著者
水間 公一 島津 雄一 宇野 賢 古屋 隆司 戸塚 守夫 早坂 滉
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.16, no.11, pp.1986-1990, 1983-11-01

最近3年間における教室のインシュリン併用 TPN 症例を集計・検討した. インシュリン併用 TPN 症例のうち高齢者の占める割合が高く, 加齢に伴う耐糖能の低下が一因であると思われた. レギュラーインシュリン点滴注入が多く行われたが, 症例によっては分轄皮下注, 中間型インシュリンの併用が有効な場合もあった. 検索症例とくに糖尿病型症例では TPN の投与カロリーは少ない傾向にあり, この点充分なインシュリン投与による高カロリー投与に留意しなければならないと考えられた. 糖尿病型症例では併用インシュリンの量・期間ともに他群に比べて多く血糖管理に細心の注意が必要であると思われ, 合併症の点からも発熱の頻度が多く充分な経過観察などが必要であろう. しかし, また重症な代謝性合併症は経験しておらず, 耐糖能の低下があってもインシュリン併用によって TPN は安全に施行できることも指摘した.
著者
京 明雄
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.13, no.7, pp.828-836, 1980-07-01
被引用文献数
2

胃切除後吻合部潰瘍症例21例, 十二指腸潰瘍症例60例, 胃切除後吻合部潰瘍のない症例17例を対象として, 茂樹前基礎酸分泌, 血清ガストリン値およびテトラガストリン, セクレチン, レギュラー・インスリン, Ca グルコネート刺激による胃酸および血清ガストリン反応を検索した. 吻合部潰瘍では, かならずしも残胃の大きさと相関しない機能的壁細胞量の残存刺激が認められ, しかもその約4割が基礎分泌状態において持続的に機能している状態にあり, これは主として迷走神経の影響を受けた残存壁細胞の機能異常と密接な関連性を持ったことが推定された.
著者
酒本 喜与志 荒川 博文 箕田 誠司 石河 隆敏 杉田 裕樹 鮫島 浩文 江上 寛 池井 聰 小川 道雄
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.2590-2594, 1992-10-01
被引用文献数
9 11

サイトカインは手術侵襲後に生じる種々の生体防御反応において重要な役割を果たしている.今回,外科手術後の血中サイトカインの上昇機序と,それが,どのような因子の影響を受けるかを検討した.対象は合併症を有しない,各種の予定手術を受けた38例である.サイトカインの定量はELISA法,メッセンジャーRNA(mRNA)の測定はNorthern blotting法にて行った.その結果,1.血中interleu-kin 6(IL-6)値は術後1日目に最高値を示すこと,2.ドレーン浸出液中のIL-6,interleukin 8(IL-8)値は末梢血に比べ著明に高いこと,3.胸腔,腹腔ドレーン浸出液中の細胞内に手術当日,1,2日目にIL-6,IL-8のmRNAの発現を強く認めるが,末梢血細胞内には極めて微量であること,4.食道癌1期的根治術,肺葉切除術はおのおの,同程度の手術侵襲を有す膵頭十二指腸切除術,結腸・直腸切除術よりも高いIL-6値を示すこと,5.IL-6値は手術時間あるいは出血量との間に有意の相関が有ること,が明らかになった.以上より,サイトカインは主として手術局所にて誘導,分泌され,次いで血中に移行して高サイトカイン血症を来たすこと,また,手術時間,出血量はともにサイトカイン産生の大きな影響因子であることが示唆された.
著者
丹羽 篤朗 三井 敬盛 森山 悟 石黒 秀行 柳瀬 周枝 大和 俊信 柴田 和男 佐々木 信義 角岡 秀彦
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.30, no.9, pp.1962-1966, 1997-09-01
被引用文献数
13 10

