著者
須田 和代 森 由美子 調 広子 大池 正勝 山本 節
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.151-158, 1992-11-20 (Released:2009-10-29)
参考文献数
24

従来,心因性視力障害患者の視野には管状視野・螺旋状視野・求心性狭窄等の特有なものが検出されることがあるとの報告がされているが,視野とは視覚感度の分布であるという定義に基づくと,その視野には矛盾する点がみられる。我々は心因性視力障害疑いの患者に対しても,本来の概念に基づいて視野検査を行ってきた。その結果,他院から異常視野として紹介された症例も含め,全例正常視野を得,他の器質的疾患を否定する一助に充分なり得た。特有な視野が心因性に限るものではないことから,心因性視力障害疑いの患者に対しては,その心因的要素を取り除くよう配慮し,可能な限り正確に診断できる検査結果を得るべく努力すべきであると考える。
著者
半田 知也
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.45-52, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
18
被引用文献数
2

アナログ映像からデジタル映像への技術進展、3次元(3D)映画の公開などを背景に、家庭用3Dテレビ、ゲームの発売、複数の放送局が3D番組放送を開始するなど、3D映像は映像文化として定着の兆しを見せ始めている。現在主流である二眼式3D映像は、2台のカメラで簡単に立体空間を再現できる反面、不適切な空間映像を作りやすく、生体安全性について懸念されている。近年の3D映像は、3D映像制作ガイドラインの準拠、映像編集における技術革新、小児に対する視聴制限などにより生体安全性を最大限考慮されて製作されている。しかしながら、3D映像の生体安全性の担保には視聴者の3D映像への理解及び3D映像の適切な視聴法が重要となる。両眼視機能の専門家である視能訓練士は、3D映像を含む映像技術に対する理解を深め、その効果と注意点を客観的に評価し、社会に啓発する必要がある。現在、3D映像は映像メディアとしてだけではなく、教育・医療応用が注目されている。特に3D映像技術そのものを応用できる眼科検査応用への展望が開けてきた。 本稿では3D映像の現状について概説し、視能訓練士の立場から3D映像の視機能への影響及び、3D映像技術の視機能検査・訓練応用について述べる。
著者
田中 絵理 小林 義治 小島 美里 大野 恵梨 松岡 久美子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.157-163, 2015 (Released:2016-03-19)
参考文献数
18

【目的】光干渉断層計(optical coherence tomography以下OCT)を用いた上方視神経低形成(Superior segmental optic hypoplasia 以下 SSOH)の視野欠損部位に対応する網膜層構造の検討をすること。【対象と方法】SSOH4例6眼、正常10例20眼[それぞれ平均年齢20.3±1.2歳(平均値±標準偏差)、21.5±3.0歳、平均屈折(等価球面)-3.58±2.3D、-3.46±2.3D]を対象とした。spectral-domain OCTを用いて下方視野欠損部位に対応する上方網膜および上下対称である下方網膜を、中心窩を基点とし30度刻みで7.5mmのラインスキャンを施行した。検討項目は①SSOH群と正常群の神経線維層厚の比較、②SSOH群と正常群のその他網膜層厚(神経節細胞層+内網状層厚および内顆粒層~網膜色素上皮層厚)の比較とした。【結果】①SSOH群と正常群の神経線維層厚の比較では、上方においてSSOH群が正常群に対して有意に菲薄化していた。下方では有意差はみられなかったがSSOH群で薄い傾向にあった。②SSOH群の神経節細胞層+内網状層厚は正常群と比較し薄い傾向にあった。内顆粒層~網膜色素上皮層厚の比較では有意差はみられなかった。【結論】SSOH群の神経線維層の菲薄化は上方および下方に生じていた。神経線維層欠損部の外層の網膜厚に変化はみられなかった。また本測定法で強度近視に影響されず神経線維層欠損を確認することが可能であった。
著者
岡 真由美 星原 徳子 河原 正明
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.13-20, 2020 (Released:2021-02-06)
参考文献数
15

