著者
ミヒェル ヴォルフガング
出版者
九州大学
雑誌
独仏文學研究 (ISSN:04178890)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.59-88, 1996
被引用文献数
1

オランダ国立文書館での綿密な調査研究により、従来一般に認められてきた17世紀の出島商館医のリストは、いまだ不完全なものであることが判明した。新たに見つかった人物の一人に、1655年から1657年まで日本で波瀾万丈の2年間を送ったドイツ人外科医ハンス・ユリアーン・ハンコがいる。本論文ではさまざまな未公開の資料をもとに、ハンコの活動の全貌を明らかにし、彼を取り巻く主要人物の実像に迫る。各章のテーマは以下の通りである。 日本におけるヨーロッパ人外科医の地位や状況 ハンコの経歴と東アジアへの渡航 1656年(明暦元年)の江戸参府旅行 「似日本人、南蛮人味方、勿油断 吉利支丹奉行井上筑後守」 江戸での治療活動 長崎への帰途 長崎の儒医学者向井元升への「授業」 出島勤務の延長 長崎の「弟子」波多野玄洞 長崎奉行の猿、犬と、西洋人外科医の誇り 薬草狩と、1657年(明暦2年)の江戸参府のための準備 日本初の義眼とその他の珍品 明暦の大火の地獄図 出島での最後の数ヶ月 離日
著者
稲垣 良典
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

(1)オッカムの認識理論に関しては, まず感覚と知性との関係, および人間的認識の生成ないし展開における両者の役割をあきらかにすることを研究目標とした. 13・14世紀において感覚的認識の生成を説明するために広く援用されたスペキエス理論(species sensibilis可感的形象)をオッカムが斥けた理由をあきらかにするため, ロバート・グローステスト, ロージャー・ベイコンなどにおけるスペキエス理論を原典について考察した. その結果, スペキエス理論は当時, 物理的因果作用の一般理論にまでたかめられる傾向があったことをつきとめたが, すでにJ.ドゥンス・スコートウスにおいてこのような物理的(自然学的)因果作用の理論によっては認識の生成は解明できないことが洞察されており, オッカムも基本的にスコートウスのスペキエス否定の立場を継承しつつ, それを更に徹底せしめているとの見通しをえた. しかし, オッカム自身が認識の生成を説明するために導入している因果性の概念については, それをいかに理解すべきかは今後の課題として残っている.(2)感覚的認識と知性的認識との関係については, オッカムにおいては感覚的認識から出発しつつ, いかにして知性的認識が形成されるかという問題, すなわち知性認識の可能性もしくは成立根拠の問題は問題として提起されていないことが注目される. このため, たとえばトマス・アクィナスにおいて見出されるような抽象理論はオッカムにおいては不在であり, いわゆる能動知性による抽象は明確に斥けられている. 認識理論における中世から近世への大きなパラダイム変換は, おそらくトマスとオッカムの間に起っているのではないかと想定される.(3)学問論においてはトマスにおける中心概念である形相的対象(objectum formale)の概念はオッカムにおいて完全に排除されており, ここにもパラダイム変換が推定される.
