著者
高桑 榮松
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.20-23, 2002
参考文献数
8

抄録 : 蒸気機関車運転室(キャブ)内労働衛生調査と事故防止対策-狩勝トンネル争議- : 高桑榮松, -昭和6〜16年の10年間における隧道内の蒸気機関車乗務員事故は36名で, うち死亡は2名であり, 50℃以上, 湿度100%という高温高湿に, 投炭時の数百度に及ぶ熱線被爆による急性熱中症であると判断された.発生源対策として, キャブの床上に25カ所位の孔をあけたパイプを10数本並列に並べて, 圧縮空気ボンベに接続し, 機関車が隧道内に進入すると同時に圧縮空気を上方に向け放出した.その結果, (1)機関室内の煤塵量は約1/10に減少, (2)CO濃度は数分の一に減少し, COヘモグロビン量が20%(CO中毒最低限)を越える者はなかった, (3)温・湿度は断熱膨張効果も作用し, キャブ内は43℃, 湿度86%と好転した.
著者
岩切 一幸 毛利 一平 外山 みどり 堀口 かおり 落合 孝則 城内 博 斉藤 進
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.201-212, 2004-11-20
参考文献数
29
被引用文献数
11 34

近年,VDT(Visual Display Terminals)機器の普及により,職場におけるVDT作業者数およびVDT作業時間は増加している.それに伴い,VDT作業に関する疲労対策に取り組んでいる事業所も増えている.本研究では,このような職場におけるVDT作業者の疲労状況と疲労に関連する項目を検討し,改善すべき要因の候補を見いだすことを目的としたアンケート調査を実施した.調査票は3,927部配布し,2,374部(回収率:60.5%)回収した.解析対象者は,20歳から59歳までのVDT作業者1,406名(男性1,069名,女性337名)とした.疲労と調査項目との関連性の検討には,ロジスティック回帰分析を用いた.疲労自覚症状の訴えは,男女ともに眼の痛み・疲れが最も多く(72.1%),次いで首・肩のこり・痛み(59.3%),腰のこり・痛み(30.0%),手・腕の痛み・疲れ(13.9%)が多かった.いずれの疲労自覚症状においても,女性は男性に比べ高い有訴率を示した.眼の痛み・疲れには,男女ともに気流への不満の有無が最も関連し,従来眼の痛み・疲れの要因とされてきた照明の映り込みや文字の見やすさは関連しなかった.これは,職場での照明環境が改善され,グレア対策が進められているためと考えられる.首・肩のこり・痛みにはキー入力中の肩の持ち上がりとマウスの形状・操作位置が関連し,手・腕の痛み・疲れにはマウスの操作位置と机の高さが関連した.腰のこり・痛みには,椅子の座り心地とキー入力中の手首を浮かせた姿勢が主に関連した.筋骨格系の疲労では,VDT作業に関する疲労対策が実施されてきているにも関わらず,従来の報告と同様の項目が関連した.<br>
著者
寶珠山 務
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.187-193, 2003-09-20
参考文献数
42
被引用文献数
8 11

いわゆる過労死は, 医学的な概念ではなく, 過重労働により虚血性心疾患や脳血管疾患など致死的職業性疾病が発症したと判断されて労災補償認定がなされたものを指す. 近年の文献レビューから明らかになったことは, 1) 多くの研究で過重労働は心血管系疾患の発症やリスク因子の増悪を促進することが支持されていること, 2) 過重労働により死亡リスクを直接示した研究報告は今のところなされていないこと, および3) 過重労働による健康障害は労働者の特性により変化し得ることである. いわゆる過労死の最近の認定割合は増加傾向にあり, 1988年度の3.1%から2001年度には20.7%に達したが, これは認定基準の改正と関係があると思われる. 認定基準に盛り込まれた過重労働があるか否かの判断の対象になる期間は, 1987年に示されたものには1週間であったが, 2001年に示された最新のものでは最長で6カ月まで拡張された. 社会学的な分析によれば, 日本の長時間労働は, 労働時間制度だけでなく, 労働に関する社会文化的背景と関係することが指摘されている. 2002年に厚生労働省から発表された過重労働の健康影響の予防対策は, いわゆる過労死の発生予防を目的とした初めての政策であり, 全ての労働者にひと月の残業時間が45時間を超えないように求めたもので, さらに, それが100時間を超えた労働の実態があった場合は, 当該労働者および事業場へ指導が課されることになっている. その政策は全労働者を一律に対象とするPopulation strategyであり, 特定のリスクファクターを有する労働者などを対象にしたHigh-risk strategyではない. その施策の実施にあたって, 弾力性のある活用, 例えば, 高齢労働者や高ストレス状態にある労働者に対し, 職場の生産サイクルと歩調を合わせた管理を強化すること等で, より実効性のある成果が得られるものと思われる. 特に, 産業医や産業看護職などの産業保健専門職は, いわゆる過労死問題の解決への重要な役割を果たし得ると思われ, 政策決定のエビデンスの確立を目指した調査研究への取り組みやさらなる対策への進展にも関与することが期待される.
著者
上野 満雄 中桐 伸五 谷口 隆 有沢 豊武 三野 善央 小寺 良成 金澤 右 雄山 浩一 小河 孝則 太田 武夫 青山 英康
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.483-491, 1984-11
被引用文献数
1

