著者
宇都 良大 小野田 哲也 愛下 由香里 田中 梨美子 大重 匡
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.59, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】糖尿病において,末梢神経障害は最も早期に発症する合併症であるが,特に痛みを伴う有痛性糖尿病神経障害は大きな問題となる.その中でも,軽い触覚刺激などで疼痛を生じるアロディニアは,不眠症や抑うつ症状を伴いQOLを低下させ,治療行動へのアドヒアランスも低下する.今回,アロディニアを発症した症例に対して,痛みに考慮しながら療養指導や運動療法を行うことで,QOLの改善と運動療法のアドヒアランスが改善した1例を経験したので報告する.【症例】糖尿病教育入院を経験している2型糖尿病の49歳男性.夜間帯の仕事によって食事と睡眠が極めて不規則となり,体重増加と血糖コントロールが不良となった.また,アロディニアによって,四肢末梢・右顔面や全身にnumerical rating scale(以下NRS):4~8の持続疼痛が生じ,抑うつ状態の進行と睡眠障害が悪化し,就業不能となり再教育入院となった.インスリン強化療法と内服による疼痛コントロールが開始された.発汗で掻痒感が出現すること,低血糖への恐怖から運動に対しての意欲は低く,行動変化ステージは熟考期であった.生活習慣改善と体重コントロール目的でリハビリテーション(以下リハ)依頼となり,抑うつ状態や希死念慮に対しては,臨床心理士のカウンセリングが開始された.【検査所見】身長181.7cm,体重101.5kg,BMI30.7kg/m2,体成分分析(BIOSPACE社,In Body720)において骨格筋量37.7kg,体脂肪量33.7kg.血糖状態は,空腹時血糖200~210mg/dl台,HbA1c(NGSP)8.2%,尿ケトン体陰性.アキレス腱反射-/-,足部振動覚 減弱/減弱,末梢神経障害+,網膜症-,腎症+,自律神経障害+.【経過】介入時,覚醒状態不安定で,動作による眩暈・ふらつきを伴うため臥床時間が延長し,食事摂取量は不安定であった.生活習慣の構築を目的に,食前の覚醒促しと食後1~2時間の運動療法介入を設定した.自己管理ノートに日々の体重と,運動療法前後の血糖値を記録し,低血糖対策の個別指導をした.非運動性熱産生(以下NEAT)の指導を行い,日中の活動量向上を促した.運動療法プログラムは,NRSから有痛症状を訴にくい部位を判断し,股関節周囲のストレッチと体幹のバランス訓練を開始した.介入4日目から下肢筋力訓練を追加実施可能となり,介入12日目に掻痒軽減が図れたタイミングで有酸素運動を開始した.【結果と考察】内服による疼痛コントロールと,インスリン強化療法による糖毒性解除により,空腹時血糖値が90~100mg/dl台と改善したことに伴い,NRS:1~2と疼痛が軽減した.また,眩暈やふらつきが軽減したことで日常生活に支障がなくなり,カウンセリングにより情緒面の安定が図れたことで3週間後退院となった.仕事の関係上,夜型のライフスタイル変更は図れなかったが,食事時間を規則的にすることや昼間の活動量を高めることを約束された.体重97.4kg,骨格筋量37.0kg,体脂肪量30.7kgとなった.筋力訓練やウォーキングを自主訓練として立案・実行するようになり,行動変化ステージは準備期となった.【まとめ】アロディニアは,通常痛みを起こさない非侵害刺激を痛みとして誤認する病態であり,QOLの低下,糖尿病療養に必要なセルフケア行動やアドヒアランスが低下し,運動療法の阻害因子となる.しかし,疼痛コントロールやインスリン治療について十分に把握する事に加えて,病態を理解して疼痛部位の詳細な評価を行い,適切な運動療法の介入を行うことで,アドヒアランスの改善が生じたと考えられる.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得た.対象者には研究内容についての説明と同意を得た上で実施した.
著者
平川 陽
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.188, 2016

<p>【はじめに】</p><p>複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)患者は一般的に運動障害もきたすが、その運動に関連する領域の障害による各種感覚情報統合の不一致が痛みの一因として考えられている。今回、CRPS患者の痛みに感覚情報再構築・不一致改善に向け介入を試みたので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>80歳代女性。自動車と衝突し転倒し右大腿骨顆上骨折受傷し骨接合術施行。その後自宅退院となるが大腿部を中心とした受傷時からの強い疼痛は持続していた。7ヶ月後、疼痛の増悪認めスクリューの折損による偽関節にて再手術施行。3ヶ月の入院の後、自宅退院し外来にて演者が週2回2ヶ月間リハビリ実施した。</p><p>【評価】</p><p>安静時より大腿遠位部を中心に疼痛を訴え、Visual Analog Scale(以下VAS)にて58mm。熱感や膝関節の腫脹も残存し常に股関節屈曲・内転・内旋、膝関節屈曲させ防御性収縮を認めていた。その位置を正中と認識し下肢の動きを足部で判断していた。また常に痛みが意識され、接触や運動時にはVAS78mmまで増悪した。股・膝関節の運動覚の変質を認め、特に距離の認識が困難で「こんなずれるの?関節が動くイメージがわかない」と視覚確認や左右比較にて大きく誤差を生じていた。関節可動域は膝屈曲80°伸展-30°、筋力も痛みの影響もありMMT3レベルであった。歩行時には膝関節の柔軟性が乏しく外転方向へ振り出し、十分に荷重できず立脚時間が短縮し杖に強く依存していた。常に視線も足元を見ており「下見てないと安定しない、怖い」と足底接地の不安定さと共に触圧覚の変質を認めた。</p><p>【病態解釈】</p><p>受傷時より常に疼痛が持続し疼痛部位の不活動や防御性収縮によりさらに疼痛を生み出すという悪循環に陥っていたものと考える。末梢機構の変質だけでなく中枢機構においても股・膝関節を中心に荷重時には足底も含め適切な身体知覚が困難な状態となり、身体のイメージと実際の知覚や視覚との不一致につながり疼痛が強く持続し慢性化していると考えた。</p><p>【治療仮説及びアプローチ】</p><p>Moseleyらの慢性疼痛が持続する原因として感覚情報間の知覚能力の低下が関係し、知覚能力の改善は疼痛を軽減させることや、Finkらの感覚情報間の不一致が疼痛の慢性化の原因となると述べていることから、適切な身体知覚が可能になることに加え、視覚との整合性の獲得が必要になると考えた。疼痛に注意が向きやすい状態に視覚イメージや健側運動イメージを利用し、身体への注意を促し①股・膝関節の運動方向・距離識別および筋感覚識別②視覚と体性感覚の整合性③下肢運動と足圧の関係性構築に向けた課題を実施した。</p><p>【結果】</p><p>股・膝関節に注意が向きにくかったが運動イメージを利用する事で適切な知覚が出来始め、股・膝関節の関節運動の認識とともに距離認識の改善を認めた。合わせて視覚との一致が図られ、疼痛も軽減し安静時・接触・運動時ともに痛みはVAS12mmまで改善。臥位での姿勢偏位の修正、防御性収縮も消失。関節可動域は膝屈曲100°伸展-5°となり筋力もMMT4まで改善した。歩行時の股・膝関節の柔軟性が改善され、荷重も十分に行え「足がしっかり支える。足元見なくて大丈夫」と記述も変化した。しかし、骨癒合が不十分で荷重時痛もVAS34mmと未だ疼痛や筋力低下も残存している。</p><p>【まとめ】</p><p>CRPSに対する治療として単に感覚情報の再構築や情報間の不一致の解消のみならず患者が知覚できる情報の構築に向けた運動イメージの導入の必要性を感じた。また疼痛の要因には様々な知見が挙げられ、多面的な評価や病態解釈の重要性も認識できた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本発表はヘルシンキ宣言に則り、患者本人に趣旨を説明し同意を得たものである。</p>
著者
福地 康玄 外間 伸吾 福嶺 紀明
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.271, 2016