超高齢社会において、加齢性斜視であるsagging eye syndrome(以下SES)が注目されている。本研究では、SESの鑑別疾患としてあげられる眼球運動神経麻痺との相違を検討し、画像診断の前に視能訓練士が行うべき病態分析と視能評価について述べた。1.年齢区分別の斜視の種類 年齢区分が高くなるほど共同性斜視が減少し、非共同性斜視(眼球運動障害を伴う斜視とする)が増加した。非共同性斜視のうち、年齢区分が高くなるにつれて増加傾向にあったのは滑車神経麻痺、SES、Parkinson 病関連疾患であった。2.SESと眼球運動神経麻痺における複視の発症様式 SESは滑車神経麻痺および外転神経麻痺よりも発症から初診までの期間が長く、複視の発症日が不明確であった。3.SESと眼球運動神経麻痺の眼位・眼球運動 内斜視を伴うSES は外転神経麻痺よりも斜視角が小さく、わずかな上斜視および回旋偏位を伴っていた。上斜視を伴うSESは下転眼に外回旋がみられた。滑車神経麻痺では健眼固視のとき外回旋が上転眼にみられたが、麻痺眼固視のとき一定の傾向がなく、両者を回旋眼で評価することは困難であることがわった。 高齢者の斜視ではSESおよびその合併例が多い。SESと眼球運動神経麻痺との区別は困難であることから、病歴聴取と患者の観察、回旋偏位の検出が有用であり、むき運動検査と合わせて総合的に評価することが重要である。
著者
西脇 友紀 阿曽沼 早苗 小野 峰子 仲村 永江 田中 恵津子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.277-285, 2014 (Released:2015-03-19)
参考文献数
9

【目的】視能訓練士の拡大鏡選定状況に関するアンケート調査の結果を報告する。【対象及び方法】2013年5月、ロービジョン(LV)対応医療機関に勤務している視能訓練士(日本LV学会員)を対象に拡大鏡選定に関するアンケートを郵送で行った。【結果】86名の視能訓練士から回答を得た。回答者の82.6%は、月あたり平均拡大鏡選定数が3つ以下であった。拡大鏡選定時に必要拡大率の計算・算定をしている者は72.1%で、視力値から計算する方法が最も多く用いられていた。方法を学んだ場所・機会について視能訓練士養成校と回答した割合は低く、養成校修了後に習得したと思われる回答が多かった。その方法を用いている理由の多くは効率性や正確性などで、計算・算定方法により違いがみられた。計算・算定をしていない場合の理由は「患者に任せている」との回答が多かった。計算・算定していると回答した者はほぼ全員が拡大鏡使用法の指導もしていると回答していた。【結論】LV対応医療機関に勤務している視能訓練士の拡大鏡選定状況の概要がわかった。現状では全体的に拡大鏡の選定数は少なかったが、今後、LVケアの需要は高まり視能訓練士が拡大鏡選定に携わる機会が増えることが予想される。視能訓練士はLVケアの主たる担い手として、その中核となる拡大鏡選定を適切に行えるように技術を高める必要がある。
著者
山口 真美
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
Japanese orthoptic journal (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.1-8, 2010-12-29
参考文献数
31

その昔、生まれたばかりの新生児は眼が見えず、耳も聞こえないと信じられてきた。しかし数々の心理実験から、胎児の時から音を聞き、生まれた直後の新生児でも眼が見えることがわかっている。新生児のもつ、驚くべき能力の一つに、顔を見る能力がある。<BR> 1960年代Fantzにより、新生児が顔を選好することが発見された。言葉を喋ることのできない乳児の認識能力を調べるため、Fantzは行動を用いた実験手法である「選好注視法」を考案した。乳児は特定の図形に選好する傾向があることを示したその中で、顔図形への選好も発見されたのである。<BR> 視力の未発達な乳児は大人と全く同じように世界を見ているというわけではない。にもかかわらず、新生児でも顔を選好するということから、その特異な能力が検討されてきた。本講では、乳児を対象として行われた行動実験や、近年行われた近赤外線分光法(NIRS)を用いた実験の成果を紹介する。倒立顔の効果や顔向きの効果、運動情報による顔学習の促進効果や視線の錯視の認知といった、一連の実験成果について報告する。
著者
中村 桂子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.13-24, 2016 (Released:2017-02-28)
参考文献数
11

