著者
西山 啓太 向井 孝夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.471-477, 2016-06-20 (Released:2017-06-20)
参考文献数
34

乳酸菌は,哺乳類の小腸から大腸に広く棲息するグラム陽性細菌である.乳酸菌を構成する最大の属であるLactobacillus属は,多岐にわたる有用効果が報告されており,近年では,民間伝承的な健康増進効果にとどまらず予防医学への応用も期待されている.一般に乳酸菌は積極的に摂取され宿主消化管で定着することが求められることから,複雑な腸内フローラを形成する消化管において,摂取された乳酸菌がどのようなプロセスを経て定着・共生することができるのか興味深い点である.本解説では,乳酸菌の生存戦略の一つである腸粘膜への付着に着目し,特にアドヘシン(付着因子)の細胞表層への提示機構とその役割について解説する.
著者
末永 光 宮崎 健太郎
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.100-106, 2010-02-01 (Released:2011-08-12)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

1970~80年代に様々な難分解性化合物を分解する微生物が発見されて以来,分解菌の分離と分解特性の評価が精力的になされてきた.1990年代に入ると,遺伝子の構造と機能の解析や新規化合物出現に対する微生物の適応・進化に関する機構解明,環境浄化への応用へと研究内容も多角化・深化してきた.今また,メタゲノム解析手法の登場により,個による分解から環境システムによる分解の理解へと,大きな転換期を迎えようとしている.
著者
芦田 久
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.901-908, 2016-11-20 (Released:2017-11-20)
参考文献数
50
被引用文献数
2

消化管上皮細胞から分泌されるムチンは,消化管における微生物の感染防御,あるいは共生に重要な働きをもつことが知られている.ムチンは,コアタンパク質にO結合型糖鎖が高密度に付加した高分子の粘性糖タンパク質である.難分解性であり,基本的には消化管上皮を保護する機能をもつ生体防御物質であるが,腸内の共生細菌に栄養分と棲息環境を提供する共生因子でもある.ムチンのヘテロ糖鎖を利用するためのビフィズス菌のユニークな代謝経路の解明を中心に,ヘテロ糖鎖がかかわる消化管内の微生物と宿主の相互作用について,最近の研究の進展を基に解説する.
著者
久木田 明子 菖蒲池 健夫 久木田 敏夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.488-497, 2012-07-01 (Released:2013-07-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1

破骨細胞は造血幹細胞に由来したマクロファージと近縁の細胞で,生体内で骨吸収を営む唯一の細胞である.近年の研究から,破骨細胞の分化に必須なサイトカインRANKLが発見され,RANKL受容体RANKの下流のFos, NF-κB, NFATc1などの転写因子が破骨細胞の分化で重要な役割をもつことが明らかにされてきた.一方,造血細胞の分化の様々な段階では,その分化決定に関わる転写因子が明らかとなっている.その中の一つOCZF/LRF/FBI-1(旧名Pokemon)は,B細胞や赤血球の分化制御に関わるが,破骨細胞で高い発現があり,破骨細胞分化の後期やアポトーシスの過程においても重要な働きをもつことがわかった.
著者
大坪 研一 中村 澄子 今村 太郎
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.388-397, 2002-02-01 (Released:2008-11-21)
参考文献数
22
被引用文献数
20 36

精米の袋に品種,産地,生産年を表示することが義務づけられたため,客観的方法によって表示の正否を確かめるための技術開発が必要とされている.そこで,農業試験場の基準品種を試料とし, PCR法による実験に供試した.有望なRAPDプライマーを用いて品種識別バンドを選定し,アガロースゲルから切り出したDNAを大腸菌に組み込んで増幅し,その塩基配列を決定した.その配列のRAPDプライマー部分から延長して15~29量体のフォワードプライマーおよびリバースプライマーを設計した.こうして作成したSTS化プライマーを組み合わせることにより,「コシヒカリ」を他の品種と識別するためのポジティブプライマーセットおよびネガティブプライマーセットを開発した.これらのセットを用いるPCRにより,全国の33産地の「コシヒカリ」では同一のDNAパターンが得られ,「コシヒカリ」と他の49品種との識別が可能であることが明らかとなった.このプライマーセットの開発により, 1粒の米試料による「コシヒカリ」の同定が可能であるばかりでなく,他品種米の混入も簡易かつ明瞭に検出することが可能となった.