著者
町田 文雄
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.311-317, 2011-06-01

クラウドの信頼性を解析的に評価するアプローチについて紹介する.マルコフ連鎖や確率ペトリネットなどの状態空間モデルを用いてクラウドの信頼性を解析する上では,クラウドのスケーラビリティと複雑性への対処が課題となる.スケーラビリティに対しては,大きなモデルを複数のサブモデルに分割して解析するモデル分解手法が注目される.クラウドの品質評価にモデル分解手法を用いた研究例を紹介する.また,複雑なシステムのモデルをいかに生成するかという課題に対し,筆者が取り組むSystems Modeling Language(SysML)を用いたコンポーネントベースモデリング手法の研究を紹介する.
著者
福西 義幸
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.281-283, 2006-05-01

野洲川の対岸を走るJR草津線の電車の音が水田地帯にこだまする滋賀県甲賀市水口町酒人地区.昭和の終わりから平成の初頭にかけ,ほぼ全戸が第2種兼業農家だったこの集落に農業崩壊が始まった.このままでは集落そのものが壊滅する.不安の中から危機意識が芽生えた.そんな状況下,集落の農地をどう守っていくのかという真剣な議論が始まった.委員会を作り時間をかけたていねいな話し合いをすすめた結果,集落一農場方式で組織営農に取り組む方向で地権者の合意が得られた.「集落の農地は自分たちの責任で後世に引き渡そう」という思いからだった.同時に,圃場基盤の整備と生活環境の改善を進めていくことも決めた.
著者
三道 弘明
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 = [O]perations research as a management science [r]esearch (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.249-254, 2009-05-01
参考文献数
1

OR/MSの教育に携わっている研究者の多くは,理工系出身であることが多い.彼らが文系でOR/MS教育を担当する場合には,理系,文系の文化の違いなどにより,大きな戸惑いを見せることが少なくない.ここでは,理系,文系における教育の考え方や文化の違いについて概観し,学生の行動を単純な経済学的モデルで説明した.次いで導入科目として位置づけられたOR/MSに焦点を絞り,学生の行動を勘案した効果的な教育方法を,筆者の経験を中心に展開した.なおそこでの考え方は,経験に重点がおかれている関係上,かなり主観的ではあるが,何らかの参考になればと考えている.
著者
久我 清 永谷 裕昭
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.275-305, 1984-12

銀行・証券・郵貯をとりまく競争の激化と企業・家計側の金利選好意識の強まりは我国の金融環境を激変させずにはおかない。アメリカの金融革命においても高利回りの清算総合口座のMMFなどが焦点となったように、我国の金融新機軸の切り札は「総合口座」である。現在、総合口座は銀行・郵貯・農協・労金など凡ゆる金融機関で取扱われており、公共料金その他を清算する普通預金口座と定期預金を担保とする自動貸越契約を連動させるシステムとなっている。金融機関側は家計のメイン・バンク化というテーマから「総合口座」をセールス活動の橋頭窒としているが、翻って、家計側からすれば、このシステムをどのように利用するのが最適であるか。本論文ではこの問題が、銀行については通常の凹計画として郵貯については非凹な折れ線計画として、解き得ることを示し、その最適運用法と日常利用可能な簡易ルールを確立した。結論:普通預金残高の計画期間にわたる流れを正確に予想せずとも、計画期問の凡そ95%の日数が赤字残高になるように定期預金残高を設定するのが最適である。より簡便な方法は、毎月給与振込の3日後ぐらいでの残高がゼロとなればよい。この方法を月収30万円の家計が採用すれば、年凡そ6、000円程度の追加的利息を得る。仮に、全家計が最適運用を始めた場合、金融機関側の追加的総負担額は約6、000億円に昇る。
著者
得居 誠也
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.191-197, 2015-04-01

機械学習において,人手で設計した特徴量にもとづく手法が性能の限界を迎えつつあるなか,計算機性能の進歩とデータセットの大規模化によって,深層学習(ディープラーニング)は圧倒的な認識性能を次々に叩き出し,産業界を巻き込み注目を集めている.本稿では,教師あり学習とニューラルネットの基本的な定式化からはじめ,深層学習において高い性能を実現するための最適化,モデリング,正則化の技術について広く紹介する.
著者
淺田 克暢
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.221-226, 2010-04-01

製造・流通業においては在庫削減,欠品削減を目的に需要予測システムの導入が進んでいる.需要予測システム導入成功のために最も重要なポイントは,搭載されている予測モデルの予測精度ではなく,需給マネジメントシステムの構築である.需給マネジメントシステムとは,需要予測を活用した需給管理業務を継続的に改善していく仕組みのことである.本稿では,需要予測システムの導入効果を整理した上で,需給マネジメントシステムにおける3つのPDCAサイクルと,その構築および効果的運用に欠かせない5つの前提について解説する.
著者
増山 博之
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.671-677, 2014-11-01