<p>【目的】</p><p>近年、少年野球のメディカルチェック(以下MC)を実施する際に、肘関節の超音波検査が導入されている。早期に上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(以下OCD)が発見され、障害予防へと繋がる有効性も報告されている。他県において、超音波による肘検診が積極的に実施されている中、沖縄県においては報告がされていない。そんな中、当院ではH27年度よりMCを実施している。今回の目的は、当院においてMCを実施した少年野球選手の野球肘の現状を知ることである。</p><p>【方法】</p><p>対象は平成27年5月にMCを受けた少年野球選手17名(平均年齢10.6±0.8歳)である。MCは整形外科医師1名、理学療法士2名、助手3名で行った。MC項目は肘関節検診(超音波検診)、肩関節可動域(2nd内旋、2nd外旋)、下肢柔軟性〔股関節内旋、下肢伸展挙上テスト(以下SLR)、踵臀間距離(以下HBD)、指床間距離(以下FFD)〕、野球肩理学所見11項目テスト(以下原テスト)を行った。今回は、原テストのSSDを除く10項目を実施。超音波検査にて、肘に不整がある選手(以下問題あり群)、肘に不整のない選手(以下問題なし群)に分け、各項目を比較検定した。統計学的検定はSASシステムのWilcoxonを用い、有意水準を5%とした。</p><p>【結果】</p><p>超音波検査の問題あり群は10名(59%)、問題なし群は7名(41%)であった。問題あり群では、内側上顆形態異常が7名(41%)、OCDが3名(18%)に認められた。肩関節可動域の2ndIR平均値が44.5±8.2°問題あり群が46.9±8.6°問題なし群が41.1±6.2°、2ndER平均値が121.5±10.0°問題あり群が115.8±7.2°問題なし群が129.7±7.4°であった。下肢柔軟性では、股関節内旋平均値は55.9±11.8、問題あり群が52.5±12.1、問題なし群が60.7±9.4、SLR平均値は77.4±11.4°であり、問題あり群が73.5±12.9°問題なし群が82.9±12.9°であった。HBD平均値は2.4±2.3問題あり群が3.3±2.5、問題なし群が1.1±1.0、FFD平均値は3.2±7.0、問題あり群が1.5±6.1、問題なし群が5.7±7.5であった。原テスト平均値は6.7点であり、問題あり群が6点、問題なし群が7.7点であった。2ndER、原テストの両群で有意差が認められたものの、その他の項目では有意差は認められなかった。</p><p>【考察】</p><p>肘関節の問題あり群において、2ndER、原テストの点数共に問題なし群より低値を示した。吉田らは肩のMCで原テストの得点が低い者に肘の障害を示す例が高率に見られたと報告しており、今回も同様の結果となった。野球肘の発症率は、内側上顆下端障害が約20?40%、OCDが約1?4%と言われている。しかし、今回の結果では内側上顆の形態異常が41%、OCDが17%といずれも高値を示していた。岩瀬らは、上腕骨内側上顆下端障害が投球による動的ストレスが主体であるのに対し、OCDは投球による動的ストレスと内因との両方が関与すると述べている。筋力が未発達であり、発達段階の小学生において、コンディショニング不良が不良投球フォームへ繋がることも、高値を示した原因の一つと考える。少年野球において、イニング制限は設けているものの明確なオフシーズン、球数制限は定められていない。今回のチームでも、週5日(練習時間2?3時間)、球数制限なしという環境であった。年間を通し野球のできる沖縄において、このような環境因子が加わったことも今回の結果に繋がったのではないかと考える。</p><p>【まとめ】</p><p>少年野球選手にMCを実施した結果、野球肘の発症率が高い傾向にあった。MCにおいて超音波検査の有用性を示し、身体所見と照らし合わせることによって野球肘の障害予防につながると考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>研究実施に際し対象者に研究について十分な説明を行い同意を得た。 </p>
著者
大橋 光
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.74, 2005 (Released:2006-08-01)

【はじめに】当施設では、主に自分らしく穏やかに日々を送れる様に援助することを目標にケアを行っている。今回その中に作業療法士として関わる機会を得て、施設内での環境設定や拘縮予防の関節可動域訓練・歩行訓練などの機能訓練と共に、QOLの向上を目的とした選択可能な作業活動を取り入れ実施した。当施設における現状と今後の課題を報告する。【目 的】〔陶芸教室〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激等の刺激入力 2)手指巧緻性の維持・向上 3)楽しみ・顔馴染みの関係の獲得 4)精神機能面の賦活〔音楽クラフ゛〕1)固有感覚刺激、聴覚刺激等の刺激入力 2)見当識・記名力の維持・改善 3)精神機能面の賦活 4)自発性・意欲の維持・向上 〔手芸クラフ゛〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激、聴覚刺激等の刺激入力 2)手指巧緻性の維持・向上 3)精神機能面の賦活 4)自発性・意欲の維持・向上 〔料理教室〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激、嗅覚刺激等の刺激入力 2)精神機能面の賦活 3)自発性・意欲の維持・向上 4)日常生活動作(以下ADLと略す)能力の維持・向上【方 法】〔陶芸教室〕毎月第1月曜日1)対象者 意識障害のない両手又は片手が使用できる利用者 2)準備物 粘土、水、手ロクロ、エフ゜ロン、釉薬 3)人数 実施者5から6名、見学者5から6名 4)実施場所 施設内訓練室 5)時間 1時間半から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 〔音楽クラフ゛〕毎月第2月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 キーホ゛ート゛、歌詞集 3)人数 15から20名(平均年齢86±13から16)4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 〔手芸クラフ゛〕毎週第3月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 テーマに合わせた物品(例)貼り絵、絵手紙等 3)人数10名前後 4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 〔料理教室〕毎月第4月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 テーマに合わせた材料、包丁、まな板等 3)人数10名前後 4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名【現 状】〔陶芸〕作品作りをOT・他スタッフの介助下で行う。最終的な修正をOTが行う.その後、素焼き・染色・本焼きを経て作品の完成とする。 〔音楽クラフ゛〕季節の歌や利用者からのリクエスト曲の歌詞カート゛を作成し、皆で合唱する。また、発声練習や準備体操、日付の確認なども併せて実施する。 〔手芸クラフ゛〕各月のカレンタ゛ーの作成や書初めなどを実施する。テーマは利用者から提案されたものや介助者から提示する。 〔料理クラフ゛〕おやつ作成や郷土料理つくりを実施。利用者のできることを行ってもらうように誘導する。【まとめ及び今後の課題】各活動共に参加者の固定化が見られてきており、馴染みの関係が築かれつつある。また、利用者とスタッフとの信頼関係の形成も出来てきていると考える。しかし、男性利用者及び不参加者のQOLの向上につながる活動の選定ができておらず、限られたク゛ルーフ゜での活動になっている。それと同時に、利用者の高齢化と重度化が進み実施可能な項目が限定されてきているという現状もあることから、活動の選択も難しくなっている。今後の課題として、これらの利用者の参加できる活動の選定を行いQOLの向上に努め、少しでも長く自分らしい生活の維持ができるようにサホ゜ートしていきたいと考える。
著者
村井 史樹 高木 治雄 村里 恵理子 高村 彰子 新堂 喬
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.215, 2008 (Released:2008-12-01)

