著者
田中 智寛 山田 隆治 青山 和美 吉村 尊子 関本 朱美 山下 永里
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.92, 2005

【はじめに】<BR>日本福祉用具・生活支援用具協会による2002年度の福祉用具産業市場動向調査において、福祉車両の供給率は1993年度と比較して9.53倍と急増しており、福祉車両に対するニーズの高さを示している。しかし、ニーズは高いが、実際に触れる機会の少ない福祉車両について、宇城地域リハビリテーション広域支援センター(以下、支援センター)において、福祉車両展示会を企画・実施したので以下に報告する。<BR>【目的・開催に向けて】<BR>この会は支援センターとして初の試みであり、(1)福祉車両に実際に触れ、知識と情報を得る場とする(2)各参加者間の情報交換・交流の場とする等、今後も継続的に行う事を視野に入れた目的設定をした。<BR>目的を踏まえ、出展車両は市販車とし、第6回西日本国際福祉機器展にて4社に依頼し、3社が展示可能となった。出展車両は、基本的に各社の出展可能な物を依頼し、後方スロープ1台、リフトアップシート3台、リフト仕様2台、両上肢操作仕様2台の計8台の展示となった。<BR>【開催当日】<BR>会は3時間行い、各企業より1台5分程度の車両の説明を行った後、自由に見学・質問の時間とした。<BR>参加者は計98名(内訳は入院・外来患者、当法人在宅系サービス利用者やその家族、他事業所、当法人職員)であった。当法人職員以外の参加者には、外出の回数・車両を取り扱う上での問題点・展示会についての感想等のアンケートを依頼した。<BR>【アンケート結果】<BR>アンケート回収は26名(男性6名・女性20名)。結果として、自動車の使用頻度は、「毎日」11名・「1・2回」8名と比較的外出を頻回に行われる方が多かった。車両の取り扱いで困る点は、「乗車や下車時」9名・「車椅子の乗せ降ろし」5名と運転自体より、乗降の際の問題が多く見られた。展示会の感想は「大変良かった」6名・「良かった」13名・「普通」5名だった。<BR>【考察及びまとめ】<BR>会全体を通して、参加者の福祉車両への興味が非常に高い事が伺われた。高齢・障害者や介助者にとって外出は、日常生活の中で直面している問題の一つである。しかし、当地域は郡部であり公共の交通も不便なため、外出における選択肢も少ない。そのため、外出する際の問題は直接的に介助者へ掛かり、生活範囲の狭小化につながる。地域住民の生活の幅を広げるために、会を定期的に開催し、情報の提供・共有や問題の共有をしていく必要性があると思われる。<BR>車両そのものについては、企業により車種に偏りがあり、参加者の関心にばらつきが見られた。また、車両の特性が介助者へ着目したタイプが多く、自操車タイプを目的に来場した方より物足りないという意見も聞かれ、今後の課題としたい。<BR>今回の展示会を開催して、福祉車両へのニーズの高さ・外出に対する意識の高さを再認識した。今後も支援センターとして、地域住民のニーズを反映させながら、発展的な生活支援の場にしていければと考える。
著者
竹内 明禅 佐田 直哉 五十峯 淳一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.348, 2010

【はじめに】<BR> 腰痛症患者は臨床で最も多く治療する機会があり、その中で頸部及び胸腰部の回旋方向への可動域制限を認める場合があり、頸椎の環軸関節(以下、C1/2)を治療し可動性を改善することで症候の緩和を認める経験をする。今回、腰痛症患者において頚部可動性と胸腰部可動性との関連性を調査し、C1/2治療後の症候の変化及び胸腰部の可動性の影響について研究を行ったので報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 腰痛群(以下、P群)は外来患者20名(男性6名・女性14名)、平均年齢25.7歳±11.1とし、対照群(以下、C群)は健常成人20名(男性9名・女性11名)、平均年齢30.1歳±7.72の2群とした。<BR>1.測定器具は東大式角度計を用いて頚部のa.屈曲b.伸展c.回旋d.側屈、胸腰部のe.回旋のROMを測定し、c~eに関しては左右差を算出して2群間を対応のないt検定にて比較検討した。<BR>2.頸部への治療技術はC1/2回旋に対する接近滑り法を実施し、P群の治療前後のa~eを測定し対応のあるt検定にて比較検討し効果判定を行った。<BR>3.P群において治療前後でのeに対するa~dの相関係数と治療前後のVisual Analogue Scale(以下、VAS)に対するa~eとの関連性をピアソンの積率相関分析を用いて分析した。<BR>【結果】<BR>1.C群と比較してP群のbが有意に減少(p<0.01)、c・d・eが有意に増加し (p<0.01・p<0.01・p<0.01)、頚部及び胸腰部の可動域制限を認めた。<BR>2.P群において治療前と比較して治療後にc・d・eが有意に減少し(p<0.01・p<0.01・p<0.01)、可動性が改善した。<BR>3.P群において治療前と後のcはeに対して高い相関を認め (r=0.66・r=0.62)、頚部の回旋制限が大きいと胸腰部の回旋制限も大きく、頚部の回旋制限が改善すれば胸腰部の回旋も改善した。また、治療前のcはVASに対して高い相関を認め(r=0.52)、頚部回旋制限が大きければVASも大きく、治療後のc・eはVASに対して高い相関を認め(r=0.65・r=0.76)、頚部・胸腰部の回旋可動性が向上すればVASは軽減した。<BR>【考察】<BR> 結果1よりWhite, Panjabiが提示する脊柱の可動範囲から頸椎~胸腰椎の骨運動と関節内運動は四肢関節における運動とは異なる点が多く、動く骨体が軟骨で結合されている為、動きが僅かしか起こらない。しかも、運動分節は上位から下位に向かってドミノ倒しのように順番に動きが起こる特徴を考慮すると上位または下位からの連動性に問題が生じた為だと推測される。<BR> 次にC1/2回旋に対する接近滑り法は頸椎のROMを総合的に改善することができ、特に回旋方向への可動性を向上することで頚部可動性の左右差を軽減し、胸腰部の可動性を増加させ、さらには疼痛の軽減も図ることが可能となった。これは治療対象器官を関節に設定したことで、Mennellが定義する関節機能障害の存在が推測でき、一連の脊柱のROM制限と疼痛の一要因が関節機能障害の関与ではないかと考えられる。<BR> 今回の研究では、脊柱のROM制限と疼痛の関係が密接に関わっていることが分かり、特に頸部回旋運動、胸腰部回旋運動、疼痛との関連性が高いことが示唆された。
著者
荒木 克也 黒土 達也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.256, 2010

【はじめに】<BR>患者様の在宅復帰を円滑にすすめていく上で、患者様を中心とした家族、医師、看護師、コメディカルスタッフの協力・連携が重要である。しかし、患者様の疾患が重症であればあるほど在宅復帰は難しい状況が現状であり、またその家族の受け入れ次第では復帰できる可能性のある患者様も在宅復帰を困難にしていることも現状である。そのため今回、当病院においてより良く家族に患者様を受け入れていただくことを目的として家族会を開催し、実施後の家族へのアンケート調査をもとに取り組みを行った経過および結果をここに報告する。<BR>【対象】<BR>当院回復期病棟に入院中である熊本県地域連携パスBコース(当院在宅復帰率85.7%)及びCコース(当院在宅復帰率36.2%)の患者様家族を中心に声かけを行い希望者を募った。<BR>【方法】<BR>看護部からは症例を用いて説明し、医療連携室からは介護保険制度の説明、リハビリテーション室からはベットからの起き上がり方法・車椅子及びトイレへの移乗方法を中心とした実技指導方法も交えて3部門よりそれぞれの特色を生かした説明を行なった。その後、第1回の参加者12名、第2回参加者9名、第3回参加者9名の計30名の家族会に参加した方々に終了後アンケート調査を実施した。<BR>【結果】<BR>1.開催日について:良い88%その他12%2.開始時間:良い96%その他4%3.講義時間:良い88%長い8%未回答4%4.講義内容:理解しやすい66%普通34%5.実技:わかりやすかった88%普通12%<BR>【考察】<BR>今回3年分の家族会の経過を基にアンケート調査を実施し検証を行った。アンケート調査の内容に今後取り上げてもらいたい内容、その他ご意見・ご感想の欄を設けた。その意見として、退院後のリハビリテーションの実施方法、栄養面での栄養士による栄養指導、住宅改修を実際に行った前後の写真や経費、入院期間の期限、入浴介助方法などの意見を頂いた。このような意見を基に今後の展望として家族会に上記の意見を十分に取り入れていきたいと考える。また、県外の兄弟にも参加させたい、もっと頻度を増やしてほしい、退院後も定期的に行ってほしい。と積極的な意見もみられ、これは地域連携パスにおける重傷者の患者家族の意見としてはより在宅復帰が近いものになってくるのではないかと考える。今後も検証を続け、患者様家族の意見を取り入れもっと家族会がよりよいものとなり、1人でも多くの患者様が在宅復帰できるよう支援していきたいと考える。
著者
仲地 正人
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.9, 2004