物が二重に見えるという訴えを持つ患者は臨床的によく遭遇する。麻痺性斜視や甲状腺眼症、急性内斜視、skew deviation、輻湊不全など原因はさまざまで検査、診断、治療方法に苦慮することも多い。症状の変化など経過を見ながら、患者の不自由さに早急に対応する必要があり、近年、対症療法としてプリズム療法の報告が多く見られる。今回、筆者が経験したプリズム処方の自験例を紹介しながら、疾患ごとの検査のポイントについて検討した。 プリズム療法が適応となる頻度は疾患によりかなり差がある。最も良い適応疾患は、むき眼位による偏位量の変化が少ないskew deviationであるが、それでも実際に処方率は46.2%に留まり、次いで外転神経麻痺33.3%、滑車神経麻痺32.7%の順であった。 また、プリズム処方例の中で装用を症状が改善して中止できた割合は、外転神経麻痺や滑車神経麻痺例において3ヵ月で約3~4割、6ヵ月で約5割程度であった。 甲状腺眼症のようにプリズム療法の適応になりにくい疾患でも、 Quality Of Vision (QOV)を向上させるために処方する場合もある。またプリズム療法で複視が解消できる疾患は限られているため、遮蔽法を選択せざるを得ない場合もある。その場合は、遮蔽膜での全面遮蔽や部分遮蔽、OCLUA®(オクルア®)のような遮蔽用のレンズも開発されており、これらを使用することで少しでも苦痛をやわらげる配慮が必要である。
著者
外山 恵里 関 ゆかり 高橋 里佳 梅原 郁美 若山 曉美 七部 史 阿部 考助 下村 嘉一
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.213-218, 2014 (Released:2015-03-19)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

【目的】アトロピン硫酸塩点眼薬(以下アトロピン)による屈折検査は弱視や斜視の治療に不可欠な検査であるが、副作用の発現が報告され注意が必要である。今回アトロピンによる副作用の発現率と症状について検討した。【対象及び方法】対象は2008年4月から2011年3月の3年間に屈折検査のためアトロピンを点眼した387例とした。初めて点眼した症例は387例中326例(84.2%)、2回目以上の症例は61例(15.8%)であった。点眼薬の濃度は3歳未満が0.5%、3歳以上は1%を基準とし、1日2回7日間行った。処方時に点眼による作用と副作用、点眼時の涙嚢部圧迫の必要性を説明した。副作用については発現率、発現時期、症状、濃度や年齢、他の疾患の合併の影響について検討した。【結果】初めて点眼した症例の副作用の発現は18例(5.5%)、このうち7例が点眼を中止した。症状は発熱が最も多く、点眼開始4日以内の発現が多かった。発熱や顔面紅潮は7月と8月の発現が他の期間より有意に高かった。副作用が発現した症例に他の疾患の合併はなかった。濃度別の副作用の発現は、0.5%は212例中12例(5.7%)、1%は114例中6例(5.3%)で有意な差はなかった(p>0.05)。年齢、性別による副作用の発現も有意な差はなかった(p>0.05)。2回目以上の症例の副作用の発現は61例中1例(1.6%)であった。【結論】アトロピンによる副作用の発現率は5.5%で、症状は発熱が多く、点眼薬の濃度、年齢、性別による影響はなかった。
著者
大北 陽一 木村 亜紀子 嶋田 祐子 三村 治
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.123-128, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