中結腸動脈瘤の破裂により腹腔内出血をきたした症例を報告する. 症例は60歳の男性. 既往に高血圧. 突然の腹痛と背部痛で発症し, 疼痛が増強するため当院を受診した. 腹部理学所見, 血液検査で腹膜炎を疑ったが, 超音波検査では大量の腹水を認め, 腹腔穿刺にて腹腔内出血と診断した. 造影CTでは脾動脈瘤と胃裏面から股間膜左側に広がる血腫を認めた. 緊急手術を施行し, 中結腸動脈左枝の破裂による出血で破裂部を切除し止血した. 病理組織検査では中膜壊死に伴う隔離性動脈瘤と診断された. 術後経過は順調で16病日に退院した. 術後の血管造影で腹腔動脈起始部は閉塞し, 上腸間膜動脈根部, 下膵十二指腸動脈, 膵十二指腸動脈弓, 背側膵動脈, 脾動脈, 胃十二指腸動脈, 中結腸動脈根部に嚢状, 紡錘状の動脈瘤が多発したきわめてまれな症例であった. 術後18か月が経過したが, これらの動脈瘤による症状はない.
著者
小池 伸定 鈴木 修司 今里 雅之 田中 精一 林 恒男 鈴木 衛 羽生 富士夫 山本 雅一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.512-516, 2002-05-01
被引用文献数
8

症例は56歳の男性.1991年肝細胞癌の診断で7月肝外側切除術を施行.切除標本は4×3cmの単結節型で,病理組織学的所見は硬化型肝細胞癌,EdI+II,IV,fc(-),sf(-),vp0,vv0,b1,tw(-),im1,z1であった.1996年より外来経過観察中,血清AFPの上昇を認め,2000年4月腹部CT検査で左胃動脈幹に約5cmのリンパ節腫大あり,血管造影で左胃動脈より腫瘍濃染像を認め,残肝再発なく,肝細胞癌の腹腔内リンパ節転移の診断で,2000年7月リンパ節摘出術を施行した.硬化型細胞癌で肝切除後9年を経過して,残肝再発なく孤立性にリンパ節再発をきたし,これを切除しえた1例を経験した.
著者
西 満正 長野 稔一 大塚 直純 吉井 紘興 石沢 隆 山本 四郎 黒木 克郎 大山 満 渡辺 研之
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.259-264, 1975-05

大腸にはポリープが多い. しかも癌との区別が困難なもの, 多発するものが多い. これらの処置については外科医がしばしば悩まされている. 大腸のポリープと癌には疫学や腫瘍発生学の面からも興味のつきない点が多々ある. 今回われわれは入院手術症例, 直腸鏡集検例, 大腸ポリポージス症例, ソテツ毒による大腸発癌実験例などについて検討した. 私はポリープの癌化率をうんぬんする前にポリープの種類をよく知ること, 癌の判定基準を明らかにすること, 何よりもポリープを慎重に取り扱うことを強調したい.
著者
平林 邦昭 内田 学 山口 拓也 吉川 健治 西岡 宏彰 谷口 雅輝 木村 太栄 木野 茂生 中林 洋
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.11, pp.1645-1649, 2001-11-01
被引用文献数
8

患者は70歳の女性で, 6か月前に下血と意識消失発作で入院歴がある.そのときは胃・大腸内視鏡, 出血シンチグラフィーで異常を認めず軽快退院している.今回同様の症状で再入院し, 出血シンチングラフィーと腹部アンギオグラフィーで空腸動静脈奇形(arteriovenous malformation;以下, AVMと略記)と診断した.術中の病変部位の同定に難渋すると考え, 術直前に腹部アンギオグラフィーを施行し病変近傍にマイクロカテーテルを留置し開腹手術を行った.予想どおり術中の触診, 視診では病変は全く不明であり, 留置しておいたカテーテルの触診を頼りに病変のおよその部位を判断しサブライトを透光することで病変を肉眼でとらえることができた.切除標本の血管造影と特徴的な病理所見よりAVMと確定診断をくだした.
著者
津田 傑 石川 真 関野 昌宏
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.30, no.10, pp.2034-2038, 1997-10-01
被引用文献数
14

