著者
永野 健太 飯田 仁志 大串 祐馬 鎗光 志保 武藤 由也 矢野 里佳 川嵜 弘詔
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3_4, pp.112-117, 2018-12-15 (Released:2020-03-26)
参考文献数
15

日本では2018年度から性同一性障害に対する性別適合手術の保険適用が認められた。また,疾患名も性同一性障害から性別違和(DSM‐5),性別不合(ICD‐11)に改名された。世間ではLGBTという言葉が広まっており,学校や企業もセクシャルマイノリティへの対応を進めている。さらに2020年の東京オリンピックに向けて,セクシャルマイノリティへの理解は加速していると言えるだろう。しかし,我が国において,医療者の中で性同一性障害や性の多様性についての知識はそれほど広まってはいないのが現状である。日本には性別違和を治療する医療施設が少なく,現在も性別違和のある患者は遠方のジェンダークリニックを訪れている。本稿では現時点での最新の知識をまとめることによって,性同一性障害および性の多様性について基本的なレビューを行いたい。
著者
小原 知之 清原 裕 神庭 重信
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.83-91, 2014-08-15 (Released:2016-01-05)
参考文献数
9

福岡県久山町では,1985年より精度の高い認知症の疫学調査が進行中である。1985年から2012年までに65歳以上の高齢住民を対象に行った時代の異なる認知症の有病率調査の成績を比較すると,血管性認知症(VaD)の有病率に明らかな時代的変化はなかったが,認知症,特にアルツハイマー病(AD)の有病率は人口の高齢化を超えて大幅に増加した。危険因子の検討では,中年期および老年期の高血圧はVaD発症の有意な危険因子であり,中年期に高血圧であった群は老年期の血圧レベルにかかわらずVaDの発症リスクが有意に高かった。一方,糖尿病は主にAD発症の有意な危険因子であり,ADおよびVaDの発症リスクは負荷後2時間血糖値の上昇にともない有意に上昇した。防御因子の検討では,定期的な運動および野菜が豊富な和食に牛乳・乳製品を加える食事パターンとADおよびVaD発症の間に有意な負の関連が認められた。
著者
大江 美佐里 内村 直尚
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.92-96, 2014-08-15 (Released:2016-01-05)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

心的外傷後ストレス障害(PTSD)で生じる悪夢に対する非薬物療法のうち,イメージを利用した治療法として代表的なものに,Imagery Rehearsal Therapy, Imagery Rescripting, Exposure, Relaxation, and Rescripting Therapyがある。近年のメタ解析では,悪夢の頻度,睡眠の質,PTSD症状の3項目において改善が認められた。本邦での日常臨床にこの治療法を組み入れるための工夫について論じ,筆者がこの治療法を利用するために作成した心理教育用の冊子について説明を加えた。PTSDの悪夢に対する,イメージを利用した治療は海外で一定の効果が示されており,今後更なる実践により本邦での効果検証がなされることを期待する。
著者
衞藤 暢明 川嵜 弘詔
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.75-82, 2017-08-15 (Released:2020-03-26)
参考文献数
22

統計上10歳代の自殺は,昭和30年以降減少している。また他の年代に比べて数が圧倒的に少なく,自殺率も非常に低い。しかし,各国の状況と比較すると,15歳以上で自殺の割合は多い。 思春期では自殺念慮は高い頻度で認めるが,自殺行動に至ることは少ない。自殺未遂後の既遂の割合は他の年代と同様に高い。そして自傷は将来の自殺に至る可能性を高める。メディアの影響で生じる群発自殺やインターネットに関連した思春期の自殺もある。 思春期では自殺自体が少ないため,自殺予防の方策を確立することは難しく,自殺既遂をアウトカムとした調査・研究もほとんどない。また,思春期では精神疾患の確定が困難であり,個人の心理的な成熟や社会の変化の影響を受けるために,治療はより複雑となる。しかし,思春期の自殺予防は社会的な要請であり,エビデンスを確立していく必要がある。
著者
船橋 英樹 武田 龍一郎 松尾 寿栄 塩入 重正 荒木 竜二 尾薗 和彦 谷口 浩 三山 吉夫 石田 康
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.14-21, 2012-04-15 (Released:2013-03-29)
参考文献数
23

