著者
安田 知子 溝田 康司 小嶺 衛 仲盛 真史
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.175, 2007

【はじめに】<BR> 沖縄理学療法士会には、社会局スポーツ推進部があり、その役割として、理学療法士の立場からスポーツ活動を支援することである。本部の活動は広く県民の健康増進や楽しむべきスポーツ活動時のケガの予防とその対応などに寄与する公益事業の一つと位置づけている。<BR> 今回、高知県理学療法士会からの紹介を受け、韓国プロ野球チームの春季キャンプにおけるコンディショニングサポートを行う機会を得たので、若干の考察を加え報告する。<BR>【経緯】<BR> 平成19年2月中旬に高知県理学療法士会事務局より、沖縄県理学療法士会事務局に以下のような依頼があった。<BR> 1月より高知県下にて春季キャンプを行っていた韓国のプロ野球チームSが2月15日より沖縄でオープン戦を含むキャンプを継続することになっている。高知県理学療法士会は、このチームから依頼を受け、1月中旬から2月中旬までの間の2週間、夜間練習後にコンディショニングのサポートを行っており、引き続き沖縄でもできないかという相談を受けたので、対応をお願いしたいということであった。<BR> チームはすでに15日に沖縄入りしており、早急な対応が必要となり、会長の勅命とともにスポーツ推進部担当理事、部長の承諾の基、活動を行うこととなった。<BR>【期間および活動内容】<BR> 平成19年2月15日から3月8日までの沖縄キャンプ期間中に、夜間練習後のコンディショニングの対応が可能であったのは11日であった。内容は、チームトレーナーの指示を受け、主として疲労回復を目的としたマッサージを含む徒手的療法を行った。対応選手数は、延べ38名で、ポジションの内訳は、投手19名、内野手7名、外野手6名、不明6名であった。<BR> サポートに対応した県士会員は、14名であった。終了後アンケートは、14名中10名から回答を得た(回収率71.4%)。その結果、協力者の平均経験年数は2.8年であった。また、全員が活動への興味から協力を希望し、7名が今後も同様な活動があれば積極的に協力したいと答えた。しかし、今回の貢献度としては、不満足であると答えた者が半数の5名いた。さらに言葉が通じないことに対する不安があるとした者が7名、どのように対応したらいいかわからないとした者は4名であった。<BR>【考察】<BR> 沖縄県は、年間を通じた温暖な気候のため各種スポーツの合宿が盛んに行われている。プロ野球について言えば、今年も日本が1軍8球団2軍4球団、韓国は3球団が春季キャンプを行っている。今回のようなプロのスポーツチームのサポートは日ごろの臨床とは異なった技量が要求され、我々も対応に苦慮するところではある。しかし、沖縄県の県外に対する公益性を考えた時、我々も関与できる可能性を示唆したものと考えられる。対応チームが韓国であったことも考慮すれば、国際的な貢献もあるものと考えられ、今後も同様の依頼があれば積極的に協力すべきと考える。
著者
川島 由希 大塚 もも子 金子 秀雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.164, 2009 (Released:2009-12-01)

【目的】 急性期では肺合併症予防のため,腹臥位や側臥位への体位変換が行われている.しかし,その時の横隔膜運動の変化についてはあまりよく知られていない.MRIや超音波診断装置を用いた先行研究において側臥位や腹臥位の横隔膜運動の変化が示されているが,その報告は少なく,これらの体位を同時に比較した先行研究はない. そこで今回の研究では,健常な人において,安静呼吸での様々な姿勢の中での横隔膜運動について超音波画像を用いて把握することを目的とした.【方法】 健常な男子学生12名,平均年齢22.1±0.79歳,平均身長1.74±0.05m,平均体重63.8±7.4kgを対象とした.対象者には内容を十分に説明し,同意を得た. 安静呼吸時の横隔膜運動を測定に超音波診断装置(Bモード,3.5MHz),リニア式プローブ(8.0cm)を使用し,1)背臥位,2)左側臥位,3)腹臥位の3条件で行った.各条件において,一回換気量と呼吸数の測定にスパイロメータを使用した. 対象者はフェイスマスクを装着し,マット上に安楽な姿勢をとり,測定肢位の順番はランダムに決定した.プローブは右中腋窩線上に置き,モニター上にて横隔膜の境界が表出できるようプローブの位置や超音波診断装置のゲインを微調整した.その後,対象者が安静呼吸であることを確認し,超音波画像をビデオカメラに録画した.各測定は同一検者が行った.録画した超音波画像をパーソナルコンピュータに取り込み,動画ソフト上にて安静呼気終末,安静吸気終末における静止画像を抽出,解析し,横隔膜の頭尾方向の移動距離を1mm単位で測定した.3呼吸分の平均値を代表値とした. 各姿勢別に横隔膜の移動距離と一回換気量(TV),呼吸数(RR)を比較するために,Tukey法による多重比較を行った.有意水準は5%とし,それ未満を有意とした.【結果】 横隔膜の移動距離は背臥位,腹臥位に比べ,左側臥位では有意に小さかったが(p<0.05),背臥位と腹臥位ではほぼ同等であった.横隔膜の移動距離が最も大きかった姿勢を対象者別にみると,背臥位,腹臥位でそれぞれ6名であった.このときTV,RRに有意差はなかった.【考察】 左側臥位では横隔膜の移動距離が有意に小さくなった.側臥位での横隔膜運動は重力の影響により下側が大きくなる.そのため上側では静水圧が減少し,右横隔膜の移動距離が減少していたと考えられる.背臥位と腹臥位での横隔膜の移動距離はほぼ同等であり,MRIを用いて比較した先行研究と同じ結果となった.しかし,背臥位と腹臥位における横隔膜運動の変化は対象者によって異なり,個々の呼吸パターンに影響されていることが考えられる. 今回の研究により,健常男性における背臥位,腹臥位時の横隔膜運動の変化は対象者によって異なることから呼吸パターンの変化は個別に捉える必要があると思われた.
著者
伊藤 良子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.20, 2008

【はじめに】<BR> 当院の療養病棟では『できるADL』と『しているADL』に差を認めた。そのため、2007年度よりADLカンファレンス(以下、ADLcf.)を導入し、セラピストと病棟スタッフとの間で患者様の情報共有を深める試みを行った。今回、ADLcf.により病棟と取り組んだ症例を通して連携を図るための課題が見えたので報告する。<BR>【活動内容】<BR> 療養2病棟と障害者病棟の合わせて3病棟に対してそれぞれ週1回各担当セラピストと各病棟スタッフ(最低1名)にて情報交換やセラピストの評価を基に検討や伝達を行う。病棟スタッフはADLcf.での情報を共有するために資料作成を行い病棟内へ伝達する。ADLcf.の対象患者様としてリハ介入者、非介入者に分けられ、介入者に対しては主にセラピストから提示し『しているADL』へつなげるために病棟スタッフへ伝達していく。非介入者に対しては病棟からの『しているADL』の課題について依頼があり、セラピストが評価し、より良い介助方法を検討・伝達し、次の週に再評価していく。<BR>【症例紹介および経過】<BR>症例1:70歳代、女性、リハ介入有、A2レベル。四肢熱傷。手指熱傷(III度)により可動域制限を認め、食事以外のADLに支障を来す。また、症例は依存的で病棟スタッフの介助を求められるため、過介助の状態であり『できるADL』と『しているADL』に解離を認めた。そのため、セラピスト側から『できるADL』を提示し情報交換を行った。また、杖歩行へ移行期のため介助ポイントの伝達を実施した。再評価にて杖歩行が定着し、ADLの介助量が減ったとの意見が得られた。<BR>症例2:70歳代、男性、リハ介入無、Cレベル。右被殼出血後遺症、陳旧性左被殻出血。筋緊張が高く、安楽な臥位・坐位がとれず、ベッド上やリクライニング車椅子でのずり落ちが目立ち、ポジショニングが困難な状態であった。そのため、セラピストが評価し、臥位での筋緊張の緩め方、ベッドや車椅子坐位のポジショニングの検討・伝達を実施した。方法をセラピストが提示し、写真を用いて病棟スタッフ間の伝達を実施したが、身体機能の把握が困難であり定着しなかった。そのため、再度伝達ポイントを絞り、実技を交えながら伝達を行ったことで身体機能の把握ができるようになった。<BR>【まとめ】<BR> 『できるADL』を提示することによりセラピストと病棟スタッフとの間で患者様の情報共有が深められ、対象患者様の『できるADL』と『しているADL』の差を以前より埋めることが可能となった。今後ADLcf.をより有意義なものにするために、セラピストはリハ非介入者に対して即時に評価・伝達を行う能力を高め、病棟はスタッフ間での伝達を積極的に行っていき、介助方法の浸透を進めていくことが課題となる。これらの課題を考慮し更に病棟との連携を深め、より良い介助方法の提供に努めたい。
著者
百瀬 あずさ 永井 良治
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.113, 2009 (Released:2009-12-01)