日本国有鉄道の新幹線は,早朝から深夜まで過密ダイヤのもとで,高速度を出して走行している.したがって,新幹線車両の清掃労働者は主に,深夜労働に従事することを余儀なくされ,頻回な夜間勤務を行っている.本研究は,新幹線車両清掃労働者の健康に及ぼす夜間勤務の影響を検討したものであり,特に,連続夜勤の回数と健康障害の関係について評価を行った.本研究は二つの調査研究から成っている.最初の研究では,勤務実態と健康実態を明らかにするため,1か月間の夜勤の頻度,連続夜勤の回数,自覚症状を調査した,調査は,大阪駅で働く246人の男性清掃労働者に対して,日本産業衛生学会交代勤務委員会作成の質問用紙を配布する方法を用いて,1981年に実施した.調査結果は,勤務形態別に3グループに分けて比較検討を行った,グループAは,夜勤専従者であり,勤務編成は,週に5回の連続夜勤を基本とする102人のグループである.グループBは,一昼夜交代で週3回勤務をする124人のグループである.グループCは,週6回勤務の日勤者20人である.これら勤務の形態別比較の結果,グループAにおける胃腸障害,全身疲労感の訴え率が最も高く現われていた.最初の研究結果にもとづいて,2番目の研究では,連続夜勤の回数と健康障害の関係について検討を行うため,ケース・コントロールスタディを行った.研究対象は,最初の研究で対象とした夜勤労働者の中から60人を5歳階層ごとに無作為抽出し,3グループに分け各グループ20人ずつとし,方法は,産業衛生学会疲労研究会作成の疲労自覚症状を勤務の前後で1労働週にわたって自記させた.3グループは,グループA20人,グループB20人,グループD20人である.グループAとBは,最初の研究の同じ勤務形態であるが,グループDは,グループAのコントロールとして,夜勤3日目を非番日に変えた勤務に従事させた.調査の結果,グループAとBでは最後の勤務後に疲労自覚症状の訴え数が第1日目の勤務前と比べて有意に増加していたが,コントロールのグループDでは訴え数の有意な増加は認められなかった.これら二つの研究結果から,夜間勤務の形態と労働者の健康状態の間に密接な関連があり,5連続夜勤の3日目を非番日にすることは,労働負担を軽減するうえで効果的であることが明らかとなった.したがって,5回以上の連続夜勤に就労する新幹線清掃労働者の職業的健康障害を防止するためには,連続夜勤回数の頻度や労働時間に関する勤務条件の改善がなされるべきであると考えられた.
著者
豊島 裕子 中村 晃士 西岡 真樹子 清水 英佑
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.70-78, 2005-03

アパレル産業は, 仕事で独特な芸術性を要求され, 残業時間が長く, 雇用状態が不安定で労働者の負荷となる要因が多く, 他の業種と比較して職業性ストレスが多い産業ではないかと考えている. そこで, 男性561人, 女性387人からなる某アパレル企業において, メンタルヘルスに関して産業医面談を受けた66人の社員を分析して, 報告する. 産業医面談を受けた社員は, 他の社員に比して, 労働時間が長く, 雇用条件が不良で, より芸術性を要求される職種の人たちであった. アパレル企業では, "Specialty store retailer of Private-label Apparel(SPA)"という業務システムを取り入れている. SPAでは, 社内ブランド同士の競争が激しく, ブランド内では1週間周期で新商品の開発, 縫製, 出荷をこなさなければならず, 労働者のストレス, 疲労は高まる. 以上より, アパレル企業は極めてストレスの多い職場と結論した. ストレスの多いアパレル企業のメンタルヘルス健康管理では, 産業医が面談で疑わしいと判断した社員は速やかに精神科に紹介すること, また産業医自身も問題を抱えた社員に対しては頻回に面談を行うこと, 職長は部下の休暇, 作業能率, E-メール送信時のマナーなどに気を配ることが重要と考える. 病欠していた社員が復職する際は, 短時間勤務から徐々に勤務時間を延ばしていく「慣らし出社」が, 円滑な復職に有効であった.
著者
白川 充 福島 玲子 久島 和代
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.130-146, 1984-03-20

