著者
本庄 雅則
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

エーテルリン脂質プラスマローゲンの新たな生理機能の解明を目的とした。プラスマローゲンは、セルトリ細胞のギャップジャンクション構成タンパク質であるコネキシン43の発現や、上皮細胞様の形態を示すヒト乳腺癌由来培養細胞MCF7細胞のアドヘレンスジャンクションの構成タンパク質であるE-カドヘリンの細胞間接着構造への局在性に必要であることを明らかにした。さらに、プラスマローゲンはコレステロール生合成を調節すること、その制御機構はコレステロール合成の中間産物であるスクアレンのエポキシ化を触媒するスクアレンエポキシダーゼの分解速度を調節することを見出した。
著者
青木 博史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

「節」の構造と歴史的変化について,連体形および連用形によって構成される節について記述した。従来断片的に言及されてきた諸現象を,統一的に把握し説明した。記述にあたっては,古典語における単なる共時的な分析にとどまることなく,歴史的変化をダイナミックに描いた。さらに,望ましい日本語文法史の説明,叙述のあり方として,位相論や文体論,方言研究とも連携しながら,複線的・重層的なストーリーを描くことの必要性を述べた。
著者
李 禎燮
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

扁桃核は解剖学的に不安行動に関連した脳内の主要な部位であるが、この神経核においてはγ-aminobutyric acid(GABA)が神経伝達物質として重要な働きをしており、また縫線核からのセロトニン入力がこのGABA放出を制御している。我々は、機械的処理によりシナプス前神経終末付着単離神経細胞標本をラット扁桃核より作成し、ニスタチン穿孔パッチ法および薬理学的手法を用いて、自発的GABA作動性微小抑制性シナプス後電流(mIPSCs)を記録した。このGABA作動性mIPSCsの頻度と平均電流量を指標として、セロトニン(5-hydroxytriptamine;5-HT)のシナプス前神経終末およびシナプス後膜への影響を検討した。その結果、セロトニンはシナプス後膜のGABA_A受容体に作用することなく、シナプス前神経終末の5-HT_<1A>受容体に作用してGABA放出を抑制することが明らかとなった。さらに、セロトニンによるGABA放出抑制反応の神経終末内情報伝達経路の固定をおこなった。セロトニンは神経終末部のGTP結合蛋白介在型5-HT_<1A>受容体に作用し、アデニリルサイクレース(adenylyl cyclase;AC)-cAMP系を不活性化してGABA放出抑制を生じていた。この細胞内AC-cAMP系は、シナプス前神経終末に存在するカリウムチャンネル、電位依存性カルシウムチャンネルを介することなく直接的にGABA放出を減少させていた。
著者
森山 日出夫 清水 民子 勅使 千鶴 佐々木 享 野呂 アイ 宍戸 健夫 八重澤 美知子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究目的で日本に留学している学生・研究者の数は年々増加し全国で約10万人に達しており,その出身の国・地城や民族も多様化している。家挨同伴の留学も増加しており,その子育てに対する支援は,留学生本人に対する支援とともに,国際交流の重要な一環を構成している。本研究では,大学関係の保育園について現状と問題点を明らかにすることを主要な日的とした。調査対象として取り上げた保育所は,最初教職員組合による共同保育所として設立され,認可保育所へと展開してきた歴史を持っている。日本における保育運動の発展において先導的役割を果たした,この大学関保保育所の運動について関係各園の資料をもとにその意義と役割について詳細にまとめた。また,私立大学における保育所の実態についてその全てを網羅するには至らなかったが,主要な国立大学の保育所についてその原状と問題点を洗い出した。さらに,留学生支授という意味では大学内にある保育所以上に大きな役創を果たしている香推浜及び愛咲美保育国(福岡市)を対象に多様な視点から調査分析を行った。外国人留学生の子弟を多く受け入れている保育園では,日々さまざまな異(多)文化接触か行われている。次世代を担う子供達に対して実施されている国際理解を促進する手法の実態を明らかにし,そこで育っている子供達のみならず,受け入れた園の保育者及びそこに子どもを預けている外国人の親と日本人の親とが,それをどのように受け取り,自らの国際理解の深化に果たしている役割を明らかにし,その問題点と諸問題解決の支援組織の構築について検討した。こうした保育園で育った子供達自身が,その経験についてどのような意識を持っているか,又,その家族がどのような評価を下しているかなどについての分析が課題として残されている。
著者
三浦 秀士 津守 不二夫 長田 稔子 姜 賢求
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

