著者
永田 頌史
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.215-220, 2000-11-20
被引用文献数
12

経済のグローバライゼーションと近年の不況は企業のダウンサイジングやリストラクチャリングに拍車をかけて伝統的な年功制給与に代わって成果給制の導入や終身雇用制の崩壊, 過重労働や失業の増加などを招くことになった. これらの急速な労働環境の変化は, 職業性ストレスを増している. 1997年に行われた労働省の調査では, 16,000人の労働者のうちの62.8%が自分の職業生活に関して強い不安, 悩み, ストレスを持っていることが報告されている. このような状況で, 有効な職場のストレス・マネージメントの必要性は高まっているが, 先に述べた調査では12,000事業場の26.5%がメンタルヘルス対策を行っていると回答したにすぎなかった. 日本におけるストレス・マネージメントの特徴は次のようにまとめられる. 1)最もよく行われているアプローチは, 労働者個人を対象とした教育や相談である. 2)作業管理, 作業環境管理, 健康管理システムに関する組織改革や組織的, 継続的な管理職研修プログラムなどはまだ不充分である. 3)これらの介入的アプローチの効果に対する評価システムも不充分である. 職業性ストレスの増加と職場のメンタルヘルス増進に関するニーズが高まっている現状を考え, 職場におけるストレス・マネージメントに関するミニレビューを企画し, その構成について述べる.
著者
夏目 誠 太田 義隆 古我 貴史 南野 寿重 浅尾 博一 藤井 久和
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.160-169, 1986-05-20
被引用文献数
7

職場不適応症の対応として,私たちが考案した治療的対応システム(後述)の効果や産業医の役割を知るために,直接関与した96名の職場不適応症者を対象に調査を行った.対象は,最近19年間に精神科外来診療を行っている大阪府立公衆衛生研究所精神衛生部外来(以下,当所診療所)を受診した54名と,私たちが精神衛生面の産業医をしている,社員数15,000名を擁する,ある企業の職場内診療所を過去14年間に受診した42名である.タイプ別内訳は,中核群が34名と最も多く,ついで脱落群26名,その他群15名,一過性反応群は13名で,専門職不適応群は8名に認められた.治療的対応システムの内容を中心にして,代表的な2症例を呈示した.1.私たちは,職場不適応症の治療的対応システムを考案した.その内容は,I.診療と諸検査,II.本人や家族へのカウンセリング,III.復職へのリハビリテーション,IV.職場関係者への治療的助言からなっている.2.治療的対応システムにより,96名中81名の職場不適応症者は,就業するようになった.3. 96名のうち,職場関係者への治療的助言が必要であった者は59名で,そのうち助言が受容された者(受容群)は,49名であった.拒否された10名(拒否群)は,いずれも当所診療所受診者であった.受容群のほうが,拒否群よりも職場によく適応していた.治療的助言として,治療的配置転換が27名と最も多く,ついで職務の軽減,指導が18名で,治療的仮出勤が13名であった.4.上記の治療的対応システムを活用するためには,精神衛生面を担当する産業医の役割が大であると考えた.