著者
永島 清史 辛嶋 良介 徳田 一貫 杉木 知武 川嶌 眞之 川嶌 眞人
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.135, 2009

【はじめに】<BR> 当院における前十字靱帯損傷(以下ACL損傷)のKyuro装具による保存的治療において装具を除去した際に膝関節不安定性を訴える患者を多く経験する。その原因を膝関節構成体の破綻や筋力低下として理学療法を展開した場合、良好な結果が得られないことが多い。今回は、膝関節に不安定性が生じる原因を装具の下腿下位半月の圧迫による遠位脛腓関節および距腿関節の可動域低下に伴う、足部・足関節からの運動連鎖機能不全とし、床反力を受ける部位から順を追ってアプローチした結果、改善が見られた症例を経験したのでここに報告する。<BR>【症例紹介】<BR>29歳 男性 診断名:左膝前十字靭帯損傷、内側側副靭帯損傷 主訴:歩行時の膝不安定性<BR>【理学療法評価】<BR>KT-1000徒手最大左右差:7mm、ラックマンテスト:Hard-end-pointあり Lateral-instability:陰性 スクワッティング・フォワードランジでの不安定性の訴えはなし<BR>ROM-t(Rt/Lt)膝関節屈曲(145/130)、伸展(0/0)、足関節背屈(15/10)、股関節内旋(35/30) <BR> MMT(Rt/Lt)膝関節伸展(5/4)屈曲(5/4)股関節外転(5/4) <BR>簡易的荷重時評価:臥位にて左小趾球部分を身体と垂直方向に押すと足関節の過回内、脛骨の内旋、股関節の過内旋、体幹の左側屈がみられ、頭方まで揺れが伝わらなかった。<BR>歩行:左Initial-Contact(以下IC)からLoading-Response(以下LR)にかけて体幹は左側屈、LRからMid-Stance(以下MSt)にかけて骨盤の側方位動が不十分であり左股関節内転・内旋が不足していた。MSt以降は体幹を左前方へ倒しながら左足第5列の挙上により衝撃吸収を行い、Pre-Swing(以下PSw)期では左足関節回内がみられた。<BR>【臨床推論】<BR> 本症例の主訴は荷重時の不安定性の訴えであり、それは立脚前期に生じていた。これは左立脚前期においてKyuro装具の下腿下位半月による遠位脛腓関節の締め付けにより距腿関節・遠位脛腓関節の可動性低下がおき、LRからMStにかけての下腿外旋が制限され、相対的に立脚側股関節の内旋も制限を受けることにより骨盤左回旋が制限されることで、立脚中期においてKnee-in傾向を示し膝関節が不安定な状態となっていると考えた。また、体幹が左側屈してくることにより重心線が膝関節軸より外側を通ることで左膝の内反モーメントを強めなければならない状況になっていることも一因であると考えられた。<BR>【まとめ】<BR> 立脚前期の足部および足関節から生じる上部への運動連鎖機能不全を改善していくことで体幹の側屈は軽減した。股関節内転・内旋機能が改善することで左立脚期が短縮し側屈も軽減した。体幹部・骨盤の連結部の反応を改善することで骨盤左回旋が可能となり、歩容が正常に近づき左膝不安定性の訴えは消失した。
著者
嘉村 知華 伊藤 憲一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.90, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 脳卒中片麻痺患者にとって、日常生活で下肢装具の果たしている役割は大きい。今回、右片麻痺、重度感覚障害を有し、長期経過の中で反張膝を呈した症例に対し下肢装具の重要性を検討したので報告する。【症例】 40代後半主婦。H8年3月高血圧性脳出血(左被殻部)右片麻痺発症にてA病院入院。4月血腫除去術施行。同年5月、リハ目的でB病院入院。Br.stage 上下肢 II、右半身表在・深部共に重度鈍麻~脱失。右上下肢低緊張 Barthel index(以下BI)60点 車イス移乗、駆動 要少介助 歩行困難。 H10年1月、自宅退院。Br.stage 上肢 III 下肢 IV 感覚著変なし。動作時の右足内反底屈緊張強く、右下肢荷重時膝ロッキング(伸展0°)。Shoe horn装着一本杖歩行 屋内軽介助~監視にて可、屋外要介助、BI 80点。自宅退院後は当院外来リハ継続し、可能な家事を行い、活動的。屋内杖なし歩行まで可能となる。在宅生活おける活動性向上に伴い立位動作機会増。日常、装具は軽量で固定力の少ないRie-strapを汎用され、外出時のみShoe horn使用。【経過】 H15年頃より歩行時の右膝外側スラスト、膝ロッキングによる右立脚期の不安定性が目立ちはじめる。退院時より14kg体重増加。固定力強い装具提案するも本人拒否。右靴に外側フレア設置にて対応。H18年頃より転倒増。右反張膝15°に達し、装具再検討。H19年5月、反張膝矯正ベルト付きSemi Long Leg Brace(以下LLB)を作製。ズボン内側縫い目にファスナー設け、常用を促した。日常屋内活動では、LLB用いずRie-strap使用継続。徐々に右下肢支持性不安定となりH20年12月右下肢痛増強、歩行困難となる。BI 65点。H21年1月、LLBの必要性を説得し、日常使用開始。右下肢痛改善、BI 85点となる。【考察】 本症例は、重度右片麻痺、感覚障害、生理的関節の柔軟性、体重増加、そして家事遂行に伴う活動量の多さが長期的経過の中で反張膝を生じさせたと思われる。今回、自力脱着可能で常用的な反張膝のコントロールのための装具選定、導入に時間を要した。臨床場面では障害程度による将来的な関節変形等が予測される場合でも装具の必要性認識の乖離がPTと患者で存在することが度々ある。最終的には転倒増加や痛みの出現により装具必要性の本人理解を得、ADLレベルの維持につながったが、長期的視点で身体機能の変化を捉え、適応装具の提案と必要性を患者に伝わるよう理解を求める努力は重要である。
著者
力丸 孝臣
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.91, 2007

【目的】<BR> 今回、借家のため住宅改修が困難であり入浴動作に過剰な努力を要していた50歳代女性に対して、機能的且つ安価な簡易シャワーを作成・設置することで入浴動作が快適なものとなったため若干の考察を含め報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 氏名:50歳代女性 診断名:右被殻出血(H17年○月) 障害名:左片麻痺<BR> BRS<Lt>:U/E3 Fin3 L/E4 ADL面:自立 移動:独歩にて自立(装具あり)生活状況:アパートに一人暮らし、1/週の通所リハを利用中(介護度:要支援)needs:風呂には一人で入りたい。※借家のため改修の許可得られず、また経済的に余裕なし<BR>【シャワー設置状況・費用】<BR> 1:浴槽へポンプの挿入2:脱衣所にアダプタの設置3:浴室にノズル設置のためのアタッチメントを取り付け。合計\3,577<BR>【結果】<BR> 今回、「安価で場所を問わず機能的」をコンセプトに簡易シャワーを作成した。費用としては約3577円と安価で浴室への設置ができ、電源の確保ができればどこでも使用することが可能となった。また、シャワーを設置したことで、入浴動作に選択肢が生まれ入浴時間の短縮、洗体動作への過剰な努力が軽減し、入浴を「きつい」から「楽しみ」なものにすることができた。<BR>【考察】<BR> 今回、本症例の「風呂には一人で入りたい。一人暮らしを続けたい」というneedsを原点に家屋改修が困難である中、快適に且つ安価で症例が満足できる入浴ができるようにシャワーを設置することを考えた。実際、浴室改修が困難な中でもシャワーを設置したことで洗体動作にはシャワーを使用し、温まりたい時には浴槽へ入るなど症例の入浴動作に選択肢を創ることができた。これにより、自宅での入浴が快適且つ楽しみなものとなったことは症例にとっては有効な一手段であったのではないかと考える。本症例を受け持ち、対象者のneedsを尊重し共通の目標に向かってアプローチを行っていくことはリハビリテーションの原点であることを再認識することができた。今後としても対象者と共通の目標を明確に持ち日々のリハビリテーションに取り組んでいきたいと考える。
著者
青木 尚子 渡邊 恵都子 ハーランド 泰代 植野 拓 由川 明生
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.277, 2010