粉末冶金によりヘテロ組織ネット構造を実現し,焼結合金鋼の超強靭化を図った.引張特性を調査し,最も引張特性に優れる最適な組成(6mass%Ni-0.4mass%C),焼結条件(1250℃×1h,真空)熱処理条件(960℃×30min溶体化後油焼入れ,200℃×1h焼戻し,Ar)を見出し,ヘテロ組織形態の最適化による超強靭な特性(最大引張強さ2040MPa,伸び8%)を得た.さらに,疲労強度は焼結鍛造鋼に匹敵する650MPaを示した.また組織観察の結果を有限要素法に反映してシミュレーションを行い,ヘテロ組織の優位性を確認した.
著者
加藤 和生 丸野 俊一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

2年間の研究を通して,次のような実績を得た:1.甘えタイプの理論化と尺度構成Kato(1995)の甘え過程モデルを展開しながら,甘えタイプのモデルを提案した.理論では,自己観と他者観のポジティブ・ネガティブの組み合わせにより,4つのタイプを区別した:甘え上手タイプ(A),甘え難いタイプ(B),気兼ねする甘え屋タイプ(C),混乱型甘え屋(D).これらのタイプを測定するために,甘えタイプ尺度を構成した.次に,自己観・他者観の測度の得点の違いから,理論的妥当性を検討した.2.甘えタイプによる甘え行動・交流での態度,認知過程,感情の違いの検討Kato(1995)の甘え過程モデルにもとづき,甘え態度,認知過程,情動体験を測定するための尺度を構成し,理論化した4つの甘えタイプによって甘え行動・交流の間で甘え態度,認知過程,情動体験にどのような違いがあるかを検討した.AタイプとBタイプは,多くの要因得点で対局をなしていた.C・Dタイプは,その中間に来ることがおおく,それらのタイプに特徴的な幾つかの要因得点では,独特の反応を示していた.3.甘え・甘えさせの素朴概念の分析従来の甘え研究者は限られた観察から甘え行動の一側面について議論することがおおく,甘え・甘えさせが実際にどういう行動や心理的過程を含んでいるかを分析していない.そこでそれらの素朴概念(自由記述)の内容分析をすることにより,一般の人が甘えや甘えさせることをどのように理解しているかを質的に分析した.4.大学生の愛着行動の質的分析甘えの研究意義を明らかにするために,類似概念と思われている愛着行動の分析を通して,逆に甘えの特徴を明らかにすることを試みた.そのために,Kato(1995)の甘え過程モデルの枠組みを用いながら,愛着行動の内容,動機,状況,および対象を自由記述の質的分析をとおして解明を試みた.
著者
野村 久子
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、国の制度や公的資金による農業文化遺産維持継承の支援の取組と、市場メカニズムを用いた支援の取り組みについて日英における制度比較を行い、支援体制について整理を行った。具体的には、農業環境制度の中に組み込んだ形で歴史的構築物、石垣やフットパスといった農業文化遺産保全の維持継承を行っている英国を事例として、特に、伝統的風景や歴史的農業構築物の維持を目的とした制度の仕組みや運用手順、事例について明らかにした。また、国内においては、福岡県朝倉市の三連水車を事例として、市場メカニズムを用いた市民参加型の支援の可能性があることを示した。
著者
田中 雅夫 柳 雄介 小川 向洋 水元 一博
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

