著者
Kushari D.P. Watanabe Iwao
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
Soil science and plant nutrition (ISSN:00380768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.65-73, 1992-03
被引用文献数
1

The growth of Azolla in the field is often limited by the phosphorous supply. To develop a screening technique for the ability of Azolla to grow and fix N_2 more efficiently under P-deficient conditions, water culture experiments were conducted under concentration-controlled conditions. Azolla was grown in a 60-liter bucket with a P concentration ranging from 0.02 to 0.06 ppm. At 0.03 ppm, Azolla became P-deficient. Under P-deficient condition, Azolla pinnata strains #5 and #7001 produced a larger amount of biomass and showed a lower tissue P concentration than A. microphylla #4018 and A. mexicana #2026. The P concentration in the culture medium decreased from 0.03 to 0.02 ppm during the growth of Azolla. A device for the supply of acid or alkaline and P solutions was designed to maintain a constant pH and P concentration in the water culture medium. Even when the P concentration was kept at 0.03-0.035 ppm, Azolla suffered from P deficiency. Under this condition, the A. microphylla, A. mexicana, A. filiculoides, and A. nilotica strains produced a smaller amount of biomass and showed a higher tissue P content than the A. pinnata strains. Growth responses of Azolla species under P concentration-limited conditions were, thus, similar to those under quantity-limited conditions. Quantity-limited water culture is more convenient for screening a large number of Azolla strains for their ability to grow under P-deficient conditions.
著者
森下 智陽 波多野 隆介
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.791-798, 1999-12-05
参考文献数
17
被引用文献数
1

メタンはC02の10数倍の温室効果ガスで,発生源,吸収源の特定・見積もりが重要だがダム湖からのメタン発生の研究は少ない。本研究はダム湖および周辺森林土壌のメタンフラックスを測定し年間のメタン動態を見積もった。 厚田村望来ダムと周辺森林で湖面および地表面のメタンフラックスを97年5月〜98年5月まで観測した。湖面からメタンは常に放出し,秋にかけて上昇した(0.022〜0.431 mgCm^<-2> h^<-1>)。湖面の氷がとけた翌年4月に最大値(0.922 mgCm^<-2> h^<-1>)を示した。その変動は湖面水温,湖面の溶存メタン濃度の挙動(γ=0.98)と類似した。以上の結果からダムの年間放出量は0.83 MgCと見積もられた。0.57MgCが放流期の3ヵ月に放出され,そのうち75%の0.43 MgCが湖水の放流に伴う放出であり,残りが湖面からの放出であった。 一方,森林土壌はメタンを常に吸収していたが,吸収フラックスは湖面からの放出フラックスに比べて小さかった。地温の上昇,土壌メタン濃度の低下に伴い,8月で最大0.1mgCm^<-2> h^<-1>を示し,その後低下した。積雪期も吸収が観測され,その総吸収量は年間吸収量の18%に匹敵した。 ダムの集水域の森林面積を考慮すると,放出量より10倍も大きし・年間8.1MgCのメタンが吸収されてし・た。しかし森林の吸収フラックス(1.12 mgCm^<-2> d^<-1>)は,ダム湖からの放出フラックス(4.64 mgCm^<-2> d^<-1>)の1/4と小さく,ダム湖から放出されたメタンは必ずしも近傍の森林へ直接吸収されているわけではないことを意味していた。
著者
杉山 泰之 吉川 公規 浜崎 櫻 久田 秀彦 大城 晃
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.215-218, 2003-04-05
参考文献数
6
被引用文献数
1

葉中無機成分含有率には樹体の肥料成分吸収状態や栄養状態が反映されることから、ウンシュウミカンでは葉中無機成分による栄養診断が広く行われている。静岡県では生産現場の栄養診断を1963年から、長年行ってきており、それらの結果から葉中無機成分の基準域を設定し、施肥改善、栄養状態改善の対策に生かしてきた。1989年からは冬季の根中デンプン含有率を調査し、収量および次年度の着花数との関連を検討してきた。その結果、根中デンプン含有率が栄養診断の指標となりうることを示した。一方、施肥量や着果量と葉中無機成分含有率や根中炭水化物量との関連性についての報告は、調査が試験研究機関内で行われたものが多く、生産現場で長期にわたり栄養診断を実施し、取りまとめた報告はない。そこで、静岡県内の各産地におけるウンシュウミカン'青島温州'の代表園での近年11年間の栄養状態(葉中無機成分含有率、根中デンプン含有率)と着果数の関係を調査し、生産現場での現状と問題点について知見が得られたので報告する。
著者
井上 克弘 張 一飛 成瀬 敏郎
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.619-628, 1994-12-05
被引用文献数
4