【はじめに】<BR>心臓リハビリテーション(以下、心リハ)は退院後の患者教育と運動療法が継続できれば効果的とされている。当院での外来心リハ通院患者の継続・非継続因子の調査では、非継続因子として統計学的に有意差はないものの1、男性が継続しにくい2、遠方の方が継続しにくい3、自己負担が高い方が継続しにくい傾向にあった。今回は、低心機能にもかかわらず自覚症状が軽度なため過負荷に陥り易い男性の症例に着目した。仕事帰りに利用することができる自宅近辺の非医療施設であるスポーツジムへの利用に繋げることが出来たので、今後の課題と共に報告する。今回の報告は、本症例に対して説明し同意が得られている。<BR>【症例紹介】<BR>70歳台、男性、既往に狭心症や急性心筋梗塞(以下、AMI)など繰り返しており、今回4度目の入院となる。2009年12月に胸痛ありAMI(2枝病変)と診断され経皮的冠動脈形成術を施行した。PeakCK3039U/L。心エコー結果より、左室駆出率40%、後壁、心室中隔・前壁の壁運動低下、中等度の大動脈弁狭窄症みられた。当院のMIパス2週間コースを用い心リハを開始した。5病日目から個別運動療法介入し、その後大動脈弁狭窄症から心不全を合併し、MIパスが停滞したものの19病日目から集団リハを開始し、自転車エルゴメーターにて旧Borg指数11レベルの負荷設定とした。4週間入院リハを行い、退院時には近隣スポーツジムに週3回、当院の外来心リハを週1回継続することとした。その際にスポーツジムには運動許可を示す主治医からの文責と併せて担当セラピストより情報提供目的の心リハ連携シートを渡し、持参して頂いた。内容は、疾患の状態、安全に出来る運動内容、リスク管理チェック項目を記載した。症例にもスポーツジムスタッフにも分かりやすい言葉を用い、定期的に評価を行い運動内容の変更も記載出来るようにし、安全でスムーズな連携を図った。1ヶ月後、歩行時の呼吸苦あり外来心リハ時に受診し、心不全増悪(左室駆出率30%)がみられたため利尿剤の追加あり。その後、スポーツジム利用を週3回から1回に、外来リハを週1回から3回に変更し、医学的管理を中心に心リハを継続した。<BR>【まとめ】<BR>今回、心リハ連携シートを用い患者宅近隣スポーツジムへの紹介と運動指導を行った。本人への運動管理意識の向上と外来心リハも併用したことで症状に応じた運動指導を即座に変更・実施することが出来た。また、症状悪化に伴い循環器の外来受診を薦めることで医学的管理も可能となり、外来での症状コントロールが可能となった。今後の課題として1、症状に合わせた医療施設と非医療施設との役割分担の明確化2、使用料金や場所を考慮した連携施設の選択と拡大3、心リハ連携シートの見直しなどを行っていく必要がある。
著者
高崎 光一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.2, 2011

【はじめに】<BR> 当事業所では、活動を行う際の媒介に施設通貨を活用している。今回、認知症対応型通所介護で施設通貨(以後 通貨と略)を利用した、作業療法(以後 OT)アプローチを行った。認知症の方で、通貨を自発的に活用できるようになったケースを報告する。また、報告に当たっては、事前に本人ならびに家族への同意を得た。<BR>【対象】<BR> Aさん。80歳代後半。女性。アルツハイマー型認知症。寝たきり自立度A2。認知症の自立度IV。FIM:105点。一般性セルフエフィカシー度:5点。週3回認知症対応型通所介護を利用している。<BR>【経過】<BR> Aさんに困っていることを伺うと「腰が痛い。」と訴えられた。そこで、通貨の説明として、通貨を利用することで腰の電気治療が可能であること。通貨を貯めるためには、バイタル(血圧・体温・脈拍)の記入や家事活動の参加等を行うと良いという事を伝えた。利用されて間もなくは、スタッフの声掛けによる家事活動の参加がみられた。この頃、通貨を貰える活動・通貨を払う活動等の説明を毎回行ない通貨の出し入れをスタッフが行った。3か月経過する頃には、家事活動の参加として自主的に湯呑を洗う姿が見られるようになった。また、自宅からエプロンを持って来られ、おやつ作りを行う等積極的な場面もみられるようになった。通貨に対する認識も高まり自分で通貨の出し入れを行うようになった。6か月経過する頃には、施設で使用しているものとは別に通貨を入れる袋を自宅から持って来られ、通貨を数える姿が見られるようになった。<BR>【結果】<BR> 寝たきり自立度A2→A2。<BR> 認知症の自立度IV→IIb。<BR> FIM105点→107点。<BR> 一般性セルフエフィカシー尺度:5点→6点<BR> 今回MMSEを3カ月毎に行ない、通貨を数える時に必要な計算に着目した。初回利用時、MMSE15点(計算0点)。利用3ヶ月時、MMSE22点(計算1点)。利用6ヶ月時、MMSE24点(計算5点)。となった。<BR>【考察】<BR> 対象者の行動変容の移り変わりをマズローの欲求階層説を用いて考えると、前項で説明した、経過の初期では、自発的な発言や行動は見られず、生理的欲求・安全欲求は満たされていたと考えられる。中期では、他利用者と会話や家事活動を一緒に行う姿が見られるようになり、社会的欲求が満たされている。また、自宅からエプロンを持参し、積極的におやつ作りに参加している姿が見られるようになったことから、自我(自尊)の欲求が満たされていたと考えられる。今回は、上手く通貨を利用できていた対象者であったが、認知症の進行を止めることは難しい。今後、その人その人にあった関わり、OTアプローチをどのように行なっていくかが課題となると考えた。
著者
槌野 正裕 荒川 広宣 中島 みどり 山下 佳代 高野 正太 高野 正博
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.21, 2009

【背景】<BR> アブラハム・マズローは,人間の基本的欲求を低次元から,1.生理的欲求,2.安全欲求,3.愛情欲求,4.尊敬欲求,5.自己実現欲求と5段階に分類している.生きていくうえで欠かすことの出来ない生理的欲求には,食欲,性欲,睡眠欲,排泄欲などが含まれている.リハビリテーション医療分野では,排泄欲に対する機能訓練は皆無である.当院は大腸肛門病を専門に扱っており,理学療法士は大腸癌術後の離床促進による呼吸器合併症予防と,排泄の機能障害に対しての直腸肛門機能訓練を行っている.<BR> 今回,直腸肛門機能障害に対して取り組んだ,物理療法機器を用いての治療を報告する.なお,症例には当院倫理指針に則り患者への同意を得ている.<BR>【症例紹介】<BR> 症例は,60代,男性,排便時出血と肛門痛を主訴として来院.直腸肛門機能検査では,外肛門括約筋筋電図収縮力(S/R)1.5,その他問題なし.外肛門括約筋の収縮に対するバイオフィードバック療法を実施したが,筋の単独収縮が出来ず,主治医より治療を依頼された.括約筋を収縮させようとしてもS/Rに変化は無く,逆に息むような奇異収縮を認めた.腰仙椎MRI画像では腰椎の過度な前彎と,代償的な骨盤後傾を認めた.<BR>【治療方法と経過】<BR> まず,骨盤帯の前傾を促すため,骨盤前後傾運動を指導した.骨盤帯の運動が可能となってからは,米国Chattanooga社製,Intelect Advance Combo 2762ccを用い,電流は筋電図誘発電気刺激(Electromyography-Triggered Neuromuscular Stimulation:ETMS)を使用した.電極パットを尾骨先端の肛門縁とS2~4仙骨部に貼付し,アースを臀部に貼付した.最初の訓練姿勢は左下側臥位で,骨盤帯は前傾位とした.治療開始4週間を経過した時点で括約筋の収縮は出来るようになってきたが,弛緩が上手く出来なかった.6週後,外肛門括約筋の収縮と弛緩をコントロール出来るようになった.収縮方法を学習したので,抗重力位での訓練方法を指導し,更に動的な訓練を行った.退院時S/R比は2.6へ上昇し,肛門痛も軽快した.<BR>【考察】<BR> 大腸肛門の専門病院として,直腸肛門機能障害に対するバイオフィードバック療法を行っているが,視覚を用いたフィードバックのみでは患者自身の感覚の理解が得がたい症例に対して,感覚と視覚を利用した治療を行った.外肛門括約筋は収縮しても目に見えないため,視覚を用いたバイオフィードバック療法は有効な治療手段である.しかし,感覚入力も同時に行うことで収縮感覚を理解し易くなったことが考えられる.また,訓練姿勢に関しても以前の研究結果を基に骨盤帯を軽度前傾位へ誘導して取り組んだ.外肛門括約筋を含む骨盤底筋群が筋収縮を行いやすいアライメントに調整したことが治療効果を高めたと考える.
著者
畑田 美恵 下村 一寛
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.155, 2004

