著者
中村 賢治 垰田 和史 北原 照代 辻村 裕次 西山 勝夫
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.225-233, 2007-11-20
被引用文献数
2 2

我々は,健常な非喫煙女性20名を対象に,精神的ストレスが,僧帽筋内のHb動態に及ぼす影響について調べた.被験者に,1分間の立位での両上肢の側方水平位保持(身体的課題),またはStroop's Color Word Test(精神的課題),またはその両方を同時に与える課題を,5分間の休憩をはさんで行わせた.心拍数,および筋内ヘモグロビン(酸素化Hb:OxyHb,脱酸素化Hb:DeoHb,総Hb:TotHb)濃度と表面筋電図(いずれも右僧帽筋で測定)を測定した.各課題によるHb濃度の安静時からの変動量(ΔOxyHb,ΔDeoHb,ΔTotHb)を算出し,身体的負荷時と身体的および精神的負荷時を比較した.身体および精神的負荷時のΔDeoHbは身体的負荷単独時より有意に小さく(p=0.013),ΔOxyHb,ΔTotHbには有意な差は認められなかった(p=0.281,p=0.230).本実験の結果は,精神的ストレスが僧帽筋内のΔDeoHbに影響を及ぼしたことを示唆しており,可能性のある機序の一つとして,精神的ストレスによる僧帽筋の酸素消費量の減少が考えられた.今後,長時間の負荷による影響について検討する必要がある.
著者
森 美穂子 堤 明純 高木 勝 重本 亨 三橋 睦子 石井 敦子 名切 信 五嶋 佳子 石竹 達也
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.113-118, 2005-05-20
参考文献数
13

交代勤務経験の有無と退職後の生活の質,特に睡眠の質との関連性を明らかにするために,ある製造会社の退職者777名を対象に質問紙調査を行った.質問内容は,既往歴,現在の健康状態,食習慣,アルコール,喫煙,運動,睡眠,在職中の勤務状況(職種,交代勤務経験,交代勤務経験年数,副業),現在の就業状況,社会参加,学歴,性別,年齢,退職後の年数であった.「現在の健康状態(オッズ比4,318,95%信頼区間2.475-7.534)」「交代勤務経験(2.190,1.211-3.953)」「現在の就業状況(1,913,1.155-3.167)」「食習慣(1.653,1.055-2.591)」が多変量解析によって退職後の睡眠障害と有意に関連した.退職後の睡眠障害を防ぐには正しいライフスタイル,良好な健康状態を保つことが,特に交代勤務経験者において大切である.
著者
夏目 誠 太田 義隆 藤本 修 南野 壽重 浅尾 博一 藤井 久和
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-15, 1985-01-20
被引用文献数
8

職場不適応症の病態生理学的特徴を明らかにするため,同症の代表的タイプといえる中核タイプ25名および脱落タイプ14名,計39名に眼球運動,脳波や顔面表情筋筋電図などの精神生理学的指標を用いて,ポリグラフの記録を行い,健康成人16名(対照群)のそれと比較検討するとともに,臨床的特徴との関連についても考察を加えた.得られた結果は以下のとおりである.1.職場不適応症の中核および脱落タイプは,対照群に比べ,安静時に低振幅急速眼球運動(r)の出現回数は少なく,シュウ眉筋筋放電振幅も低い値を示した.2.暗算刺激負荷により,中核タイプは安静時よりrの出現回数が増加している例数が,対照群に比べ多かった.シュウ眉筋においても同様の傾向を示した.一方,脱落タイプでは,両指標ともほとんど変化を示さなかった.3.暗算刺激終了後も,中核タイプは安静時より,rの出現回数の増加と両表情筋筋放電の高振幅が持続しているのに対し,脱落タイプでは,これらの特徴が認められなかった.以上の結果と同症両タイプの臨床的特徴との関連について,考察を加えるとともに,両タイプの発症機制解明に精神生理学的検索の有用性を明らかにした.
著者
香山 不二雄
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, 2005-07-20

カドミウムは急性毒性で主な標的臓器は肝臓で, 肝細胞壊死を伴う肝障害を起こす. この時, エンドトキシンを同時に投与すると炎症反応が強くなり, 肝臓から産生される炎症性サイトカインの誘導も多くなる. そのメカニズムは肝細胞壊死により, その周りに炎症細胞浸潤が起こり, 肝臓自身が炎症への反応性が昂進した状態になっていることが, 肝臓薄切切片培養法を用いて明らかとした. その過剰な反応性は抗TNF-alpha抗体で抑制することが出来たことから, 以上のことを証明することができた. 腎臓障害は, 長期間にわたりカドミウムを投与して惹起される. 長期投与していると腎重量が大きくなることが複数の研究者から報告されていた. 病理組織学的には特に正常細胞や異形性のある細胞増殖像が見られることはない. 腎臓組織から産生される炎症性サイトカインを測定するとIL-6が非常の多くなっていることが明らかとなった. このサイトカインがカドミウムで障害を受けた腎臓尿細管細胞の増殖因子として働いていることが明らかにした. 以上のように, カドミウムの毒性発現に炎症性サイトカインの関連を調べたが, 方法論としてはエンドトキシンを併用しており, 活性化された反応を見ることを解析すること研究してきた. 今後は, カドミウムによる免疫毒性の研究で残されているのは抑制系の反応を証明する方法を明らかにしていくことである.
著者
橋本 邦衛
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.5, no.9, pp.563-578, 1963-09-20
被引用文献数
11