【はじめに】 今回、脊髄梗塞により両下肢麻痺を呈した症例に対して、Gait solution長下肢装具(以下GS長下肢装具)を使用する機会を得たので、従来の長下肢装具との歩容の違いについて症例を通して、ここに報告する。GSとは、足継手の油圧シリンダーにより、前頚骨筋の遠心性収縮を補助し歩行の手助けをする装具である。【方法・対象】 症例:67歳 男性 1月25日発症 評価 3月12日 Br-s下肢 右IV 左V MMT 体幹 3 殿筋 2/4 腸腰筋 3/4 大腿四頭筋 3/4 ハムストリングス2/4 基本動作 寝返り~座位:自立 移乗動作:監視 立ち上がり:物的支持にて自立歩行 平行棒内 装具なし 軽介助。右の初期接地~立脚中期にかけて膝の過伸展、左の遊脚期~初期接地に右の膝折れが観察される方法:GS長下肢装具と長下肢装具での平行棒内歩行(遠位監視)装具の条件:長下肢装具・・・底屈をとめての背屈フリーダブルクレンザックGS長下肢装具・・底屈制動の背屈フリー 初期屈曲角度 0° 設定は本人に教えていない。 歩行条件:事前に長下肢装具での歩行練習は行っていない。装具の種類・設定は教えていない。 動画による歩行分析 【結果】 観察によるGS長下肢装具と長下肢装具の違い(GS長下肢装具/長下肢装具)・体幹の前傾が少ない ・健側の振り出しの歩幅が広い ・患側の遊脚期の振り出しがスムーズ 歩行速度(m/s)0.223/0.23 ケイデンス(steps/min)42/43 ストライド長(m) 0.64/0.64右立脚期 2.19/2.06 右単脚支持期 0.5/0.4【考察】 今回、歩行について、歩行速度、ケイデンス、ストライド長ともに変化は見られなかった。歩容に関して、GS長下肢装具は、GSの特徴である前脛骨筋の遠心性収縮の補助が可能となり、重心の前方への移動がスムーズになった。そのため、初期接地~立脚中期までの股関節伸展がしっかり行えるようになり体幹の前傾も軽減し、健側の振り出しが上手く行えていた。さらに、その後、健側の立脚期の重心移動もスムーズになることで患側の振り出しも円滑に出来たのではないかと考える。通常の長下肢装具に比べ股関節伸展を上手く発揮できたことが一歩行周期において重心の移動を円滑に行うことができたのではないかと思われる。しかし、通常との長下肢装具との歩行速度などに変化が見られなかったこととして、上肢支持を行っていたこと、歩行が、平行棒の中と限定されており、歩行距離が短かったことなどにより変化がなかったのではないかと考えられた。【まとめ】 今回、脊髄梗塞に対し、GS長下肢装具を使用したところ、客観的データには変化は見られなかったが、主観的に歩きやすいとの返答も得られ・歩容の改善も見られた。GS長下肢装具は早期から歩行時の重心移動獲得を目的とした治療用装具としても従来の長下肢装具より有効ではないかと考える。
著者
森 里美 伊東 育美 白山 義洋 飯田 真也 二宮 正樹 白石 純一郎 岡崎 哲也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.200, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】パーキンソン病は振戦・筋固縮・動作緩慢・姿勢反射障害の症状を呈し、上肢機能では巧緻性動作低下を生ずる場合が多い。しかし、上肢機能におけるリハビリテーション介入効果に関する報告は少ない。今回、パーキンソン病患者を対象とした上肢機能の変化を2~3週間における短期集中リハビリテーション入院前後で比較、検討したので報告する。【方法】対象はパーキンソン病患者21名(男性6名、女性15名、Hoehn&Yahr分類:stageⅠ2名stageⅡ4名stageⅢ12名stageⅣ3名、年齢:71.2±9.2歳、固縮・振戦症状優位側(以下優位側)は右手9名、左手12名)。短期集中リハビリテーション入院では、薬剤調整は行わず、理学療法・作業療法、必要に応じて言語療法を行った。作業療法では関節可動域訓練、筋力増強訓練、巧緻性動作訓練、協調性動作訓練を実施した。上肢機能評価は簡易上肢機能検査(Simple Test for Evaluating Hand Function 以下STEF)を使用した。短期集中リハビリテーション入院前後でのSTEF総得点・各項目所要時間の比較にWilcoxon検定を用いた。有意水準をp<0.05とした。【結果】短期集中リハビリテーション入院前後では優位側・非優位側ともにSTEF総得点に有意な改善がみられた(STEF総得点(平均±標準偏差)優位側:前77.7±18.2点 後83.3±16.8点 非優位側:前80.1±18.0点 後86.6±14.4点)。STEFの各項目別にみると、優位側では大球(項目1)・中球(項目2)・大直方(項目3)・中立方(項目4)・木円板(項目5)・小立方(項目6)・布(項目7)・金円板(項目8)で有意な改善を認めた。非優位側では中球(項目2)・大直方(項目3)・中立方(項目4)・木円板(項目5)・小立方(項目6)・布(項目7)・小球(項目9)・ピン(項目10)で有意な改善を認めた。優位側では小球(項目9)・ピン(項目10)、非優位側では大球(項目1)・金円板(項目8)で有意な改善を認めなかった。【まとめ】当院での短期集中リハビリテーション入院により上肢機能は改善した。優位側では粗大な運動項目は改善したが、巧緻性動作に関しては改善しにくい傾向にあった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の計画立案に際し、事前に所属施設の倫理審査員会の承認を得た(承認番号H25-0965)。また研究を実施に際し、対象者に研究について十分な説明を行い、同意を得た。製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費、株式、サービス等は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。
著者
田中 香織 杉木 知武 林 睦子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.82, 2006 (Released:2007-05-01)