目的)弱視治療を2年以上行ったにもかかわらず、矯正視力1.0に達しなかった症例をまとめ、その特徴と原因につき検討する。対象と方法)2000年6月からの9年間に兵庫医科大学病院眼科で弱視と診断された初診時年齢9歳未満で、2年以上経過をおえた223例313眼(0~8.7歳)を対象とした。内訳は屈折異常弱視83例166眼、斜視弱視65例65眼、不同視弱視63例63眼、形態覚遮断弱視12例19眼であった。視力測定にはランドルト環字ひとつ視標を用いた。予後に影響を与える因子につき後ろ向きに検討した。結果)矯正視力1.0に達しなかった不良群は313眼中41眼(13.1%)であった。初診時年齢は視力予後と有意差を認めなかったが、初診時視力は不良群が平均0.21(1.0獲得群は平均0.42)と有意に悪かった(p<0.001)。41眼の内訳は屈折異常弱視4眼(2.4%)、斜視弱視12眼(18.5%)、不同視弱視12眼(19.0%)、形態覚遮断弱視13眼(68.4%)であった(括弧内はその群内比率)。屈折異常弱視4眼のうち2眼は等価球面度数-10.00D以上の強度近視であった。斜視弱視では不同視を合併した5例中4例が予後不良であった。不同視弱視の中で、遮閉訓練にかかわらず予後不良であった2例は5.50D以上の遠視性不同視であった。形態覚遮断弱視の先天眼瞼下垂では屈折異常の合併が予後に影響を与えていた。結論)初診時視力0.2以下、-10.00D以上の強度近視、不同視を合併した斜視弱視、5.50D以上の遠視性不同視、先天眼瞼下垂に屈折異常の合併が予後不良因子と考えられた。
著者
古川 真二郎 山本 美紗 戸島 慎二 寺田 佳子 原 和之
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.91-95, 2015 (Released:2016-03-19)
参考文献数
15

【目的】神経線維が障害された場合の動眼神経麻痺では通常眼筋麻痺は障害側と同側に生じる。今回我々は左中脳梗塞により右眼上直筋麻痺を呈し、動眼神経上直筋亜核単独障害が疑われた一例を経験したので報告する。【症例】72歳、男性。仕事中に上下複視を自覚し近医受診。精査加療目的で当院神経内科を紹介受診した。頭部MRIでは左中脳内側に高信号域を認めた。発症より4日後、眼球運動精査目的で当科初診。初診時所見、両眼とも矯正視力(1.2)。遠見眼位はAPCTで右眼固視:20⊿外斜視9⊿左上斜視、左眼固視:20⊿外斜視8⊿右下斜視であった。9方向むき眼位検査及びHess赤緑眼に上転制限を認めた。複像間距離は右上方視時で最大となった。左眼の眼球運動には異常を認めなかった。瞳孔は正円同大で対光反射も迅速であった。上直筋の支配神経は中脳で交叉している事より、動眼神経上直筋亜核の障害に伴う対側上直筋麻痺であると考えた。1か月後、上下偏位は消失した。眼球運動は正常範囲内であり、全てのむき眼位で複視は消失した。【結論】対側上直筋単独麻痺を呈した動眼神経亜核障害の一例を経験した。過去に報告の少ない非常に稀な症例であったと考えられた。
著者
若山 曉美 松本 長太 大牟禮 和代 松本 富美子 阿部 考助 田中 寛子 大鳥 利文 下村 嘉一
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.7-18, 2011 (Released:2012-02-22)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

両眼から得られた外界の視覚情報は、視覚野で統合され両眼の相互作用によって処理される。この働きについて検討することはヒトが両眼視下でどのように外界の視覚情報を処理しているかを知ることにつながる。本研究では両眼の相互作用である両眼加重に着目し、過去10年間に検討した正常成人における両眼加重の働き、さらに弱視や視野異常を伴う症例での両眼加重について述べる。 両眼加重の評価は、自動視野計Octopus 201、101、900の3種類の視野計を用い両眼刺激装置や両眼固視監視カメラを組み込むなど独自に開発して行った。また両眼からの視覚情報を収斂したことによる働きであるかは確率加重を超えているか検討した上で評価した。 両眼加重は、視標サイズ、網膜部位、認知課題による影響を受け、視標サイズは小さいほど、網膜部位では中心窩から偏心するほど、さらに認知課題では検出閾値よりも認知閾値で大きくなった。さらに閾上刺激を用いた反応時間についての検討では両眼の反応時間は単眼よりも短く、閾値で検討した両眼加重の結果と同様に視標サイズや網膜部位による影響を受けた。 以上の基礎的研究データから単眼で知覚困難な条件において両眼加重を働かせることによってより有効的に視覚情報を処理していると考える。さらに弱視や視野異常を伴う症例では明らかな両眼加重を認めず、正常成人とは異なる両眼での働きを示した。