flicker値(FF)の生理学的意味を明らかにするにはチラツキの融合が,どの部位でおこるかを知ることである。Sherrington, Hecht, Granit以来,融合部位は網膜だと信ぜられてきたが,Walkerや小木の電気生理学的実験によって,視覚系に誘発される電位変動は,網膜でも融合するが,視覚皮質野では,その約1/2の低頻度で融合をおこすことが明らかにされ,また感覚的な融合頻度は,新皮質の興奮性を示す脳波のpatternとほぼ平行して変化することが,Gellhornや筆者によって確かめられた。また緊張や注意の集中によってFFが高進するのは,視覚中枢における生理的融合頻度の上昇とともに,視覚連合皮質の自発的興奮により,時間識別力が増大するためであって,おそらく中枢で生理的融合がおこる前に,これを感覚的に融合と判断する機能が,FFの基礎であると考えられる。 要するにFFは,視覚系をふくむ知覚連合皮質の興奮性の一つの表現であって,もし網膜の興奮性がほぼ一定に保たれ,またチラツキの出現点の判別に大きな誤差がなければ,FFは知覚皮質領域の興奮水準,あるいは意識の機能水準を示す生理学的指標とみることができ,また労働生理学や精神生理学の重要な研究手段として利用することができると考える。 FFは,疲労時に測定しても低下しないことがある。もし作業終了時のような,興奮が一時的に高まる時期に測定するとか,あるいはtestが被検者に興奮刺激を与えるようなことがあれば,FFの低下は陰蔽されて測定値に現われぬことも当然である。FFの測定が他の生理学的測定と最も異なる点は,testが被検者の意識状態を刺激し,それがFFを変化させること,つまり測定が不確定だということである。測定の物理的条件を一定にするだけではこの不確定性は解決されない。ここにflicker testの難かしさと意味が存在することを指摘し,測定の具体的な進め方について筆者の見解を述べた。
著者
吉川 徹 川上 憲人 小木 和孝 堤 明純 島津 美由紀 長見 まき子 島津 明人
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.127-142, 2007-07-20
参考文献数
29
被引用文献数
6

職場のメンタルヘルス向上を目的とした職場環境等の改善のためのアクションチェックリスト(Mental Health Action Check List, 以下MHACL)を開発した.ストレス対策一次予防における職場環境改善等の進め方と意義について検討した.3つのステップによりMHACLを開発した.(1)文献レビューと改善事例の収集と分類,改善フレーズの作成とMHACLのひな型作成,(2)産業現場への適用と産業保健スタッフ等を含むワークショップによる試用,(3)改善フレーズの見直しと改善領域の再構成を行って,広く職場で使える改善アクション選定チェックリストとして提案した.文献レビューにより職場環境等の改善を支援する8つの改善技術領域が整理された.全国の84事業場から延べ201件の事例の職場のストレス対策に役立った改善事例が収集できたので,これら事例から代表的な改善フレーズを抽出し,40項目からなるMHACL原案が作成された.現業職場の職員105名を対象としたMHACL利用の参加型研修会により,MHACLを用いて多様な改善提案を引き出せることが確認された.産業保健スタッフを対象としたMHACL利用のワークショップでは,MHACLの使用者とその受け手の明確化,使用手順と職域でのリスクアセスメント方法のマニュアル化,使用言語の平易化,などが必要と指摘された.これらの経験から,最終的に30項目で構成されるMHACLが作成された.それらの項目は,技術領域としてA)作業計画への参加と情報の共有,B)勤務時間と作業編成,C)円滑な作業手順,D)作業場環境,E)職場内の相互支援,F)安心できる職場の仕組みの6つの領域にまとめられた.現場ですぐ取り組めるメンタルヘルス改善アクション項目からなる職場環境改善用のチェックリストを作成した.今後チェック項目を利用した職場介入経験者との意見交換を行って,使いやすいチェックリストと利用方法を検討していく予定である.MHACLの利用によるストレス対策一次予防の推進による成果が期待される.