著者
吉村 博之 竹本 和夫
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.81-93, 1991-03-20
被引用文献数
1

Occupationally induced lung cancer and mesothelioma have long been attributed to asbestos and moreover, several epidemiological studies have indicated a co-carcinogenic effect of cigarette smoking on the incidence of lung cancer in asbestos workers. The aim of the present study was to investigate the co-carcinogenic effects of asbestos and other carcinogens with emphasis placed on determining the effects of cigarette smoking on the incidence of asbestos induced carcinomas. Doses of 15mg of chrysotile asbestos were administered intratracheally to Wistar rats alone and in conjunction with N-bis(hydroxypropyl)nitrosamine (DHPN) and/or cigarette smoking. DHPN at dose of 1g/kg/B.W. was injected three times intraperitoneally, and the subject animals were exposed to smoke from 10 cigarettes per day, six days a week, for their entire life span. As a result, lung carcinomas were induced in one out of the 31 rats receiving only asbestos. Lung tumors were induced at a much higher incidence in the groups receiving DHPN alone and in conjunction with asbestos: of the 37 rats treated with DHPN alone 19 (51.4%) developed lung tumors, whereas those receiving asbestos as well showed an incidence of 68.4% (23/38) of carcinomas. The development of lung carcinomas (including adenocarcinomas, epidermoid carcinomas, anaplastic carcinomas, and combined carcinomas) was seen in 8 (21.6%) out of the 37 rats receiving DHPN alone and in 23 (60.5%) out of the 38 rats receiving asbestos as well. The incidence of lung carcinoma was significantly increased in combined treatment with asbestos than DHPN alone. In the group receiving asbestos in combination with cigarette smoke, 4 (13.8%) out of the 29 rats developed lung carcinomas, but these carcinomas were more common than in the group receiving only asbestos. Moreover, in the group administered asbestos, DHPN and smoking combined, lung tumors developed in 18 (62.1%) out of the 29, 15 (51.7%) of which proved to be malignant. Mesothelioma (pleura) was induced in three groups in the following combinations: DHPN plus asbestos, 8/38 (21.17%); smoking plus asbestos, 2/29 (6.9%); and smoking, DHPN and asbestos, 4/29 (13.8%). These tumors were extensively located, that is, on the parietal pleura, visceral pleura, epicardium and diaphragm surface. However, mesothelioma was not induced by asbestos alone nor by DHPN alone. Carcinogenicity of asbestos for pleural tumors was significantly promoted by combined treatment with DHPN to an extent greater than DHPN alone. It should be noted that asbestos plus smoking resulted in a higher incidence of mesothelioma than asbestos alone. The results of this study suggest that asbestos can induce lung cancer and that cigarette smoking has a promoting effect on asbestos-induced cancer and mesothelioma as well. Additionally, it was observed that the development of lung tumors and their malignancy and mesothelioma by asbestos is synergistic ally increased by the combined administration of DHPN. There were some histological differences in the carcinomas induced by DHPN alone and those induced in conjunction with asbestos.
著者
池見 陽 久保田 進也 野田 悦子 富田 小百合 林田 嘉朗
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.18-29, 1992-01-20
被引用文献数
6

The objective of this study was to articulate the person-centered approach (PCAp) in theory and in the research and practice of occupational mental health. First, Carl Rogers' person-centered theory was reviewed. Secondly, a study on 1,661 workers was presented in which psychological variables such as fatigue (FG), depression (DP) and anxiety (AX) were found to be negatively correlated with relationship scales concerning the workers' perception of the person-centered attitudes (PCA) of their superiors, the democratic leadership of their superiors (DEM) and the overall activation (ACT) of their worksites. Significant differences in FG, DP and AX were found among workers who perceived of their superiors as having either high or low PCA. Workers who reported that their superiors had high PCA had significantly less FG, DP and AX than those who perceived of their superiors as having low PCA. Similar results were also obtained when high DEM/low DEM and high ACT/low ACT were compared in terms of workers' FG, DP and AX. Thus, the PCA of job superiors was considered to be positively related to the mental health of workers. Thirdly, PCA training in industry was introduced and evaluated. A total of 137 trainees (managers) conducted active listening, a basic skill in the PCAp, and filled out a relationship inventory immediately afterwards, evaluating themselves as listeners and their partners as listeners. A comparison of scores between the first and last sessions of training showed significant increases in empathy, congruence and unconditional positive regard at the last session in both the speakers' version and the listeners' version of the relationship inventory. Cases showing changes in human relations at work as a consequence of PCA training, reported by the trainees and confirmed by an occupational health nurse, were presented. This study showed that PCA, which is positively related to workers' mental health, can increase as a result of training. The implications of these studies are discuss-ed and various possibilities for further research using the concepts' of PCAp are presented. The authors hope that such a viewpoint in occupational mental health may lead to fruitful research and practice in the field of occupational medicine.
著者
江副 智子 森本 兼曩
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.397-405, 1994-11-20
被引用文献数
3