著者
柳原 正治
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究においては、18世紀後半から20世紀初頭にかけての、さまざまな国際法学者の「国家」論、「国家結合」論、さらには「国際社会」論の検討を行った。とりわけ、ヴァッテルの「主権国」概念、及び、1770年代から19世紀のごく初頭にかけて唱えられた「ドイツ国際法論」の綿密な研究を行った。その中で、この時期、「(完全)独立国」、「(完全)自由国」、「現実の国家」、「主権国」、「半主権国」など、さまざまな国家概念が用いられていること、しかもそれらはいずれも、いわゆる「近代国際法」のキ-概念としての、「最高独立の権力ないし意思」としての「主権国」と異なること、などを明らかにできた。現代のわれわれが考えるような、国際法と国内法の截然たる区別、対内主権と対外主権の明確な区別を前提とする「主権国」概念についての理論化は、実は19世紀のごく末か、20世紀のごく初頭まで待たなければならない。そうした中で初めて、伝統的な「国家結合論」も成熟していったのである。また、この研究の延長線にあるものとして、グロティウスの「国家間の社会」概念をめぐる、その後の多くの学者たちの論争も研究対象とした。その中で、ときに「国際連盟」のモデルといわれるヴォルフの「世界国家(civitas maxima)概念も、この論争を踏まえたものであったこと、もっともその内実は、ヴォルフ固有の考えに基づくものであったこと、を明らかにできた。そして、その基礎にある「国家」理念は、現代の「主権国」概念とはかけ離れているのであって、そのことを十分理解しないかぎり、ヴォルフの世界国家概念と国際連盟の混同という誤解が生じることになることをも論証した。
著者
大栗 弾宏
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、マリファナに含まれ摂食促進作用を持つカンナビノイドの味細胞における味応答修飾効果、およびレプチンとの拮抗性について、正常系(C57BL/6)マウス、あるいはレプチン受容体変異系であるdb/db肥満マウス、さらにカンナビノイド受容体欠損であるCB1-KOマウスを用いて、カンナビノイド腹腔内投与前後での味覚感受性の変化を電気生理学的および行動学的手法により解析し、末梢味覚器からの情報による食嗜好性の形成・調節メカニズムの検討、ならびに肥満との関連性を検討することを目的としている。正常系マウスを用いて、舌前部の味蕾を支配する鼓索神経応答記録の経時的変化を解析したところ、各種甘味および旨味の相乗効果を引き起こすMSG+IMP応答のみ、内因性カンナビノイド(アナンダミドあるいは2-AG)投与5分後に増大し始め、約30分後にピークに達し、その後ゆるやかにコントロールレベルに戻ることがわかった。またその増大効果は、カンナビノイド投与濃度依存的であることが明らかとなった。CB1-KOマウスでは、それらの効果が認められなかった。さらに、正常系マウスに比べて甘味特異的に高い応答性を示すdb/dbマウスにおいてもそれらの効果が認められなかったが、例数は少ないもののCB1アンタゴニストであるAM251の投与により甘味応答の抑制を示す傾向にあった。一方、行動応答解析においても、正常系およびCB-1KOマウスは神経応答と同様の結果を示すことがわかった。このことから、カンナビノイドはCB1を介し、中枢のみならず末梢からも摂食(特に甘味嗜好)を促進し、食調節に関与している可能性が示唆された。以上の結果をまとめ、現在論文投稿準備中である。
著者
大村 浩久 高田 正 石田 英雄 松本 正隆
出版者
九州大学
雑誌
九州大學農學部學藝雜誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.69-77, 1978-09

Two types of fish jelly products, "Chikuwa" (rolled fish cake) and "Sumaki-Kamaboko" (fish cake rolled with straw) manufactured in Fukuoka prefecture were examined on respective 10 brands in January of 1975. The following ranges of constituents were indicated by chemical analysis. "Chikuwa" : Water 63. 1~73. 6 (69. 4± 1. 1) % ; protein 11. 7~16. 7 ( 13. 8±0. 5) % ; lipid 0. 3~0.9 (0.6±0.07) %; ash 2.4~4.4 (3.3±0.2) %; starch 2.0~40.2 (6. 1 ±0. 9) %, sugar 8. 3~18. 2 (13. 0±0. 9) %, energy 97~132 (112 ±3. 8) kcal ; sorbic acid, 0. 64~1. 68 (1. 28±0. 13) g/kg except one brand; saccharin sodium 0 in 7 brands and 0. 