【はじめに】<BR> 当院は198床の単科の精神科病院である。昭和41年に開設され、平成13年4月に築35年の古い卍型の旧病棟を取り壊し、誰もが足を踏み入れやすい新築の病棟に建て変わった。著者はこの13年4月に入職し、今年で4年目になる。1年目の秋、これまで行っていた病院行事の運動会の開催が患者層の高齢化により困難となり、代わりに文化的な行事として病院祭を開催することになった。地域の方々に精神科病院を開放し、精神医療への偏見の軽減を図ることを目的として作業療法士が中心となって作業活動の季節行事の一環として開始した。現在ではその枠を越えた病院行事となり、年に2回開催し今春で6回目を迎える。今回この発表の場を借りてこれまでの経過を振り返り、今後の課題等を報告する。<BR>【経過】<BR>[第1回カメリア祭(平成13年10月)および第2回カメリア祭(平成14年5月)]<BR>行事内容:1.イベントとしては、地域で活躍されている太鼓のグループ、パントマイムショーの実演。2.院内各病棟・部署からバザーの出店および作業療法活動の作品の展示・販売を行った。実施時間は午前中のみ行い参加者は院外参加者のほとんどが患者の家族を占め70名程度であった。<BR>[第3回カメリア祭(平成14年10月)]<BR> 第1回・第2回は作業療法士と病棟の作業レクリエーション委員が中心に行なったが、今回から各部署より委員を選出し実行委員会という形で運営した。パフォーマンス・バザー・展示・広報・学術という各グループを作り、実行委員長と各グループのリーダーは作業療法士が行った。実施時間は1日で午前中に外部講師によるシンポジウムを行い、午後からパフォーマンスを行った。行事内容:1.地域の保育園児の太鼓、2.高校生のブラスバンド演奏、3.院内患者様のカラオケ大会も行った。<BR> 各グループで仕事を分担したことで、広報の幅も広がり、地域へのポスター掲示、市政だより、無料広告への掲載依頼等も行い、一般の方の来場は約300名であった。<BR>[第4回カメリア祭(平成15年5月)]<BR> これまで正面玄関前の広場を会場として行ったが、この広場を一般の方にフリーマーケットの会場として開放し、祭りの主会場を施設内の庭園に移した。大きなステージを市から借りパフォーマンスのプログラムも午前、午後を通して行った。出演者も地域の方々に多数出演していただき、これにより一気に地域の方の来場が増え、約800名になった。また院内から出していたバザーも地域活動所や施設に依頼し一般の飲食店の方の出店もあった。<BR>[第5回カメリア祭(平成15年10月)]<BR> 第4回と同様の形式に加えて、前夜祭として長崎の音楽団による演奏を行った。パフォーマンス部門では各病棟からの患者の出し物が増え、また患者のステージに上がる場面や行事に参加する頻度が増えた。展示では作品展示に加えて陶芸などの作業活動体験コーナーを設けた。一般の方の参加も出店者、出演者を含め1000名になった。<BR>[第6回カメリア祭(平成16年5月開催予定)]<BR> 今回は前日の前夜祭に加え、病院外の施設を利用し特別講演としてパネルディスカッションを行う予定である。広報はポスター掲示の範囲も広げ、TVCM等を利用することによって多くの方に参加していただけるようさらに企画を立案している。<BR>【考察】<BR> 著者が入職した平成13年からカメリア祭を開催して今年で4年目になる。これまでの経過を振り返ると当初の患者の家族中心の参加から、現在では回を重ねるごとに一般の来場者が増えており地域の方々がより身近に精神科病院を感じていただけるような地域に開かれたお祭りに移行してきていると感じている。パフォーマンスの出演やフリーマーケット、バザーの出店の参加を地域の方々に呼びかけることで患者と地域の方が時間を共にする場作りにもなったことが考えられる。来場された一般の方のアンケートによると、新病棟になったことで施設面での偏見は少ない印象もある。しかし、精神科の病気に対する偏見が減ってきているかということに関してはわからないところが多い。患者の中には第4回開催の頃からカメリア祭を目標に継続した作品作りが行われるなどカメリア祭を楽しむものから一緒に参加し作っていくものとの意識の変化が見え始めた。現在実行委員は職員で編成しているが、患者も企画の段階から参加する方法を取り入れ、ともに作っていくカメリア祭を目指したい。そして祭りの中で患者と一般の方が直接にふれあう機会を増やす内容などの検討が必要と考える。当日は終了している第6回および第7回のカメリア祭の報告も含めて発表する。
著者
宮城 さやか 玉城 すみれ 伊藤 高一郎
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.326, 2010

