著者
戸田 任重 松本 英一 宮崎 龍雄 芝野 和夫 川島 博之
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.266-273, 1994-06-05
被引用文献数
14

茨城県玉造町の農業潅漑用溜池,大清水池において,その池の有する窒素除去機能を,流入出水量と水質測定に基づく窒素収支と,池内での脱窒量,藻類による窒素取り込み量の測定との両面から定量的に検討した.池の唯一の流出部である池尻での流出水量は,集水域内降水量の44%に相当し,蒸発散量を考慮すれば,大清水池集水域に降った雨水の大部分は同池に流入しているものと考えられた.流入出水中の窒素の83%〜94%は硝酸態窒素であった.大清水池への流入水,湧水,周辺井戸水中の硝酸態窒素濃度は0.5〜46mg N L^<-1>で地点間の差異が大きかった.月別平均濃度は5.6〜19.2mg N L^<-1>, 1992年の年平均値は15.3mg N L^<-1>であった.流出水の硝酸態窒素濃度は,1.4〜12.7 mg N L^<-1>の変動を示し,冬季に高く夏〜秋季に低下した.1992年の年平均値は6.9 mg N L^<-1>であった.集水域からの月間窒素流入量は,101〜478 kg N month^<-1>,年間値は2517kg N y^<^1>と見積もられた.面積当たり101kg N ha^<-1> y^<-1>の溶脱量に相当する.月間窒素流出量は30〜297kg N month^<-1>で,年間値は1261 kg N y^<-1>であった.両者ともに水量に対応して92年冬季に高く夏季に低下し,秋季にわずかな増加を示した.池底での脱窒速度は,0.02〜0.17 N m^<-2> d^<-1>であり,春季に高く,夏季から秋季には低下した.年間積算値は38.4 g N m^<-2> y^<-1>であり,池全体では年間499kg N y^<-1>と推定された.藻類による硝酸態窒素取込み速度は,夏季で11.9×10^<-3> g N m^<-3> d^<-1>であり,年間では最大でも4.3 g N m^<-3> y^<-1>以下,池全体では59kg N y^<-1>以下と推定された.大清水池においては,窒素が年間2538kg N y^<-1> 流入し,そのうち1261 kg N y-<-1>が流出した.差引き1277 kg N y^<-1>の窒素が消失した計算になる.実測した脱窒素量はその4割に相当し,残り6割は不明である.藻類の取り込みによる寄与は小さい(<5%).流入水濃度,したがって窒素流入量の過大評価がその一因と考えられた.大清水池集水地域では,集水域内に同池があることで,集水域からの窒素排出負荷量は2517 kg N y^<-1>(行方不明分を除いても1739 kg N y^<-1>)から1261 kg N y^<-1>へと約50%(70%)に減少した.
著者
庄子 貞雄 伊藤 豊彰 中村 茂雄 三枝 正彦
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.473-479, 1987-08-05
被引用文献数
3

ニュージーランド, チリ, エクアドルの代表的火山倍土の腐植の形態と, Al/Fe-腐植複合体について明らかにすることを目的として, 計32断面の火山灰土について弘法・大羽法に準じた腐植の形態分析と選択溶解を行った. 得られた結果を要約すると以下のようである. 1. 腐植層の全炭素含量は平均 (±標準偏差) で, ニュージーランド9.9%, (±4.8), 地理11.0% (±5.4), であり, わが国の火山灰土 (黒ボク土) とほぼ同程度の高い腐植含量であった. 一方, エクアドルは3.6% (±1.5) とわが国より低い値であった. 2. 腐植の形態については, 腐植抽出率およびPQはチリでPQがいくらか低い値であることを除いて, わが国の火山灰土と同程度に高い値を示し, 腐植の大部分が0.5%水酸化ナトリウムで抽出され, その抽出腐植のうち大半が腐植酸であった. 3. ニュージーランド, チリ, エクアドルの火山灰土の腐植層は褐色を呈するものが大部分であり, わが国の火山灰土と著しく異なっていた. 腐食層の土色の黒味は腐植酸型とよく対応しており, 腐植含量の多少にかかわらず黒色を呈する火山灰土はA型腐植酸を主体としていた. 4. ニュージーランドの火山灰土は腐植層が薄く, B型, P型腐植酸を主体としているが, これは過去において長い間森林植生下にあったためと推測された. 5. ニュージーランド, チリ, エクアドルの火山灰土は大部分アロフェン質であるが, 全炭素含量はピロリン酸可溶Alと最も強い正の相関関係を示したが, 酸性シュウ酸塩化可溶Siより近似的に求められるアロフェン含量とは〃腐植の集積には, アロフェン質, 非アロフェン質を問わず, 腐植と複合体を形成しているAl, 次いでFeが重要な役割を果たしていることが明らかとなった.
著者
山本 博 吉川 省子 吉田 正則 石原 暁
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.478-486, 2008-10-05
被引用文献数
3

