著者
小林 孝一 平石 邦彦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.257-265, 2017-04-01 (Released:2017-04-01)
参考文献数
41
被引用文献数
1

本解説では,遺伝子ネットワークに対するシステム数理的手法の一例を紹介する.ブーリアンネットワークと呼ばれる遺伝子ネットワークのモデルを考え,まず,その概要を説明する.次に,ブーリアンネットワークを簡単に扱うための行列表現を導入する.行列表現を利用した問題として,既知の情報からモデルの詳細を求める問題を考え,その解法を説明する.計算例についても簡単に紹介する.
著者
樹田 行弘 出口 充康 志村 拓也
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.271-283, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
33

近年,海洋科学調査にとどまらず,海洋資源開発・インフラ開発や国家安全保障など多くの分野で水中無人ロボットや水中センサを活用した技術体系の構築が進められている.海中機器と海上のプラットホーム間で通信ネットワークを構築するために,多くの有線・無線の通信技術が研究開発されてきた.海中の電波伝搬特性などにより数十m以下程度の近距離通信環境を除いて,水中音響通信技術は唯一の無線通信手段として発展してきた. 本稿では,水中音響通信技術について主に物理層における技術的アプローチを紹介することを目的とする.初めに水中音響通信伝搬路の特徴について物理パラメータを基に概説し,続いて通信距離と周波数特性の関係から必然的に狭帯域特性となることを明かす.また,水中音響通信伝搬路の送受波ジオメトリによる特徴を概説する.水中音響通信に特徴的な伝搬特性に対して有効とされる技術の解説を行って,幾つかの実海域データにおける適用例を紹介する.これから水中音響通信を始める技術者・研究者の助けとなれば幸いである.
著者
山下 宙人
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.326-337, 2023 (Released:2023-03-01)
参考文献数
26

脳の複雑で柔軟な情報処理の仕組みを理解するためには,処理を担う脳部位を特定するだけでなく,脳部位間のダイナミックな情報のやり取りを解明することが必要不可欠です.しかし,ヒトを対象にした脳研究では,現在の脳計測法の限界から,このようなダイナミックな脳情報の可視化は困難です.我々の研究室では,複数のデータをソフトウェア的に統合して,一つの計測では達成できない脳情報の可視化を目指した研究開発を15 年以上進めてきました.本稿では,空間解像度に優れたfMRI データと時間解像度に優れた脳波・脳磁図を組み合わせて,高い時間・空間解像度での脳情報の可視化を目指す電流源推定法とその応用技術である電流信号伝達マッピング法について紹介します.
著者
吉田 弘
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.262-270, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
35
被引用文献数
1

水中無線技術の歴史は古く,音波による測深技術や潜水艦の長波通信は,1900 年代前半に既に利用されていた.世界においては現在も積極的に石油・ガス産業や防衛・軍事産業で水中無線技術が多用されているが,我が国では,海洋産業の衰退もあり,市場の縮小とともに技術者も減ってきている.しかしながら,我が国は世界で6 番目の広さの海洋面積(領海+排他的経済水域)を有する国であり,そこには多くの資源があり,また,国家としても海洋立国をうたっている.国内の海洋市場が縮小しているならば,市場を創るという行動をするべきだ.また,普段,空気を媒質として研究を進めている多くの研究者にとって,液体導電性媒質の海水は非常に面白い研究ターゲットである.市場形成を迎える前に,基礎研究を進め,いつでも応用が利くようにしておくべきだ.本稿では水中無線技術の総論として,研究内容だけでなく,心構えや市場性,将来性について紹介する.
著者
蜂屋 弘之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.244-252, 2012-01-01 (Released:2012-01-01)
参考文献数
47

超音波断層装置を用いた医用診断は大きな成果を上げ,超音波診断装置は非常に普及しているが,断層画像を用いた診断には医師の経験や熟練を必要とする.生体の音響特性を利用し定量的な診断情報を得ようとする試みも行われてはいるが,生体組織の大きな特徴である不均一な構造は十分に考慮されておらず有用な定量診断情報には今一歩届いていないのが現状である.本解説では,生体の音響特性の特徴と超音波定量診断技術の現状について紹介し,何が問題なのかを考察し,将来の研究についての展望を述べる.
著者
上田 哲史 天羽 晟矢
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.139-146, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)
参考文献数
20