【はじめに】今回、大腿骨頚部骨折後に人工骨頭置換術(以下BHA)を施行した患者を担当した。本症例は、生活意欲は高いが認知面低下の為、転倒・脱臼のリスクを伴い、生活への適応が困難と思われた。今回、生活機能向上を目指し、状況を変えてのADL訓練と環境面を中心に作業療法(以下OT)アプローチを行い、ADL向上が見られたので考察をふまえ報告する。【症例紹介】年齢:84歳 性別:男性 診断名:左大腿骨頚部骨折 現病歴:H17年12月24日に自宅にて転倒し27日にBHA施行。合併症:関節リウマチ(classIII)左片麻痺(Brs-stage:上肢IV・手指V・下肢IVからV)【OT評価】*術後生活状況として1.心身機能:術後左下肢ROM制限・筋機能低下あり、疼痛(左股関節動作時痛・安静時痛+・夜間時痛±)、HDS‐R(17/30点:短期長期記銘力低下あり)。2.活動:Barthel Index(以下BI。20/100点)、食事以外要介助。基本動作全介助。脱臼肢位(股関節屈曲内転内旋位)をとる。3.環境因子:本人・妻・長男夫婦の4人暮らし。週2回デイサービス利用。*術前生活状況としてBI(70点)。整容・入浴・更衣・排尿排便自制は部分介助、T字杖歩行にて転倒あり。基本動作は手すりにて自立。趣味は庭の手入れ。【OTアプローチ】1.活動性向上を目的とした訓練 2.状況を変化させての繰り返しのADL訓練:脱臼肢位の意識付け(口頭指示・視覚刺激)、身体機能向上に合わせてのADL訓練、自助具の工夫。 3.生活への定着:病棟でのADL訓練。環境調整。4.環境面の支援:家族指導、パンフレット作成。【転院時評価:H18年1月27日】BI(65点)時折、足を組む、脱臼肢位での靴着脱・更衣動作などが見られること、要時間の為見守りから軽介助。段差昇降は杖と手すりにて見守りから軽介助。移動はピックアップ型歩行器またはT字杖見守り。【考察】今回、認知症を呈し生活意欲は高いが新たな生活動作への適応困難な症例に対して、ADL向上が見られた。主な要因として、生活者としての意識の高さ・身体機能向上に伴う自助具の操作性向上・繰り返しのADL訓練により学習効果が得られたことと、生活場面での練習・周囲からの意識付けによる生活への定着への関与が考えられる。今後は、施設入所を経て自宅復帰する予定である。生活環境に近い状況・実生活での繰り返しのADL指導・環境面の支援(家族支援、物理的環境の調整)の必要性が示唆される。
著者
京極 大樹
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.103, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】地域包括ケア病棟(以下包括病棟)は、平成26年度診療報酬改定に伴い新設され、急性期治療を経過した患者および在宅において療養を行っている患者の受け入れ並びに患者の在宅復帰支援を行う機能を有し、地域包括ケアシステムを支えている病棟である。当院では平成26年6月より亜急性期病棟を転換し、包括病棟運用を開始している。リハビリテーション専門職(以下リハ職)は、平均在院日数の要件がない代わりに60日間の入院期限やリハ対象者へ1日平均2単位以上の疾患別リハの提供が規定されている点に留意して管理・運営していく必要がある。今回は平均単位数と在宅復帰率、患者満足度とリハ職の配置に着目し、約2年における当院包括病棟でのリハ職の取り組みと今後の展望について報告する。【方法】対象は平成26年6月から平成28年3月まで当院包括病棟に入院した患者。リハ職は回復期及び包括病棟に配属されているセラピスト25名(PT13名OT9名ST3名)。専従は規定に準じてそれぞれの病棟に配置している。方法は、平均単位数については包括病棟入院料等のリハ基準に係る届出添付書類に準じ、在宅復帰率は包括病棟の施設基準等に準じて算出している。患者満足度は平成26及び27年度でそれぞれアンケートを実施し、満足度の項目を抽出している。【結果】平均単位数は平成26 年度で2.71、平成27年度で2.58であった。在宅復帰率は平成26 年度で80.2%、平成27年度で86.0%だった。リハ対象率は平成26 年度で69.7%、平成27年度で64.5%であり、回復期リハの単位数に影響はなかったが、業務が煩雑になった月が一部みられた。アンケートからは接遇やリハ内・治療について概ね高い満足度であったが、待ち時間とリハ効果に関する項目は4割程度の満足度であった。【考察】リハ包括という制度の中、リハ職の配置を熟考した結果、回復期病棟と包括病棟勤務のスタッフを混在させ、包括病棟の単位数をできるだけコンパクトに設定しながらも、在院日数のコントロールや在宅復帰率、患者満足度を達成していくといった課題に挑戦した2年であった。包括病棟固定ではなく、回復期病棟と兼務させるといったフレキシブルな人材運用は、病棟管理側からは煩雑な面もみられたが、疾患が限定される回復期病棟と疾患によらない包括病棟を同じスタッフで兼務させることで、多様な患者のリハの経験と期日内での退院調整・指導を日々業務の中心として活動できることは、特に若年層の教育的側面からは有用と考えられる。リハ職兼務にて発生するメリット・デメリット、リスクとベネフィットを見極め、限られたリハ資源を効果的かつ効率的に運用することで、患者満足度と費用対効果のバランスの最適値を今後も模索し、地域包括ケアシステムの一翼として地域に貢献していきたい。【倫理的配慮,説明と同意】研究はヘルシンキ宣言に則り,被験者のインフォームド・コンセントを得て行っている。
著者
大薮 みゆき 山田 麻和 松尾 理恵 友利 幸之介 田平 隆行
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.122, 2004 (Released:2004-11-18)

【はじめに】 4年前に線条体黒質変性症の診断を受けた本症例は、身体機能の低下に伴いADLはほぼ全介助である。今回4度目の入院において、症例は「どうしても自分でトイレが出来るようになりたい」と希望している。ここに症例の到達目標とセラピストの予後予測にずれを感じた。近年、カナダ作業遂行モデル(以下、CMOP)に基づいたクライエント中心の作業療法が実践されている。そこで、今回CMOPの理論と作業遂行プロセスモデル(以下、OPPM)に基づき、症例が望む作業について症例と共に考案したので報告する。【症例】 S氏、84歳、女性。診断名は線条体黒質変性症。夫、次女、次女の夫、孫との5人家族で、主介護者は夫である。介護保険制度では要介護度4の認定を受け、通所リハビリテーションと訪問介護を利用し在宅生活を送っていた。【アプローチ】 OPPMに基づき以下のようなアプローチを行った。第1段階:作業遂行上の問題を確認し優先順位をつける。ここでは、カナダ作業遂行測定(以下COPM)を用いた。セルフケアでは「夫に迷惑をかけている」という負い目から排泄動作自立を希望していることが分かった。レジャーでは、人との関わりを好む性格から「夫や曾孫へプレゼントをすること」「友達と話をすること」という希望が聞かれた。第2段階:理論的アプローチの選択 基礎体力や排泄動作能力向上のために生体力学的アプローチを、社会・心理面にはリハビリテーションアプローチを行った。第3段階:作業遂行要素と環境要素を明確にする症例は1時間半程度の座位耐久性があり、手指の巧緻性の低下は認められるものの、簡単な手芸は可能と思われた。他者との会話は難聴と構音障害のため困難であった。排泄は尿便意消失のため膀胱留置カテーテル、おむつを使用していた。症例は羞恥心と「女性は男性の世話をするもの」という価値観から夫からの排泄介助に負い目を感じていた。一方、夫は87歳と高齢で心疾患があり排泄介助に負担を感じていた。第4段階:利点と資源を明確にする 症例はプレゼント作りに対する意欲が高かった。また、夫は介護へ前向きであった。第5段階:めざす成果を協議して行動目標を練る これらの結果をもとに、症例や夫と一緒に話し合い、目標を1)夫に迷惑をかけているという負い目の軽減、2)夫や曾孫にプレゼントを贈る、対人交流の促進とした。第6段階:作業を通じて作業計画を実行する 1)については、夫の希望からもおむつ交換時の介助量軽減が「夫が心身共に楽になる」ことにつながることを伝え、おむつ交換訓練やベッド上動作訓練の導入を提案した。しかし、家族が施設入所を希望したため保留となった。導入時、セラピストは、症例の負い目を夫に伝え、症例と夫へ会話の場の設定や話題提供を行ったところ、夫から症例への優しい言葉掛けが増え、その言葉に症例は安心感や喜びを感じていた。2)については「風邪をひかないように毛糸の帽子を作ってあげたい」という症例の希望を受け、改良した編み棒を用い、スプールウィーピングにて帽子を作ることにした。作業の際には症例と他患との間に、セラピストが入り、他患との会話を促した。手芸の経過の中で「じいちゃんとのこれまでの生活を思い出す。結婚して良かった」「病院にも友達が出来たよ」という言葉が聞かれた。完成後は感謝の手紙を添えて夫へプレゼントした。また、夫へ依頼しひ孫へ直接プレゼントを渡す機会を作ってもらった。症例は夫や曾孫が喜んでくれたことを嬉しそうにセラピストに話した。第7段階:作業遂行における成果を評価する 初回評価から8週後にCOPMの再評価を行った。「夫に迷惑をかけないように自分でトイレをする」という希望は遂行度、満足度に変化が見られなかった。「夫やひ孫へプレゼントをする」「友達と話をする」という希望ではスコアが大幅に向上した。【考察】 「一人でトイレがしたい」と希望する症例に対してCMOPの理論に基づき、症例の視点から作業を共に検討した。そして症例の作業を決定する動機、すなわちSpiritualityは「夫に対する想い」であった。そこでアプローチには、帽子のプレゼントや負い目に対する夫の言葉かけなど、夫とのコミュニケーションを形づけられるような作業を提案した。その結果、トイレ動作に変化に見られなかったものの、日常での言動やCOPMでの再評価から症例は夫の中にある自己の存在を確認できているように見えた。現在、症例の生き生きとした言動から家族も再度在宅生活を検討し始めている。今回の経験からSpiritualityの発見と、それに向かって具体的な作業を提案することの重要性を認識した。
著者
徳永 明子 四元 珠紀 四元 孝道 山内 愛 梅本 昭英 日吉 俊紀 窪田 正大
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.138, 2005 (Released:2006-08-01)