「解けない」待ち行列の系内客数分布や待ち時間分布は,しばしば,ある種の構造化マルコフ連鎖の定常分布として数値的に求めることになる.しかし,その構造化マルコフ連鎖の遷移確率行列が無限次元である場合には,何らかの方法で遷移確率行列を切断してから,計算機実装を行う必要がある.無論,切断された遷移確率行列から得られる定常分布は,本来求めるべき定常分布に対する「近似」である.本稿では,「最終列増大切断」によって得られる定常分布の誤差上界と,その導出に必要となる確率行列の「単調性」について述べる.また,関連する結果についても言及する.
著者
伏見 正則
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.350-359, 1981-12
被引用文献数
2

本論文は、吉典的ないわゆる秘書選びの問題(secretary poblem、以下SPと略す)に対する解が、雇用がある種の競合状態にある場合にはどのように変わるかについて考察したものである。基本的なモデルは次のとおりである。二つの会社がそれぞれ1人の秘書を採用しようとしている。n人の応募者が、ランダムな順番で毎朝1人ずつ現われ、各社は他社と独立にこの応募者と面接する。採否の決定は、その日の午後応募者に伝えられる。採用通知を出した会社は、残りの応募者の面接は行なわない。一社だけから採用通知を受けた応募者はその会社に採用されるが、両社から採用通知を受けたものは、等確率でいずれか一方を選んで就職する。両社の目標は、n人の候補者の中の最良のものの採用に成功する確率を最大にすることである。この問題は、二人非零和非協力ゲームの一種である。SPをゲーム論的に扱ったモデルは従来いくつかあるが、それらに対するNash均衡解は、どのプレーヤーの戦略も同じで、SPの場合よりも早めに採用を決めようとするものである。われわれのモデルにおける均衡解は、これらと対照的に、一社はSPの場合よりも早めに採用を決めようとし、他社はSPの場合よりも遅めに採用を決めようとする戦略である。雇用が競合する状態になると、各社が競って早期に採用を内定しようとする、いわゆる青田買い競争の現象がしばしば見られるが、本論文の結果は、そのような競争が必ずしも得策でないという教訓を含んでいる。最後に、他社の採否の情報が伝わる場合についてのモデルについても論じている。
著者
塚原 啓司
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.357-363, 2013-07-01

2012年5月22日,634mという自立式電波塔では世界一の高さを誇る「東京スカイツリー^[○!R]」と300店を超える商業施設「東京ソラマチ^[○!R]」,「東京スカイツリーイーストタワー^[○!R]」,これら総称の「東京スカイツリータウン^[○!R]」がオープンした.地域ならびに沿線活性化を目的に,下町のものづくりと都市文化創造の「アトリエコミュニティ」,地球に優しく,安全で安心を提供する「やさしいコミュニティ」,タワーを核とした情報発信の「開かれたコミュニティ」をコンセプトに開発された.これらコンセプトに基づいて,地域性を重視しながら従来から最先端の技術を導入し,省CO_2をはじめとした環境配慮について紹介する.
著者
森田 隼史 池上 敦子 菊地 丞 山口 拓真 中山 利宏 大倉 元宏
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.1-22, 2011-12

鉄道運賃は,基本的に乗車距離が長くなればなるほど高くなるように設定されているが,同じ距離でも,会社によって,さらには同じ会社内でも地域や路線によって異なる料金が設定されている.さらに,乗車区間によっては割引ルールや特定の運賃が設定されていることなどから,最短経路の運賃が最安になるわけではない.運賃計算では,利用者の乗車経路が明確でない場合,乗車可能経路の中から最も安い運賃となる経路を利用したとみなし,その運賃を採用するルールが設定されている.そのため,与えられた2駅間の正しい運賃を計算するためには,その2駅間の乗車可能経路の運賃を全て,もしくはその1部を列挙して判断する必要があると考えられてきた.これに対し,我々は2008年,複数の鉄道会社を含む鉄道ネットワークにおける最安運賃経路探索用ネットワークFarenetと探索アルゴリズムを提案し,これを利用した自動改札機用運賃計算エンジンの実用にいたった.本論文では,Farenet構築の基盤となった1会社内の運賃計算,具体的には,首都圏エリアで利用可能であるICカード乗車券Suica/PASMOの適用範囲に含まれるJR東日本510駅の全2駅間(129,795組)に対して行った運賃計算について報告する.4つの対キロ運賃表と複数の運賃計算ルールが存在するこの運賃計算において,異なる地域・路線を考慮した部分ネットワークとダイクストラ法を利用することにより,多くの経路を列挙する従来の運賃計算方法において数時間要していた計算を,約1秒で処理することに成功した.論文の最後では,アルゴリズムの効率を示すとともに,対象ネットワークが持つ運賃計算上の特徴についても報告する.