著者
藤澤 史子 灘本 知憲 伏木 亨
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.3-9, 2005-02-01
参考文献数
25
被引用文献数
5 17

漢方で身体を温める効果があるといわれているショウガについて, ヒトを対象としてショウガ摂取後の体表温を中心とし, 生理機能に及ぼす影響を検討した。その結果, ショウガ水摂取後は対照の水摂取後と比較して, 額の体表温が有意に上昇した (<i>p</i><0.05)。ショウガ添加パン摂取後は対照のショウガ無添加パン摂取後と比較して, 額と手首の体表温が有意に上昇した (<i>p</i><0.05)。すなわちショウガはパンへ添加することにより温熱効果はより顕著になった。なお, 官能検査の結果からは, ショウガ添加パンはショウガ無添加パンと比較して, 香り, 味, 食感, 総合評価に有意な差はみられず, パンとして好ましい評価を得た。これらの結果から, ショウガは実用的食材としての可能性が大きいことが示唆された。
著者
荒牧 礼子 廣内 智子 佐藤 厚
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.107-111, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
9

野菜摂取量増加を目的とした栄養教育において, 喫食者に野菜摂取目標量, および自己の日常的な野菜摂取量を把握させることは重要である。喫食者が野菜と認識する食品素材が, 日本食品標準成分表において野菜として定義・分類されている食品素材とどの程度異なっているのかを調査し, その違いが日常的な野菜摂取量把握に及ぼす影響の検討を行った。成分表に収載されている主要野菜25品目, および非野菜15品目の計40品目を抽出し, 野菜, および非野菜かの認識を質問した。その結果, 平均正解率は, 野菜類93.6%, 非野菜類57.8%, 正解率の最も低かった食品は, じゃがいも14.9%, 次いで, やまいも18.9%, さつまいも24.2%であり, いも類を野菜と誤認識している者が非常に多いことが明らかとなった。また, 市販弁当78種類の副食に使用されていた食品素材の重量を秤量し, 分類した結果, 野菜実重量は47±26 g, 認識野菜重量は57±29 gと実重量に比較し21%高値を示した。
著者
鷲見 幸子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.51-61, 1970-01-20 (Released:2009-11-16)
参考文献数
13

963年より岐阜雑系, Donryu系, Fisher系, Wistar系のラットについての無菌強制哺乳実験を実施し, その実験回数は13回に及んだ。 その間飼料を改善し, A・B・Cの3飼料を作製し, これら飼料による強制哺育成功率, 発育, 妊娠率, 歯牙異常発生頻度, 腸捻転の頻度を検討した。 この業績は日本において無菌繁殖の基盤を確立することに寄与しえたものと考える。 業績の主要なる点を挙げれば次のようである。1) 蛋白含量の少ないA飼料の無菌強制人工哺乳の成功率は13. 1%であったが, 蛋白量の多いC飼料を使用し87. 5%という高い成功率に達せしめた。2) C飼料による無菌強制人工哺乳成功例の♀の無菌妊娠率を88%という高率に達せしめえた。3) 無菌強制人工哺乳成功例のうち, 岐阜雑系およびDonryu系に属するものの中に歯牙異常が出現した。 それ故にこの種の系統は無菌動物化に不適当であることを明確にした。4) 腸捻転症は無菌ラットに特異な所見であるが, C飼料によってその発現頻度を低減せしめ, 第2代以後代を重ねることによってその発現を皆無ならしめた。5) BおよびC飼料哺育動物の強制人工哺乳期間中に帝王切開摘出胎仔の生肝を投与する方法は無菌繁殖を成功させることに寄与しえたものと思う。 6) 無菌強制人工哺乳は, 切歯の萠出や開眼に影響を与えるものではないことを明らかにしえた。 但し, 無菌環境下における自主的な摂食および水飲は飼料により影響される傾向がみられた。
著者
寺口 進 小野 浄治 清沢 功 福渡 康夫 荒木 一晴 小此木 成夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.157-164, 1984
被引用文献数
7