【目的】<BR>当院では昨年度リハビリテーション(以下リハ)介入中において患者急変に伴う救急要請が4件発生した。今回、その要因と緊急時対応をふまえ、リハ介入中におけるリスク管理を検討する。<BR>【方法】<BR>(A)対象期間:平成21年4月~平成22年3月。(B)対象者:リハ室内で急変となり救急要請を行った4症例。(C)検討事例:1)疾患名2)年齢3)既往歴4)急変前の身体状況5)急変発生状況6)救急要請から医師到着時間7)使用器具8)急変の原因、以上をカルテより後方視的に調査した。<BR>【事例検討】<BR>(症例1)1)右大腿骨転子部骨折術後2)91歳3)大動脈弁/僧帽弁/三尖弁閉鎖不全症、肺高血圧、心房細動、ヘ゜ースメーカー植え込み4)歩行器歩行軽介助レベル5)歩行器にて移動中意識消失6)救急要請は対応が遅れ、救急要請と医師到着が同時期。7)血圧計、パルスオキシメーター8)抗不整脈薬の副作用、電解質異常による不整脈。<BR>(症例2)1)変形性腰椎症2)95歳3)腰椎圧迫骨折4)平行棒内歩行中等度介助レベル;数日前より食思不振5)平行棒内歩行中意識レベル低下6)1分7)救急カート、血圧計、パルスオキシメーター、心電図モニター8)脱水<BR>(症例3)1)冠動脈バイパス術後(外来通院中)2)55歳3)脳梗塞4)独歩にて通院可能5)臥位から座位への体動時意識消失6)3分7)症例2と同等物品8)一過性房室ブロック、迷走神経反射疑い<BR>(症例4)1)亜急性硬膜下血腫2)93歳3)高血圧、心房細動4)起立中等度介助:数日前より食思不振5)車椅子座位中意識レベル低下6)1分7)症例2と同等物品8)電解質異常、脱水。<BR>【結果】<BR>4症例中3症例が90歳以上であり、循環器疾患を有していた。4症例中2症例は電解質異常、脱水であり、数日前より食思不振となっていた。症例1以外では医師の到着時間が3分以内と早期対応が可能であった。<BR>【考察】<BR>今回、症例1において急変発生時、対応の不慣れにより時間を要し、必要な器具など確保できないまま救急要請となった。その事例後より、リハスタッフ、他部署との連携を深め、緊急要請における対応を周知徹底を行った。そのため、症例2以降では救急要請での医師到着時間が3分以内と極めて早期対応となり、リハスタッフや院内における救急対応の意識度は改善されたと考える。今回の事例から高齢化社会に伴い、担当する症例は高齢であり、現疾患以外にも他疾患合併の症例が数多く存在する。今回リスク管理を行っていたにも関わらず、急変を起こすような状況に遭遇した。その要因として、高齢者は自覚症状の訴えが曖昧であり、リスク管理を行う上で評価が非常に難しい。そのため、検査データや全身状態など客観的評価をふまえたリスク管理が今後重要であると考える。また、現在の施設基準では心疾患リハビリテーション基準のみにリハビリテーション室への心電図モニターや救急カートの設置を義務付けており、今後リスク管理や急変事態に備え、心電図モニターや救急カートの設置を検討する必要があると考える。
著者
岡野 レイ子 有村 昌子 堀口 怜子 白澤 奈津紀 大江 豊 橋口 大毅 瀬戸口 香澄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.167, 2011

【はじめに】<BR> 当院回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)では、今年度の目標として「患者1人1人の生活を意識したチーム作り」をテーマとして掲げている。その為、多職種が個々の専門性を活かしながら協力し合い、患者のケアに取り組んでいんでいく必要があると考える。今回、目標に対して他職種間及び各個人の間で、情報共有やゴールの統一ができているのかを調査し、その中でいくつかの問題点や課題が抽出された。これらを踏まえ、今後の取り組みの検討を重ねたのでここに報告する。<BR>【対象・方法】<BR> 回復期病棟において患者に関わるスタッフ35名(NS10名・CW5名・MSW3名・PT8名 OT3名・ST6名)を対象に、カンファレンスの意義や満足度・情報の共有化・目安表の利用状況・ADL表の活用・家族指導・教育制度等についての意識調査を実施した。<BR>【結果】<BR> 昨年から患者の状態把握及びリスク回避のため、取り組んでいる目安表の作成については役立てているという結果であったが、情報の共有化と目標やゴールの統一化という点では、共有できていないことや各職種間での意識の差があることがわかった。<BR>【まとめ】<BR> 今期目標に対し、定期ミーティングで具体的内容としてカンファレンスの充実が挙げられた。しかし、今回の意識調査の中で取り組み内容の把握ができていない職種や、各個人においても意識の差がみられた。現在、当院回復期病棟では、患者の状態を把握し方向性を統一していくために目安表・ホワイトボードの活用、デモやビデオを利用しての動作統一、症例検討会を現在行っているが、まずは、回復期スタッフが同じ目線で取り組みを進めていけるよう考えていく必要があることがわかった。そのための取り組みとして、カンファレンス用紙の変更・カンファレンスチームを編制し、同時に"当院における回復期リハビリテーション病棟とは"というテーマで各職種の専門性の向上と共通理解を図るため勉強会を開催することとした。これらにより知識・観察の視点拡大や情報の共有化による方向性の統一、取り組みに対する姿勢の改善に繋がると考える。今後の問題点として、職種によってはスタッフ不足で個々の負担が大きく取り組みに参加できていない現状がある。これらの検討も今後の課題であると考える。
著者
壹岐 伸弥 宇都宮 裕葵 山崎 数馬 渡 裕一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.36, 2010

【はじめに】<BR>臨床において腰痛を訴える患者は多く、原因として椎間板性、椎間関節性、神経根性、筋・筋膜性、靭帯性などがある。治療には体幹の安定性と可動性が重要であるが、今回、健常者を対象に腰痛の有無による骨盤帯周囲の安定性と可動性の差について比較検討した。<BR>【対象】<BR>対象は下肢・体幹に整形外科的疾患既往のない健常者30名(男性:19名、女性:11名)、平均年齢:24.6±3.7歳、平均身長:164.2±8.0cm、平均体重:54.7±9.2kgであった。今回の研究及び報告にあたり、対象者に対し目的・方法について十分な説明を行い、同意を得て実施した。<BR>【方法】<BR>1)骨盤アライメント評価は上前腸骨棘より上後腸骨棘が2~3横指高いものを良群、それ以外を不良群とした(良群:16名、不良群:14名)。2)日常生活における腰痛の有無を腰痛有り群、腰痛無し群とした(有り群: 15人、無し群: 15人)。3) 指床間距離(以下FFD)は立位で体幹を前屈させ、上肢は下垂し、その時の指尖と床との距離を測定した。4)重心動揺は、前方を注視、端座位にて、インターリハ株式会社Zebris PDM-Sを用い、自然座位、右下肢挙上位、左下肢挙上位の3パターンにおいて30秒間測定。また、その間の重心点(center of pressure 以下COP)X軸、Y軸の平均値を求めた。5)データ処理は、腰痛あり-なし群間の1)、3)差、各群の4)についてMann-WhitneyのU検定とWilcoxonの符号付順位検定を用い有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】<BR>1)骨盤アライメントは腰痛あり群がなし群に対して有意にアライメントの不良が多かった。(p<0.05)。2)FFDは腰痛あり・なし群において有意差を認めなかった。3)腰痛あり群では自然座位より左右挙上位ともに有意に重心動揺が大きかった(p<0.05)。腰痛なし群では有意差を認めなかった。重心点は腰痛あり・なし群ともに自然座位、左右下肢挙上位において差を認めなかった。<BR>【考察】<BR>結果より日常生活において腰痛の有る者、無い者と比較し、端坐位での片脚挙上時に重心点の左右差は認めないが、重心動揺は大きく、立位においては骨盤中間位より前傾または後傾位をとる傾向にあった。これら骨盤の前後傾では腰椎の過前弯や過後弯が生じ、腰椎部でのcoupling motionの運動性が増加すると言われている。このことより腰痛を生じる者においては、下部体幹筋群の協調した同時収縮が困難である事、後部靭帯系システムを効率よく利用できていない事、coupling motionの運動性増加が考えられ、日常生活において姿勢保持時や動作時に個々に要求される外力のレベルにうまく対応できず、動作遂行のために腰部の過剰な運動が強いられている事が腰痛の原因と考えられる。今回は、健常者を対象に行ったが、今後は実際の症例において検討し、体幹の安定性と可動性が腰痛に及ぼす影響について調査し、臨床での評価・治療に生かしていきたい。
著者
橋本 優子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.151, 2011