【はじめに】左半側視空間無視(以下左USN)を伴う慢性期脳梗塞患者1例に習字を導入した結果,BITの改善及びADLの向上がみられたのでそれらの結果に若干の文献的考察を加え,報告する。【症例】77歳男性。右利き。現病歴:2003.9.19に脳梗塞(右内頸動脈閉塞)罹患。既往歴:1928年腰椎骨折,1985年転落により頭部打撲・左下腿骨折。【入院時評価】2003.12.15(発症3ヵ月後)左上下肢運動麻痺(II,I,II),表在・深部感覚は中等から重度鈍麻。高次脳機能:左USN(BIT通常検査48/146点,重度),注意障害,失語,構音障害,聴覚・視覚的理解力の低下 ADL:B.I 10/100点(食事以外要介助)【習字実施直前時評価】2004.8.19(発症11ヵ月後)高次脳機能:BIT通常検査48/146→69/146点ADL:B.I 10/100→25/100点(更衣,移乗,整容が改善)【習字を利用したUSNに対する訓練方法】病前より書字に興味があったことから,今回USNへの訓練方法として習字を導入した。課題は症例自ら選定し,準備・書字後のフィート゛ハ゛ックは担当OTと共に行った。実施期間は発症後11カ月より30分/1回,3回/Wで4カ月間実施した。【改善点】2004.12.20(発症15カ月後)高次脳機能:BIT通常検査69/146→113/146点ADL:B.I25/100→35/100点(車椅子駆動自立,移乗軽介助) 【考察】入院時から習字実施までの11ヵ月でBIT通常検査が48/146→69/146点と21点改善した。さらにその後,USN訓練として習字を集中的に4カ月間実施した結果, 69/146→113/146点と41点改善がみられた。ADLも25/100→35/100点となり,なかでも車椅子駆動時の左障害物への接触消失,靴・装具の着脱手順把握・テーフ゜着脱忘れの改善がみられた。また,習字の効果の維持もできていた。Mesulam(1981)は,USNは方向性注意の障害とした上で,帯状回!)下部頭頂葉!)前頭葉!)網様賦活系が形成するネットワーク回路の障害により,USNが生じるとしている。帯状回は,反対側空間への情動の方向付け,下部頭頂葉は,反対側空間の知覚入力の統合・知覚表象図式の形成,前頭葉は,反対側空間での運動の開始・抑制に関する出力の統合・運動的探索を行っている。そして網様賦活系は,上記3つの領域を賦活して覚醒的基盤を与えているとしている。これらのメカニス゛ムと習字の特性を比較すると,習字への関心や手本照合による左右探索等は帯状回,作業範囲の拡大や字の大きさ等は下部頭頂葉,習字の開始・終了のコントロールは前頭葉が担っていると推測される。習字がこれらのネットワーク回路に相互的にハ゛ランスよく機能した為,USNが改善したと思われる。
著者
村上 朋美 濱田 輝一 橋本 孝
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第25回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.123, 2003 (Released:2004-01-08)

【はじめに】深呼吸の指導時、SpO2の変化を見ていたところ、一時的にSpO2は上昇するものの、最初の数値よりも下降する事が度々見られたので、検討し報告する。【対象と方法】1)対象:当院実習中の女子看護学生16名。2)計測方法:深呼吸(鼻から吸い口から吐いた)5回のSpO2の経時的変化を計測し、パターンを見た。【結果と考察】変化の全体傾向と最頻度(68.7%)は、当然同一型で、SpO2は深呼吸開始後上昇し、次いで安静時以下に下降し、安静時に戻る型となった。また最頻度型の時間的変化(秒)・比率ではax:bx:cx=24.7: 64.9:77.8=1:4:5であった。つまり深呼吸を開始して、3分前後で安静時に戻るが、下降から安静時に戻るまでには、全体時間の半分を要していた。今回リラックスした呼吸と思われ、使用されている深呼吸技術に疑問を感じ研究した結果、予測と異なるSpO2の低下が健常人でも起こることが確認できた。深呼吸技術の是非を含め、まだ課題も多いことから今後もさらに継続検討を重ねたい。
著者
東谷 成晃 入船 友紀子 都甲 幹太 中村 智子 辻 泰子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.14, 2009