【はじめに】<BR> 当センターでは脳性麻痺児に対する下肢痙性減弱の目的で機能的脊髄後根切断術(以下、FPR)に注目し2001年より導入した。2003年8月までに県立那覇病院で21例の児にFPRが実施された。今回、FPRを受けた児の保護者に対しFPRの満足度、術前・後の変化点の認識および感想についてアンケート調査し若干の知見が得られたので発表する。<BR>【対象】<BR> 当センターで理学療法を受けている入所、通所、外来児でFPRを受けた児21例(男児11例、女児10例)。タイプ別では痙直型16例、混合型5例であった。手術時の年令は3歳3ヶ月から8歳(平均61.9±19.3ヶ月)であった。術後期間は3ヶ月から35ヶ月(平均13±9.7ヶ月)であった。GMFCSによる分類ではレベル1が3例、レベル3が3例、レベル4が11例、レベル5が4例であった。<BR>【方法】<BR> アンケートは術前・後の変化点、FPRに対する感想について空欄への記入式とし満足度については選択式にしてその理由を記入してもらった。またGMFCSに基づいてレベル分類を行い各レベルにおける運動機能の改善点を列挙した。<BR>【結果】<BR>1,手術を受けて良かった点としてGMFCS別でレベル1群では立位、歩行、階段昇降でのバランス向上、レベル3群では坐位・立位姿勢の安定、歩行補助具を用いた歩行の安定性向上、レベル4群では寝返り・起き上がり動作の円滑性、座位の安定性向上、レベル5群では背・腹臥位、座位がリラックスして行える事に満足している傾向にあった<BR>2,その他の良かった点として股関節の痛み、衣服の着脱、上肢の操作性、口腔機能、発声・発語、睡眠中の姿勢、排尿・排便、感覚などにも改善が得られ満足している傾向にあった<br>3,手術を受けて悪かった点 痙直型1例にバニーホッピング時に股関節が過外転位となり移動速度が低下した。痙直型1例に術後1年で尖足が再発している。混合型1例にATNR出現時に体幹の反り返りが目立つようになった。<BR>混合型1例に下肢に軽度の不随意運動が増加した。尿・便失禁が生じたが術後6ヶ月時より改善した。<br>4,術後に生じたその他の変化点 痙直型1例に足の血色が良くなり発汗が多く見られるようになった。痙直型1例に触感覚が敏感になりカーテンなどが足に触れると大笑いするようになった。5,手術を受けての満足度では21例中、6例(29%)が大変満足、13例(61%)が満足、2例(10%)がどちらとも言えない、不満は0%であった。<BR>6,FPRを受けての感想では術前出来なかった動作が術後可能になり本人に自信が付いた、何でも自分でやろうとするようになった、姿勢や表情が良くなっているということが挙げられた。<BR>【考察】<BR> 今回、FPRに対し「大変満足している」あるいは「満足している」と答えた保護者は19例で全体の90%%にあたり満足している点は術前すでに獲得していた動作の円滑性や姿勢の安定性向上、術前には出来なかった事や見られなかった事が術後可能となった事であった。「どちらともいえない」と答えた保護者は2例10%でその理由は痙直型では術後一年で尖足が再発している。混合型ではATNR時に体幹の反り返りが目立つようになったであったが痙直型では寝返り・肘這い動作がスムーズになった、箸、スプーン、書字動作が向上した。混合型では股関節を痛がるしぐさが無くなった、物を触ろうとする動きが増えた、喃語が多くなった、リラックスして眠れるようになったなどの改善点もあり手術を受けて良かった点と悪かった点を相殺することでこの様な回答となっていると考えられる。手術を受けて悪かった点としては痙直型2例でバニーホッピングでの移動速度の低下、術後1年で尖足が再発した、混合型2例でATNR出現時に体幹の反り返りが目立つ様になった、下肢に軽度の不随意運動の増加が見られた事が挙げられた。<BR>【まとめ】<BR>1,FPRに対する親の満足度を調査した。<BR>2,FPRを受けた21例中19例(90%)で満足している傾向にあった。<BR>3,手術を受けて良かった点として動作の円滑性や姿勢の安定性向上、二次的効果として股関節の痛み、衣服の着脱、上肢の操作性、発声・発語、口腔機能、排尿・排便、感覚等にも改善が得られ満足している事がわかった。<BR>4,手術を受けて悪かった点として痙直型2例にバニーホッピングで移動速度が遅くなった、術後1年で尖足が再発した。混合型2例にATNR出現時に体幹の反り返りが目立つようになった、下肢に軽度の不随意運動が増加した。
著者
比屋根 直美 赤嶺 大志 宮城 淳 溝田 弘美 又吉 清子 運天 智子 仲地 正人 渡慶次 賀寿 新里 真由実 大城 由美子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.76, 2003

2000年11月から2002年11月までに10名の脳性麻痺児に対して機能的脊髄後根切断術を実施した。タイプは痙直型両麻痺9名、混合型四肢麻痺1名。股関節亜脱臼は3名4股、術前運動機能は臥位1名、這い這い3名、バニーホッピング2名、四つ這い3名、独歩1名、術後期間は平均14.6ヶ月であった。術前後で痙性の程度(Ashworth scale)・関節可動域・粗大運動能力尺度・Migration Percentage(MP)を評価し、独歩例は観察による歩行分析を行った。<BR>下肢の痙性は、Ashworth scaleの平均でみると全症例で軽減しており、術後1年以上経過している5名も維持されている。関節可動域は、股関節外転8名、伸展5名、膝窩角5名に改善がみられ、足関節背屈はfast stretchでは全例改善しているが、最大可動域では3名で改善し、過背屈はなかった。粗大運動能力尺度は術後1_から_3ヶ月は低下することもあるが、多くは3_から_6ヶ月で術前の状況に回復、もしくは若干の伸びがみられた。MP50%以上の股関節亜脱臼は術後2名2股になった。独歩可能な1名の術前後の歩行を比較すると、尖足歩行は残っているものの膝・足関節の動的関節可動域は改善し、歩幅が大きくなった。
著者
藤井 小羊 吉田 真司 呉屋 和美 石川 あずさ
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.27, 2008