【はじめに】<BR> 元来,デイケアとデイサービスの役割はリハ機能の有無によって違いがあった.しかし平成18年4月の介護報酬の改定後,デイサービスに理学療法士などの配置による運動機能向上加算が算定出来るようになったことによってデイサービスにおける理学療法士の職域が拡大されることとなった.<BR> 一方,デイサービスにおける理学療法士の業務や役割は一般的に知られていないことが多く,理学療法以外の業務も多くあることから就職後理想とのギャップを感じることも少なくない.そのため,デイサービスにおける理学療法士の役割を示すことで,やりがいや目的を持つための参考となるべく報告する.<BR>【PTの主な業務内容】<BR> 1送迎,2車の昇降や歩行介助,3バイタル測定,4お茶出し,5体操,6個別機能訓練,7食事評価・指導,8入浴指導,9排泄介助,10レクリエーション,11ケアマネへの状態連絡・経過報告,12ご家族への介護・生活指導,13介助方法の評価と他スタッフへの指導<BR>【デイサービスの特徴】<BR> 特徴は三つ挙げられる.一つ目はご利用者のニーズが様々である.社会交流・閉じこもり防止,入浴,食事,機能訓練,家族のレスパイトなどである.<BR> 二つ目は,各施設によって特徴が異なることである.レクリエーション,入浴,食事,機能訓練など特化しているサービスが各施設で異なるため,ご利用者が自分のニーズに合った施設を選択出来る.<BR> 三つ目は,医師や常勤看護師不在という医療機関と異なる環境であり,セラピストの人数も少数である.<BR>【考察】<BR> デイサービスでは医療機関と異なった環境であり理学療法士に求められるものも当然違ってくる.デイサービスではご利用者のニーズが様々であり,身体機能に留まらずADLなどの幅広い視点が必要である.理学療法のみに固執しない生活全般やデイサービスでの過ごし方をトータルで考える視点が求められる.<BR> 医師や常勤看護師不在という医療機関と大きく違う環境であるため,高齢者特有の疾患や病態を踏まえた医学的管理の視点を持つことが必要である.心身の状態変化を評価できケアマネ・医療機関へ迅速に連携する必要がある.<BR> また,各施設で特徴が異なりセラピストの人数も少数であるため,何を特徴としセラピストに何を求めているかを確認してから就職する必要がある.<BR>【まとめ】<BR> デイサービスにおける理学療法士の役割は,ご利用者だけでなくその家族や他のスタッフへの働きかけなど様々である.そのため,専門職として身体機能に限らず生活全体を評価しマネジメントを行い,本人や家族の意向を尊重しながら関連職種と連携を図り生活を支援していくということが必要である.このことを充分に理解していれば,デイサービスでも理学療法士は能力を発揮し,職域拡大へと繋がっていくと思われる.
著者
古賀 郁乃 渡 裕一 中園 聡子 野添 清香 井黒 誠子 松下 兼一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.172, 2005

【はじめに】回復期リハ病棟では、ADLの改善を目指し様々な取り組みを行っているが、歯磨きは片手動作ということもあり「出来るだろう」と思われがちで、他のADLに隠れ後回しになっている。介助に関してもさほど手間もかからないためか、過介助になっている。しかし、歯磨きは移動、姿勢保持、巧緻動作を含み、専門的知識による訓練、介入が必要だと言える。高齢者の生命・健康、QOLの維持・回復における口腔ケアの重要性が見直されてきた今、当院での歯磨きについても考える必要があるのではないか。そこで、患者の歯磨きの現状を把握し、アプローチを行うため「歯磨きチェック」を行ったところ、いくつかの問題点が抽出されたため、検討を行った。<BR>【対象】回復期リハ病棟の脳血管障害患者から無作為に抽出した男性10名、女性10名。平均年齢75.1±11.2歳。<BR>【方法】1.移動2.姿勢3.棚への出し入れ4.歯磨き粉をつける5.歯を磨く6.うがいをする7.口をふく8.道具を洗うの8項目についてそれぞれ4つの基準を設け、セラピストが実際の動作場面を観察し、いずれに該当するかチェックする。チェックは3週間ごとに3回実施。その他のADL、高次脳機能障害などの調査も行う。チェックの結果をもとに、アプローチ方法を検討し、カードへ記入。それを車椅子にかけ、歯磨きを行う際の参考とした。必要に応じて、アプローチの更新を行った。<BR>【結果】「歯を磨く」「口を拭く」「うがいをする」に比べ、「歯磨き粉をつける」「道具を洗う」は動作が複雑になるため介助量が増えている。業務円滑化のための介助量増加がみられる。環境設定と患者の主体的・自主的行動の優先化により、特に「歯を磨く」項目は他項目より改善が見られた。セラピストによる歯ブラシ操作に対するアプローチが的確に行えなかった。カードの活用が少なく、統一見解が不十分ではあったが、患者の現状の能力を把握することは可能であった。<BR>【考察・まとめ】病棟ADL訓練として歯磨きに直接的にアプローチしていることが少ないという現状から、今回のチェックを行った。セラピスト、病棟スタッフともに歯磨きに対する意識の低さ、知識の無さが浮き彫りになった。その理由として、動作労力としての歯磨きと医学、社会的側面から考えた歯磨きとのギャップが存在することが挙げられる。<BR>今後引き続き調査し、セラピストの視点での正確な動作分析・高次脳機能障害の分析、それらに対する介入方法の指標を示す必要があると考える。また業務整理を行い、リンクさせた形で効率的に関わっていくために、アプローチすべき患者の抽出方法の導入や外部委託の歯科医・歯科衛生士とも協力し知識の向上を図る必要がある。そして何より、ADLの定義を明確にし患者を生活者と捉え、QOL拡大を視野に入れ関わりをもつことの大切さを全スタッフ共通認識として捉えていかなければならない。
著者
磯野 美奈子 江郷 功起 山下 満博 井形 竜也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.263, 2011

【はじめに】<BR> 今回予後6ヶ月の終末期乳がん患者の上肢リンパ浮腫に対し、複合的理学療法(以下CDP)にて浮腫の改善に加え、QOL、心理的苦痛の改善を認めた。また、終末期に寄り添う家族にもCDPが心理的サポートやポジショニングに効果的であったためここに報告する。<BR> 尚、本報告に関しては本人、家族より同意を得ている。<BR>【症例】<BR> 57才女性右乳ガン、肝転移、Stage4期。2009年10月右胸筋温存術、レベル1郭清、植皮術施行。2010年11月脳多発転移にて放射線治療を施行し、3週間の入院。予後6ヶ月と家族へ告知。2011年1月食欲不振、症状増悪にて入院。同年2月中旬永眠される。家族は息子と2人暮らし、県内に娘2人、趣味は手芸、オカリナ演奏である。<BR>【経過及び結果】<BR> 脳転移による入院後用手的リンパドレナージ(以下MLD)と集中的な圧迫療法、圧迫下での運動療法、セルフドレナージを追加し、セルフケア習得を指導し退院後も継続した。退院後はスリーブへ変更し指のみの圧迫包帯にて、自己管理を行った。周径は手掌部が最大15cm減少。握力は左右差がなくなり、STEFは治療開始時86点退院時91点、慈恵リンパ浮腫スケールの機能は開始時20点退院時55点退院2週後87点、感覚は開始時18点終了時67.5点退院2週後85点、美容は開始時28点終了時79点退院2週後67点、心理的苦痛は開始時43点退院時68点退院2週後90点と特に退院後の点数の改善にはADLで使用する中で機能面のみならず満足度を実感された結果となった。調理動作では皮むきなどの包丁動作、趣味の手芸では針の操作などの巧緻性が改善され約1か月間自宅生活を送ることができた。症状が増悪し、入院後は意識レベル100~200/JCS、理学療法は浮腫の観察、必要に応じてMLDと圧迫療法、ROM練習、ポジショニングを計画した。浮腫改善に喜ばれていたことを知る家族は、浮腫の増強に敏感でスリーブの着用を希望された。輸液の量も多く、四肢への浮腫増強から広範囲なMLDは施行できなかった。「怖くて触れない」と顔と手指を清拭するだけであった家族へCDPの基本でもあるスキンケアに加え軽擦、指のドレナージ、ポジショニングを指導、施行し、浮腫、褥瘡、拘縮が予防できた。<BR>【考察】<BR> リンパ浮腫は終末期乳癌に合併する頻度が高い。今回の症例を通し、常に存在する浮腫がどれだけ心理的苦痛となっているかが分かった。終末期のリンパ浮腫に対するCDPには運動機能の改善、心理的苦痛の改善、QOLの向上、緩和治療としての疼痛改善、緊張の緩和、精神的な支援が期待できる。また、終末期に寄り添う家族の「何かしてあげたい。」という気持ちにも応えるアプローチとして心理的サポートにも効果的であった。CDPは終末期の患者、家族それぞれにおける多様な状況にも対応できるアプローチとして有用ではないかと思われた。
著者
内田 正剛 河添 竜志郎 鈴木 圭 竹内 久美 田尻 美穂
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.109, 2007