Selyeによってストレス学説が唱えられて以来,さまざまな角度からストレス研究が行われてきた.ストレスは,身体疾患および精神疾患の重要な危険因子であるとともに,免疫能などの生体の防御力にも深く関連し,さらに転勤率などの社会行動面にも影響を及ぼす.衛生学,公衆衛生学の分野でも,近年ストレスは重要課題となっており,特に職域を中心としてさまざまな調査が実施されてきた.本論文では,従来行われてきたストレス評価法を,国内外の文献を整理し,ストレッサー評価とストレス反応評価に分けて概説する.まず,ストレッサー評価の質問票のうち,信頼性および妥当性が検討されているものについて概説し,さらに,障害者の家族や入院患者,看護学生などの特定の集団を対象とした質問票を紹介した.次に,職場におけるストレス要因を,1)仕事に固有の要因,2)組織における役割,3)昇進・降格,4)職場の人間関係,5)組織の構造と風土,および6)その他,に分類して概説した.ストレス反応については,1)ホルモンの反応,2)免疫学的反応,3)その他の生理的反応,4)心理的反応,および5)行動的反応に分類し,ストレスと血液生化学的指標との関係に関する研究結果やストレス反応の測定方法を紹介した.ホルモンの反応については,ストレスと血漿および尿中アドレナリン,血漿ノルアドレナリン,血漿および尿中コルチゾール,血漿ヒスタミン,サイロキシン,プロラクチンおよびテストステロンなどとの関係が調べられている.免疫学的反応については,急性および慢性のストレスとTリンパ球数,NK細胞活性,PHAやCon-Aに対するTリンパ球の反応,EBウイルスに対する抗体価,IgAやIgGなどの免疫グロブリン,補体などとの関係を調べた研究結果を紹介した.その他の生理的反応としては,冠血流量,血圧などの血行動態的指標,リンパ球のDNA修復,ヘモグロビンA_<1c>などとストレスとの関係に関する研究を紹介した.心理的反応に関しては,代表的な質問紙票を列挙するとともに,声の録音によりストレス,特に不安と敵意を評価する方法を紹介した.行動的反応については,その指標となるものについて簡単に触れた.最後に,われわれが行った,単一の質問によるストレスの包括的評価方法を紹介し,勤労者を対象に,その質問による自覚的ストレスと,精神健康調査票28項目版(GHQ-28)による精神的健康度,喫煙・飲酒・睡眠・運動・生活規則性などのライフスタイル,および交流分析のエゴグラムから抽出した性格要因との関係を調べ,その結果について述べた.それにより,自覚的ストレスが多いほど,精神的健康度が悪く,ライフスタイルの中では,特に多忙感,体調悪化,長時間労働,生活への不満,生活および食事の不規則,短時間睡眠を訴える者の割合が,ストレスの多い群で有意に高いことがわかった.また,性格要因の中では,完全主義と神経質の者が,ストレスを多く感じていることが明らかになった.以上のことから,人々のストレス度を把握し,メンタルヘルスの保持・増進を図るためには,血液生化学的検査値などの客観的な指標を目安にすることに加えて,本人の主観をもとらえて,多元的にアプローチする必要があると思われる.
著者
冨岡 公子 北原 照代 峠田 和史 辻村 裕次 西山 勝夫
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.45-54, 2004-03-20
被引用文献数
1