【目的】 脳血管疾患による片麻痺患者を担当し,前鋸筋と腹筋群を中心に理学療法を実施することで肩関節屈曲の可動域やADLに改善がみられた.このことから,上肢挙上動作での前鋸筋による肩甲骨の上方回旋を生じさせるためには,腹筋群による胸郭の安定性が必要ではないかと考えた. そこで,胸郭の安定性に着目し,上肢挙上動作における前鋸筋と腹筋群の筋活動の関係について研究を行ったので報告する.【方法】 対象者は健常男性6名(年齢:21.7±0.5歳,利き手:右)とした.対象者には研究内容を説明し同意を得た.開始肢位は骨盤中間位の坐位姿勢で,肩関節屈曲90度,肘関節伸展位とした.体重の0%,5%,10%の重錘を前腕遠位部に負荷し, 5秒間姿勢を保持した.2回ずつ行い,積分値を算出した.被験筋は前鋸筋,外腹斜筋,腹直筋とした.測定機器は表面筋電図(DELSYS The Bagnoli EMG System)を用いた.徒手筋力検査の肢位において抵抗を加え各筋の最大随意収縮(Maximum Voluntary Contraction,以下MVC)の積分値を算出した.各筋のMVCの積分値を100%とし,各動作における積分値で除した%MVCを算出した. 統計的処理は,一元配置分散分析,多重比較検定,ピアソンの相関係数の検定を行い,有意水準を5%未満とした.【結果】 前鋸筋と外腹斜筋の%MVCは負荷量0%と比較して10%で有意に高値を示した.腹直筋では有意差を認めなかった.また,前鋸筋と外腹斜筋の筋活動,外腹斜筋と腹直筋の筋活動において正の相関を認めた.前鋸筋と腹直筋の筋活動においては相関を認めなかった.【考察】 前鋸筋の起始部である胸郭の安定性が十分な状態で前鋸筋の求心性収縮が生じると,肩甲骨上方回旋が起こる.しかし,起始部である胸郭の安定性が不十分であると,胸郭の反対側への回旋が生じることになる.つまり,同側の外腹斜筋により胸郭が安定することで前鋸筋による肩甲骨上方回旋が可能になると考えられる. 本研究では負荷量増加に伴い前鋸筋と外腹斜筋の活動が増加し,正の相関を認めた.このことから,上肢挙上動作において負荷量増加による前鋸筋の活動増加に伴い,前鋸筋の起始部である胸郭を安定させるために同側の外腹斜筋の活動も増加したと考えられる.次に,前鋸筋の活動増加時において腹直筋の活動増加,相関がない理由を筋線維の走行から考える.前鋸筋と外腹斜筋においては,筋線維走行が一致しているが,前鋸筋と腹直筋に関しては一致していない.このため,負荷量増加により前鋸筋の活動量が増加すると,筋線維走行が一致している外腹斜筋の活動は増加するが,腹直筋の活動は増加せず,正の相関を示さなかったと考えられる. 本研究から,上肢挙上動作における肩甲骨の上方回旋には同側の外腹斜筋による胸郭の安定性が必要であることが確認された.
著者
佐藤 公明 原 寛道(MD)
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.67, 2006 (Released:2007-05-01)

【はじめに】現在筋緊張緩和の方法には幾つかの方法があり、当園ではストレッチブロック法(以下SBM)を継続的に行っている(第19回九州PT・OT合同学会にて発表)。今回SBMにより下肢の筋緊張が緩和され、作業の効率が上がった症例を経験したので、考察を加え報告する。【対象】男性38歳、診断名は脳性麻痺(痙直型四肢麻痺)。ADLは全て自立されている。移動は、電動車椅子を使用している。仕事内容は椅子に座っての品物の袋詰め作業で仕事の頻度は週に5日、計16時間である。SBM施行後の効果の持続は約4日間である。【方法】ストレッチブロック前後に袋詰め動作を行ってもらった。(方法1)ふりかけ3袋を封筒に入れる作業を行ってもらう→1つ作るのにかかる時間を計測した。(方法2)ふりかけ3袋を封筒にいれる作業を5分間行ってもらう→5分間作業の持続性を調べた。その動作の粗大運動をデジタルビデオカメラで撮影し評価した。仕事に関する内容については症例より情報収集した。【結果】方法1について以前はSBM前では49秒、SBM後は25秒と大幅に短縮した。現在はSBM前で26秒、SBM後は13秒とさらに短縮した.方法2はSBM前では10袋出来たのに対して、SBM後では15袋出来るようになった。袋詰め作業に関してSBM前では、左手の手背部で封筒を押さえており、押さえる位置は、封筒の口近くを押さえている。SBM後では、指先で押さえられるようになっており、押さえる位置は、封筒の中央部近くを押さえている。Popliteal Angle(以下PoA)はSBM前後で右のPoAは50度から30度へ、左のPoAは55度から35度へ変化した。手指の動きについて左母指以外の4指同時の伸展動作では、SBM後は完全伸展が可能になった。【考察】SBMを施行することでハムストリングスの筋緊張が緩和した。このことが骨盤を起こしやすくなるなど座位の安定につながった。また体幹や上肢に見られていた過剰な筋活動が無くなり、本来症例が持っている体幹機能を発揮しやすくなった。その事が封筒の中央部を指尖で押さえるなど、両上肢の操作性に繋がった。結果として、袋詰め作業時間の大幅な短縮が見られた。そのことが作業効率の向上に繋がったのではないかと思われる。さらに筋緊張緩和が継続することで、作業時間の短縮も見られた。症例の実際の仕事においても筋緊張の緩和によって、1時間に50個ほどしかできなかったのが、100個作れるなど実際の場面においても向上している結果ともなった。筋緊張緩和によって楽に作業が出来るようになった事で、仕事のモチベーションが向上し、現在も仕事を継続されている。【まとめ】今回、実際に症例が筋緊張の高い中で、努力的に仕事をしていたのか知る機会となった。また筋緊張が緩和する事が症例にとっていかに楽に仕事ができ、高い満足度を得る結果ともなった。今後もこの結果を継続させていき、日々仕事が充実して行えるような支援をしていきたいと思っている。
著者
川床 裕香 植野 拓 本多 亮平 太田 祐子 塩貝 勇太 小峠 政人 大和 枝里 永淵 郁 森松 明彦
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.138, 2008

