著者
小林 俊輔
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.181-186, 2017-06-30 (Released:2018-07-02)
参考文献数
6

brain-machine interface (BMI) は中枢神経の信号を解読して利用する, あるいは中枢神経の情報処理に外部から介入して操作する技術である。例えば四肢麻痺の患者の脳活動を記録して解析することにより車いすを運動の意図に基づいて操縦するといった臨床応用が考えられる。BMI には脳に外科的に電極を埋め込む侵襲的な方法や脳波などを利用する非侵襲的な方法がある。神経生理学研究の蓄積により神経活動を読み取り解析する技術は進んでいるが, 外部からの刺激により神経情報処理を修飾する技術に関しては未だ初歩的な段階である。将来的に読み取り・書き込み技術が発達すればコンピューターが生体脳の情報処理を補完することにより高次脳機能障害を治療することが実現されるであろう。
著者
中村 太一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.155-159, 2022-06-30 (Released:2022-08-30)
参考文献数
3

失語症デイサービスは, 失語症の地域支援の拠点として大きな役割を担っている。集中的な言語訓練や社会的アプローチを提供する役割のみでなく, 「失語症を持って生きる」こととは何かを皆で考え, 整理していく場でもある。同じ障害をもった仲間が集い, 専門職と共に新たな経験を積み重ねていくなかで, 少しずつ苦しみが和らぎ, 新しい可能性が芽生えていく。また, 友の会や失語症カフェなどの活動を通じて地域社会へ働きかけていく資源でもある。まさに, 失語症の人にやさしい社会の実現に向けて必要不可欠な地域資源の 1 つである。また, 失語症者向け意思疎通支援事業や地域リハビリテーション活動支援事業も失語症支援に欠かせない資源である。そして, 今後はこれらの地域資源が効果的かつ持続的に活用される地域づくりが肝となる。そのためには, 「失語症を持って生きる」ことに真摯に向き合い, 失語症当事者やその家族と共に歩む姿勢と, 地域づくりに結果を出す力が求められている。
著者
内山 千鶴子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-10, 2020-03-31 (Released:2021-04-01)
参考文献数
22

書字と図形の模写困難が主訴の初診時 5 歳 4 ヵ月男児の視覚認知と書字の関連を報告した。本児は顕著な知的,言語発達の遅れはないが,フロスティッグ視知覚発達検査 (DTVP) の知覚指数は 70,特に空間関係の視知覚年齢は 3 歳 8 ヵ月で,視覚認知が問題だった。本児の視覚認知能力の問題を明確にするため,アイ・トラッカーで視線の注視点を計測した。本児と同年齢の典型発達児 10 名に異同弁別課題を実施した。本児は典型発達児と異なり,図形の全体注視が少なく,注視点の位置も限定されていた。この特徴を改善するため,画面全体にランダムに示された図形や数字を指示通りに探すなど,広範囲から目的とする刺激を探索する課題を行った。6 歳 3 ヵ月時に DTVP は知覚指数が 95,空間関係の視知覚年齢が 5 歳 3 ヵ月に改善し,図形と文字の模写が可能となった。本児の模写困難は視覚的な探索行動に問題があり,図形の正確な形態把握が困難であったためと考えられた。
著者
李 多晛 澤田 陽一 中村 光 徳地 亮 藤本 憲正
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.421-427, 2013-12-31 (Released:2015-01-05)
参考文献数
19
被引用文献数
2

普通名詞,固有名詞,動詞の3 種の言語流暢性課題を若年群と高齢群に実施し,品詞と加齢の影響を調べた。対象は健常の若年者(18 歳~ 23 歳)と高齢者(65 歳~ 79 歳),それぞれ35 名である。被検者には,60 秒間に以下の範疇に属する単語をできるだけ多く表出するよう求めた。(1)普通名詞:「動物」「野菜」,(2)固有名詞:「会社の名前」「有名人の名前」,(3)動詞:「人がすること」。その結果,高齢群は若年群に比べて,正反応数が有意に少なく,誤反応数が有意に多かった。動詞は普通名詞に比べて,正反応数が有意に少なかった。また,普通名詞,固有名詞に比べ動詞では,加齢による正反応数の減少と誤反応数の増加が有意であった。動詞において加齢による成績低下が強くみられたのは,高齢者における遂行機能の低下を反映したものだと考えた。
著者
中島 明日佳 船山 道隆 中村 智之 稲葉 貴恵
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.328-337, 2020-09-30 (Released:2021-10-01)
参考文献数
33
被引用文献数
1