ヒト由来のBifidobacterium 5菌種, すなわちB. in-fantis, B. breve, B. bifidum, B. longumおよびB. adolescentisを用い菌体内と菌体外のビタミン産生量を測定した<BR>1) 供試したBifidobacteriumのすべての菌株は菌体内にビタミンB<SUB>1</SUB>, B<SUB>2</SUB>, B<SUB>6</SUB>, B<SUB>12</SUB>, C, ニコチン酸, 葉酸およびビオチンを蓄積し, 菌体外にはビタミンB<SUB>6</SUB>, B<SUB>12</SUB>および葉酸を産生した。<BR>2) 菌種別ではB. longum, B. breveおよびB. in-fantisが比較的高いビタミン産生能を有していた。とくにB. longumはビタミンB<SUB>2</SUB>およびB<SUB>6</SUB>, B. breveはニコチン酸, B. infantisはビオチンにおいて高い産生能を示した。<BR>3) これらBifidobacteriumの産生するビタミン量は宿主としてのヒトのビタミン所要量と比較しても無視できない量であると考えられる。
著者
田中 啓二
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.221-228, 2011 (Released:2011-10-18)
参考文献数
25
被引用文献数
1

生体を構成する主要成分であり, 生命現象を支える機能素子であるタンパク質は, 細胞内で絶えずダイナミックに合成と分解を繰り返しており, ヒトでは, 毎日, 総タンパク質の約3%が数分から数カ月と千差万別の寿命をもってターンオーバー (新陳代謝) している。タンパク質分解は, 不良品分子の積極的な除去に関与しているほか, 良品分子であっても不要な (細胞活動に支障をきたす) 場合, あるいは必要とする栄養素 (アミノ酸やその分解による代謝エネルギー) の確保のために, 積極的に作動される。タンパク質分解研究は, 過去四半世紀の間に未曾有の発展を遂げてきたが, 現在なお拡大の一途を辿っており, 生命の謎を解くキープレイヤーとして現代生命科学の中枢の一翼を占めるに至っている。我々はタンパク質分解システムについて分子から個体レベルに至る包括的な研究を継続して進めてきた。その研究小史を振り返りながら, タンパク質分解 (リサイクルシステム) の重要性について概説したい。
著者
佐柳 秀明 原 洋 山内 一明 小倉 良平
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.341-346, 1978 (Released:2010-03-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

ミトコンドリア懸濁液に紫外線を照射すると, 過酸化脂質の増量や呼吸鎖の脱共役が観察されるが, これに抗酸化剤としてのグルタチオンがいかなる影響をあたえるかを検討した。1) 11.2×106erg/cmcm2量の紫外線照射をうけたミトコンドリアは電顕的に明らかに膨潤がみられ, KCl-Tris緩衝液中でも520nmの吸光度の低下をみた。しかし, グルタチオンを添加すると, 膨潤ミトコンドリアの収縮が観察された。2) 11.2×106erg/cmcm2の照射をうけたミトコンドリア懸濁液にグルタチオンを10-5mol加えて室温に10分間放置すると, 照射にもとづくRCR, ADP/Oの減少やstate 4の開放などが回復し, また, 過酸化脂質の減少がみられた。以上の紫外線照射によるモデル実験系より, 細胞内に普遍的に存在するグルタチオンが抗酸化作用を有することを, ミトコンドリアの形態的観察や生化学的検討から確認しえた。
著者
石見 百江 寺田 澄玲 砂原 緑 下岡 里英 嶋津 孝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.159-165, 2003-06-10
参考文献数
13
被引用文献数
6 9