1 0 0 0 OA 視覚性失認

著者
平山 和美
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.21-30, 2021 (Released:2022-02-22)
参考文献数
26

視覚性失認とは、視力、コントラスト感度、視野に対象が何か分からないような障害がなく、知能や注意、言語、対象についての知識の問題もないのに、対象を見たときにだけそれが何か分からなくなる症状である。視覚性失認は、障害される情報処理の段階の観点から、形がまったく分からない「知覚型」、部分的な形を全体の形と関係付けられない「統合型」、形は完全に分かっているがそれを意味と結びつけることができない「連合型」の3つに分類される。また、分からなくなる対象の種類により、物品を見ても何か分からない「物体失認」、顔を見ても誰か分からない「相貌失認」、風景を見ても何処か分からない「街並失認」の3つに分類される。これらの症状について、症例を挙げながら説明した。
著者
佐々木 由佳 仲村 永江 長澤 佳恵 宮田 律子 城戸 麻那 井上 睦 馬服 つかさ 田村 恵理 山田 晴彦
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.129-136, 2017 (Released:2018-03-17)
参考文献数
17

【目的】単眼の単焦点IOL挿入眼の4.0mから0.32mの各距離での裸眼視力を測定し、IOLの性能の違いから距離別視力に違いが生じるのかを検討した。【対象および方法】2012年10月から2016年8月に当院にて白内障手術を行った症例のうち、遠見裸眼視力0.7以上、屈折値S±1.00D未満、C-1.00D以下、瞳孔径3mm以下の75例97眼(平均年齢73.92歳)の距離別裸眼視力(logMAR)を後ろ向きに比較検討した。距離は、4.0mから0.32mまでの12段階とした。また遠近視力差を算出し、4種類のIOL間で比較した。Bonferroni/Dunn検定(p<0.05)の多重比較検定を用いて統計処理を行った。【結果】術後屈折平均値はS+0.06±0.34D、C-0.53±0.35D、瞳孔径平均は2.33±0.34mmであった。全てのIOLにおいて4.0mから0.8mは比較的良好な視力が得られ、近距離になるにつれ視力は不良となる傾向がみられた。また各IOL間で遠近視力差を比較したところ、有意差は見られなかった。各距離別にlogMAR値を比較すると、4.0mから1.0mの各群間に有意差はなかったが、4.0mから1.0mはいずれの群においても0.8mから0.32mの各群との組み合わせで有意差があった。また0.8mから0.32mのいずれの組み合わせにおいても有意差があった。【結論】遠見に焦点を合わせた単焦点IOLにおける裸眼視力は、4.0mから0.8mでは比較的良好であった。また今回用いた評価方法ではIOL間での差はなかった。
著者
James Maxwell Clifton Schor 長谷部 聡 :訳
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.59-66, 2009 (Released:2010-03-25)
被引用文献数
2

Phoria adptationについて書かれた文献をみると一般に、成長や疾病による眼球運動系の変化に対する代償システムとして位置づけられている。臨床家はしばしば複視や眼位異常を示す患者に遭遇するが、健常者のほとんどは、たとえ片眼を遮蔽しても眼位に狂いは見られない。正確な眼位がphoria adaptationのおかげである証拠は、長時間の片眼遮蔽実験から得られる。筆者らは、被験者(健常者)にversion、vergence、頭位の組み合わせに関連して各種の両眼視差を提示し、これに対するphoria adaptationを詳しく分析した。その結果、phoria adaptationの主な役割は、日常視において外眼筋の効果を分析し、管理することにあることがわかった。Heringの等神経支配の法則は、対象物の距離、方向、頭位に合わせて12本の外眼筋の張力のバランスを変化させるこの複雑なプロセスを、単純化した概念に過ぎない。また、眼球運動や頭部運動が、両眼の共同性を維持する上でさまざまな問題を招く事を指摘したい。眼位や頭位に関連する垂直または回旋方向のphoria adaptationに焦点をあてて、筆者らが実施した実験の概要を述べる。(訳者注:本稿におけるphoriaは、斜位heterophoriaではなく、片眼を遮蔽した時に見られる融像除去眼位fusion-free eye positionの意味。)
著者
本吉 勇
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1-5, 2022 (Released:2023-03-10)
参考文献数
19