1990年6月から3年間,兵庫県加東群社町において,50点の雨水を採取し,pH,雨水中の風成塵降下量および雨水の化学成分の変動について観測した.採取した雨水のうち,80%が酸性雨であった.雨水中に含まれる降雨風成塵のうち粒径<20μmの画分は41%であり,春期に多い傾向がある.海水の Na^+ 濃度に対する富化率から,SO_4^<2->, NO_3^- , NH_4^+ は大気汚染物質起源,Ca^<2+>,K^+ は広域風成塵起源,Na^+, Mg^<2+>, Cl^- は風送海降塩起源と推定した.雨水の nssSO_4^<2-> ,NO_3^- の年平均降下量はそれぞれ 1.57, 1.69 meq m^<-2gt;であり, Ca^<2+>の年平均 降下量は 1.49 meq m^<-2> であった.雨水中の Ca^<2+> 降下量と<20 μm の風成塵の降下量の間には高い相関が認められた.これは雨水中の Ca^<2+> が,風成塵中のカルサイトと酸性物質の硫酸との反応の結果生成した硫酸カルシウムの雨水への溶解に由来するためと考えた.東アジアにおける雨水は,中国の長江以南地域にくらべ長江以北地域や韓国で pH 値が高く,SO_4^<2-> + NO_3^- 濃度および Ca^<2+> 濃度がいずれも高い.しかし,長江以北地域とほぼ同緯度に位置するわが国の雨水は酸性が強く, SO_4^<2-> + NO_3^- 濃度から推定される程には Ca^<2+> 濃度が高くなかった.この原因は,中国内陸部乾燥地域からわが国に輸送される広域風塵中のカルサイトが,輸送の過程で中国長江以北地域や朝鮮半島上空の酸性物質の中和に消費されてしまい,近年わが国にはカルサイト含量の少ないすなわち酸性雨中和能の低い広域風成塵が輸送されているためであると解釈した.
著者
折本 善之 武井 昌秀 小山田 勉
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.203-206, 2003-04-05
被引用文献数
1

茨城県は日本ナシの栽培面積が1660 haと鳥取、千葉県に次ぐ主産県であり、品種別には'幸水'が全体の約6割と最も多い。茨城県の'幸水'成木に対する窒素施肥基準量は、黒ボク土における裸地栽培の場合、年間総量は250kg ha(-1)で基肥に8割、礼肥に2割の配分としている。従来の'長十郎'ではさらに、玉肥として果実肥大期に50 kg ha(-1)の窒素が加えられている。しかし、'二十世紀'での調査により玉肥は糖度低下や熟期遅延の原因となることが認められ、品質重視の'幸水'では玉肥を適用しない基肥主体の体系がとられている。しかし、本県における'幸水'の収量は近年低下傾向にあり、一部でこれを補うため施肥量や施肥回数が増加するなど施肥法に混乱が生じている。過剰な施肥は生産コストの増大を招くばかりでなく、地下水の硝酸汚染など環境にも悪影響を及ぼす危険性を有している。'幸水'は品質登録後約40年を経過するが、吸肥特性など栄養生理面の知見はそれほど多くない。そこで、効率的な施肥法開発の基礎資料を得るため、基肥を主体とする現行施肥基準のベースとなった'二十世紀'を対照象に、'幸水'の地上部新生器官(新梢、葉、果実)における窒素吸収特性を調査した。その結果、いくつかの知見を得たので報告する。
著者
松本 英明
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.563-572, 1991-10-05
被引用文献数
1
著者
谷川 東子 高橋 正通 今矢 明宏 稲垣 善之 石塚 和裕
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.149-155, 2003-04-05
被引用文献数
3