本実験の目的は,手話通訳者における音声言語に誘発された頸肩腕部の筋緊張の有無を確認することである.解析対象者は,インフォームドコンセントを得た「人の話を聞いていると頸・肩・腕が痛くなる」症状を訴えていた職業的手話通訳者8名(ケース群)と手話末学習者8名(コントロール群)である.コントロール群は,性・年齢・喫煙習慣を調整した.安静座位の間,左右の僧帽筋上部と上腕二頭筋から表面筋電図を記録した.この間,全被験者は,日本語の講演を聴くこと,および日本語が全く含まれていない音楽を聴くことの,2つの課題を与えられた.各課題終了直後に,自覚症状を尋ね質問した.表面筋電図の解析方法は,各課題ごとに,100 ms ごとの実効値を算出した.独自の判定基準として3.8μVの閾値を1秒以上超えている部分を筋緊張と判定し,筋緊張を確かめた.その結果,講演を聴いている時に上腕二頭筋や僧帽筋に筋緊張が認められたのは,ケース群では8名中5名,コントロール群では8名中1名であった.僧帽筋の筋緊張が講演を聴いている時に認められ,かつ音楽を聴いている時には認められなかった事例は,ケース群には3名,コントロール群ではみられなかった.これらの結果におけるケース・コントロール群問の差は有意ではなかった.手話通訳者で講演を聴いた際に認められた筋緊張は日本語の音声言語により引き起こされた可能性がある.筋緊張は,手話通訳によって形成された反応なのか,病的反応なのか,今後さらに検討する必要がある.手話通訳者にとっては,日本語の音声言語を聴くことが筋負担となる可能性があり,日本語の音声言語のない環境下で休憩することが筋肉を休息させるために必要と考えられる.(産衛誌2004; 46: 45-54)
著者
中村 賢
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.24-37, 1985-01-20

クリーニング業は家内労働的,世襲的職業であるため定年制や社会移動が少なく,職域集団を対象とした疫学調査に適していると考えられる.しかしクリーニング業を対象とした疫学調査は非常に少なく,従事者を死因から調査した研究は,わが国では報告されていない.本研究はクリーニング作業従事者の健康管理対策の基礎資料を得る目的で,全国クリーニング環境衛生同業組合連合会に加盟している組合員数33,101名(1980年現在)のうち,1971年から1980年までの10年間に生命共済制度に加入し死亡した1,711名を対象とし,死因調査を実施した.さらに同制度加入者で,1979年から1981年までの3年間の死亡者517名に対しては,家族に死亡時の作業形態,個人習慣等に関する調査を実施し,294名から回答を得た.その結果以下の結論を得た.1)クリーニング作業従事者の虚血性心疾患を除く「その他の心疾患」,肝硬変を除く「その他の肝疾患」の死亡割合は,男女とも全国に比べ有意に高いことが認められた.2)クリーニング作業従事者の悪性新生物の死亡割合は,部位別にみると一部の部位では全国との間に有意差が認められたが,全悪性新生物では有意差は認められなかった.3)非ドライクリーニング作業従事者の死亡割合と全国の死亡割合の間には有意差が認められなかったが,ドライクリーニング作業従事者では,「その他の心疾患」,「その他の肝疾患」の死亡割合は,全国に比べ有意に高いことが認められた.4)個人習慣としての飲酒,喫煙という危険因子を有する者を除いた場合でも,ドライクリーニング作業従事者の「その他の心疾患」,「その他の肝疾患」の死亡割合は,全国に比べ有意に高いことが認められた.以上の成績から,ドライクリーニング作業で使用されている溶剤が,クリーニング作業従事者の死亡パターンに影響を与えていることが示唆され,この集団の健康管理上有益な資料が得られた.しかしドライクリーニングの溶剤としては,テトラクロロエチレン,石油系溶剤,1,1,1-トリクロロエタン等が使用されているため,今後さらに使用溶剤,暴露期間,その他の環境要因を考慮するとともに死亡率を用いた死因解析を実施する必要があると考えられる.
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.183-194, 2005-07-20