【はじめに】<BR> 近年、脳性麻痺児治療でKetelerは、ICFでの活動や参加の観点で両親、子どもと協同して目標設定する過程を述べている。<BR> 今回、機能的脊髄後根切断術(FPR)後の痙直型両麻痺児に対する目標設定と治療継続により日常生活動作改善が得られたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 6歳1ヵ月。在胎28週、体重1,140gで出生。粗大運動能力分類システム(GMFCS)レベル4。MRIで両側側脳室後角にPVL所見あり。<BR> 平成19年4月12日、満5歳1ヵ月時、FPR施行。<BR>【目標設定】<BR> 家族の要望を聴取し、家族と協同して、1.円滑な床上移動、2.歩行器歩行の獲得、3.椅座位での円滑な両手活動、4.靴下及び靴の着脱を目標に設定した。<BR>【評価】<BR> 1.姿勢筋緊張:左上下肢により高緊張が見られた。上部体幹の屈曲に伴い、両上肢は肩関節屈曲・内旋、肘関節屈曲、両下肢は伸展・内転・内旋方向への高緊張が見られ、手関節、手指の選択的な運動が困難であった。<BR> 2.運動機能:バニーホッピングでは、上部体幹の屈曲に伴う両上肢の引き込みにより頭部から左前方へ崩れる傾向が多かった。また椅座位での机上活動では体幹が安定せず、空間操作は難しかった。<BR>【経時的評価】<BR> 術前、術後1ヵ月から1ヵ月毎にGMFM-88を実施、測定毎に各領域の%点数とGMFM-66を算出した。同時に術前、術後3ヵ月毎にPEDIを実施、測定毎に機能的スキルの各領域の尺度化スコアを算出した。<BR>【治療】 <BR> 下部体幹を基点に、自己身体軸を中心とした座位及び立位活動で、手関節、手指の選択性と視覚との協応を促した。課題は粘土を包丁で切る等、両手動作課題の中で利き手と非利き手の関係を意識した。<BR>【治療目標の達成度】<BR> 運動機能:床上での姿勢変換が安定し、歩行器歩行では円滑な下肢の分離性、交互性が得られ、室内では実用的になった。術前、術後12ヵ月のGMFM-88の各領域での%点数を比較すると四つ這いと膝立ち領域で45.24%から73.81%、立位領域で7.69%から25.64%、GMFM-66では43.79±1.05から48.97±1.17へと向上し、統計上有意差が認められた。<BR> 日常生活動作:入浴では椅座位にて、身体を完全に洗えるようになり、更衣では靴下及び靴の着脱が可能となった。術前、術後12ヵ月のPEDIの機能的スキルでの各領域の尺度化スコアでは統計上有意差は認められなかったが、セルフケア領域は61.8±1.6から63.2±1.7、移動領域は40.3±2.3から42.4±2.3、社会的機能領域は65.1±1.6から66.2±1.7へと向上した。<BR>【おわりに】<BR> 今回、痙直型両麻痺児に対し、一定の機能的改善が得られ、一部の日常生活動作改善が得られた。それらを日常生活に定着させるにはその機能が実際に遂行される環境が必要であり、将来を見据えた治療を展開していくことが今後の大きな課題である。
著者
廣岡 佳苗 徳留 武史 津曲 優子 緒方 匡 藤元 登四郎
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.205, 2016

<p>【はじめに】</p><p>今回、心原性脳塞栓症を発症し、軽度右片麻痺と失語の影響でPC操作や電話応対が困難となった症例を担当した。職場との連携により、スムーズな復職が可能となったため報告する。</p><p>【事例紹介】</p><p>40歳代男性。妻、子供3人との5人暮らし。看護師副主任としてPCでの薬の管理、電話応対などを行っていた。心原性脳塞栓症を発症し、急性期病院にて保存的に加療され、リハ目的にて当院に転院となった。初期評価時は発症後18日、右片麻痺、失語を呈していた。WAIS-Rは動作性IQ 82、言語性IQ は評価困難、SLTAは聴理解で仮名4割、複雑文0割、視理解は仮名10割、複雑文8割、音読は仮名、単語0割で喚語困難を認めた。デマンドは「家族のために早く復職したい」であった。右のBrunnstrom stage(以下Br. stage)は上肢Ⅵ、手指Ⅴ、下肢Ⅵ、STEFは右87/100点、左91点、FIMは123/126点であった。</p><p>【作業療法計画】</p><p>復職には、日常の会話、PC操作、電話応対が必要であるが、失語や右手指の巧緻性の低下により困難な状況であった。回復期であるため、機能訓練として促通反復療法、動作訓練としてPC操作、電話応対訓練を実施した。</p><p>【結果及び考察】</p><p>訓練開始から1カ月は上肢機能訓練を中心に実施した。その結果、Br. stageは右手指Ⅵ、STEFは両側100点と巧緻性はPC操作に問題ないレベルとなった。日常会話は単語や短文であれば発話にて可能となった。この頃、本人からは「今でも仕事はできる、早く復職したい」との発言があり、休職の長期化が復職を困難にするという不安が生じていることが考えられた。2カ月後、職場の上司と情報交換し、以前の仕事が部分的に行えれば復職可能との情報を得た。視理解と上肢機能が良好であること、メモの使用が可能であることや簡単な日常会話は口頭で可能になったことから、PC操作と電話応対訓練を開始した。PC操作は、処方箋にある薬の選択を音読して確認する方法で模擬的に行った。訓練初期には、3/5の選択課題で時間を要していた。この頃、SLTAでの音読は0割で、喚語困難が影響していたことが考えられる。2カ月後、10/25の選択を5分以内で実施することが可能となった。SLTAの音読は10割と改善を認め、喚語困難の改善と反復による動作学習により時間短縮が可能となったことが考えられる。電話応対では、「ついたち」など日にちの読み方の理解が困難であったため、電話応対課題は日付を中心に実施した。その際、本人にとって理解可能な単語に変換して確認することとし、その都度フィードバックを行った。6カ月後、WAIS-Rは年齢平均値まで改善、SLTAは聴理解で仮名9割、複雑文6割、視理解は複雑文9割、音読は仮名、単語10割に改善した。電話応対は模擬的な面会日程のやりとりが可能となり、この頃、「自分でも仕事で問題となるところが分かってきた」との発言があった。このことから、フィードバックにより、気づきを促したことと、理解困難な単語については、本人が理解可能なものに変換して復唱することを提案したことで電話応対が可能になったと考える。訓練開始から6カ月後、外来リハへ移行した。本人や関連職種と話し合い、まずは半日出勤で電話応対、簡単な書類記載をする形で復職することとなった。以上のことから、復職をよりスムーズにするためには、早期から職場と情報交換し、対象者の状況について職場の理解を深めること、職場の意向を確認すること、復職に必要な条件に対して集中的にアプローチすることが重要であることが示唆された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本報告について本人に説明し同意を得た。</p>
著者
足立 仁志 井形 勉 西村 敏弘 山本 祐紀恵 瀬津田 愛 中野 博
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.95, 2006

【始めに】<BR> 重症心身障害児者(以下重症児者)においては、咳嗽反射の低下による喀痰困難や脊椎側彎症の増悪などによる換気能力低下から慢性気管支炎等の呼吸器疾患へと移行し、ひいては外出日数の減少や在宅における健康管理上の問題となる.これらの問題に対し、体位ドレナージや呼気胸郭圧迫法(いわゆるSqueezing)等を用いての排痰援助が用いられるが、手技の習熟度、実施頻度、手技自体の限界などから十分な排痰を行うことが困難な症例がある.近年このような重心児・者に対して、肺内パーカッションベンチレーター (Intrapulmonary Percussive Ventilator: 以下IPV)やCough Machine (以下CM) 等の機器を用いての気道クリアランスの有効性が報告されており、当院においても使用する機会を得た.今回は、気管切開を行っていない2症例に対し呼吸音解析による検討とともに、その受け入れ状態の変化の観察を行い、その有用性及び課題について若干の考察を行った.<BR>【実施方法】<BR>排痰は一日一回実施した.呼吸音の記録には、コンデンサーマイクロホン及びパソコンを用いて記録し、その後時間軸波形及びサウンドスペクトログラムでの解析を行った.<BR>【結果】<BR>〔症例1〕23歳、男性 レノックス・ガストー症候群 気管支喘息 慢性気管支炎<BR>脊椎の高度な右凸側彎変形が認められ、呼吸音は、左肺呼吸音は弱く時折crackleが聴取された.排痰援助として開始当初CMの使用を試みたが、不快感が強いためIPV後に吸引を行う方法をとった.この症例においては従来の方法との排痰効果の比較を行う目的で、Squeezing時 とIPV( Percussionaire社製 IPV-1 使用しフェイスマスクにて実施)実施時各4回づつ前後での呼吸音の記録・解析を行った. その結果、IPV後は、4回全てにおいてcoarse crackleが著明となったがSqueezingでは、2回で同様の変化が認められたが、その程度はIPVより小さいものであった.<BR>〔症例2〕3歳、男性 滑脳症 水頭症 食道逆流現象症 慢性気管支炎<BR>常時crackle聴取されるとともに喉頭部での痰貯留音も認められ、1,2時間ごとの吸引処置が必要であった.主治医よりCMによる排痰が有効かとの依頼があり検討を行った.CMはレスピロニクス社製 Cough assist CA-3000 使用し、フェイスマスクを用いて実施した.CM前後での呼吸音の比較を4回行った結果、CM後でのcrackle及び喉頭部の痰貯留音の減少が全ての回において認められた.<BR>〔受け入れの状況〕症例1においては、当初CMを数回試みたが、不快感のため全身の筋緊張の亢進や息こらえ等のため実施困難と判断し、IPVに変更したところ、その状況に改善が見られ継続実施可能となった.この点についてはIPVの場合、自発呼吸をあまり妨げられないことなどが関係していると考えられた.症例2では、CM実施当初は不快な様子で開口し、頚部を反らせる等の行動が見られ、呼吸パターンも不規則になるため、手動にて呼吸に合わせ実施したが、4回目以降にはその様子も落ち着き、オートモードでの使用が可能となった.<BR>【考察】<BR>重症児者では、側彎変形や四肢の関節拘縮により、体位ドレナージやSqueezing等の効果が得られにくく、また最終的な喀出段階で難渋する場合が多いが、今回経験した二例も同様の症例であった.今回の結果からこのような排痰困難例に対し、これらの機器は有用であると考えられた.その一方、今回のようなマスクを使用する場合、顔面・口腔周囲の過敏性をいかにクリアーするかといった点や自発呼吸とのマッチングをうまく図ることなどが、スムーズな導入への重要な課題と考えられた.
著者
阿部 隼太 三浦 徹也 彌永 拓也 岡 高史 高瀬 真衣 井石 和磨 土井 篤
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.252, 2016

