失認と考えられた。初回評価 2 ヵ月後, 視覚性呼称は不良であったが, 意味に関連する課題は改善し, 視覚失語に移行したと判断した。視覚失語への移行は, 右半球の意味記憶の機能の活性によると考えられたが, 右半球処理による視覚性認知は, 左半球で処理される言語性認知ほど詳細ではなく単純である可能性が示唆された。視覚失語において, 視覚性呈示により物品の概念が想起されても視覚性呼称に至らないのは, 右半球処理によって想起される概念が浅く脆弱なためではないかと考えられた。
著者
野村 心 甲斐 祥吾 吉川 公正 中島 恵子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.347-352, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
参考文献数
10

高次脳機能障害における社会的行動障害に対しての治療的介入は確立していない現状であるが, 脳損傷後の行動障害に対して, 患者の気づきのレベルや抑制コントロールに合わせて行動的アプローチと認知的アプローチなどの治療の形を変えていく必要がある (三村 2009, Sohlberg ら 2001) 。しかし, 気づきの定量化は難しく治療を選択・変化させる指標は明確ではない。今回, anger burst を呈した若年症例について, コーピング活用の観点から後方視的に検討し, アプローチの比重を変化させるタイミングを考察した。その結果, 行動的アプローチ期で学習したコーピングを活用して, 怒りに直面した際の適応行動が出現し, Social Skills Training (SST) などの場面で自発的にコーピングの活用がみられた時期, つまり, 自己の不適切行動を修正しようとする意欲が生じた時期が認知的アプローチへ変化させるタイミングと考えられた。
著者
髙野 裕輝 関野 とも子 山﨑 勝也
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.386-394, 2017-12-31 (Released:2019-01-02)
参考文献数
19
被引用文献数
1

左側頭葉後下部性失読失書 1 例と対照群 5 例に対し, 仮名文字列の語彙性判断検査および仮名実在語の音読-意味説明検査を, 呈示時間を統制した上で実施し, その成績や反応潜時の分析から仮名文字列の読み方略について検討した。その結果, 逐字音韻変換が機能し得ない短呈示条件下で本例はチャンスレベルを超える語彙性判断能力を示したが, それに比し音読や意味説明能力は低下が顕著であり, 欧米語圏で報告されている潜在性読みが観察された。以上より, 本例は単語形態熟知性の高い文字列を視覚的な「まとまり」として捉え, それが既知であるとの判断は概ね可能だが, それを音韻に変換するか意味にアクセスする過程に障害を呈していた。このような傾向は, 左側頭葉後下部性失読失書と病態的に近似していることが指摘されている日本語話者の純粋失読例にも認められる可能性が考えられた。この点については症例の蓄積を重ね, 今後検討を行う必要があると思われた。
著者
原 有希 衛藤 誠二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.372-379, 2017-12-31 (Released:2019-01-02)
参考文献数
18

左中大脳動脈領域の脳梗塞により, 倒立書字・倒立描画を呈した症例を報告した。症例は基本的な視知覚機能は良好で, 文字・物体・画像の認知も保たれていたが, 向きの判断が困難であった。また, 文字・線画の正立像と倒立像の識別にも困難を示した。「線画」では上下の同定は可能であったが, 「文字」では上下の同定も困難であった。これらの特異的な徴候は, orientation agnosia と一致し発症 6 ヵ月後も残存した。線画と文字に対して外的手がかりを利用した空間定位の練習を 10 ヵ月実施したことによって, 倒立書字・倒立描画が消失した。症例の呈した症状を, 物体中心座標系と観察者中心座標系の視点から考察した。倒立書字・倒立描画は, 障害されている空間座標系の脳内表象に基づいて, 運動を実行することで出現した可能性がある。
著者
掛川 泰朗 磯野 理 西川 隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.312-319, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

脳血管障害による右半球病変に伴って身体パラフレニアとフレゴリの錯覚を合併した2 症例を報告した。脳血管障害によるカプグラ症候群やフレゴリの錯覚などの人物誤認症候群の報告は未だ少数である。 Feinberg ら (1997) は, 身体パラフレニアを, カプグラ症候群と同型の病態構造を有していると指摘しているが, 身体パラフレニアとカプグラ症候群の合併の報告はみられない。一方, 身体パラフレニアにフレゴリの錯覚の合併をうかがわせる記述は少数見出された。身体パラフラニアの患者における麻痺肢への態度は一定の既知感があるという意味でむしろフレゴリの錯覚に近いかもしれない。身体パラフレニアと人物誤認症候は右半球病変, とりわけ前頭葉病変に共通した責任病巣があるものと考えられており, これまで注目されてこなかったが, フレゴリの錯覚と身体パラフレニアはより高率に合併している可能性がある。