過去における左視床損傷後の失語の症例報告では, 理解の障害は軽度で失構音はなく復唱は良好であるが, 発話では喚語困難や語性錯語を認める例が多く, なかでも無関連錯語の出現が特徴的であるとされている。しかし, 実際に無関連錯語の出現が多いか否かは明らかではなく, その出現機序も調べられていない。今回われわれは, 無関連錯語を手がかかりとして視床失語の背景に迫ることを試みた。その結果, 全誤答数に占める無関連錯語の割合および有関連錯語と無関連錯語との比は, 視床失語群が非視床失語群に比べていずれも高い結果となった。われわれが過去に報告した視床失語の 1 例からは, 無関連錯語と選択性注意機能の関連性が示唆された。   過去に提唱された視床失語の機序も考慮すると, 左視床損傷によって目的の語と関連する意味野を活性化できず, 関連しない語彙を不活性化できないことで目的の語彙が選択できず, 視床失語に特徴的な発話に至る可能性が考えられた。
著者
大和 吉郎 山桑 淑子 川守田 厚
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.452-458, 2022-12-31 (Released:2023-01-17)
参考文献数
17

我々は, 右前頭葉内側面損傷により日常生活場面において左手で把持した物品を放せなくなった 40 歳代の右利きの女性について報告した。把持した物品を放せない症状は両手動作を必要とする一連の活動場面にて出現していた。物品を放すためには, 左手への触刺激や左手に対して放す意識を高めることが必要であった。頭部 MRI では, 右前頭前野内側部, 前補足運動野, 補足運動野, 前部帯状回, 脳梁膝部~体部に脳梗塞を認めた。本例の左手で把持した物品を放せない症状は, 右手動作に触発された左手の行為異常である拮抗失行の 1 症候と捉えられ, 脳梁膝部と体部および補足運動野の損傷により左手の把持にかかわる行為が解放されたことにより生じたものと考えられた。また, 外発的刺激, 左手の動作に意識を集中することは物品を放すことにつながっており, 左手の行為異常の抑制手段の 1 つとなっていたと推察された。
著者
川崎 美里 阿部 晶子 橋本 律夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.442-451, 2022-12-31 (Released:2023-01-17)
参考文献数
21

本研究の目的は, 左半側空間無視 (以下, 左 USN) 患者を対象に, 横書き文の改行位置による左無視性失読 (以下, 左 ND) の出現率および眼球運動の差を明らかにすることである。対象は左 USN 患者 5 名と健常者 18 名であった。課題は横書き文章の音読課題を用いた。課題文は改行位置を統制し, 語頭から始まる行 (以下, 語頭条件) と語中から始まる行 (以下, 語中条件) が半数ずつになるようにした。 改行時の左 ND は 5 名中 3 名に認められた。左 USN 患者においては, 左 ND がみられるか否かにかかわらず, return sweep (改行時に行末から行頭に向かうサッケード) の終了位置が行頭よりも右側にとどまった。著明な左 ND がみられた 1 名では, 語中条件よりも語頭条件において行頭文字の読み落としが多く, 語中条件よりも語頭条件の最左停留位置 (視線が最も左方に達した位置) がより右側であった。
著者
今橋 久美子 深津 玲子 武澤 信夫 辻野 精一 島田 司巳 上田 敬太 小泉 英貴 小西川 梨紗 川上 寿一 森本 茂 河地 睦美 納谷 敦夫 中島 八十一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.459-465, 2022-12-31 (Released:2023-01-17)
参考文献数
21