<p>【目的】</p><p>平成27年度の本学会において、我々は脳卒中片麻痺入院患者に対するペダリング運動施行中の麻痺側前脛骨筋(TA)へのIntegrated Volitional control electrical Stimulator(IVES)療法が、ペダリング単独療法に比べて、歩行速度がより改善されることを報告した。今回、同様の介入プロトコールを用い、外来患者に対して同様の結果が得られるかどうかを検討したので報告する。</p><p>【対象と方法】</p><p>当院の外来リハを利用している脳卒中片麻痺患者で、(1)独歩または杖・装具を使用して10m以上の自力歩行が可能である。(2)発症から6ヵ月以降経過している。(3)研究内容の説明理解が可能である。(4)研究に同意が得られる。という4つの条件を満たす49歳と62歳の男性2名(症例1と2)、69歳の女性1名(症例3)の計3名とした。介入間隔が異なるこれら3症例(症例1:平均介入間隔5.6日、症例2:同11.6日、症例3:同4.5日)に対して、ペダリング運動とIVESを併用した期間(併用期)、ペダリングを単独に使用した期間(単独期)を交互に3日ずつ(1クール)、連続計12日間、通常の理学療法の直前に10分間実施した。ペダリング運動はリカンベント(OG技研 Cateye ergociser EC-3500)を使用した。リカンベントのシート位置は最大下肢伸展位膝屈曲10°以上で、対象者が容易にペダリング操作できる位置とした。運動様式は負荷シフトレバー1に設定し、正回転で任意のペダル回転速度で10分間施行した。電気刺激にはIVESのパワーアシストモードを使用した。介入前後の評価として10m歩行(最速歩行時間、歩数)を2回計測し、即時効果としての歩行速度改善率と歩行速度改善度、1クール単位での歩行速度改善度、10m歩行における歩数の前後比較を分析した。</p><p>【結果】</p><p>歩行速度改善率:症例1において併用期と単独期共に歩行速度の改善率は介入日数の約83%(5回/6回)、症例2と3ではそれぞれ約83%(5回/6回)と100%(6回/6回)であった。10m歩行速度の改善度(即時):症例1では併用期、単独期共に平均0.68秒、症例2ではそれぞれ平均0.21秒と0.77秒、症例3ではそれぞれ平均0.27秒と0.39秒と、併用期よりも単独期のほうが歩行速度に改善があった。10m歩行速度の改善度(1クール単位):症例1では併用期と単独期それぞれ平均1.44秒と0.62秒、症例2ではそれぞれ平均0.28秒と0.47秒、症例3ではそれぞれ平均0.66秒と0.4秒とやや併用期の方が単独期に比べ歩行速度が改善していた。10m歩行における歩数の前後比較:症例1では併用期前後で20.9歩と20.3歩、単独期前後で21.0歩と20.9歩、症例2は併用期前後共に17.3歩、単独期前後で17.6歩と17.4歩、症例3においては併用期前後で18.3歩と18.7歩、単独期前後で18.4歩と18.5歩と、全3症例において併用期と単独期で差が無かった。以上のように、リカンベントにIVESを加えた併用療法はリカンベント単独療法に比し、10m歩行の明らかな改善を示せなかった。</p><p>【考察】</p><p>単独期に比し併用期で効果が見られなかった理由として、入院患者は毎日継続して実施できるが外来患者では介入間隔が空いてしまうためではないかと推察された。</p><p>【結論】</p><p>外来患者3例に対して、低頻度であってもペダリング運動単独の効果は認められたが、ペダリング単独運動に同頻度のIVESを加えても、歩行能力改善効果は変わらなかった。今後外来の症例を増やすと共に、低頻度介入の場合に長期的な介入期間によって併用療法に効果があるのか検討することも必要であろう。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は当院の研究倫理委員会の承認を受け、対象者から書面による同意を取得後に実施した。</p>
著者
江藤 優子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.277, 2016

<p>【はじめに】</p><p>臨床現場では、主疾患とは別に認知機能面の低下や認知症を有した患者が多くみられる。高齢者が増加する中で、当院では簡便な認知機能の判定評価としてHDS-Rを使用している。今回は、HDS-Rを使用し軽度~中等度の認知症状を認める患者に対し、「日記をつける」という活動を通して、その効果を検討する。</p><p>【目的】</p><p>症例は、胸椎圧迫骨折で入院した80代の女性。入院前は独居生活であり、退院後も独居生活を送ることを本人・家族ともに希望されていた。しかし、長期入院による認知機能の低下とADLの低下が危惧された。そこで、本人のなじみの活動である日記を活用し、現実見当識を促し認知機能の賦活を図ることにした。</p><p>【方法】</p><p>作業療法介入2日目に日記を開始。日曜日を除く6日間のリハビリ時に日記を記入するが、記入する量に制限は設けない。内容に関しては、必ず日付・曜日を記入すること以外は症例の意思に任せ、助言は最小限にとどめる。作業療法士・理学療法士が傍に寄り添い、症例のペースで記入してもらう。日曜日やリハビリ時間外の記入は、症例に任せる。記入後は内容について症例と共に読み返しを行い、感想を伝えたりその時の気持ちを聞く作業を行う。実施期間は、4月22日から7月9日までの11週と1日。</p><p>【結果】</p><p>HDS-R:4月21日16点、6月2日26点、7月7日21点。日記を開始した直後は、自発的な取り組みはみられていなかったが、2週間後には自発的に記入しようとする様子がみられ、8週間後には自発的な記入が定着した。また、日時や職員の名前を確認するために、日記を想起の手掛かりとして自ら利用することができるようになった。内容については、開始当初は自分の気持ちを書くことは少なかったが、徐々に気持ちを表出した内容がみられるようになった。</p><p>【考察】</p><p>リハビリ開始当初は、HDS-R16点と認知機能の低下がみられた。認知機能面へのアプローチとして、自宅でも行っていた「日記を書く」作業をリハビリとして導入した。導入から6週間後には、HDS-R26点と10点の向上がみられた。しかし、退院目前に体調を崩し臥床傾向に陥り、日記を開くも日付のみの記入や内容量の減少がみられた。しかし、ADL面での低下はなく、FIMの点数に大きな変化はみられなかった。その直後のHDS-Rは、21点とカットオフ値となった。</p><p>「日記を書く」という作業だけではなく、記入した内容に対してフィードバックを行うことが症例にとって「意味のある活動」を行っている実感に繋がり、脳活動の賦活に影響を及ぼしたのではないかと考える。よって、フィードバックを十分に行えなかったことがHDS-R 5点減点に繋がった可能性も考えられた。</p><p>入院当初は臥床傾向で自発的な言動が少なく、不活発な状態であった。身体機能面のアプローチと併用し、日記を導入したことで、症例の自発性を引き出し認知機能の改善に繋げることができた。脳活動の賦活に日記が有用であることは広く知られているが、その内容に対してフィードバックを行う作業が、より脳活動を促進する可能性があることが示唆された。</p><p>【まとめ】</p><p>認知機能の低下を認めた高齢者に、なじみの活動であった日記を導入し認知機能の賦活を図った。現実見当識訓練のひとつとして日記をつけることは、記憶・認知機能・見当識を高めるために有用であると思われる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例・家族に対し同意文書に基づく説明を行い、症例報告に参加・発表することの同意を得ている。</p>
著者
土橋 ゆかり 佐藤 友美 佐藤 浩二 大隈 まり 衛藤 宏
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.185, 2008