【はじめに】<BR> 生態心理学領域において視覚情報が身体にもたらす影響が論じられており、臨床上、周辺視野内の情報が患者様の多様な身体反応を引き出す場面をしばしば経験する。側方にテーブルを設置すると同側へのリーチ距離が有意に延長したという先行研究報告もあり、視野内の物的環境を手がかりに身体にも変化をもたらすことがうかがわれる。<BR> 今回、周辺視野内のテーブル設置の有無やその設置条件の違いで前方リーチ距離や自覚的安定感に影響があるかを測定・検証し、リハビリテーションアプローチへの展開の可能性を検討する。<BR>【対象】<BR> 健常者44名(男性15名、女性29名、平均年齢26.04±4.22歳、平均身長161.79±9.22cm)を対象とした。<BR>【方法】<BR> 被験者は閉脚裸足立位で、両肩屈曲90度・肘伸展・前腕回内位の開始肢位から足底全面接地のまま水平方向に前方リーチを行い、TOEI LIGHTファンクショナルリーチ測定器T-2795を用いて、両中指を指標に測定を行った。<BR> 測定環境は、前方10m空間内にテーブル、測定器以外の視覚的要素の無い状態を設定した。<BR> 測定条件は、2回の前方リーチ練習を行った後、テーブル設置なし、テーブル設置ありで高さ2通り(膝蓋骨・大転子)、足尖からの距離2通り(30cm・60cm)の計4通り、合わせて5条件で行った。また、測定を行った後、自覚的にはどの条件下がもっとも前方リーチが行いやすかったかを、被験者に聴取した。<BR> 各測定条件下でのリーチ距離の比較についてはFriedman順位検定後多重比較検定(Bonferroni法)を、自覚的安定感の比較についてはカイ2乗検定を用いて統計解析を行った。<BR>【結果】<BR> テーブルの有無やそれぞれの設置条件間において、リーチ距離や自覚的安定感に有意差はなかった(p>0.05)。<BR>【考察】<BR> 今回の検証では、テーブル設置の有無や設定条件にかかわらず、前方リーチ距離や自覚的安定感の間には有意差はなかった。各々の設定条件は、被検者個々人の身体運動能力や主観に一律の影響を与えるような周辺視野情報とはなり得なかったと考えられる。リハビリテーションアプローチとして視覚情報を用いるとき、個別性を考慮した介入が必要であることが示唆される結果となった。今後も、臨床に活かすために他のテーブル設置の条件などを検討し、臨床場面への応用の糸口を探っていきたい。
著者
出口 友喜 田平 隆行 友利 幸之介 長谷 龍太郎
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.123, 2004

【はじめに】<br> 線条体黒質変性症(以下、SND)を呈するK氏は、常に在宅復帰をしたいという希望があり、OTRはADL訓練や介護保険制度を活用しながら支援を行ってきた。しかし、進行性疾患を呈するK氏に対し、問題点に焦点を置いた関わり方に違和感を覚えはじめていた。そこで今回の入院を機に、OTRはK氏に対し自分の疾患に対しどう思い、これからどうしていきたいのか時間をとって共に検討していく必要があると考えた。そこで今回はK氏を主体とした対話を行いながら、作業選択を行ったのでここに報告する。<br>【K氏が5度目の作業療法にやってくるまで】<br> K氏は66歳で、6歳年下の妻と2人暮らしであった。4年前にSNDと診断され、症状は徐々に進行している。診断については告知を受け、現在構音障害のためコミュニケーションに時間を要し、 ADLについては食事以外は全介助の状態である。性格は穏やかであり、自宅ではパソコンで趣味の一つである囲碁ゲームや自分史を作成していた。しかし、今回IV度の褥創発生に伴い、座位どころか臥位でも体位変換を要し、趣味活動は全くできなかった。一方、主介護者の妻は「一度決めたことは、一生懸命する」と自ら語るほど、まっすぐで明朗活発な方である。また、K氏の介護を行いながらも、息抜きは必要と、月1回水彩画の教室には通っている。<br>【K氏の人生観・価値観の共有のための対話】<br> OTRは、これまで聴取していたK氏の生活史を、K氏の価値観を共有するために、傾聴しながら対話する姿勢をとった。K氏は、幼い頃に母を亡くし、小学校に入り父が再婚した。しばらくして、父の会社が倒産し継母の郷里で高校生まで過ごすこととなったが、移り住んでからの生活は楽ではなかった。高校卒業後、貨物船の船員として約40年間も働いており、1年間の2/3は海と外国で過ごしていた。異国を旅した話を楽しそうにしているK氏は、人との関わりを好む事に加え、好奇心旺盛で行動力もあったのだろう。<br>【提供する作業から共に考える作業へ】<br> その後、今後の生活の場や、できるようになりたいという作業についてK氏は「家に帰りたい。でも妻がきついと言えば施設に行かないと行けない」と述べた反面、「できれば自分で家の中を歩き回り、風呂に入ったり、顔を洗ったりしたい」という希望を述べた。これに対しOTRはK氏の今後に正面から向き合うために、それらの作業が将来的にも困難であることを説明した。すると、K氏は自分の病気が完治するものではなく、できなければ困るものではないことを答えた。K氏は自分の思いを自ら声に出してOTRと確認しあうことで、進行し続ける疾患への不安から解放されたかったのではないだろうか。その後、セルフケアに関して再度、具体的に聞いていくと「妻が車椅子へ移す時、少しでもいいから、足に力が入ればいいと思っている」と答えた。そこで、褥創の完治後に、スライディング式の移乗方法で練習を行うこととした。次に、新たに社会に対してやってみたい作業については、K氏は昔から「長崎の観光ガイドをやってみたい」という夢があることを教えてくれた。これまでの会話の中でセルフケアや趣味についてはよく話をしていたが「社会」というテーマで会話をしたことはなかった。ガイドについての具体的な計画は聞かれなかったため、実際にその場に行ってガイドを行うことは困難であると思い、パソコンでガイドマップを一緒に作ることを提案した。すると K氏は、「それはいいアイデアですねぇ」とはっきりとした声を出し、どの地域のマップを製作するのか、写真の取り込み方はどうしようかなどと、これまでにない主体的な姿勢をみせた。またこのことを妻に伝えると、「夫らしい一面を見れた」と喜び、K氏が見ず知らずの観光客のガイドをかって出て、一緒にお酒まで飲んで帰ってきていたというエピソードを教えてくれた。OTRがK氏の担当になってから4年が経過しようとしていた。<br>【考 察】<br> 今回OTRは、K氏との対話の中からK氏の価値観を共有し、K氏の夢であった長崎のガイドをするという作業を共に発掘することができた。この作業は、「夫らしい一面を見れた」という妻の言葉からも感じ取ることができるように、病気の中に埋もれていた本来のK氏を引き出しつつ、今後に関しても、これまでの医学モデル的視点にはなかった別の視点を提供していると考える。 F.Clarkは、「生存者(患者)が作業的存在としての感覚を取り戻すために、セラピストはその人が以前に構築してきた道や橋と確実に結びつくような支援を行う必要がある」と述べている。今回の支援では、K氏の物語を理解することこそ、K氏が作業的存在に気づくきっかけであり、作業療法において重要なリーズニングであると考える。
著者
新垣 康子 原 寛道
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.119, 2005