高糖質食ならびに高脂肪食 (ラード食) にショウガ粉末あるいはショウガの有効成分であるジンゲロンおよびジンゲロール (ジンゲロンの還元型) を添加し, エネルギー消費に及ぼす影響を酸素消費量と呼吸商の面から検討した。添加前と比べた12時間の累積酸素消費量はショウガの2%添加によって高糖質食群で7%と有意に増加し, ラード食群でも増加傾向 (6%) を示した。その際, 呼吸商 (RQ) はショウガの添加によって高糖質食ならびにラード食群でともに有意に低下した。比較のために唐辛子を2%添加して調べたところ, ショウガ添加とほぼ同程度の酸素消費量の増加とRQの低下を認めた。ショウガの辛味成分であるジンゲロンの効果を調べると, 0.4%の添加によって, 高糖質食群では微増にすぎなかったが, ラード食群で著しく増加した。RQはジンゲロンの添加によって両食餌群ともに低下した。一方, 辛味のないジンゲロールを0.4%添加した場合には, 酸素消費量ならびにRQ値に有意な変化がみられなかった。しかし, ジンゲロンとジンゲロールを同時に添加すると, 酸素消費量は高糖質食群で34%, ラード食群で28%と有意に増加し, 両成分の相乗効果が観察された。RQも有意な低下をみた。以上の実験結果から, ショウガあるいはその辛味成分であるジンゲロンは酸素消費量を増加させ, かつ体内の脂肪の燃焼を盛んにすることによってエネルギーの消費を促進する作用を持つことが明らかになった。
著者
吉村 寿人 山岡 誠一 平松 戊辰 森島 正彦 蜂須賀 弘久 吉岡 利治 池田 嘉代 立石 睦子 田中 典子 斎藤 晋哉 服部 加代子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.230-236, 1961-09-30 (Released:2010-11-29)
参考文献数
14

In order to study the preventive and therapeutic effect of the amino acids administration for the sports-anemia caused by excessive sports trainings, the exercising albino-rats and sports-players in training were administered with amino-acids, and its effect on their blood composition was examined.The results obtained were as follows:When the albino-rats were forced to keep running for 14 days the“sports-anemia” appeared; progress of this anemia could be inhibited by the administration of threonine or its ferrous salt.Sports-players taking hard training can be prevented or recovered from the anemia by the long-period administration of composite amino-acids or threonine ferrous salt.
著者
石見 百江 寺田 澄玲 砂原 緑 下岡 里英 嶋津 孝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.159-165, 2003-06-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
13
被引用文献数
7 9

高糖質食ならびに高脂肪食 (ラード食) にショウガ粉末あるいはショウガの有効成分であるジンゲロンおよびジンゲロール (ジンゲロンの還元型) を添加し, エネルギー消費に及ぼす影響を酸素消費量と呼吸商の面から検討した。添加前と比べた12時間の累積酸素消費量はショウガの2%添加によって高糖質食群で7%と有意に増加し, ラード食群でも増加傾向 (6%) を示した。その際, 呼吸商 (RQ) はショウガの添加によって高糖質食ならびにラード食群でともに有意に低下した。比較のために唐辛子を2%添加して調べたところ, ショウガ添加とほぼ同程度の酸素消費量の増加とRQの低下を認めた。ショウガの辛味成分であるジンゲロンの効果を調べると, 0.4%の添加によって, 高糖質食群では微増にすぎなかったが, ラード食群で著しく増加した。RQはジンゲロンの添加によって両食餌群ともに低下した。一方, 辛味のないジンゲロールを0.4%添加した場合には, 酸素消費量ならびにRQ値に有意な変化がみられなかった。しかし, ジンゲロンとジンゲロールを同時に添加すると, 酸素消費量は高糖質食群で34%, ラード食群で28%と有意に増加し, 両成分の相乗効果が観察された。RQも有意な低下をみた。以上の実験結果から, ショウガあるいはその辛味成分であるジンゲロンは酸素消費量を増加させ, かつ体内の脂肪の燃焼を盛んにすることによってエネルギーの消費を促進する作用を持つことが明らかになった。
著者
藤澤 史子 灘本 知憲 伏木 亨
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.3-9, 2005-02-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
14 17 1