本研究では, 脳損傷後に高次脳機能障害と診断された人のうち, 社会的行動障害を主訴とする相談事例 86 名 (在宅生活者 70 名, 施設利用者 15 名, 不明 1 名) について, 臨床背景因子と神経心理学的評価 (Wechsler Adult Intelligence Scale-Third edition : WAIS-III および Neuropsychiatric Inventory : NPI) を分析した。その結果, 対象者の半数に認知機能の低下がみられたことから, 行動の背景にある認知機能を評価し, 適切にアプローチすることの重要性が示唆された。さらに, 問題となる症状とNPI を説明変数, 転帰 (在宅か施設か) を目的変数として判別分析を行った結果, 標準化判別係数は, 「夜間行動」「ギャンブル」「拒食」「多飲・多食」「脱抑制」の順で高いことが示され, 施設利用者のほうがそれらを呈する人の割合が高かった。正準相関係数は 0.694 (Wilksʼλ=0.52, P <0.001) であり, 判別に対して有意な有効性が確認された。交差確認後の判別的中率は 90.2 %であった。
著者
山口 真美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.168-174, 2013-06-30 (Released:2014-07-02)
参考文献数
24

乳児を対象とした発達過程から見ると言語発達と顔認知発達は類似した点がある。この類似点を述べた上で, 本論では, 顔認知の発達と障害と, コミュニケーション的観点からの顔認知発達の重要性について論じる。複数の処理段階を経て成人の顔処理へと移行する, 顔認知の発達について論じ, さらに顔認知の障害には, 発達初期の初期視覚野の特異性が原因となる可能性があることについて論じる。発達初期の顔学習を示した顔学習モデル(Valentin ら 2003)によると, その情報量から予測されるよりもはるかに速く学習が進むという。この速い顔学習には, 乳児期の未熟な視力がかかわっている。すなわち, 視力が十分に発達していないため, 入力される顔が粗く情報量が少なくなり, 結果として短期間での顔学習が成立するという。こうしたメカニズムについて言及しつつ, 乳児の視力によって顔のどんな情報が学習されやすいか, 顔の全体処理のメカニズムから説明し, 顔を見ることが苦手とされる, 発達障害の顔認知発達についても言及する。
著者
白山 靖彦 北村 美渚 伊賀上 舞 木戸 保秀
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.172-177, 2021-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
16

脳損傷により高次脳機能障害を呈した場合, 認知能力とともに, 意思決定能力も低下すると考えられている。意思決定能力とは, 自分の意思を伝えることができること, 関連する情報を理解していること, 選択した理由に合理性があることとされており, 医療同意能力や判断能力を包含する。しかし, 意思決定能力を定量・客観的に測定する指標は未だなく, 意思決定支援の定式化には及んでいない。したがって, 多職種による合意形成や, 質問方法の工夫といった支援者側のスキルが求められることになる。  本稿では, 高次脳機能障害者の医療と福祉における意思決定支援に関して, それぞれの立場におけるポイントを概説し, これまで行ってきた研究の一部を紹介する。
著者
小谷 優平 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.427-432, 2021-12-31 (Released:2022-07-04)
参考文献数
8

認知機能良好で失語症者向け通所サービス (以下, 失語症デイ) を初めて利用した単一失語症例を対象として失語症デイの短期的有効性を検討することを目的とした。研究デザインは単一症例実験的研究, ベースライン期, 介入期, 介入除去期の A-B-Aʼ デザインとした。アウトカム指標は Communicative Confidence Rating Scale for Aphasia と Life Stage Aphasia QOL Scale-11, 言語機能, 実用的コミュニケーション能力, 社会参加の指標であった。検討の結果, ベースライン期に比べて介入期に心理社会的側面の有意な成績の改善, 実用的コミュニケーション能力の明確な改善が示された。しかしながら, 全体的に介入期に比べて介入除去期に成績低下が認められた。追研究の余地があるが, 失語症デイの心理社会的側面, 実用的コミュニケーション能力への有効性について予備資料を得ることができた。
著者
船山 道隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.326-330, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
34