慢性期の脳梗塞を有する入院患者4症例において,シロスタゾール100mg/日の投与を行った。いずれの症例も誤嚥性肺炎の頻度は減少し,有害事象は認めなかった。誤嚥性肺炎の予防にはリハビリテーションなどに加えて,シロスタゾールの少量投与が有用であることが示唆された。
著者
王 百慧 黒木 俊秀
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.8-15, 2018-04-15 (Released:2020-03-26)
参考文献数
21

解離性体験は臨床場面のみで見られる病理的なものではなく,日常生活の中でも報告されている。本研究では,解離性体験と心理学特性との関連を明らかにするために,大学生205名に対して,解離性体験尺度(DES),悩み体験尺度,情動制御尺度を実施し,相互の関連性を調べた。DES得点を元に4群に分け,分析を行った。その結果,解離性体験が高い人は悩みとの距離が取りにくく,情動制御が苦手,公的自己意識が高いことが示された。これらには主体性の低さが関与している可能性が考えられる。以上の結果から日常解離性体験を多く経験する心理的背景に主体性や制御力の低さ,及び対人不安を感じやすい傾向が関連していると示唆された。
著者
三高 裕 島袋 盛洋 松隈 憲吾 髙木 俊輔 外間 宏人 三原 一雄 近藤 毅
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.83-87, 2017-08-15 (Released:2020-03-26)
参考文献数
8

CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)とは皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性遺伝性脳動脈症であり,随伴症状として,抑うつなどの精神症状を来たすことも多い。そのため,精神科受診当初はうつ病や双極性障害などの疾患と誤って診断される可能性も高いため,片頭痛や脳卒中の家族歴など,精神症状以外にCADASILを疑わせる症状や病歴があれば,速やかに頭部MRIを撮影すべきである。その結果,多発性脳梗塞や白質脳症を認めれば,CADASILを積極的に疑い,Notch3変異に関する遺伝子解析や,皮膚/筋生検を行って確定診断に繋げることが望ましい。
著者
平河 則明 平野 羊嗣 鬼塚 俊明
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.55-62, 2018-08-15 (Released:2020-03-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1

近年の神経生理学的検査の技術進歩に伴い,精神疾患においても新たな知見が次々と報告されている。本稿では主に,脳波や脳磁図を用いた統合失調症の神経生理学的な知見について概観した。例えば,統合失調症者では,感覚フィルタリング機能を反映しているとされる聴覚P50の抑制機構の障害や,前注意過程の指標とされる聴覚ミスマッチ陰性電位の振幅低下が報告されている。さらに,最新の研究では,統合失調症における高周波ガンマ帯域の神経同期活動の障害が多く報告されており,これは統合失調症の脳内における興奮性ニューロンと抑制性介在ニューロンの相互バランスの破綻を反映していると考えられている。精神現象を神経生理学的にとらえようとするこの試みは“神経現象学”という新たな分野にも通じる。最後に,これらの知見をもとに,今後の統合失調症研究の展望について考えてみたいと思う。
著者
河野 健太郎 石井 啓義 寺尾 岳
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.74-80, 2019-08-15 (Released:2020-10-05)
参考文献数
40

19世紀,気質の概念は Kraepelin ら精神科医から提唱されていた。Kraepelin の概念を継承し,Akiskalは双極性障害と単極性うつ病が連続性を持ち,それらを包含する概念として「双極スペクトラム」を提唱した。また,双極スペクトラムに関連するTemperament Evaluation of Memphis, Pisa, Paris and San Diego-autoquestionnaire version(TEMPS-A)で同定された抑うつ,循環,発揚,焦燥,不安の5つの感情気質を示した。本稿ではTEMPS-Aの気質中心に関連する,様々な研究を紹介する。TEMPS-Aの気質とTemperament and Character Inventory(TCI)の気質の関連についての研究,気質と光の関係についての研究,fMRIやPETを用いた気質に関連する脳機能画像研究,最後に薬物反応性や自殺などふくめ,臨床への応用が期待される研究について提示したい。
著者
溝上 義則 寺尾 岳 山下 瞳 河野 寿恵 田中 悦弘
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.77-82, 2013-08-15 (Released:2014-12-26)
参考文献数
16