【はじめに】<BR>協調運動障害や仮性球麻痺に加え、発動性低く訓練に対しても消極的な症例に対し病前の生活様式や興味関心を把握した上での活動が有効であった。今回の経験を振り返り発動性を引き出す為の活動提示の視点を報告する。<BR>【作業療法評価】<BR>80歳代、男性、診断名は脳梗塞後遺症、左右不全麻痺、両側仮性球麻痺、Br.Stage右上下肢stageVI、左上下肢stageV。難聴、嚥下・構音障害で著明あり、Yes、No程度の意思疎通は可能。B.I.は25点。であり、セルフケアは車椅子主体で要介助状態。家族構成は妻・娘の3人。<BR>【目標】<BR>3ヶ月で可能な限り妻と娘との在宅生活が継続して行えるよう、セルフケアが見守りから軽介助にて遂行可能となる。併せて、日中は落ち着いて生活できる活動を探り、生活リズムを確立する。<BR>【経過】<BR>更衣・整容の訓練を1週間導入するも訓練を拒否した。そこで、本人の意思が向けば主体的に動くことができる点を生かし、 (1)本人自ら関心を示した活動 (2)生活歴に基づく活動(3)OTが「これは症例が集中してできる」と考えた活動、の3つの視点から活動選択し、これらの活動を通して発動性を引き出し日中落ち着いて生活でき生活機能の改善に結び付ける事を試みた。以下、各活動選択の経過を記す。(1)では活動への関心が高いものを探る際の指標として、日常生活の中で注意が止まる、指を差す、物を手に取って見る、他者を呼んで何らかの主張を示す、の4点を重視した。その結果、「屋上へ行く」、「猫と触れ合う」、「陶芸」に関心を示した。 (2)では、なじみのある活動や手続き記憶を通して発動性を生かす事ができると考え生活歴に基づく活動を提示した。結果、「囲碁」、「新聞を読む」を選択した。 (3)では様々な環境を設定する事で関心を広げる事も必要と考え「パズル」、「棒体操」、「絵画」を実施した。<BR>【その後の経過】<BR>訓練時は、本人の関心を示した屋上にて歩行を行いその後、訓練室にて囲碁を実施する等、内容を組み合わせた。この結果、意欲的に歩行し能動的に軽介助歩行が行えるようになり、自分の意思をジェスチャーにて伝えることや感情表出も多く見られるようになった。日常生活場面では、身体耐久性は向上し介助量の軽減が図れ、約3ヶ月で目標達成となった。最終時、B.I.35点。在宅訪問の際は、仏壇に参る為やトイレに行為に妻との軽介助歩行が可能であった。退院6ヶ月後も、妻と散歩や畑に行く等、日中は離床し本人らしく在宅で過ごしている。<BR>【まとめ】<BR>訓練に対して拒否的で日中落ち着かない患者に対して、セルフケアへの直接的な訓練だけでなく様々な環境で本人の行動を評価し興味や関心を生かした作業活動を選択・提示する事が、活動のきっかけとなり心身機能面や活動面の機能向上には重要であった。
著者
小田 辰也 岩切 大輔 生駒 成亨 田中 信行
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.86, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】びまん性軸索損傷(diffuse axonal injulry 以下DAI)は6時間以上の意識障害に加え、画像上その原因としての頭蓋内点処病変を認めず低酸素や脳虚血によらない遷延するびまん性脳損傷を指す.一般的にDAI後の予後は不良とされる報告が多く、長期的な経過を辿る例も少なくない.今回、DAIにて予後不良が予測されたが良好な経過を辿った学童について、文献的考察を交え以下に報告する.【症例紹介】11歳男児.自宅ロフトから転落し受傷.搬送時GCSは7点(E1V2M4).24時間以上の意識消失あり.MRIにて脳梁後部・峡部・膨大部への挫傷、多発点状出血痕を確認.CTにて約4mmの正中構造偏位を確認.医師よりDAI、骨盤骨折、肝損傷と診断.同日入院の運びとなる.【経過及び所見】受傷2日目、理学療法士、言語聴覚士介入開始.受傷10日目、作業療法士介入開始.介入時GCSは11点(E4V2M5).利き手は右.常時苦悶様表情.発話は奇声のみ.口答指示・文書理解困難.身体機能面は左側良好.麻痺症状はないが右側上下肢運動無視あり.上下肢深部腱反射は亢進.バビンスキー反射は右陽性、左陰性.足クローヌスは右陽性、左陰性.高次脳機能面は紙面上検査困難.観察、保護者情報より注意機能低下、発動性低下、易疲労性、衝動行為、性格変化、興味欠損を確認.FIM45点.実用歩行困難.摂食嚥下、呼吸、排泄は良好.受傷14日目、実用歩行獲得も右側上肢運動無視継続.課題指向型の食事動作訓練導入.評価手段としてshapingを作成し段階的難易度を指定.介入時は右手での物品使用困難.易疲労性と注意転動のしやすさから、途中で席を立つ、手掴みで食べる等の行為が頻発.受傷18日目、右手の補助的使用を確認.受傷21日目、右手で道具を使用し全量摂食可.左手の補助的使用を確認.受傷24日目、MRIにて浮腫減少を確認.shaping上の課題はすべて獲得.単語レベルの発話出現.内容は他罰的で脈絡を欠くものが主.簡単な音読、文書理解可.易怒性、衝動行為は残存.受傷26日目、誘因なく言語機能、衝動行為改善.受傷前後の記憶あり.紙面上検査可.記憶、知能、遂行機能、語彙年齢良好.選択性注意、語の流暢性に問題あり.FIM109点.自宅復帰可能と判断され、受傷33日目、自宅退院の運びとなる.【考察】本症例の意識消失時間、CT所見よりGennarelliらの分類の中等度DAI.TCDBにおけるCT分類のびまん性脳損傷Ⅱと考えた.これら分類の転帰良好率は30%台と低く、予後不良と長期的経過が予測された.臨床症状・画像所見より、右側上下肢運動無視は左側皮質脊髄路由来の神経線維への軸索流途絶に加え、肢節運動失行・補足運動野由来の症状が考えられた.言語障害は前頭葉内側部症状を主に呈し、尚且つ聴覚理解・復唱・呼称障害から運動性失語が考えられた.上記症状遷延によりlearned non-useによる左半球退行障害併発を予測.予後不良に拍車をかける危険性が考えられた.その予測に反し、受傷26日目、誘因なく言語機能、情動面の改善を確認.その要因として浮腫軽減による軸索流改善は勿論、小児特有の脳可塑性の高さが影響したと考えられた.また、脳幹網様体からの上行性投射による大脳皮質への賦活が阻害されなかったことも、症状改善に寄与したと考えられた.上記要因と訓練によるneuro feedbackにより脳機能再構築が促進された結果、機能改善に至ったと考えた.小児中途障害例は、先天障害例と比較し障害部位が多彩な為、体系化された対処手段が構築されていないのが現状である.今後、DAI後の転帰不良因子の比較検討を行い、予後予測の判定等に役立てられるようにしていきたい.【倫理的配慮,説明と同意】報告にあたり、当院の倫理委員会の承認(承認番号16-003)及び、対象者、家族の同意を得た.
著者
喜瀬 真雄 平山 厳悟 井手 睦
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.296, 2010