機械学習やデータサイエンスを実践する基盤プログラミング言語としてPythonが注目されている.本解説では非線形問題,特に系にみられる周期解の分岐問題について,Pythonを用いたアプローチの詳細を述べる.分岐計算アルゴリズムを可読性高く実装でき,計算機やOSに依存せず,対話処理による試行錯誤が可能となる.幾つかの特徴的なコードを示しながら,分岐問題に対するPythonの優位点を述べる.また,Neimark-Sacker分岐におけるbialternate積を用いた解法のコンパクトな実装,及びSympyを用いたヘシアン生成自動化過程についても述べる.
著者
向殿 政男
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.129-135, 2010-10-01 (Released:2010-12-01)
参考文献数
7
被引用文献数
2

コンピュータと安全との関係は,大きく分けて二つの側面がある.一つは,コンピュータを内部や外部の危険源から守り,コンピュータを正常に稼動させ続けることを目的とする“コンピュータのための安全”であり,二つ目は,他のシステムの安全を維持する機能をコンピュータで実現させようとする“コンピュータによる安全”である.筆者は前者をコンピュータ安全と呼んでいるが,後者の典型例として機能安全と呼ばれる新しい安全の分野がある.本稿では,コンピュータ安全と機能安全の一般論とともに最近の動向について解説する.
著者
井佐原 均
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.297-307, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)
参考文献数
8

本稿では,筆者のこれまでの自然言語処理や言語資源の研究開発の経験をもとに,技術開発と社会実装の連携について述べる.まず現在実施中の自然言語処理技術の社会実装プロジェクトについて,実用に向けた取り組みを交えて述べる.次に社会実装に向けて自然言語処理技術の課題や目指す方向を論じる.人工知能システムにおけるデータの重要性を述べた後,これまでの言語データ開発の経験を紹介する.データを社会で共有する試みと国際標準化にも触れる.最後により広い観点から人間の言語理解や人工知能について述べる.
著者
清藤 武暢
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.196-204, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)
参考文献数
30

近年, 異なる組織間でのデータ共有・活用を実現できるプラットホーム (クラウドやブロックチェーンなど) の構築や運用が進んでいる. こうした動きに伴い, 様々な分野において当該プラットホームを利用したデータ共有・活用による社内業務の効率化や新たな価値創出に関する検討が進められている. 特に, 当該業務/サービスにおいて機械学習を利用している組織などでは, こうしたデータ共有・活用により機械学習の性能向上が期待される連合学習 (Federated Learning) と呼ばれる技術が注目されている. 連合学習は, 学習対象のデータセットが複数の組織などで分散管理されている状況において, データセットそのものを当該組織間で共有することなく, 全てのデータセットの特性を反映させた機械学習のモデルを生成できる技術である. 最近では, マーケティングや社内業務の効率などを向上させることを目的とした当該技術の利用に関する検討も活発化している. そこで, 本稿では, 連合学習について概説するとともに, 当該技術に対する攻撃手法とその対策, および実装プラットホームに関する最近の動向について紹介する.
著者
神里 達博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.318-332, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)
参考文献数
61
被引用文献数
1 2

科学技術研究に伴う,倫理的,法的,社会的影響について,主として人文社会科学的観点から検討を行う研究プログラムを「ELSI」と呼ぶ.本稿では,この思想と実践が,前世紀末の米国において生まれた経緯とその後の展開について,歴史的に概観する.この検討は,情報技術の分野においてELSI的課題と向きあう上でも,価値ある示唆を与えてくれるものと考えられる.
著者
奥村 幸彦 増野 淳 南田 智昭 須山 聡 岡田 隆
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.186-199, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
14

第5 世代移動通信システム(5G)の特長を生かした医療分野の新しいソリューション実現に向け,NTTドコモが推進してきた5G を医師対医師の遠隔診療に活用する事例の検討及びその実証試験の実施結果を紹介する.2017 〜 2019 年度に総務省の5G 総合実証試験として医療機関を含むパートナーとともに推進した実証試験は,地域医療・救急医療の充実に向け,5G の超高速通信を生かして複数の医療機器から出力される高精細診断映像とテレビ会議の映像をリアルタイムに同時伝送する試験用のシステムを構築し,それらを用いて複数の診療科を対象とした試験・評価を通して5G を活用する遠隔診療システムの有効性を確認した.地域医療分野における実証試験では,和歌山県において,山間部診療所での遠隔診療,遠隔訪問診療,遠隔教育,遠隔移動診療の各事例について,また,救急医療分野における実証試験では,群馬県前橋市において,救急搬送の高度化ソリューションとして,3 または4 拠点間で救急搬送情報を共有する形式の遠隔診療について,それぞれ実験用5G 無線通信装置を用いた試験を行い,各試験に参画した医療従事者及び関係者から多角的な評価結果を得た.