扇状地は、地下水が扇頂で涵養され扇央では地下水面までの深さが深く、扇端で地表に流出するため、農業的には扇頂では河川から、また扇端では湧水帯からの利水が容易であるが、扇央では地下水位が低いため畑地としての利用が多い。扇状地ではこうした利水の一般的特徴をもつが、香川県の瀬戸内海側に位置する扇状地では出水(ですい)と呼ばれる浅層地下水の湧水があり、扇央においても浅層地下水を引き出して水田への灌漑用水として利用している。このため干ばつ時に、湧水を利用して下流の水田へ水を供給し干ばつの進行を防いできた。筆者らは香川用水導入後の土器川扇状地における湧水と農業用水の利用実態を明らかにすることを目的に、1994〜1995年にかけて、湧水及び農業用水の水位、流量の測定を行い浅層地下水の流動、および夏季の水収支を解明したので報告する。そして、この実態解明にもとづいて、香川用水導入後における湧水利用の変化を検討した。
著者
犬伏 和之 堀 謙三 松本 聰 梅林 正直 和田 秀徳
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.318-324, 1989-08-05
被引用文献数
13

堪水土壌中で作られたメタンが水稲体を経由して大気へ放出されることを確かめ,この過程を解析することを目的としたポット実験を行った.水稲体以外からのメタンの放出をできるだけ除外した方法を用いて,以下の結果を得た. 1)水稲を経由したメタン放出量は,それ以外の経由からのメタン放出量に比べ2〜10倍多く,0.16〜23 mg C/h/m^2 の範囲にあった.測定期間中(8月後半以降)では9月上〜中旬にメタン放出量のピークが認められた.またメタン放出量には日変化のある可能性が認められた. 2)日中に遮光すると,自然条件に比べメタン放出量が1.6〜5倍に増加した. 3)土壌にあらかじめ稲わら麦わらを混合した場合メタン放出量は2〜10倍に増加した.供試した土壌種別にみると,グライ土>灰色低地土>褐色低地土の順になった. 4)水稲根圏へメタン溶存水を注入すると,ただちに水稲地上部から大量のメタンが放出された.一方,水稲根圏へ酢酸ナトリウム溶液を注入すると,22日後に水稲地上部からのメタン放出量が極大に達した. 5)水稲を地上約 10cm で切断し切断面からのメタン放出量を経時的に測定したところ,切断直後に放出量は一時減少したがその後漸増し4時間後には切断直後の1.5〜4倍になった.
著者
庄子 貞雄 三枝 正彦 後 藤純
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.264-271, 1986-06-05
被引用文献数
3