うつ病とアパシーの鑑別は, 予後や治療の観点から重要である。脳卒中や外傷性脳損傷などの後天性脳損傷や変性疾患に伴ううつ病やアパシーは, いずれも予後に大きなマイナスの影響を与え, 治療法も異なる。鑑別の重要なポイントは, うつ病では気分の落ち込みやネガティブな思考パタンとなるが, アパシーでは気分や思考パタンはネガティブではなく中立的である。脳イメージング研究からは, うつ病では前頭葉腹内側部を中心として機能が亢進している部位を認めることがあるが, アパシーでは機能が亢進している部位を認めない。後天性脳損傷者に伴ううつ病の治療においては薬物療法や心理療法や社会的介入のみならず, 個々の症例に合わせたリハビリテーションの方針によって達成可能な目標をもたせていくことで病態が改善することがある。アパシーの場合も同様に, 個々の症例に合わせた達成可能な目標をもたせることで多少なりとも改善につながることがありうる。
著者
池田 学
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.147-154, 2004 (Released:2006-03-09)
参考文献数
21
被引用文献数
1

アルツハイマー病(Alzheimer's disease ; AD)の精神症状の中でも,とくに頻度の高いとされている “物盗られ妄想” と記憶障害との関係について検討した。統計画像解析の結果,妄想を伴わないAD群に比べて,物盗られ妄想群で,右楔前部 (precuneus) の局所脳血流量が有意に低下していた。物盗られ妄想群と妄想なし群を ADAS-Jcog の下位検査項目を用いて比較したところ,2群のプロフィールにはほとんど差を見出せなかった。楔前部と呼ばれる領域は,エピソード記憶の取り出しの際の視覚性の心像に関与しているといわれている。また,出典記憶に必要な文脈的関連を想い出す際に活性化されるという報告もある。それゆえ,楔前部の機能不全をきたした患者は,自分が持ち物を置いた場所を想起するのが困難である,または持ち物と置いた場所との関連が想起できないのではないか。あるいは,ある場所に自分が置いた(という運動の)記憶が障害されている可能性もある。これらの ADAS では評価できない何らかの記憶障害で「物を置いた場所がわからなくなり」,心理社会的要因が加わって「盗られた」となるのが,物盗られ妄想出現のメカニズムではないだろうか。
著者
山脇 正永
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.413-417, 2010-09-30 (Released:2011-10-01)
参考文献数
9

構音障害の病巣とその特徴について,構音運動の中枢メカニズムから概説した。嚥下運動と構音運動の中枢経路については共通する部分が多いが,Rolando 弁蓋,中脳水道近傍,“vocal patterngenerator”の部分が構音運動に特徴的であると考えられた。
著者
本田 智子 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.237-242, 2019-06-30 (Released:2020-07-06)
参考文献数
23

症例は 57 歳, 右利き男性。兄には左利きの矯正歴がみられた。右頭頂後頭葉皮質下出血発症 4 週時点で左半側空間無視, 構成障害, 着衣失行を認めた。音声言語の理解, 表出および読字には問題なかったが, 漢字書字に障害がみられ, 無反応, 部分反応, 存在字近似反応などの純粋失書と思われる反応に加えて, 文字の構成要素はすべて書き出されているが空間配置が乱れた構成失書がみられた。小学校 1, 2, 3 年生の教育漢字から無作為に選択した 51 文字の書取と写字では, 純粋失書は写字で著明に減少したが, 構成失書は書取と写字で同程度の割合でみられ, 偏と旁など, 部首と部首との空間配置が乱れる場合と, 1 つの部首を構成する字画の主要なまとまり同士の空間配置が乱れる場合とがあった。近年, 右半球損傷による構成失書の症例がいくつか報告されている。構成失書は従来指摘されてきた左頭頂葉病変以外にも, 非定型側性化を背景に有する右半球病変で出現する可能性がある。
著者
吉野 眞理子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.176-180, 2011-06-30 (Released:2012-07-01)
参考文献数
18