著者らは1978年以来,桜島の爆発により,鹿児島市内に落下した火山灰を採取し,ラットおよび家兎を用いての動物実験により,火山灰粉塵の気管内注入ならびに,粉塵吸入による呼吸器への影響について研究を行なった.火山灰の化学的分析によれば,SiO_2の含有量が極めて多くて約58%を占め,次いでAl_2O_3,Fe_2O_3,CaO,TiO_2,MnO,P_2O_5,MgOなどの成分を有しており,silicosis発生の可能性が十分認められる.火山灰吸入家兎に,X線所見として粒状陰影も認められた.次に火山灰粉塵の粒度分布をみるに,10μm以下の粒子が,270mesh以下で93.25%,325mesh以下で99.05%を占めており,肺内深く侵入するこれらの粉塵は,気管内注入によっても,また吸入実験によっても,呼吸器に対する病変は著明で,粉塵は肺胞内に密に沈着し,一部はリンパ流にのって血管周囲に,あるいは気管支周囲に沈着し,喰細胞に貧食され,粉塵細胞を形成し,相隣接した肺胞に粉塵細胞が密在して,粉塵結節を形成する.この粉塵細胞の壊死や空胞形成により,線維細胞や小円形細胞等の細胞反応が現われ,これと同時に肺胞壁にガラス様変性が出現し,膠原物質の沈着がみられる.細胞反応はまた線維細胞増殖の増加となり,膠原線維が認められ,網状となってくる.そして粉塵結節がみられるにいたる.著者らは,火山灰の呼吸器に対する作用として,病理組織学的に,気管支炎,肺気腫や無気肺,血管変化,粉塵結節や粉塵性線維化巣等を伴う塵肺症を発生することを実証することができた.したがって,火山灰吸入の有害性について,十分認識することが必要であるとともに,これに対する予防対策,あるいは解決策を真剣に考えなければならない.
著者
末満 達憲 奥藤 達哉 宮崎 彰吾 堀江 正知
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.27-34, 2007-01-20
参考文献数
22
被引用文献数
1

近年,本邦においては,精神障害または脳血管疾患や虚血性心疾患(以下,「脳・心疾患」)との因果関係があると解釈する範囲が拡大してきた.しかし,本邦以外においても,同様の解釈であるとはいえず,海外で事業を行う企業は,その活動する国・地域における法令,判例を把握することが望まれる.そこで,その端緒として,米国の政府機関,大学等のホームページに掲載された公式文書を対象として,過重労働による健康障害に関係する法令等を調査した.得られた知見の概要は以下のようである.1,米国においては州の権限が強く,雇用分野の連邦法が直接適用されていたのは,連邦政府や州際交易の事業等における雇用の領域関係に限られていた.しかし,業務に関連した傷病の記録及び報告は,全州においてほとんどの雇用主に義務づけられており,それに基づく全国的統計が整備されていた.2,業務に関連した死傷病報告の対象となる疾患の基準は,CFR (Code of Federal Regulations,2001年改正)で明規されていた.その改正過程において,精神障害の取扱いについては各界からの意見が錯綜し,最終的に現行の「医師等による当該疾患が業務関連性を有するとの意見書を,被雇用者が任意に雇用者に提出した場合」にのみ対象とすることとなった.3,脳・心臓疾患についての特段の基準はなく,CFRの当該個所に「既存の疾病を有意に悪化させた場合」も業務関連があると認定する旨が規定されているのみであった.4,民間事業所に係る業務関連休業傷病統計(2004)によると,精神障害は約3,000例(常勤労働者10,000人当たり0.3例)にのぼるが,脳・心臓疾患は合計で500例以下であった.米国においては,かなりの数の業務関連性を有する精神疾患が報告され,州政府等により職場におけるメンタルヘルスプログラムの必要性の啓発がなされていた.米国で事業を行う日本企業がメンタルヘルス対策をとる際は,これらの問題に係る人々の考え方や,法制を十分に理解した上で,プライバシーの侵害や,障害者の差別と指弾されることがないよう,特に留意をはかる必要があると考えた.業務関連性を有する脳・心疾患の報告は数少なかった.しかし,最近,この問題に係る文献レビューの刊行,会議の開催等がみられ,近い将来には課題となる可能性も考えられた.