キシレン C_6H_4(CH_3)_2 [CAS No. 67-66-3] 尿中総メチル馬尿酸 800mg/l (o-, m-, p-三異性体の総和)試料採取時期 : 週の後半の作業終了時 この数値は気中キシレンの許容濃度50ppmに対応する値として設定されている. 1. 別名 ジメチルベンゼン. 特に工業用キシレン(本来の成分としてエチルベンゼンを含んでいる)をキシロールと呼ぶことがある. 2. 用途 化学品合成原料(例えばo-キシレンからは無水フタル酸等, p-キシレンからはテレフタル酸等. m-キシレンは相対的に用途が少なかったが, m-キシレンから合成されるイソフタル酸の用途が広まっている)に用いられるほか, 塗料などの溶剤としてトルエンとともに広範囲に使用される. 溶剤としてのキシレンはm-キシレンを最多成分(約40%)とし, 次いでo-キシレンおよびp-キシレン(それぞれ約20%弱)を含むほか, エチルベンゼンをo-およびp-キシレンと同じ程度に含むことが多し、. 3. 物理化学的性質 分子量106.17. 融点および沸点をCAS番号とともに表1に示す. 4. 吸収, 代謝, 排泄およびその修飾要因 蒸気は速やかに肺から吸収される.
著者
上野 満雄 小河 孝則 中桐 伸五 有沢 豊武 三野 善央 雄山 浩一 小寺 良成 谷口 隆 金沢 右 太田 武夫 青山 英康
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.266-274, 1986-07-20
被引用文献数
1

日本国有鉄道の振子電車は,1973年以来,急曲線部の多い国鉄在来線の高速化を計る目的で開発されたものである.その原理は,車体と台車の間にコロが設けてあり,曲線部にかかると遠心力が車体自体に働いてこれを傾かせ,曲線通過速度を従来の型式より上昇させることができる.振子電車の導入は時間短縮に一定の効果をあげることができたが,走行中に従来よりは大きい横揺れが発生し,乗客・乗務員に,乗物酔いを起こすことが注目されてきた.本研究は,振子電車の動揺が乗客・乗務員に及ぼしている身体影響を,動揺病の特徴としてこれまで報告されてきた症状の発症との関連で検討する目的で従来の型式の列車を対照として比較検討を行った.また,同時に振子電車の持つ構造上の特性に由来する物理的特性についても検討を加えた.本研究においては,100人の乗務員と119人の乗客(男77人,女42人)双方を研究対象とした.乗客・乗務員の両群を選定したのは,業務としての動揺への曝露か否かによって発症の仕方に差が生じることが疑われたからである.乗客調査の対象者は,全走行時間を考慮し,電車の動揺による乗客への曝露時間を同一にするため,前述した2列車に2時間以上乗車した者とした.乗務員調査の対象者は,前述した2列車に乗務する車掌のうち,両列車の乗務条件を可能な限り近づけ,勤務条件に差のない列車ダイヤに乗務した者とした.これら研究対象者は,性,年齢を5歳階層に無作為抽出し,マッチングを行った.揺れの物理的特性を評価するため,著者らは,床上の振動加速度レベルを,従来の方法である1/3オクターブバンド分析計で分析すると同時に,FFT法による方法でも分析を行った.調査質問項目は,11項目の動揺病症状から成るが,乗務員に対しては,業務との関連を明らかにするため,疲労自覚症状30項目,動揺病症状の業務への影響,発症対策などの項目を加えて調査した.調査の結果,次に述べるような知見を得た.1)振子電車の乗客は,対照群の乗客と比較して,動揺病症状の訴え率が高く,そのために「乗り心地が悪い」と訴える者が多く,その理由として「ゆれが大きい」ことを理由に挙げる者が最も多く認められた.2)乗務員の動揺病症状訴え率は,振子電車乗務員が,対照群に比べて有意に高いことが認められた.3)動揺病症状の発症対策を講じながらも,振子電車乗務員は,対照群と比較して動揺病症状の発症によって業務に支障を来たしていた.4)乗務員と乗客との間に認められた動揺病症状の訴え率の差は,乗務員と乗客とでは乗務に対する対応の違いによるものと考えられた.5)振子電車乗務員は,振子電車に乗務するという労働負担によって,動揺病症状の発症のみならず,疲労自覚症状の発症を多発させていると考えられた.6)振子電車の物理的特性を評価するため,従来の方法による振動加速度周波数分析を行った結果,左右の振動加速度レベルは双方ともISO基準より低く,上下方向についても左右方向と同様ISOの基準より低いレベルにあった.しかし,FFT法によって5Hz以下の周波数分析を行った結果,1Hz以下の低周波数帯域に加速度のピークが振子電車で認められたのに対し,従来の型式では,1Hz以上の周波数帯域にピークが認められた.以上の結果を考察すると,振子電車の持つ物理的特性として,1Hz以下の低周波数帯域における振動の影響については動揺病発症との関連において重要であると考えられた.