著者
小池 重夫 駒谷 美智子
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.4-8, 1969-01-20

さきに,長谷川等は沃化メチル中毒家兎の血清に顕著なにごりが見られること,またこのにごりは血清総脂質血清コレステロールの増加によることを発見し報告している。 本実験では,9羽の家兎に,長谷川等の方法に従い,中毒量の57mg/kgのCH_3Iを皮下注射し,48時間後に心臓より採決した。血清トリグセライド(TG)量は注射後は注射前に比べて約19倍の増加,血清総コレステロールは約2倍の増加を示した。したがって血清のにごりは主としてのTG増加によるものと推定される。血清TGの増加には二つの成因が考えられる。一つはTGが肝で過剰生産されて血中に流出する場合,もう一つはTGが末稍流血中のリポ蛋白リパーゼ(LPL)の働きで,水解される過程が障害される場合である。さらに上記二つの成因が共に起こり相加されて働くことも考えられる。 沃化メチル中毒のtriglyceridemiaの成因としては,むしろ肝におけるTGの過剰生産が主因となると推定されるが,今回は後者,すなわちLPLの阻害について実験した。 CH_3I注射家兎のtriglyceridemicの血漿に比べて,家兎のpost-heparin LPLの活性を20%程度余分に阻害した。したがってtriglyceridemicの血漿にはLPLの阻害因子が含まれているとも考えられる。Holletはこのinhibitorの化学的,物理的性質からしてglycoproteinでないかと推定している。 本実験ではCH_3I注射家兎の血漿の中のglycoprotein量を結合蛋白ヘキソーズとmucoprotein量で測定したところ,両者ともに注射前の値に比べて有意に増加していた。またセルローズアセテート膜によると電気泳動法による血清glycorpteinの分画を求めたところ,注射後の血清は注射前の血清に比べてAlb.とγ-globulin分画の割合の減少と,α_1, α_2, β_1, β_2 globulin分画の割合の増加が見られた。これは同時に泳動した血清蛋白の分画の動きと平行している。CH_3I注射家兎のにごつた血漿が,注射前の血漿に比べてLPLの活性を阻害する力が強いことを,血清のglycoprotein量の増加,分画の変動とあわせ考えるとLPLのinhibitorの一つとしてglycoproteinがあげられよう。
著者
筑地 公成 本山 貢 大藤 博美 森田 哲也 角南 良幸 田中 守 進藤 宗洋
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.63-71, 1999-05-20
参考文献数
25
被引用文献数
5

本研究では, 中年労働者43名を対象として, 50%V^^.O_<2max>強度に相当する有酸素性トレーニングを主体とする「健康づくり教室」を2ヵ月間実施し, 生理的指標とQOLにどの様な影響を及ぼすのかについて検討することと, THPの一貫として実施した「健康づくり教室」の有用性を検討することを目的とした. その結果, 2ヵ月間トレーニングを継続できた者は36名(83.7%)で, 高い継続率であった. トレーニングを継続できた群(運動継続群: 36名)はトレーニング後に体重, BMI, %fat, fat (kg), W/H 比はいずれも有意に低下していた (W/H比: P<0.05, それ以外: P<0.01). また、V^^.O_<2max>は有意に増加していた (V^^.O_<2max> (l/min) : P<0.05, V^^.O_<2max>/wt : P<0.01). トレーニングを途中で中止した群(運動脱落群: 7名)はすべての項目において有意な変化を認めなかった. 運動継続群はDBP, TC, LDL-c/HDL-c比は有意に低下し, HDL-cは有意に増加していた (LDL-c/HDL-c : P<0.01, それ以外: P<0.05). また, 運動脱落群はFBSに有意な増加を認めた(P<0.05). 運動継統群では身体症状, 労働意欲及びQOL全体に有意な改善を認めた (身体症状: P<0.05, それ以外: P<0.01). また運動脱落群はいずれの項目においても有意な変化を認めなかった. 運動継続群について, QOLの初期値とトレーニング前後のそれぞれの変化量との関連性を検討した結果, 身体症状, 感情状態, 快適感, 性意欲, 社会的活動, 認識能力の6項目について有意な負の相関関係が認められた (いずれもP<0.01). V^^.O_<2max>/Wtの変化量と身体症状の変化量との間に, 正相関関係が認められた (r=0.36, P<0.05). 以下のことから, 本研究で実施した低強度の有酸素性トレーニングを主体とした「健康づくり教室」は, 全身持久力の向上, 降圧効果, 血清脂質を改善させたことのみならず, QOLの改善にも十分期待できることが明らかとなった. またHTPの一貫として実施された「健康づくり教室」は, 心身両面にわたる総合的な健康づくりに対し, 理論的, 実際的に支援する結果を得ることができた.
著者
甲田 茂樹 安田 誠史 豊田 誠 大原 啓志
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.91-100, 1998-05-20
参考文献数
23
被引用文献数
4