【はじめに】<BR>今回、側弯変形の進行などにより座位保持装置が不適合になった症例に対して、楽に座位がとれることを目標に新しく座位保持装置を作製した。<BR>【症例紹介】<BR>24歳、男性。脳性麻痺 (痙直型四肢麻痺)、高度脊柱側彎変形 (右凸胸腰椎側彎 cobb角105度)、両股関節脱臼、座位保持不能、大島分類4、電動車椅子とスプーン操作以外はほぼ全介助。<BR>【車椅子座位・姿勢評価】<BR>リクライニング式普通型車椅子にヤマハ電動ユニットJW-1を装備。その上に座位保持装置 (モールド型)を装着。頭部は円背により前方へ突き出ており、脊柱はS字カーブ(体幹上部左凸、下部右凸)の側弯変形があるが可動性は見られる。骨盤は左挙上で拘縮、下肢は可動域制限があり、左踵部に褥創あり。座位保持装置の不適合によって左側への倒れ込みが大きくなり、電動車椅子操作や食事動作においてreachがしづらい、周囲が見渡しにくいなどの支障を来していた。<BR>【経過】<BR><問題点1>頭部・体幹が左側へ倒れ、円背により頭部は前方へ突出している。左踵に褥創あり。<BR><検討1>骨盤の形に合わせて座面の左側を高くし、体幹の凹部に合わせ凸型クッションを作製した。また、リクライニングにより背面支持を増やし、下腿は全面支持で踵を免荷した。<BR><結果1>頭部の正中位保持が可能となり、座位姿勢の安定、視界の拡大、reach範囲の拡大が見られた。また、踵部の褥創も治癒した。しかし、約1ヶ月後に新たな問題点が生じた。<BR><問題点2>座面のたわみと過度な補高により、右大転子部に疼痛が発生。脊柱凹位置が日によって変化する為、凸型クッションに不適合が生じた。採型時と乗用時のリクライニング角度が異なったことで、頭部・体幹の左側への倒れ込みが生じた。<BR><検討2>座面のたわみを解消し、補高の傾きを小さくした。また凹位置の変動に対応できるよう凸型クッションを取り外し可能にし、加えてテーブル左側に押さえパッドを取り付けた。<BR><結果2>右大転子部の疼痛は消失、長時間の座位が可能となった。凸型クッションとテーブル上パッドの補足により、左側への倒れ込みを大幅に改善することが出来た。<BR>【考察】<BR> 症例の場合、採型時のリクライニング角度が起き過ぎていた為、途中でリクライニング角度を変更する必要があった。結果、背面や体幹側方のパッドの形状が変化し、左側への倒れ込みが生じたが、凸型クッションの工夫やテーブル上パッドの補足により、姿勢調整が可能となった。今回、症例の座位保持装置作製を通して、一カ所が変わることで周辺部位も変化する為、基盤となる採型や仮合わせ時に十分な時間をかけて検討していくことが重要だと分かった。今後の課題として、姿勢は常に変化しうるものということを念頭に置いた上で、経過を見ながらその都度、対処・再検討を重ねてフォローしていきたい。
著者
小樽 麻美 溝口 記広 小柳 傑 陣貝 満彦 渡邊 佳奈 一ノ瀬 真弓 赤垣 武史 熊谷 賢哉
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.52, 2006 (Released:2007-05-01)

【はじめに】内側縦アーチが低下した状態は、足部や膝関節の障害を生じる原因となっており、下肢や骨盤などに及ぼす影響についての報告も散見される。また臨床現場において、内側縦アーチが低下した症例で股関節の関節可動域制限も生じている例を経験することがあった。そこで今回は、内側縦アーチが低下した状態が股関節に及ぼす影響について、内側縦アーチ正常群との比較検討を行った。【対象と方法】対象は健常成人5名(男性2名、女性3名、平均年齢23.4±2.4歳)の内側縦アーチ正常群(以下、正常群)と、健常成人5名(女性5名、平均年齢25±3歳)の内側縦アーチ低下群(以下、低下群)とした。内側縦アーチはアーチ高率を算出し、毛利らの先行研究を基に11%以上を正常群、11%以下を低下群とした。検査項目は、1)開排可動域:一方の下肢を伸展し、反対側の下肢のみを開排した。この時、開排した側の踵部が伸展側の膝関節に接するように位置させた。この状態で、脛骨外側顆と床との距離を測定した。2)股関節関節可動域3)Q-angle 4)股関節内外転筋力比:HHD(日本メディックス社製パワートラックII)を用いて測定を行った。測定方法は、Danielsらの徒手筋力検査に準じて、側臥位にて股関節内・外転筋をそれぞれ測定した。抵抗は、大腿の最大遠位部にHHDを当て、各筋の等尺性収縮の筋張力を測定した。測定は各筋において3回行い、その平均を測定値とした。股関節内・外転筋それぞれの測定値において外転筋筋力を内転筋筋力で除し、股関節内外転筋力比とした。【結果】股関節内旋可動域の平均値は正常群で41±14°、低下群では53±12°と低下群で大きかった。また、開排の平均値では正常群で4.6±2.9cm、低下群では6.05±2.05cmと低下群で大きかった。Q-angleの平均値では、正常群で10.4±9.6°、低下群で17±18°と低下群で大きかった。筋力については、股関節内外転筋力比の平均値が正常群で1.55±0.79、低下群で1.23±0.25と低下群において小さかった。【考察】今回、低下群において開排可動域が制限されるという結果が得られ、股関節内旋角度やQ-angleについても平均値が大きかった。内側縦アーチが低下することにより後足部が回内し、下腿内旋、膝関節外反し、股関節が内転・内旋位をとるアライメント変化がおこる。その結果、開排制限が生じることが推察される。また、筋力に関しては低下群において股関節のアライメント変化により股関節外転・外旋筋の筋力が低下し、内外転筋力比が減少したと推察される。本研究において、内側縦アーチの低下が下肢アライメントや股関節周囲筋の走行に変化を及ぼし、股関節関節可動域や股関節筋力に影響を及ぼしていることが考えられた。今後は、本研究結果を基に臨床でのアプローチにおいて活かしていきたいと考える。
著者
日高 里菜 森山 佳代 山浦 誠也 溝田 丈士
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.168, 2016