我々は予後が極めて不良な膵癌に対する免疫遺伝子治療に取り組んでおり、これまでに以下の成果をあげた。(1)in vitroにおけるサイトカイン発現の確認:ハムスター膵癌細胞に各組換えウイルス(IFN-γ、GM-CSF,MCP-1)をMOI 0、10、50、100の感染効率で感染させ毎日、7日後まで上清を採集、ELISAにてサイトカインの放出量を測定した、各サイトカインはMOI依存性に腫瘍細胞より放出され、3目目に最高レベルで放出され1週間後には極少量となった。(2)放出されるサイトカインの生物学的測定:IFN-γはvesicular stomatitis virus plaque inhibition assay, GM-CSFはマウス骨髄細胞を用いたcolony forming assay,MCP-1に対してはTHP-1 細胞(human monocyte)を用いた。chemotaxis assayにより測定した。放出された各サイトカインは生物学的活性をもつことが証明された。(3)in vitroにおける腫瘍増殖:24穴プレートの各wellに2x10^3個の細胞をまき2日後にウイルスをMOI0,10,50,100で感染させ細胞数を各群3穴ずつ、24時間おきに4日後まで計測した。IFN-γのみ腫瘍増殖をMOI依存性に抑制した。(4)in vivoにおける腫瘍増殖:6穴プレートに各ウェル1x105の腫瘍細胞をまき2日後にウイルスをMOI 100の感染効率で感染させ2時間後に100Gyのγ線照射を行い、その翌日ハムスターに腫瘍ワクチンとし1x10^6個の細胞を皮下に注入(n=10)、7日後に1x10^5個のγ線照射を行っていない腫瘍細胞を皮下にチャレンジした。腫瘍ワクチンの実験系においては、GM-CSFが1ヶ月後に95%の抗腫瘍効果を及ぼした。MCP-1及びIFN-γは効果が認められなかった。皮下移植腫瘍にてGM-CSFに抗腫瘍効果が認められたので、in vivoでの肝転移に対する効果についてGM-CSF遺伝子組換えウイルスを用いて現在検討中である。
著者
鬼塚 俊明
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

脳磁図研究では、自己の名前、他人の名前、無意味な文字列を視覚呈示し、反応を記録した。健常対照者は、自己の名前>他人の名前>無意味な文字列というパターンだったが、統合失調症者では自己の名前という自己関連刺激に対する特異的な反応が失われていた。さらに、統合失調症、双極性障害、正常対照者の脳磁図反応を記録し、成果の一部を論文発表した(Schizophr Res, Bipolar Disord, PLoS ONE誌など)。脳構造研究では、平成25年度までに合計で、正常対照者131名、双極性障害者23名、統合失調症90名のMRIを撮像した。上側頭回の構造異常は、統合失調症に比較的特異的であった。
著者
橋彌 和秀
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の主要な成果はふたつある。(1)30種の霊長類について、目の形態・大脳新皮質率・群れサイズの要因の相関関係を解析し、ヒトを含む霊長類の目の外部形態の進化に社会的な要因が関与していた可能性をあきらかにした。(2)そのような形態的特徴を持つヒトは、発達初期から、「他者に注目される」ことを強化子として新たな行動を学習可能であることを、生後6か月の乳児を対象とした行動実験から実証的に示した。視線を介した我々のコミュニケーションは、生物学的基盤に立ちつつ、ヒトがヒトたる所以のひとつである学習にも大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。
著者
赤司 泰義 有馬 隆文 趙 世晨 山口 謙太郎 志賀 勉 鶴崎 直樹
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

都市・建築の持続化の観点から環境負荷削減のための要素技術や社会制度の効果的な施策立案が求められている。本研究では、社会動態を包含した都市の全体系を"ハビタットシステム"と定義し、ハビタットシステムのモデル化を通じて都市のCO2排出量を長期に予測するシミュレータを開発した。そのシミュレータを活用して、CO2排出削減対策の導入と普及に応じたCO2排出量削減可能量をケーススタディにより明らかにした。
著者
前田 敏 小島 均
出版者
九州大学
雑誌
九州大學農學部學藝雜誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.33-39, 1959-03

It was said that, in general, foliar-absorbed P-32 moves through the phloem of the stem both upward and downward from the leaf, or ascendes the stem through the xylem and descendes through the phloem. However, it was also reported that, when the radiophosphorus was accompanied by a large amount of water, it was transported in the stem both upward and downward chiefly through the xylem. As the m o re definitive observations on these problems were desirable the authors made researches with the macro-as well as microautoradiography method. Submerging the leaf entirely in a P-32 aq., the radiophosphorus was ab s orbed with relatively rich amount of water through the leaf surface. Then the P-32 movcd upward and downward in the stem ; and the microautoradiograph on the section of stem above the leaf which absorbed the solution showed that the radioactive substance was found merely in the contents of the vessel or in the xylem. The macroautoradiograph of the total stem of the plant and the radioactivity (measured with the G. M. counter) in the ash of leaves of the plant also proved that the radioactive phosphorus moved through the vascular bundle system.葉面吸収後の物質の移行経路は, 一般に師管を通つて上下するか, 或いは道管を経て上り, 師管を経て下るものとされている. しかし, 葉面吸収に際し大量の吸水を伴う場合には蒸散流の影響のため上下向とも主として木部を通ると云う報告があり, 筆者らはこれを microautoradiography によつて検討した. その他 macroautoradiography 及び G. M. counter による組織のradioactivityの測定等の知見から次の様なことが云える. 葉をP-32水溶液につけてP-32と共に大量の水を吸わせると, 水は吸収させた葉から葉柄を経て上方下方に進むが, 此の様な場合には, P-32は根からの上方への移行と同様に大部分道管を通つて上方に移動するものと思われる.
著者
伊東 栄典
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