症例は48歳の女性. 右下腹部痛を訴え来院. 来院時, 右下腹部を中心に圧痛, 反跳痛, および筋性防御を認めた. 腹部超音波およびCT検査の結果, 右卵巣嚢腫および虫垂炎による汎発性腹膜炎を疑い手術を施行した. 腹腔内は黒褐色の腹水が貯留し, 右卵巣に径約5cmの壁が破裂した単房性腫瘤を認めた. 右卵巣嚢腫破裂にともなう汎発性腹膜炎と診断した. また回盲部は周囲組織と癒着し, 虫垂を認めず腫瘤を触知した. このため回盲部悪性腫瘍を疑い, 右卵巣卵管切除に加え右半結腸切除を施行した. 切除標本の病理組織検査の結果, 虫垂子宮内膜症に起因した虫垂重積と診断した. 虫垂切除71,000例中, 虫垂子宮内膜症と虫垂重積はそれぞれ0.05%, 0.01%に認められたのみである. 本症例はわれわれの調べえた範囲で本邦3例目であり, きわめてまれと思われる. 本疾患の術前診断や緊急開腹時には癌との鑑別が困難なため, 術式の選択に苦慮すると思われた.
著者
後藤田 直人 板野 聡 堀木 貞幸 寺田 紀彦 児玉 雅治
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.32, no.11, pp.2596-2600, 1999-11-01
参考文献数
14
被引用文献数
12 9

患者は72歳の女性.55歳の時に交通事故で骨盤を骨折.3年前よりときどき右下腹部痛,下痢がみられ,当院を受診.触診では右下腹部から側腹部にかけて圧痛を認めたが,腹膜刺激症状はなく,腫瘤も触知しなかった.その後も症状が続くため平成10年に注腸造影X線検査(以下,注腸Xp), Computed tomography(以下,CT)を施行し,上行結腸の腹腔内からの脱出を認めた.腰ヘルニアを疑い,手術を行うも胸腰筋膜のレベルで,外腹斜筋の中に腸骨稜を下端とした直径4cmの欠損部があり,上腰三角,下腰三角は脆弱でないため,腰ヘルニアではなく,17年前の外傷による腹壁ヘルニアと診断,周辺組織を縫合することで欠損部を閉鎖した.術後は良好に経過中である.外傷性腹壁ヘルニアは鈍的,鋭的損傷,または介達外力による損傷の結果生じるヘルニアである.受傷後まもなく発生する場合と遅発性に発生する場合があるが,後者はその中でもまれといわれている.自験例では注腸Xp, CTがヘルニアの存在診断に有用であると考えられた.
著者
横山 直行 白井 良夫 宗岡 克樹 若井 俊文 畠山 勝義
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.486-491, 2006-04-01
被引用文献数
3

症例は74歳の女性.十二指腸乳頭部癌切除後,最大径8cmまでの多発肝転移巣が出現.TS-1を150mg/日(15時に50mg, 22時に100mg内服)隔日で投与した.TS-1投与日の血清5-FU濃度は夜間高く,午前3時に最高値(539ng/ml)を示し,本療法が時間治療であることを確認した.治療開始後転移巣は徐々に縮小・減少し,4か月後には肝前区域に径2.5cm大の単個を残すのみとなった.骨髄抑制や消化器系の副作用はなく,外来での加療が可能であった.治療開始151日目に多量の吐血を来たし,出血性ショックで同日死亡した.病理解剖の結果,死因は肝前区域の残存腫瘍の退縮により,同腫瘍内を貫通する肝動脈が破綻したための胆道出血と診断された.本症例の経験から,TS-1を用いた時間療法が十二指腸乳頭部癌に対し有効である可能性が示唆された.一方,化学療法著効例では腫瘍壊死に伴う動脈性出血にも留意すべきである.
著者
澤口 裕二
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.29, no.10, pp.2001-2004, 1996-10-01
被引用文献数
11

外来初診時から患者の背景によらずに癌と病名を告げた.告げる前に家族には相談しなかった.このため病状,手術,合併症,退院後の生活について正確に伝えることができた.その結果,疾患に対する不安のための不必要な入院が減少し,平均在院期間が胃癌では69日以上から41日へと,直腸癌で90日前後から54日へと短縮した.また,再発時の治療導入が容易となった.診断書に記載する病名の調整が不要となった.重要な点は病名のみならず病状とこれから受ける治療の必要性とその限界を明示することである.
著者
須藤 隆之 菅井 有 上杉 憲幸 幅野 渉 中村 眞一 斎藤 和好
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.208-213, 2005-02-01
参考文献数
16
被引用文献数
3