本研究は,夏畑作物栽培における下層土の重要性(機能)を明らかにするため,2か年にわたって東北大学農学部川渡農場で実施したものである。試験区は,作土として熟畑化した川渡黒ボク土を,下層土としては強酸性の非アロフェン質黒ボク土(未耕地の川渡黒ボク土と焼石黒ボク土)と弱酸性のアロフェン質黒ボク土(未耕地の蔵王黒ボク土と十和田黒ボク土)を使用した。供試作物には耐旱性が強いが,耐酸性の弱いソルガムを使用し,施肥栽培を行った。なお窒素の行方を追跡するために,重窒素硫酸アンモニウムを使用した。得られた結果は以下のとおりである。1)基肥窒素の土壌中での挙動は,梅雨期の降雨量によって大きく左右された。空梅雨の1982年の場合には,基肥窒素由来の無機態窒素は,下層土へほとんど移動することなく消失したのに対して,梅雨期の降雨量の多かった1983年の場合には,急速に下層土へ移動した。2)ソルガムの根の生育をみると,強酸性下層土区では,作土下で強い酸性障害を受け,下層土への伸長が抑制された。これに対して弱酸性下層土区では,ソルガム根は下層土深くまで伸長した。3)地上部の生育は,1982年の場合はいずれの区でも順調で,下層土の酸性状態の影響が小さかった。これに対して1983年の場合には,酸性下層土区で著しく不良であった。この理由は,初期から梅雨によって,無機態窒素が作土から下層土へ移動したためと,強酸性下層土区では,ソルガムの窒素吸収が著しく減少したことによるとみられる。4)ソルガムによる基肥窒素の利用率は,1982年の場合は42〜49%で,試験区間の差が小さかった。これに対して1983年の場合は,弱酸性下層土区は前年並であったが,強酸性下層土区では11〜18%と著しく低かった(その理由は3)のとおり)。ソルガムの地上部の生育は,基肥窒素の吸収量によって大きく左右された。5)追肥窒素の利用率は,2か年とも大差なく,53〜69%と高い値となった。この理由は,追肥時期のソルガムは養分吸収能が大きくなっていること,また追肥直後に大雨がなかったことによるとみられる。6)作土で無機化される土壌窒素も雨水によって下層土へ移動するため,雨の多かった1983年の場合には,ソルガムはかなりの量の土壌窒素を下層土から吸収していることがうかがわれた。7)本研究ならびに先の著者らの冬作物を供試した研究結果から,下層土は畑作物による水分とともに,窒素(施肥および土壌由来)養分の重要な吸収の場所である。したがって畑作物の生育は下層土の良否に大きく左右されることが明らかとなった。
著者
堀口 毅
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.226-232, 1989-06-05

1) トウモロコシの品種の中からアントシアニンを集積しやすいイエローデント(YD)とアントシアニンを集積しにくいゴールデンクロスバンタム(GC)を選び,窒素,リンおよびマンガンを欠除させた培養液を用いて,これらの養分が全フェノール,アントシアニンおよびその他のフェノール性化合物の含有率に及ぼす影響について検討した。全フェノールおよびフラバノール含有率は,YD,GCともにリン欠除もしくは窒素欠除によって増加し,窒素欠除による増加はリン欠除による増加よりも著しかった。アントシアニンについては,とくにYDのリン欠除区において著しく増加したが,GCでは処理により変化はわずかであった。ロイコアントシアニンについては,YD,GCともにリン欠除区で含有率が高かった。イエローデントをマンガン欠除処理すると,アントシアニン生成が抑えられ,リン欠除の場合にもアントシアニンがほとんど集積しなかった。 2)赤レタスと赤キャベツを用いてフェノール代謝に及ぼすマンガンの影響を検討した。植物はマンガン欠除培養液で水耕培養したのち,葉身のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)活性,全フェノール,アントシアニンあよびクロロフィル含有率を測定した。対照区の赤レタス,赤キャベツは赤色に着色したがマンガン欠除区のものは緑色であった。赤レタス,赤キャベツともにマンガン欠除によって,PAL活性,全フェノールおよびアントシアニン含有率が低下し,とくにアントシアニン生成は,マンガン欠除によって著しく抑制された。マンガン欠除区の赤キャベツ上位葉のクロロフィル含有率は対照区とほとんど変わらなかったにもかかわらず,アントシアニン含有率は著しく低下した。マンガンのフェノール代謝とアニン生成への影響は,光合成への影響とは異なる直接的なものであることが示唆される。