アンディソルとインセプティソルにおける硫酸イオンの現存量を調査し,以下のことを明らかにした。1)吸着態硫酸イオンが主体であるPO_4可溶性Sは全Sの約30%を占める主要な画分であり,その含有率はアンディソルでは16〜880mg S kg^<-1>と高く,インセプティソルでは10〜296mg S kg^<-1>と低く,明瞭な差があった。また欧米の土壌の既報値に比べ,本邦のアンディソルが含有する吸着態硫酸イオンは著しく多く,全Sに占める割合も高かった。2)溶存態硫酸イオン(Cl可溶性Sおよび水溶性S)は両土壌でPO_4可溶性Sよりも含有率が有意に低く,全Sの10%に満たなかった。そのため硫酸イオンはほとんど吸着態で存在していることが明らかになった。3)両土壌におけるPO_4可溶性Sの断面プロファイルは,表層で低く50cm〜1m深で最大値に達する特徴を持っており,とくにメラニューダンドでは最大値に達してからも,高い含有率が下層で維持されていた。4)PO_4可溶性Sは,硫酸イオン吸着能を持つ鉄やアルミニウムの酸化物,とくに腐植複合体画分を除いた非晶質酸化物やアロフェンといった非晶質粘土鉱物,さらに結晶質鉄酸化物の存在に影響を受けていると推察された。溶存態硫酸イオンのうち,交換性硫酸イオン含有率もまたこれらの土壌因子に影響を受けていることが示された。5)メラニューダンドの下層では,硫酸イオン吸着能が著しく高く,その高い硫酸イオン吸着能が水溶性硫酸イオン含有率を低く維持していることが推察された。6)表層から1m深まで積算したPO_4可溶性Sの現存量は,アンディソルでは870〜2670kg S ha^<-1>,インセプティソルでは91〜1440kg S ha^<-1>であった.溶存態硫酸イオンの現存量はPO_4可溶性Sに比べ著しく低く,表層から1m深までの積算で,Cl可溶性Sはアンディソルで17〜103kg S ha^<-1>,インセプティソルで13〜144kg Sha^<-1>,水溶性Sの現存量はアンディソルで23〜56kg S ha^<-1>,インセプティソルで26〜91kg S ha^<-1>であった。
著者
金田 吉弘 小野寺 拓也 坂下 将 高階 史章 佐藤 孝 伊藤 慶輝 保田 謙太郎
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.83, no.6, pp.681-686, 2012-12-05

我が国の稲作において,代かきは「均平」,「田植え」,「活着」,「肥料混和」,「水もち」,「除草」などのために,古くから不可欠な作業とされてきた。しかし,近年の機械化移植栽培では移植精度が向上したことから「田植え」や「活着」に対する代かきの意義は薄れている。さらに,代かきは土壌を単粒化し,透水性の低下や土壌の還元を促進させることから水稲根の活力維持を阻害する場合があるとされている(熊野ら,1985)。特に,東北の日本海側に広く分布する重粘土水田では,代かきにより作土直下に不透水性の土層が発達し,稲作期間の透水性が低下しやすい。また,近年は機械収穫後の稲わらを春にすき込む事例が多くなり,排水不良水田では,稲わらの分解に伴い土壌は強還元になりやすく根腐れを生じやすい。
著者
進藤 晴夫 平舘 俊太郎 本間 洋美
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.769-774, 1999-12-05
被引用文献数
4