症例は58歳の男性で,平成14年7月27日腹部膨満感があり近医を受診した.精査にて腸間膜腫瘍と診断,9月12日腫瘍摘出,右半結腸切除,小腸切除術を施行.病理組織学的所見は紡錘形腫瘍細胞が束状に増殖していた.免疫組織学的検査にてc-kit染色陽性で,腸間膜gastroin-testinal stromal tumor(GIST)の診断となる.10月27日よりメシル酸イマチニブ400mg/日投与開始.平成15年4月4日腹部CTにてGIST再発を認め4月23日腫瘍摘出術施行.5月16日よりメシル酸イマチニブ400mg/日投与再開.平成16年12月12日腹部CTにてGIST再発を認め12月24日腫瘍摘出術施行.c-kit遺伝子を検索し,エクソン9のcodon503と504の間に6塩基対の挿入を認めた.c-kitの遺伝子検索は,メシル酸イマチニブの効果判定のために重要であると思われた.
著者
関川 浩司 渡辺 岩雄 川口 吉洋 遠藤 辰一郎
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.17, no.12, pp.2226-2229, 1984-12-01
被引用文献数
4

胆嚢病変に起因した自発性外胆嚢瘻の報告は比較的まれで,本邦では自験例を含め22例を数えるにすぎない.このうち本瘻孔の基盤となった病変は胆石症17例であり4例が胆嚢癌例であった.今回われわれは胆石症および胆嚢癌症例で腹壁に自潰することにより外胆嚢瘻の形成をみたきわめてまれな一例を経験したので報告するとともに臨床的特徴像について本邦報告例を集計し報告する.
著者
櫻井 孝志 立松 秀樹 山高 浩一 山本 貴章 有澤 淑人 川原 英之
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.234-239, 2003-03-01
被引用文献数
6

症例は84歳の女性。平成14年2月腹痛・嘔吐・下痢・血便を主訴に入院。既往歴として高血圧・狭心症・糖尿病があり内服治療中であった。便細菌培養にて病原性大腸菌O-1を検出, CT・下部消化管内視鏡検査にて下行結腸に壊死を伴う炎症を認め, 細菌性腸炎による脱水を誘因とした虚血性大腸炎と診断した。入院翌日のCEAが106.1ng/mlと異常高値を示し, 悪性腫瘍の検索を行ったが病変を認めず。26日後のCEA再検査では正常化していた。3月13日下行結腸切除術および人工肛門造設術施行した。病理診断上悪性所見を認めず, 免疫組織化学染色によるCEA局在も正常であった。検索上, 虚血性腸炎におけるCEA上昇は, 今らの1例報告のみであった。CEA高値を呈した機序は不明であった。発症時に細菌性腸炎に罹患していたことによるCEA産生活性化の可能性や, 膿瘍腔内に便汁が多量に貯留した可能性などの複合的な要素の関与が考えられた。
著者
井口 利仁 吉岡 孝 五味 慎也 中井 肇 折田 洋二郎
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.11, pp.1575-1580, 2003-11-01
被引用文献数
7

輸入脚空腸憩室穿孔に随伴した特異な腸石の1例を経験した.症例は75歳の男性.胃切除術の既往を有し,C型慢性肝炎治療のためursodeoxycholic asid(以下,UDCAと略記)を投与されていた.2002年3月12日,腹痛のため当院内科に入院,翌日腹膜炎の診断にて外科に紹介され緊急手術を施行した.前回手術ではBillroth II法で消化管再建されていた.輸入脚空腸穿孔により腸間膜膿瘍が形成され,膿瘍内に結石を認めた.空腸を部分切除し, Roux en Y吻合による消化管再建術を施行した.病理組織検査にて空腸憩室炎からの穿孔と診断された.結石は中核と外殻より構成され,中核の主成分はdeoxycholic acid.外殻はUDCAであった.胆汁酸腸石が中核となり,薬物が外殻を形成した混成腸石である可能性が示唆され,結石形成に空腸憩室とBillroth II法再建が関与したと考えられた.