【はじめに】<BR> 当事業所は独立型の訪問看護ステーションであり、訪問を通して生活支援のための福祉用具の導入に関わることも多い。今回我々は、身体機能の変化等によりリフト移乗を中止していた症例に対し、吊り具の調整とリフト操作方法の再検討により再導入に至る経験ができた。経緯や吊り具の調整方法などについて若干の知見を得たので報告する。<BR>【症例紹介】<BR> N.O氏、33歳男性診断名:筋萎縮性側索硬化症(H16.6診断)。現病歴:H2歩行困難、筋力低下が徐々に進行、H12呼吸不全となり気管切開、H15人工呼吸器開始、同年呼吸停止し低酸素脳症発症し意識レベルJCS300の寝たきり状態。H17.10.14より全身状態の維持管理を目的に当ステーションの訪問看護・訪問リハビリテーションが開始となった。<BR>【経過】<BR> 訪問開始時の家族の希望として、ベッドからのリフト移乗の再開と訪問入浴時の安全性の確保、介護者の負担軽減のためのリフト使用があった。しかし、リフト使用を中止するまでの吊り下げられた姿勢は座位姿勢に近く、著しい低血圧と頚部のコントロール不良によりそのままでは再開は困難であった。主治医や家族と共に現状でリフト移乗が可能な姿勢の確認をおこなった結果、仰臥位で水平に近く、頭頸部に無理な屈曲を強いらない姿勢であれば可能との結論となった。直接本人で試行ができなことから、事業所内スタッフ間で吊り具の調整方法や手順の確立を図った。結果として脚分離フルサイズ吊り具で水平位に近づくよう長さを調整し、ネックサポートの使用で頸部への負担軽減を図った。また、リフトで吊り上げた際の吊り具の張力が足側へ偏重することを防止するために、両膝窩部にクッションを入れ屈曲位保持させた。H18.1から母親とともに症例への試行を実施し良好な結果となった。その後、訪問時に母親への吊り具装着、操作方法の指導を継続し、H18.3には母親一人でも操作可能となり、ストレッチャーへの移乗や訪問入浴へのリフト使用など生活内へ導入となった。<BR>【考察】<BR> リフトや吊り具等の福祉用具は、対象者の身体機能や用途に合わせ選定、調整、適応する段階付けが必要である。これらは症例の状態変化においても検討調整が繰り返し求められる。生活支援とはその対象者と福祉用具と環境を組み合せてプランニングすることであり、訪問リハビリテーションにおいて我々セラピストは生活の可能性を見出し、実現する役割が求められると考える。
著者
吉村 修 中島 新助 村田 伸
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.203, 2008

【目的】<BR>身だしなみは、人の印象を決定する重要な要素である。特に臨床の場では、患者や職員との人間関係を良好にする基本的なマナーとして必要とされる。今回、当院の患者及び職員に対し、臨床現場における理学療法士(以下PT)の身だしなみについて、アンケート調査を行ったので報告する。<BR>【対象】<BR>当院において理学療法施行中で、調査に協力可能な患者36名(男性16名、女性20名、平均年齢58.4±16.4歳)、当院に勤務する看護スタッフ(看護師・看護助手)138名(男性14名、女性124名、平均年齢34.6±9.3歳)、当院に勤務するPT・作業療法士・言語聴覚士のリハビリテーションスタッフ(以下リハスタッフ)31名(男性12名、女性19名、平均年齢27.4±4.3歳)である。<BR>【方法】<BR>PTの身だしなみに関する質問紙調査を無記名方式で行った。アンケートの内容は、男女の茶髪、男女の指輪、男女のピアス、男女の香水、女性の化粧、女性のマニキュア、伸びた爪、男性の長髪、男性の無精ひげ、カラーの靴下、白衣の下にカラーのシャツを着ることの15項目からなり、質問は全て「~していてもかまわない。」の文章構成とし、回答は「そう思う」「そう思わない」の2件法で選択してもらった。回答の「そう思う」「そう思わない」をそれぞれ1点、0点と得点化(満点15点)し、合計点を尺度得点としたが、点数が高いほど身だしなみに寛容であることを表す。統計処理には一元配置分散分析を用いて検討し、その後、Scheffeの多重比較検定を行った。なお、統計解析には StatView 5.0 を用い、統計的有意水準を5%とした。<BR>【結果】<BR>患者の身だしなみ尺度得点の平均は8.0±3.6、PTは6.7±2.3、看護スタッフは4.6±2.7であり、看護スタッフが有意に低い得点をつけていた(p<0.05)。項目別として、3者とも肯定的な回答が過半数を超えた項目は「男性の茶髪」「女性の茶髪」「女性の化粧」「カラーの靴下」の4項目であった。また、3者とも否定的な回答が多かったのは、「男性のピアス」「伸びた爪」であった。<BR>【考察及びまとめ】<BR>3者の身だしなみ尺度得点の比較から、PTの身だしなみに関して、看護スタッフが最も厳しい見方をしていることが示された。看護スタッフとリハスタッフの意識には差があり、そのことが職員間の人間関係に悪影響を及ぼさないように、PTは仕事中の身だしなみについて再確認し、良好な関係作りに努める必要があると考える。患者とリハスタッフの意識には差がなかったことから、身だしなみに対するリハスタッフの意識と患者の意識はある程度共通していると考える。但し、患者がPTの身だしなみを寛容に捉えていたのは、治療される側として、遠慮があったのではないかとも考えられる。看護スタッフが他の2群より厳しく捉えていたことや患者の寛容さは、年齢や性別の影響が考えられ、今後は対象例を増やしそれらの要因を調整した分析が必要と考える。
著者
納富 亮典 原 麻理子 飯盛 美紀
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.11, 2011

【はじめに】<BR> 右の広範な脳梗塞後,左手に非所属感,無目的な運動,物品操作時の拙劣さと握り込みを認めた症例に対し,外言語化による左手の運動を導入した結果,改善がみられたため,考察を加え報告する.尚,症例と家族には発表に際し文書同意を得た.<BR>【症例紹介】<BR> 80歳代,女性,右利き.診断名:心原性脳塞栓症.Br-stage:左上肢・手指・下肢共にV.感覚:左上下肢表在・深部覚共に重度鈍麻.左手に強制把握あり.FIM:44点.<BR>【MRI・FLAIR所見】<BR> 右頭頂葉・後頭葉・前頭葉内側,脳梁全域に高信号.<BR>【神経心理学的所見】<BR> MMSE:24/30点.BIT通常検査:14/146点,行動検査0/81点.数唱:foward5桁,backward4桁.聴覚性検出課題:正答率84%,的中率45%.記憶更新課題:3スパン正答率13%.PASAT:2秒条件3%.FAB:4/18点.Kohs立方体:不可.SPTA:拙劣さあるが命令・模倣動作とも可能.VPTA:錯綜図5/6,未知相貌の異同弁別7/8.<BR>【左手に関する症状】<BR> 無目的に動く.左手に対して「隣の人の手」「この人,静かにしなさい」といった発言をする.物品操作では,リーチのずれ,Preshaping・shapingの拙劣さ,握り込みを認める.日常生活での使用は乏しい.<BR>【介入・経過】<BR> まずは外言語化による無目的な運動の抑制を試みた.また,「誰かの手」と言う左手の非所属感,左手の低使用,握り込みに対し,右手の運動抑制と左手の運動拡大を目的に,物品の握り・離しの単純動作を徒手的に誘導しながら実施した.自室内環境としても,ベッドでの寝返り方向,テレビ,棚の位置を左方向へ変更し,病室内の導線(トイレ,洗面台,廊下まで)をマーキングし,左空間への視覚探索・動作機会の増加を促した.左手への注意向上がみられた頃より,両手動作の練習を開始した.まずは手洗いなどの簡単な慣習動作から開始し,セルフケア,簡単な生活関連動作へと進めた.結果,セルフケア場面での左手の使用の増加や,外言語化による自己調整が可能となり,内観も「誰かの手」から「自分の左手」へと変化した.<BR> 発症5ヶ月後にはBr-stageには変化はないものの,神経心理学的所見は,MMSE:24点,BIT通常検査:130点,FAB:8点,ADLはFIM:103点となり,歩行・整容・更衣・排泄動作は自立となった.<BR>【考察】<BR> 本症状は左手の非所属感,無目的な運動より,posterior typeのalien hand syndromeと考えられた.病巣は広範な右半球と脳梁にあり,左手の情報と行為の中枢である左脳との連絡が絶たれたことによる症状と考えられ,非所属感や無目的な運動が生じた左手に対し,外言語化による左手の情報伝達と運動指令の再学習は有効と思われた.
著者
川田 隆士
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.140, 2006