嘱託産業医活動を活性化させる要因について:甲田茂樹ほか.高知医科大学公衆衛生学教室-嘱託産業医への産業医報酬や事業所への訪問状況, 事業所における有害業務の有無が産業医活動内容や評価に与える影響を明らかにしたいと考えた.高知県内の労働基準監督署に届け出のあった嘱託産業医308名のうち, 現在嘱託産業医を行っている237名に対して産業医活動内容やその問題点など関する自記式アンケート調査を郵送法で実施した.さらに, その嘱託産業医を選任している638事業所のうち, 所在地の明らかな628事業所に対して産業保健活動や産業医に対する評価・要望などに関する自記式アンケート調査を郵送法で実施した.なお, 有効回答率は嘱託産業医で44.3%, 事業所で53.0%であった.産業医報酬の支払われている場合には, 事業所への訪問頻度が高く, 健康相談や衛生管理者と話し合いなどがよく持たれており, この傾向は産業医報酬が5万円を超えると強くなっていた.事業所側からみると, 産業医報酬を支払っている事業所は安全衛生管理体制が整っており, 産業保健活動も活発であり, 産業医の安全衛生委員会への出席や事後措置への関与している比率が高く, 産業医の助言への評価も高くなっていた.事業所への訪問頻度の高い嘱託産業医は健康相談や衛生管理者との話し合い, 安全衛生委員会への出席, 健康保持増進対策の勧奨など, 積極的に産業医活動をよくこなしていた.事業所における有害業務の有無は, 産業医活動に全く影響を与えていなかったが, 産業医を選任している事業所側からみると, 有害業務が存在する場合, 安全衛生管理体制の整備, 衛生管理者や産業医の職場巡視などの法定業務の実施状況率が高く, 産業医の助言への評価も高く産業医への要望もより具体的なものとなっていた.嘱託産業医活動を活性化させるためには, 産業医報酬やその職務を明記した契約を事業所と結び, 法定の産業医活動が行えるように事業所に訪問することが重要である.有害業務の存在は, 嘱託産業医活動に影響を与えなかったが, 選任している事業所からすると, 産業保健活動を認識する重要なきっかけとなっていた.
著者
冨岡 公子 熊谷 信二 小坂 博 吉田 仁 田淵 武夫 小坂 淳子 新井 康友
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.49-55, 2006-03-20
被引用文献数
9