03, 0. 47 or 0. 16 g/kg in 3 respectively; A F_2 and hydrogen peroxide were not detected, while positive intestinal flora in one brand. "Sumaki -Kamaboko": Water 71.0~77. 3 (73. 5±0.7) %; protein 10. 1-15.8 (11.4±0. 5) %; lipid 0. 3~1. 0 (0. 5±0. 07) %; ash 2. 3~3. 6 (3. 0±0. 1) %; starch 0~7. 4 (5. 0±0. 7) %; sugar 7. 5~14. 7 (11. 5 ± 0. 7) %, energy 54~104 (83 ± 6 ) kcal ; sorbic acid 0. 18~1. 58 (0. 78±0. 2) g/kg in 7 brands and 0 in 3 brands ; saccharin sodium 0 in 7 brands and 0.01, 0.06 or 0.06 g/kg in 3 respectively ; AF_2 and hydrogen peroxide were not detected, while pseudo - positive intestinal flora in 2 brands. Red No. 106 was employed in 7 brands and No. 104 in one brand, but not in others. A strict relationship between evaluation by sensory test and constituent was not estimated. However, it was shown with some exception that the evaluation was generally dependent on higher protein and lower starch content through certain physical properties such as sense of touch. A rough correlation of evaluation to price was also observed. Although t h e distinct feature was not estimated for products in Fukuoka prefecture, they seemed to contain much starch.昭和49年度においても,それぞれ福岡県内10ヵ所の生産者から試料を購入し,官能テストならびに成分分析により,チクワについては3年連続して調査を行なつた.またスマキについてもあわせて調査した.チクワの成分は,水分63.1~73.6(69.4±1.1)%,蛋白質ll.7~16.7(13.8±0.5)%,脂質0.3~0.9(0.6±0.07)%,灰分2.4~4.4(3.3±0.2)%,澱粉2.0~10.2(6.1±0.9)%,糖分8.3~18.2(13.0±0.9)%,エネルギー97~132(112±3.8)キロカロリーであつて,過去2回の調査によるものとほとんど差はなく,対照にくらべて水分含量がやや低く炭水化物含量が高い傾向が認められた.ソルビン酸は1試料を除いて0.64~1.68(1.28±0.13)9/kgの範囲に検出され,一方人工甘味料はサッカリンナトリウムが3試料に認められた.またAF2,過酸化水素のような殺菌料はすべての試料に検出されなかつたが,大腸菌群は1試料にのみ陽性であつた.スマキでは,水分71.0~77.3(73.5±0.7)%,蛋白質10.1~15.8(11.4±0.5)%,脂質0.3~1.0(0.5±00.07)%,灰分2.3~3.6(3.0±0.1)%,澱粉0~7.4(5.0±0.7)%,糖分7.5~i4.7(11.5±0.7)%,エネルギー54~104(83±6)キロカロリーであつて,チクワにくらべて水分含量がやや高いが蛋白質ならびに炭水化物含旦が低く,また含量の範囲も狭かつた.澱粉無添加試料の蛋白質含量は最も高く,これを除くと10~12%の範囲にあつて,対照にくらべてほとんど差はなく,一般に炭水化物含量が高く脂質含量は低かつた.ソルビン酸は7試料に0.18~1.58(0.78±0.2)9/kg,サッカリンナトリウムは3試料に0.Olあるいは0.069/kg検出された.AF2および過酸化水素はすべての試料で陰性,大腸菌群は2試料に凝陽性であつたが,人工着色料は,赤色106号が7試料,赤色104号が1試料に使用されていた.これらチクワやスマキなどの成分あるいは価格と官能テストによる評価との間に厳密な相関関係を見出すことはむつかしかつた.しかし,例外的に一部逆の場合もあるが,こしや触感のような物性を介して蛋白質および澱粉含量が影響する傾向も認められた。
著者
大村 浩久 岡田 秀臣 坂井 美鈴 松井 三郎
出版者
九州大学
雑誌