山焼き後の植物炭化物から希硝酸処理後に得られた腐植酸(C-HA)と黒ボク土のA層から得られた腐植酸(S-HA)の分光学的性質(紫外・可視・赤外吸収スペクトル, ^<13>C-NMRスペクトル)および物理化学的性質(腐植化度,元素組成,X線回折図)を比較した。 1)C-HAおよびSHAの紫外・可視吸光曲線は,両者とも特異的な吸収を持たず,滑らかであった。また,これらの腐楯酸はA型に分類された。 2)炭素および水素含量はC-HAとS-HAの間でほとんど差が認められないが,窒素含量はC-HAの方がはるかに高い値を示し,一方,酸素含量はS-HAの方がいくらか高い値を示した。原子数比[H]/[C]は両腐植酸の間でほぼ同じ値を示すが,[0]/[C]および[0]/[H]はS-HAの方が高い値を示した。C-HAのこれらの分析値は,窒素含量を除き,黒ボク土のA型腐植酸に対して報告された既往の分析値の範囲内に分布した。 3)^<13>C-NMRスペクトルによると,C-HAとS-HA両者ともに芳香族炭素>カルボニル炭素>炭水化物炭素≒脂肪族炭素の順であった。また,芳香族炭素とカルボニル炭素は,S-HAの方がC-HAに比べていくらか高い割合を示すが,炭水化物炭素と脂肪族炭素に対しては,逆の関係が示された。 4)C-HAとS-HAのIRスペクトルは,互いによく類似していた。 5)C-HAおよびS-HAのXRD図は,両者がグラファイト様の積層構造を有することを示した。
著者
TAKAGI Sei-ichi
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
Soil science and plant nutrition (ISSN:00380768)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.423-433, 1976-12
被引用文献数
29

The root washings of water-cultured oat and rice (non-sterile) contained some sort of amphoteric, iron-solubilizing chelating (or complexing) compound(s), which could be separated into a "cationic fraction" by elution in a cation exchanger column with 1N NH_4OH. In oats, the release of the chelator into the washings greatly increased under iron-stress conditions. Under the same condition "iron-inefficient" rice plants also increased the release of the chelator, though to a much less extent than did the oats. Further examination of the "cationic fraction" revealed that this chelator may be a heat-stable, acid-hydrolyzable non-macromolecule of extraordinarily high polarity. In the absence of interfering ions, the chelator was able to solubilize hydrated Fe (III) oxide effectively within a range of pH 4 to 9. Its Fe-solubilizing action was inhibited by the presence of divalent metals, the extent being in the order, Cu>Co≧Zn>Mn>Ca (no inhibition).
著者
樗木 直也 吉田 雅一 石橋 裕喜 松永 俊朗 赤木 功
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.527-533, 2015-12-05

鹿児島県出水地域のソラマメ産地で発生しているさや綿状組織黒変障害(綿腐れ症)の原因を明らかにするために,農家ほ場の障害発生率や植物体の栄養元素含有率,土壌化学性の調査を2カ年にわたって行った.1年目の調査では,子実の各部位(さや・種皮・子葉)のホウ素含有率は健全>軽度障害>重度障害と障害程度が重くなるほど有意に低くなった.子実各部位と葉身・葉柄のホウ素含有率は,障害発生ほ場の方が障害未発生ほ場より低かった.2年目の調査では,各ほ場の障害発生率と子実各部位及び葉身・葉柄のホウ素含有率との間には有意な負の相関がみられ,植物体のホウ素含有率が低いほど障害発生率が高まることが示された.またホウ素欠乏症の確定診断に有効だと考えられている細胞壁ラムノガラクツロナンIIのホウ酸架橋率は,重度障害さやで健全さや及び軽度障害さやに比べて低い値を示した.これらの結果はいずれもさや綿状組織黒変障害がホウ素欠乏症であることを示唆しており,これまでにマメ科作物では類似のホウ素欠乏症状の報告は見当たらないが,本障害はホウ素欠乏によるものと考えられた.
著者
池永 幸子 遠藤 好恵 稲村 達也
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.207-214, 2010-06-05