漢方で身体を温める効果があるといわれているショウガについて, ヒトを対象としてショウガ摂取後の体表温を中心とし, 生理機能に及ぼす影響を検討した。その結果, ショウガ水摂取後は対照の水摂取後と比較して, 額の体表温が有意に上昇した (p<0.05)。ショウガ添加パン摂取後は対照のショウガ無添加パン摂取後と比較して, 額と手首の体表温が有意に上昇した (p<0.05)。すなわちショウガはパンへ添加することにより温熱効果はより顕著になった。なお, 官能検査の結果からは, ショウガ添加パンはショウガ無添加パンと比較して, 香り, 味, 食感, 総合評価に有意な差はみられず, パンとして好ましい評価を得た。これらの結果から, ショウガは実用的食材としての可能性が大きいことが示唆された。
著者
野口 律奈 平岡 真実 陣内 瑤 北原 裕美 渡部 芳徳 香川 靖雄
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.229-238, 2011 (Released:2011-10-18)
参考文献数
40
被引用文献数
1 2

日本人健常者を対象とした観察研究において, 男性の血清葉酸濃度, および葉酸摂取量が鬱スコアと逆相関することが報告されている。しかし, 日本人鬱病患者を対象に葉酸栄養状態を調べた研究はない。そこで本研究では, 精神科通院中の日本人患者103名の血清葉酸・ホモシステイン・VB12濃度, 葉酸・VB2・VB6・VB12摂取量, メチレンテトラヒドラ葉酸還元酵素 (MTHFR) 遺伝子多型を調べ, 鬱病症状との関連を検討した。結果, 男性患者の血清葉酸濃度, および葉酸・VB2・VB6の摂取量が鬱病精神症状と有意な逆相関を示した。女性ではこうした関連はなかった。血清葉酸濃度は男性より女性の方が有意に高く, 葉酸・VB2・VB6摂取量も女性の方が有意に多かった。一方, 精神疾患のリスクとされるMTHFR遺伝子TT多型の出現頻度は, 日本人の一般的な出現頻度と有意な差は見られなかった。本研究の結果から, 精神疾患男性患者の葉酸栄養状態は, その精神症状と逆相関することが示唆された。
著者
山本 良郎 土屋 文安
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.431-439, 1976-01-15 (Released:2009-11-16)
参考文献数
36

油脂の脂肪酸配列とCa含量の違いが油脂および脂肪酸, Ca, Mgの消化吸収性に及ぼす影響を知るために, 油脂としてパーム分別油, 牛脂分別油, 豚脂分別油を選び, Ca含量として3水準 (飼料中での目標含量450mg%, 270mg%, 100mg%) をとり, 離乳直後の白ネズミによる消化吸収実験を行ない, あわせて糞便中の脂質につき検索した。油脂の消化吸収率に及ぼす効果は油脂の種類よりCa水準のほうがはるかに大であり, Ca含量の高いほど消化吸収率は低下した。3油脂のなかでは豚脂分別油の消化吸収率が最も優れ, 豚脂分別油の優秀性はCa含量の高いときにとくに顕著であった。パルミチン酸 (C16) の消化吸収率は, C16含量に大差のない油脂では, C16のグリセリンの2位への結合比の高い油脂において高く, この差はCa含量の高い群において大であった。C16含量に大差のある油脂間では, この関係はなかった。ステアリン酸 (C16) の消化吸収率はC16の2位結合比の高い油脂で高い傾向にあったが, むしろ消化過程で遊離してくるC16の量の影響が大きかった。糞便中に排泄されるけん化脂肪酸, 遊離脂肪酸量はCa水準の低下により減少するが, 減少の度合いはけん化脂肪酸のほうが顕著であった。また両者の脂肪酸組成も異なり, けん化脂肪酸のほうが明らかに飽和脂肪酸が多いが, 脂肪酸組成はCa水準によっても変化し, Ca含量が低下するとけん化脂肪酸中のオレイン酸含量が上昇した。グリセリドとして排泄される脂肪酸の割合はCa量の少ない飼料群で高く, また豚脂分別油群で高かった。Caの吸収量はCa含量の上昇とともに上昇したが, 消化吸収率は低下した。油脂については豚脂分別油群でCaの消化吸収率が高かったが, Ca水準と油脂の種類の効果を比べれば, 前者の効果のほうがはるかに大であった。Mgの消化吸収率は, Ca含量が多くなると低下した。糞便中に排泄されたけん化脂肪酸, 遊離脂肪酸総量と排泄Ca量との間には強い正の相関があった。
著者
伏木 亨
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.61-68, 2010 (Released:2010-06-02)
参考文献数
52