九州大學農學部學藝雜誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.35-39, 1975

Chemical analysis of 5 brands of "Kamaboko (fish paste)" and "Chikuwa (rolled fish cake)" indicated the following constituent. "Kamaboko": moisture 75.2~79.1%; protein 11.5~15.0%; fat 0.7~0.8%; starch 2.3~3.1%; sugar 5.0~7.3%; ash 2.6~3.1%; calorie 87~102 Cal. "Chikuwa": moisture 70.1~73.8%; protein 14.3~16.0%; fat 1.1~1.5%; starch 1.2~3.6%; sugar 5.2~6.7%; ash 2.7~3.5%; calorie 101~109 Cal. In "Kamaboko," saccharin sodium and hydrogen peroxide were not detected, while sorbic acid was observed in 3 brands. On the other hand, both saccharin sodium and sorbic acid were detected in all samples of "Chikuwa," whereas hydrogen peroxide not. Intimate relationship of the evaluation of the sensory test to price, chemical constituent or maker was not observed, as those for processed foods examined before. However, it was only suggested that samples of lower protein content were inexpensive and evaluated with lower degree.板カマボコおよびチクワをそれぞれ県内5カ所の生産者から購入し官能テストと成分の分析を行なつた.板カマボコの平均成分は水分77%,蛋白質13.4%,脂質(0.74%,澱粉2.7%,糖分6.3%,灰分2.9%,熱量960カロリ一であつて,炭水化物およびカロリーが僅かに多いほかは対照(成分表)とほとんど差はなかつた.人工甘味料ならびに漂白ないし殺菌剤である過酸化水素はいずれも検出されなかつたが,保存料ソルビン酸は3銘柄に使用されていた.一方,チクワでは水分71.8%,蛋白質15%,脂質1.3%,澱粉2.3%,糖分6.2%,灰分3.2%,熱量106カロリーであつて,対照(成分表)よりは水分含量はかなり低いが,他の成分はいずれも若干高かつた.サッカリンおよびソルビン酸はすべての試料に検出されたが,過酸化水素は認められなかつた.他の加工食品の場合と同様に,価格ないし生産者の知名度と成分あるいは官能テスト間には必ずしも相関関係は認められなかつた.しかし,一応蛋白質含量の低いものは価格も安く評価も低い傾向が認められた.
著者
鮎川 保則
出版者
九州大学
雑誌
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 探索タイプ
巻号頁・発行日
2012 (Released:2016-04-26)

歯科インプラント治療は欠損補綴の有力な選択肢として広く普及している一方で、インプラント周囲炎によって苦慮する症例も稀ではない。口腔内には多くの細菌が存在し、インプラント周囲炎は軟組織からの感染に惹起されると考えられるため、その封鎖性の改善こそが今後の大きな課題である。本研究はこれまでに有効性が示唆されているインプラント粘膜貫通部の形状および表面性状に着目し、軟組織封鎖性改善のための新規デザインの開発を目指すものであった。本研究では実験用インプラントの実験動物口腔内への定着率が低かったため、当初の目標を達成することはできなかった。今後は今回の実験を通して得られたノウハウを有効に活用し、インプラント新規デザインの開発につなげていきたい。
著者
清川 昌一
出版者
九州大学
雑誌
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 探索タイプ
巻号頁・発行日
2011 (Released:2016-04-26)

鬼界カルデラの海底地形図と船上におけるGPSを組み合わせたシステムの構築を行い、浅海域3Dマッピングを試みた。1)地図データが大きすぎ、コンピューター上(グーグルマップ)にのせる事が難解であった。現在のところ細切れで貼り付けた試行版を作っている。2)船上でのGPSの位置関係が微妙にずれる。魚探による深さと地図上での深さの対応がつきづらく、もうすこし高性能のGPSが必要である。3)GPSがうまく入るときは海底地形図上を船が運航でき、地形図との対応が可能であり、通常の海図よりも、移動している場所が理解でき、非常にわかりやすい。浅海調査・漁業に有用であると思われる。