失語の口頭表出面について,いくつかの代表的症状をとりあげて論じた。言語学的側面,語用論的側面,言語を支えるさまざまな認知機能,随伴する発話運動系の障害,非言語コミュニケーション的側面,心理社会的側面などさまざまな要因のダイナミックな相互作用による結果が口頭表出面に現れると考えられる。口頭表出にいたるさまざまな基盤的・背景因子とそれらのダイナミクスを,観察される発話症状から探り当てるのは容易ではない。
著者
熊倉 勇美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.15-20, 2012-03-31 (Released:2013-04-02)
参考文献数
7

脳血管障害などに起因する摂食・嚥下障害の患者は, (1) 低栄養・脱水, (2) 誤嚥性肺炎, (3) 窒息など, によって生命を脅かされる。また, 止むを得ず経管栄養などを選択すると, 口から食べる楽しみが奪われ, (4) QOL が低下する。言語聴覚士 (ST) は, 摂食・嚥下機能の回復, QOL の向上などに関わるリハビリテーションチームの一員であるが, 最近では高次脳機能と「食べること・飲み込むこと」に関連した問題にも取り組んでいる。中でも高齢者や認知症患者, さらに高次脳機能障害患者の食の問題 (ペーシング障害や拒食などからもたらされる栄養失調, 誤嚥性肺炎など) がトピックスとして取り上げられている。本稿では, 高次脳機能障害の中から半側空間無視の 2 症例を挙げ, 治療経過を紹介した。最後に, ST の立場から高次脳機能障害と摂食・嚥下障害に関して, 今後の展望と, 取り組むべき課題について論じた。
著者
宮内 貴之 佐々木 祥太郎 佐々木 洋子 最上谷 拓磨 白濱 勲二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.335-344, 2021-09-30 (Released:2022-07-04)
参考文献数
21

脳卒中後は, 高い頻度で注意障害が生じる。注意障害は Activities of Daily Living (ADL) に影響を与えるが, 机上検査を用いた検討が多く, 行動観察評価である Moss Attention Rating Scale 日本語版 (MARS-J) を用いた検討はされていない。本研究の目的は急性期脳卒中患者における行動観察評価と ADL の関連を明らかにすることとした。対象は急性期脳卒中患者 64 名とし, 行動観察評価と机上検査および ADL を退院前 1 週間以内に評価した。評価指標は, 行動観察評価は MARS-J, 机上検査は Clinical Assessment for Attention (CAT) , ADL は Functional Independence Measure (FIM) を用い, 各指標の関連を検討した。Spearman の順位相関係数の結果, FIM と MARS-J は高い相関関係があった。また, FIM と CAT の Visual Cancellation Task (VCT) の所要時間, Symbol Digit Modalities Test (SDMT) の達成率も相関があった。一方, FIM と VCT の正答率と的中率は低い相関を示した。これらのことから, 急性期脳卒中患者では注意機能の行動観察評価と ADL は関連があり, ADL 上の注意障害を捉える上で MARS-J が有用である可能性が考えられた。

1 0 0 0 OA 読み書き障害

著者
櫻井 靖久
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.197-201, 2022-06-30 (Released:2022-08-30)
参考文献数
23

後天性読み書き障害について, 認知心理学的な分類と病巣研究に基づいた神経解剖学的な分類を整理して紹介した。認知心理学では, 失読を中心性 (視覚認知から意味, 音声にアクセスする段階での障害) と周辺性 (単語の視覚認知レベルの障害) に分け, 中心性失読はさらに音韻性失読, 表層性失読, 深層性失読に分けられる。失書も同様に, 中心性 (語彙, 音韻処理にかかわる過程での障害) と周辺性 (視覚・運動覚イメージを書字運動に変換する段階での障害) に分けられ, 中心性 (言語性ともいわれる) 失書は音韻性失書, 語彙性失書, 深層性失書に, 周辺性 (運動性ともいわれる) 失書は失行性失書, 異書性失書にそれぞれ分けられる。神経解剖学的分類では, まず純粋失読, 失読失書, 純粋失書に分け, それぞれが細分類されている。   さらに選択的音読み障害と意味性認知症にみられる訓読みに顕著な読み障害に関する筆者らの最近の研究を紹介した。これらの事実は, 音読みにかかわる経路と訓読みにかかわる経路が独立した二重回路をなすことを示唆している。