田畑輪換を実施する集落営農において土壌特性値の空間変動を考慮した局所管理を行うための基礎情報を得ることを目的として,連続圃場の集合体(16ha)を対象に9つの土壌特性値の空間変動解析を行った.2ha圃場群を対象にした10×10mメッシュ上での土壌サンプリングに基づく空間変動解析の結果から,調査対象とした土壌特性値の最短レンジが46mとなった.この結果に基づいて,124圃場の集合体では,10×33.3mメッシュ上で土壌サンプリングを行い,9つの土壌特性値について空間変動解析を行った.その結果,土壌有機物,全窒素,全炭素および粒径組成は,地形の影響を受けた空間依存性を示し,年次間で比較的安定していると考えられ,これらの土壌特性値は,輪換ブロックを決定するための指標として有効性が示唆された.pH,EC,CECおよび可給態窒素は,栽培管理の前歴の影響を受けた空間変動を示し,年次間の変動が大きいと考えられ,輪換ブロック内での局所管理の指標として有効であると考えられた.田畑輪換がコムギやダイズなどの畑作物と水稲を栽培することを考慮すると,集落単位で田畑輪換を行う際には,第一に,土壌有機物や粒径組成など複数の土壌特性値を用いて,土壌からの養分供給と畑作物生育に強い影響を及ぼす排水性などを同時に評価した輪換ブロックを設定して,効率的な肥培管理や排水対策といった土壌管理を行い,第二に,各輪換ブロックで作物に応じて,可給態窒素等の土壌特性値に基づく可変施肥など局所管理を決定する必要があると考えられた.
著者
矢内 純太 松原 倫子 李 忠根 森塚 直樹 真常 仁志 小崎 隆
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.61-67, 2008-02-05
被引用文献数
3

土壌特性値の評価は,農耕地における土壌の適切な管理のために不可欠である.そのためには通常土壌サンプリングが行われるが,圃場の土壌全体を常に調べることは不可能であり,時空間的に一部のみを調べて全体を予測することが必要となる.そこで本研究では,日本の主要な農地形態の一つである水田について,各種土壌特性値の空間的・時間的変動を評価するとともに,土壌診断のための合理的土壌サンプリング法の検討を行うことを目的とした.広さ50m×100mの水田圃場(灰色沖積土)において,春先の基肥前に5m×10mの区画ごとに深さ0〜15cmの表層土を1999年から2002年に毎年100点,合計400点採取した.採取した土壌は風乾および2mm篩別後,pH,EC,全炭素,全窒素,C/N比,可給態窒素,可溶性窒素,交換性塩基,可給態リン酸を測定した.得られたデータについて,空間的および時間的変動に関する評価を行った.その結果,以下のような知見が得られた.1)全400点の土壌特性値の変動係数は,pH,C/N比で10%以下,全炭素,全窒素,可給態リン酸,交換性Ca,Mg,Kで10〜20%,EC,可給態窒素,交換性Na,可溶性窒素で20%以上となり,土壌特性値によりその変動は様々であった.特に窒素関連特性値では,C/N比6%,全窒素13%,可給態窒素24%,可溶性窒素31%の順となり,可給度あるいは可動性が高いほど大きな変動を示した.2)同時期に採取した土壌の空間変動を評価すると,各特性値の変動係数は全変動の結果とほぼ同様の傾向を示した.データの推定誤差とサンプリング数の関係を解析すると,その関係は土壌特性値により大きく異なった.すなわち,推定誤差を5%以内に抑えるためには,pHで3点,交換性Caで20点,全窒素で29点,交換性Kで32点,可給態リン酸で34点,可給態窒素で78点,可溶性窒素で134点必要であり,逆に5点サンプリングの場合,推定誤差はpHで2.3%,交換性Caで14%,全窒素で16%,交換性Kで17%,可給態リン酸で18%,可給態窒素で27%,可溶性窒素で36%となることなどが明らかとなった(危険率5%).したがって,現実性を考えると,5点程度のサンプリングを行った上で,得られた平均値に10%以上の推定誤差を伴う可能性のあることを十分認識しておくのが望ましいと考えられた.3)同地点から採取した土壌の時間変動を評価したところ,全変動や空間変動と同様の傾向が見られた.また,年次間でデータの相関分析を行ったところ,ほとんどの特性値で有意な正の相関が見られるが,年数がひらくほど相関係数は低くなった.4)空間的および時間的なばらつきに由来する変動係数を比較した結果,pH,EC,C/N比,交換性Ca,Mg,Naは時空間変動がほぼ等しいのに対し,可給態窒素,可溶性窒素は空間変動の方がやや大きく,全炭素,全窒素,有効態リン酸,交換性Kは空間変動の方が顕著に大きかった.したがって,今回の時空間スケールでは,土壌サンプリングにおいて時間変動よりも空間変動を重視すべきであることが示された.以上の結果,対象とする土壌特性により,許容する誤差範囲,危険率に応じて,空間的および時間的なサンプリング頻度を決定することが重要であると結論された.