【はじめに】<BR> 介護予防マネジメントの中で生活機能向上に対する意欲の引出し、生活のイメージ化が求められている。今回当ユニットに入居した1事例を通じ、OTの関わりと実生活に則した施設環境の重要性を紹介する。<BR>【事例紹介】<BR>81歳女性、俳句の同人詩で活躍。H15年より胸椎検査のため二ヶ月程入院。H16年1月、胸椎化膿性脊椎炎圧迫骨折両下肢麻痺にて手術。歩行器にて歩行可能となり8月退院。9月自宅にて転倒し右脛骨骨幹部骨折にて再び入院。物忘れ、昼夜逆転、夜間せん妄憎悪し、当ユニット入居。転院時状況は全般的に廃用性筋力低下著しく、食事(食欲低下)、寝返り一部介助以外全介助レベルで尿便失禁認める。疎通比較的良好。リハに意欲を示すが、帰宅願望強く、長谷川等の検査や車椅子座位での簡易な家事、俳句に対し参加拒否。表情硬く、白髪。親族は面会熱心で、激励や句会参加を強調する場面見受ける。<BR>【リハ治療プログラム】<BR>訓練は病前の活動を意識させないものから導入 1.下肢ROM訓練2.下肢運動機能向上訓練3.バランス訓練4.起立、歩行訓練を毎日実施<BR>【フロア、親族との連携】<BR>2.4を午前午後に分け1回ずつ、週3日実施。チェック表記入。OT指示が出るまで激励、句会等の会話はせず、できた事を賞賛するよう助言<BR>【当ユニットの特徴】<BR>1.12対5の小ユニット為、事例の心身状況を把握し易く、伝達が早い2.居住空間が狭く、近位監視が可能。家具の配置が密集され、参照点が多く、実生活に則した歩行が早期から可能3.個浴、家具類持込みに加え、生活パターンが個人基盤である事から退所後のイメージ化を促進4.開設からOTが関わっており、スタッフのリハビリに対する連携意識が強い5.完全カルテ開示にて、随時親族との打ち合わせ可能<BR>【経過】<BR>チェック表定着。訓練の調整可能。10日後歩行器歩行中等介助にて60m可能。2ヶ月後、歩行器歩行監視100m可能。テーブル支持にて移動可能。車椅子除去。食事(全量摂取)、排泄、更衣、整容動作修正自立。髪を染め、句集を目にし始める。3ヶ月後監視シルバーカー100m、伝い歩行60m可能。長谷川検査にて非認知症判定。他者への配膳、食事介助をされる。フロア、親族への助言解除。4ヶ月で移動は修正自立レベル。俳句作成、家事実施。5ヵ月で退所。通所リハへ移行。現在、移動完全自立。APDL修正自立。排句会の行事参加等多忙な生活を送っている<BR>【考察】<BR>事例は長期不活動による廃用だけでなく、自宅復帰時の転倒骨折にて退所後のイメージ化ができにくく、抑うつをベースとした仮性認知症症状を来たしていたと考えられる。短期間で劇的に改善を認め、再復帰に至った背景には小規模単位による早期連携の定着化、実生活に則した環境因子による在宅イメージの容易化が考えられる。しかし、これらを短期間に事例の生活機能に反映していけた背景には事例の心身両面の改善に対し、早期よりOTがスタッフ、親族との連携に積極的に関われた事が挙げれれる
著者
上島 隆秀 高杉 紳一郎 河野 一郎 岩本 幸英
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.5, 2007

【はじめに】<BR> 中高齢者を対象に,介護予防や健康増進を目的とした数多くのプログラムが全国で実施されている.内容としては転倒予防や認知症予防を目的とした運動,音楽,舞踊などが多い.フラもその一つであるが,昨年の映画公開をきっかけにフラに対する注目度が上がっている.ハワイの伝統文化であるフラは,見た目の優雅さとは裏腹に想像以上に下肢筋活動を伴う運動である.今回,M市のフィットネス施設において,フラ教室参加者の身体運動能力測定および健康関連QOL評価を実施し,その介入効果について検討したので報告する.<BR>【方法】<BR> 対象はM市の一般住民でフィットネス施設のフラ教室に参加した女性11名(平均年齢67.6歳)であった.全ての対象者に対して教室開始前と終了後に,ファンクショナルリーチ(以下 FR),開眼片脚立ち時間,長座体前屈,10m最大歩行速度,膝伸展筋力,握力の測定および健康関連QOL評価を実施した.長座体前屈は竹井機器工業社製デジタル長座体前屈計,膝伸展筋力は日本メディックス社製徒手筋力測定器MICROFET2を使用した.健康関連QOL評価はSF-36日本語版を使用した.評価項目は,身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,全体的健康感,活力,社会生活機能,日常役割機能(精神),心の健康である.そして,各測定・評価項目についてフラ教室参加前後の値を比較検討した.なお,統計学的検定には対応のあるt検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした.<BR>フラ教室は,熟練した講師の指導下で毎回1時間,週1回の頻度で2ヶ月間実施された.なお,事前に十分な説明を行い対象者の同意を得た上で測定および評価を実施した.<BR>【結果】<BR> 教室参加前に比べ参加後では,FR(38.3→41.3cm),長座体前屈(34.9→37.6cm),膝伸展筋力(22.7→24.6kg)において有意な向上が認められた.また,健康関連QOLでは,身体機能(74.5→89.1)および活力(64.5→80.9)において有意な向上が認められた.<BR>【考察】<BR> 今回, FR,長座体前屈,膝伸展筋力において有意な改善を認めた要因として,ダンス中における頻回な骨盤傾斜・回旋及び膝軽度屈曲位でのステップによるものではないかと考えられた.<BR>また,健康関連QOLにおいても改善効果が認められたことから,フラを継続することでQOLや生活機能の改善が期待できる.高齢者の生活機能低下予防は,介護予防の観点からも重要であるが,楽しみながら身体を動かすだけで生きがいにもつながればそれに勝るものはないであろう.<BR>今後は,他の運動との比較も行ってゆきたいと考える.<BR>【文献】<BR> 1)伊藤彩子:フラダンスのはじめ.WAVE出版,2004.
著者
大薮 みゆき 山田 麻和 松尾 理恵 友利 幸之介 田平 隆行
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.122, 2004