特別養護老人ホームにおける介護機器導入の現状に関する調査報告-大阪府内の新設施設の訪問調査から-:冨岡公子ほか.大阪府立公衆衛生研究所生活衛生課-要介護者そして介護労働者の数は,年々増加している.2000年4月から,介護保険法が施行された.介護機器については,介護保険法が施行されてから,社会的に注目されるようになったが,介護機器の導入状況については把握されていない.そこで,介護施設における介護機器の現状を把握するために,現場調査と聞き取り調査を行った.対象は,2002年4月以降に開設された大阪府内の特別養護老人ホーム10施設である.調査対象施設は,平均入所者数79人,平均介護度3.52,平均介護職員数28.3人であった.介護機器に関しては,すべての施設で何らかの入浴装置が導入されていた.入浴装置の種類は,順送式が9施設,バスチェア型が8施設であった.バスチェア型は,機械浴槽に入るタイプが6施設,一般浴槽に入るタイプが6施設であった.その一方で,すべての施設において,「移乗は人の手で行うもの」という方針であり,リフト,移乗器,回転盤の移乗用介護機器は導入されていなかった.排泄介助については,オムツ交換では作業場となる,ベッドの高さ調節が実践出来ていなかった.日本の標準型車椅子はアームレストが固定式であり,トイレ介助では,車椅子と便座間の移乗の障壁となっていた.すべての施設で,介護の基本は人の手で行うもの,という方針であり,特に,移乗に関するリスク認識が弱かった.介護負担軽減のための介護機器導入という話はほとんど聞かれなかった.これらより,介護負担軽減や介護労働者の健康を守るという視点にたった,介護に対する意識改革が必要と考えられる.
著者
増田 義徳 高橋 秀二 村松 順信 小宮山 信雄 鶴田 亟次
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.1, no.5, pp.451-457, 1959-09

A method for estimating CS_2 in the biological materials was developed by modifying the existing procedure. The present procedure involves aeration of volatile CS_2 from biological materials and absorption of CS_2 in diethylamine-copper reagent. Conditions of aeration, such as temperature, pH of materials, air pressure in the aerator and flow rate through it were studied, and the concentration of CS_2 in different organs and body fluids of rabbits exposed to CS_2 was determined by the method with the following results. 1) On the condition that aeration time was CS_2 in body fluids or organs was highest in the blood, especially in blood corpuscles. Levels of CS_2 in the liver, the kidney, and the brain were nearly equal. In 25 hours after exposure to CS_2, free CS_2 was not over sixty minutes, a satisfactory recovery of CS_2 from materials was obtained, irrespective of temperature, pH of materials or air pressure in the aerator. 2) In the course of aeration for thirty minutes, most of free CS_2 of materials was recovered. Ninety minutes was found satisfactory to recover free CS_2 completely. 3) The recovery ratio for free CS_2 from biological materials was between 95 and 105 per cent. 4) Immediately after exposure to CS_2 at the concentration of 500 ppm, the amount of demonstrated in the body fluids or organs. 5) Concentration of CS_2 in the cerebrospinal fluid was relatively low, but it was almost of the same concentration as that in the serum.
著者
太田 庸起子
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.8, no.5, pp.282-285, 1966-05-20

The concentration of mercury in head hair obtained from a man, who is suspected to have been exposed to mercury vapours and inhaled it, was determined by a method of non-destructive activation analysis based on the detection of the 68 Kev X-rays and 77 Kev Gamma-rays of 65-hour ^<197>Hg. About 100 mg of hair, cut to equal length and at the same distance from the scalp at the same part of the head every month for seven months, was washed to be got rid of surface contamination with either a nonionic detergent or organic solvents, followed by rinsing with distilled water. After neutron irradiation of the sample in HTR reactor for 5 hours in a thermal neutron flux of about 1×10^<12>n/cm^2-sec, followed by cooling for 5 days to decrease short-lived contaminating activities, mercury was determined by direct gamma-ray spectrometry. Results from the hair samples showed that the concentration of mercury decreased monotonically from 20.4 ppm to 4.6 ppm. On the other hand, results from samples obtained from a group consisting of seven individuals who had shared similar diets with the man above stated and another group of twelve individuals belonging to the other groups showed a significant difference between the man inhaling mercury vapours and these groups. Namely, the range of the concentration of mercury of these groups was from 1.9 ppm to 6.2 ppm. By the non-destructive activation analysis of head hair, it is able to deal with more cases in a shorter period. Detectable limit is 0.07 ± 0.02μg, and the necessary minimum quantity of hair is enough below 50 mg. It is necessary to care in obtaining hair, because mercury is very tightly bound to the hair and not easily removed by washing.