エネルギーの過剰摂取や運動不足による肥満は種々の生活習慣病増加の原因となっている。高カロリー食の摂取欲求やエネルギーを消耗する運動の忌避はともに動物としての本能に根ざしたものであり, 動物行動科学的な視点なくして改善は容易ではない。現代人の過剰なエネルギー摂取を改善するための食嗜好の制御と無理のないエネルギー消費促進を目的として, 基礎となる次の三つの問題をおもに実験動物を用いて解析した。 (1) 油脂をはじめとする高嗜好性食品のおいしさのメカニズム: 油脂の口腔内受容機構を明らかにし, 味細胞表面に受容体候補タンパク質を見出した。一方, 動物行動学実験によって油脂の摂取がマウスに報酬効果をもたらすことを明らかにし, 高嗜好性食品への執着のメカニズムを示した。 (2) 運動によるエネルギー代謝変化の解析: 長時間の水泳運動を課したラットの脳脊髄液中に, マウスの自発行動を抑制する物質が増加することを見出し, 活性型TGF-βであることを明らかにした。脳内TGF-βは血中の乳酸濃度の上昇などに伴って増加し, 体温上昇や末梢の脂肪酸化を促進する作用をも有していた。疲労の指標となることが期待できる。 (3) エネルギー消費促進としての食品成分による自律神経の制御: 香辛料を中心として, 人間の自律神経活度を高める成分の探索とメカニズム解析を行った。京都大学の矢澤が発見した無辛味トウガラシから抽出した新規カプサイシン様物質に, エネルギー消費を促進する作用があることを見出し, 自律神経を介してマウスやヒトの体脂肪蓄積抑制効果があることを明らかにした。
著者
森滝 望 井上 和生 山崎 英恵
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.133-139, 2018
被引用文献数
4

<p>日本食の風味を支える出汁は, 心身への健康機能を有することが最近の研究により明らかにされてきているが, いずれの報告も長期摂取による効果に着目しており, 短期的な影響については知見が乏しい。本研究では, 出汁の単回摂取による効果を明らかにすることを目的とし, 鰹と昆布の合わせ出汁の摂取および香気の吸入が自律神経活動および精神的疲労に及ぼす影響について検討を行った。24名の健康で非喫煙のボランティアが本研究に参加した。被験者は, 9: 00に指定の朝食を摂取し, 10: 30—11: 30に実験を実施した。自律神経活動は心拍変動解析により評価し, 疲労の評価では, 一定の疲労負荷として単純な計算タスク (内田クレペリンテスト) を30分間課し, その前後でフリッカー試験を実施した。加えて, Visual Analogue Scale (VAS) を用い, 主観的な疲労度および試料に対する嗜好度を評価した。出汁の単回摂取では, 対照の水と比べて, 心拍数低下と副交感神経活動の一過性上昇が認められた。また, 出汁の香気吸入でも同様の効果がみられた。さらに, 出汁の単回摂取により, 計算タスク後のフリッカー値低下が抑制され, VASの結果より主観的な疲労度も軽減されていることが示された。これらの結果から, 出汁の摂取は副交感神経活動を上昇させる作用を介して, リラックスと抗疲労の効果を誘起する可能性が示唆され, その作用における香気成分の重要性が示された。</p>
著者
松村 成暢
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.231-235, 2018