【はじめに】<BR> 60代女性が癌治療の為に入院。ADL改善目的でOT開始するが癌性疼痛の増強及び精神的低下等により生活範囲の拡大がみられず、ベッド上中心の生活となった。この症例に対し作業療法の一環として「千羽鶴作り」の作業活動を提供・支援したことがきっかけとなり、症例の心・身体に変化が見られ、QOL向上に繋げることができたので報告する。<BR>【全体経過】<BR> 10月中旬入院。3病日目:ST開始。 28病日目:OT開始。44病日目:折り紙開始。47病日目:千羽鶴作成開始・自室内環境変更。74病日目:外出。90病日目:千羽鶴完成。101病日目:自宅訪問。105病日目:外泊。116病日目:自宅退院。また入院中に合計59回のradiation(各部位)と合計7回の化学療法実施。<BR>【症例の変化・考察】<BR>第1期:折り紙導入前(介入当初)<BR> 入院当初、元々独歩自立が癌性疼痛によりベッド上生活となり、現病についての話題が大半を占め、自己の出来ないことに目が向くようになっていた。<BR>第2期:折り紙導入時(介入から約2週)<BR> 自室内にて短時間で出来、馴染みある活動として「千羽鶴」作成を開始。広告紙や用紙準備・一日の折る羽数は患者自身で決め、2~3日の完成分毎にOTが飾り付けを行い自室内に飾った。また自室内の環境を座位活動や移動がしやすいように変更した。<BR>第3期:心・身体の変化(介入から約4週)<BR> 「千羽鶴」作成で病態以外に目を向ける時間や、作業を通してスタッフや家族との関わりが増えた。また完成していく「千羽鶴」から満足感・達成感が得られると共に、他者から賞賛を受けた事で自己価値観の向上を認め、「癌治療きついけど千羽鶴が完成したら家に帰れるやろうか。」と発言内容にも変化が見られた。それに加え放射線や化学療法の治療効果もあり心理的苦痛の軽減や安心感が生まれたことで、院内を一人で散歩するなど生活範囲が拡大し徐々に生活習慣を取り戻していった。<BR>第4期:家族の変化(介入から約8週)<BR> 作品を通しての会話が増え、家族が症例の姿や能力を知り得たことで共に喜びや満足感を経験でき、リハビリ以外の時間で院内での散歩や家族・親戚と一緒に外出・外泊するなど外への時間を増やすことが出来た。これらの動きが在宅復帰にも繋がり、「孫を抱っこしたい」という新たな目標を掲げて笑顔で退院となった。<BR>【まとめ】<BR> 今回「千羽鶴」の余暇活動がきっかけとなりQOL向上から機能・能力の回復に繋がっていった。癌患者様へのリハビリには多面的な介入が必要であるが、作業活動を提供・支援することは患者様に目標ある生活を獲得させ、生活全般に変化をもたらす一助になると言える。
著者
原田 洋平
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.121, 2009

【はじめに】<BR> 今回、脳血管障害を持ち、対人交流の拒否が強く身体機能訓練を拒否した一人の高齢女性に対して、興味を示した折り紙・お手玉を通じて関係を築き、ナラティブの語りから方針を再検討した。その結果、行動範囲や対人向流の拡大に至り、活動量の拡大に繋がった。訓練拒否から活動を広げていった経過を分析し、考察を加えて報告する。<BR>【事例紹介】<BR> Aさん。80歳代女性。左ラクナ梗塞。家族構成は夫と息子夫婦、孫夫婦、曾孫。職業は夫の農業を手伝いながら兼業主婦。家事全般をこなしながら、勤めに出ている孫夫婦に変わり曾孫の育児を行なっていた。<BR>【経過・結果】<BR> 初期評価時より常に表情は険しく日中臥床傾向であり他患との交流や離床を拒否。OTRが提案したベッドサイドでの身体機能訓練に対し「つまらない。」「リハビリなんて楽しくないと思う。」と拒否を続ける。Aさんの語りにより病棟でお手玉を使用。OTRは初心者であり、OTRに教えてくれるよう頼んだ。次第にAさんはお手玉遊びのコツや練習方法を教えてくれるようになり、指導的役割や、AさんがOTRへ指導をし、指導が上手く行くという成功体験を通じ、Aさんは達成感を得る。しだいにOTRの問いかけに対し、院内生活や過去の生い立ちについて自ら語るようになり、OTRはナラティブと傾聴をおこなっていく。また、他患のベッドサイドにある千羽鶴を指差し、「私も昔は孫と一緒に作ったものよ。」と折り鶴作製を希望した。その語りより、OT方針を再検討し、折り紙を追加した。他患や他患家族に対し「みんなと一緒に食事を取りたいから食堂でご飯を食べたい」等と話すようになる。そして自らOTRや他患へお手玉遊びの指導やおはじきの遊び方、折り紙の折り方を教えるようになりコミュニケーション・交流技能に変化が見られる。<BR>【考察・まとめ】<BR> 「今までは主婦業をこなしていたのに、助けてもらうばかりで何もできなくなった」「手が動かないからだめだ」と個人的原因帰属の低下や役割・自己効力感の低下により居室に閉じこもっていたAさんは、お手玉という作業を通じて、「今までは息子や孫にいろいろなことを教えていた」役割や達成感、「OTRが上手くお手玉できるようになった」成功体験を得ることができた。その結果、OTRとの関係が築かれ、活動への意欲が向上したと思われる。ナラティブと傾聴を基に方針を修正した後、楽しみとなる作業活動の提供によって意欲が引き出され、行動範囲や対人向流の拡大に至り、活動量の拡大ができたと考える。<BR> 今回の症例ではナラティブな関わりを通じてお手玉・折り紙という作業に注目した。このようにナラティブな関わりからセラピストとの関係を構築し、協業することの重要性が示唆された。
著者
後藤 麻希 川崎 桂 遠藤 正英 甲斐 健児 薛 克良 服部 文忠
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.174, 2011

【はじめに】<BR> 近年Wii(任天堂社製)を用いたリハビリテーションが注目され検証されている。しかし、集団への影響について検証されているものは少ない。そこで今回、当院の通所リハビリテーション(以下通所リハ)の集団訓練にWiiを導入し、身体機能と出席率に着目して検証したので報告する。<BR>【対象・方法】<BR> 調査期間はX年9月~X年12月、対象はその間、当院通所リハを3ヶ月間継続利用した要支援35名とした。そのうち、Wiiを使用した集団訓練への参加を希望した群(以下ゲーム群)21名(男性:7 女性:14名、平均年齢:73.47±9.6歳)、希望しなかった群(以下非ゲーム群)14名(男性:8 女性:6名、平均年齢:71.78±11.5歳)。Wiiを使用した集団訓練は、プロジェクターを使用し、スクリーンに映し、30分間実施した。Wii 太鼓の達人(バンダイナムコゲームス・ナムコ社製)とWiiスポーツリゾート(居合い斬り・ボウリング)(任天堂社製)のソフトを順に2週間ずつ変更し行った。出席率(%)はWiiを実施した各月の当院通所リハの出席率(利用回数/予定利用回数×100)を調査し、身体機能の検証は実施前、後に握力、膝伸展筋力(ミュータスMA1(アニマ社製)を用いて端坐位にて膝関節90度屈曲位での最大等尺性膝伸展筋力を測定)、10m歩行(時間・歩数)、6分間歩行距離(以下6MD)、ファンクショナルリーチテスト(以下FRT)、Timed up and go Test、長坐位体前屈を行い統計学的分析にt検定を用いた。なお、本研究は被験者に目的、手順を説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR> 出席率はゲーム群で実施1ヶ月目:80.45%、2ヶ月目:91.14%、3ヶ月目:88.76%、非ゲーム群は1ヶ月目:75.28%、2ヶ月目:72.34%、3ヶ月目:66.67%であった。身体機能は集団訓練実施前、後において、非ゲーム群のFRTで有意な低下を認めた(p<0.05)。その他の項目では有意差が認められなかったが、ゲーム群では6MD、FRT以外の全ての項目で平均値が向上傾向にあり、非ゲーム群では全ての項目で平均値が低下傾向にあった。<BR>【考察】<BR> 今回の結果より、Wiiを集団で実施した場合、出席率・身体機能の向上へ効果がある事が示唆された。ゲーム群で出席率が向上傾向にあったのは、ひとつに内発的動機付けとしてWii自体の楽しさがある。あわせて、集団で行う事により、他者との交友関係の深まりの中で外発的動機付けが促され、出席率向上へと影響した事が考えられる。また、ゲーム群で身体機能が向上傾向にあったのは、Wii使用による直接的な運動量の増加と出席率向上による運動量の向上が影響した事が考えられる。Wiiは運動への動機付けを促す手段の一つとなりえ、更に集団で行う事により内発的動機付けと外発的動機付を誘発する事が期待できる。
著者
儀間 智子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.385, 2010