【はじめに】<BR> 4年前に線条体黒質変性症の診断を受けた本症例は、身体機能の低下に伴いADLはほぼ全介助である。今回4度目の入院において、症例は「どうしても自分でトイレが出来るようになりたい」と希望している。ここに症例の到達目標とセラピストの予後予測にずれを感じた。近年、カナダ作業遂行モデル(以下、CMOP)に基づいたクライエント中心の作業療法が実践されている。そこで、今回CMOPの理論と作業遂行プロセスモデル(以下、OPPM)に基づき、症例が望む作業について症例と共に考案したので報告する。<br>【症例】<BR> S氏、84歳、女性。診断名は線条体黒質変性症。夫、次女、次女の夫、孫との5人家族で、主介護者は夫である。介護保険制度では要介護度4の認定を受け、通所リハビリテーションと訪問介護を利用し在宅生活を送っていた。<br>【アプローチ】<BR> OPPMに基づき以下のようなアプローチを行った。<br>第1段階:作業遂行上の問題を確認し優先順位をつける。ここでは、カナダ作業遂行測定(以下COPM)を用いた。セルフケアでは「夫に迷惑をかけている」という負い目から排泄動作自立を希望していることが分かった。レジャーでは、人との関わりを好む性格から「夫や曾孫へプレゼントをすること」「友達と話をすること」という希望が聞かれた。<br>第2段階:理論的アプローチの選択<br> 基礎体力や排泄動作能力向上のために生体力学的アプローチを、社会・心理面にはリハビリテーションアプローチを行った。<br>第3段階:作業遂行要素と環境要素を明確にする<br>症例は1時間半程度の座位耐久性があり、手指の巧緻性の低下は認められるものの、簡単な手芸は可能と思われた。他者との会話は難聴と構音障害のため困難であった。排泄は尿便意消失のため膀胱留置カテーテル、おむつを使用していた。症例は羞恥心と「女性は男性の世話をするもの」という価値観から夫からの排泄介助に負い目を感じていた。一方、夫は87歳と高齢で心疾患があり排泄介助に負担を感じていた。<br>第4段階:利点と資源を明確にする<br> 症例はプレゼント作りに対する意欲が高かった。また、夫は介護へ前向きであった。<br>第5段階:めざす成果を協議して行動目標を練る<br> これらの結果をもとに、症例や夫と一緒に話し合い、目標を1)夫に迷惑をかけているという負い目の軽減、2)夫や曾孫にプレゼントを贈る、対人交流の促進とした。<br>第6段階:作業を通じて作業計画を実行する<br> 1)については、夫の希望からもおむつ交換時の介助量軽減が「夫が心身共に楽になる」ことにつながることを伝え、おむつ交換訓練やベッド上動作訓練の導入を提案した。しかし、家族が施設入所を希望したため保留となった。導入時、セラピストは、症例の負い目を夫に伝え、症例と夫へ会話の場の設定や話題提供を行ったところ、夫から症例への優しい言葉掛けが増え、その言葉に症例は安心感や喜びを感じていた。2)については「風邪をひかないように毛糸の帽子を作ってあげたい」という症例の希望を受け、改良した編み棒を用い、スプールウィーピングにて帽子を作ることにした。作業の際には症例と他患との間に、セラピストが入り、他患との会話を促した。手芸の経過の中で「じいちゃんとのこれまでの生活を思い出す。結婚して良かった」「病院にも友達が出来たよ」という言葉が聞かれた。完成後は感謝の手紙を添えて夫へプレゼントした。また、夫へ依頼しひ孫へ直接プレゼントを渡す機会を作ってもらった。症例は夫や曾孫が喜んでくれたことを嬉しそうにセラピストに話した。<br>第7段階:作業遂行における成果を評価する<br> 初回評価から8週後にCOPMの再評価を行った。「夫に迷惑をかけないように自分でトイレをする」という希望は遂行度、満足度に変化が見られなかった。「夫やひ孫へプレゼントをする」「友達と話をする」という希望ではスコアが大幅に向上した。<br>【考察】<BR> 「一人でトイレがしたい」と希望する症例に対してCMOPの理論に基づき、症例の視点から作業を共に検討した。そして症例の作業を決定する動機、すなわちSpiritualityは「夫に対する想い」であった。そこでアプローチには、帽子のプレゼントや負い目に対する夫の言葉かけなど、夫とのコミュニケーションを形づけられるような作業を提案した。その結果、トイレ動作に変化に見られなかったものの、日常での言動やCOPMでの再評価から症例は夫の中にある自己の存在を確認できているように見えた。現在、症例の生き生きとした言動から家族も再度在宅生活を検討し始めている。今回の経験からSpiritualityの発見と、それに向かって具体的な作業を提案することの重要性を認識した。
著者
北野 晃祐 今村 怜子 山本 匡 菊池 仁志 小林 庸子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.57, 2011

【背景】<BR> 排痰補助装置(カフアシスト:以下MAC)は、排痰補助の他に胸郭の拡張効果などが期待できる。MACの気道への陽圧や急速な陰圧が強い違和感となり、実際の排痰困難時に、導入困難な例をしばしば経験する。<BR>【目的】<BR> 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者におけるMAC導入困難症例への対応のため、発症早期より胸郭拡張の目的でMACを使用し、その導入の円滑化を図る。<BR>【対象・方法】<BR> 対象は、平成22年4月以降に当院にてMACを導入した喀痰排出能力を保つALS患者9名。MACの初回導入は、排痰ではなく胸郭拡張の目的で使用する旨を説明した。導入時は、フルフェイスマスクを使用してINHALE (IN)のみを10~15cmH<sub>2</sub>Oより開始し、徐々に40cmH<sub>2</sub>Oを上限に圧を上げ、1日に1回(5サイクルを3セット)実施した。INを違和感なく実施可能となった患者に対しては、15~30cmH<sub>2</sub>OよりEXHALEを開始し、40cmH<sub>2</sub>Oを上限として継続的に実施した。継続的な使用が可能となった患者には、担当理学療法士(PT)により「導入時の感想」「現在の感想」に関するアンケート調査を施行。また、導入時と現在のMACへの違和感をPT1名によりVASで定量化した。本研究は当院倫理員会の承認を受けて実施した。<BR>【結果】<BR> ALS患者群のPeak Cough Flowは、264.4±65.0L/min。9名全員が継続的に使用可能となり、MACに慣れるまでに要した回数は多くが1~2回で、1名が5回の機会を必要とした。導入時の感想は、「何ともない」「スッとした」「面白い。自分で買おうかな」「喉のあたりが押し込まれる感じ」「少しきつい」が聴取された。現在の感想は、「INがビックリする」「気持ちが良い」「続けていきたい」「タイミングが取れれば大丈夫」「何ともない」「胸の方まで押し込まれる感じ」が聴取された。VASは導入時5.4±1.8/10から現在4.1±2.6/10と変化した。対象患者1名が導入3ヵ月後に肺炎で死亡、さらに1名が導入1カ月後に突然死となり、調査中止となった。<BR>【考察】<BR> MACを早期より導入した9名全員が継続的に使用可能となった。理由として、発症早期は、呼吸機能が保たれており、MACと呼吸の同調が容易であることが考えられる。しかし、違和感はVASにおいて現在も消失していない。MACは気道への陽圧と急速な陰圧という非生理的刺激を利用することから、違和感を完全に消失させることは困難と思われる。そこで、早期導入には、初回から入念なオリエンテーションと10cmH<sub>2</sub>O程度の圧より開始し、徐々に慣れていくことが重要と考える。今回2名の死亡中止例が見られている。死亡へのMACの因果関係は否定的であるものの、気胸や不整脈のリスクを伴う機器であり、今後在宅や施設での普及の為にも、導入基準決定のための評価シートが必要である。病状の進行により排痰補助を必要とした際に、MACを問題なく使用できることが重要であり、継続した検討が必要である。