【目的】<BR>障害者水泳において理学療法士(以下PT)は競技会でクラス分け、合宿でコンディショニング活動を行なっている。これらの活動におけるPTの役割を明確にするには、スポーツ現場の要望を知る必要がある。そこで今回、九州身体障害者水泳連盟登録者(以下選手)及び障害者水泳指導者(以下指導者)を対象に、PTへの要望を調査したので報告する。<BR>【対象・方法】<BR>対象は選手113名(肢体不自由82名、視覚・聴覚障害31名)、指導者22名。調査は自記式郵送法で実施。調査項目は、PTへの要望について代表的な項目を複数設定し要望の有無を質問した。その他の要望は自由記載とした。またPTという職種についての知識の有無、さらに選手には競技レベルも質問した。結果は項目別に集計し、選手・指導者及び上位選手(日本選手権出場)・下位選手(九州選手権出場)の各2群間でχ二乗検定を用い比較した。対象者には文書にて調査の趣旨を説明し同意書に署名を得た。<BR>【結果】<BR>67名より回答があり内、解析に有効であったのは57名であった。PTという職種については52名が知っていると答えた。要望は総数231件、上位要望は「禁止常用薬・サプリメントの教示」32件、「傷害予防方法の教示」26件、「チーム帯同での泳力指導」26件。その他は、選手から競泳特性の理解、指導者から障害特性についての講習会開催などの要望があった。選手・指導者の比較では「自身のクラスの説明」について選手の方が指導者より有意に多かった。上位・下位選手の比較では全項目において有意差は認めなかった。<BR>【考察】<BR>PTに対する要望は「禁止常用薬・サプリメントの教示」が最も多かった。柴崎は「障害者水泳選手は常用する薬剤が多い」と報告している。またアンチドーピングについての啓蒙が進んでいることや練習場面で主に関わっている医療関係者はPTであるため、このような結果になったと考える。PTは薬物問題の窓口となり専門職の介入を促すことができると思われる。次に多いのは「傷害予防方法の教示」であった。三浦らは「スポーツ分野では、医学的リハビリがPTの役割と理解されている」としている。またPTは障害特性を専門としていることからこのような結果となったと考え、コンディショニング活動を強化していく必要があると考えた。「チーム帯同での泳力指導」も多く選択された。自由記載に競泳特性の理解や障害特性の講習会開催とあることから、PTが競技特性も熟知し選手・指導者と競技・障害特性を共有することで各選手の泳力向上が図れるのではないかと考える。選手と指導者の比較では「自身のクラスの説明」に有意差がみられた。クラス分けの結果次第で競技成績が左右されることから、選手に要望が多かったと考える。今回の調査から、薬物問題の窓口やコンディショニング活動の充実、競技指導への働きかけといったPTに対する要望の傾向がわかった。
著者
白石 麻衣佳 池田 真琴 渡辺 裕介 中畑 晶博 海老子 淳 須田 守彦
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.197, 2011

【目的】<BR> 当院における全人工膝関節形成術(以下TKA)術後のリハビリは、従来、術翌日より歩行訓練を開始し、自立した杖歩行が可能となるのは術後約1週間前後、入院期間は約2週間であった。今回、積極的に歩行能力の向上を目的としてリハビリを施行した症例に対して、自立した杖歩行に要した期間を調査した。<BR>【方法】<BR> 対象は2011年4月1日以降にTKA施行した6例6膝(女性6膝)、平均年齢74.1歳(67歳~81歳)である。関節アプローチは全例medial parapatellar approachで、固定方法は全例大腿骨側、脛骨側共にセメントを使用した。対象症例に対して、自立した杖歩行までにかかった日数、術前歩行レベル、術前筋力を調査した。筋力は膝伸展筋力をμ-Tas(ANIMA製)を用いて計測した。なお対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき説明と同意を得た。<BR>【結果】<BR> 術前歩行レベルは1例のみT字杖歩行で、その他は独歩であった。自立した杖歩行までの平均日数は約4日で、最短2日、最長6日であった。術側筋力は平均15.2±5.2kg、健側の筋力は平均22.4±6.0kgであった。早期に自立した杖歩行となった症例は、術前筋力が高い傾向にあった。<BR>【考察】<BR> 当院では、従来術後2週間で自宅退院が可能となるように術後のリハビリを取り組んでいた。従来の術後プロトコールでは、術翌日より歩行器歩行を開始し、自立した杖歩行までは術後1週間程度を要していた。しかし、症例によっては早期に歩行レベルの向上が図れるものも少なからず存在しており、また、海外におけるTKAの入院期間が日帰りから約1週間であることをふまえて 、今回積極的に歩行レベルの向上を目的として術後リハビリを行った。今回の結果より、自立した杖歩行まで平均4日と従来行ってきたプロトコールよりも早期に歩行能力の向上を得ることができた。また、術前にT字杖を使用していた症例も術後3日にて自立した杖歩行となった。このことから、歩行に関して自立した杖歩行を自宅への退院の指標とした場合、早期に自宅退院可能だと考えられる。また、杖歩行が早期に自立となった症例は術前筋力が高い傾向にあったことから、術前からの筋力訓練は術後の歩行能力改善に有効と考えられる。<BR>【まとめ】<BR> 今回、術後リハビリにおいて積極的に歩行レベルの向上を図った結果、術後平均4日で自立した杖歩行が獲得できた。自立した杖歩行を自宅への退院の指標とすると、術後4日で退院が可能であると思われる。今後は症例数を増やし、年齢や筋力、可動域等をふまえて詳細に術後歩行能力に関与する因子を検討していきたい。
著者
壹岐 伸弥 宇都宮 裕葵 山崎 数馬 渡 裕一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.36, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】 臨床において腰痛を訴える患者は多く、原因として椎間板性、椎間関節性、神経根性、筋・筋膜性、靭帯性などがある。治療には体幹の安定性と可動性が重要であるが、今回、健常者を対象に腰痛の有無による骨盤帯周囲の安定性と可動性の差について比較検討した。【対象】 対象は下肢・体幹に整形外科的疾患既往のない健常者30名(男性:19名、女性:11名)、平均年齢:24.6±3.7歳、平均身長:164.2±8.0cm、平均体重:54.7±9.2kgであった。今回の研究及び報告にあたり、対象者に対し目的・方法について十分な説明を行い、同意を得て実施した。【方法】 1)骨盤アライメント評価は上前腸骨棘より上後腸骨棘が2~3横指高いものを良群、それ以外を不良群とした(良群:16名、不良群:14名)。2)日常生活における腰痛の有無を腰痛有り群、腰痛無し群とした(有り群: 15人、無し群: 15人)。3) 指床間距離(以下FFD)は立位で体幹を前屈させ、上肢は下垂し、その時の指尖と床との距離を測定した。4)重心動揺は、前方を注視、端座位にて、インターリハ株式会社Zebris PDM-Sを用い、自然座位、右下肢挙上位、左下肢挙上位の3パターンにおいて30秒間測定。また、その間の重心点(center of pressure 以下COP)X軸、Y軸の平均値を求めた。5)データ処理は、腰痛あり-なし群間の1)、3)差、各群の4)についてMann-WhitneyのU検定とWilcoxonの符号付順位検定を用い有意水準は5%未満とした。【結果】 1)骨盤アライメントは腰痛あり群がなし群に対して有意にアライメントの不良が多かった。(p<0.05)。2)FFDは腰痛あり・なし群において有意差を認めなかった。3)腰痛あり群では自然座位より左右挙上位ともに有意に重心動揺が大きかった(p<0.05)。腰痛なし群では有意差を認めなかった。重心点は腰痛あり・なし群ともに自然座位、左右下肢挙上位において差を認めなかった。【考察】 結果より日常生活において腰痛の有る者、無い者と比較し、端坐位での片脚挙上時に重心点の左右差は認めないが、重心動揺は大きく、立位においては骨盤中間位より前傾または後傾位をとる傾向にあった。これら骨盤の前後傾では腰椎の過前弯や過後弯が生じ、腰椎部でのcoupling motionの運動性が増加すると言われている。このことより腰痛を生じる者においては、下部体幹筋群の協調した同時収縮が困難である事、後部靭帯系システムを効率よく利用できていない事、coupling motionの運動性増加が考えられ、日常生活において姿勢保持時や動作時に個々に要求される外力のレベルにうまく対応できず、動作遂行のために腰部の過剰な運動が強いられている事が腰痛の原因と考えられる。今回は、健常者を対象に行ったが、今後は実際の症例において検討し、体幹の安定性と可動性が腰痛に及ぼす影響について調査し、臨床での評価・治療に生かしていきたい。
著者
梅野 朋美 積山 和加子 岩根 美紀 安心院 朗 武居 光雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.145, 2004