私たちの多くは、目を開くだけで自分を取り囲む光景やその中にある様々のモノを即座に認識し、また多彩な形や質感に満ちた世界を体験する。この驚くべき認識能力は眼と脳の情報処理に支えられている。20世紀の視覚研究は、線画やCG立体といった人工的な視覚刺激を用いてその仕組みを追求し、脳は二次元の画像から三次元世界を復元して情景や物体を認識する、という理論を提唱してきた。しかし、この理論は複雑な現実世界の知覚を全く説明できない。森の小道、食卓の上の柔らかな花束……私たちがふだん体験しているリッチでリアルな「見える」世界は、脳のどのような情報処理により生み出されるのだろうか? 本稿では、最新の研究成果を通して、限られた処理能力しかもたない人間の脳が網膜像からどのように複雑な光景や物体を認識しているかを解説する。
著者
山下 牧子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.85-91, 2009 (Released:2010-03-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

中学生、高校生の眼鏡は、幼小児期と違い、通常、弱視に関する配慮は必要としないが、成人と違い成長期にあることから考慮する点も多い。そこで、中学・高校生の屈折度の変化の実態、検査の注意点を検討した。また眼鏡処方時のレンズの選択におけるアンケート調査を行ったのでその結果についても示す。1.中学・高校生の屈折度の変化 1983年に中学1年生であった計109名を対象に高校卒業まで6年間同一生徒で両眼開放のキャノン社製オートレフR-1™を用いて屈折状態を経過観察した。特に中学1年生で-4.00D以上のものは高校3年には-8.00Dになる可能性が高かった。2.検査について 塩酸シクロペントレート点眼後の中学生の遠視の頻度は18.4%であり、必要に応じて調節麻痺薬の点眼や雲霧法なども考慮しなければならない。3.眼鏡処方について 中学・高校生の眼鏡処方の実際について11施設11名の視能訓練士に屈折異常以外に眼疾患のない者への眼鏡装用練習に関してのアンケート調査を行った。その結果、はじめて眼鏡処方する視力の基準は、遠視では0.5から1.5までで傾向はみられず、近視、乱視は全例0.7以下であった。どのくらいの屈折度から眼鏡処方を考えるかは、遠視では45%が調節麻痺剤使用後+3.00Dで、近視では55%が-1.00D、乱視では1.00Dと1.50Dが36%であった。眼鏡処方時の矯正視力の基準は、遠視91%が1.0以上、近視は55%、乱視は64%が片眼0.7~0.8であった。このときはじめに選ぶレンズは、遠視は73%が完全矯正レンズ、近視は91%・乱視は73%が0.25D~0.50Dの低矯正レンズを選択すると答えた。 中学生・高校生の眼鏡は教育上ならびに日常生活を向上させる上で重要な矯正用具である。この時期の眼鏡処方には、屈折度の変化の特徴を知り、近視の進行の配慮とともに遠視の矯正にも考慮すべきでと考えた。
著者
佐々木 翔 林 孝雄 金子 博行 佐々木 梢 臼井 千惠
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.51-56, 2015 (Released:2016-03-19)
参考文献数
8