<p>【はじめに】</p><p>我々は,九州理学療法士・作業療法士合同学会2015 in大分にて肩関節挙上時における肩甲上腕関節・肩甲胸郭仮性関節の動きとその他の要素の関連性を調査し,①肩甲上腕関節の可動は約95°であり,肩甲棘と上腕骨長軸が一直線になる付近で運動を完結すること,②肩甲上腕関節と肩甲胸郭仮性関節で獲得される可動範囲は約150°であること,③最大挙上位を獲得するためには約10°の脊柱の可動が不可欠であることがわかった.しかしながら,対象を健常男性としていたため今回は対象を健常女性とし,肩関節挙上時における肩甲上腕関節・肩甲胸郭仮性関節の動きとその他の要素の関連性を調査し,評価治療の一助とすることを目的に本研究を行った.</p><p>【方法】</p><p>本研究の趣旨を説明し,計測に同意を得た肩関節に愁訴のない健常女性10名10肩(右肩のみ),年齢28.2±3.9歳を対象とした.計測は,頭部・胸郭下部・腰椎および骨盤帯を固定した状態(以下,固定あり)とフリーの状態(以下,固定なし)にて端座位で自由挙上を行わせた.角度は,固定あり固定なしともに肩甲骨面からみた最大挙上角(以下,最大挙上角)と上肢下垂位・最大挙上位でのSpino-Humeral Angle(肩甲棘と上腕骨のなす角:以下,SHA)を測定した.SHAは,肩甲棘三角の外側頂点と肩峰角を結ぶ線を基本軸,上腕骨長軸を移動軸とした.このデータをもとに,最大挙上位SHAから上肢下垂位SHAを減じた値を肩甲上腕関節角(以下,GHA),最大挙上角よりGHAを減じた値を肩甲上腕関節以外の動き(Another Angle:以下,AnA)とした.固定の有無で①GHA,②最大挙上位でのSHA,③最大挙上角,④AnAを比較した.統計処理にはWilcoxonの符号付順位和検定を用い,有意水準は5%未満とした. </p><p>【結果】</p><p>固定ありと固定なしで①GHAは93.3±1.7°と94.3±2.3°であり有意差はなかった(p>0.05).②最大挙上位でのSHAは184.3±1.3°と185.0±2.3°であり有意差はなかった(p>0.05).③最大挙上角は166.4±8.3°と176.3±10.0°で固定なしが有意に大きかった(p<0.01).④AnAは73.1±8.2°と82.0±9.8°で固定なしが有意に大きかった(p<0.01).</p><p>【考察】</p><p>健常女性での自由挙上における肩甲上腕関節の可動範囲は約94°であり,最大挙上位でのSHAは約185°であった事から,肩甲棘と上腕骨長軸が一直線になる付近で運動を完結することがわかった.これは,最大挙上位では骨頭が関節窩に対し下方へ突出するため,関節下方の軟部組織が緊張することで肩甲上腕関節の動きを制限し可動を終えることが推察される.また,固定の有無で最大挙上角に差が生じたことは,肩甲上腕関節と肩甲胸郭仮性関節での可動範囲は約166°であり,それ以降は脊柱の動きにシフトすることが推察される.つまり最大挙上位を獲得するためには,脊柱の伸展・側屈で約10度の可動域を確保する必要がある.</p><p>【まとめ】</p><p>今後の課題としては,n数をさらに増やし男女間での比較を行い,肩関節挙上時の肩甲上腕関節・肩甲胸郭仮性関節とその他の要素の関連性における性差を調査していきたい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は当院の倫理委員会の審査・承認を受けて実施した.また,ヘルシンキ宣言に基づく倫理原則および計測研究に関する倫理指針に従い,研究計画を尊守して行った.対象者には,研究に先立ち研究内容の説明を文書および口頭にて行い,研究参加同意書への署名と提出を持って,研究に参加する旨の同意を得た.なお,製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費,株式,サービス等は一切受けておらず,利益相反に関する開示事項はない.</p>
著者
加藤 裕幸 中島 聖二 嶋田 靖史 内田 有哉
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.47, 2010

【はじめに】<BR>平成18年度の医療・介護報酬同時改定を機に、介護保険による個別・短時間型通所リハビリテーションを開設した。開設後3年が経過し、これまでの運営経過と課題について報告する。<BR>【経過】<BR>平成18年9月、サービス提供時間:3時間以上4時間未満。午前と午後の2クール制(1クール定員20名)で開設。平成19年9月、サービス提供時間3時間30分から20分短縮。平成20年4月、1クール定員25名へ増員。平成21年4月、制度改正に伴う利用調整実施。平成22年4月現在の人員配置:専任医師1名、理学療法士5名、准看護師1名、介護福祉士2名、相談員1名、介護・送迎補助員3名体制。<BR>【登録者状況】<BR>開設から平成21年12月までの40ヶ月間登録者総数5018名(月平均登録125名)。平均年齢73.2歳(男性55%、女性45%)。要介護区分割合:要支援(52%)要介護1(20%)要介護2以上(28%)。疾患割合:脳血管疾患(56%)運動器疾患(32%)難病他(12%)。送迎対応率:(83%)。<BR>【提供サービス】<BR>食事、入浴サービスなし。送迎は範囲限定対応。個別トレーニングの方針は、1)立位歩行等の抗重力活動の促進 2)日常生活動作トレーニング 3)個人活動、趣味活動の促進支援。個々のニーズに応じた柔軟な対応を実施してきた。<BR>【現状と課題】<BR>利用者は、第2号被保険者と前期高齢者が47%を占め、要介護区分では、要支援者と要介護1の者が全体の72%であった。特に、新規利用依頼の7割は要支援者であり、そのほとんどが新規の要介護認定後、心身機能・ADL維持改善、疼痛緩和などを目的として、初めて介護保険サービス利用に至るケースであった。利用の主目的以外にも個別の課題として、家事炊事・入浴・床上動作練習、家族への介護指導、住環境福祉機器調整、復職調整、外出旅行参加促進などにも随時対応し、ADL拡大に努めてきた。その結果、利用終了者は登録者総数中105名、その内「改善・目的達成」による終了者は29名(28%)で、すべて要支援と要介護1区分の利用者であった。要介護2以上の利用者も要介護度悪化防止は認めているものの、利用継続を希望され終了者は少なかったが、認知症を認める利用者は適応の見直しを要すことが多く、他のサービス移行を進めた。基礎疾患の悪化により終了となる場合も多く、通所での健康観察だけでなく、利用効果を上げていく為にも、利用目的・課題を明確化し、ご家族、主治医、ケアマネージャーとの情報交換・連携強化が必要と考えられた。また、送迎では対応できない地域もあるのが現状で、特別便を組むなど送迎範囲拡大に努めてきたが、対応率は8割程度に留まっている。<BR>【まとめ】<BR>当院、個別・短時間型通所リハビリテーションの3年間の運営状況を報告した。短時間で個別性の高いプログラムを推進する事で、介護予防効果は認めていた。しかしながら要介護度の軽度者に限定される傾向や介護度の高い利用者、認知症利用者への介護度改善への取り組みは今後の課題と考えられた。
著者
生嶋 佳子 坂下 竜也 山本 剛 久保田 啓一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.141, 2009

【はじめに】<BR> 不慮の事故により心身に重度な障害を持った児に急性期から在宅復帰まで関わる機会を得た。在宅に帰すにあたり、両親の不安要素となる状態悪化時の対応が重要な課題であった。そのため両親への指導、訪問サービス等の社会資源の準備を行うとともに、症例の移動手段として人工呼吸器・酸素ボンベ搭載型のバギーを作製した。これらの取り組みを通じ、在宅生活での両親の不安解消の一助となり得たため報告する。<BR>【症例】<BR> 0歳2ヶ月、男児、低酸素脳症。自宅にて心肺停止状態となり当院救急搬入。諸検査より臨床的脳死状態と診断。リハビリテーション開始時よりJCS300、人工呼吸器管理、弛緩性四肢麻痺を認めた。経過中、肺炎、感染症等を併発し全身状態の悪化が度々みられた。両親の自宅退院への強い希望があり、主治医の判断のもと入院14ヶ月目に自宅退院への方向性が決定される。<BR>【退院前準備】<BR> 両親への指導として吸引、気切カニュラ交換等を医師や看護師が行い、理学療法士、作業療法士により姿勢管理や排痰の指導を行った。また身体障害者手帳を申請し訪問看護等の準備をすすめた。退院後の状態悪化時には速やかな病院搬送が必要であり、その移動手段として人工呼吸器・酸素ボンベ搭載型バギーを考案。退院前訪問にて居室間取り・段差の確認を行い、介護タクシーの車内寸法を測定し、配置場所やサイズ調整等を行った。両親の要望をふまえ、各々のスタッフの意見を取り入れながら仮合せを数回行い納品に至った。その後、外出や外泊訓練を行い、入院22ヶ月目に自宅退院となった。<BR>【在宅での生活】<BR> 退院後は訪問看護・リハビリや医師による訪問診療を実施し、定期的に症例の状態を確認している。バギーは居室内に入れ、常時架台に人工呼吸器や酸素ボンベを搭載したまま寝台の横に設置し、機器類を使用している。一度急変にて当院へ搬入されたが、予め機器類を搭載していたことで余分な取り付け作業等が省け、迅速な対応にて搬送が可能であった。<BR>【まとめ】<BR> 症例は入院中に肺炎、感染症を併発し何度も生命的危機に直面した。そのため在宅へ帰すにあたり最も危惧されたことは全身状態悪化時の対応であり、両親の最も大きな不安要素でもあった。そのため移動手段として人工呼吸器・酸素ボンベ搭載型バギーを作製し、常時機器類を搭載し使用する環境設定を行なった。実際に退院後に急変にみまわれたが、それらの事前準備にて両親共に落ち着いた対応できていた。そのことが現在では在宅生活での自信にも繋がっている。また、症例の体調や気候が良い時には近所の公園にバギーで外出するなど家族で余暇活動を行う余裕も出来てきている。「一緒にいることで充実した日々を過ごしている」と退院後に母親は語っており、当初抱えていた不安の解消と充実した生活への支援へとなり得たものと考える。
著者
大橋 光
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.74, 2005