【はじめに】<BR> 質の高い在宅生活を継続するには、家族と安定した日常生活を送るだけでなく、心身機能及び活動度の維持や向上を図りながら、個々の役割を分担し社会参加を実現することも重要である。しかし実際には、屋外に外出する機会は少なく自宅内の活動にとどまる場合が多い。そこで当通所リハビリテーション(以下、通所リハ)では、自立支援は当然のことながら、趣味や社会参加へのきっかけ作りを目的に、個別的な目標を掲げチームで取り組んでいる。今回、屋外レクレーション(以下、屋外レク)を積極的に行うことにより、在宅での屋外活動が拡大し、IADLのみならずQOLの向上が認められた症例を経験した。この症例を通し、質の高い在宅生活の実現に向けた通所リハの個別的な関りの重要性を考える機会を得たので報告する。<BR>【屋外レクレーションの取り組み】<BR> 利用者の屋外活動のニーズや自宅周囲の環境を評価した上で、目標を設定し実施している。ショッピングセンターでの買物、園芸活動及び公園の散歩等を、利用者に対して月平均3回行っている。活動度に合った介助法を職員間で統一し、実施状況について家人に情報提供を行い、個別的な対応を心がけている。<BR>【症例紹介】<BR> 症例1:53歳、女性、脳出血左片麻痺。要介護1、日常生活自立度(以下、自立度)A2。プラスチック短下肢装具装着し、杖歩行屋内自立レベル。自宅周囲の環境により外出は困難であるが、「外を歩きたい」という要望を持っていた。まず通所リハ内で、自宅周囲の環境を考慮し砂利道や坂道といった不安定な場所での歩行獲得に対するアプローチを開始した。屋外レクでは、目的をもった外出及び主婦としての役割の再獲得を視野にいれ、スーパーでの買物を開始した。屋外レクを継続する中で、店内の杖歩行が安定して行えたことで自信を獲得し、「自宅近所のスーパーへ買物に行きたい」と具体的なニードにつながった。「屋外歩行自立と買物動作の獲得」を目標に、カート押し歩行での移動の獲得、計画性を持った買物の実施を促した。実際のスーパーでの買物は通路が狭く、人や障害物で混雑していることが多い。そのため安定した移動をしながら、購入品目、値段及び所要時間等の状況判断をする必要がある。当初は課題設定を行い買物を実施した。見守り、独力での実施と段階を経ていくうちに、楽しみとしての買物から生活の一部としての買物に変化していった。1ヵ月後、自立度J2、坂道の移動も安定し自宅周囲の歩行が自立した。IADLとして買物や銀行での金銭管理も実施できるようになり、主婦としての役割が確立した。現在は買物が日課となり忙しい毎日を過している。<BR> 症例2:69歳、女性、脳出血両片麻痺。要介護4、自立度B2。ADLは車椅子介助レベル、立位動作は手すり等を使用し介助を要していた。本人は外出に対して意欲的だったが、車椅子座位の耐久性低く車の移乗動作や外出先での排泄の経験がないため、外出に対して不安が強かった。「日中は車椅子で過し家人同伴での屋外活動」を目標に、立位動作訓練や移乗動作訓練を行い日中は車椅子での活動を促した。1ヶ月後、通所リハ内では車椅子座位の耐久性が向上し、車の移乗動作も軽介助にて可能になった。屋外レクでは外出先の身障者用トイレでの排泄動作が安定し、「また外出したい」と前向きな感想が聴かれた。一方で、通所リハでの活動度は向上したものの、家人の「車への移乗等の介助方法が分からない」という不安により、自宅での屋外活動は行われることなく、依然活動度の低い状況であった。この乖離を埋めるために積極的に情報交換を行い、家人へ適切な介助法について指導を実施した。2ヵ月後、自立度B1。車の移乗動作や屋外での車椅子駆動は介助を要すが、IADLとして週末は家人と共にスーパーでの買物や公園に外出を行うようになった。本人は家族との週末の外出を楽しみにしている。<BR>【まとめ】<BR> 今回、屋外レクを通し利用者の真のニーズを見出すことができ、また家族との情報交換によりADLに介助を要していても、アプローチによりIADLの拡大だけでなくQOLの向上が認められた症例を経験した。IADLの拡大に向けては、利用者の生活様式が様々なため、画一的な関りでは不十分で、個々の利用者の実用的な活動を想定し、アプローチを行うことが大切である。利用者の生活背景が多種多様である中で、今後もニーズに応じた、個別性を重視したプログラム及び通所リハの提供に取り組んでいきたい。
著者
山根 優一 吉田 英樹 森 聡 山田 将弘
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.248, 2016

<p>【目的】</p><p>近年,脳卒中患者に対する上肢への電気刺激療法として,末梢神経電気刺激療法(Peripheral nerve stimulation:以下,PNS)の効果が注目されている.下肢に対するPNSの報告は散見する程度で,感覚障害に対する報告も,我々が調査した限りではほとんどない.また,40分間以上の報告が多く,患者の体力面や集中力を考慮すると,臨床での適応は困難であることが多い.今回,重度感覚障害を呈した回復期脳卒中患者に対する短時間の下肢PNSと課題指向型練習の併用が,下肢の感覚障害と歩行能力に及ぼす影響をABデザインで検討したので報告する.</p><p>【方法】</p><p>症例は右視床梗塞で左片麻痺を呈した50代の男性であった.発症前より,糖尿病で両下肢に感覚鈍麻があったが,脳梗塞発症後,感覚障害の程度と範囲に増悪を認め,表在感覚は脱失していた.本研究開始時,発症後36病日経過しており,Brunnstrom stage 上肢Ⅴ,手指Ⅵ,下肢Ⅵで著明な麻痺は認められず,歩行は4点杖で自立していた.主訴は両下肢末梢の感覚脱失,立位・歩行時の膝折れ感であった.電気刺激装置は低周波治療機器(イトーESPURGE, 伊藤超短波社製)を使用した.電気刺激条件は対称性二相性パルス波,周波数100Hz,パルス幅250μsec,刺激強度は筋収縮が視覚的に確認できない感覚閾値とした.刺激部位は麻痺側脛骨神経とし,電極間距離5cmで電極を貼り付けた.治療時間は20分間とし,課題指向型練習を併用して行った.課題指向型練習は椅座位で,両足関節の底背屈運動を行った.評価項目は,足部触覚,振動覚,Functional assessment for Hemiplegic Gait(以下,FAHG),10m歩行の所要時間とした.足部触覚は非麻痺側大腿部を10とし,麻痺側の足背部,踵部,母趾球,小趾球の触覚をNumerical Rating Scale(以下,NRS)で測定した.振動覚検査は音叉(C-128Hzアルミ音叉,ニチオン製)を用いて,麻痺側大腿骨外側上顆を10とし,麻痺側内果をNRSで測定した.10m歩行の測定は,助走路と減速路をそれぞれ除いた10mの所要時間をストップウォッチで2回測定し,速かった方を代表値とした.研究デザインはABデザインを採用し,基礎水準期(以下,A期)を課題指向型練習のみとし,操作導入期(以下,B期)をPNS併用で課題指向型練習を行った.A期とB期の期間はそれぞれ1週間であり,計2週間の実施期間とした.治療介入は1日1回とし,週7日の介入とした.評価は介入前,A期終了後,B期終了後に行った.</p><p>【結果】</p><p>足部触覚は,介入前では足背部0,踵部3,母子球0,小趾球1,A期終了後では足背部0,踵部0,母子球0,小趾球0,B期終了後では足背部0,踵部2,母子球1,小趾球0であり,著明な変化は認められなかったが,足底の知覚領域が拡大したという内省報告が得られた.振動覚は介入前2,A期終了後3,B期終了後5であった. FAHGは介入前6点,A期終了後8点,B期終了後12点であった.10m歩行の所要時間は介入前23.88秒,A期終了後23.75秒,B期終了後20.75秒であった.</p><p>【考察】</p><p>結果より,PNSと課題指向型練習の併用は,表在感覚よりも深部感覚を優位に改善する可能性が考えられた.下肢PNSと課題指向型練習を併用したことで,20分間という短時間でも感覚野の興奮性が増大した可能性が考えられた. FAHGが改善した理由としては,下肢PNSに伴う麻痺側下肢の感覚障害の改善が考えられる.また,PNSでは運動野の興奮性が増大することも報告されている.下肢PNSにより麻痺側下腿三頭筋の筋出力が向上し,麻痺側下肢の荷重応答期から立脚中期にかけての下腿の前傾が可能となり,10m歩行の所要時間や歩行速度に変化を認め、歩行能力を改善したと考えられた.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は飯塚市立病院倫理審査会に承認を得て行った.症例には治療主旨,安全性と個人情報の取り扱いについて口頭と書面で説明し,署名にて同意を得た.</p>
著者
田中 創 白坂 祐仁 矢野 雅直 小牟禮 幸大 森澤 佳三 西川 英夫 副島 義久 山田 実
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.144, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 臨床において立位の回旋動作に左右差を来している症例をよく経験する.しかし,その回旋動作の左右差がどのような因子によって成されているかを明確にした文献はない.よって,今回は立位の回旋動作に関与する因子として体幹と股関節の回旋量に着目して検討したので報告する. 【対象】 身体に重篤な既往のない健常成人20名(男性18名,女性2名) 平均年齢24.7±8歳. 【方法】 左右の踵をラインに合わせ,歩幅は任意の状態での立位とした.この肢位をスタートポジションとし左右への回旋を行い,これを1)立位回旋量として測定した.また,検者による骨盤固定での回旋を2)体幹回旋量として測定した(骨盤より上位の体節による回旋).3)股関節の回旋は立位の状態を再現するために腹臥位,股関節屈伸中間位での外旋と内旋の角度を計測した.計測は日本整形外科学会による評価法に従い,ゴニオメーターを使用して測定した.計測から得られた立位回旋量(左右),体幹回旋量(左右),股関節内外旋量(左右)の値に加え,それぞれの回旋量の関係を調べるためにSpearmanの相関分析を用いた. 【結果】 立位右回旋と体幹右回旋(r=.451,p=.046),立位左回旋と体幹左回旋(r=.450,p=.046),股関節外旋(右-左)と股関節内旋(右-左)(r=-.475,p=.034)に有意な相関関係が認められた. 【考察】 立位の回旋運動では,右回旋において骨盤帯の右回旋が生じることから,右股関節では寛骨に対する大腿骨の相対的な内旋運動,左股関節では寛骨に対する大腿骨の相対的な外旋運動が生じると考えられている.立位の左回旋でも同様に逆の作用が生じるとされている.そのため,仮に立位の回旋運動に左右差が生じていれば,それが股関節の可動性にも影響を及ぼしているのではないかということが推察された.本研究では立位の回旋運動においてはほぼ全ての被験者に左右差を認めたものの,それと股関節の可動域の関係性は認められなかった.その要因として,股関節の回旋可動域の計測を他動運動で行ったことが挙げられる.通常,立位の回旋運動は荷重下での運動となるため,股関節には自動運動での作用が強いられる.そのため,他動的に計測した今回の値とは関連性が認められなかったものと考えられる.これは日常の臨床においても,立位の回旋運動に変化を与えたい場合には他動運動が変化するだけでは十分な効果は得られないということを示唆する結果となった.今後は可動性という量的側面に加え,筋・筋膜系,神経制御等といった質的側面にも着目して検討していきたい.
著者
鈴木 佑介
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.161, 2009