【はじめに】<BR>今回、対人緊張が高い為関わりが難しく外出に対しても抵抗がある症例に対して、雑誌コーナーの雑誌購入を導入した結果、退院してピアノ教室に通いたいと口に出すようになった。振り返りを行い考察を加えたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR>30歳代女性。19歳、人と付き合い難くなり家へ閉じこもる。21歳、薬学に通うが寮生活で対人関係上手くいかず不登校となる。帰沖し復学試みるが、自主退学する。33歳、多量服薬しA病院の5階から飛び降り、興奮状態で当院入院となる。関わり当初、単語での返答多く近くに座ると自ら離れていき関わるのが困難であった。雑誌や化粧品を一人で見て過ごす場面が多く見られた。<BR>【方法と経過】<BR>『雑誌コーナーの雑誌購入』月に1回個別で行い、1.楽しむ体験2.自信の回復を目的とした。OTRから誘い、雑誌を2~3冊程度選んでもらう。〈BR>症例が他患と雑誌や化粧をしているOTRの姿を見る事から始め、同じ机で雑誌を見ながら徐々に会話を図り購入へ誘った。購入初回時には拒否もあった。移動中の車内では、OTRが1~2回話しかけるのみで帰りは笑っている表情が多く見られた。初めは常にOTRの後ろから歩いており、多くの雑誌の中から選ぶ事が出来ず、立ちすくむ場面が見られた。その為、「購入月の前後や読んだ事のある雑誌から選ぶと選びやすいよ」と段階付けを行い読みたい本(漫画)の選択が出来る様になる。その頃と同時期にOTRの前を歩くようになり、買いたい雑誌や漫画の棚に積極的に足を運ぶようになる。また、会計後の雑誌を積極的に持つようになる。<BR>【結果】<BR>OTRに対して、感情を表出したり、「家に帰りたい、ピアノ教室に通い、○○の40番を完成させたい」と話すようになる。<BR>【考察】<BR>今回、対人緊張が高く関わり難い症例に対して、興味がある雑誌を通して個別での雑誌購入を導入した。雑誌購入は、将来に関わる大きな決断ではない事やOTRからの誘いから受容的な参加が可能な状況が参加しやすく、選んだ雑誌に対してOTRに肯定される体験から安心感が生じたと考える。安心感から次第に自分の読みたい雑誌を意思表示出来るようになり買えた満足感や購入した雑誌をホールに来て見る事、女性らしさを意識する本人の楽しみから継続して購入に至っているのではないか。また、他者が手に取り読む姿を見て「この雑誌でよかった」と喜ぶ姿や賞賛される体験が自信に繋がったと考える。今回の雑誌購入は、(1)流行の服や髪形を気にする、(2)自分を変えたいと感じる機会と症例自信から生じる喜びが大きかったと考える。結果として現在では、以前やり残した「家に帰ってピアノ教室に通いたい、曲を完成させたい」という希望をOTRを含め他者へ意思表示する様子が伺えるようになった。今後は、本人の気持ちを引き出していきながら意思を固めていく。活動でもピアノを取り入れていき糸口を見つけていく。
著者
枝村 和也 中島 耕一郎 衛藤 貴郷 田口 あやめ 高木 美帆 徳丸 一昭
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.202-202, 2016

<p>【目的】</p><p>術前後の諸因子について自宅退院群と施設退院群の2群間で比較し、転帰先に影響する因子についての抽出・検討を行うことで退院調整の円滑化を図ること。</p><p>【方法】</p><p>平成26年2月から平成27年5月までに退院した大腿骨近位部骨折患者112名中、受傷前在宅であった43名を対象とした。(男性6名 女性37名 平均年齢83.44歳)</p><p>調査項目として術前因子は年齢、家族構成、入院前介護度、受傷前歩行状況とし、術後因子は長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)、移乗の獲得日数、荷重開始1週後の歩行能力とした。これらの調査項目を後方視的に診療録から情報収集を行い、自宅退院群と施設退院群の2群に分け、有意水準5%未満で統計学的処理を行った。</p><p>【結果】</p><p>調査対象患者の自宅退院率は69.8%であった。荷重開始1週後の歩行能力、移乗の獲得日数、HDS-Rにおいて自宅退院群において両群間で有意差が認められた。</p><p>【考察】</p><p>大腿骨近位部骨折は骨粗鬆性骨折の1つであり患者数は、年間15万人以上に達すると報告されており、その多くが70~80歳代の高齢者である。大腿骨近位部骨折を受傷すると日常生活活動(以下ADL)が低下し、介護の必要性が増加する原因となると報告されている。当院でも受傷前と比較してレベル低下を生じ、自宅退院困難となる例も多々経験する。そこで術前後の環境、認知、機能的因子における客観的指標の抽出を後方視的調査に行った。</p><p>自宅退院率は69.8%であり、先行研究と同様の値が示された。転帰先に影響している因子については術後早期の認知・機能的因子が先行研究と同様に影響していることが分かった。菅野らは術後2週以内での歩行獲得(平行棒内または歩行器歩行)の有無は、自宅退院の可否を予測する因子の一つであると報告している。また口石らは術後1週目の時点で移乗能力が自立していれば独居でも自宅退院できる可能性が示唆されたと報告している。HDS-Rにおいては先行研究においても退院先に影響を与える因子として多く報告されている。久保らは認知症がある症例は、ない症例に比べて平行棒歩行訓練の開始が遅れていると報告しており、転帰先だけではなくリハビリテーションの進行度にも影響していると考えられる。以上のことから術後早期の移乗・歩行能力が低い症例、認知症が低下している症例は自宅復帰困難となる可能性が示唆され、術後早期における自宅復帰可否の判断に有用と考えられた。</p><p>【まとめ】</p><p>医療従事者である我々にとって、術後早期から転帰先の予測を可能にし、円滑な退院調整を行う事は重要である。今回の結果のみを用いて早期の転帰先の予測は不十分であると考えるが、今回の結果を一助とし、今後は症例数を増やし家族の介護力や術前後の栄養状態、疼痛などの因子の検討を行うことで、より精度の高い転帰先の予測を可能にするものと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究の計画立案に際し、事前に所属施設の倫理審査委員会の承認を得た。また実施に際し、調査対象者には書面による十分な説明を行い、同意を得て行った。</p>
著者
野原 慎二 阪本 留美 山下 陽子 小西 友誠 筒井 宏益 内賀嶋 英明 絹脇 悦生
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.95, 2004