軽躁状態を呈する中年男性の統合失調症患者に対し,薬物療法や通常の精神療法と並行して,絵画療法を行った。描画の定量的指標として,描画時間,描画面積,毎分描画面積を測定し,精神状態との関連を検討した。精神状態については,Clinical Global Impression-Severityにてカルテ記載をもとに後方視的に評価した。その結果,軽躁状態の改善とともに,作品の描画時間が有意に減少した。絵画療法の時間を測定することで,患者の全体的な理解に役立つ可能性が示唆された。
著者
上村 佳代 入江 香 小山 徹平 春日井 基文 中村 雅之 赤崎 安昭
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.101-110, 2021

<p>バウムテスト(樹木画テスト)とは投映法に分類される人格検査の一種である。本研究では,刑事精神鑑定において行われたバウムテストの結果の特徴について分析を行なった。殺人(未遂)被疑事件16例と放火(未遂)被疑事件14例の計30例において,バウムの各種サイン(筆圧,位置,枝先,樹冠の豊かさ,樹冠輪郭線の有無)について性別,知的水準,診断名,被疑事件内容の観点から検討を行なった。その結果,男性の方が女性より有意に筆圧が強かった。知的に健常な群は知的障害群と比べて有意に左寄りの位置に描く傾向があった。これらの結果から刑事精神鑑定において,女性は男性ほど自己主張や攻撃性を表現せず,知的に保たれている事例では未来志向にならないことが示唆された。被疑事件内容別に比べると,放火群は樹冠輪郭線が殺人群よりも少なく,放火事例は殺人事例と比べると外界の刺激に敏感な可能性が示唆された。また,殺人既遂群は左寄り,殺人未遂群は右寄りの位置に描く傾向があり,殺人既遂事例は過去を志向する傾向がある一方,殺人未遂事例は未来を志向する傾向が示唆された。</p>
著者
宇田川 充隆 石田 康
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.61-71, 2016
被引用文献数
2

<p> 認知症患者の一部が引き起こした重大事故が社会問題となり,警察も医療者も対応を迫られることが増えてきた。中等度以上の認知症の運転者が高い事故リスクを伴うが故に運転適性を欠くことについては一定のコンセンサスが得られているが,軽度認知障害~軽度認知症では一様に危険走行するとはいえず,詳細な運転評価が必要となる。これまで様々な研究が行われてきたが,認知症の人の運転能力や交通事故発生の予測について充分な妥当性と信頼性をもった評価方法があるとは言えない。その中で医師は,認知症運転者の任意での通報と,免許取り消しに影響を与える診断書を作成する社会的責務が課せられ,2017年3月12日に施行される改定道路交通法の一部では,約20倍に増えると予測される臨時適性検査を命じられた認知症高齢者に対応していかなくてはならない。自動車運転免許制度の規制強化の方向性は,認知症患者を含む高齢者の生活の質の確保という観点からは,住み慣れた地域での生活を支援する立場には逆行する可能性があり,早急に医療,自治体,警察等諸機関が相互に協力して対策を講じる必要がある。</p>
著者
倉重 真明
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.96-103, 2015-08-15 (Released:2017-07-11)
参考文献数
5

平成27年3月9日,兵庫県淡路島で,精神障害者による殺人事件が起きた。病状不安定なため家族は心配し,警察や保健所などの関係機関に,何度も相談していた。過去にも,同様なケースは多く見られる。悲惨な事件を繰り返さない為には,「事件がなぜ起きて,なぜ防げなかったのか」を振り返り,対策を練る必要がある。何よりも,事件を未然に防ぐことが大切である。筆者は,26年間の往診の経験から,関係機関と連携した精神科医による往診が,有効な解決策の一つであると考えた。当事者と家族の困難時に寄り添い,不安を軽減し,状況に応じて判断を下すのは,現行法上,精神科医にしかできない仕事である。危機介入しても,すべての事件を防げるわけではないが,数は減らせるはずである。そのためには,無理のないシステムを作り,実践することこそ重要であろう。そこで,筆者のクリニックにおける往診の取り組みを報告すると共に,手上げ方式による,精神科往診輪番事業を提案した。
著者
吉村 正
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.324-328, 1966-08