【はじめに】<BR> 今回、両恥~坐骨骨折により歩行開始後に歩容の不安定感がみられ、転倒危険性のある症例を担当する機会を得た。新聞配達への強い復帰願望があるが、本人の歩行に対する不安感も強く、今回は立位での歩行訓練よりも臥位による訓練の有効性が高いと考え、その中で寝返り動作と歩行の共通点に着目し、寝返り動作に対しアプローチを行った。その結果、歩容に変化が見られ歩行に対する不安感の改善が得られたのでここに報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 71歳女性。職業:新聞配達(歩行)。現病歴:平成20年10月29日両恥・坐骨骨折受傷。11月21日紹介転院、25日より理学療法・歩行訓練開始。<BR>【理学療法評価[H20.11.25]】<BR> 右股関節内旋時、右恥骨部に疼痛(VAS2/10)。両内転筋収縮時痛(VAS1/10)。腹直筋、腹斜筋normalレベル。両大内転筋、両大腿筋膜張筋、両腓骨筋の筋緊張亢進。歩行時、寝返り時疼痛無。<BR>【動作分析及び臨床推論】<BR> 右荷重応答期~立脚中期において骨盤右回旋が不足し、その後立脚中期後半にかけて体幹の前傾と共に骨盤が右後方へ引けていた。この現象は、右股関節内旋時の疼痛による内旋制限のため、左立脚後期で得た骨盤の前方かつ右回旋方向への加速度にブレーキがかかり、左下肢から骨盤・上部体幹への運動の連結が行えず、結果として右立脚中期後半において前方への重心移動を体幹前傾で代償したと考えた。<BR> 寝返りに関しては、右側への寝返り時、左下肢で床面を蹴り骨盤を右方向へ回旋させるものの、側臥位付近で骨盤の回旋にブレーキがかかり重心が支持面を超えることが出来ず、結果的に上部体幹右回旋を代償的に利用し腹臥位方向に移動していった。<BR> これらの結果より寝返りにおいて右股関節の内旋を誘導しながら左下肢から骨盤、さらには上部体幹への運動の連結を測り、床面を蹴ることにより作り出された回旋力を左下肢から上部体幹へスムーズに伝達させることにより歩容においても改善ができると考えた。<BR>【PTアプローチ】<BR> 1.筋膜リリース 2.股関節機能訓練 3.体幹機能訓練 4.基本動作訓練(寝返り)<BR>【結果[H20.12.15]】<BR> 右股関節内旋時痛、内転筋収縮時痛消失。右側への寝返り時、左下肢から骨盤、上部体幹の連結が図れ、股関節の内旋も可能となったことにより、左下肢で作った回旋運動のスムーズな上方への運動連結が見られた。その結果、骨盤の右回旋も可能となり、歩行においても体幹前傾での代償が減少した。また、それにより本人の歩行に対する不安感も軽減された。<BR>【まとめ】<BR> 今回、歩行に対する強い不安感のために、本人のデマンドを達成できない症例を担当した。このように歩行に対する本人の強い不安感がある場合、立位によるアプローチよりも寝返りと歩行のリンクに着目し、歩行訓練の一手段として寝返り動作にアプローチする事も効果的であると考える。
著者
松岡 絵美 前野 聖子 島田 将尚
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.55, 2007

【はじめに】<BR> 臨床場面にて、トイレの介助量の軽減、又は自立を機に活動意欲やリハビリ(以下リハ)に対する意欲が高まり自立心が強くなる症例に多く出会う。また、当院通所リハ利用者の家族に対する介護負担アンケートをとった結果セルフケア、特にトイレ介助に対する負担の声が多く聞かれた。トイレ動作の早期自立がリハの進行に大きく関わり、在宅生活においても重要になるのではないかと考えた。しかし、何をもってトイレ動作自立と判断するか細かな尺度がなく、当院スタッフ間でも判断に差があり曖昧であった。そこで今回当院で対象の多い整形外科疾患に対するトイレ動作の評価スケールを作成した。<BR>【目的】<BR> トイレ動作の評価スケールを作成する事で問題点を明確にし早期自立を目指す。トイレ動作介助量の統一化を図り、できるADL・しているADLの差をなくす。<BR>【方法】<BR> トイレ動作を身体機能別、動作能力別に細分化し評価スケールを作成する。今回は身体機能面、動作能力面に限定し認知機能、高次脳機能に障害がある症例に関しては対象外とした。 <BR>【評価スケール内容】<BR> 身体機能:上肢・下肢・体幹の可動域制限の有無、筋力に関する項目を設定。バランス能力:座位バランス、立位バランスに関する項目を設定。移動能力:トイレまでの移動能力、移乗動作能力に関する項目を設定。一連のトイレ動作:動作を細分化した項目を設定。<BR>【考察】<BR> セルフケアやADLに関する評価尺度は数多くあるがトイレ動作独自の一般的な評価スケールを見ない。臨床場面でよく用いられるBarthel indexは移乗と後始末に限られており自立か介助かの大まかな評価項目しかない。FIMでは排泄コントロール、トイレ動作に細かく分けられ具体例も明記されているが、点数で表記する為、第三者がその点数表記を見たときに「何ができて、何ができないか」という事が分かりづらい。<BR> 今回作成した評価スケールはトイレ個室に入り出るまでの一連の動作を細分化し、できる動作、できない動作を明確に表記している。試験的に評価スケールを導入してみたところ、問題点を抽出し易くなった。そうする事で、トイレ動作自立に対する目標設定、プログラムの組み立てが容易になり、早期にトイレ動作を習得できるのではないかと考える。またチェック方式で表記するため簡便に評価できる。この結果をリハスタッフ間、病棟スタッフ間で共有する事で介助方法の統一も図れるのではないかと考える。<BR>【今後の課題】<BR> 今回はスケールの作成に留まっている。今後スケールの再現性、妥当性の検証を行い必要に応じ改良していく必要がある。作成したスケールを導入し、データを蓄積、点数化、統計処理を行いトイレ動作の自立ラインの設定を目指す。その結果をトイレ動作自立と判断し、監視を外す指標としていきたい。