急増する利用者投稿型コンテンツを,視聴者が与えるタグやコメントを用いて検索する手法を研究した。コンテンツのランキング手法では,コメント内の感情語数に基づくものと,お気に入り登録を2部グラフとして捉えてグラフ構造解析により重み付けする手法を提案した。後者の手法は,将来人気になるコンテンツを早く見つけることが出来る手法である。コンテンツの自動カテゴリ分けでは,単語(タグ)をカテゴゴリと捉え,タグ群を出現頻度および共起頻度に基づき意味階層を与える手法を開発した。階層は非循環有向グラフの形で出力される。しかし意味的な階層化は充分とはいえない。今後も詳細な研究を行う必要がある。
著者
伊藤 裕之 須長 正治 レメイン ジェラード バスチアン
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、視知覚の様々な側面における順応と残効を調べた。たとえば、残像の形成、順応による形の知覚的変化、錯視的運動にあらわれる運動残効などである。我々は、残像は網膜上の光受容器の疲労パタンそのものではなく、脳活動を表すことを残像の形の変化から見出した。そして残像が現れたり消えたりするのは、脳内での視覚的要素間の相互抑制によることを発見した。また、運動残効の実験により、オップアートに見られる流れの錯視が、相対運動の検出によって決定されていることを示した。さらに、繰り返される動きに対するサッカードの学習についても調べた。これらの結果は、順応と残効がいかに脳の活動を知るのに有効かを証明している。
著者
清川 昌一 伊藤 孝 池原 実 山口 耕生 堀江 憲路 菅沼 悠介 尾上 哲治 奈良岡 浩
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は32-30億年前の太古代中期海底堆積物と22億年前の原生代堆積物をターゲットにし,地球の歴史上最も変化が大きいとされる環境変化の記録を地層から紐解いた。1. ピルバラにて地層掘削を行い200mの32億年前の縞状鉄鉱層の掘削に成功した.世界初,この時代の新鮮で連続性の良いコアを獲得した.2.同地区の縞状鉄鉱層の掘削現場の側方層序比較し,比較的浅い海の堆積物であることがわかった.3.掘削コアの化学分析:当時の海の硫黄同位体が現在と類似し,すでに酸素を供給するシステムの可動が確認できた.4.ガーナ,ベリミアン帯において,原生代の海底の証拠地層を復元し,海洋性島弧近傍環境を復元した.
著者
磯辺 篤彦 郭 新宇 中村 啓彦 広瀬 直毅 石坂 丞二 木田 新一郎 加古 真一郎 中村 知裕 万田 敦昌
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

日本南岸における黒潮流路変動が、南岸低気圧の経路に揺らぎを与えることを発見した。冬季東シナ海における浅海部の海面冷却は、これに連動した海面気圧と風系の変化を通して、負のフィードバック機構を持つことを示した。瀬戸内海での海面水温分布によって海陸風が変調すること、大潮・小潮周期の海面水温変化に応じて、海上風も変動することを発見した。以上、縁辺海や沿岸規模の海洋過程は大気過程に影響を与え、場合によって相互作用が成立することを示した。また、植物プランクトンの春季ブルームが海面水温を変化させ、これが低気圧の発達に影響を及ぼすといった、大気ー海洋ー生態系の結合過程を提案した。
著者
中野 三敏 板坂 耀子 渡辺 憲司 松崎 仁 迫 徹朗 今井 源衛
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