【はじめに】当施設では、主に自分らしく穏やかに日々を送れる様に援助することを目標にケアを行っている。<BR>今回その中に作業療法士として関わる機会を得て、施設内での環境設定や拘縮予防の関節可動域訓練・歩行訓練などの機能訓練と共に、QOLの向上を目的とした選択可能な作業活動を取り入れ実施した。当施設における現状と今後の課題を報告する。<BR>【目 的】〔陶芸教室〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激等の刺激入力 2)手指巧緻性の維持・向上 3)楽しみ・顔馴染みの関係の獲得 4)精神機能面の賦活<BR>〔音楽クラフ゛〕1)固有感覚刺激、聴覚刺激等の刺激入力 2)見当識・記名力の維持・改善 3)精神機能面の賦活 4)自発性・意欲の維持・向上 <BR>〔手芸クラフ゛〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激、聴覚刺激等の刺激入力 2)手指巧緻性の維持・向上 3)精神機能面の賦活 4)自発性・意欲の維持・向上 <BR>〔料理教室〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激、嗅覚刺激等の刺激入力 2)精神機能面の賦活 3)自発性・意欲の維持・向上 4)日常生活動作(以下ADLと略す)能力の維持・向上<BR>【方 法】〔陶芸教室〕毎月第1月曜日1)対象者 意識障害のない両手又は片手が使用できる利用者 2)準備物 粘土、水、手ロクロ、エフ゜ロン、釉薬 3)人数 実施者5から6名、見学者5から6名 4)実施場所 施設内訓練室 5)時間 1時間半から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 <BR>〔音楽クラフ゛〕毎月第2月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 キーホ゛ート゛、歌詞集 3)人数 15から20名(平均年齢86±13から16)4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 <BR>〔手芸クラフ゛〕毎週第3月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 テーマに合わせた物品(例)貼り絵、絵手紙等 3)人数10名前後 4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 <BR>〔料理教室〕毎月第4月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 テーマに合わせた材料、包丁、まな板等 3)人数10名前後 4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名<BR>【現 状】〔陶芸〕作品作りをOT・他スタッフの介助下で行う。最終的な修正をOTが行う.その後、素焼き・染色・本焼きを経て作品の完成とする。 <BR>〔音楽クラフ゛〕季節の歌や利用者からのリクエスト曲の歌詞カート゛を作成し、皆で合唱する。また、発声練習や準備体操、日付の確認なども併せて実施する。 <BR>〔手芸クラフ゛〕各月のカレンタ゛ーの作成や書初めなどを実施する。テーマは利用者から提案されたものや介助者から提示する。 <BR>〔料理クラフ゛〕おやつ作成や郷土料理つくりを実施。利用者のできることを行ってもらうように誘導する。<BR>【まとめ及び今後の課題】各活動共に参加者の固定化が見られてきており、馴染みの関係が築かれつつある。また、利用者とスタッフとの信頼関係の形成も出来てきていると考える。しかし、男性利用者及び不参加者のQOLの向上につながる活動の選定ができておらず、限られたク゛ルーフ゜での活動になっている。それと同時に、利用者の高齢化と重度化が進み実施可能な項目が限定されてきているという現状もあることから、活動の選択も難しくなっている。<BR>今後の課題として、これらの利用者の参加できる活動の選定を行いQOLの向上に努め、少しでも長く自分らしい生活の維持ができるようにサホ゜ートしていきたいと考える。
著者
鎌村 美由樹 東 貴子 岸本 稔 原口 真由美
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.6, 2005 (Released:2006-08-01)

【はじめに】今回、介護保険申請時期と退院前訪問指導時期を調査し、ケアマネーシ゛ャー(以下,CM)・施行業者同行の有無が在宅復帰までにどのように影響しているかを検討したのでここに報告する。【対象】2004年4月から2005年3月の間に、当院で退院前訪問指導を実施した61例(女性32例、男性29例)を対象とした。平均年齢は、75.9±12.4歳。疾患別では、脳外24例、整形30例、その他7例。【方法】1.介護保険新規申請者の入院日から介護保険申請日までの平均日数を、脳血管疾患と整形疾患とで比較。2.介護保険新規申請者と介護保険取得者の入院から退院前訪問指導までの平均日数を、脳血管疾患と整形疾患とで比較。3.CM・施行業者同行の有無による退院前訪問指導から退院日までの平均日数を比較。【結果】1.介護保険新規申請者の入院日から介護保険申請日までの平均日数 脳外106.3±98.5日、整形74.3±35.9日2.入院から退院前訪問指導までの平均日数 1)介護保険新規申請者;脳外152.7±120.2日、整形81.9±34.4日 2)介護保険取得者;脳外78.0±32.7日、整形78.8±19.6日3.CM・施行業者同行有無による退院前訪問から退院日までの平均日数:1)同行あり群24.8±15.9日2)同行なし群40.3±34.8日、同行あり群に比して退院前訪問指導から退院までの期間が短かった。(p<0.05)【考察】介護保険新規申請者の申請時期をみると、脳血管疾患が整形疾患に比べ一ヶ月近く遅れるという結果がでた。また、介護保険新規申請者の入院から訪問指導までの日数は、整形疾患と比較して脳血管疾患が2倍近く要している事が分かった。それに比べ介護保険取得者は入院から訪問までの日数は整形疾患・脳血管疾患では差が見られなかった。このことから、介護保険の申請時期が訪問指導の時期や退院時期に影響を与えていると考えられる。特に脳血管疾患では発症部位によりADL状態も様々で,障害も重篤になる事が多く、家族の受け入れに時間を要する事が多い。また在宅復帰にあたり、退院前訪問指導時にCM・施行業者が同行する事が、同行しない場合に比べ、退院前訪問指導から退院までの日数を約16日間短縮するという結果が出た。これはCMが同行することが、家族が在宅生活をより現実のものとして捉え、環境を整える準備とともに退院後の心構えを強くする重要な役割を果たしていると考える。
著者
大平 美咲 角銅 しおり 門司 映美 鍋島 一樹 塩貝 勇太 深山 慶介 ハーランド 泰代 植野 拓 中司 貴大 澤田 芳雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.332, 2010