【目的】斜視手術中に測定が可能な新しい回旋偏位測定装置「Cyclophorometer」を開発し、麻痺性斜視に対して術中に回旋偏位を測定した。斜視手術中に回旋偏位の測定を行う意義、および術後の経過について検討したので報告する。【対象・方法】回旋複視を自覚する斜視患者7例(男性3例、女性4例、平均年齢57.6歳)を対象とした。斜視の内訳は片眼上斜筋麻痺3例、片眼上直筋麻痺1例、片眼動眼神経麻痺1例、球後麻酔後の眼球運動障害1例、原因不明1例であった。各症例に対し、斜視手術前、術中、術終了時、術後10日目、術後3か月目に本装置を用いた回旋偏位の測定を実施した。【結果】斜視手術前の眼位は全例が外方回旋(Ex8°~Ex18°)を示し、平均Ex10.9°±3.8°であった。手術は局所麻酔下で術中に残余回旋斜視角を確認しながら行い、7例中3例において術中の回旋偏位測定結果を元に術量を変更した。手術終了時の回旋偏位は平均Ex1.3°±2.0°で、手術後10日目の回旋偏位は平均Ex2.7°±2.4°、手術後3か月後では平均Ex3.1°±2.3°であった。手術前は全例で複視を認めたが、術直後と術後10日目では全例が消失し、術後3か月でも7例中6例が複視消失の状態を維持した。【結論】本装置を用いて斜視手術中に回旋偏位の測定を行うことで、その場で術式の変更や追加の判断をすることが容易となった。本装置の術中利用は、手術回数を最小限にとどめ、術後の良好な眼位を保つために有効であると思われた。
著者
野上 豪志 佐藤 司 伊藤 美沙絵 新井田 孝裕
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.217-223, 2017 (Released:2018-03-17)
参考文献数
13

【目的】コンタクトレンズによる角膜形状変化(Corneal warpage)は可逆的変化として知られており、屈折矯正手術前にはコンタクトレンズの装用を中止して角膜形状の安定に努めることが重要である。今回、ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用中止後のCorneal warpageの持続期間について検討したので報告する。【対象及び方法】角膜表面に影響を与えるような眼疾患(外傷, 浮腫, 他)や眼科手術歴がなく、屈折異常をSCLで矯正している24眼(平均年齢21±2歳)を対象とした。角膜形状の測定は前眼部形状解析装置(TMS-5®、TOMEY)を使用して、SCL装用中止直後、10分後、30分後、1時間後、3時間後、24時間後、2日後、3日後、7日後、10日後、14日後、21日後におこなった。【結果】平均角膜屈折力はSCL装用中止直後から3時間後まで増加傾向を認め(p < 0.01)、21日後には平均0.15D(0.01~0.50D)の急峻化が認められた。角膜乱視量、角膜全高次収差量、角膜厚は調査期間中に有意な変化が認められなかった。【結論】SCL装用眼ではSCL装用中止後3時間までCorneal warpageの持続が認められた。
著者
星原 徳子 岡 真由美 河原 正明
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.229-235, 2016 (Released:2017-02-28)
参考文献数
24

【目的】麻痺性斜視における融像の異常な状態(融像状態)別の視能訓練成績を分析し、家庭訓練を中心とした視能訓練方法を検討した。【対象および方法】対象は、視能訓練を施行した麻痺性斜視58例で、年齢は30~87歳であった。融像状態は、潜伏融像、部分融像、狭い融像野に分類した。視能訓練は、衝動性眼球運動訓練、輻湊訓練、fusion lock training、プリズム療法を行った。治癒度は4段階とし、治癒度Ⅰは融像野が30°以上とした。【結果】融像状態は、潜伏融像27例、部分融像27例、狭い融像野14例であった。治癒度Ⅰの獲得が高率であったのは部分融像21例(78%)と狭い融像野11例(79%)であった。潜伏融像は治癒度Ⅰの獲得が低率であった。治癒度Ⅰを獲得できた狭い融像野では、プリズム療法が高率であった。全ての融像野で衝動性眼球運動訓練の実施率が高く、狭い融像野と部分融像においては衝動性眼球運動訓練とfusion lock trainingの組み合わせが多かった。【結論】家庭訓練は、融像野が存在する場合にはプリズム装用下で衝動性眼球運動訓練とfusion lock trainingを組み合わせ、潜伏融像では衝動性眼球運動訓練が有用であった。