「学海日録」の翻字作業は順調に進み、完成した原稿が続々と代表者のもとに寄せられた。出版元の岩波書店によって整理され、活字が組まれるのを受けて、最後まで残る難読箇所の解読のため、代表者及び分担者は岩波書店に借り出されている「学海日録」の原本との照合を行なった。その結果、解読不能として残ったのはほんのわずかとなった。昨年11月に『学海日録』第7巻が岩波書店によって刊行され、以下隔月に続刊されている。3月14日には第3回配本の第9巻が出る。翻字作業と並行して、依田学海の「学海遺稿」その他の詩文草稿類の目録作成にも従事し、それらと「学海日録」、及び吉川弘文館から刊行されている別宅日記「墨水別墅雑録」との比較を行なった。あくまでも「学海日録」読解に資するためであるため、比較対照は不十分に終わったが、詩文と日録を読み比べる時の便は保証され得る。また、学海における詩文と日録の占める位置が互いに補い合う性格のものであることが確認できたのも、幕末・明治の代表的文人の精神生活を知る上で大いなる手がかりとなった。また、「学海日録」が幕末・明治文化史の一級資料たることが改めて認識された。特に明治の文学者達の動向や文学観、作品評価や人間性などにおいて、全く新しい知見を与えてくれることも少くなく、明治文学史の大幅な書きかえを必要とする場合もあることを言い添えておきたい。今後は「学海日録」の一番有効な索引のあり方を模索しつつ、具体化を図ってゆくつもりである。
著者
高木 信宏
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は,フランスの作家スタンダールの死後,その従弟で遺言執行人のロマン・コロンが出版したエッツェル版『パルムの僧院』,ミシェル・レヴィ版『アルマンス』と『カストロの尼』のテクストとそれぞれの初版の本文とを照合してヴァリアントの有無を精査し,『パルムの僧院』についてはエッツェル版に含まれる異文が,1842年2月26日に作家が行った修正を採録したものであることを,書簡,備忘,同小説の作家の手沢本などの網羅的調査をつうじて解明し,その成果を日本スタンダール研究会,フランスの国際スタンダール研究誌等で発表した。

1 0 0 0 IR 内裏改作論

著者
岩永 省三
出版者
九州大学
雑誌
Bulletin of the Kyushu University Museum (ISSN:13483080)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.81-105, 2008-01
著者
重橋 のぞみ (2003) 武藤 のぞみ (2002)
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

情動表出に問題を持つ統合失調症者(以下SC)について臨床実践を用いて検討した。以下、交付申請書の研究実施計画(研究1〜3)に対応させ、今年度の実績を報告する。「研究1」長期入院中のSCに対し、心理劇の関わりとSCの自発性・非言語的情動表出との関係を検討した。セッションの評定とセッションの特徴を分析した結果、過去に実体験があるなじみやすい場面、親和性のある場面、過去の大切な思い出を取り扱った場面において他者に了解可能な適切な情動表出が増すことが示された。(日本心理劇学会第9回発表論文集掲載;2003)。現在、発表内容を論文へまとめ、投稿の準備中である(情動の平板化ある統合失調症者の自己表現と自発性を促すテーマおよび場面設定の特徴;投稿準備中)。なお、心理劇における情動表出評定スケールついて前年度の学会発表を修正し投稿、受理された(心理劇研究印刷中;2004)。「研究2」SSTにおけるSCの会話から情動表出のあり方を検討した。その結果、スキルを習得するだけではなく、安心して自己表現できる場をグループが提供し、体験を伴えるロールプレイ場面を行うことにより、非言語情動表出の適切性が増すことが示された(第23回日本心理臨床学会2004:発表予定)。「研究3」SCの就労支援に対する具体的援助を通し、生活の場におけるSCの情動表出および臨床援助のあり方を検討した。その結果、SCの主体性を重視し、等身大の自己認識を促す関わりが情動表出および就労問題への取り組み方に影響を示す事がわかった(第27回九州集団精神療法研究会発表論文集掲載;2004)。実証研究も継続し、VTR視聴場面におけるSCの情動表出・情動体験について情動平板化の程度の違いから比較を行った(統合失調者の情動平板化が情動表出と情動体験に与える影響:心理学研究修正査読中)。また健常者とSCの情緒的な刺激の受け止め方、情動体験のあり方について検討し(第68回日本心理学会;2004発表予定)、SCは否定的情動体験に健常者は肯定的情動体験へ反応しやすいことが示された。