【目的】<BR>包括的呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハ)における患者教育の重要性は広く認識され、効果も実証されつつある。しかし、呼吸器疾患に対するクリニカルパスは、さまざまなバリアンスがあるため困難なことが多く、慢性呼吸器疾患に対するクリニカルパスについての報告は少ない。今回、当院にて2週間の呼吸リハビリテーション教育入院を開始し初期評価での継続と非継続の因子の検討を行った。<BR>【対象】<BR>2008年2月~2009年12月に入院しインフォームドコンセントが得られた慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)患者(継続群10名68歳±14歳、非継続群11名 71歳±21歳)。<BR>【方法】<BR>入院期間の2週間で運動療法と多職種での包括的な患者教育を中心とした呼吸リハビリテーションクリニカルパス(以下、呼吸リハパス)を作成した。肺機能検査(肺活量、%肺活量 以下%VC、1秒率 以下FEV1.0%)、標準評価(MRCの息切れスケール、身体所見、BMI、横隔膜呼吸の熟達度grade)、ADL評価(千住らのADLテスト)、下肢筋力検査(等尺性膝伸展筋力)、運動耐容能検査(シャトルウォーキングテストまたは6分間歩行テスト)、セルフマネージメント検査(Lung information Needs Questionaire 以下LINQ)を多職種で検査・評価を行う。両群内において初期評価の各項目をそれぞれ比較した。解析方法はwilcoxon順位和検定を用い、p<0.05を優位水準とした。<BR>【結果】<BR>両群間において統計学的な有意差は認められなかった。継続群ではMRCスケールより呼吸困難は様々であったが下肢筋力は保たれておりLINQの点数は低くセルフマネージメントは高い傾向であった。非継続群ではFEV1.0%が低くMRCスケールは重症傾向でありLINQの点数は高くセルフマネージメントは低い傾向であった。<BR>【結論】<BR>継続群では呼吸困難は様々であったが身体機能・セルフマネージメントは比較的保たれていた。初期評価時に呼吸リハの教育を受けた経験がない症例が多く呼吸リハパス終了時の最終評価ではセルフマネージメントにおいて統計学上有意に向上した。非継続群ではLINQの点数よりセルフマネージメントに欠ける傾向がみられた。FEV1.0%が平均56%と低肺機能でありMRCスケール3以上、下肢筋力、運動耐容能が低く初期評価の介入で呼吸困難が増強し運動への動機づけが困難であり継続できなかったと思われる。COPDの呼吸リハは運動療法を主軸としたプログラムが有効であり患者教育も同様に必須条件である。今回の検討を通して同一疾患においても肺機能以外にも呼吸困難の程度や下肢筋力の個々の身体能力を評価し、現呼吸リハパスの適応と不適応を判別できる基準が分かった。パス適応ではない患者にはコンディショニングやADLを中心とした介入が必要であり個別性を重視した内容のプログラムと継続方法についての検討が必要である。また、個々に必要な患者教育を十分に行なっていくことが運動療法を進めていく上でも改めて重要であると感じた。
著者
佐野 幹剛
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.9, 2009

【はじめに】<BR> 平成19年4月より学校教育法等が改正され,小・中学校においても特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された.療育支援センターにて月1回の頻度で就学後の問題を抱える児童の相談業務に携わる中,子どもだけでなく家族に対する支援,関連機関との連携を通して,作業療法サービスの介入の可能性を模索した.なお,報告するにあたり当センターの承諾を得た.<BR>【目的】<BR> 特別支援教育に関連した相談の実態と作業療法士の役割を明らかにすることである.<BR>【方法】<BR> 調査対象は,平成19年5月から平成21年4月までに当センターで演者が介入した来談者である.調査方法は,記録ノートを参考に来談者の概要,相談・支援の内容,相談・支援の分類について整理した.<BR>【結果】<BR> 特別支援教育に関連した相談の総件数は111件で,児童と家族の相談が78%,学校教師の相談が17%,家族のみの相談が4.5%であった.来談した児童と家族は16組で,診断あり児童2名,来談後ついた児童9名であった.来談時小1が28.6%,小5が31.2%で多かった.来談時に特別支援を受けていた児童2名,来談後受けるようになった児童3名,担任による対応ありの児童は7名であった.相談・支援の分類で,学習支援28%,SST21.6%,学習・心理相談18.9%,発達心理検査15.3%,カウンセリング8%,学校訪問指導7.2%,ペアレントトレーニング3.6%であった.相談・支援の内容で,児童に対しては主に読み書き計算(学習支援),場面認知や相手の気持ちを理解する練習(SST),家族や教師に対しては主に児童の特徴・支援の経過・今後の課題・進路等の説明(学習・心理相談),児童との関わり方の指導(学校訪問,ペアレントトレーニング)であった.<BR>【考察】<BR> 教育相談に携わる作業療法士として,平成19年度以降小・中学校との連携が密になり、学校長を始め担任教師の協力関係が得られやすくなった.特に,学校訪問や担任教師の来談件数が増えてきた.また,来談時に診断のない児童が多く,先の見通しが立たない不安な心境で就学を迎えた家族や中学への進学を控えている家族の現状が明らかになった.従って,作業療法士は児童を取り巻く教育現場で生じている現象の評価と児童の発達心理学的側面の評価とを実施するとともに特別支援の必要性を判断すること,児童の発達特性に応じた支援と家族・教師のニーズに応じた相談のスキルを修得することが必要と考える.さらに,地域でのセンター機能として,家族との調整(コーディネータの役割)はもとより,学校や教育委員会・行政,理学療法士,言語聴覚士,臨床心理士など他職種との協同による包括的な支援が重要であり,作業療法士が独断専行してはならない.
著者
村嶋 美紀
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.35, 2008

【はじめに】<BR>私は9歳で脳腫瘍を発症し再発を繰り返した15歳の事例A氏を担当する機会を得た。<BR>約一年の関わりで、病状は次第に悪化し失明、余命1年未満と宣告された。A氏は「デザイナーになりたい」という夢をかなえるため、退院後ボランティアの協力でファッションショーを開催した。<BR>A氏の終末期のOTを行うにあたり、その人にとっての意味ある作業について考える機会になったのでここに報告する。<BR>【事例紹介】<BR>9歳で鞍上部未分化胚細胞腫を発症した15歳の女児、A氏。再発を繰り返し、15歳0ヶ月、OT初回処方される。15歳8ヶ月、腫瘍の増大により失明、余命一年未満と宣告される。15歳11ヶ月、自宅退院、ファッションショー開催。<BR>【介入経過】<BR><介入前期(OT処方~失明前:約8ヶ月)>高次脳機能訓練を目的にOT処方。MMSE 22/30点。即時記憶・短期記憶低下、注意力低下が認められた。軽度のうつ傾向。身体機能は特に問題なく、ADLは自立レベル。OTでは、ゲームやくす玉作り等楽しみの要素を含んだ活動を用いた。毎日のOTの時間を楽しみにしているとの感想が聞かれ、外泊中自宅でもくす玉作りをされていた。<BR><介入後期(失明後~退院:約2ヵ月)>全盲のため高次脳機能の精査不可であったが、介入前期と比較して、更なる記憶力低下、注意力低下に加え反応の遅延や乏しさが著名に見られた。自発性の低下もみられた。ADLは全介助。OTではA氏の趣味や介入前期の様子を考慮し、ビーズ手芸を導入した。自発語はほとんど見られなかったが、「難しいけれど楽しいです」と感想も聞くことができ、笑顔も多く見られた。後半は、退院後にボランティアの協力によりファッションショーが開催されることが決定し、ショーに向けてのアクセサリー作りを行った。また、母親に対しては援助方法の助言も行った。<BR><退院後>自宅にて母親と共にファッションショーに向けてのアクセサリー作りを行った。<BR>【結果】<BR>失明後、日常生活が著しく制限され、全てに介助を要する生活を送っていたが、OTを通じて一日の生活の中で楽しみの時間を提供することができた。同時に、余暇活動として幼いころからの趣味である手芸の再獲得ができた。また、母親との関わりで援助方法について助言できたことが、退院後の生活にもつながった。<BR>【考察】<BR>A氏にとってビーズ手芸は、幼いころからの趣味が手芸であることから、趣味活動・余暇活動としての意味、作品を作るという生産的活動としての意味、家族に作品を送る・ファッションショーのアクセサリー作りという目的活動としての意味、また、家族・OT・病棟スタッフとのコミュニケーションの媒介物としての意味、そして、満足感・達成感を与える活動としての意味があったと考えられる。<BR>終末期を迎えたA氏のOTを行うにあたり、機能面のみにとらわれず、A氏にとっての意味ある作業であるビーズ手芸を用いた関わりが、家族を含めたA氏のQOL向上につながったと考える。
著者
小嶋 亜美 四本 伸成 薬師寺 京子 永山 弓子 芝 圭一郎 松崎 裕史 手島 茉李 東 祐二 藤元 登四郎
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.31, 2009