<p>油脂を多く含む食品は魅力的なおいしさ (嗜好性) を持つ。我々はこれまでの研究により脂肪酸結合タンパク質CD36が舌の味細胞に発現していることを見出し, 油脂が受容体を介して味細胞を刺激することを示してきた。本研究ではGタンパク共役型の脂肪酸受容体GPR120が舌の味細胞に発現していることを新たに発見した。次に油脂の嗜好性の脳内メカニズムについて検討を行った。嗜好性の高い食品の摂取は脳内で<i>β</i>エンドルフィン分泌を促進することが知られている。そこで, マウスに油脂を摂取させ検討したところ, 脳内で<i>β</i>エンドルフィンニューロンが活性化されることが明らかとなった。<i>β</i>エンドルフィンは快感を生み出す神経ペプチドであることから, 油脂はCD36とGPR120を介して味細胞を刺激し, 味覚神経を介して脳内で<i>β</i>エンドルフィン分泌を引き起こす。これが快感を生み出し, 油脂の高い嗜好性の発生に関与する可能性を示した。</p>
著者
池上 幸江 土橋 文江 中村 カホル 印南 敏
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.447-454, 1991-12-19 (Released:2010-02-22)
参考文献数
26
被引用文献数
1 6

血糖値の変化に対する大麦の影響を明らかにするために正常動物と実験的糖尿病発症動物を用いて検討した。実験にはSprague Dawley系雄ラットを用い, 糖尿病動物はストレプトゾトシン (40mg/kg体重) を腹腔内投与して作成した。実験Iでは4週齢ラットに大麦食, 玄米食, 小麦ふすま食, α-コーンスターチ食を64日間摂取させた。その後すべてのラットを糖尿病とした。糖尿病を発症させた後のラットの体重は大麦食と玄米食のみ増加が見られたが大麦食では飼料摂取量はもっとも低かった。正常期ラットの飼料摂取後およびグルコース負荷後の血糖値は大麦食摂取ラットで低く, 糖尿病発症後でもグルコース負荷後の血糖値は大麦食での抑制が顕著であった。大麦食-糖尿病ラットでは腹腔内へのグルコース負荷でも血糖値の上昇が抑制されており, 体内における糖代謝の改善が認められた。さらに塘尿病発症後の空腹時血糖値は, 25日目には大麦食ではほぼ塘尿病発症前のレベルに回復し, 47日後の血清インスリンはα-コーンスターチ群より有意に高くなっていた。実験IIでは大麦とα-コーンスターチ食を摂取させて, 正常ラットと糖尿病ラットの間で比較した。糖尿病発症後33日目では大麦食ラットは, グルコース負荷後の血糖値の変化はα-コーンスターチ食-正常ラットよりむしろ低くなっていた。以上の結果より, 大麦は糖尿病患者の治療食として用いた場合に糖代謝の改善が期待されることが示唆された。
著者
中川 一郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.105-106, 1971 (Released:2009-11-16)
参考文献数
3

The correlation between body weight and basal metabolism of children is, except for middle school children, closer than the correlation of heat production with body surface. Therefore, the standards of metabolism based on body weight are considered simple and practicable for use in determination.
著者
山岡 一平
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.83-89, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
24

麻酔薬は体温の恒常性を破綻させ, 体温低下をもたらす。手術時の低体温は種々の合併症とも関連し, 予防策の一環にアミノ酸が混和された輸液製剤が投与される。ラットを用いた本研究では, 麻酔状態でアミノ酸液を持続静脈内投与した場合, 1) 覚醒下に比べて血中インスリン濃度と翻訳開始因子のリン酸化の度合いを著しく上昇させて骨格筋のタンパク質合成を刺激すること, 2) このインスリン高値が骨格筋タンパク質合成, エネルギー消費と腹腔内温度の連関上昇に寄与することを明らかにした。また, アミノ酸投与により筋原線維タンパク質の分解が亢進し, タンパク質代謝回転の向上が体温制御に深く関わることを傍証した。また, 体温保持には分枝鎖アミノ酸群が必要であり, なかでもイソロイシンは血糖調節やエネルギー代謝制御能を有することを示した。これとは別に, 食餌タンパク質が, 深部体温の概日変動の形成に深く関わり, 活動期と非活動期で独自の調節系により緩衝していることを見出した。これらの知見は重要な生命兆候である体温の制御の一端をアミノ酸が負うことを示したものである。