【目的】<br> 回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)の目的として、いわゆる活動性の向上がある。しかしながら活動性の向上に伴い転倒リスクは上昇する傾向にあり、当院回復期リハ病棟においても、そのリスクマネジメントは重要な課題となった。そこで今回転倒・転落に対する具体的な取り組みを行い、若干の知見を得たので報告する。<br>【方法】<br> 平成15年12月に回復期リハ病棟において転倒・転落対策チーム(以下、対策チーム)を発足し、現在対策として行っている離床センサー・衝撃吸収パンツの使用に加え、以下の取り組みを行った。1)転倒・転落予防新聞、2)転倒・転落啓発ポスター、3)転倒・転落予防パンフレット、4)転倒・転落に関する勉強会の開催、5)ビジュアルボードの設置、6)終礼の開催。取り組み前後の比較検討は、平成15年8月から平成16年4月までの当院回復期リハ病棟の転倒率を用いて行った。統計処理はカイ2乗検定を用い危険率5%未満をもって有意とした。<br>【結果】<br> 転倒率において、取り組み前の平成15年8月は9.75%、9月14.28%、10月8.88%、11月8.69%、12月5.88%であったが、取り組み後の平成16年1月は4.25%、2月4.54%、3月4.65%、4月6.25%であり、取り組み前後の転倒率の低下において有意差は認められなかったが、低下傾向にある事は示唆された。<br>【考察】<br> 病院での転倒転落事故の発生要因として、1)患者側の要因、2)治療者側の要因、3)環境の要因に分けられる。そして実際の転倒・転落事故はこれらの要因が複雑に絡み合い発生する場合がほとんどである。当院回復期リハ病棟においても痴呆を有している患者の転倒・転落対策として離床センサー・衝撃吸収パンツを使用し一定の効果を得ていたが、今回の対策チーム発足にあたって転倒・転落事故状況を分析した結果、理解力が有り、移動・移乗動作が監視から自立レベルの患者においても転倒・転落事故の発生が多く認められ、その原因としては自分の移動・移乗動作能力への過信や介護者への遠慮等が認められた。その為、転倒・転落の危険性の認識を患者自身に促す目的において、予防新聞、啓発ポスター、予防パンフレットを作成した。転倒・転落予防新聞は、対策チームメンバーが持ち回りで作成し、月1回発行している。内容としては転倒・転落に関する話題を患者に分かりやすい言葉を用いて表現する事に気を付け、最終的な完成に至るには対策チーム以外の病棟スタッフの意見も取り入れていくようにしている。転倒・転落啓発ポスターは、トイレでの移乗が介助レベルであるにも関わらず、ナースコールを押さずに自分で移乗しようとして転倒した事例が多く、その対策の1つとして作成した。「ナースコールは座って押しましょう」と簡単に表記し、イラストも取り入れて、便器に座った際に患者がよく見える所に貼り、注意を喚起した。転倒・転落予防パンフレットは、入院生活で転倒・転落を起こしやすい主な原因を簡単な言葉とイラストを用いて説明したもので、対象者としては入院時の転倒・転落アセスメントスコアにおいて危険性が高いと判定された患者に対して配布している。運用手順としては、まず転倒・転落に関する自己チェックをしてもらい、患者とその家族の関心を転倒・転落へと向ける。その後転倒・転落予防パンフレットを配布し注意を促すとともに、先に行った自己チェック用紙は回収し、看護師はケアプランに活用するようにしている。これらの取り組みは当初患者側の要因に対して行ったものであったが、作成をしていく中で病棟スタッフの転倒・転落に関する発言がカンファレンス等で多く見られるようになり、相乗効果として病棟スタッフの転倒・転落に対する意識の向上があったように思われた。この病棟スタッフの意識を更に向上させる目的において、転倒・転落に関する勉強会を開催し、事例検討を行った。また、カンファレンスにおいて報告のあった転倒・転落の危険性の高い患者を病棟スタッフ全員が視覚的にも把握出来るようにビジュアルボードを設置し、報告者が随時変更していく事とした。転倒・転落の発生時間帯では夜間帯も多く、その原因としてスタッフの人数の問題もさる事ながら、夜勤スタッフは日中の患者の状態を詳細に把握する事が困難であり、特にリハスタッフとの情報交換が不充分であった事が考えられた。その為、主に夜勤スタッフに情報伝達を行うという目的で新たに終礼を開催し、病棟スケジュールの1つとして取り入れた。今回の調査において、取り組み前後の著名な転倒率の変化は認められなかった。しかし、先に述べたように、転倒・転落事故に対し積極的に取り組む過程において更なる問題意識をスタッフ全員で持てた事が、今回の最大の変化であると考える。
著者
下田 武良 川﨑 東太 鈴木 あかり 森田 正治 永井 良治 岡 真一郎 中原 雅美 池田 拓郎 髙野 吉朗 金子 秀雄 江口 雅彦 柗田 憲亮
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.132, 2016

<p>【目的】</p><p>本学では2010年より、クリニカル・クラークシップ(以下CCS)での臨床実習を関連施設で開始した。CCSとは従来の「患者担当型・レポート重視型」の指導形態から「見学・模倣・実施」の段階を経て、診療を経験する「診療参加型」の臨床実習である。実地の経験を積むことが臨床実習の役割であり、チェックリストを用いたCCSは経験値向上に有利であるとされている。そこで今回、CCSと従来型臨床実習の各検査測定項目における経験の有無について調査したので報告する。</p><p>【方法】</p><p>対象は、CCS方式である関連施設(急性期2施設、回復期1施設)で臨床実習を終了した37名、従来型方式である外部施設で臨床実習を終了した44名の学生とした。なお、各施設における学生間の学業成績に差はなかった。外部施設の選定基準は、主な対象疾患が中枢神経領域および運動器領域であり、施設区分が急性期もしくは回復期の病院とした。調査期間は2013年10月から2014年8月とし、各期8週間の臨床実習終了後にアンケート方式で調査した。アンケート内容は、臨床実習で検査・測定を行った疾患領域別の人数、および本学が使用しているCCSチェックリストの検査測定技術項目(40項目)の経験の有無とした。アンケート集計結果よりCCS群、従来型臨床実習群の一人当たりの疾患領域別経験人数、各検査測定項目の経験率を比較した。</p><p>【結果】</p><p>一人当たりの疾患領域別の経験人数では、CCS群が中枢神経領域6.5±5.2人、運動器領域7.2±5.4人、呼吸・循環器領域2.0±4.2人、その他0.7±1.6人、合計16.4±12.1人であった。従来型臨床実習群が中枢神経領域2.4±2.5人、運動器領域3.9±6.7人、呼吸・循環器領域1.7±4.6人、その他0.2±0.8人、合計8.2±11.5人であった。各検査測定項目の経験率では、CCS群が平均92.7±10.9%で、上腕周径、MMT(肩甲帯・手関節)を除く全ての項目が80%以上であった。従来型臨床実習群が平均81.6±17.4%で、上肢全般、頸部・体幹のMMT、ROM-t項目ならびに片麻痺機能検査において経験率が80%以下の結果となった。</p><p>【考察】</p><p>今回の調査では、中枢神経領域、運動器領域の検査測定を実施した経験人数に、大きな差がみられた。患者担当型である従来型臨床実習群に対し、診療参加型であるCCS群では、多くの疾患に対し検査測定の実施が可能となる。これらの結果から、各検査測定項目の経験率においても、上肢全般、頸部・体幹のMMT、ROM-t項目や片麻痺機能検査に差がみられたと考えられる。また、チェックリストを用いることで、指導者や学生に経験することの意識が働き、広い範囲で検査測定項目の実施に反映されたと考えられる。</p><p>【まとめ】</p><p>CCSは同じ測定項目であっても複数の患者に対して繰り返し経験でき、技術項目修得の向上が期待される。経験豊富なセラピストが理学療法をスムーズに進められるのも経験値の高さによるものであり、学生も経験を積み重ねることで臨床的感性の向上を期待したい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者には事前に紙面および口頭にて研究内容を説明し、同意を得たうえで実施した。</p>