【はじめに】<BR> 当院では精神科医療に関わる多くの専門職がそれぞれの専門分野で対象者と接し,退院支援を行なっている.今回,多職種が関わる精神科医療の中で,それぞれの専門性を最大限に尊重した医療チームを形成し,作業療法士(以下OT)としてどのような役割を担っていくかを検討する為にアンケート調査を実施し,他部門がOTに求める退院支援の取り組みの把握と今後の課題について報告する.<BR>【対象と方法】<BR> 当院に勤める医師3名,看護師39名,精神保健福祉士6名,臨床心理士3名,薬剤師2名,管理栄養士3名,OT7名にアンケートを依頼し,回答を得た63名を調査対象とした.アンケート用紙を直接配布し,目的と内容に説明を加えた上で記入をしてもらい,後日回収した.質問項目は1.スムーズな連携の為に必要な事を記述式で行った.2.他部門からOTに求める退院支援,連携を強めたい退院支援について30項目の選択肢を設け,チェック式で行った.また,30項目はICFのカテゴリーに分けて分類した.<BR>【結果】<BR> アンケートの結果,1.スムーズな連携の為に必要な事として1.情報共有,2.スタッフ間の信頼関係,3. 方向性の統一の順で多く挙げられていた.2.OTに求められている退院支援として,ICFの活動と参加の項目が中心となっていた.その中でも,身辺処理(排泄,入浴,食事,身だしなみ,服装など),基本的交流(挨拶,常識的なマナー),言語的交流(表現,主張,断り方,聞き方など),社会資源(交通機関,公共施設)の利用,作業能力(集中力,持続力など)について,特に期待されていた.また,それらの項目は,OTを含め,看護師,精神保健福祉士も,重要視して支援を行なっている部分であった.<BR>【考察】<BR> 結果より,スムーズな連携の為に必要な項目が挙げられたが,その為には連携の鍵となるカンファレンスやマネジメントする役割が重要である.当院では,退院支援の中で看護師を中心とした多職種との合同カンファレンスが行なわれている.そのような場において,OTとして他部門から期待されている項目である身辺処理,基本的交流,言語的交流,社会資源の利用,作業能力についての情報を積極的に提供,共有していかなければならないと考えた.多職種がお互いに重要視している項目を把握し,専門家として情報を提供することにより,マネジメントを担っている看護師のサポートとなり得ると考えられる.今回のアンケート調査の結果を踏まえ,実際に退院支援を行なっていく中で出てくる問題点や課題を見つけていき,地域へ移行する対象者へのよりよい支援を提供できればと考える.
著者
山田 康二 工藤 崇博 大塚 未来子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.130, 2005

【はじめに】当院は2002年10月、日本医療機能評価機構による病院機能評価(一般病院B)を取得し、5年後の更新時Ver.5.0の評価を受ける為、各部署患者サービスの向上への取り組みが展開されている。<BR>今回、総合リハビリテーションセンター(以下、センター)では、病院機能評価の大項目にある「リハビリテーション体制の整備」に注目し、その小項目である"リハビリテーションの必要性の検討と方針の確立"をテーマに、センターでの業務機能分化を行い、外来リハビリテーション(以下、外来リハ)チームとして、関わりのシステムを検討し、業務改善を行ったので以下に報告する。<BR>【現状把握】まずは月1回行われる外来リハチーム会議にて、病院機能評価で取り上げたテーマについて確認し、現状の問題点について話し合った。<BR>現状の問題点として、1)外来リハの長期化 2)外来リハの効果判定 4)患者満足度の視点の3点が上がった。また3)については、外来患者を対象にアンケートを実施し結果を分析した。<BR>1)については、外来リハ継続期間は疾患によって異なるが、全体の54%が1年を超えている。<BR>2)については、必要に応じて医師に報告する程度で、カンファレンス時間も取れない状況である。<BR>3)については、待ち時間が長い・担当休日時の対応が不十分・スタッフ接遇(言葉づかいが良くない)についての問題点があがった。<BR>【改善内容】1)については、外来リハ処方時に今回のリハビリ実施期間設定及び週何回行うかの頻度設定を行うよう、医師に依頼した。<BR>2)については、今回のリハビリ実施期間がきれる前、各セラピストが指定の用紙に、期間内行った訓練内容と効果判定評価について記載し、その評価内容によって、医師が終了か継続または他施設への連携の判断を行う事とした。<BR>3)については、当院は2002年11月より電子カルテ導入へ向けてコンピューター委員会が立ち上がり、2004年4月よりまずオーダリングシステムから開始された。オーダリングシステムは、処方オーダー・予約オーダー・入院病棟オーダー・食事オーダーを基本機能とし、各検査オーダー・投薬チェック・診療予約の拡張機能から構成される。外来リハについても、診療予約機能を利用し、完全予約制にする事により待ち時間の軽減・担当休日時のトラブルを回避する事とした。<BR>【改善後外来リハの流れ】患者来院後、各科の医師は外来リハ処方箋発行と同時に、別紙にて今回のリハビリ実施期間と頻度を設定し開始となる。担当はリハビリ終了時、予約台帳を提示し次回の日時・時間予約を行い、コンピューターに入力し予約券を発行する。この作業にて担当のスケジュール管理へ連動し、他の部署からの閲覧も可能である。またその場で予約できない患者についてはコールセンターで電話予約するシステムである。コールセンターへの連携はすべてオーダリングシステム上で行う。<BR> 再来時は、予約券にあるバーコードを読み取り受付を行い、リハビリ科ではコンピューターにて、再来時間や外来診療記録等を確認する。特に検査・画像についてタイムリーな情報を収集できる。効果判定評価については、有効期間内に各担当者が目標設定・訓練内容・評価内容・本人(家族)の希望を記載しカルテへ添付する。その後、医師はリハビリの必要性を検討し、継続または終了の判断がなされる。<BR>【結果及び考察】まず外来リハ1年を超えている患者には、医師より、再度リハビリの目的や期間など説明を受け、今後のあり方について方向性が明確化された。また効果判定評価についても、医師との連携手段の1つに位置付けされた。<BR>完全予約制については、何のトラブルもなくスムーズな流れで運用されている。予約をとることで、患者にとっては、その日の生活時間を有効に活用する目安となると同時に、スタッフにとっても1日の仕事量を把握し、空いた時間に別の予定を組み込むなど、業務の効率化を図ることができたと考える。何より、訓練待ち時間が軽減された事は、患者満足度に大きく反映されるものだと確信している。この事については、今後もアンケート調査を実施したいと考える。<BR>また2005年4月より当院リハビリシステム(リハッシュ)も導入され、日々の業務書類・データ管理・レセプト等が電子化された。今後、電子カルテへリンク体制を整備し、個人情報保護や改ざん防止等の管理面を充実させ、より良いシステムの構築へ向けて改良していきたいと考える。